学校 5
次の日の昼休み、その事件は起こった。
「裕樹君。や、やっぱりつくり過ぎちゃった。今日も食べてね」
「悪いなー」
受け取ったくるみの弁当は今日は標準サイズだった。
早速、蓋を開けて食べようとした時、
「荒川裕樹! 私も弁当を作ってきた! 食べなさい」
いきなりフィアが机の上にやたらでかいタッパーをどんと置いてきた。
「え? なんで?」
「男を落とすには弁当がいいと昨日学んだからよ」
「いや、でも俺、くるみの弁当もあるし……」
「幼馴染の弁当は食べれても妻の弁当は食べれないと?」
フィアが例の拳銃を俺のこめかみに当てながらすごんできた。
「とにかく食べなさいよ。私の愛情がいっぱい篭ったお弁当よ」
仕方なくタッパーを開けてみる。
「げ! なんだこれ!?」
中にはコーンフレークが隙間無くびっしりと詰まっていた。
「シリアルよ。残さず食べてね」
愛情どころか悪意しか伝わってこねえよ!
「……荒川裕樹。私も持ってきた」
「リーリヤ、おまえもか?」
リーリヤが差し出してきたのは教科書よりちょっと小さいぐらいの銀色のパッケージ。
表面にいろいろ書いてあるがロシア語なので全く読めない。
「? なにこれ?」
「……ロシアの戦闘用レーション」
レーションって料理のパックだっけ。
ちょっと興味はあるけど美味しいんだろうか?
「……死ぬほど不味い」
「不味いのかよ!」
「……食べないと色々ばらす」
ばらすってなにを?
怖い、怖すぎる。
俺はまだ社会的に死にたくねえ。
「分かったよ。わりい、くるみ。そう言う事だからこの弁当はいらな……」
俺が言い終わる前にくるみが目に涙を浮かべ始めた。
「荒川! お前最低だな」
「そーよ、くるみがかわいそうじゃない!」
「女の敵!」
「もう直接お前に五寸釘打ってやる!」
最後のは来栖だな。
「ええい! 分かったよ。全部食べればいいんだろ!?」
とりあえず問題はリーリヤの弁当だ。
どれくらい不味いか確認する必要がある。
「それじゃまずはリーリヤのから」
パッケージを開けると、何かを煮込んだ物が入っていた。
はっきり確認できるのはジャガイモぐらいで、あとは得体が知れない。
恐らくトマトベースの煮物だと思うんだが……
「!」
不味い。
とてつもなく不味い。
味はまるでゴムボールを赤いペンキで煮込んだものを食べているみたいだ。
「と、とりあえず次はフィアの」
こっちは普通のシリアルなのだが、口の中の水分が全部奪われてしまう。
さらに量がおかしい。
最後にくるみの弁当を一口食べる。
「うまい……」
思わず涙が出そうになった。
これはきちんと計画を立てて食べる必要がある。
リーリヤの弁当を食べたあとすぐにくるみの弁当で口直し、その合い間に口の中の乾燥状況を見極めてフィアのを片付ける。
いける、これでいけるはずだ。
「まずはリーリヤのを攻める!」
覚悟を極めてリーリヤの弁当をほうばる。
脳髄に響くような味が口一杯に広がる。
「なんの、次はくるみの……くるみの?」
……ない。
俺に残された最後の希望、くるみの弁当が消えた。
「なんで? どういうこと!?」
周りを見渡すとリーリヤが自分の席でくるみの弁当を食っていた。
「ぶはっ! ちょ、おま、何で食ってんだよ!?」
「……お腹減ったから」
「レーションがあるんだろ!?」
「……あんな不味い物、食べれない」
「自由すぎる!」
「ごちゃごちゃ言ってないで早く食べなさいよ。弾くわよ」
フィアが銃の撃鉄を起こす。
なんだよこれ?
なんで昼飯ごときで死に掛けなきゃならんのよ。
その後、俺は意識を失いそうになりながら、からからに乾いた口の中に産業廃棄物を流し込む作業を延々と続け、ようやくどちらの弁当も空にする事が出来た。
「……来栖。胃薬持ってないか?」
「理科室からさっき取ってきた硫酸ならあるぞ」
「殺す気かよ」
「死なすつもりさ」
「……なあ、この状況を見てもまだ俺の事うらやましいと思うのか?」
「うーん」
さすがの来栖も今の俺の状況を見て考えを変えたようだ。
「思う!」
変ってなかった。
「いや、これマジでへたすりゃ命に係るレベルなんですけど」
「俺はもてないで長生きするより、もてもてで早死にしたい!」
ぶれないなお前。
なんかそこまで行くと逆にかっこ良くみえるぜ。




