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第35話 独白:エンデ

前回のあらすじ

そうだ、海に行こう

 

 夢を、見ている。

 だけどその夢は、十年以上前に確かにあった出来事を回想しているだけだった。


 その時のわたしは、お母様が亡くなった哀しみで毎日泣いていた。

 お母様は元々身体は弱く、いつも何かしらの病気を患っていた。

 だから、何時亡くなってもおかしくはない状況だった。


 でも、体調の良い日もほんのちょっとだけど確かにあって、そんな日はわたしに絵本の読み聞かせや髪を結ってくれたりしてくれた。


 そんな優しい、大好きだったお母様が亡くなり、わたしは泣き続けるようになった。

 お父様もわたしのことを心配してくれてはいたけど、領主としての仕事もあってかわたしに構う時間はほとんど無かった。


「うっ……ひっく……」

「どうかしたの?」


 屋敷を抜け出し、公園のベンチに腰掛け泣いていると、一人の男性が心配そうにわたしに声を掛けてきた。

 そのヒトは黒い髪に青い瞳、それと魔法使いのヒトが使う杖を持っていた。


 そう――わたしは幼い頃に、クリスさん……エド様と出逢っていた。


 わたしは泣きじゃくりながらも、泣いている理由を話す。

 エド様はわたしの隣に座り、静かにわたしの話に耳を傾けてくれていた。


「そっか、お母さんが……確かに家族の死は辛いよね」

「うん……」


 お母様との思い出が脳内に浮かび上がり、また涙が溢れてくる。

 そんなわたしを慰めるように、エド様は続ける。


「でも、今のキミの姿を見て、天国にいるキミのお母さんは喜ぶと思う?」

「……思わないです」

「なら、前を向かないと。親しいヒトが亡くなったのを哀しむのも悼むのも全然良いとは僕は思うよ。でもその哀しみに引っ張られて前進しなくなることはいけないこと……絶対にしちゃいけないことだと思うんだ。それじゃあ先立ったヒトが浮かばれない。だからどんなに辛くても、哀しくても、一歩前に踏み出さなきゃいけないんだ。僕はそう思うよ。……今のキミだと理解しづらいと思うけどね」


 エド様はそう言うと、ベンチから立ち上がる。


「僕はそろそろ行くよ。仲間を待たせてるからね。……キミも自分で家に帰れるかい?」

「はい……」

「……大丈夫そうだね。それじゃあね」


 エド様はそう言って、わたしの前から立ち去って行った。

 それからわたしは、エド様の言葉を胸に、お母様の死からなんとか立ち直ることが出来た。

 そしていつかエド様と再会した時に胸を張ってお礼が言えるよう、色んなことを頑張るようになった。


 あの後、わたしにアドバイスをくれた人物がエド様だったということは調べて分かった。というかお父様が知っていた。

 だからこそ、ある時にエド様が『イフの大迷宮』で亡くなったとのニュースが入ってきた時は、目の前が真っ暗になりそうだった。


 恩返しが出来なくなったと思ったけど、あの時のアドバイスを思い出し、前に進むことを決めた。

 きっとエド様も天国で見守ってくれていると信じて……。


 そう思っていたのに、死んだと思っていたのに、十年の時を越えてエド様と再会した。

 その時にはもう、エド様はクリスと名乗り、前に出逢った時とは似ても似つかないほどに変わり果てた姿だった。


 でもその理由は、エド様……クリスさんの口から直接事情を聞いたことで解決した。

 クリスさんに非道い目に会わせた勇者パーティーのヒト達に憤りを感じなかったと言えば嘘になるけど、それよりもわたしの恩返ししたいという気持ちが上回った。


 だからあんなこと……契約結婚しようだなどと言ってのけられた。……冷静になって考えても、とても恥ずかしいことをしたという自覚はある。


 ここでクリスさんを見送ったら恩返しする機会は永遠にやって来ないと確信して、わたしはそれっぽい理由を並べ立ててクリスさんに契約結婚するメリットがあることを説いた。

 その結果、クリスさんはわたしの提案に乗ってくれた。……心の中で跳び跳ねるくらいに喜んだことはナイショ。


 それからはわたし達は偽りの夫婦として生活を送るようになった。

 クリスさんはわたしの領主としての仕事を手伝ってくれて、わたしもクリスさんの復讐のために出来る限りのサポートはした。


 クリスさんのやっていることも、わたしのやっていることも人道に反してはいるのだろう。

 けれどもわたしにはクリスさんの復讐を止める資格は無いし、止めようだなんて微塵も思ってはいない。

 見方によったら、わたしは悪女と呼ばれるのだろう。


 それで構わない。

 偽りの夫婦関係であろうとも、クリスさんがわたしのことを覚えていなくとも、わたしはクリスさんを最後まで支え続けると決めている。

 見返りなんて最初から期待していないし、必要無い。


 それがあの日、わたしに前に進む勇気をくれた恩人に対する、最大の恩返しだと思うから―――。






健気さはヒロインの特権(偏見)。




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