ロシア 5
さすがにロシアの首都だけあって、モスクワは巨大な都市だった。
一口に南市街といっても手がかりもなく探すにはあまりに広大すぎる。
「さてどうやって調べるかなー」
「ガラの悪そうな奴に片っ端から聞いてみたら?」
「蛇の道は蛇って奴だな。当てもなく探すよりはマシか」
なるべく薄汚れた、人気のない路地を探す。
観光に来ていたら絶対に近づかないようなスポットだ。
「おーいるいる」
薄暗い路地の先に、いかにも不良って感じの連中がたむろしていた。
「なああんたら、グリツェナフファミリーって知らないか?」
木箱の上に座っていたスキンヘッドのにいちゃんが、ポケットからナイフを取り出しながら立ち上がった。
「あん? ここは観光客が来る所じゃねーぜ」
ナイフを舌で舐めながらニヤニヤしている。
これが漫画かアニメなら真っ先に死ぬタイプだぞお前。
他の仲間たちもへらへら笑いながら俺を取り囲んできた。
「お前、チャイニーズか?」
なぜかヤンキースの帽子をかぶったチンピラが聞いてくる。
「いや、ジャパニーズだけど。グリツェナフファミリーの居場所をしってたら案内してくれないか?」
「知らねえよ!」
「なんならあの世へ案内してやろうか?」
「そりゃいいや」
一斉に不良連中が笑い出す。
「グリツェナフファミリーについて何か知らないのか?」
スキンヘッドがいらっとした様子で怒鳴った。
「ああ? 知るかよ! お前状況がわかってるのか? 死にたくなければ有り金全部だしな」
そう言ってナイフを突きつける。
「やなこった。変身!」
インフェルノレッドに変身して飛び上がる。
すぐに光学迷彩を使ったので、不良連中には光った瞬間消えたようにしか見えなかっただろう。
「えー、あいつらぶっ飛ばさないの?」
ものすごく不満そうな抗議が起きた。
「いちいちそんな事してられるか。別に俺は暴力を振るいたい訳じゃねえ」
「腰抜けヒーロー」
「うるせえ、ポンコツ翻訳機」
その後も何度か同じような事が繰り返されたが、グリツェナフファミリーの情報は全く得られなかった。
「ここまで情報ゼロかよ。もしかしてグリツェナフファミリーってすげえマイナーなマフィアなのかなあ」
「資料を見る限りはかなり大きな組織ぽかったわよ」
「もう少し頑張ってみるか」
再び異臭が漂う路地へと足を進める。
「うーん、ここは誰もいないか」
「……待って。…………どうやら獲物がかかったみたいよ」
その言葉通り、路地の角という角から黒いスーツ姿の男達が現れた。
「お前がファミリーの事を嗅ぎまわっている日本人か?」
黒スーツ軍団の中でも一際スーツが似合う、痩身の男が話しかけてきた。
「ああそうだぜ。そう言うあんたはグリツェナフファミリーの人?」
「そうだ」
「やっと見つけたぜ。なあボスの所に連れて行ってくんない?」
「ボスに何の用だ?」
「大事な話がある」
「話にならんな。得体の知れない奴をボスに会わせるわけには行かない」
そりゃまあ、はいどーぞってなる訳はないか。
だけど俺だってここで引くわけにはいかねえ。
「いいのか? 俺をボスに会わせなかったらファミリーにとって不味い事になるぞ?」
黒スーツが俺の目をじっと見つめる。
しばらくして、
「お前の目には恐怖がない。……面白い。会えるかどうかは分からんが、ボスのところまでは連れて行ってやろう」
確かに変身スーツがあるから全然ビビッてないけど、そこから来る余裕がいい方向に働いたみたいだ。
「だがボディーチェックはさせてもらう」
カラータイマーもどきが気になったが、これを拒否したら絶対に連れて行ってくれないだろうな。
俺は大人しくチェックを受け入れた。
「おい、この胸についているのはなんだ?」
そりゃ気になるわな。
「ペースメーカーだ。外すと死ぬ」
自信たっぷりに言ってやった。
「日本製か?」
「おう」
まあこれは嘘じゃないよな、実際は未来の日本製だけど。
「ほう、私も日本製品は好きだ。ウオシュレットを作った奴にはノーベル賞を与えるべきだと思う」




