第12話 夜会 中編
前回のあらすじ
ギルが現れた
ギルが姿を現すと、ホール内には大きなどよめきが沸き起こる。
しかしそのどよめきは驚きというよりかは、有名人と出会えた喜びの方が大きい気がする。
そんなギルの後ろには、赤茶色の髪をした女性がいた。
もしや、あの女性がギルの?
「エンデ。あの方々は?」
「ギルフォード・アイギス卿とその後妻のルイス様ですよ。……ああ、クリスさんは初めてお会いになるんでしたっけ」
「そうなるな」
本当はギルとは顔見知り以上の関係だけど、『クリス』としては初めて会うんだからあながち間違いじゃない。
するとあちらも俺達に気付いたようで、こちらに近付いてくる。
「こんばんは、ファリナさん」
「ようこそお越し下さいました、ギルフォードさん、ルイスさん」
「久しぶりね、ファリナさん」
「ええ、そうですね」
「グランはまだ?」
「はい。もうじきやって来るとは思いますが……」
「そう……それで、こちらは?」
ギルが俺達の方を向いたので、俺とエンデは揃ってお辞儀をする。
「私はエンデ・フォン・モンテーロと申します。そしてこちらが……」
「エンデの夫となったクリスと申します。以後お見知りおきを、『絶壁』殿」
俺がそう言うと、ギルは少し目を見開く。
「驚いた……その二つ名を知っているなんてね」
「ご謙遜を。勇者パーティーの方々を知らない者など、この国では一人もいないでしょう」
「ルナセールやグランはともかく、ボクはあまり存在感はない方でしょ?」
「そんなことはございませんよ。鉄壁の防御を誇るギルフォード殿がいるから、前衛のお二方が全力を出せるのでは?」
「ふむ……そう言われると悪い気はしないね。……ああ、挨拶が遅れたね。ボクはギルフォード。そしてこっちがボクの今の妻のルイスだ」
「ルイスです。以後お見知りおきを、モンテーロ伯爵夫妻」
「こちらこそ」
そう言葉を交わすと、またダンスホールの扉が開かれる。
今度は誰だ、と思いそちらに目を向けると――俺は頭が真っ白になった。
何故ならそこにはルナセールと、彼と腕を組んでいるメルシアの姿、それと彼女に手を引かれている子供の姿があったからだった―――。
◇◇◇◇◇
『勇者』の肩書きを持つアポロニア卿と、その妻となった『聖女』メルシア様がダンスホールに姿を現した瞬間、隣にいるクリスさんが動揺した雰囲気を感じ取った。
クリスさんはメルシア様と恋仲だったらしいから、彼女が他の男性と結婚していることは覚悟はしていても、実際に目の当たりにするのには理解が追い付いていないのだろう。
そんな彼に追い打ちを掛けるのが、あの二人のお子さんの存在だろう。
子供がいるということは、すなわち……そういうことだからだ。
アポロニア卿はアイギス卿の近くまでやって来ると、彼と気さくに挨拶を交わす。
「やあ、ギル。来ていたのか」
「うん。グラン直々の招待だったからね」
「そうか。……ところで、こちらは?」
アポロニア卿が私達の方に視線を向けてきたので、私はお辞儀と自己紹介をする。
「初めまして。私はエンデ・フォン・モンテーロと申します。以後お見知りおきを、アポロニア卿」
「……その夫となったクリスと申します。『勇者』殿にお会い出来て光栄に思います」
クリスさんは毅然とした態度で自己紹介するけど、私は内心気が気じゃなかった。
ショックを受けているであろうクリスさんが、どんな行動に出るのか予測出来ないからだ。
「モンテーロ卿の噂は聞いている。よもや結婚するとは思いもしなかったな」
「そうですか?」
「うむ。……ああ、いや。貴殿の結婚を否定しているわけではない。意外に思っただけだ」
「そうですか。家の者にも早く結婚するようにと催促されていたので、一安心しているところですよ」
「あとは跡取りを……いや。これはそちらの事情だな。私が口出しするほどのことでもないな」
「そのお心遣いには感謝致します。気持ちだけ受け取っておきますね」
「それがいい。……貴殿に改めて紹介しよう。私の妻のメルシアと、娘のルナシアだ」
アポロニア卿がそう紹介すると、よく似た顔立ちの母娘はお辞儀をする。
「ルナセールの妻のメルシアです」
「ルナシアです。初めまして!」
メルシア様は落ち着いた雰囲気で、ルナシアさんは子供らしく元気一杯に挨拶をする。
だけどメルシア様は顔を上げると、クリスさんの顔をまじまじと見つめる。
「あの……私の顔に何か?」
「いえ……クリスさん、と仰いましたか? 何処かで出会ったことがありますか?」
鋭い。
出会ったどころの話ではなく、貴女と同じパーティーにいた人物ですよ……と言うべきではない。絶対に。
それをクリスさんも理解しているのか、彼はすっとぼける。
「気のせいでは? 私が『聖女』様とお会いになるのは、今日が初めてですし」
「そうですか……いえ、ごめんなさい。昔の知り合いに似ていたものだったから……」
「……その、知り合いというのは?」
「エ――」
「メルシア」
すると、アポロニア卿が険のある声音でメルシア様の言葉を遮る。
それを受けて、メルシア様も黙り込む。
「突然すまなかったな。私達の中でも、あの事件は消化しきれていないのだ」
「『虹の魔法使い』様の件ですか……心中お察しします」
その事件の当事者である当の本人がそう言うものだから、私は思わず吹き出しそうになった。
でもこれまでの教育の影響か、寸でのところで堪えられた。
すると、ダンスホールの扉が開かれる音が響く。
そちらに目を向けると、この夜会の主催者であるダール卿の姿があった―――。
クリス/エドの復讐対象が一堂に会しました。
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