渡米 5
配分をミスってちょっと短くなってしまいました。
嫌味な薄ら笑いを崩さずにレオンが口を開く。
「……無理だな。君には出来ない」
「なっ! ふざけんな! 俺の力は分かっているだろ!?」
「君の力は知っている。だが君には出来ない」
「脅しじゃないぞ。俺はやるといったらやる」
「そんな事をしたら人が大勢死ぬぞ」
「!」
その言葉が俺の胸にやたら深く突き刺さった。
「報告によれば君は今まで誰1人として殺していない。そうできる状況にあったのに、だ。つまり君は普通の人間なんだ」
「普通で悪かったな」
「別に悪く言っている訳ではない。むしろ素晴らしい。だが、普通の人間には人は殺せない」
「わかんねーぞ。普通の人間だって追い詰められたら何だってする!」
「追い詰められたらね。さて此処で君に質問だ」
レオンが芝居がかった仕草で右手を俺に向ける。
「君は今、無関係な人間を容赦なく殺せるほど追い詰められているのかね?」
「ぐっ」
痛いところを突いてくる。
……答えはノーだ。
そもそも此処で冷静に話し合っている自体、まだそこまで追い詰められていない事の何よりの証拠になっている。
悔しいがレオンに何も言い返せない。
「ほらね。君には出来ない」
しばらく沈黙が続いた。
「だがまあフィアリス捜査官の件に関して、君の言う通りにしてもいい」
「……マジで?」
「マジだ。ただし、君が合衆国に忠誠を誓うという条件を飲んでくれたらだ。どんな命令にも絶対従うという忠誠をね」
……それは無理だ。
こいつらは俺を平和利用するつもりなんてこれっぽっちも無いに違いない。
必ず、歴史を変えるような局面で使うつもりだ。
「それは出来ない」
「ならば私も君の要求を飲む事は出来ない」
平行線だ。
……どうすれば? このままじゃ何にも変えられない。
「…………だったら俺はロシアに協力する」
出てきたのは結局、苦し紛れのハッタリだった。
「ロシアねえ。本気かい?」
レオンの薄笑いは消えていない。
ハッタリだと見抜かれている。
だがこっちも引くわけには行かない。
「ロシアにも忠誠は誓わない。だけど出来る範囲で協力する」
「ふむ。確かにそれはやっかいだ」
レオンの目が笑っている。
絶対にやっかいなんて思っていないだろ。
「……わかった。フィアリス捜査官の件については君の言うとおりにしよう」
「は?」
意外な言葉だった。
俺のハッタリなんて見抜いているはずなのに?
「だが覚えておいてくれよ。これは貸しだ」
……そういう事か。
レオンにとってフィアを使った作戦はそれ程重要ではなかったんだ。
上手くいけばラッキー程度の。
それよりも此処で俺に貸しを作れるほうがメリットがあると計算したんだろう。
結局、どちらに転んでもレオンの勝ちだったわけだ。
まあ元々、海千山千のCIA長官相手に交渉で勝てる訳が無いか。
そう考えると当初の目的が果たせただけでよしとしなくちゃな。
「分かった。この借りはいつか返す」
「楽しみにしているよ」
「ああそれと今回オリバーには色々世話になったんだ。給料でも上げてやってくれ」
「へえ、オリバーがね。分かった。検討しておくよ」
こうして俺の初めての海外旅行は終わった。




