ロシア 3
少し気になったので、おいしそうにおかゆを食べるリーリヤに聞いてみた。
「なあ、なんでそこまでお金に拘るんだ?」
「…………荒川裕樹には関係ない」
なんとなく気まずい雰囲気が流れる。
んーどうにかして話題を変えなくては。
すると、部屋の隅にある小さな机の上の写真が目に留まった。
何度も繰り返し見たのだろう、四隅がすっかりクタクタになった写真。
思わず手にとって見てみると、沢山の子供達と先生らしき人が写っていた。
「へー、これリーリヤの学校の写真か何か?」
するとリーリヤは病人とは思えないほどのスピードで布団から飛び出し、俺の手から写真を奪い取った。
「…………触らないで」
「……悪りい。そんな大事な物だとは知らなくて」
リーリヤは大事そうに両手で写真を胸に当て抱えるように座り込んでいた。
しばらくしてリーリヤが口を開く。
「……家族の写真」
「家族? でも軽く20人くらいはいたぞ?」
7つ子くらいまでは聞いたことがあるが、さすがに20は無理じゃね?
「……みんな私の家族」
リーリヤがぽつぽつと語りだした。
「……私は孤児院で育った」
「……だから孤児院の皆、私の家族」
なるほど、そういう事か。
「リーリヤがお金に拘るのはその孤児院のためなのか?」
リーリヤが無言で頷いた。
「そんなに苦しいのか? その、補助金とかはないのか?」
「……私のせい」
「?」
「……3年前、私は事故で大怪我をした」
「……手術するには大金が必要だった。だから園長先生は借金をした」
そういや外国によっては国民健康保険とかが無くて手術に大金が必要になるって聞いたことがあるな。
「……借金が返せないと孤児院が差し押さえられる」
「それでリーリヤがこんなに無理して金を稼いでいるわけか」
こくん、とリーリヤが頷いた。
「……園長先生は要らないって言うけど、全部私の責任」
……重たい話だった。
こんな小さな体で、そんな重いものを背負って、見知らぬ外国で、嫌な仕事をする。
強いな。
俺には真似できない。
ここで俺がリーリヤに同情して結婚に同意したら、リーリヤの目的は達成されるのだろう。
だけど、そこにリーリヤの幸せなんてあるんだろうか?
だからと言って未来の玩具が使えるだけの高校生に過ぎない俺には、お金の問題なんて解決できるわけないし。
「……お前すげえな。でもそれで無理をして体を壊したら園長先生も孤児院の皆も悲しむんじゃないか?」
こんな事しか言えなかった。
「………………うん」
「分かったら、布団に戻ってちゃんと寝てろ」
すごすごとリーリヤが布団に戻る。
ぐちゃぐちゃになった上布団を直しながら、
「おかゆは余分に買ってあるから、ちゃんと食べろよ。あと薬も。明日また様子を見に来るわ」
そう声をかけてリーリヤのアパートを出た。
「……面白くねえ話だな」
「またそれ? 今回も首を突っ込むつもり?」
「なんとかしてやりたいけど、さすがに借金の話になるとなー。俺金ねーし」
「だったら銀行を襲うしかないわね!」
「だからそれは悪の……なんかこのやり取り飽きたんですけど」
家に帰ってベッドに転がった。
体はすげえ疲れているけど、どうにもリーリヤの事が気になって眠れない。
「…………どれくらい借金があるかだけでも調べてみるか」
もちろん気休めにもならないだろうけどな。
「なあ、俺ロシア語わかんねーから、ちょっと調べてくれよ」
「はあ? なんで私があんたに協力しなきゃいけないのよ」
「いやお前、そのために作られたんだろうが」
「協力する事で私に何かメリットがあるの?」
サポートメカのくせに対価を要求するなんて下手すりゃ敵よりも性質が悪くねーか?
「……じゃあ、特別に今週は一日2回変身するってのでどうだ?」
「……仕方ない。それで手を打つわ」
すると目の前に端末が浮かび上がってきた。
「あの子のいた孤児院の名前は?」
「そういや聞いてねーな」
「さすがにそれじゃ調べようが無いじゃない」
「んー、SVRのデータベースに載ってないかな?」
「SVRね…………んふ」
妙に嬉しそうな声を上げやがった。
「嫌な予感がするな」
「せいかーい。此処も直接行かないとアクセスできないわよーん」
「やっぱりそう来たか。仕方ねえ、どうせこのままじゃ気になって寝れねえから行くか」
「そうこなくっちゃ。場所はモスクワ南部のヤセネヴォって所よ」
こうして俺はまたもやパスポートを使うことなく日本を飛び出した。
まあそもそもパスポートなんて持ってないんですけどね。




