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番外編01『ぷろぽーず、だよね?』

 「なぁ、ガルエン。次はどの国に行くよ。俺は帝国なんかが良いと思うぜ」

 「つってもなー、そっち側は魔物がすくねぇだろ。金を優先してぇんだよなぁ」


 「ボ、ボクは王国に戻りたいでふ。あの国の娘はちっちゃくて気持ちいいでふ」


 ガエインとディラフは女好きで、目的地を好みの人種が多いかで少ないかで決めやがる。

 ったく、女なんかのどこがいいんだか。ちっとも理解できねぇぜ。冒険者足る者、何よりも金を優先すべし。これを軽く見てるようじゃ、いつか痛い目に遭うぜ。俺にまで被害が及ぶ前に、こいつらとは縁を切るべきかねぇ。


 「ならよ、この際だから一旦パーティーを解散するか?」



 深刻にならねぇように、軽い感じで切り出してみる。

 なんせ、二人とも頭がイっちまってるからな。下手すりゃ仲間である俺にすら危害を加えかねない。


 「このままでいいんじゃないか? 俺はお前らとつるむのとか、悪くないって思ってるぜ」

 「ボクもでふ。あと半年くらいは予定がないでふから、このままでいいと思うでふ。それに、ガルエン氏といればまたあの美少女剣士みたいなかわいい女の子とヤれるかもしれないでふ」


 でゅふふふふふ、と笑うディラフに、頭が痛くなってくる。

 ああ、こいつらからは逃げるのも一苦労ってわけか。


 そうなんだよ。ガエインもディラフも、実力はありやがるんだ。だから、それなりの難度の依頼を受けてりゃあ、危機に陥ってる女冒険者に遭遇するなんてことも、少なくはねぇ。そんな状況を見つける度に助けに入って……女を襲いやがる。


 人として最低のクソ野郎だな。

 ったく、てめぇらが楽しんでる間に襲ってくる魔物を狩ってるのは俺なんだぞ。



 現状に頭を痛めていると、唐突に「でゅふ!?」と馬鹿みてぇな叫び声と共に、ディラフが立ち上がりやがった。今度はなんだ?


 「どうしたんだ、クソか?」

 「違うでふ! 感知魔法に感あり、女の子が二人、この小屋を目指して歩いてきてるでふよ」


 「あぁ? 女の子だぁ? 魔物がうろついているようなこの森ん中でか?」

 「そうでふ。あ、片方の子は足を怪我してるみたいでふね。それをもう一人の子が庇ってるみたいでふ」


 「ほほう……でよ、でよ! どうだ、可愛いのか?」



 身を乗り出してディラフに尋ねるガエイン。


 「ちょっと待つでふ…………でゅふ、でゅふふふふ、ケモ耳ロリっ娘キタコレ! 怪我してる方がロリっ子で、庇ってる子がツンツンしてそうな感じでふね! キツそうな感じがガエインの好みとぴったりでふよ!」

 「お、マジかよ! それを言ったら、ロリなんてお前好みなんじゃないか!?」



 にやにやと下種な会話を続ける二人に、俺は呆れてしまった。


 「おい、どうすんだ。この小屋に来んだろ? 入れてやんのか?」


 「入れてやるだろ。んで、入れてヤるんだろ?」

 「そうでふねー。大方、迷子にでもなったんでふね。腰に山菜を入れた籠をぶらさげてるみたいでふし……優しく受け入れて、ドアを閉めた瞬間に襲うでふ」



 ……勝手にしてくれ。俺は寝る。



■■■


 ガンガン、ガンガン、とドアを叩く音が鳴る。


 「すいませーん、開けてくださーい! 誰かいませんかー!」



 俺が二階にあるベットで横になると同時に、そんな声が聞こえてきやがった。

 地獄を見て、殺される女の声だ。これから寝るってのに、嫌な声を聞いたぜ。


 「――、―――!」

 「―――、―――――」



 なにやら話し声のようなものが微かに聞こえたが、よくわからねぇ。まぁ、どうでもいいけどよ。


 さて、寝るか。

 埃っぽいベットの上で、目を瞑った瞬間……タン、タン、と。二度、異音が聞こえた。


 「……なんだぁ?」



 何かが破裂するような音が、立て続けに鳴りやがった。

 一体、何の音だ。ここまでハッキリと響くっつーことは、それなりにでけぇ音がしたってことだぞ。


 「一応、念には念をってな」



 剣を持って、部屋をでる。

 あの音の正体を確かめてから寝ることにするっきゃねぇな。もしかしたら、その二人の女ってのが魔物にでも追われていたのかもしれねぇ。それで、ドアが破られた音が聞こえていた、なんて可能性もあるわけだ。もしそうなら、呑気に寝てたら殺されちまう。何事にも用心しなきゃな。


 階段を降りると、話し声が聞こえてきやがった。

 ガエインたちの声じゃねぇ。女の声だ。俺は身を潜めながら様子を伺うことにした。


 「それじゃあ、このデブは使徒だったってのか?」

 「んー、多分ね。目をみたらびびっときたから。コイツもでゅふでゅふ焦ってたじゃん? てか本当にいるんだね、デュフフってしゃべるひと」


 な……なんだ、これは。

 ガエインと、ディラフが……殺されている!?


 「使徒ってんなら、殺したら不味かったんじゃないのか。仲間だろ?」

 「そう? 別に一人くらい減ったって変わらないでしょ。よっぽど強いならともかく、D級かC級じゃどうせ雑兵だしー」


 ウソだろ。この女共が殺ったってのか。んな馬鹿な話があってたまるか。

 ガエインはD級冒険者を何年も続けてやがるんだぞ。何年もD級で生きてるんだ。並みの冒険者じゃねぇ。それに加えて、ディラフがいやがる。あの変態は、確かにどこぞの商人みてぇなデブ野郎だが、それでもC級冒険者なんだ。こんな、ガキが不意打ちで殺せるような相手じゃねぇ。何者だ、コイツらぁ!?


 「(ど、どうなってやがる……兎に角、ここを離れねぇと。ディラフが勝てねぇヤツに俺が勝てるはずがねぇ)」


 すぐに二階の窓から逃げれば、まだ間に合うはずだ。


 「雑兵って、言いやがるじゃねえ……っと。三人目発見だ。そこの影にいる」

 「おっけー。んじゃ、お手本らしく格好良く殺してね」



 うぉ!?

 バレちまったか……なら、仕掛けるしかねぇか。俺の足じゃどうせ逃げたって殺される。なら、数で勝っているせいか油断している、今しかチャンスはねぇってことだッ!





■■■



 影から飛びだしてきたのは、20代前半くらいの男だった。

 先の二人は、最適化を使うまでもなくドッペルガンで瞬殺できた。恐らく、コイツらがD級冒険者だったのだろう。この男がC級、このパーティーの要……本気で行かなければ、死ぬ。


 「援護頼むぞ、スキル:最適化ッ!」

 「おっけー! スキル:手品魔法っと」



 アバター姿へと変化した俺は、SMGに形状変化させたドッペルガンを、その男に向けて掃射した。ここは室内で、狭い。薙ぐように撃てば、この男がいくら超速で弾を避けようとも、全てを回避しきるのは不可能だろう。


 「シッ!」

 「うっ、マジか……」



 男は右手に持っていた剣で、銃弾を弾いた。

自身に当たるであろう弾だけを斬り、最短ルートを進んでくる。


銃弾を見切る男。

厄介な相手か……どうするべきか?と考えたところで、鮭延によるまさかの援護が行われた。


 「はろー!」

 「んなッ、離しやがれ、クソがッ!」



 男の背後に瞬間移動した鮭延が、腕を押えるように抱き着いた。お、攻撃チャンス。


 「ないす、鮭延。まとめて死ねッ!」



 もう片方のドッペルガンも取り出して、男と鮭延に銃弾の嵐をお見舞いしてやった。

 さすがに、この一瞬でSTRを強化されている鮭延を引き剥がすのは難しかったようで、男は銃弾に体を震わせると、その場で崩れて……死んだ。


 「ふぅ、やっぱり援護があると楽だな。まさかC級冒険者をここまで簡単に殺せるとは思わなかった」

 「痛いし! 敵だけ撃つかと思ってた、敵だけ撃つかと思ってたよ!」



 殺しても死なないチート持ちが喚いている。


 「しょうがなかった。相手は銃弾を見切るような奴で、一秒あれば形勢逆転を許したかもしれない。そんな切羽詰まった状況で、死なないお前を配所する余裕はなかった」


 「なによそれ……まぁいいけど。ほら、死体持って帰らないと。みっきー、ボックス空いてる?」

 「空いてる。てか、これが埋まった試がない」



 俺は男たちの死体をアイテムボックスに収納して、小屋をでた。

 この小屋、誰の物なのかは知らないが、血まみれで放置することを許してくれ。俺、洗浄の魔法が使えないんだ。鮭延が他人の住居の汚れを気に留めるわけがないし、放置せざるを得ない。


 「それじゃ、ラシュ君を回収して帰ろうか。プレゼント買うんでしょ?」

 「そうだな……何を買えばいいんだろう」


 レアは果物が食べたいとか言っていたが、それは夕食にケーキでも作ってあげれば済む話だ。


 「ラナちゃんには装飾品とか良いかなーって思うけど……あ、リングとか良いんじゃない? ほら、この世界って魔法効果の付いたリングとか多いじゃん? 探せばかわいいのとかあるかも」

 「リングか……でも、サイズ知らないぞ、俺」


 「それは私が知ってるから大丈夫!」

 「なんで知ってんだよ。ありがたいけど。レアには……ネックレスにしてもらえばいいか」



 さすがに、レアの指に合う指輪はないだろう。なら、チェーンで繋いでもらえばいいんだろうか。

 でも、アクセサリー関連でレアが喜ぶかが不明だ……あ、なら、あれも一緒にあげればいっか。手のリハビリでやってた編み物。リハビリ次いでにミトンとマフラーを編んだんだ。


 この世界、剣の滑り止め用とかの手袋はあっても、寒さを凌げるような凌げる手袋が無いんだよな。冬用の服はあっても、手袋だとかマフラーだとか、そういったものは売っていなかった。もしかしたら、高級店とかに行けばあるのかもしれないが……貴族用の店に冒険者が行くと、すごい目で店員に睨まれるんだよなぁ。あれ、なんでなんだろうな。別に、貴族だろうが冒険者だろうが、金持ちってことに変わりないだろうに。


 「なぁ、仮にお前が幼稚園児くらいだとしてさ、クリスマスプレゼントに、手袋とかマフラー貰ったら嬉しいか?」

 「え、手袋とマフラー?」


 「そう、手のリハビリに編んでんだ。ミトンとマフラー」

 「編み物を? なんかみっきーの女子力が高過ぎて、女としての自信がちょっとだけなくなってきたわ」



 女子力? そんなものはない。ただ、小学生の頃に美也が手作りマフラーを欲しがったことがあってな。「誕生日プレゼント、何が欲しい?」と聞いたら「お兄ちゃんの編んだマフラー!」って言われたんだ。当時、どれだけ苦労したか……まぁ、そのせいである程度の物は作れるようになったんだけどな。


 「小学生ん時に勉強したんだよ。だから作れるってだけで、リハビリに丁度良かったんだ」

 「みっきーの手作りマフラーかぁ……うん、ありだね!」


 「本当か?」

 「うん! だって、みっきーが私の為にマフラー編んでたって考えるだけで勃起もんだしね! あ、私のも編んでよ!」


 「マフラーか? 別に構わないけど……時間かかるぞ? まだ完治してないからな。一週間くらいはかかる」



 プレゼントについて考えていると、ラシュード君との合流地点に着いた。

 なぜ、ラシュード君が俺たちにと共に来なかったのか。それは、この依頼の目的がラシュード君の意識改善にあったからだ。


 「ただいまー、ラシュ君。ちゃんと見てたー?」

 「……はい、見てました」



 なんでも、ラシュード君は特別な力を持っているようで。俺の魔法陣と同じように、遠方の状況がわかるんだそうだ。それを使用して、先の俺と鮭延の戦闘を見ていたというわけだな。


 「みっきーは躊躇とか、容赦とか。これっぽっちもしてなかったでしょ? 冒険者ってのはね、魔物だけじゃなくて人を殺すこともあるんだよ? だから、人は斬りたくないとか言ってちゃダメなの。おーけー?」

 「……確かに、そうかもしれないです。でも、なんて言うか……怖いんですよ」



 人を斬るのが怖い、か。

 俺はゲームで慣れてたからな。そんな心配をしたことはない。むしろ、躊躇してこっちが殺られる方が何倍も怖い。デス数が増えると総合点が減るからな。総合点が減ると、ランキングが下がる。そっちの方が怖かった。


 「怖くないよ。さっきの見た? みっきーってば私ごとぶっ殺したんだよ! 理由を聞いたら、お前を配所する余裕はなかった、とか言ったんだよ!? つまり、みっきーレベルの冒険者になるには、余裕が無ければ味方ごと殺すくらいの心構えが必要ってことだね!」



 それはちょっと違うんじゃないか?

 俺がお前を撃ったのは、死なないってわかってたからだろ。


 「…………」

 「ラシュ君。きっと近いうちに人を殺さなきゃいけない時がくるよ。断言する。冒険者になって一年経ってない私ですら、こうして殺人依頼を任されてるんだ。世の中には悪人がいっぱいだからね。魔物の相手だけってわけには、いかないよ?」



 下を向いて、黙ってしまったラシュード君。

 ううむ……まぁ、難しい問題だよな。この世界は地球ほど命を重く捉えていない。だからといって、ラシュード君みたいな人がいないわけじゃないんだ。悪人だからといって、皆が皆、同族を殺せるってわけじゃない。でも、冒険者をしていれば、そういう場面は絶対にやってくる。だから、覚悟が必要なんだ。


 「そのうち慣れると思うけどねー。ほら、落ち込んでないで、元気だして! これからみっきーのプレゼント買うの手伝うんだ。一緒に行こう、ね」

 「プレゼント、ですか?」


 「そうなの。リングがいいんじゃないかーって話してたんだ。ラシュ君、王都の生まれでしょ? お店の紹介してよー」



 ……そのうち慣れるか。そうだな、きっと慣れるだろ。

 人間は慣れる生き物だからな。人殺しにだって慣れるし、異世界にだって慣れる。冒険者にだって、きっとなれるさ。




■■■



 A級冒険者になると、帰りの転移石も貰える。羨ましい限りだ。

 街に戻った俺たちは、ギルドへの報告を済ませると、プレゼント選びを始めた。買うものは決まっていたから、そんなに時間も掛からずに済んだ。


 その後で昼食を食べてから解散したので、時刻はまだ一時くらいだと思われる。

 腕時計とかスマホがないと不便だが、時間なら太陽の位置でなんとなくわかる。公転とか自転の周期が地球とは違うはずだけど、1日は24時間で、1年が365日なのがこの世界だ。今更深く考えたって仕方ない。


 宿に戻って部屋を覗くと、レアたちは留守にしていた。

 遊びにでも行ったんだろうか。丁度良いと思って、最適化を使ってささっと編み物を完成させた。DEX値補正の影響か、リアルでなら2時間はかかるであろう作業が30分程度で終わってしまった。これで、レアのミトンとマフラー、そしてラナのマフラーが完成したわけだ。



 暇だな……あ、そういえばケーキを作るんだったな。デメタスさんに厨房を貸して貰うか。

 部屋を出て、酒場の方に行くと、準備をしているデメタスさんがいた。この人、いつも働いてるな……休日なんてないわけだし、大変そうだよな。


 「デメタスさん、お菓子を作りたいので厨房を貸してほしいんですが……」

 「お菓子か?」


 「はい、ケーキってお菓子なんですけど」

 「ケーキ、ケーキね……まぁ、使うのはいいけどよ。完成したら見せてくれよな」



 お、さすがデメタスさん、優しいな。いつもレアに果物をサービスしてくれたりするこの人は、多分いいひとだ。完成品が見たいってのは、美味しそうならメニューに追加するだとか、そういったことだろうか。なら、頑張って作ってみるか。


 因みに、俺はお菓子作りもできたりする。理由は、編み物と同じ感じで美也に頼まれたからだ。お兄ちゃんの作ったケーキが食べたいって。さすがに、ケーキ作りは大変だった。師匠と一緒に足掻いてみたものの、初めて作ったのは美味しくなかった。それから何年も作り続けて、やっとまともなものが作れるようになったんだ。


 作るのケーキは二種類。

 ひとつは、普通のクリスマスケーキ。所謂、ストロベリーショートケーキと呼ばれるものだ。苺が青いこの世界だと、ちょっと不思議なケーキになりそうだが……。もうひとつは、苺以外のフルーツものせたデコレーションケーキ。カラフルにはなりそうだけど、ケーキと果物の味が喧嘩しないかがやや心配……たくさん果物がのってればレアも喜ぶだろうからな。それに、合わなそうなら別々に食べればいいんだ。


 材料は買ってある。生クリームの入手が難しいと思いきや、鮭延がくれた。ケーキの材料セットを。どこで買ったのかと聞いたら、課金アイテムで売っていたらしい。といっても、スポンジとクリームの材料だけだが。


 …………

 ……

 …



 できた。これでよしっと。


 「できました。これがケーキです」

 「真っ白だな。さっきの甘いのが塗ってあるわけだな」


 「これ、美味しんですけど、多分商品化とかは無理ですよ。材料が貴重なので」

 「みたいだな……ま、他の料理の参考にされてもらうよ。ありがとな」



 俺の方こそありがとうございました、と礼を言って、ケーキをアイテムボックスに仕舞ってから、部屋に戻る。

 体感だと、そろそろ四時くらいなんだが……まだ帰ってこないのか。なら、先にシャワーでも浴びるか。俺はトイレに入って、最適化のスキルをキャンセルしてから……服を脱いだ。


 ここのトイレはレバーを引くだけで水が流れたりとかはしない。隣りに置いてあるデカい桶に、大量の水が入っていて、そこから小さな桶で水を汲んで流すわけだな。だから、このデカい桶を片ずけると、それなりのスペースができるんだ。俺はここでシャワーを浴びている。

 簡易的なユニットバスって感じだが、水が流れないので足場がびしょびしょになるという欠点がある。そこは異世界産の吸水性が抜群なタオルをばら撒いて、アイテムボックスで乾かすのコンボを2~3回繰り返せば綺麗になるから問題はない。


 持ちこんである小さな椅子に座って、アイテムボックスをシャワーのように扱いながら、体を清める。洗浄の魔法を使えば一瞬で綺麗になるんだから、ラナに頼めばそれで解決するんだが……なんだか、綺麗になってる感じがしないんだよ。やっぱり、シャンプーで髪を洗って、スポンジで体を洗わないと。

 因みに、使っているシャンプーは俺が作った。潰すと石鹸っぽい効果のある液体がでる木の実があってな、それを応用して作らせてもらった。酸性のリンスと一緒に使っている。まさかネットで見たシャンプーの作り方~なんて記事がこんな時に役立つとは思わなかったがな。


 シャワーを浴び終えて、ベットまで移動した俺は、全身の力を抜いた。ふぅ、やっぱりあれだな。手足を片方ずつ怪我していると、シャワー浴びるのも一苦労だな。最近はどうにか一人でできるようになってきたが、最初の頃は洗浄の魔法で済ましていたくらいだ。だから、体は清潔なはずなのに、なんだか少しだけ嫌な気分だったのを覚えてる。んー、でも風呂にも入りたいんだよなぁ。はやくこの街に銭湯とかできてほしい。


 さて、二人が帰ってくるまで少し寝るか……そう考えていると、脳内に言葉が響きだした。


 『ふぁー……おはよう幹也』

 『おはようって……もう夕方なんだが』



 力を付けるだめだとかで、最近のベルフェゴールはかなりだらけている。

 一日中ずっと寝ていることもあるくらいだ。今日だって半日は寝ていたわけだからな。


 『あれ。レアちゃんもラナちゃんもいないの?』

 『どこかに行ってるらしいな。召喚するか?』


 『そうね。それじゃあ、よろしくー』

 「スキル:悪魔召喚、発動」



 魔法陣が空中に現れて、そこからベルフェゴールが落ちてきた。

 似合ってないエロコスに身を包み、前髪で目元を隠して、抱き枕を抱えながらベットにダイブを決めてきた。


 「あら、良い香りね。匂い変えたの?」

 「んー、あれだな。混ぜてるのを少しだけ……そうだベルフェ。これやるよ」



 俺はベルフェに小さな箱を渡した。先程購入したプレゼントだ。


 「綺麗な指輪ね。これを、私に?」

 「おう。えっとな、俺の世界の文化でな、身近な人にプレゼントをあげる日ってのがあるんだ。サイズ合ってるか?」


 「……ええ、ぴったしね。デザインも良いわ、悪魔っぽくて」

 「それっぽいの選んだからな。デザイン重視だから、魔法効果とかないぞ」


 「別にいいわよ。ふふっ、ありがとね、幹也」

 「どういたしまして。んじゃ、俺は寝るから」


 そうか、サイズは合っていたか。

 念のためにチェーンも買ってあるんだが、これは渡さなくても良さそうだな。


 ブラックリングを填めて、ぴんと伸ばした指を見てにやにやしてるベルフェ。

 嬉しそうでよかった。ベルフェの好みなんてよくわからないからな、とりあえず服と合いそうなデザインにしておいたんだが……正解だったっぽいな。


 俺は布団をぐっと寄せて、二人が帰ってくるまで寝ることにした。

 ……が、目を瞑るとすぐにドアが開いて、レアたちが帰ってきた。タイミングが悪い……。


 「あー、お兄ちゃんいる!」

 「ん、おかえり。どこ行ってたんだ?」


 「あのね、お姉ちゃんと、ミルと、キツと、みんなでおでかけしてたの」

 「そうか……楽しかったか?」


 「うん! あのね、おやさいいっぱいのサラダとかたべたの。おいしかったよ」



 そう報告しながら、靴を脱いでベットに入ってきた。

 布団にもぐってきたレアは冷たく、俺は温まるようにと抱き寄せた。因みに、この国では靴を履いたまま寝るのが主流だが、俺がそれを拒否したために、寝るときは靴を脱ぐことになっている。この部屋限定のルールだが。


 「お兄ちゃんあったかいね。べるひーもいっしょ?」

 「私? ううん、もう帰るわ。みんな帰ってきたし、これで幹也も寂しくないでしょうから。あとね、レアちゃん。私はべるひーじゃなくて、ベルフィね」


 「俺は寂しいなんて言ってないぞ」

 「言ってないけど、思ってたでしょ? 私に隠しごとは無理よ」



 それじゃ、と手をふりながらベルフェは消えた。

 ラナが椅子に腰かける。キツがミルを背にのせて隣りのベットで丸まって、レアが瞑らな瞳をきょとんとさせて俺を凝視してきた。


 「さみしかった?」

 「……いや」


 「れあはね、お兄ちゃんいなくてちょっとだけさみしかった」

 「……そうか。レア、眠くないか?」


 「レアたん、広場で、少し、お昼寝、したよ」

 「うん、おひるねしたから、れあねないよ」



 確かに、眠くはなさそうだな。


 「なら、もう少し経ったらごはん食べような。お菓子作ったから、ご飯は少なめでな」

 「うん」


 「みきゅあくん、お菓子、作れたの?」

 「ああ。朝に鮭延が言ってただろ、クリスマスがなんとかって。俺の故郷にあるお祭りでな、ケーキってお菓子を食べる風習があるんだ」


 「おかしたべるの、れあ、あまいのがいいなぁ」

 「おう、甘いぞ。よかったなー」



 にこっと笑っているレアと、無表情ながらもどこか嬉しそうなラナ。そういえば、おまえも甘い物が好きだったな。


 ケーキは食後。プレゼントをあげるのは、夜でいいか。

 ここでサンタさんやってもきょとんとされるだけだから、普通にわたそうか。クリスマスと言えば美也と師匠へのプレゼントだけど、今年はいいよな。まず、会えてないし。二人共どこにいるんだろうか……少なくとも、この大陸じゃないよな。美也も俺のことを探しているはずだから……地方の国にいるって可能性もあるが、大陸一の大国を謳っているクラークに寄らないってことはないはず。


 何にせよ、俺から探しに行くことはないがな。

 双方で世界中を旅したら、絶対に会えない。どちらか一方が大国で待っている方が出会える確率は高いだろう。高いと言っても今日中に出会うってことはないだろうから、今年はレアとラナに食べて貰おう。



■■■



 「これ……美味しい、ね。私、かなり、好きかも」

 「あーん」



 あーん、と口を開けて待っているレアに、ケーキをあげる。

 ぱくっと口を閉じて、もぐもぐと食べる。


 「れあもすき! あのね、みるのみも、ぶどうも、きゅーいも、みかんもあるの!」

 「果物たくさんのせてみたから、味がめちゃくちゃだけどな。でも、普通に美味い」


 スポンジと苺(ミルの実)と生クリームのケーキに果物のせただけだからな。不味くなる要素がない。美味しいものと美味しいものを掛け合わせても、よっぽどじゃない限り普通以下にはなりにくいものだ。


 夕食後、部屋に戻ってきた俺は二人にケーキを振る舞っていた。

 ケーキを切ってくれたのがラナだから、すごい綺麗な断面になっている。さすが暗殺者。ナイフ捌きが一流だ。使ったのは包丁だけど。


 レアもラナも、おかわりするほど気に入って貰えたようで。俺は結構うれしかったりする。

 この味だと鮭延にわたした分もちゃんと出来てるかな。あっちは明日に食べるんだろうけど、アイテムボックスがケーキの劣化を防いでくれるから賞味期限の心配はない。……それにしても美味い。我ながら完璧なケーキになった。去年よりもデコレーションが上達している。これにもDEX値が反映されてるんだろうか。



 ケーキを食べ終えてから、紅茶に似たお茶を飲んでいたレアを呼ぶ。


 「レア、こっちおいで」

 「なーに?」



 カップをテーブルに置いて、すたすたと歩いてくる。

 ベットに腰かけていた俺の隣りに座ったレアを持ち上げて、膝の上にのせた。


 「?」

 「動くなよ…………よし、できた」


 チェーンで繋がったリングを、首にかけてあげる。

 それに気づいたレアが「わぁ!」と声をあげた。お、好感触。


 「これなーに?」

 「ちゃんといい子でいるレアに、俺からのプレゼントだ」



 指でぎゅっとリングを掴んで、くるくると回しているレア。かわいさ重視の、ピンクシルバーのリングだ。ベルフェにあげたのと同じように、魔法効果こそないが、実はそれなりに高級品だったりする。素材が只の銀じゃないらしいから、三人分だと依頼報酬だけじゃ足りない程度には高い。具体的には報酬×2+αくらいはある。


 「お兄ちゃんありがと!」



 「見てー!」とラナに自慢しに行ったレア。

 アクセサリーでも嬉しいみたいだな。これなら、ミトンを渡すのは明日でよさそうだ。


 レアの初クリスマス。

 ケーキもプレゼントも喜んでくれたようで、やってよかったなと思う。依頼に連れだしてくれた鮭延に感謝だな……マフラー、早めに編んでやるか。


 …………

 ……

 …



 「ほら、ラナにも」

 「……え、これ、ゆび、わ?」



 夜、ベットで横になったところでラナにリングをわたした。

 シンプルなデザインのシルバーリング。暗殺者をやってるラナが、仕事中に填めるとは思えないけど、シンプルな暗殺服に似合うようなリングだ。このシルバーリング、光が反射しないような特殊な品だったりもする。これだけは譲れないだろうと思い、魔法効果を付加して貰ったんだ。


 「み、みきゅあくん、が、私に?」

 「そうだ。まぁ、なんていうか……これからもよろしく、みたいな」



 俺たちの護衛。それも、24時間ずっととなれば並みの仕事量ではない。超絶ブラックな仕事だ。

 ラナは、鮭延の依頼によってこれを10年以上も続けなければならない。ラナ。ストレスが溜まってしまい、奇行に及んでしまったりするラナ。そんな彼女にあげるプレゼントを、妥協などできない。金貨20枚以上のリングだが、ラナの場合はこれが高いとは思えない。年頃の女の子の10年間。考えてみれば、これが相当なことであるとわかってくる。


 だからこそ、ラナには感謝しなければならない。

 できるだけ要求も聞くし、俺に対してなら、奇行も受け入れなきゃいけない。俺はこのリングを選んでいる時に、そう思ったんだ。


 だから、俺は。

 そういった気持ちを、言葉にして伝えることにした。


 「あのな、ラナは、その、あれだけど。俺はな、そういったのも含めて、受け入れようと思うんだ。だって、これから、かなりの時間を一緒に過ごすわけだろ?」

 「う、うん……でも、ほんとう、に、私で、いいの? アサシンだから、汚れてる、よ? あと、へんたい、だよ?」



 頬が赤くなったラナが、心配そうにそう告げた。

 そんなの……良いに決まってるだろ。俺とラナの護衛だろ。そりゃあ変態なのは良くないけど、アサシンなのはむしろ評価できるわけだから。ラナって、五感強化を使った俺よりも五感に優れてるんだぜ? そんな超人が護衛だなんて……頼もし過ぎる。


 「知ってるよ。でも、言っただろ。それも含めて、受け入れるって」

 「あぅ、あ、あの。私も、みきゅあくんが、すき。だから、その……ふ、ふつつか、もの、だけど、よ、よろしく」



 微かに聞き取れるような小声でそう言ったラナは。

 身をのりだしてきて……ちゅ、と。俺の唇にキスをした。




 ……最初から飛ばしてくるぜ。だけど、大丈夫。俺は誓ったんだ。

 ラナがどんなに変態女だって、日々の感謝を忘れないって。苦労を労わるって。


 「えへへ……」

 「あ、はは、は……」



 蕩けるような笑顔に、思わず顔が引きつった。

 だ、大丈夫。誓ったから、多分、大丈夫……だよな?



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