第16話 晩餐会 後編
前回のあらすじ
ファリナの話を聞いた
食堂に着くと、そこにはすでにグランの姿があった。
彼の他に、彼の妻達の姿もある。
「ようこそお越しになられた、モンテーロ伯爵、クリス殿」
「こちらこそお招きいただき、誠にありがとうございます」
エンデはドレスの裾を掴み、優雅に会釈する。
「改めて紹介しよう。我が本妻のルミナだ」
「ルミナです。以後お見知りおきを」
ルミナはすみれ色の髪を三つ編みにし、右肩から前に垂らしていた。
ファリナの情報通り、彼女は人間族のようだった。
「次が側室達になるが……ドーラ、レイラ、ミーナだ。ファリナとはすでに顔見知りだったか?」
「そうですね」
この問答だけで、グランが側室にそれほど興味を持っていないことが分かる。
あの夜会で、俺達はすでにファリナと話していたのだから。
「ドーラだ」
「レイラです」
「ミーナと申します」
ファリナを除く側室三人が、それぞれ挨拶をする。
ドーラは赤髪のショートカットで、レイラは金髪のセミロング、ミーナは青髪のロングヘアだった。
グランが妻に迎え入れたこともあってか、五人の妻全員が見目麗しい見た目をしていた。
「立ち話も何だ。席に着こうではないか。料理には期待してくれていい。我が家のシェフが腕を奮ってくれた」
「それは楽しみですね」
そう答えつつ、俺達は席に座る。
グランの言葉は誇張表現でも何でもなく、思わず舌鼓を打ちたくなるほどに絶品だった。
実際、エンデは舌鼓を打ってシェフの腕を称賛していた。
晩餐会のコース料理がメインディッシュにまで進んだところで、グランが俺に尋ねてくる。
「ところで……クリス殿。夜会では見事な体捌きで賊を組み伏せていたが……何処かで体術などを習われたのか?」
「私はこんな見た目ですからね。幼少の頃はそれが原因でよく虐められていたのですよ。それを不憫に思ったのか、父が知り合いに話を付けて私を鍛えるようお願いしたのです。と言っても、護身術程度の技術ではありますが」
前半は真っ赤な嘘だけど、後半はあながち間違いじゃない。
冒険者に成り立ての頃、俺の魔法の先生の知り合いのヒトに実際に護身術を習っていた。
勇者パーティーに入ってからは近接戦闘自体することが稀だったから、あの三人に俺の護身術のことはバレてはいない。
「そうか……大分苦労をなされたようだな」
「いえ。今となってはそれほど酷い過去でもないですよ。辛い過去があったからこそ、今はエンデという妻に巡り逢えたのですから。今は毎日が幸せですよ」
俺のその言葉に、エンデがピクッと反応する。
エンデには俺の台詞が白々しく聞こえたのだろう。実際その通りではあるが……。
エンデの反応を目敏く確認したグランが、彼女に尋ねる。
「如何なされた、モンテーロ伯爵?」
「いえ……クリスさんは家ではそんなことを仰らないので、少しビックリしただけです」
「そうか……下世話だとは思うが、愛は常に囁いていた方がいい。それが新婚ならなおさらだ」
「……ご忠告、痛み入ります」
どの口が、と言いそうになったがそこはぐっと堪える。
それからも表面上は和気藹々としながら、晩餐会はお開きになった。
帰り際、エンデはグランと少し話をしていた。
「今日は誠にありがとうございました。プロキオンの街の近くに寄る用事がごさいましたら、是非我が家にもお立ち寄り下さい。手厚くもてなさせていただきます」
「そうか。その時は世話になろう。……クリス殿も。今夜は有意義な話が聞けて楽しかった」
「私もです」
微塵もそんなことは思っていないが、グランの印象を良くするためにそう答える。
俺達はグラン達にもう一度別れの挨拶を告げて、馬車に乗り込み帰路に着く。
その途中、エンデが俺に話し掛けてくる。
「クリスさんは嘘つきですね」
「どうした、突然?」
「わたしと表面上結婚はしていても、幸せなんて微塵も感じてはいないのでしょう?」
「……そうだな。それが?」
俺がそう答えると、エンデは首を左右に振る。
「いえ。クリスさんが幸せを感じる時など、復讐をやり遂げた後にしかないと再認識したまでですよ」
「よく分かってるじゃないか」
「当然です。わたしはクリスさんの妻という名の共犯者ですから」
「共犯者か……」
「そうでしょう? クリスさんの復讐を黙って見過ごしてるんですもの。むしろサポートしている立場のわたしは、共犯者と名乗っても何らおかしくはないと思いますけど?」
俺自身、エンデのことを共犯者だと勝手に思っていたが、それはエンデの方も同じだったらしい。
俺はフッと軽く笑い、肩を竦める。
「とんだ悪女だな、エンデは」
「そういうクリスさんは極悪人ですね。かつての仲間に復讐しようとしているのですから」
「言ってろ」
エンデのことを再認識しつつ、俺はどうやってグランを殺そうか考えを張り巡らせていた―――。
良い響きですよね、共犯者。
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