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第53話 失踪

前回のあらすじ

ルナセールを洗脳した

 

 メルシアの見舞いと、ルナセールへの洗脳を行ってから一週間後。

 プロキオンの街に戻ってきて早々、ベルが突然姿を消した―――。




 ◇◇◇◇◇




「そう……西地区にもいなかったのね?」

「はい」

「北地区にもいなかった様だし……いったい何処に……」


 エミールからの報告を受けていたエンデは、難しい顔をする。

 ベルが消えて真っ先に俺に問い質してきたが、俺だって寝耳に水だった。


 ベルは生真面目過ぎるほどに真面目だから、エンデや俺に何も告げずに姿を消す事などあり得ない。

 あり得ないからこそ、そうせざるを得ない状況だったのではとないか? と推察する事は出来る。


 問題は、その状況なのだが……。


「ベルはどうして行方を眩ませたんだろうな? 仕事が嫌になったわけじゃあるまいし」

「そうですね。ベルトーチカは非常に良く働いてくれています。どんな仕事でもそれはもう楽しそうに。私が保障しましょう」


 エミールの言葉は正しいだろう。

 実際、ベルがいなくなった事を知ってとても驚いていたのは俺やエンデよりも、エミールを含む使用人達の方だった。


 となると……。


「……エンデがベルに無理難題を言ったからとかか?」

「そんな事しませんよ。ベルに限らず、我が家の使用人は家族のように思ってますから。そう言うクリスさんこそ、ベルにセクハラとかしたんじゃないんですか?」

「誰がするか」


 そう返すと、エンデは首を傾げる。


「本当ですか? ベルは可愛らしい女の子ですし、こう……ムラムラしたりとかしなかったんですか?」

「……一応仮とは言え、俺とエンデは夫婦なんだぞ? 常識的に考えて、俺が他の女に手を出すとでも思っているのか?」

「それもそうですよね。未だにわたしにも手を出して来ませんし、それにクリスさんがそんな事をするヒトじゃない事も知ってますよ」

「じゃあ何で言ったんだ……」

「可能性の話をしたまでですよ」


 エンデはそう、悪びれる様子も無く宣う。

 すると、メイド長が執務室に入ってきた。


「奥様。ベルの足取りが少しですが掴めました」

「……っ! ベルは何処に行ったの!?」

「ベルはどうやら、東の方角に向かったらしいのです。今朝方、ベルらしき姿を見た住民がいたので、そのヒトに聞き込みをしました」

「東……何も無いですよね?」


 エンデが俺の方に目をやり、そう尋ねてくる。

 俺も頭の中に地図を思い浮かべる。

 確かにコレと言ったモノは無いし、隣街に行くにしてもベルなら必ず一言残してから行く。近隣ならば、だが……。


「いや……あるな」

「えっ? ありました?」

「ああ。ここからずっと東に行った所に、国内最大規模の森林地帯があったろう?」

「ええ。ルクス大森林ですよね?」

「ベルはたぶん、そこに行ったんじゃないか?」

「「「???」」」


 俺の言葉に、エンデだけでなくエミール達も首を傾げている。


「何でですか?」

「あの森の中には、廃墟になった古代都市がある。そしてそこを根城にしている暗殺者組織があると前に聞いた事がある」

「それじゃあ……ベルは里帰りしていると?」

「どうだろうな……」


 ちなみにベルが元暗殺者だというのは、すでにこの家の者には知れ渡っている。と言うかベル自身が告白していた。

 だからエミールもメイド長も、特段驚いた様子は見せていなかった。


「……? 何か気になる事でも?」

「いや……何でもない」


 俺は首を左右に振り、はぐらかす。

 だが俺の頭の中には、一つの考えが浮かんでいた。


 もしその組織から、()()()()()()()()()()()()()()()()()、ベルは一体どうするのだろうか?


 その答えは、ベルの行動に出ている気がした―――。




 ◇◇◇◇◇




 何も言わずに屋敷を飛び出した事に申し訳ない気持ちを抱きつつも、私は組織の拠点を一直線に目指していた。


 私が所属している……いや、していた暗殺者組織に名前は無い。

 しかしだからこそ、あらゆる所からの暗殺依頼が止む事無く入ってくる。

 私がダール子爵の駒として暗殺を行っていたのも、子爵から依頼を持ち掛けられた組織からの命令だった。


 そんな組織から昨日突然、今の主であるクリスさんとエンデさんの暗殺命令が言い渡された。

 これには流石に同意出来ず、組織の長に直談判するために組織の拠点へと向かっていた。


 私達暗殺者には、どんな命令でも一度だけ直談判出来る権利がある。

 だけど殆どの場合、担当する暗殺者が他の者に変わり、直談判した暗殺者は消される。


 だから実質、直談判は自分の命を天秤に賭けて行う、文字通りの決死の行動で、有って無いような権利だった。

 分が悪いどころの話じゃなく、直談判すればほぼほぼ私は生きては屋敷には帰れない。


 それで構わないと思う。

 昔の私だったら即座に行動に移していたけど、今の私はあの屋敷での暖かくて幸せな思い出がある。

 その思い出を与えてくれたヒト達と場所を守るためなら、この命は惜しくは無い。


 そんな想いを胸に秘め、私は風よりも速く組織の拠点へと向かっていた―――。






暗殺者は自己犠牲を厭わないという、作者の勝手なイメージ。




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