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渡米 6

 次の日、登校したとたんフィアに屋上へ連れて行かれた。


「荒川裕樹。昨日学校を抜け出してなにをしていたの?」


 レオンにもオリバーにも口止めしておいたので昨日の件はばれていないはず。


「いや、すげえ腹が痛くなって自主早退したんだ。昼に食ったパンが原因かもしれねえ」


 別に隠す事も無い訳なんだが、なんかこれ以上フィアに気を使わすのも嫌なんで、あくまでもCIAの都合で作戦が変ったという事にしてもらっている。


「パンねえ」


 フィアの表情を見る限り、あまり信じていないようだ。


 まあ嘘だもんな。


「あのね。今朝早く連絡があって、ライルの件、冤罪だってわかったらしいんだけど……知ってる?」

「い、いや知らねーな。でもよかったじゃねえか」


「ええ」


 フィアがじっと俺の事を見つめてくる。


「ところでCIAの本部ってかなり立派なのよ」


 いきなり話が変わったな。

 まあ確かにあれは立派だった。


「へえー」

「でそこにいるレオン長官なんだけど、いつもクールで女性職員から凄く人気があるの」


 おそらく男性職員からは凄く人気がないだろうな。


「へー、なんかむかつくな」

「で、そのレオン長官なんだけど…………実は女装の趣味があるの」


「マジかよあいつ!!」


「あいつ、ねえ」


 あ、ミスった。


「あー間違った。そいつって言いたかったんだよ」

「ふうん。ま、そういう事にしといてあげるわ。それじゃ」


 そう言うとフィアは髪をなびかせながら校舎に入るドアに向かって歩き出した。

 そしてそのまま振り向かずに、


「…………ありがとう。()()


 と囁いて校舎の中に消えていった。


「……バレバレか。でもこれでフィアともお別れだな。……なんだかちょっと寂しい気もするなー」

「あんたみたいな男が結婚できる唯一のチャンスだったのにね。これで一生独身決定ね」


「……未来から来た奴に言われると洒落にならねーよ」



 教室に戻るとフィアはまだ自分の席に座っていた。

 今日1日くらいはいるつもりなのかな?


 そしてやって来た恐怖の昼休み。

 昨日のようにダッシュで教室から脱出を試みるも、リーリヤに首根っこをつかまれてあえなく失敗。

 くるみの天国弁当とリーリヤの地獄弁当が机に並べられる。

 だがフィアのは無かった。

 任務を解かれたんだから当然だよな。

 まあ正直助かるけど。


 その日もくるみの弁当を死守しながら(それでもリーリヤに半分くらい食われた)なんとかリーリヤの激マズ弁当を片付ける。


「おい荒川」

「なんだ藁人形」


「お前ついにフィアちゃんに振られたのか?」

「みたいだな」


「よっしゃあああああ! これで後2人!」


 そういうと来栖はわき目も振らずにまた藁を束ね始めた。

 その情熱と行動力のベクトルを変えたら彼女くらい出来ると思うぞ来栖。


 その日の帰り道。


「ねえゆっくん。フィアちゃんと何かあったの?」

「いや別に。だけどあいつ多分もう学校には来ないと思うぞ」


「えーなんで?」

「何と言うか、仕事が無くなったから、かな?」


「そうなんだ。せっかくお友達になれそうだったのに残念」


 おもわずくるみの顔を見つめてしまった。


「なに?」

「いや、お前ってホント平和な奴だよな」


「? 悪口?」

「いや褒めてるんだよ」


「いやーテレちゃうなー」


 テレてんじゃねーよ。

 まあそこがくるみの良い所なんだけどな。



 次の日、教室のドアを開けると、俺の席の横に赤毛の女の子がまだ座っていた。


「あれ? フィアまだいたのか?」

「いちゃ悪い?」


「いや悪くはねーけど。ライルの件は解決したんだろ?」

「ええ、昨日電話で無事釈放されたって言っていたわ」


「そりゃ良かった。あれ?」


 良く見るとフィアの左手が絆創膏だらけになっている。


「フィア、手どうしたんだ?」

「べ、別にどうもしないわよ!」

「ふーん。ま、いっか」


 てっきりもうアメリカに帰ったとばっかり思っていた。

 手続きとか色々あるのかな?

 そしてその日もきっちり昼休みがやって来た。


 まあフィアのがなくなったから、味はともかく量はすいぶんましになってるんだけどな。

 早速、俺が逃げ出す前に机に弁当が3つ並べられた。


 ん? 3つ?


「フィア!? なんで? 任務は終わったんだろう?」

「はあ? 私は一度受けた任務を途中で放り出すような無責任な女じゃないわよ」


「なんだそれ!?」

「いいからちゃんと残さずに食べなさい!」


 いや残さずにって、だからお前の弁当は量がおかしい……

 あれ? いつもの巨大なタッパーじゃないだと。

 普通のサイズの弁当箱だ。

 でもどうせ中身はシリアルなんだろううよ。

 まあ、これくらいの量なら何とかなるけどな。


 すっかり諦めの境地で弁当の蓋を開いた。

 予想に反して中に入っていたのは明らかに市販品ではない、異常に切り口が汚く、サイズがバラバラのサンドイッチ。


「なあ、これって……」


 思わずフィアの絆創膏だらけの左手に視線が伸びる。

 さっとフィアが左手を後ろに隠す。


「仕方ないじゃない。CIAで銃の扱い方は習ったけど、包丁の扱い方は習わなかったのよ!」


 顔を真っ赤にしながらフィアがもじもじし始めた。


「味は問題ないはずよ。ありがたく食べなさい、裕樹」


 クラスが久しぶりにざわついた。


「なんかいつものフィアちゃんと雰囲気ちがくね?」

「フィアちゃんいつもの100倍かわいいーー」

「あの子あんなキャラだったっけ?」

「荒川殺す。荒川殺す。荒川殺すーーーー」


 あれ? おかしいな。


 フィアが任務につく理由が無くなったから当然、アメリカに帰ると思ってたんだけど。

 なんか状況的にはあんまり変わっていないというか、なんとなくさらに泥沼に嵌った気さえしてくるんですけど。


 どうやら、俺の平穏な日常はそう簡単には取り戻せないらしい。


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