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渡米 2

「まじかよ……なんか頭いてえ」


 サイトを開くと、信じがたいことに本当にオリバーのブログだった。

 さすがに内容はたわいもない事ばかりだったが、あいつ秘密工作員の自覚が本当にあるんだろうか?


 とりあえず、書き込み欄に入力する。


『あほのオリバー。ジェノキャノンで吹き飛ばされたくなかったら、すぐに俺に連絡しろ』


 エンターを押して書き込んだ瞬間、俺のスマホが鳴り出した。


『もしもし。なにか御用ですか?』

「暇かよ! 早すぎるだろ!」


『いやー、ブログのチェックは私の生き甲斐でして』

「まあいい。それよりも聞きたい事がある」


『何なりと。もしかしてケネディ大統領の暗殺事件の真相ですか?』

「超知りてえ! いや、そうじゃない。フィアの事だ」


『彼女がなにか?』

「なんでアイツ今回の任務に志願したんだ?」


『その件ですか。実は私も気になったので、ブログの更新の合間にちょっと調べたんですよ』


 もう突っ込む気にもなれねえ。


『どうやら彼女、CIA上層部と司法取引をしたみたいですね』

「司法取引?」


『ええ、彼女には兄がいまして、その兄が13人を殺す凶悪犯罪を起こしたんです。判決は死刑。それで兄の減刑と引き換えに今回の任務を請け負ったみたいですね』

「そんな事が……」


『今回の件に関して私は完全に蚊帳の外なので、これ以上のことは分かりません』

「そうなんだ。じゃ、今回指示を出しているのは誰なんだ?」


『CIA長官、レオン・ダレスです』

「ありがとう。助かったよ」


『それでは見返りに我が合衆国に協力していただくという事で』

「それとこれとは話が別だ」


 オリバーとの通話を切る。


「大体事情が見えてきたな。時間がないって事は早くしないと死刑が執行されるって事か」

「13人も殺したら自業自得だと思うけどね」


「まあな。だけど身内の事になったら、そりゃ助けられるなら助けたいと思うだろうな」


 出来るならフィアの助けになってやりたいが、そうするためには結婚しなきゃならないし。

 選択肢が重過ぎる。

 とりあえずフィアと話がしたい。


「なあ、今、フィアが何処にいるか分かるか?」

「分からないわ。というかあんまり私を便利な道具扱いしてたら殺すわよ」


「いやだってお前道具じゃん……って、まあいいか」


 仕方なくフィアを探して学校中を駆け回った。

 屋上にも教室にもいない。


「どこ行きやがったんだ? 帰っちまったのかな」


 廊下の窓からふと校庭を見ると、俺が昼飯を食ったベンチにすっかり見慣れた赤髪の女の子が座っていた。

「ここにいたのか」

「……何か用?」


 フィアの隣に座る。


「オリバーから大体の事は聞いた。兄貴が殺人事件を起こしたんだってな」


 フィアがきっと俺を睨み付けた。


「ライルは人殺しなんかじゃない!」

「どういう事? 13人殺したって聞いたけど」


「ライルは人を殺せるような人じゃないの」


 そう言うとフィアはぽつぽつと語りだした。


「私の両親は私が生まれてしばらくして離婚したの」

「私は母親に、ライルは父親と暮らすことになったわ」

「それでも私たちはよく会っていたの」


 フィアが優しい表情を浮かべた。

 きっとライルとの間にはいい思い出が一杯あったんだろう。


「ライルは私と違って体が弱かったから、いつも家の中で絵を描いていたわ」

「ライルの描く絵はとっても優しくて私大好きだった」


 確かに人を殺すようなイメージには繋がらないな。


「そんな人がどうして事件を?」

「わからない! 地元警察の話じゃライルはギャングの一員で、仲間を殺された報復に敵対するギャングを皆殺しにしたって言うの」


 フィアが目に一杯涙を貯めている。


「でもそんなの絶対に何かの間違いよ! あんなひ弱な身体ではまともに銃を撃つことすらできないはずだもの。だけどこのままじゃそれを証明する前にライルに死刑が執行されてしまう。だから私はこの任務に志願したのよ」


 そう言うとフィアは俯き喋らなくなってしまった。


 肩が小刻みに揺れている。


「ライルのために俺と結婚するって事か。ここで俺が結婚を承諾したら、とりあえずは丸く収まるんだろうけど、正直そこまで吹っ切れないというかやっぱりそれはおかしいだろ」


 フィアが顔を上げる。


「確かにおかしいわよね。私の勝手な都合を押し付けてごめんなさい」


 すっかり赤くなった目元をフィアの指があわただしく拭っていく。


 なんだか無性に腹が立った。


 此処でフィアが謝るのはなんか違う気がする。


 人の弱みに付け込んでこんな事をさせているCIAにもむかつく。


 そして何も出来ない自分にも。


 ……いや、まだ何も出来ないと決まったわけじゃない。


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