第29話 避暑地
前回のあらすじ
ルミナが処刑された
ルミナの処刑から一ヶ月が経過した。
当然だが、俺がグラン殺害の真犯人だとは誰にも気付かれていない。
グランが死んだことでベガの街の領主が一時的にいなくなったが、この度ドーラが新しい領主に任命された。
後見人として、俺も時々ベガの街の様子を伺いに行っていた。
グランとルミナ亡き後のダール家の後見人になること。
それが、エンデに話していた「例の件」の詳細だった。
ドーラ達は俺に都合が良いように動いてくれる駒と成り下がったから、実質ダール家を乗っ取ったと言ってもいい。
そして俺は、次の復讐に取り掛かる準備をしていた―――。
◇◇◇◇◇
馬車から降りると、高原らしい爽やかな空気が肌を撫でる。
街中と違い、幾分か暑さが和らいでいるような気がする。
俺はエンデに連れられ、モンテーロ家の別荘がある避暑地へとやって来ていた。
エンデによると、毎年この時期になると長期休暇も兼ねて避暑地を訪れるらしい。
長期と言っても、一週間ほどの滞在期間ではあるが……。
「ここの景色は変わりませんね」
馬車から降りたエンデが、そう口にする。
エンデの格好は、白のノースリーブワンピースに、同色のツバ広の帽子という、誰がどう見ても貴族令嬢のような見た目だった。
まあ、こんなでも一つの街の領主ではあるが……。
別荘の方も、プロキオンの街にある本邸よりは一回りくらい小さいが、それでも大きいことには変わらない。
それから、庭先の花壇は手入れされているのか、色とりどりの花が咲き誇っていた。
「荷物は中に運んでおきます」
「ええ、お願いね、ベル」
当然の如く俺達の護衛として付いてきたベルは馬車の荷台から、俺とエンデの荷物を下ろす。
そして別荘の方へと向かっていくベルを眺めていると、エンデが話し掛けてくる。
「クリスさん。わたしと一緒に少し散歩しませんか?」
「どうしてだ?」
「……少しでも夫婦らしいところを見せつけておかないと、別荘に勤める使用人に怪しまれるかもしれないからですよ」
俺の方に身体を寄せ、そう呟く。
確かに見掛けだけでも、夫婦らしいところは見せつけておいた方がいい。
俺に疑いの目が向けられないように。
「……そうだな」
俺はそう答え、エンデの手を握る。
俺の突然の行動に、エンデは頬を紅潮させる。
「クリスさん……突然握ってこないでください。ビックリしますから……」
「そうか。今度から気を付けよう。……それで、オススメの散歩コースとかはあるのか?」
「はい、案内しますね」
落ち着きを取り戻したエンデに手を引かれ、俺は避暑地を散歩することになった―――。
◇◇◇◇◇
木漏れ日が射す並木道を歩いていると、意外な人物と遭遇した。
「あれ。モンテーロ伯爵とクリスさんじゃないか」
「ご機嫌麗しゅう」
ギルと、彼と腕を組んで歩いているルイスとばったりと出くわした。
「こんにちは、アイギス子爵。ルイス夫人も」
「ギルフォード殿とこんな場所で出会うとは……なんたる偶然でしょうか」
「本当にね。……そっちも夫婦水入らずでデートかい?」
ギルはそう言い、俺達の繋いでいる手に視線を向ける。
それを受け、エンデは少し慌てた様子を見せる。
「えっと、これは……」
「私達はまだ新婚ですからね。エンデにお願いしてこの辺りの説明がてら、散歩デートをしていたところです」
「じゃあ、クリスさんからデートに誘ったってことかい?」
「そうですね」
事実とはまるっきり異なるが、別に悪影響はない。
「アツアツだね。これも新婚だからかな?」
「アツアツなのは、そちらも同じでは?」
「まあ、否定はしないよ。……それで、二人共何処かに行くとかの予定は?」
「……? いえ……ぶらぶらと散歩するだけですが……」
ギルの質問の意図が分からず、俺は内心首を傾げる。
「それじゃあ、ボクの別荘に案内してあげるよ」
「それは……突然お邪魔してご迷惑ではないのですか?」
「大丈夫だよ。それに避暑地とは言え暑いことに変わりはないから、水分補給も大事だよ?」
暗にお茶のお誘いを受けているらしい。
俺はエンデの方に目を向けると、彼女は無言でコクリと頷く。
「それではギルフォード殿のお言葉に甘えさせていただきます」
「分かった。それじゃあ付いてきて……と言っても、すぐそこなんだけどね」
そう言うギルの後を、俺達は追う。
ギルの弱点となる話が聞ければいいが……あまり期待しないでおこう―――。
貴族と言えば別荘。別荘と言えば避暑地。
そして避暑地と言えば……身元不明の白骨化した死体!(←は?)
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