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最終話 離別エンド/待て。しかして希望せよ

予告通り、二つのエンディングの片割れです




前回のあらすじ

ルナセールが処刑された

 

 五年後、プロキオンの街。

 街の風景も多少の変化は訪れ、それはモンテーロ家も例外では無かった。


 その中でも一番の変化は―――。




 ◇◇◇◇◇




「全く……いったい何処に……」


 逃げ足の速い人物の影を見失い、私は腰に手を当てて溜め息を吐く。

 私もケイトも、まだメイドとしてこの屋敷に勤めていた。というか、暗殺者稼業から足を洗って本格的に第二の人生を送っていた。


 そんなケイトが、私と一緒に探していた人物を小脇に抱えて近付いて来た。

 その人物はシーツを被っているから、顔を窺い知る事は出来ない。

 だけど私もケイトも、その人物の顔を良く知っている。


「ベル、見付けたわよ」

「ありがとう、ケイト。……駄目ですよ、お嬢様。洗濯物で遊ばれては」


 そう言い、シーツを剥ぎ取る。

 露になったその顔は、奥様と瓜二つと言っても過言ではないくらいに良く似ていた。

 だけど性格は真逆と言ってもいいくらいで、とにかくわんぱくだった。


 この女の子の名前はマリア。

 旦那様と奥様との間に産まれた、モンテーロ家の正式な跡取りだった。


 その旦那様だけど、五年前に忽然と姿を消した。

 その理由も分からず、師匠(せんせい)とリーダーが懸命に行方を捜索したけど、ついぞ発見する事は叶わなかった。


 世間では、奥様が妊娠した事を知って蒸発したとか何とか言われてたりもするけど、旦那様がそんな理由で姿を消すヒトではない事は、この家の者であれば全員が知っていた。


 だからか、みんながみんな、旦那様の帰宅をいつまでも心待ちにしながら、領主の務めを日々果たしている奥様に代わり、全員でお嬢様のお世話をしていた。


 そんなお嬢様はケイトに捕まったのが不服なのか、ぷくっと頬を膨らませる。可愛い。


「むぅ……またつかまってしまったわ。ベルもケイトもわたしをつかまえるのがはやいわよ?」

「それが仕事ですので。お嬢様のお世話係の名は伊達ではありませんよ? それと、イタズラは感心しませんね。今日の洗濯当番のメイドが困ってましたよ? ですので……反省したのなら、何と言うかお分かりですよね?」

「は〜い……ごめんなさ〜い」

「はい、よく謝れましたね」


 私はそう言い、お嬢様の頭を優しく撫でる。

 お嬢様は恥ずかしそうに、くすぐったそうにニコニコと笑顔を浮かべる。

 その表情を見るだけでお嬢様のイタズラも許せてしまえるし、日々の疲れも吹き飛んで行く。


「ではそのメイドにも謝りに行きましょう」

「は〜い」


 お嬢様は確かにわんぱくだけど、聞き分けが良い子供でもある。

 だからお世話は確かに大変だけど、楽しいという感情の方が勝る。


 ケイトがお嬢様を床に下ろすと、お嬢様は私とケイトの手を握ってくる。

 そんなお嬢様に引っ張られる形で、洗濯当番のメイドの下へと向かった―――。




 ◇◇◇◇◇




 マリアと添い寝しながら、一定のリズムでマリアのお腹を優しく叩く。

 マリアはむにゃむにゃと可愛らしい寝顔を浮かべ、夢の世界へと旅立っている。


 その顔を見ているだけで仕事の疲れも癒えるし、この顔が見れる娘の寝かし付けは母親の特権だと主張して、誰にも譲らないし譲る気も無かった。


 その顔を見ながら、わたしは五年前のあの出来事を回想していた―――。




 ◇◇◇◇◇




「なら……なら、わたしも連れて行って下さい!」


 わたしのその言葉に、クリスさんは――首を横に振った。


「駄目だ、連れて行けない」

「どうしてですか!?」

「これ以上、エンデの人生に干渉する気は無いからだ。俺の事は忘れて、これからはエンデの歩みたかった人生を歩むといい」


 その言葉に、わたしは大きなショックを受けた。

 これだけわたしの人生に干渉しておいて、そんな事を言うなんて……。


 そう思うと、自然と涙が零れ落ちてきた。


「……クリスさんは、自分勝手過ぎますよ……」

「だろうな」

「今更クリスさんの事を忘れろなんて、出来る訳無いじゃないですか……」

「そうか」

「クリスさんなんて……クリスさん、なんて……」


 ……大嫌い、と言いたいのに、口が動かない。その原因は分かっている。

 わたしが心の底から、クリスさんの事を愛しているからだ。

 だから、クリスさんに対して酷い事が言えない。


 子供のように泣きじゃくっていると、クリスさんが静かにわたしに近付いて来る。

 そして泣いている子供をあやすように、優しく抱き締めて背中を撫でてくる。


「……エンデには本当に、心の底から感謝している。エンデがいなかったら、俺は復讐を成し遂げられなかったかもしれない」

「……クリス、さん。最後に聞かせて下さい。わたしの事は愛してましたか?」


 涙声でそう尋ねると、クリスさんは即答する。


「ああ。最初は偽りだったが、今ではエンデの事を一人の女性として愛している。さっきはああ言ったが、本当はエンデには俺の事は忘れて欲しくは無い。だから、最後にこの言葉を送る。……ある意味ではエンデの人生を縛ってしまう、呪いの言葉を」


 その言葉を聞き、最初で最後の、純粋な愛しか籠っていないキスを交わした後、クリスさんはわたしの前から姿を消した―――。




 ◇◇◇◇◇




 マリアの妊娠が分かったのは、その出来事があった翌日の事だった。

 時期的に、メルシアさんの葬儀の後に、クリスさんを慰めるために彼とまぐわった時に出来たのだろう。

 というか、クリスさんと夫婦の営み的な事をしたのはその時が最初で最後だった。


 これはクリスさんからの贈り物だと思い、大切に大切にお腹の中で育て上げ、無事に出産した。

 マリアは殆どクリスさんの特徴を引き継いではいないけど、エメラルドグリーンの瞳は見る角度を変えると青く見える時がある。

 この瞳の色は、クリスさんが『魔神』になる前と一緒だった。


 すると窓の隙間から、フワッと夜風が吹き込んでくる。

 思わず目を瞑り、薄目で窓の方を見ると――クリスさんの姿があった。


「クリ……」


 でもそれはわたしの幻覚だった。

 だけどそれほど落ち込んではいない。

 わたしの胸には、クリスさんから貰った言葉があるからだ。

 その言葉があれば、わたしはいつまでもクリスさんの帰りを待てる。


 その言葉を、わたしはポツリと呟く。


「……『待て。しかして希望せよ』」






モチーフにした小説のめっちゃ有名な文言を出さないと原作リスペクトにならないだろうと思い、最後の最後に持ってきました。


こちらのエンディングではエド/クリスとエンデは離別してしまいましたが、もう片方のエンディングでは……。

気になる方はその目で確かめて下さい。


ここまでの読了、誠にありがとうございます。

読者の皆々様の記憶の片隅にでもこの作品が残ってくれたら、作者冥利に尽きます。




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