ロシア 1
リーリヤ・カルナウフ。
小柄で滅多に表情を見せないロシアから来た少女。
くるみの弁当を食べている時だけ、幸せそうな顔をする。
俺がリーリヤについて知っているのはこれくらいしかない。
だが、
「まさかお前に泥棒の趣味があるとは思わなかったぞ」
コンビニから帰ってきた俺を待っていたのは、荒らされまくった自分の部屋。
机の引き出しからクローゼットの中に至るまで、ありとあらゆるものが引っ張りだされている。
そして物で溢れ帰り、足の踏み場もなくなった部屋の真ん中に疲れた顔をしたリーリヤがへたり込んでいた。
「……ハンコどこ?」
「教えるか!」
ついに例の婚姻届を完成させるため、実力行使に出やがったか。
「……帰る」
「ちょっと待て。ここの片付けはどうする?」
「……自分の部屋は自分で片付ける」
「正論だがそれは自分で散らかした時の話だ!」
「……初耳」
「お前親にどんな教育受けたんだよ!?」
リーリヤの目が一瞬キッときつくなり俺をにらみつけたが、すぐにいつもの無表情に戻った。
「……とにかく帰る」
そう言って立ち上がり、部屋の外に出ようとしたリーリヤがふらつき倒れそうになった。
「大丈夫か?」
支えてやろうとした俺の手を振りほどきリーリヤは部屋の出口に向かう。
家捜しで疲れただけかとも思ったが、よく見るとリーリヤの顔はいつもの白を通り越し、青白くみえる。
「リーリヤ、顔色悪くないか? 体の調子でも悪いのか?」
「……問題ない」
だがリーリヤの様子はどう見ても問題ないようには見えなかった。
「なあ。なんでそこまでして任務を果たそうとするんだよ?」
ドアのノブに手をかけてリーリヤがしばらく立ち止まる。
そして小さな声で、
「…………お金のためよ」
そう言い残し、リーリヤは部屋から出て行った。
「お金ね……」
確かに一番分かりやすい理由ではある。
でもなーんかリーリヤとお金ってあんまイメージが繋がらないんだよなー。
って、そんな事考えてる場合じゃねえ。
部屋片付けなきゃ寝るとこさえねーぞ、これ。
結局、部屋を元通りにするのに明け方近くまでかかってしまった。
今日は寝不足確実だな、これ。
学校で会ったら嫌味の一つでも言ってやらないと気が済まねえ。
「って、いないし!」
登校してすぐに文句を言ってやろうと眠い目を擦りながら教室に入ったはいいが、いつもは一番早くに来ているリーリヤの姿がない。
「フィア、リーリヤまだ来てないのか?」
「みたいね。珍しい」
「荒川、お前リーリヤちゃんになんか変な事したんだろう!? この藁人形様に懺悔しろ!」
「してねーよ! むしろこっちが被害者だ。そして藁人形で変な宗教作るな」
正直キモいぞ来栖。
そしてそのままリーリヤが来ること無くホームルームが始まってしまった。
「あら? リーリヤさんはお休みなのね。荒川君、何か聞いてない?」
「俺は何も。てか、何で俺に聞くんです?」
「あら? 奥さんなんでしょ? でも気をつけてね。先生調べたんだけど日本では重婚も18歳未満の結婚もどうやら認められていないらしいのよ」
こいつに教員免許与えたやつ出てこいよ!
「……なあ、なんでリーリヤ休んでるんだ?」
フィアに聞いてみた。
「知らないわよ。一応、私たち敵対してる組織の人間なのよ」
そりゃそうか。
昨日のリーリヤの様子が脳裏に蘇る。
そういや、なんだか具合が悪そうだったな。
という事は単純に風邪とかで休んでいるのかな?
「……随分、あの子の事気にしてるのね」
フィアがなんだか冷たい視線で睨んできた。
「いや、昨日俺の部屋で会ったときなんか具合悪そうだったから……」
「部屋で会った!? そ、それってまさか、えーーーー」
なんかフィアが立ち上がりそうな勢いで叫んだ。
「フィアさん、私語は謹んで下さいね」
とりあえず叫ぶのは止めたが、その後も教科書と弁当を間違えて出したり、シャーペンのノックを連打して芯を全部だしたりとか訳の分からない行動を取っている。
全くもって変な奴だ。
その日はそのまま、リーリヤが学校に来る事は無かった。




