第64話 復讐/ルナセール 前編
前回のあらすじ
堕ちる所まで堕ちた『勇者』
翌日。
ルナセールの魔力反応を頼りに、俺は路地裏へと足を踏み入れる。
するとそこには予想通り、ルナセールの姿があった。
彼の足下には何の罪も無いこの街の住人が、血塗れの状態で倒れ伏していた。
ルナセールはゆっくりとこちらを振り向き、俺の顔を見て驚いたような表情をする。
「クリス殿? どうしてここに……」
「やあ、ルナセール。結構派手にやってるみたいだね?」
あえて昔の口調で話し掛け、『スロウベル』で改竄した記憶を元に戻す。
するとルナセールはビクリと肩を揺らす。
「何だこの記憶……いや、それ以前に貴殿は……いや、お前はっ!」
「ようやく思い出した? そうだよ、エドだよ」
そう告げると、ルナセールは一歩二歩と後退る。
「何故お前が生きて……いや、私に何をした! 答えろ、エド!」
「何って……復讐に決まってるじゃないか。それでどうだった? 何の罪も無い住人を殺して回った感想は?」
「何……? メルシアを精神崩壊させ、ルナシアを殺した奴等はこの街の住人じゃないのか?」
そう聞き返してくるルナセールに対して、俺は真実を告げる。『レンヴィア』による洗脳は上手く働いていたらしい。
「それは僕の洗脳だよ。二人をあんな非道い目に遭わせたのは……この僕だ。ルナセールがやっていた事は正義の鉄槌でも何でもない。ただの大量殺人だよ」
「う……嘘だっ!!」
「嘘じゃない。……残念だよ、ルナセール。『勇者』ともあろう者が、何の罪も無い住人を殺して回っていたなんて……」
芝居掛かったようにやや大袈裟にそう言うと、ルナセールは首を左右には激しく振る。
「ち……違うっ!!」
「違わないさ。僕が洗脳した結果だとしても、ルナセールが大量殺人したという事実は変わらない。大人しく騎士団に捕まって処刑されるか、僕に殺されろ」
「……っ! それはお前も同罪だろ、エド! 私を洗脳したという事は、私に殺人しろと教唆したのと同義だ! 私が捕まる時は、お前も一緒に……」
「捕まるかよ、馬鹿。これは僕の復讐だ。どんな手を使ってでも、お前には死んでもらう」
「復讐だと……? ハッ……大方、私にメルシアを奪われた事だろう?」
ルナセールの見当違い過ぎる物言いに、俺は鼻で嗤う。
「ハッ、馬鹿を言え。メルシアも復讐対象だったに決まってるだろう」
「復讐対象? ……まさか」
「そのまさかさ。メルシアの精神を崩壊させ、ルナシアを見るも無惨に惨殺した真犯人は――この僕だ」
「……っ! エドオオオオオオォォォォォォッ!!」
激昂したルナセールが、星剣を両手で握り締め俺に斬り掛かってくる。
俺はそれを、『スロウベル』を『ファーライド』に変化させて真正面から受け止める。
「メルシアとルナシアの敵、この私が討つ!」
「大量殺人者が何を言ってる!」
ルナセールの戯れ言にそう返し、剣を押し返す。
そしてその隙を逃さず、《サンダーボルト》で追撃する。
しかしそこは腐っても『勇者』。
俺の魔法を星剣で防ぐと、反撃とばかりに《アイシクルランス》を乱発してきた。
路地裏は狭く、回避出来る空間も限られている。
だから俺は仕方なく表通りへと躍り出る。
そのすぐ後に氷の槍も追随してきて、俺は地面を転がるようにして回避する。
その際、何本かの槍が通行人に突き刺さった。
「それが『勇者』のする事か、ルナセール!」
「お前を殺すためならば全て些事だ! むしろ釣りが来るくらいだ!」
ルナセールも路地裏から飛び出て来て、俺に向かって斬り掛かる。
何合か斬り結ぶと、俺の背中が建物の壁にぶつかる。
好機と見たルナセールは、俺に止めを刺そうと星剣を上段に振りかぶる。
そして星剣が振り下ろされ、俺は『ファーライド』を『マリード』に変化させて受け止める。
しかし振り下ろしの勢いは止められず、『マリード』の刃が俺の左肩に食い込む。……計画通りだ。
「《ウインドブラスト》!」
魔法で突風を巻き起こし、ルナセールを強制的に俺から引き剥がす。
そして今度は俺の方からルナセールに接近し、『マリード』を振り下ろす。
ルナセールは俺の斬戟を見切り、紙一重で俺の斬戟を回避するが、剣先がルナセールの頬を浅く斬った。これで準備は整った。
ルナセールは星剣を振り上げ、俺はあえて左腕を前に出して防御態勢を取る。
星剣の刃が俺の左腕を深く抉り、血がドバドバと溢れ出してくる。
しかし――攻撃を仕掛けたルナセールもまた、俺が攻撃を受けた場所と同じ場所を押さえている。
「な……んだ、これは?」
「……俺とルナセールの痛覚を共有化させてもらった。だから俺を傷付ければ、それと同等のダメージがルナセールにも返ってくるっていう寸法さ」
「小賢しい真似を! ならば、一瞬でケリを付けるまでだ!」
そう言い、ルナセールは俺に再び攻撃を仕掛けてくる。
それを俺は、『マリード』を再び『ファーライド』に変化させて迎え撃った―――。
デスマッチの開幕です。
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