アジト
その日の晩も約束通り、1日1回の変身とついでに空の散歩をしていた。
光学迷彩とやらで見えないらしいから、一応は安心なんだが……
「なんだか、ただ飛んでるだけってのも飽きてきたわね。あそこらへんのビル吹き飛ばしちゃわない?」
「頼むから正義の味方っていう設定を思い出してくれ」
こうなるので油断は出来ない。
「あれ? あそこにいるのリーリヤじゃない?」
眼前に出たモニターが拡大されていく。
「あー確かにリーリヤだな」
画面上には右手にスーパーの袋を提げたリーリヤがアパートの階段を上っていく姿が映し出されていた。
「リーリヤ、あそこに住んでいるのか。しかしまあ、なんというか」
「ボロッちいアパートねえ」
ストレートだなあ。
だが確かにリーリヤのアパートはいつ解体されてもおかしくないぐらい老朽化していた。
二階に続く階段も完全に錆びていて、手摺なんて下半分は完全に朽ちて消えてしまっている。
「やっぱSVRって給料安いのかな?」
「さあ? ってキターーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
「耳元で騒ぐなよ! なにがきたんだ?」
「敵よ、敵! この近くに敵のアジトが登録されたわよ!」
「はあ? なんでこの時代にそんなもんが登録されんだよ? なんかの間違いだろ?」
「間違うもんですか! これは『ジェノサイダー拡張キットシリーズ② ブラックベーカリーの野望』で間違いないわよ!」
「……ブラックベーカリーってジェノサイダーはパン屋と戦ってるのか?」
「とにかく行くわよ! 早くしないと周辺一体のパン屋が絶滅しちゃうわよ」
そう言うと俺の意思とは無関係にスーツが急発進した。
そのまま俺が連れてこられたのは宅地造成中のニュータウン。
一斉に建設中の戸建に混ざってそれはあった。
異様な光景だった。
とは言っても建物自体は食パンの形を模した可愛らしい建物なのだが、場所が普通の住宅地なだけにかなり悪目立ちしている。
「うわあ、マジであるし……」
「さあ乗り込むわよ!」
「めんどくせえな。これ外からジェノキャノンで吹き飛ばしたら駄目なのか?」
「このキットはスリルとハラハラ感を演出するために飛び道具系は使用不可の設定になってるの」
「じゃ、どうやって戦うんだ?」
「ジェノパンチとインフェルノキックね」
「思いっきり肉弾戦かよ。俺、喧嘩あんまり強くねーぞ?」
「大丈夫よ。敵の攻撃が当たってもちょっと衝撃が走るくらいだし、そもそもこれ対象年齢が10歳までのおもちゃよ? 楽勝でしょう!」
「仕方ねえなー。ゲームと思ってちゃっちゃと終わらせるか」
アジトの入り口は自動ドアになっていて、近づくと勝手に開いた。
悪の組織としてはやたら無用心なつくりだな。
中に入るといきなり、
「いらっしゃいませ、さようなら!」
と叫びながら、全身黒タイツの下っ端が襲ってきた。
地味に動きが速い!
俺は敵のパンチを避けるのを諦めて受けてみる事にした。
「ぶへぇ!」
痛い!
めっちゃ痛いんですけど!?
「どういうこと!?」
「なんか設定が狂ってるみたいね。まあ頑張れ」
その間も下っ端が連続でパンチを繰り出してくる。
「痛てえ! ちょ、いい加減にしろぉ!」
俺の怒りのインフェルノキックを受けた下っ端が吹っ飛んだ後、霧のように消えた。
「サッカー部なめんなよこの野郎!」
「やったじゃない」
「いや、すでにかなりボロボロなんですけど」
「いらっしゃいませ、お帰りください!」
「!」
その後も次々と襲ってくる下っ端を倒しつつ、所々に仕掛けられた罠(天井から小麦粉が降って来る。意味不明。焼きたてのパンを押し付けられる。地味に熱い。パートのおばちゃんに巨大なラッピングで包装されそうになる。これが一番怖かった)を潜り抜け、ようやくボスの所まで辿り着いた。
「ここがボスの部屋ね」
部屋の扉には「社長室」と書かれていた。
「なんかイメージ崩れるというか、他の表現があるんじゃね?」
「どうでもいいじゃない。さっさと行くわよ」
中に入ると、やたら太った全身黒タイツがいた。
一応、ピタピタのスーツを着て社長っぽいイメージを出そうとはしている。
「よくぞ此処まで来たなジェノサイダー。だがここがお前の墓場となるだろう!」
「正義は負けないわ! ブラックベーカリー、墓に入るのはお前よ!」
「え? もしかして俺もそのノリに加わらなきゃならないの?」
「ヒーロー物で一番大切な部分じゃない。ブラックベーカリー、お前たちの悪行も此処までよ!」
「悪行って、こいつら一体なにをしたんだ?」
「ふぁふぁふぁ、愚かなりジェノサイダー。我が野望に気付いていないとは。ならば教えてやろう!」
「いや別に聞きたくない」
「我らブラックベーカリーは」
聞いてねえな。
「この周辺のパンの賞味期限を全て期限切れのシールと入れ替えてしまったのだ!」
「は?」
全く意味がわからない。
「これがどれだけ恐ろしい事か分かるか? パンを食べる事が出来なくなった人々は絶望のあまりダークサイドへ落ちるだろう。そして町のパン屋も次々とつぶれ、世界からパンが消えるという恐ろしい時代が、ぶへぽっ」
とりあえずぶん殴ってみた。
「き、貴様、それでも正義の味方か!? 敵の口上中に攻撃をするなんてヒーローの風上にも、ばふぇぷ」
「インフェルノキック×3。ジェノパンチ×3。インフェルノキック×9」
「おのれえええーージェノサイダー!」
そう言い残して社長は七色の煙を撒き散らしながら爆発して消えた。
「おめでとう、ジェノサイダー!」
すると何処からとも無く声が聞こえてきた。
「君の活躍によってブラックベーカリーの恐ろしい野望は費えた! ありがとうジェノサイダー!」
謎の声が消えると同時に、部屋全体が歪みだす。
そしてそのまま、手の平の中に吸い込まれるように集まりだし、今までブラックベーカリーのアジトが建っていた所が更地に戻った。
手の中を見ると、銀色の卵くらいの大きさの玉があった。
「これが拡張キットなのか?」
「そうよ」
「なんでこの時代にあるんだろう?」
「また配送ミスしたんじゃないかしら」
「……とりあえず超空間配送システム使うの止めろって言っておけ」
「いいけど、そうしたら電池も届かないわよ?」
「ままならねえ!」




