ロシア 4
「変った形の建物だな」
SVRの本部はワイングラスを横から見たような形をしていた。
建物の周囲は林に囲まれているが、すこし離れた所に団地のようなものがたくさん建っている。
「んー電線らしきものがないな」
「別に電気が通っていそうなラインなら何でも良いわよ」
屋上を見渡すと、幾つかのパラボナアンテナが設置されていた。
その一つに近づくと何本かのケーブルが出ている。
「これでいいか。じゃいくぞ」
ケーブルを掴む。
「……入ったわ。……リーリヤのプロフィール、これね。孤児院の名前はフラトコフ、場所はアプレレフカって町みたい」
「借金の額とかの情報はあるか?」
「……無いわね。でも借金の相手は載ってるわ、コヴァレフ商会って会社」
「フィアの時みたいにSVRが仕組んだ借金てことはないよな?」
「それはないわね。そもそも借金したの3年前でしょ? ……ふうん、リーリヤが任務を果たした場合、借金をSVRが肩代わりする事にちゃんとなってるみたいよ」
「CIAよりはマシって事か。……そのコヴァレフ商会については何か分からないか?」
「ええと…………あるわね、でもこれって」
「どうした?」
「このコヴァレフ商会ってまともな会社じゃないみたい。バックにグリツェナフファミリー、いわゆるヤクザ、ロシア風に言うとマフィアがいるわね」
「おいおい、とんでも無い所から金借りたんだな」
「それだけ切羽詰っていたか、マフィアが裏にいるなんて知らなかったのかもね」
「コヴァレフ商会のデータにアクセスできるか?」
「えーと……見つけた。さすが悪の組織ね。表と裏の帳簿があるわ」
「借金の額は?」
「表の帳簿だと、そうね日本円にして借入額は150万くらいかしら。で、裏でみると……うわ!」
「どうした!?」
「えげつないわね。利子が変動する契約で今は200%。ざっと現在の借金は3000万を超えてるわよ」
「150万が3000万!? えげつないにも程があるだろ!」
「まあマフィアが良心的な金貸しする訳ないじゃない。ちなみに今までの返済額は既に400万を超えているわ」
「倍以上払ってるじゃねえか。これって違法な借金だよな? 訴えたらなんとかなるんじゃねえの?」
「無理そうね。グリツェナフファミリーが係った裁判が幾つか起こされているけど、全部政府の圧力でもみ消されているわ」
「政府もグルってことかよ!?」
「グルというか、賄賂漬けなんじゃない? ここロシアだし」
「まじかよ」
「さてどうするの? ヒーローさん」
脳裏に孤児院の写真を大切に抱いていたリーリヤの姿が浮かんでくる。
余計なお世話かもしれないが、俺にも出来る事がありそうだ。
「グリツェナフファミリーをブッ飛ばす!」
アプレレフカ。
町の中心にある商業区画を囲むように、民家が立ち並ぶ何処にでもあるような町。
ネット上の情報ではグリツェナフファミリーの居場所についての情報は得られなかった。
まあマフィアの居場所なんて情報がほいほい転がってるわけないか。
だから俺は手がかりを探すためにリーリヤのいた孤児院とコヴァレフ商会があるこの町にやって来た。
「まずはコヴァレフ商会に行くか。翻訳よろしく」
「仕方ないわね」
日本を飛び出したのが午後7時くらいだったが、時差の関係でこっちはまだ昼過ぎくらい、事務所に行けば誰かいるだろう。
コヴァレフ商会の入っているビルはすぐに見つかった。
あまり人気のないビルの階段を上り、2階の一番奥にある扉をノックする。
「……返事が無いな。ここでいいんだよな?」
「扉にはコヴァレフ商会って書いてあるわよ」
ノブを回すと、何の抵抗もなく扉が開いた。
「こんにちはー」
部屋の中は雑然としていて、まるで物置のようだった。
そしてなんか酒臭い。
部屋の奥には一応会社らしく幾つかのデスクが置かれていて、その一つに男が座っていた。
歳は良く分からないが、見事に腹が出ていて顔が赤い。
「今日は休みだ、出て行け……ん? お前みない顔だな」
男が怪訝そうな表情を浮かべる。
「そらこの町の人間じゃねーからな。それよりも聞きたいことがあるだけど」
男のデスクに近づくと酒臭さが一層酷くなった。
昼真っから飲んでんじゃねーよ。
「あ? なんだこら、ここは学校じゃねーぞ」
「うるせえ酔っ払い。いいからグリツェナフファミリーの居場所を教えろ」
男の表情が変った。
「お前、何者だ? ファミリーに何の用がある?」
男の手が机の引き出しに伸びる。
「野暮用だよ。いいから教えろ」
引き出しから出てきた手には予想通り銃が握られていた。
「答えるのは貴様だ、このクソガキ!」
男が勝ち誇ったように銃口を翳す。
「変身」
インフェルノレッド登場。
「なんだ!? くそっ!」
男が気が狂ったかのように銃を撃ち始めた。
だがすぐに銃のスライドが後ろに下がったまま動かなくなる。
弾切れだ。
そして銃から放たれた弾はことごとく俺の足元に力なく転がっている。
男の目が大きく見開かれる。
まさに信じられない物を見たという目だ。
「ば、化け物……」
「インフェルノキーーーーック」
すぐ傍にあった椅子を蹴り飛ばしたら、男の横顔をかすめ、壁に大穴を空けて何処かに飛んでいってしまった。
少々、やりすぎたかも。
だが効果は覿面で、酒で赤かった男の顔がすっかり青ざめている。
「で? グリツェナフファミリーって何処にいるの?」
「し、しらねえ」
「おっさんも飛んでいきたいのか?」
「待ってくれ! 本当に知らないんだ。俺は下っ端でまだファミリーには入れてもらってないんだ!」
使えない酔っ払いだなあ。
「誰かほかに知ってる奴はいないのか?」
「社長なら知ってる。だけど今日はいないんだ」
「何処にいったんだ?」
「毎月、社長はモスクワの南市街に出かけるんだ。今日もそこだと思う」
毎月出かける、か、これはあやしい。
これ以上、この男からは情報を引き出せそうにないし、モスクワに行くか。
「ありがとさん。あと昼間っから飲むのは止めたほうがいいと思うぜ」
言っても無駄そうなアドバイスをして事務所を出る。
アプレレフカからモスクワまでは約50キロくらい、このスーツなら一瞬だ。




