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番外編01『去年もやったでしょ』

※性夜につき下ネタ注意。







 ゲーム220日目。


 「んぅ……」


 ぐりぐりと俺の腕に顔を擦りながら、レアが寝惚けた声を洩らした。

 目が見えなくなってから、朝起きた時の寝惚けた感覚が取れにくくなった気がする。最近、寒くなってきたことを加味したとしても……ベットから出たくない、もう少し寝ていたいって気持ちになる。


 ここには学校は無いし、ミュートラルも無いから。別段これといった用事がないのなら、早朝に起きる必要性はあまりない。強いて言えば、レアに朝飯を食べさせないといけないって理由はあるが……無理に起こすこともないだろう。幸せそうに寝てるんだから。


 「…………」

 「…………」



 その姿を、じっと真顔で見つめている女がいた。ラナだ。

 「お姉ちゃんひとりだとさむいよ、いっしょにねよ?」とレアが言い始めてから、俺たちは三人で寝ている。元は二人用の大きなベットだが、レアが小さいのと、俺の身長が平均より少しだけ低いせいか三人で寝ても結構余裕があったりするんだ。


 だから、ラナが入り込むのが嫌なわけじゃないんだけど……すぐ近くにいるはずなのに、気配が無いんだよ。そりゃあ魔法陣や嗅覚強化を使えばそこにいるってのは一発でわかるんだけどさ。まず、呼吸音なんて絶対に聞こえないし、体は動かしてもベットなんて軋ませないしで。真顔でじっとこっちを見ている。


 今も、ほら。左頬を枕に埋めながら、じっとレアの背中を見てる。

 少しだけ目を薄くして、口をぎゅっとして……ん? いや、待てよ。まさかな。そんなはずがない。


 嗅覚強化を使用して、すん、と一嗅ぎしてみる。

 …………。何かの間違いかもしれないから念の為にと、聴覚強化も併用して、あ、駄目だ。ナニしてやがる。真顔で、じっと此方を見つめながら。手で弄ってるのか布団で擦ってるのか……はぁ、こんな時間から何してんだよ。いや、百歩譲って時間はいい。ここでしちゃ駄目だろ。


 はぁ……ほんと、欲望に忠実すぎる。

 これがなければ、美少女暗殺者と褒められるのに。だから幼児嗜好の変態女って言われるんだよ。


 レアは寝ていて、ラナはしていて……俺も寝るか。

 どうせこの脚じゃ訓練も碌にできない。戦闘モードでの最適化を使用した場合、スキル発動時間はたったの10分しかない。これが俺の訓練時間。非戦闘モードじゃ成長制度が反映されないから訓練にならない。よって早起きしなくても、そう変わりない。なら、レアの睡眠を邪魔する意味もない。だよな。おやすみ……。






■■■



 「お兄ちゃん、おきて。あさ、だよ?」



 ゆさゆさと揺らされている。

 あさだよ、と。レアの声が聞こえ、二度寝を終えて起きようとした。すると、その寸前でぎゅっと抱きつかれたような感触が……レアは基本的に甘えん坊だから、寂しさを感じたりすると、唐突に甘えてくることが多々ある。こんな時は大抵が、背を擦ったり頭を撫でたりすれば満足してくれる。


 「よしよし、どうしたん…………おい」

 「えへへ……いふぁい」



 痛い、と言ったのだろうか。知るか。

 なぜこんなことをしたんだろうか。レアの声真似をしていたラナを引き剥がして、ぐっと背を伸ばす。んんー……っと。魔法陣に魔力を注ぎ、周囲の様子を確認すると隣りのベットの上でキツとミルと一緒にお人形あそび? いや、ままごと?をしているレアが見れた。


 以前、俺が買ってきたクマっぽい魔物をデフォルメした人形。

 それを両手で持って、ぎゅーっとキツとミルに押し当てている。……何をしてるんだろうか。本来は夜行性で朝はおねむな二匹組が迷惑そうにしてるんだが……まぁいい。それより、ラナだ。さっきの声真似、本当にレアかと錯覚するような完成度だった。今思えば、しゃべり方がラナっぽかったな。ラナは基本的に、とぎれとぎれに話す傾向がある。


 「おはよ。さっきのすごいな、どうやってんだ?」

 「秘密。あとね、みきゅあくん、よだれのあと、ついてる、よ?」



 そう言いながら俺の頬を指で擦り始めるラナ。

 どうせ洗顔するんだから……と断りを入れるよりも先に、「よし、できた」と拭き終えてしまった。年下に涎後を拭かれる成人男性の図。なんだか間抜けっぽくて『みきゅあ』らしくない。


 「洗顔するんだから」

 「でも、レアたんのよだれは、ふいてる、よね?」



 そりゃあ、溢れんばかりに垂れまくってることがあるからな。拭いてあげるだろ。


 「まあな。でも……待て」



 ラナの腕を握って、その行動を遮る。なんだか、嫌な予感がしたんだ。


 「今、何をしようとした?」

 「ん、なにも。みきゅあくん、離して。女の子の腕、強く握っちゃ、ダメ、だよ?」


 「ああ、悪かった」

 「ん」



 ラナの腕を離して、バケツを探す。

 木で作られた、まるでタライのように大きいそれを下に敷いて、洗顔等を済ましている。この世界、トイレはあっても洗面台は無いからな。ふわふわしてなくても、吸水性が異常に良いタオルとか、魔力を込めると一瞬で綺麗になる雑巾とか、そんなのばっかり存在する場所だ。洗浄の魔法があるのだから掃除用具なんていらないじゃないかとダークロードに尋ねたこともあるが、コイツは何を言ってるんだ?みたいな顔をされた。どうも違うらしい。


 顔を洗い終えて、レアにも洗顔をさせなきゃと視点を移すと……指を咥えているラナが視界に入った。魔力を更に込めて、何かの間違いではないかと再確認。確認終了。ギルティ。はぁ……ラナの奇行は、早朝から数えてこれで三度目になる。


 「どうした、ストレスでも溜まってるのか?」

 「うん?」



 そういえば、ラナは俺たちを護衛しているんだった。

 普通に暮らしていたから忘れがちになるが、常に気を張っていないといけなかったな。勤務時間が決められているわけでもなく、誰よりも遅くまで眠らずに、誰よりも早くに起きる。俺はラナが寝ているところを見たことがない。目を瞑って寝転がっていても、話しかけると返事をするのだから、寝てはいないのだろう。護衛だと鮭延が連れてきてから、誰々に襲われただとかの報告を受けたことはないが……彼女なりに、護衛という任務を、真面目に全うしていたのだろうか。


 だとすれば、悪いことをしていたな……レアにセクハラしていたから、蹴ったり殴ったりと色々してきたけど、それが日々の苦労で溜まってしまったストレスの発散であったとすれば……必要なこと、だったのかもしれない。


 そうだよな。

 俺に対してなら兎も角、レアに対しては直接的なことをしたことは一度も無いんだ。基本的には、見ているだけ。見ているだけなんだ。自重できなかったのかと、疑問に思うこともあるが……。


 「次からは、あれだ。行動する前に相談してくれ。少しは……その、見逃したりとかも、できなくもない」

 「ん……、わかった。でも、何を相談、するの?」


 「そりゃあ、お前の、その、性欲についてだろ」

 「……えっ?」



 指を咥えたまま、頬を染めるラナ。

 お、おい、なんだよそのリアクションは。性癖は歪んている癖に、初心とか。マジでわけがわからない。これが異世界クオリティか……うっ、恥ずかしがっているラナを見てたら、こっちも恥ずかしくなってきた。


 「こんな話は、朝からすることじゃなかったな。夜、夜に話そう。寝る前とか」

 「夜……寝る、まえに」



 きゅーと唸り声を上げながら、ぱたっと顔を枕に埋めてしまったラナを放置して、レアに顔を洗おうと促した。「はーい!」と元気な返事を聞いて、今日は何をしようかと考えながらレアの身支度を手伝った。






■■■



 「奇遇だねみっきー、さぁ、冒険だッ! 冒険に行こうぜ!」

 「…………ああん?」



 朝食を終えて、レアと共に果物ジュースを飲んでいると、バン!っとテーブルを叩きながら、鮭延沙耶が現れた。この女、どこにでも現れるな。


 「おいおいサケノベちゃん、店の備品を乱暴に扱わんでくれ」

 「んー! ごめんなさーい。でも大丈夫ッ! 仮に壊しても、超弁償するし!」



 この宿の店主であるデメタスさんに注意された鮭延だが、反省している様子は見られない。


 「怒られたら、ちゃんとごめんなさいする。レアは知ってるもんな?」

 「うん!」



 口の周りにジュースを付けながら返事をするレアの口元をハンカチで拭いながら、鮭延の言葉を聞き流す。


 「クーリスマスが今年もやってくるぅー、いえーぃッ! クリスマスを明後日に控えた私たちは、プレゼント代を稼ぐしかないのだ!」

 「はぁ、クリスマス? 何言ってんだ。ギルドにあるカレンダー見てこいよ、8月って翻訳されるから」



 今月は8月だ。この国は短い春、秋と長い夏、冬の四季が存在するが、日本とは異なり、8~11月が冬となる。だから、クリスマスがある12月は春になるわけで……いや、クリスマスなんて祝日はこの場所には無かったか。


 「クリスマスなんてない」

 「そんな非リアみたいなこと言わないの。私だって去年は思ってたさ、クリスマスは終了しましたー!って。去年もやったでしょ!今年は我慢しなさいッ!って。でも残念でしたー、今年は違いましたー。身近に二人も男の子が、それも、私に好意を向けている男の子がッ、いるんですー!だからクリスマスはあるんですー!」


 「ですー、じゃねぇよ。だから、クリスマスなんて文化が存在しないって言ってるんだよ。クリスマスがないから、貰えるプレゼントも無い。だろ?」

 「そんなつまんないこと言わないでさ。説明はよって顔してるよ、レアちゃん」


 「くりすます?って、なに?」



 きょとんと俺を見上げるレアに、クリスマスを教えることにした。


 「とある日にな、プレゼントを持ったおじさんがやってくるんだ。レアがちゃんと良い子でいれば、プレゼントがもらえるかもな……」

 「ぷれぜんとって、どんな?」


 「うーん……レアは何か欲しいものとかあるか?」

 「ほしいの? うーんとね、れあ、みるのみと、ぶどうと、めろんがいい!」



 食べ物……それも、果物系か。サンタさんに果物を強請るのは新しいな。俺らの場合は玩具が基本だからな……果物。暖炉の傍に置かれて痛まなきゃいいけど。


 「じゃあ、あとで買いに行こうか。たくさんは駄目だけど、少しづつなら食べてもいいぞ」

 「うん! れあ、おひるはふるーつがいいな」


 「フルゥーツッ! 甘くておいしいフルーツ! で す が 。金欠で困っているみっきーは、果物が買えませんでしたー」

 「!?」



 真横から急に大声を上げられて、レアが肩をびくっとさせて驚いた。

 驚いた様子のレアは、すぐに俺の方を向いて「れあ、びっくりしてないよ」と報告をしてきた。前々から不思議なんだが、なぜそんなに驚いていないアピールをしてくるんだろうか。そういう文化がエルフの里であったのか? わからん。


 「いや、買えるから。舐めんな。果物くらい、100個だって200個だって余裕で買えるわ。知らないのか、この世界は木属性魔法が存在するから、野菜や果物が安いんだぞ。パンだってかなり安価だ。むしろ一部の調味料の方が高い。特に塩な」

 「塩は海沿いの街で買えば安いんですぅー。中央大陸で食料品を買い貯めた私に隙はないのだ!」


 「……マジか、売ってくれ。購入時の二割増しでいいな、g単価いくらだ?」

 「売りませんー、これは私の食糧ですー……じゃなくて、クリスマス! 塩なんてどうでもいいんじゃい!」



 どうでもよくはないだろ。塩だぞ。砂糖や胡椒とは違い、木属性での成長促進が使えないから。普通に作らなきゃいけない。人口がアホみたいに多いこの世界で、機械化なんて進んでいないこの世界で塩を作るのがどれだけ大変か。いや、俺らの場合は塩の生成方法くらいいくらでも選べるんだけどさ。この世界じゃ海から取るか岩を削るかしか選択肢がないんだぞ。


 「私たちがこの世界に召喚されたのが、5月20日だから。ちょうど明日がイヴになるんだよね」

 「……ん?」



 鮭延の発言に疑問点を発見。召喚されたのが5月20日?

 GWOの発売日は5月19日。俺は当日の昼頃にゲームを始めた。だから、この世界にやってきたのは5月19日ってことになる。曰く、『この世界の日付だと1月1日』らしいが、『日本の日付で考えれば5月19日』だ。あと、もうひとつ。


 「いや、今日だから」

 「んー、何が?」


 「だから、イヴが。5月19日から221日後。つまり、明日がクリスマス。んで、今日がクリスマス・イヴ」

 「んんーと……あー、はいはい。当日組ってやつねー。でもそれ、みっきー視点の話だから。私視点じゃ、明日がイヴですからッー!」



 んだよ。大声だすなよ。なんでそんなハイテンションなんだよ。軽くひくわ。


 「私視点って……ああ、なるほどな。記念日的な感覚で、俺らの範囲でクリスマスやろうぜって話か」

 「そんな感じ! だからさ、レアちゃんとラナちゃんにプレゼント、買わなきゃでしょ? そのお金を稼ぎに行こうぜーってさ」


 え、ラナにも買わなきゃいけないのか。そうか……良い機会かもな。日頃の、感謝の気持ち的な、そんな感覚でプレゼントあげるってのも。いいかもしれない。


 「けど、無理だろ。俺、リハビリ終わってないし」



 そうだ。そうなのだ。俺は未だ、クソガキにやられた傷が完治していない。

 左腕の方は、随分と動かせるようになってきた。指先の感覚は鈍いが、ゆっくりとなら動いてくれる。多少は力も入れられるし、レスポンスも良くなってきた。だけど、脚は動かない。


 杖があれば歩くことはできるが、脚を引きずってしまう。先日、試しにと立ち上がって見たものの、すっと力が抜けてしまい、派手にこけたくらいだ。とてもじゃないが、依頼なんて受けれる状態ではない。


 「最適化使えばいいじゃん。こないだは戦えたわけだしさ」

 「制限時間付きでな。10分しかないんだ。成長制度の補正無しじゃ、俺らはGランクにすら殺される」



 非戦闘モードの最適化では、成長制度が反映されない。

 スキル無し、技無し、防具の重みで碌に動けず、そんな状態で魔物と戦うのは難しい。戦闘服やドッペルガンは、特別な装備だ。成長制度無しでは装備すらできないだろう。だとすると、防具と短剣のみの戦闘となる。仮にGランクの魔物が相手だとする。武装したG級冒険者が4~6人いて、初めて戦える戦闘力だ。地球の熊やライオンなんかよりも凶暴で、強い。


 オマケに、この世界の人間は身体能力が高く、魔法なんて超常現象を自由に扱ることが可能で……初心者とはいえ、そんな奴らが複数人必要なのがGランク。極め付けは、この辺りに出現する魔物のランクが、G~Eという事実。Eランクの魔物が出現するのだ。D級冒険者がソロで戦う相手、つまり、成長制度の補正を受けた俺が適正値。補正無しで勝てるわけがない。死ぬ確率が極めて高い。無謀。無茶。そういうことだ。


 「鮭延。お前、スキルも技も無しで、外。うろつけるか?」

 「うん?」


 「使えるのは、体術と魔法だけ。しかも、元の身体能力で。常時最適化で冒険するってのは、そういうことだ

」

 「ははーん、そーゆうことね。でもさ、肝心なファクターを忘れてるぜ、みっきー」



 ああん、なんだよ……と、鮭延の顔を見ると、親指で自身を差してこれでもかといったドヤ顔をしていた。


 「私がいる。私がいるよ。A級冒険者さまの、鮭延沙耶がいるんだよ!」

 「……はぁ」



 溜め息が漏れる。


 「えっ、え、なんで? そんなやれやれー、みたいなリアクション?」

 「冒険行こうぜと、お前が誘ってきた。その時点で依頼を受けているとすれば、それはA級が受ける難易度だということ。少なくとも、D級依頼じゃない」


 「よくわかったね。因みに、B級の依頼だよ。でもさ、大丈夫なんだって。上手くやれば10分で終わるし!」



 だから行こうぜー、と。俺の肩を揺らす鮭延。

 上手くやれば、10分で終わる。だとすれば、魔物の討伐ではない。殺人依頼か? その可能性が高いな。なら、受けるって選択肢もありか……と、考えていると、目の端に涙を浮かべながら、こちらを見上げる視線がひとつ。


 「お兄ちゃん、またいっちゃうの?」

 「レア……」



 レアとラナに、クリスマスプレゼント。それはありかもしれない。だけど、そのためにはレアと離れる必要があって、それをレアが悲しむ。


 「レア。一日だけ。キツとミルを連れて、お姉ちゃんと一緒にさ。女の子だけでお買い物的な……」

 「やー! れあ、お兄ちゃんと遊びたいの!」



 ぎゅっと、脇腹に抱き着かれて……少しだけ、胸が痛んだ。

 

 確かに、最近、刺激が少なく、ここいらで冒険ってのも、悪くはないと思った。懸念すべき点は、俺が負傷しているということ。だがそれは、10分間であれば無視できる。だが、それが次の問題点。10分しかない。


 だが、依頼が殺人依頼だとすれば、10分という時間は十分すぎる。最悪、対象が強く、B級冒険者でないと対応できないレベルだったとしても、鮭延がいる。ここで、鮭延がいるという理由がでてくる。だからこそのドヤ顔。


 ……悪くない。


 「鮭延、外で話そう。ラナ。レアを頼む」



 俺に抱き着いていたレアを、ラナが抱っこして引き離した。

 やだー! と泣きながら手を伸ばすレアの姿が視界に入る。…………。


 「れーあ。ほら、うりうりー」

 「うぅー……」



 レアの頬に両手を当てて、ぎゅっぎゅと円を描くように押す。

 するとレアは「うー」と唸り声をあげながらも泣き止んでくれた。頭を撫でて「お昼寝が終わるくらいには帰ってくるから」となるべく優しい声色で言うと「うん」って頷いてくれる。どんなに引き留めても、結局は出掛けてしまうことを理解しているのだろうか。諦めが潔い。


 俺は、杖と魔法で歩行を補助しながら、宿を出発した……。





■■■



 「みっきーって押しに弱いよね、なんだかんだで私と一緒にきてくれる。私、この世界に来てからモテモテで困っちゃうわー」

 「ふーん。んで、依頼内容の確認だ。誰を殺せばいいんだ?」


 「あれ、殺しだって言ったっけ?」

 「10分で終わるんだろ。だったら、他にないだろうが」


 「だったら話が早いねッ! ええーっと……あ、あった。ごほん、


 ある日、冒険者になった少年と少女がいました。

 二人は幼馴染です。同じ道場で剣術を習っていました。


 剣の修行に明け暮れていた二人は、成人すると同時に冒険者になります。

 道場にいた子供たちは皆が街の兵士か冒険者になったので、当然のように二人もそうしました。


 少年と少女は、道場でも1位2位を争うほどの使い手です。

 なので、自分たちが他のG級冒険者と同列で扱われることに我慢できませんでした。


 俺たちは弱くない、私たちは彼らより強い。

 二人は一般的に一流と認識されている、D級依頼の内容を確認して、Dランクの魔物を狩ることで自身らの実力を証明しようと決心しました。


 魔物の住処までは低級の魔物としか遭遇せず、戦闘は楽に進み、自らの腕に自信が付きました。

 しかし、彼らの快進撃もここまで。Dランクの魔物は道中のそれとは比べ物にならないほどの力を持っていたのです。負ける、死ぬ。そんな負の感情が、彼らの頭に過りました。


 そして、死を覚悟した彼らの前に、その三人は現れました。

 

 D級、及びC級冒険者で構成された、C級パーティーの一団です。

 C級パーティーの三人は、さして苦労もせずDランクの魔物を討伐してしまいました。


 命を助けられた少年と少女は、三人に礼を述べました。ありがとう、助かりました。

 こうして、二人は自らの過ちを認め、G級冒険者から一歩ずつ始めようと誓ったのでした……」



 まるでお伽噺を話すかのような口調で、物語を進める鮭延。

 あれだな、よくいる初心者の冒険者って感じだな。俺らみたいな成長制度(チート)無しじゃ、最初からDランクは無謀だろう。E、又はFランク辺りなら、或いは勝てたかもしれないが……。


 「なんだよ、よくある話じゃないか。そういった経験を踏んだ奴は強くなるぞ」

 「そうそう、よくある話なの。ここまではねー……んじゃ、続けるね。



 魔物の住処を出ると、辺りは暗くなっていました。

 どうやら日が暮れてしまったようです。


 少年と少女、それと三人は、火を熾して朝を待つことにしました。

 道中、幾度も戦闘を繰り広げ、Dランクの魔物に殺されかけた男の子と女の子は、強烈な疲労感を感じていました。


 それに気付いた三人は、交代で見張りを出そうと提案します。

 そうすることで休める時間が増えるからと、彼らは提唱したのです。


 少年も少女も、その提案を受け入れました。

 

 最初の一刻は、俺たちが見張るから休んでいてくれ。

 実力者が見張ってくれる。それを聞き安心した二人は、すぐに寝てしまいました。



 …………んっ、あっ、あぁん!」



 「おい、ちょっと待て」

 「待たないッ!


 あんっ、やめて、嫌ッ、と。叫び声が辺りに響きました。

 幼い頃から聞き慣れた声色で、でも初めて聞くような声が、少年の耳元で響きました。


 それが少女の声であると気付いた少年は、すぐに身体を起こそうと試みます。

 ですが、身体を動かすことができません。少年の身体はロープで縛られていたのです」



 まさかの急展開に、俺は待ったを掛けた。

 だが、テンションの上がった鮭延は、渾身の演技を交えながら話を続ける。


 「少年は顔を上げました。すると、非情な現実が彼を襲ったのです。

 

 服を破られ、男たちに犯されている少女。

 泣きながら、やめてくれと懇願する少女。

 煩いからと、一物で口内を塞がれる少女。


 将来を共に過ごしたいと願い、恋仲になったばかりの少女が。

 そんな恋人が……犯されていたのです。



 少年は叫びました。やめろ。やめてくれ。彼女を離してくれ。

 しかし男たちは笑いながら、少女を犯し続けました。


 泣いてばかりの少女に嫌気がさしたのか、途中からは媚薬まで使って。

 一晩中、少女を犯し続けました…………。




 夜が明け、少年の前には全裸の少女が倒れていました。

 

 焦点が合わず、どこか一点を見つめて倒れている少女。

 全身を、男たちの体液で汚された少女。

 

 少年が愛してやまない、笑顔が素敵で、可憐な少女が。

 まるでゴミのような格好で、倒れているのでした。


 そして……」



 「んで、なんだ。そのクソ共を殺せばいいのか?」

 「んもー、あとちょっとで終わるのにー! まぁ、そーゆーこと。偶々同じ依頼を受けてた他の冒険者が二人を発見して、事情を聴いて、ギルド規約に違反したその三人を抹殺しろってさ。ギルド側から依頼が下ったわけ」



 余りにも鬱な物語なので、話を中断させた。

 鬱展開って嫌いだ。


 「なるほど……その三人も油断したんだろう。近場の魔物が後始末をしてくれると高を括ったんだろうが、甘かったな。賢者タイムに考えたことは、大抵が間違ってたりする」

 「賢者タイム! あれねー、私も初めての時はびっくりしたよ。性欲の波が一気に減っちゃうんだよね! さっきまで超絶美人に見えてたお姉さんが、一瞬でそーでもないくらいになっちゃうんだもん。不思議だよねー」


 「……どこのお姉さんと何したのかは知らないが、取り合えず、依頼の概要は理解できたわ。つまりは強姦魔三人をぶっ殺せばいいんだろ。一人だけC級ってのが厄介だが、そいつの相手をお前がすれば、あとはD級が二人だ。なら、俺一人でもなんとかなるか」



 魔物と違って、人間の耐久力は低い。スキル:殺人鬼があれば余裕で殺せるし、多分、無くても余裕で殺せる。なんせ、こっちにはドッペルガンがあるからな。銃があれば大抵の人間は殺せる。銃弾を避けるって例もあるが、あれはC級以上の化物にしか通用しないから。余程のスピード特化戦術でも取られない限り、D級冒険者であるなら瞬殺できるはずだ。


 「あとねー、この依頼には私の仲間も参加するから。剣士キャラで、美少年で、かわいい子なんだけど」

 「仲間……ああ、アイツか」



 鮭延の仲間……あの剣士君か。

 鮭延がここに泊まっているせいか、それなりの回数は見かけている。


 「ラシュードって名前ね。ラシュ君。そろそろ到着すると思うんだけど……来ないね。普通、こんな感じの話をしてると、都合良い感じさ、走ってくるんだけどなー」

 「自己中過ぎだろ。そのラシュード君も、お前に合わせて生きているわけではないだろうに……」



 そこまで話したところで、タッタッタッと、駆けてくる音が聞こえてきた。

 魔法陣の範囲を拡大すると、件のラシュード君が慌てた様子で走っているのが見て取れる。おお、マジでタイミングばっちりできやがった。


 「ご、ごめんなさい! 僕、遅れました?」

 「遅いよラシュ君! こんな寒いのに、一時間くらい待ったよ!」



 鮭延の怒声に、この世の終わりのような顔をするラシュード君。

 どうやら、鮭延のことを怖がっているらしい。こんなのでもA級の威厳があるってことか?


 なら、俺も威厳をださないといけないな。

 俺は、一団と低い声を意識して、ラシュード君に話しかけた。


 「こんにちは、ラシュード君。こうしてちゃんと話すのは初めてだね。俺はみきゅあ。D級冒険者のみきゅあだ」

 「うわ、どしたのみっきー。そんなえろかわいいロリ声だしちゃって!?」


 「…………このアホ女とは古い知り合いでね。今日は一緒に依頼を受けさせて貰うことになった。よろしく頼むよ」

 「えっ……あ、えっと、ミキヤさん、じゃないんですか?」



 ……は?

 なんで俺の本名しってんの? いや、犯人はお前しかいないんだけど。


 「おい。なんでばらした」

 「え? いやー。あはははは…………あ! こらッ、ラシュ君! 名前を間違えてるぞー、みっきーの本名はみきゅあちゃん。幹也でも、キツジローでもないよ!」



 ……もういいや。

 はぁ、口が軽いのは昔からか。クラスメイトの好きな人とかばらしまくってたからなぁ。


 「は、はい。ミキュアさんですね。僕はラシュードです。一応、C級冒険者をやっていますが、まだまだ未熟者ですので、あの、よろしくお願いします」

 「C級……よ、よろしくな」



 そんなに強かったのか。あれ、でも、確か初心者なんだよな……ってことは、認定試験を受けたのか。俺の時はスムーズに受けれたけど、あれって本来はコネがないと受けることすらできないらしいな。受付のおじさんには感謝だな。


 んで、初期ランクCってことは、アレン相当の戦闘力ってことか。強いな……コイツも銃弾とか避けるんだろうか。


 「というか、おまえらならこの依頼はクリアできるだろ。なんで俺まで……」

 「それは、みっきーがひもじいよぉーって悩んでたからでしょ。これね、二人で達成すると金貨20枚なんだけど、三人でやれば金貨30枚貰えるの。特別サービスでみっきーには15枚あげるからさ、いいでしょ?」


 「え、いいのか? 金貨15枚って、結構な大金だぞ」


 

 金貨一枚が50万円相当だから、報酬が750万ってことになる。C級パーティーを壊滅させられる人材となると、それなりに限られてくるから、一人につき金貨10枚は妥当だろうけど……。


 「みっきーがお金で釣られたって事実が大事なんだよ! そうやって段々と意識を改善していくことで、最終的にはお金のためなら自ら腰をふる淫乱なえろみっきーに……」

 「ならねぇよ。断言してやる。それは、無い」



 うん、絶対にない。


 「ほら、お金が欲しいんでしょ! だったらおしりを! もっとおしりをふ「ちょ、サヤさん!? ほ、ほら! そろそろ出発したほうがいいですよ! えっと、なんでしたっけ。大事な日付が近いんでしたよね。時間を大切にしないと!」



 身内の恥を晒すまいと、鮭延の奇行を止めようと必死なラシュード君。

 つーか、鮭延の暴走っぷりがやばいな。中学ん時は、軽い暴走はあれどここまで酷くはなかった。異世界という非日常的な環境下で、ストレスによって人格が変わってしまった……なんてことがあってもおかしくない。この世界、色々と狂ってるからな。魔物がいるせいだと思うけど。


 「んー? そうだね。んじゃ、転移のとこまで歩きながら作戦会議しよっか! ほら、おんぶしてあげる!」

 「…………悪いな」



 杖と魔法による補助があれば歩ける。だけど、長距離を歩くってのはちとつらい。

 鮭延は異性を背負うことをなんとも思っていないようだし、ここは甘えることにしよう。因みに、俺は異性に背負われるってのは、ちょっとだけ嫌だ。でも、今日初めて話したような人に背負われるほうがもっと嫌だ。


 「作戦会議ですか。あれ、いままでは、適当に流れでー、でしたよね?」

 「適当に流れで? 鮭延おまえ、その場まかせで冒険者やってたのか?」


 「ち、違うよ。そんな適当にやってたのは、簡単な依頼だけだよ。さすがにB級以上の依頼はちゃんと考えてからやるって」



 ほほう、C級以下の依頼は適用にやっていた……と。

 チートスキルって便利だな、マジで。成長制度を使ってる俺が言うのもあれだけど、不平等だな。


 「あのなぁ。そんなんじゃ、すぐに死ぬだろ……あ、死なないのか」



 鮭延は、謎スキルにより死なないという特性を持っている。なんだそれ。


 「お前は死ななくても、ラシュード君が危ないだろうに……苦労してるね、君も」

 「そんなこと、なくはない、ですけど……」


 「二人して私の悪口!? まぁいいけどねー、悪口を言うってことは、私のことを見てくれてるってことだからね! 学校の奴らなんか、私が何か言っても他人のふりだもん。ほんと、寂しかったんだから」

 

 「……寂しかったのか?」

 「実はねー。ほら、みっきーはさ、小学校の時も中学校の時も、なんだかんだで一緒にいてくれたじゃん? 他のみんなだって。だけどさ、あの都会っ子たちはさ、私がネタで言ってるのに対応がマジになっちゃうみたいなんだよね。なんてゆーか、クラスメイトではあっても、友達じゃないよ? みたいな接し方してくるの。事務的っていうか……」

 

 「それ、ハブられてるんじゃ……そうか、うざすぎてイジメられてたのか」


 それでストレスが溜まって、こんなになったのか……それじゃ、異世界関係ないじゃん。元からこんなだったのか。


 「寂しかったのなら、メールでも電話でもしてくれれば良かったんだ。話し相手くらいにはなったと思うぞ」

 「電話、メール! したかったけど、したかったけど! でも、みっきーさッ! メアド変えたでしょ! なんで教えてくれないの!?」



 メアド、変えたっけか。

 鮭延が知ってる俺のアドレスって、スマホのだろ。PCのメアドをミュートラルでも使ってるから、スマホの方はよく覚えてないな……。


 「まじでか。いや、アド変したらアドレス帳から全員にメールを送るはずだから……」

 「えっ、私のこと消したってこと?」



 本気で悲しような声が聞こえてきた。


 「いや、そんなはずはない。俺のアドレス帳は、追加はしても消去はしないから。ってことは……あ、鮭延がメアドを変更したんじゃないか? それで、俺の変更通知が届かなかったとか」

 「変えてないよぉー、私、スマホ買って貰った小3の頃からずっと同じアドレス使ってるもん。sa-ya_sakenobe0420だもん」



 名前と誕生日って……。

 今時、俺らの親世代でもそんなアドレスは使わないぞ。


 「すまほ? あどれす? えっと……なんの話、ですか?」

 「あ、ああ。鮭延は俺に手紙を出したかったんだけど、住所が変わっていて、手紙が届かなかったんだ。だけどな、俺は引っ越しをしていないから、住所は変わっていないんだよ。なら、なんで手紙は届かなかったんだって話をしていたんだ」


 「なるほど……あ、あれじゃないですか。サヤさんが、みきゅあさんの住所を間違えて申請していた、とか!」

 「いや、それはないんだよ。アドレスが……えっと、住所が掘られた判子みたいなものがあってな、それを使って手紙を作ったから、住所を書き違えるとか、そういったミスは存在しないはずなんだ」


 「きっとあれですよ! サヤさんはドジですから、押す判子を間違えたんです!」

 「履歴が残るから、間違えてたら後で気付くんだが……えっとな、手紙の返事がこないと思ったら、何処に送ったのか調べるはずだろ。それで……」


 その後も、俺はいくつかの言葉を解説しながら、ラシュード君との会話を続ける。その間、黙って歩を進めるだけの鮭延の様子から、ガチで落ち込んでいるような、そんな気配を感じた。これから依頼だってのに、これは不味いよな。


 「ほ、ほら、あれだよ。地球に戻ったらさ、一緒に遊びに行こうぜ。そこで番号でもなんでも、もう一度交換すればいいだろ」

 「遊びにって……どこに?」


 「どこって……じゃあ、喫茶店とか。美味しいパンケーキがある店、知ってんだ」

 「えっ、それって、みっきーがリアルで私とデートしたいってこと!?」



 デートって……いや、でもなんかどことなく嬉しそうだ。

 ここでデート違うと言って、機嫌を損ねてもあれだな。ここは肯定しておくか。


 「そうだな、帰ったらデートするか」

 「うわっ! さいきんモテ気きたなーとか思ってたけど、本当にきてたっぽい。みっきー、約束だからね、忘れたら酷いからね!」


 「記憶力には自信があるから、大丈夫」

 「私もこーゆーことは絶対に忘れないから!」



 10年後だろ? 絶対忘れてると思うわ。

 ……でも、喜んでるみたいだから、これでいいか。



 その後も、転移門に着くまではこんな感じの雑談が続いた。








 「あのー、作戦は……」



 ん、ああ、作戦か。話が脱線していて気付かなかったな。そうか、作戦会議をするんだったな。

 ラシュード君が話の脱線を思い出したから、その場で三人を殺す方法を話し合った。その結果、俺が三人共殺すことになってしまった。どうしてこうなった……。



 

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