第36話 初めての海
前回のあらすじ
エンデは最後までクリス/エドを支え続ける
プロキオンの街を出発してから二日ほどで、デネブの街へとたどり着いた。
国内有数の観光地ということもあってか、ヒトだかりがそこかしこに形成されていた。
そんな中、俺達の馬車はこの街の領主―つまりギルの屋敷へと向かっていた。
この街に滞在する間、ギルの屋敷で世話になることが決まっていた。
可能ならギルの弱みを何かしら見つけて握っておきたいが……まあ、ヤツがそんな隙を見せるとは思えない。
だから大人しくしていようとは思う。もちろんチャンスを見つけたら問答無用で握るが……。
そんなこんなで、ギルの屋敷にたどり着く。
屋敷の中から使用人が現れ、俺とエンデは応接室へと通される。
紅茶も出されつつ待たされていると、しばらくしてこの屋敷の主が姿を現す。
「お待たせして申し訳ない」
「いえいえ。こちらこそ、お忙しい中お招き頂いて感謝しておりますわ」
エンデはソファーから立ち上がり、ギルと握手を交わす。
ギルはエンデと握手を交わした後、俺とも握手を交わす。
「クリスさんも。よく来てくれたね。嬉しいよ」
「せっかくのお誘いですからね。それにエンデもとても楽しみにしていましたよ」
「それは領主冥利に尽きるね」
そう言葉を交わし、俺達はソファーに座り直す。
「では改めて……ようこそデネブの街へ。歓迎するよ。この屋敷にいる間は、我が家のように過ごされるといい」
「ご厚意、感謝致します」
「お二人の部屋は二階の客室を用意させてもらったよ。それとそちらの従者の分の部屋もね」
「何から何までありがとうございます」
「こっちは招いてる立場だからね。出来る限りのもてなしはさせてもらうさ」
ギルがそう言うと、ベルが応接室に入ってきた。
「奥様。お荷物はお部屋に運んでおきました」
「ありがとう、ベル」
「はい。私は部屋で待機しておりますので、何かご用がございましたら何時でも呼んで下さい」
そう言ってベルは一礼すると、応接室から出て行った。
すると、一連のやり取りを見ていたギルが、感嘆の息を零す。
「いやはや……良く出来た従者だね」
「ええ。わたしの自慢の従者の一人です」
「ボクにもそんな従者が欲しかったよ。……っと、そうだ。どうせならお二人でビーチの散策でも向かわれては? きっと気に入るよ」
「……どうしますか?」
エンデはそう尋ねてくるが、目が「今すぐ行きましょう! 今すぐです!」と雄弁に物語っていた。
そんなに海が見たいのか……。
「……分かった。行ってみよう」
「では早速向かわせて頂きますね」
「うん。どうか楽しんで来て欲しい」
「はい。……行きましょう、クリスさん」
エンデはソファーから立ち上がるや否や、俺の手を掴んで応接室から出て行った―――。
◇◇◇◇◇
「わぁ〜……」
エンデはそう、感嘆の声を上げる。
初めての海を目の当たりにして、テンションが上がっているのだろう。
そんなエンデは、日射し対策として麦わら帽子を被り、ビーチサンダルを履いていた。
俺も半袖のYシャツの第二ボタンまで開けていた。
エンデは海の中に足を踏み入れ、手を浸ける。
「わっ。冷たくて気持ちいいですよ、クリスさん!」
「そうか。それは良かったな」
「クリスさんも入ったらどうですか?」
「俺は普通の革靴だから遠慮しておく」
「そうですか……」
それから俺達は、海岸沿いにしばらく歩いていく。
ギルが所有するプライベートビーチだからか、人影は無かった。
二人共無言ではあるが、エンデは初めての海でテンションが高いのか、バシャバシャと音を立てながら歩いている。
「きゃっ!?」
すると、エンデの小さな悲鳴が聞こえたと思ったら、バシャン! という音と水飛沫が上がる。
見ると、エンデは転んでずぶ濡れになっていた。
白いワンピースを着ていたせいで、下着が透けてしまっている。
飛んできた麦わら帽子をキャッチし、エンデを起き上がらせるために俺も海の中に足を浸ける。
「ったく……大丈夫か?」
「あ……はい。ありがとうございます……」
俺が手を差し伸べると、エンデは顔を赤くしながらもその手を取って立ち上がる。
そしてエンデに麦わら帽子を返す。
「とりあえずソレで前を隠しておけ。気休め程度にはなる」
「はい……」
エンデは麦わら帽子を被り直すことなく、ソレで胸元を隠す。
予定より少し早いが、俺達はギルの屋敷へと戻って行った―――。
海で濡れ透けはお約束(偏見)。
そして海でのお約束と言えばもう一つ……。
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