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第11話 夜会 前編

前回のあらすじ

夜会に招かれた

 

 夜会当日。


 ダール家の屋敷のダンスホールには、グランが招待した貴族達のほとんどが集まっていた。

 あと来ていないのは、モンテーロ伯爵―つまりエンデと、その夫となったクリス、それとグランの友人達だけだった。


「はぁ……」


 そんな中で、一人の女性が存在感を消すように窓辺に立ち、溜め息を吐く。

 その女性は若草色の髪に同系色のドレスに身を包んでいるが、彼女の最大の特徴はその鋭く尖った耳であった。


 彼女こそが、グランの五番目の妻であるファリナだった。


 ファリナは他の妻達から、来賓の相手をするようにと任され……いや、押し付けられていた。

 その指示通りに来賓達への挨拶をしていたが、来賓達からは噂は本当だったのかという憐れみに似た視線を返されていた。

 その視線をほぼ全員が送ってくるものだから、ファリナはダンスホールの隅で一人辟易していた。


 すると、ガチャンとダンスホールの扉が開かれる。

 それと同時に、来賓達からはどよめきが沸き起こる。

 何事だろうかと思いファリナがそちらに視線を向けると――彼女も息を呑んだ。


 ファリナの視線の先には、蒼いドレスに身を包んだモンテーロ伯爵と、彼女と腕を組んでいる白髪の男性の姿があった―――。




 ◇◇◇◇◇




 ダンスホールに足を踏み入れると、そこら中から好奇の視線を向けられた。

 まあ、俺の見た目の問題もあるし、エンデの事情も知っていたから仕方ないと割り切っていた。


 ホール内を進みつつ、グランの姿を探す。

 パッと見、グランはホール内にはいないようだった。


「ようこそお越し下さいました」


 すると、一人の女性が俺達の前にやって来る。

 髪色と同系色のドレスに身を包んだこのエルフ族の女性は、もしや……。


「私はダール子爵の妻の一人のファリナです。お会い出来て光栄ですわ、モンテーロ伯爵」

「こちらこそ。夜会に招待していただき、ありがとうございます」


 エンデは俺と組んでいた腕をほどくと、優雅な所作でファリナにお辞儀をする。

 するとファリナは、俺に視線を向けてくる。


「ではこちらの方が……」

「エンデの伴侶となったクリスと申します。以後お見知りおきください、ファリナ夫人」


 俺は片手を胸に当て、深々とお辞儀をする。


「私の方こそ。クリスさんとお呼びしても?」

「お好きなように。それにしても……エルフ族ですか。珍しいですね」

「……そうですか?」


 ファリナの顔からは、緊張と若干の警戒の色が見て取れた。

 それを解きほぐすように、俺は嘘しかない出来事を口にする。


「ファリナ夫人の苦労は想像出来ますよ。私もこんな見た目ですからね。幼少の頃は色々と苦労しましたよ。それにファリナ夫人は私とは違い見目麗しい。同性からの嫉妬も多かったのでは?」

「クリスさん? 妻の前で堂々と他の女性を口説くのですか? それも他の方の奥様を?」


 予め決めていたシナリオ通りにエンデが口を挟んでくるが、演技とは思えないくらいに彼女の声音には謎の迫力があった。

 その迫力に気圧されていたことを悟られることなく、俺もシナリオ通りの台詞を返す。


「まさか。私が愛するのはエンデただ一人だ。それに美しいモノを美しいと言って何が悪い?」

「それには同意しますけど……きちんと態度でも示して下さいね?」

「分かった」


 俺はそう答え、エンデの肩に手を回して抱き寄せる。

 これは俺のアドリブだったからか、エンデは驚いたような表情を浮かべる。

 それと若干、頬が紅潮しているようにも見える。


「……もう。急にやらないで下さい。ビックリするでしょう?」

「……スマン」


 俺達にしか聞こえない音量で、そう言葉を交わす。

 ファリナの方を見ると、彼女は耳まで赤くして照れている様子だった。


「美しいだなんて、そんな……」

「世辞でも何でもなく、ファリナ夫人は美しい女性だと個人的には思っていますよ。もう少し自分に自信をお持ちになられては?」

「そうですね……」


 すると、ガチャンと扉が開く音が聞こえた。

 そちらに目を向けると――俺は大きく目を見開いた。


「遅くなっちゃったかな?」


 十年経った今でも見間違えるハズもない。


 そこには、復讐対象の一人であるギルの姿があった―――。






グランが登場するより先にギルの登場です。




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