第17話 噂
前回のあらすじ
晩餐会は無事終了
モンテーロ伯爵領内にある、とある村。
平穏そのものであるこの村を、野盗が襲撃していた。そう、していた。
野盗は一人残らず絶命しており、屍の中にたった一人のニンゲンが立っている。
そのニンゲンは黒いローブを身に纏い、フードを目深に被っている。
そして素顔を隠すように、白い仮面を着けている。
この村の村長はその人物に怯えつつも、礼を述べる。
「ど……何処のどなたか存じ上げませんが、助けていただきありがとうございます」
「礼はいらない。自分に出来ることをしたまでだ」
黒衣の人物は男か女かも分からない声音でそう言うと、村人の前から立ち去って行った―――。
◇◇◇◇◇
「……というようなことが最近領内で起きてるんですよ」
グランの屋敷での晩餐会から一週間。
エンデの仕事を手伝っていると、最近領内で起きている摩訶不思議な出来事を聞かされた。
村が野盗に襲われていると、何処からともなく黒衣の人物が現れ、野盗を撃退していくらしい。
「なんでも、助けられた村人達曰く、その黒衣の人物は魔法の扱いにとても長けていたとか」
「……初めに言っておくが、俺じゃないからな?」
「本当ですか?」
「ああ」
「そういうことにしておきますね」
何とも言えない笑みを浮かべるエンデだが、俺には本当に心当たりがない。
俺にそんな余計なことをする時間はないし、ベルにも命じてはいない。
本当に、俺は何にも知らない。
すると、ベルがノックをしてから執務室に入ってきた。
「奥様、少し休憩されては如何でしょうか?」
「そうね……もう少しで一区切りつくから、それから休憩にしましょう」
エンデはそう言い、書類と向き直る。
俺はソファーに腰掛けつつ、さっき聞いたエンデの話についてベルに尋ねる。
「ベル。ここ最近領内を賑わせてる黒衣の人物について心当たりはあるか?」
「黒衣の人物、ですか……?」
「ああ」
ベルが首を傾げているので、俺はさっきの話をベルにも話す。
すると彼女はさらに首を傾げる。
「いえ……私にも全く心当たりがありません。その人物の名前などは分からないのですか?」
「どうなんだ、エンデ?」
「名前はおろか、性別すらも分からなかったらしいです」
「そうか……」
エンデは書類から顔を上げずに答える。
その人物のことは気に留めておいたいい気がする。
理屈ではなく、直感的にそう思う。
「うっ……う〜〜〜ん。さて、休憩にしましょうか」
エンデは軽く伸びをすると、俺の向かいのソファーにやって来る。
まさかその、黒衣の人物と出くわすことになるとは、この時の俺は夢にも思っていなかった―――。
◇◇◇◇◇
「ふぅ……」
近くの丸太に腰掛け、仮面を外す。
仮面には変声機能も付いてるから、声からぼくの性別がバレることは微塵もなかった。
それにこの黒いローブにも認識阻害効果があるから、体格からでもバレることはない。
ぼく―リアは、長く拠点にしていた『イフの大迷宮』から出ていた。
その理由は、エドの復讐の行く末を見守るためだった。
今更彼の復讐を止めようとは思わない。
ただ、彼が復讐の果てに何を成すのか気になっただけだ。
その為に地上に出てきたけど、その時に村が野盗に襲われている場面に出くわした。
黙って見過ごすのも寝覚めが悪いから、変装をして野盗を一人残らず始末した。
久しぶりにニンゲン相手に魔法を使ったけど、全く衰えていないようで安心した。
むしろ、長い間深層の魔物相手にしか魔法を使っていなかったから、威力の加減に四苦八苦していたくらいだった。
そのせいで村人にいらない恐怖心を植え付けた気がするけど……今更だ。
そんなことを思いつつ、ぼくはこれからの行動方針を考える。
「まずは情報収集、かな? 世間知らずもいいとこだし」
そうと決まれば早速行動に移そう。
仮面は魔法袋の中に仕舞いつつ、フードを目深に被って人里がある方へと向かって行った―――。
リア再登場です。
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