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第46話 狂宴の始まり

筆が乗ってしまっていつもより少し長いです。




前回のあらすじ

メルシアに忘れ物を届ける口実で会おう

 

 応接室に入ると、そこにはすでにメルシアの姿があった。


「久しぶりですね、クリスさん」

「ええ」

「あたしに用事があるって聞いたけど……ああ。貴女は下がってていいわよ」

「では」


 メイドは一礼すると、応接室を出て行った。

 俺も予め決めていた通り、ベルに命令を下す。


「ベル。お前も下がっていろ」

「畏まりました。何かございましたらすぐにお呼び下さい。では」


 そう言って一礼してから、ベルも応接室を出て行く。

 そうして残ったのは、俺とメルシアの二人だけになった。


「用事というのは……コレです。当家に忘れていったようでして、お届けに参りました」

「あら……ありがとうございます」


 魔法袋の中から取り出したワンピースを、メルシアは受け取る……いや、受け取ろうとした。

 メルシアはそのまま、俺に抱き着いてくる。

 その衝撃で、ワンピースを床に落としてしまった。


「……エド。エドなんでしょう? 今は二人っきりなのよ? 正直に答えて」

「………………そうだよ。()はエドだ」


 防音・防聴・防視の三重の結界を張ってから、俺は昔の一人称と口調でそう答える。

 するとメルシアは顔を上げ、顔を輝かせる。


「やっぱり! ああ、ようやく認めてくれた!」

「今は二人っきりだからね。正直に答えるさ」

「生きてたのなら、どうして知らせてくれなかったの? とても心配してたのよ?」

「状況が状況だったからね」

「詳しく教えてくれるのよね?」

「うん」


 そう答え、俺とメルシアは並んでソファーに座る。

 メルシアは俺がようやくエドと認めた事が嬉しいのか、昔恋人関係だった時みたいに腕を絡ませてきた。

 吐き気がする。嫌悪感が全身を駆け巡る。鳥肌が立って気持ち悪い。


 そんな思いを表に出さず、俺は表面上は友好的にあの時の状況を少し脚色して説明する。


「十年前のあの時、僕はある冒険者達に襲われたんだ。それで『イフの大迷宮』の深層に落ちちゃったんだ。幸い一命をとりとめたけど、そこから地上に上がってくるまで十年の歳月を費やしてしまったんだ。ごめん、すぐに無事だって知らせられなくて……」

「別に謝る事じゃないわよ。それに謝るのはあたしの方だし……」

「……ルナセールと結婚した事?」

「うん……」


 メルシアは頷き、顔を伏せる。

 ルナセールと結婚した経緯はもう聞かされている。

 だからこれ以上追及しようとは思わない。あくまでこの件は、だが……。


「仕方ない事だとは僕も思うよ。でもそれ以上に、メルシアが今幸せならそれでいいよ、僕は」


 幸せなら幸せな分、不幸に叩き落とした時の落差が大きくなるからだ。


「結婚して子供がいる今の生活も幸せだけど……でもやっぱり、あたしはエドと一緒になりたい。死んだと思ったあの時からあたしは変わらず、エドの事をずっと想っていたから。だから……」

「今はお互いに伴侶がいる身なのに?」

「ルナセールとは離婚するし、あたしがエンデさんからエドを奪ってみせる」


 そう指摘したにも関わらず、メルシアは即答する。

 そして俺の方に身体を寄せ、顔を近付けてくる。

 お互いの唇が重なる――寸前に、手で遮る。

 それからそのまま、メルシアの身体を押し返す。


「……何で?」

「今はその時じゃないから。でもそうだなぁ……今日僕達はこの街の宿屋に泊まるから、夜中にでもこっそりメルシアに会いに来るよ」

「……それって夜這いってこと?」

「そうなるね」


 そう答えると、メルシアは顔を綻ばせる。


「それじゃあ、夜を楽しみにしてるわね。あたしの部屋は正面から見て二階の角部屋よ。裏口はいつも開いてるから、簡単に入れると思うわ」

「うん、分かった」


 ああ、楽しみだ。

 この手でようやく、メルシアに復讐が出来ると思うと―――。




 ◇◇◇◇◇




 夕方頃から天気が崩れ、夜になる頃には本降りの雨が降っていた。雷も時々鳴っている。

 そんな中、俺はベルを連れ、闇夜に紛れながらメルシアがいる別荘へと向かっていた。

 ベルを連れてきたのは別荘にいる使用人の無力化をしてもらうのと、ある仕込みをしてもらうためだった。


 誰にも気付かれることなく、別荘まで簡単にたどり着く。

 そして昼間メルシアに言われた通り、裏口から中に入る。

 中の灯りはすでに消されており、シンと静まり返っている。


 俺とベルは物音を立てず、中を進んでいく。

 階段の所まで来たところで、俺はベルに軽く指示を出す。


「ベル。手筈通りに」

「畏まりました」


 そう言って頷くと、ベルは一切の物音を立てずに俺の前から去って行った。流石元暗殺者。

 それから俺は階段を登り、二階の角部屋へと向かう。

 途中ヒトの気配があったから、催眠魔法で朝までどんな物音を立てても起きない深い眠りに就いてもらった。


 そうして、目的の角部屋へとやって来る。

 ドアの隙間からは、中の灯りが漏れていた。

 律儀にも待っていたらしい。これから己の身に降り掛かる出来事を知らずに……。


 コン、ココン、コンと小さくノックをする。

 このノックは俺が来た事を知らせる、メルシアとの間でだけ通じる合図だった。

 するとすぐにドアが開き、中からメルシアが姿を現す。


「さあ、中に入って。気付かれない内に」

「うん」


 誰も気付かないし気付けない事を秘密にしながら、メルシアの部屋の中に足を踏み入れる。

 すると後ろでカチャンと、鍵の閉まる音が聞こえた。

 それでメルシアの運命は決定付けられた。


「エド……ずっと待ってたわ」


 そう言い、メルシアが背中側から抱き着いてくる。

 俺は振り返り、メルシアの肩に手を置く。


 メルシアは何かを期待しているのか、潤んだ瞳で俺の顔を見つめていた。

 そんなメルシアに対して俺はニッコリと微笑み――膝蹴りをメルシアの腹に喰らわせる。


「ガッ……えっ??? エド……ゲホッ、何で……???」


 腹を押さえながら蹲り、さっきとは別の意味で瞳を潤ませながらそう尋ねてくる。

 そんなメルシアに対して、俺は今度は回し蹴りを喰らわせる。

 メルシアの身体はゴロゴロと転がって行き、壁に当たった所でようやく止まる。


「ガッ……!」

「何で? 本気で言ってるのか?」


 そう言いながら、俺は『クライムシン』を取り出す。形態は『ファーライド』だ。

 そしてその剣で、メルシアの右手と床を深く縫い付ける。


「……っ! ああああああああああああああああああっ!!」

「それはお前に罪があるからだ」

「つ……罪ですって……?」

「そうだ。だから罰を与えないとだろう?」


 すると、ココン、コン、ココンとドアがノックされた。

 良いタイミングだ。


 俺はドアに近付き、鍵を開けてからドアを開ける。

 すると予想通りベルの姿と、彼女に小脇に抱えられ、布で猿ぐつわをされているルナシアの姿があった。


「お待たせしました」

「いや。丁度良いタイミングだ」


 ベルを中に招き、再び鍵を閉める。


「い……いったい何をする気なの? ルナシアに何かしたらただじゃ……」

「俺達は何もしないさ。……《バインド》」


 俺はベルからルナシアを受け取り、胸倉を掴んで壁に押し付ける。

 そして拘束魔法で、ルナシアの身体を壁に縫い付ける。


 その後ベルから短剣を受け取り、メルシアの方に放り投げる。

 短剣はクルクルと放物線を描き、メルシアの目の前に突き立つ。


「こ……これは?」

「それで自分の娘を……ルナシアを、殺せ。そうしたら、メルシアがルナセールと結婚した事を水に流そう」

「お……おかしいわよ! それで何でルナシアを殺さなくちゃいけないの!?」

「『子供は夫婦の愛の結晶』。いやぁ、良い言葉だ。……だが逆に言えば、愛が無ければ子供は産まれないという事になる。メルシアはルナセールを愛していないんだろう? なら望んで産んだわけじゃないルナシアを殺せるハズだ。……今も()の事が好きなら、娘の一人くらい殺す事は簡単でしょ?」


 最後はあえてエドの口調で言い、一旦メルシアの右手から『ファーライド』を引き抜く。

 メルシアはゆっくりとした動作で両手で短剣を握り締め、ふらふらとした足取りでルナシアに近付く。


 ルナシアは意識までは失っておらず、声にならない悲鳴を上げながら首を激しく左右に振る。

 そしてその目から、涙が零れ落ちる。

 その涙を見て、メルシアは膝から崩れ落ちた。


「……どうした?」

「駄目……出来ないわよ……あたしにルナシアを殺す事は……だってルナシアの事は、母親として愛しているんだもの……」

「そうか」


 俺はそう答え、メルシアの手から短剣を奪い去る。

 メルシアは一縷の望みが見えたみたいな表情で見上げてくるが……何を勘違いしているんだ?


 再び『ファーライド』をメルシアの手を、今度は両手を床と深く縫い付ける。

 そしてルナシアへと近付く。


「な……何をする気!?」

「何って……()()さ」


 メルシアの問い掛けにそう答え、俺は自然な動作で――ポキリと、ルナシアの左人差し指を折った―――。






一番効果がある復讐は、そのヒトが一番大事にしているモノを徹底的に容赦無く、完膚無きにまで破壊し尽くす事だと思うんですよね。




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― 新着の感想 ―
[一言] たとえレイプでできた子でも産んでしまえば女性からするとかけがえの無い存在になるみたいですからね 男の自分には分かりませんが子孫保護本能的なものがあるんでしょうね てかメルシアが節操なくて残念…
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