第13話 夜会 後編
前回のあらすじ
ルナセールとメルシアも現れた
ダンスホールに現れたグランは、真っ直ぐに俺達の方――つまり、ルナセールとギルの下へとやって来る。
「ルナセール、ギル。よく来たな。歓迎する」
「何の。グランの招待とあれば来ないわけにはいかないだろう?」
「そうだよ。ボク達は同じパーティーの仲間なんだから」
そのパーティーから追い出した人物が目の前にいるとは夢にも思わずに、ルナセール達は和気藹々に言葉を交わす。
すると、グランが俺の方――正確には、隣にいるエンデの方へと目を向ける。
「これはこれはモンテーロ伯爵。よくぞお越しになられた」
「この度はご招待していただき、誠にありがとうございます」
「それでは?」
「ええ。お察しの通り、隣にいるのが私の夫となったクリスです」
「……クリスです。以後お見知りおきを、『戦神』殿」
俺は努めて冷静に自己紹介する。
グランは目を細め、顎を撫でる。
「ほう……オレの二つ名を知っているとはな」
「勇者パーティーの方々は有名ですから」
「それもそうか。……モンテーロ伯爵。結婚したというのは本当だったのだな。まだ未婚であれば、オレの六人目の妻に迎え入れようと思っていたところだ」
「そうですか。しかし私にはすでにクリスという夫がいるので、その申し出は堅くお断りさせていただきますね」
「ああ。……この場に集ってくれた貴族父兄の諸君! 大したもてなしは出来ないが、今宵は心行くまで楽しんでくれ!」
グランが大声でそう言うと、ホール内は賑わいを取り戻した。
それを皮切りに、ルナセール達勇者パーティーに挨拶しに来る者達が増える。
ここで勇者パーティーとの関わりを持っておきたいと思う者が、一定数いるのだろう。
俺はエンデと共にホールの隅に移動……しようとしたが、エンデの方も他家の貴族達に捕まっていた。
「クリスさん。こちらは私だけで大丈夫ですので、ご自由にお過ごしください」
「……いや。俺もエンデに付き合おう。モンテーロ家と関わりのある家との挨拶もまだだしな」
「分かりました。では……」
「少しいいかしら?」
すると、メルシアが声を掛けてきた。
それに答えたのは俺ではなく、エンデだった。
「如何なさいましたか?」
「ええ。何てことはないのだけど……少し貴女の旦那様をお借りしてもいいかしら?」
エンデは無言で俺に視線を向けてきて、俺は許可するように首を縦に振る。
メルシアが俺を連れ出したい理由は……なんとなく理解出来る。
「……ええ。いいですよ」
「それでは少しお借りしますね。……クリスさん、こちらに」
そして俺はメルシアに連れられ、バルコニーへとやって来た。
メルシアは手すりに身体を預け、俺の方を見ずに話し始める。
「クリスさんとモンテーロ伯爵はどういった経緯で知り合ったのかしら?」
「それは……」
俺は嘘の経緯を話そうとしたその時、気付いた。
メルシアが水の魔法で、手すりに話したことと別のことを書いていたことに。
そこには、『貴方はエド?』と書かれていた。
「……何てことはないですよ。エンデのお父上と私の父が遠い昔に交わした、自分達の子供を結婚させようと約束していただけですよ」
「それでは、エンデさんとは許嫁の関係であったと?」
『真面目に答えて。貴方はエドなんでしょう?』
ここで「そうです」と答えたら、メルシアの陰の問いにも肯定の意味で答えることになる。
だから俺は、答え方を少し変えた。
「許嫁とは言いますけど、私とエンデが実際に顔を合わせたのはつい最近のことなのですよ。なのでその時まで、お互いに許嫁がいるとは夢にも思っていなかったのです」
「……そうですか。いえ、ごめんなさい。モンテーロ伯爵ほどの美人が結婚していないのは不思議に思っていただけなので。それが急に結婚したとあれば、誰でもその経緯を知りたいと思いますでしょう?」
埒が明かないと思ったのか、メルシアは水の言葉を掻き消して俺の方を振り向く。
「……なるほど。『聖女』様と言えどもゴシップ好き、と……」
「あまりからかわないでください」
「話はそれだけですか?」
「ええ。お手を煩わせてごめんなさいね」
「いえ。それでは私はこれで」
俺はそう言って、ホールの中へと戻って行った―――。
◇◇◇◇◇
あたしは確信していた。
クリスと名乗った白髪の男性は、間違いなくエドだ。
最初は直感的にそう思っただけだったけど、今の問答で確信に変わっていた。
エドはあたしに隠し事をする時、左手で右手首を掴む癖がある。
あたしが水の魔法で『貴方はエド?』と尋ねた時に、その癖が出ていた。
その癖を見た時、あたしは内心嬉しくなると共に疑問も抱いていた。
エドが偽名を名乗っている理由が分からなかったからだ。
ルナセール達には、エドは『イフの大迷宮』の下層で強い魔物と遭遇して、三人を逃がすために殿を務めて命を落としたと説明されていた。
当時あたしは別件でパーティーと別行動を取っていたから、何でその場に自分がいなかったのかと自分を責めていた。
でも今日、エドが生きていたことが確認出来た。
髪色や目の色が変わっていた理由は分からないけど、かつての恋人が生きていたことは素直に嬉しい。
身体はルナセールに許してしまったけど、エドを愛している気持ちは今も変わっていなかった。
それと共に、一つの疑問も浮かび上がる。
生きていたのなら何故、あたし達に生存を知らせなかったのか?
記憶を失っているのか、それとも……。
その恐ろし過ぎる考えを、あたしは頭を激しく振って振り払う。
流石のルナセール達も、仲間であるエドを殺そうなんて思わないハズだ。
苦楽を共にした仲間相手にそんなことをするヒト達じゃない。長くパーティーを組んでいればそれくらいは分かる。
「お母さん」
すると、ルナシアがバルコニーに顔を出す。
大人達の空間に飽きてしまったのだろうか?
「なあに、ルナシア?」
あたしは愛娘の名前を呼びつつ、バルコニーから離れていった。
……ここで振り払った考えがまさか真実だったとは、この時のあたしは夢にも思わなかった。
そしてそのツケを、大きな代償で支払うことになるとは―――。
クリスの正体に感付いたメルシア。
終わり方は不穏ですけどね……。
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