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第52話 堕ちる『勇者』

前回のあらすじ

メルシアの見舞いに行った

 

 前回も泊まった宿屋へと戻り、俺とエンデは向かい合う形でソファーに座る。

 ベルは部屋に備え付けのキッチンへと向かい、水を沸かして紅茶を淹れる準備をしていた。


 ちなみにこの部屋はこの宿屋でも一番の大きさで、その分値段は張るが……腐っても伯爵家、財力はあった。

 それを抜きにしても、宿屋の主人の厚意で割安で宿泊させてもらっていた。


「まさかあそこまで非道い状態だったとは……」

「本当にな。犯人の顔が見てみたい」

「……それをクリスさんが言うんですか?」

「冗談だ。……エンデ、俺は夜に少し出掛ける」

「花街にでも行くんですか?」


 花街というのは、まあ……一言で言ってしまえば風俗店が建ち並ぶ区画の事だ。

 そこそこ大きな規模の街なら、大なり小なり必ずと言っていいほど存在している。


 少し俗っぽいエンデの言葉を、俺は肩を竦めながら否定する。


「そんな所に行くハズが無いだろう。グランじゃあるまいし」

「それじゃあ、いったいどんな理由で?」

「今はまだ秘密だ」

「……分かりました。これ以上の追及は今はしません」

「そうか」


 そこで丁度、ベルが俺達に紅茶を運んできた―――。




 ◇◇◇◇◇




 その日の夜。

 例の病室に併設されている、入院患者の家族用の宿泊施設に音も無く侵入する。

 そしてルナセールが泊まっている部屋を目指す。


 廊下はシン……と静まり返っていて、俺の音を極力殺した足音しか聞こえていない。

 もしもの時のために、『クライムシン』は『スロウベル』の状態ですでに持っていた。

 まあ、黒いマントを羽織っているから、もし見掛けられたりしても幽霊か何かと誤解されないでもない気がするが……。


 三階まで上がり、角部屋を目指す。

 魔力探知の魔法で、ルナセールがそこにいる事はすでに把握していた。


 そして部屋にたどり着き、いきなりドアを開ける。

 すると中にいたルナセールは、俺の侵入に驚いた様子だった。


「だ、誰だ!?」

()だよ、ルナセール」


 俺はそう言って、目深に被っていたフードを外す。


「クリス殿? いや、まさか……」

「そのまさかさ。僕はエドだ」

「何故エドがここにいる! エドはあの時、確かに殺したハズだ!」

「そうだよ、僕は確かに死んでいる。だからルナセールの前に、メルシアをあんな目に遭わせた連中の事を教えようとこうして姿を現したんだ」


 そう言いつつ、俺は後ろ手に『スロウベル』を杖からハンマーへと変化させる。


 嫉槌『レンヴィア』。

 その能力は、対象の負の感情に漬け込み、自分の都合が良いように洗脳するといったモノだった。


 閑話休題。

 俺がそう言うと、ルナセールは身を乗り出してくる。


「知っているのか、エド!?」

「ああ、知ってるよ。僕は死んでからも、幽体となってメルシアの事を見守ってたからね。メルシアをあんな目に遭わせた連中もこの目で確認している」

「いったい何処の誰なんだ!? 教えてくれ、エド!」


 その言葉を待っていた。

 ここから洗脳の開始だ。


「いいとも。僕を殺したとはいえ、かつての仲間の頼みだ。教えるとも。……【メルシアをあんな目に遭わせた連中は、この街の住民だ。奴等はルナセールとメルシアの仲睦まじい様子が気に入らなくて、ルナセールへの腹いせとしてメルシアをあんな目に遭わせた。それも複数人で。中にはメルシアを……いや、メルシアとルナシアを集団で犯した奴等もいたなぁ】」

「……っ! 今すぐにでも殺してやる!!」


 激昂するルナセールを、俺は表面上は宥めすかす。


「【落ち着け、ルナセール。奴等は集団で……街ぐるみでメルシアをあんな目に遭わせた。真正面から挑んでも返り討ちに遭うどころか、ルナセールも理由を付けて消されかねない。だってこの街の領主が率先して……というか主犯格なんだから。そうでもなければ、一晩であんな惨劇は起こせないよ。だから……一人一人暗殺していくしかない】」

「暗殺、だと……?」

「【そう、暗殺だ。表立って報復するとすぐに足が着くけど、一人一人暗殺していけばそんなに騒ぎにはならない。いいかい? 一人一人というのが肝なんだ】」

「そうか……一度に大勢殺されれば事件性を疑われるが、一人だけならそんなに話題にならないのか」


 頭の回転が早いルナセールのその言葉に、俺は肯定するように頷く。


「【そういう事。ついでに言えば、暗殺するペースは不定期の方が良いかもね。そうする事で、事件の発覚は遅れるし、関連性があるとは気付かれづらい】」

「分かった。エドの言う通りにしよう」

「【任せたよ、ルナセール。僕はもう死んでるから手は出せないけど、本当はメルシアが非道い目に遭っている時に助けられなかった事がすごく悔しかったんだ。だから……ルナセール。僕の分までこの悔しさを晴らしてくれ】」

「任せろ、エド。『勇者』の名に懸けて、お前の無念も必ず晴らしてやる」

「ああ、頼むよ、ルナセール」


 本当に、心の底から頼む。

 堕ちる所まで堕ちてくれ、ルナセール。

 それがお前への復讐だ。


 そう思いながら、最後の仕上げに『スロウベル』で一連の会話を夢の中での出来事と記憶を改竄してから、ルナセールの前から去って行った―――。






【】←この部分の台詞が、ルナセールに洗脳を掛けていた箇所です。


ちなみに、

嫉槌『レンヴィア』→嫉妬/エンヴィー+レヴィアタン

です。




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