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第06話 アレンの憂鬱

 

 転移石(テレポートキー)を使い転移した俺とアレンは、近くの洞窟に黒蟲が巣をつくり困っている、というか怯えているという村についた。村の名前はなんだったかな。アロ……アロなんとか村だった気がする。

 


 「到着だ。転移石って便利だよな。さすが一つ20万円もするだけの事はある」

 「と、到着っすね。円ってなんすか?」


 「円か。 俺の故郷では銅貨一枚の事を100円っていうんだ。銀貨が5000円で金貨が500,000円だ」

 「はあ、難しいっすね。そんな事よりミキュアさん、ち、近いっすよ? 良いんすか、大丈夫なんすか?」


 「大丈夫? ……あ、ああ。問題ない、マニュアル設定にした(香水の事か)」

 「マニュアル……っすか。(マニュアルってなんすか?)」





 俺とアレンは村を纏めている村長に会うために、村に入り込んだ。

 すごいな。村って初めて見た。よくこんな環境で過ごせるもんだ。このファンタジー世界には魔物なんかも多いいだろうし、村単位で過ごすのはかなり危険だろう。まあ、その危険を取り除く為に俺たちに依頼してくれたんだからちゃんと仕事を頑張りますか。


 村の村長に一言告げてから、黒蟲が住み着いたという洞窟を教えて貰った。結構…いや、かなり遠い。徒歩で数時間もかかる距離だ。

 それでも、近場にCランクの魔物が住み着いているという状況は恐ろしい事なのだろう。村人の色んな大人や子供たちからも、「頑張って」だの「よろしくお願いします」だのと色々言われてしまった。

 冒険者っていうのはこういう感じの職業なのか。なんだか英雄気分になってしまうが……子供達のきらきらした目を見て思ったが、きっと日曜の朝にやっていた戦隊ヒーローみたいな扱いなのだろうな。こう、なんとかレンジャーみたいな。


 


 







 



 俺とミキュアさんは村長さんに空き家を貸してもらったっす。今日はここに泊めて貰って、明日の朝になったら黒蟲の巣があるっていう洞窟に向かうみたいっすね。

 まさかミキュアさんと二人っきりでお泊り展開になるなんて……これはチャンスっすよ! どうにかして良い雰囲気になってみせるっす。


 

 俺がミキュアさんと初めて会ったのはクラーク王国での宿屋っす。リラインさんに紹介されて、D級冒険者と一緒にパーティーを組む事になったんすけど、最初は俺の強さを見せつけてリーダーの座を奪おうと思ってたっす。

 「お前がミキュアか、俺はアレン・ウルスダッツだ」と偉そうに言おうと思ったす。群れのリーダー足る者は態度で示すもんだって父さんも言ってたっすし。

 ただ、酒場の奥から出てきたミキュアさんを一目見て……その、一目惚れしてしまったんすよ!


 「!?………お前が、いや、あなたがD級冒険者の『みきゅあ』っすか」

 「ああ、そうだ。お前は何者だ?」


 「ああ、そうだ。お前は何者だ?」。ほほう……!。この一言には、本来は高い声であろう地声を少しでも凄みがでるように低くしている、そんな可愛らしさが見えたッす!

 この娘可愛いっす。肩まで下ろしている軟らかそうな黒髪、線の細い整った体型、少しキリっとしてるっすけど、綺麗というよりは可愛い系の容姿、背も150㎝ないような……こんなに可愛い娘は、俺のいた村にはいなかったっす!

 人族なのに幼馴染のエルフよりも可愛い美少女なんて存在していたんすね! びっくりっす!


 2ヵ月前に"こんな世界"に飛ばされて最初はどうしようかと焦ったっすけど、それでもこんな幸運な出会いが舞い降りるなんて、普段から村の皆の手伝いとかしていたかいがあったっす。善行は報われるんすね! いやー異世界も来てみるもんっす。


 


 俺は宿屋で一旦別れた後に、後日ギルドで会う約束をミキュアさんとしたっす。そこでミキュアさんと模擬戦をすることになったんすけど……。あんな可愛い娘と戦うなんて、俺にはできないっす。

 俺は泊まっている宿屋で一晩寝ずに悩んだっす。戦いずらいけど、ちゃんと戦わないと彼女にどう思われるか……。一晩寝ないで考えた結果、模擬戦で勝って俺が頼れるって所を見せつける事にしたっす。

 確か、ギルドには相手の命を奪わないようにするアイテムもあったはずっす。それに、リラインさんがいる限りどんな怪我も一発で治るはずっす。初期ランク認定試験の時も死にそうなくらいボロボロになった俺を一瞬で回復してくれたっすし、その辺は安心できるっす。


 


 俺とミキュアさんの模擬戦は……俺の負けで終わったっす。

 最初はミキュアさんの高速で魔法を放つ筒みたいな武器の対処に遅れたっすけど、威力は大したことはなかったんすよ。

 小さいころから幼馴染の魔法の訓練に付き合う事が多かった俺は成長するにつれて強力な魔法耐性が付いていったっす。今の俺の体は並みの魔法ならほぼ無効化できるっす。それこそ上位の上級魔法とか、最上級魔法でも使われない限りは傷一つつかないっす。まあそんな詠唱をする時間は与えないっすけど。

 

 ないはずなんすが…奥儀:獅子弐。獅子奥儀の二番目の型まで使って強化した俺のパンチをミキュアさんは完全に見切って逆に腕を掴んで関節を極めようとしてきたんす。

 正直、こんな女の子がこのレベルの格闘術を使えるなんて思わないっすよ。物凄い完璧な対処をされたって感じっす。腕を振り抜いて得た力はすべて流されてしまったっす。こんな事、小さい頃から格闘術でもやってないとできないことっすよ。

 きっと何処かの騎士の家系の一人娘で、頑固なお父さんに"男"として育てられたパターンっすよ。だから言葉使いとか態度もわざとらしいくらいに男っぽくしてるんす。俺の目は誤魔化せないっすよ。


 腕を極められそうになった俺は全力で体を、獅子弐で強化された足を軸に回転させたっす。前に腕を掴んでわがままを言った俺を幼馴染が吹き飛ばすために使った技をまねしたっす。幼馴染は俺が魔法の訓練は嫌だと泣きついたら吹き飛ばすような女っす。ミキュアさんの方が100倍可愛いっす。

 

 吹き飛ばしたミキュアさんを追撃しようと奥儀をつかうために、俺もジャンプして跳んだっす。でもミキュアさんは吹き飛ばされた状態のままで、さっきとは違う形の筒を取り出して魔法を撃ってきたっす。

 俺は咄嗟に使っていた奥儀をその魔法に当てたんすけど……魔力に抵抗のある俺が繰り出した奥儀付きの蹴りを、その魔法は相殺したんす!

 ありえないっす。本当にありえないっす。こんな簡単に上位上級並みの魔法を撃てるなんてありえないんすよ! 仮にそんな技術があってしまったら、戦争を起こしてでも欲しがる国がいっぱい出てくるレベルっす。

 上級魔法を殆ど相殺できる俺の魔力耐性と、それに追加された奥儀と蹴りを相殺できる魔法を、吹き飛ばされた状態で瞬時に使う事ができる……。俺は一瞬、ミキュアさんが実はゲームに参加している使徒なんじゃないかと疑ったっす。

 でも、それは間違いなはずっす。"使徒同士は互いに使徒であると認識する事ができる"っていうゲームのルールがあるはずっすから第九世界の使徒である俺が気付かないはずがないっす。


 足に恐らく最上級魔法であろう一撃を喰らった俺は、上手く着地こそ出来たものの、その場に立ってるのがやっとの状態だったっす。負けた俺はおとなしくリーダーの座をミキュアさんに渡したっす。まあ本来のリーダーはミキュアさんだったんすから、渡したなんて偉そうなことは言えないんすけど……。




 一回別れて昼頃に転移門の近くで待ち合わせる事になったっす。俺は宿に戻ると、徹夜と模擬戦の疲れからか居眠りをしてしまったっす。起きた時は待ち合わせの時間の数分前だったっす。いぞいで宿を飛び出した俺は全力で待ち合わせ場所まで走って行ったっす。

 転移門の近くまで来て、このままじゃ汗臭い状態でミキュアさんと出掛けなきゃいけなくなっちゃうことに気付いたっす。会って二日目だったっすし、こんな事で嫌われたくなかったっす。急いで近くで売っていた濡れたタオルと香水を買って、汗を拭いたっす。その後で香水もつけたから多分汗の臭いを誤魔化して、良い匂いがするはずっす。

 

 青狼族とハイエルフのハーフの父さんと、白狼族とエルフのハーフの母さんを両親に持つ俺は見た目こそ獣人っぽいけど嗅覚なんかはエルフと同じ程度にしか持ってないっす。身体能力も実はそんなに高くないっす。俺の動きを見てさすが獣人なんて言う奴は、本物の獣人を見た事ない奴っすね。ハーフであるはずの父さんでも、音速ぎりぎりくらいの速さで動けてたっす。純粋種の獣人なら音より速く動けるって聞いたっす。

 うん、匂いも付けたっすし着物も崩れてないっす。持ってる服の中で一番格好良い服っす。動きずらいのが難点すけどね。この世界に来てからはアイテムボックスってのにつっこむだけで空いた風穴も土の汚れも全部なくなるってのは便利っすよね。常に新品状態で洗濯いらずっす。


 俺はその後でミキュアさんとアロロニクス村に転移したっす。転移石を使う時にけっこうな密着状態になったんすけど……すごい幸せだったっす! なんか良い匂いもしたっす! あ、これ俺の香水の匂いだったっす……。で、でも、ミキュアさんの肩と腕がすごい軟らかかったっす! なんで女の子ってあんな軟らかいんすかね…不思議っす。



 その後は村長さんの家に行って……そして現在に移るっす。前を歩くミキュアさんの後ろを同じように歩いて付いていくっす。髪が左右に揺れてるっす。後ろから抱きついたら……犯罪っすよね。自重してるっす。

 こんな小さくて可愛いのに17歳らしいっすよ。俺より3歳も年上っす。よし、この依頼中に絶対仲良くなってみせるっす!ていうか二人きりで空き家に泊まるとかやばいっす。 お父さん、お母さん、俺、もしかしたら今日大人になるかもしれないっす!

 村を歩いていると、村人と子供から声をかけられたっす。子供を見るミキュアさんは何かを考えるような目をしてたっす。もしかして、子供好きだったりするんすかね。





 おかしいっす。何かがおかしいっす。ミキュアさんは俺と一緒に空き家についてすぐに部屋に引きこもってしまったっす。俺が「お風呂沸いたっすよ!」「ご飯出来たっすよ!」って声を掛けても「おう」「うーい」とやる気のないような返事が返ってくるだけで、部屋から出てきてくれなかったっす。

 それどころか、部屋で一人事を話すような声まで聞こえるっす。しかもなんか声色まで変えて本格的に一人二役で話してるみたいなんすよ。間延びするような、あれが素の状態の声なんすかね…。結構可愛い声だとは思うんすけど、どこか馬鹿っぽかったっす。普段のちょっと低くしてるような声の方が良いっすね。

 

 

 

 はあ。結局部屋から出てきてくれなかったっす。風呂にも入ってないみたいっすし、ご飯は食べたみたいなんすけど…。俺の想像では二人仲良く食卓を挟んでいちゃいちゃできればとか思ってたんすけどね。現実はなかなか上手くいかないもんっすね。

 朝食を作ろうかと言ったら、「これから虫と戦うんだろ? 飯なんて食って大丈夫か?」なんて言われてしまったっす。ご飯食べないと力でないと思うんすけど…俺だけこっそり食べたっす。村で作った野菜は美味しかったっすけど、不思議とちょっとしょっぱかったっす……。

 


 

 

 

 


 





 村で一泊して次の日、黒蟲が住む洞窟に向かって歩いて進みながら、俺とアレンは黒蟲討伐の作戦会議をすることにした。

 昨日の夜にベルフェゴールに黒蟲との戦い方を聞いてみたんだが、たいした情報は得られなかった。結局、二人でごろごろ寝っころがりながら雑談して終わってしまった。あのがりがり相手だと変に女を意識しないで済む分だらだらとだべるのには丁度いいんだよな。



 「よし、じゃあアレン、黒蟲討伐だがどんな作戦でいくか考えはあるか?」

 「はいっす。俺が突っ込んで蹴り飛ばすんで、ミキュアさんは怯んだ黒蟲に、俺に当てたような強力な遠距離攻撃を使って追撃を掛けてほしいっす」


 「当てたやつって、蹴りと相殺した方か?」

 「はいっす! 正直、俺の奥儀が相殺されるとか意味不明っすよ! あれってなんて魔法なんすか?」


 「ありゃあ魔法じゃないな。武器の一つだ。それと、俺はもうあれを使う事ができないんだ…」



 反動で怪我するからな。頭を地面に打ち付けたのはあれで二度目だがもう絶対に嫌だ。あれ、無茶苦茶痛いんだよ…。二回とも全力で頭打ったからな。リザードマン戦もアレン戦も自業自得なんだけど…とにかく絶対に嫌だ。

 

 「そうなんすか…じゃあ、どんな魔法がつかえるんすか?」

 「ああ。お前に最初に撃ったほうなら使えるな。他には…まああんな感じの"魔法"なら使えるが」


 「あんな感じって、筒から飛び出す魔法っすか。最初の方っていうと…初級魔法の方っすか?」

 「そうだが…何か問題でもあったか?」


 「はいっす。多分、黒蟲の殻を貫けないと思うっす。黒蟲の魔力特性は闇属性の硬化の魔力っす。魔法を使って攻撃するなら上級魔法クラスを使わないと、まともなダメージは与えられないかもしれないっす」

 「魔力特性……。上級魔法クラスか。」



 うーん、うーんと考える振りをしながらベルフェゴールと念話をする。



 『なあベルフェ。上級魔法クラスって、具体的にどれくらいの威力が必要なんだ?』

 『うーん…幹也が話してた重機関銃?っていうのだったら大丈夫だとは思うけど…。スキル:殺人鬼を使って攻撃性を底上げすればいいんじゃない?』


 『スキル使うのは控えたかったんだが……。いざって時には使うか。それに…えー、重機関銃かあ。まあSTR値も増えたし使えない事はないと思うけど…絶対反動で腕が死ぬ。DOCでだって反動のせいでゴツイ外人以外じゃ使ってる奴なんて極一部だけだったし。』

 『ああーそのなんたらゲームって話? 反動が辛いんなら魔法で和らげればいいじゃない』


 『あのなあ。俺の世界には魔法なんてなかったんだ。スキルを持ってるわけじゃないのに、そう簡単に使えるはずがないだろ。そんな超能力』

 『簡単よ。衝撃を和らげたいんなら硬化の魔力に柔軟性を持たせてからー』

 

 『硬化なのに柔軟性とか意味不だろ』

 『ちょっとー! 最後まで聞きなさいよまったく。今度教えてあげるわ。とりあえず、今回はスキルつかっちゃいなさい。アレンは、彼は大丈夫だと思うわ。だって…………ねえ?』




 なんだ。要領えない奴だ。俺はベルフェゴールとの念話を中断して、アレンに向かって話しかけた。

 


 「仮に俺の攻撃が効かなかったら、攻撃性が上がる魔力を纏うから大丈夫だ」

 「ミキュアさんって強化系の魔法も使えるんすね! 尊敬するっす。俺、ハーフエルフなのに魔法苦手なんすよね…」


 「ん? お前ってハーフエルフだったのか? 獣人とエルフのハーフって事か」

 「そうっす。父さんと母さんがそれぞれ獣人とエルフのハーフっす。だから俺の血も半分獣人で半分エルフっす」



 両親がハーフ同士だと子供もそうなるのか。こいつのイケメン部分はエルフだったからなのか。あー…こいつが女だったらなあ。エルフなのに獣耳とか最強だろ。どっかに可愛いエルフっ娘いないかなー。エルフって耳が性感帯なんだよなあ(エロゲ知識)。擦ってみたいわー。





 

 俺とアレンがアロロなんとか村を出発してから2時間くらい経った頃、黒蟲が住み着いたって洞窟を発見した。

 洞窟と聞いて俺が想像していたのよりかなり大きい…。まあ電車みたいな化け物が素を作るってくらいだから大きいかなーとは思っていたけど…これほどとは。

 入口がちょっとしたビルくらい大きい。横幅はそこまで大きくはないんだけど縦方向に無茶苦茶でけえ……。

 さて、俺とアレンは特別夜目が効くわけではない。視力を強化している俺だがこれは純粋な視力だけしか強化されていないので、真っ暗な所がまるで昼間のように! とはいかない。せいぜいまあここに何かあるとかぼんやりと見える程度だ。そんな視力で黒いムカデと暗い洞窟で戦えるわけがない。夜に暗い室内でGと戦うようなもんだ。自殺行為だな。

 アレンは獣人とエルフのハーフだ。獣人成分で身体能力とかが高いとしても目が良いわけではないらしい。動物の中には夜目が効く種類も多いいはずだが、アレンはそうじゃないみたいだ。直接聞いたわけじゃないけど何も言ってこなかったのでそうなのだろう。


 結局作戦という作戦は決まらなかった。まあお互い初めての依頼で初めての共闘だし、個人個人で死なないように戦った方が戦いやすいのではといった結論だ。

 RPGでパーティーを組む理由は主に役割分担にあるんだが、命がかかった本番しゃあそういった一人が欠けただけで崩れるパーティー構成じゃダメらしいしな。

 どんな時でも臨機応変に対応できるように最低でも一通りの技術を使えるようにするのが騎士の務めだ! って元騎士の冒険者が言っていた。そいつは魔法も剣術も結構上手いみたいだが、数年続けている冒険者のランクはDみたいだ。冒険者初日の俺と同ランク。まあ皆が超一流に成れるわけじゃないってことみたいだな。


 

 俺はドッペルガンを一番消費魔力が低い形状変化前の不思議ハンドガン状にして洞窟内に何発か撃ち込んだ。そのまましばらく待っていると……でてきた。

 黒くて堅そうな甲殻に身を包み、真正面からみるとバスのように巨大で、ベルフェゴールの話で聞いたような20メートル以上の長さで…顔には変色した大きな牙が二本生えている。



 「ギギギギギギギッ、ギギギギギィィィィィィッ!」


 「ッッ! おいアレン! 戦闘開始だ!」

 「はいっす! はあああッ、奥儀:獅子 肆! 」





 高速で飛びたしていったアレンの四肢に魔力の輝きが増す。奥儀は決まった。黒蟲の巨大な横顎に蹴りを叩きこんだアレンは、続けて斜め上方向へ上がった奴の顔面に向かって、更に下からの回転蹴りをもう一発入れる。

 だが黒蟲はその長い胴体ですぐに姿勢を整えて、半身に重心を移して牙のついた巨大な顎を使ってアレンを叩きつけて、彼を吹き飛ばした。 アレンは衝撃を完全にいなせなかったのか、少し苦しそうにしているが相変わらず着地だけは上手い。


 最初にアレンが話していた話では、隙をねらって俺が攻撃する感じらしかったが…本当にあれをするのか。冗談かなんかかと思ってた。

 俺は両手に構えたドッペルガンの形状を重機関銃へと形状変化させる。イメージするのは74式車載7.62mm機関銃。陸上自衛隊の戦車・装甲車や海上自衛隊のヘリコプターなどに搭載されているそれを必死に両手に一丁ずつ構える。

 総重量40kg以上。アレンに隠れてベルフェゴールに掛けて貰った反動軽減の魔法とSTR強化の魔法を併用させた俺はぎりぎりだがそれを構えることができた。

 黒蟲に向かって引き金を引く。馬鹿みたいな衝撃が俺の腕から肩にかけて走り抜ける。本体、これはこういう風につかう武器ではない。三脚架が付いていて地面に流れている衝撃を抜いたとしても、もしかしたらM500の方が楽だったかと後悔する程の反動だった。


 

 轟音が鳴り響く……。反動軽減魔法等を含めて一度にMPを1500近く消費してしまうような攻撃だ。これで……決める!

 すぐにベルト給弾のそれを全て使い果たした。黒蟲は攻撃を受けている途中から黒色の魔力を使って硬度を増していたみたいだが、俺の上昇したINTと強化されたSTRで威力が増しているドッペルガンでの攻撃。

 ちなみに、ベルフェゴールの自称プロの強化魔法というのはSTRを300近くも上昇させた。そんな連撃の前に、Cランクの魔物である黒蟲は見事耐えきった。

 だが、その姿は見るも無残だった。戦う前の、ムカデとは思えない綺麗な甲殻はあちこちに穴があいて砕け散っている。その穴からは濁ったような色の血が溢れ出てるし、足の多くも抜け落ちている…。だが、そんなボロボロの状態でも奴は襲いかかってきた!


 「アレン! 仕留めきれなかった。各自自由に動いて叩くぞ!」

 「は、はいっす!」



 俺はすぐにドッペルガンをアイテムボックスに仕舞うと、スキル:逃走犯を使って黒蟲の突進を跳ぶように躱す。

 黒蟲は下半身を無数の足を地面に刺してその場に固定し、上半身を高速で移動させての突進攻撃を仕掛けてくる。もしかしたら本来のスピード、パワーは発揮されていないのかもしれない。だが、仮に一発でも当たってしまったらVIT値の低い俺は死を免れないだろう。

 システムアシストによる驚異の回避力を発揮した俺の体は回避には成功したものの、その代償に数%ばかしHPを失う。先の反動でも地味に削れていた俺のHPは、基本的に自然回復をしないので回復薬を飲んで回復しなくてはならない。

 俺は村の村長から貰ったHPとMPを半分回復するという高位の霊薬(エリクサー)を飲んで回復する。

 

 アレンは奥儀で魔力を纏って身体能力を底上げして黒蟲に接近戦を仕掛けている。黒蟲は上半身についている残った足を使ってそれに対処していた。

 奴の足は一本一本が俺たちの腕よりかなり高性能だ。硬度、柔軟性も当然高いし、先端は固く鋭い。関節は多いしで、細かく動ける槍みたいなものだった。

 俺も接近戦を仕掛けようと思ったが、あの足の速さに対応できる自信がない。

 何度も言うが俺の格闘ゲームの成績はそこまで良くはないんだ。武術の基礎は学んだけどそれを応用できない。つまり、ナイフ戦以外の接近戦はできない。そして、緑巨人の短剣ではあいつに1以上のダメージを与える事はできないし、リザードマンの時のような塵も積もれば作戦を使う余裕もない。

 ドッペルガンの形状を変化させる。威力が足りないと言われたがMP5をイメージした形にしてアレンを狙う足に攻撃をしかける。アレンを援護することにしたのだ。

 アレンも俺の援護射撃にすぐに気付いたようだ。自分に向かってくる足の対処を緩めてその分攻撃回数を増していく。今から俺は一回もミスを犯す事ができない。ミスの一つが直にアレンの死に繋がるからだ。ミスるなミスるな。集中だ。

















 黒蟲のHPが残り10%を切っている。奴は足を含めた体の殆どがもう使い物にはならなくなっていた。毒液も使ってきたがアレンの奥儀には防御系のものがあったみたいで、魔力の籠った障壁を張って防いでいた。

 黒蟲から離れて援護に徹した俺を、黒蟲が攻撃してくる事はなかった。アレンの格闘術はかなりのレベルだ。さすがは初期Cランクスタートの冒険者といえよう。

 


 「アレン! 止めを刺すんだ!」

 「はいっす! 奥儀:獅子 拾!」


 「ギギギギギギギギギギギギギギギギギッ!!」


 アレンの両足が光り輝いて黒蟲の突進と蹴りがぶつかり合う。あのムカデはどれ位の重さなのだろうか。

 運動エネルギーというのは重さと速さに比例する。速さは勿論の事奴の突進の驚異的な点はその巨体が安定した下半身からまっすぐ迫ってくるというその一点にある。力がぶれないんだ。

 だが、アレンが放った奥儀も驚異的だ。なんせ俺が知る限り地球最強の拳銃であるM500の一撃を空中での不安定な状態で相殺したんだ。強いに決まっている。



 力と技のぶつかり合いは、技の勝利で終わった。アレンの蹴りは黒蟲の顎諸共奴の巨大な頭を蹴り飛ばした。微かにHPの残る黒蟲のHPバーが灰色に染まって…………そのまま糸が切れたかのように崩れ落ちていく。

 この世界では神の試練の転移前のゴブリン、ドッペルゲンガーのような死んだ魔物がプログラムのように砕け散るといったようなエフェクトは無い。異世界で死んだ生物は地球同様死体となる。巨大な洞窟の前に、同じく巨大な黒蟲の死体が倒れていた。



 「やったのか……。」

 「そう…みたいっすね。」


 「洞窟…は、巣を壊さなきゃ」

 「俺がやっとくっす。ミキュアさんはここで待っててくださいっす」




 そう言ってアレンは洞窟へ入っていく。俺は簡易ステータスに目を移す。残りMPは400程度でHPはあまり減っていない。そのままステータス画面を開いた。


 


□□□□□□□□□□□        


プレイヤー名:みきゅあ  


出身:第七世界《地球》

所属:


選択:職業制

職業:罪人 Lv12


能力値: 

 HP 700

 MP 1790


STR 68

VIT 68

INT 215

DEX 26

AGI 232

LUK 26


BP:134


□□□□□□□□□□□


 

 


 レベルが一つだけ上がっていた。今回得たBPを全てINTに振る。INTを増やせば火力も増えるし、いざって時にベルフェを呼んで魔法を掛けてもらえる。これは大きい。あいつの存在は一つのチートみたいな所もあるし……さすが上級悪魔様だ。今回の反動軽減もかなり役に立った。





□□□□□□□□□□□        


プレイヤー名:みきゅあ  


出身:第七世界《地球》

所属:


選択:職業制

職業:罪人 Lv12


能力値: 

 HP 700

 MP 2765


STR 68

VIT 68

INT 315

DEX 26

AGI 232

LUK 26


BP:34


□□□□□□□□□□□


 



 次のレベルアップからは他のステータスにも振ろうかと思う。特化型は確かに強みはあるが、反面その他が脆いからな。今のVIT値のままじゃ、危機的状況にHPがピンチで逃走犯が使えないってのとかは困る。

 GWOにせよDOCにせよ戦闘時間っていうのは基本的に短いものだ。10分以上戦い続けて決着が着かないなんて事は案外少ない。それこそ今回のような強敵が相手でも、数分で決着が着くような事が多いのでMP総量はあった方が良いが、ありすぎても……もったいないんだ。他のステータスに振れたかと考えるとな。

 目安としては俺が使う分は1000くらいでもいい。ベルフェゴールが使う分がどれくらい必要になるかわからないが…。



 『なあベルフェ。ベルフェを召喚して戦わせるに当たって、目安としてどのくらいのMP値が必要になると思う?』

 『なによ急に。えーっとねえ、幹也の言うMP値ってので計算すると……。援護するだけだったら5000くらいあれば最低限の事はするわ。普通の攻撃なら一回2000~3000くらいかしら。本気出して戦って欲しいなら最低でも50,000以上は欲しいわね。300,000くらいあれば自由に戦えるわ。怠惰系の魔法は強力なぶん燃費が悪いのよ。』




 MP30万って、いったい何時になったらコイツを使い魔として使える日がくるんだろうか…。つーか上級悪魔ってどのくらい強いもんなんだ? 俺がこのままレベルを上げていけばいつか戦えるようになるような存在なのか? その辺も少しずつ調べていかなきゃいけないな。

 ふう。戦闘での興奮も、大分落ち着いてきた。俺たち使徒の最終目標がイベント戦での好成績なら、たった一人だけの第四世界の使徒とやらともいつか戦う事になるだろうし……それ以前に龍人を倒さないといけないんだよな。逃走犯を使えば奴の攻撃を避けれるって事は初日の戦闘からわかってるから……攻撃力だよなあ。

 火力のなさが悲しい。ここはファンタジー世界だ。いつまで銃(ドッペルガン)が通用するか分かったもんじゃない。

 そりゃあ相手が人間だったら十二分に力を発揮できると思うが、銃弾が貫けないような固い奴に遭遇した時は一気に使えない子になる。リザードマンなんかが良い例だろう。斧のおっさんの一撃が無かったらダメージすらろくに与えられなかったし。

 これからの目標に火力の確保ってのを追加しとかないといけないなー。




 俺がうんうんと今後の事を少し考えていると、洞窟から騒がしい声が聞こえてきた。んん? なんだ? 洞窟ん中でなにか起こってるのか?



 「わぁぁぁぁ!ミキュアさーーーん! 逃げてくださいっすー!」

 「!?」




 洞窟の中から、今まで見たアレンの動きのなかでも最速のスピードでアレンが走ってきた。その動きは、まるで何かから逃げているようだったが……あ、その後ろからは……無数の黒蟲の大群が…………orz 

 俺は一瞬わけがわからなくなって茫然とする。か、勝てるのか? っていうか勝てるわけねえだろ! に、逃げなきゃ!!



 








 結論から言うと、俺とアレンは黒蟲の群れからの逃走に成功した。村の方向に逃げては最悪の結末しか見えないので、洞窟の周辺を逃げて、逃げて、逃げまくって……本当に大変だった。

 その日は一旦村へ帰る事にした。黒蟲討伐依頼……依頼内容は黒蟲の"巣"の排除。つまり、黒蟲の大群との戦闘だったんだ。




美也「明日香君、次に受ける依頼ってなんだっけ?」


明日香「次は黒蟲討伐を受けようと思ってるんだ。依頼内容は黒蟲の巣を破壊する事だな」



美也「へー。巣の破壊かあ。黒蟲ってCランクの魔物だし、やっぱり大変なのかな?」


明日香「いや、そんなに難しい依頼じゃないぞ。洞窟内に虫系の魔物の防御力を下げる薬剤を投げ込むんだ。無味無臭だから黒蟲も気付かないはずだし、それで2~3日かけて黒蟲を弱体化させたらまた別の虫系の魔物の命を奪うような強力な殺虫剤を投げ込むんだよ。そしたら弱った黒蟲の大群が慌てて巣から飛び出すからそこを広域魔法でまとめて叩くって感じだな。だから今回は魔法の得意な姫宮がカギになる。間違っても真正面から戦いなんて挑んじゃだめだぞ。黒蟲はCランクの中ではそんなに強くはないけど、数が多いからいずれ負けてしまう。そんな無茶できるのは噂に聞くA級冒険者くらいだからね」


美也「ふーん。そういえば姫宮さん、なんか私にさ、妙に親切なんだけどなんでだろう? 明日香君なんか知ってる?」


明日香「それは……また今度教えてやるよ。あいつは、その、なんていうか…」

美也「?」



美也パーティー紹介

・斉藤美也 『ミャア』   ←幹也の妹。初期B級。神術使い(超レアスキル)

・如月明日香『アスカ』   ←幹也の親友。初期C級。魔法剣士(超レア職業)

・姫宮静香 『シズ』    ←幹也の級友。初期E級。呪術士(普レアスキル)

・???? 『乙牌師匠』  ←幹也の師匠。初期B級。勇者(超超レア職業)


幹也パーティー紹介

・斉藤幹也 『みきゅあ』 ←初期D級。罪人(超超レア職業)

・アレン・ウルスダッツ  ←初期C級。獣人とエルフの混血種。




※幹也が初期D級でVR初心者の明日香が初期C級なのはレア職業のスキル効果の持続性の違いからです。幹也の職業のスキルは効果が強力なため持続性が特に欠けています。明日香のスキルはある程度の強さを保ちつつそれなりの持続性を持つバランス型なので初期ランク認定試験中にスキルをフルに使えていたのでC級になることが出来ました。

 例えば幹也が明日香の職業の魔法剣士を得ていたらBランクに成れてました。スキル:殺人鬼発動中の幹也はぎりぎりAランクに届くかなくらいの強さです。

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