第28話 Mikiya VS サヤ
「それで、その後はどうなったの?」
「どうなったもねぇよ。起きてみたら腕が治ってて、おっさんが大量に買ってきた葉っぱとか根っことか、そんなんを食べて、何日かしたら具合が良くなったから。動物に乗ってここまで帰ってきたんだ」
ゲーム209日目。
クラーク王国王都に位置する宿屋の一室……俺の部屋で、鮭延と二人、互いの近況報告をしていた。
洞窟調査の依頼を終えて、俺の状態が回復するまでまる二日。
西方に用があるとおっさんが言うので、彼らとはそこで別れた。本音を言えば、おっさんとミレアの二人とはもっと交流を深めたかった……というか、ぶっちゃけ仲良くしたかったんだけど。
おっさんは……兄さんみたいだったし。ミレアだって懐いてくれた後輩みたいだった。なんというか、微妙にコミュ障気味というか、人見知りの気がある俺としては……知り合いを増やしたかった。一緒にパーティーを組んだくらいだから、顔見知り程度とは思わないけど。あ、別にぼっちとかじゃないからな。ゲーム関係以外にも、リアル友達だって何人かは……明日香に、深見くん。比乃と、新藤さんに。喜連はぶっ殺すから除くと……四人か。
『なぁ、ベルフェって友達ってよべる悪魔、どのくらいいるんだ?』
『友達? うーん…………三人、ね。あ、幹也も含めると四人になるわ』
『そうか、なら、少なくはないのか? ああ、因みに、俺は悪魔じゃないし、ベルフェは友達っていうかもはや俺自身だよな。思考とかだだ漏れてるわけだし。そんな感覚が半年も続けば……もはや他人じゃないだろ』
『そうかしら。私の考えは読まれないから……あ、でも、幹也が一番かも。私と過ごした時間が多いいの』
俺だって、こんなに接した時間が多いのは家族以外じゃベルフェだけだよ。むしろ家族よりも多いかもな。だって、互いに寝てないときは四六時中、話しているわけだし。
「ふーん、そうなんだ。ふふん、私はちゃんと見つけてきたよ! いやー、苦労した。苦労したよ」
「……なんだよ」
「みっきー、言ってたじゃん。近々Sランクの魔物と戦うから、戦力が欲しいんだー!って」
「……鮭延にも話してたっけか。というか、俺はそんな元気満々に話してたのか?」
なんか軽いな……もっと、威厳のある話し方を心掛けないと。ゲームん中じゃ、舐められたら終わりだからな。素の俺じゃいけない。斉藤幹也じゃなくて、みきゅあでいないと。でも……アバターが俺だから、意識しずらいんだよなぁ。この世界にも慣れてきたから、気が付くと素の状態になってることも多くなってきている。
「なぁ、俺って威厳あるか?」
「威厳? あるわけないじゃん。みっきーはもっと、可愛らしさとかを主張した方がいいんじゃない?」
あれ、ないのか……。
うーん、鮭延は中学ん頃の俺を知ってるからなぁ。それが原因かもしれない。
「それでね、私が紹介する人はね……なんと、ランカーなのですよ!」
「ランカー? なんの?」
「なんのって……GodWarOnlineのに決まってるじゃん。すごいでしょ、一人は9位なの! もう一人だって、72位なんだから!」
「9位? それはすごいな……9位かぁ」
なんのランキングなのかは知らないが、9位はすごいな。
「なんでそんな人と知り合いなんだ?」
「それは…………」
「それは?」
「それは…………」
にやにやしてもったいぶっている鮭延沙耶。なんだよ、早く言えよ。
「それは……なんと、私が、そのランキングの8位だからでした! どう、すごい? すごいでしょ!」
「まじでか。お前が数千万規模でログインしてるっていうGWOで、8番目なのか……」
「正確には、二千万人ちょいだけどねー。最初は一億三千万人もいたのに、半年でこんなに減っちゃって。だらしないねぇ」
「そうなのか? お前ってあれだよな、情報通だよな」
コイツが8位を取れるランキングか。変態度ランキングとか?
あまり期待できそうにないなぁ。
「待ち合わせが今日なんだー。だから、後で行こうね」
「だからか。突然訪ねてきて、何事かと思った。ほら、他の国に行ってたんだろ?」
「依頼でねー。一緒にパーティー組んでる新人冒険者くんと、色々ね」
「どんな立場だよ。俺らだって新人だろうに」
「そうかなー。 それより、この果物食べていい?」
「あー、青いのは駄目だけど、他のならいいぞ。俺にも一つ取ってくれ。その、桃みたいなやつがいい」
果物の詰め合わせ。単品で買うよりも安いから、買う機会は多い。
レアが好きだから、果物は買い置きがある。俺やラナだって特に嫌いというわけでもないから、スナック菓子の無いこの世界じゃ、これがおやつ代わり。他にもおやつなら、焼き菓子とかあるんだけど、レアは果物そのまんまが好きらしいから。小さい子が優先されるべきだ。
あ、そういえば……せっかくだから、頼んでおくか。
「なぁ、ちょっといいか?」
「ふぁふぃー?」
「これなんだけど……この世界についての考察とか、気付いたことを纏めてみたんだ。日記みたいに、ちょくちょく書き続けてな」
「へー、みっきーってマメだよね。日直の仕事とかちゃんとやるタイプだ」
「やらない奴がどうかしてるだろ……んで、これ。日本語で書いてある。俺が死んだら、これをラナがお前に預けることになってるから。俺の家族か、明日香辺りにでも渡してくれねぇか?」
「明日香? 誰だっけ?」
「如月明日香。中学の時は、サッカー部だったか。ほら、茶髪で、背の高い……」
「あー、はいはい。あのイケメンの人ねー。私、あの人苦手だわー。私ね、美女とイケメンが嫌いなの。二次元なら大好物だけど、リアルのはちょっと……」
「知ってる。お前のその感じは、リア充には嫌がられそうだもんな」
「そうなのよ! 私の高校に、ほら、芸能人の人がいるじゃん! 女の子に囲まれて、大声できゃーきゃー話して。あんなのが近くにいると、はっちゃけれないっていうか……わかる?」
「微妙に。鮭延ってあれだろ、私立の、有名なとこだろ。俺と明日香は、地元の高校だから。中学からは離れてて知り合いは少ないけど……雰囲気は小中とだいだい一緒。過ごしやすいぞ」
「いいなー。私もそっちに行きたかった! でも、親がねー……話したっけ。政治家なの」
「初耳。けど、鮭延なんとかって政治家なら、薄らと聞き覚えがある気がする」
「うん、ぶっちゃけお偉いさんなんだ、お父さん。それで、政治家の娘だとねー、色々と優遇してくれるみたいなの。私の学校。成績とか、推薦とかねー。他にも、有名どころの娘さんとか、息子さんがちらほら……」
親が政治家か。
前々から、新作とか絶対に持ってたからな。小遣い多いんだろうとは思ってたけど、なるほど。良い所のお嬢さんだったわけか……ストレス溜まって、こんなんなっちゃったのかなぁ。なんか布面積少ないし、露出好きなのか? 冬だぞ、もう少しで。
「息苦しそうだな……ってか、話ずれてる。明日香だよ、明日香。思い出したか?」
「うん。でも、みっきーの家族の方は無理じゃない? 面識ないわけだし……ん? あ、でも……みっきーのお母さんなら、見たことあるかも!」
「そりゃあ、小学校の授業参観とか来てるからな。俺だって、鮭延の母さん、見たことあるぞ」
「あのひとねー。キリっとしてて、格好良かった気がする」
「母さん、外面は完璧だからな。職業聞きたい? 自称、自宅警備員」
「ニートってこと? でも、既婚者で、家事してるんでしょ。そういうの、専業主婦っていうんじゃないの?」
「警備員っていうか、警護人って感じだけど。海外のアカデミーを卒業しててな、普段はぐうたらだけど本気だすと怖い。あと、ゲームん中だと基本的に強い」
父さんとは幼馴染の関係にあった母さんは、父さんをゲーム界に引き込んだ張本人だったりする。
ベランダから移動できるなんて漫画みたいな幼馴染関係を築いていた母さんと父さん。毎日押しかけて、父さん曰く、ヤンデレの一歩手前みたな状態で、謎の愛情に恐怖を感じたことも多々ある……とのこと。当時、小学生だった父さんの親友の妹にすら嫉妬する程の束縛だったらしい。
学生結婚……というか、俺がデキたから高校を退学した母さんは、育児生活を頑張っていたらしい。ここまでは、よき母親なんだ。意味不明なのはここから。俺が幼稚園を卒園して、小学校に通い始めた辺りで……海外に留学したんだ。母さんが。突然。しかも、一人じゃ寂しいからって、父さんを連れて行こうともしていた。意味がわからない。
週末になると俺と美也を祖父母に預け、一人アメリカへ。そこで母さんと過ごして、週明けに帰国する。そんな生活を二年も続けた父さんは、苦労していた。棋士を止めたのもそのあたりだと思う。貯金はあるからと、仕事を止めて俺たちに構ってくれていた。
ああ、思い返せば美也が俺にべったりになったのもその頃からかも知れない。母さんが出国する時も、ばいばーいって笑顔で手をぶんぶんと振ってたし。寂しさなんて感じでなかったような……。
『あら、そうなの。そうそう、私の家族のことばかり話して。幹也のことを聞いていなかったわね』
『ベルフェの家族については……他人の家族とは思えないほどの情報量になってきてるからな。結構なことを知ってる』
ベルフェの上級悪魔話は……聞き飽きた。もうネタとか無いだろ、さすがに。
『そんなこと無いわよ。私のお爺様はね、先々代の時代じゃ随一の闇属性魔法の使い手だったんだから。物を重くしたり、軽くしたり、私の魔法だって、お爺様直伝で……』
『それ、聞いた。聞いたんだよ。数回とか、そんなレベルで。ベルフェが使える魔法は、お爺さんの魔法の劣化版なんだろ?』
『劣化版というか、これで正解なのよね。お爺様の魔法が規格外なの』
へぇー……じゃねぇよ。
ほら、ベルフェと念話してたから、妙な間が空いちゃってるじゃん。
「それで、わかってくれたか? 俺だって死ぬ気はないけど、魔物連中が化け物過ぎるから。ミスったらGランクの一撃でさえ死ぬんだぞ、俺らみたいな人間はな。特に、軽装じゃないと戦いにならない俺たちは……」
「まあねぇ。私は保険があるけど、みっきーは全部が全部、命賭けだもんね。そりゃあ、自分が死んだら……なんて、考えちゃうわけかー」
「考えるだろ。アニメの主人公とは違うんだ。絶対的な安全が保障されてないから、怖い。ひやっとすることもある。心拍数が上がり過ぎて、戦ってるとくらくらしてくる。回復魔法が無かったら、俺はとっくにダルマだぜ」
「四肢なくてだるま? エローい。もしみっきーがそうなったら、私が大切にしてあげるね」
ふざけろ。
戦わないと経験値が入らない。レベルが低いとイベントで不利になるから。下手をすれば、最初のイベントで死んでしまうかもしれない。どんなイベントでさえ、最低現度の戦闘力は無いといけない。だから、魔物で経験値を稼ぐことになる。一般人を殺して回るほど、俺らは非情になれない。
「えー、なれるんじゃない? 私は気に入らなければぶっ殺してから逃げるけどねー。逃げ切る自身あるし」
「ああ? やめろよ。冒険者様の典型じゃねぇか。俺がぼこった奴でさえ、殺しはしてなかったぞ」
メシ屋にたかってただけだもんな、確か……。
「ぼこった? はぁ、よくいるんだよねー。低級の冒険者いじめる困ったちゃん」
「頼まれたんだよ。酒場を荒してくるから、追い返してくれって。メシ代と宿代がタダになった」
そんな話をしていると、パタっと、優しくドアが開いた。
「ただいまー!」
「おかえりなさい、レアちゃーん!」
「!?」
鮭延の声にびくっと肩を震わせて、俺を見つけて安堵する。
俺へのただいまに、女声で返ってきたら驚くよな。
なんか、もう。動作の一つ一つが可愛い。レアの両親がどんな人かは知らないけど、甘やかさざるを得なかったのはよくわかる。只でさえ容姿の優れたエルフが、子供らしさ全開なんだ。萌える。
「お兄ちゃん、みてー」
「うん、ちゃんと可愛くできてるな」
「かわいい?」
「おう、可愛い可愛い」
髪を切ってきたレアが、頭をぐりぐりと押し付けてくる。
抱き上げて、隣りに降ろす。靴を脱いで、俺の膝を枕にして寝転ぶレアを支えながら、いつのまにか椅子に腰かけていたラナに話かけた。
「ご苦労。なにもなかったか?」
「うん、へいき。レアたんの、髪型、私好みに、できたし」
「そっか。髪か、俺もずいぶん伸びてきたな。ちょくちょくは、切ってるんだけど」
『私がね。でも、上手でしょ?』
『それを言ったら、俺の方が上手いわ。なのに、ベルフェがそれ以上は切るなって……』
『私のはこういう髪型なのよ』
「のびたの、れあがきってあげる?」
「んー、遠慮しとく。レアは、これ使ってキツの冬毛を整えてあげてくれ」
ブラシを片手に、キツを捕獲するレア。
春と秋が短く、夏と冬が長いこの国では、そろそろ秋の季節が終わりを迎えようとしていた。ちょっとまえは真夏みたいな気候だったのに、帰ってみれば秋が終わりかけて寒くなってきている。日本とは違うな。冬の服とかも買わないといけなった。この世界の服って、けっこう高いんだよ。防具とかじゃなくて、普通の服が。俺のとレアのをいくつか買ったら、銀貨7枚だったか、それくらい掛かった。必要経費だとはいえ、大金を欲している俺としては少し辛い。
なんせ龍人に挑む時は、俺が報酬を払わなきゃいけないんだ。
Sランクだろ。一般的なAランク依頼の報酬が金貨20枚~200枚……1000万~1億。Sランク相当って、どんだけ必要なんだよ……まぁ、最終手段はあるけど。そして、最終手段しかなさそうな気がしている。大会ん時の賭けの勝ち分と報奨金、それを加えた全財産が現時点で数百万。アレン、ルーク、ルーナの三人に、それぞれ報酬として支払うことを考えると……金貨600枚で、三億くらいが必要になってくる。
なんでリザードマンのうちに倒さなかったかな……あの時点じゃ、武器は短剣とドッペルガン。身体能力は最低値で、この世界のことを何も知らなかった。でも、勝てたんじゃないか? 自然回復量を上回る火力は無いから、一撃死にかけるしかないけど。…………。短剣で、鱗を剥いで、銃で傷付けて、失血死とか?あ、無理だ。あいつらの治癒力って半端じゃなかった。だとすれば……ん?
「なぁ、お前ってどうやってリザードマン倒した?」
「リザードマン?」
「神の試練とか、腕輪が言ってたろ。最初のゴブリンの次」
「ああ、あれねー。武器剥いでー、上から落としてー、何度も何度も繰り返してー、断頭してやったー」
…………はぁ、なるほどねぇ。それは思いつかなかった。相手の武器を利用したのか。あの曲刀だって、魔物サイズなんだから重かったろうに。
本当にこれがあの時点での最適解なのか。ったく、このゲームを進めるのに求められているスキルが、軒並み高過ぎなんだよ。あんなの、それこそ母さん並みの戦闘力がないとキツイだろ。父さん……生きてるといいけど。父さんが運動できるイメージが皆無だから、少し心配だ。あの人は……PCデスクに座ってたり、将棋盤を眺めてたり、碁盤を眺めてたりとか……そんな印象しかないなぁ。ああ、あとはミュートラルはめてソファで寝ている姿か。
「できた!」
「クゥ~」
レアから逃れてきたキツを抱き寄せて、でたらめになった毛を手櫛で整える。
俺の指がくすぐったいのか、身を捩らせるキツを愛でていると「あー!」とブラシを手放したレアがこっちを指差していた。
「ずるい! れあもぎゅうぎゅうって、して?」
……最近、キツやミルに構っていると私にもしてと催促してくることが多い。
抱きしめていれば、ぎゅうぎゅうして。撫でていれば、なでなでして。指で突いていれば、つんつんして。この子はスキンシップに飢えているのだろうか。ラナにも甘えているようだから、俺への依存ではないようだが……。
「いいよ。ほら、こっちおいで」
「うん、ぎゅー」
キツをそっとベットから降ろして、腹部に抱きついてきたレアを支えながら、ごろんと転がった。
このままレアを寝かせてしまおう。レアはよく寝る子だから、昼のうちに少しねと中にと、夕方ごろにうとうとし始めてしまう。夜更かしさせないためには昼寝が必要なのだ。
21歳とはいえ、知能レベルは幼稚園児のそれに等しい。幼稚園児の知り合いはいなかったが……きっとこんな感じなのだろう。確か美也も、小学生の時は一緒に寝たがっていたからな……。
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「んぅ……」
「ラナ、レアが起きないように添い寝してあげてくれ。いいか、信じてるからな。信じてるぞ」
「うん、任せ、て」
ラナの幼児趣味は知っているが、実際に手をだしているところを見たことは、まだない。稀に暴走することもあるが、大抵は静かにガン見というスタイルに落ち着いている。テーブルに潜り込んで、椅子に座るラナのワンピースを凝視。寝ているラナを寝顔を凝視。外で元気に遊んでいる近所の子供たちを、窓の影からそっと凝視。etc.etc.……この国だとこれらの行為では罰せられないから、セーフと言える。
ラナだって、一流の暗殺者なんだ。レアの安全を24時間体制で管理してくれている。そしてアサシンといえば命令を絶対遵守というイメージがある。きっと、護衛対象に欲情することはないだろう。多分……信じてるぞ、ラナ。
スキル最適化でMikiyaの姿になって、鮭延と共に冒険者ギルドに向かう。
そこで9位と72位の人と待ち合わせをしているらしい。
アバター姿になるのは、脚が動かないから。神経が麻痺しているようで、まったく動かせない。
先日、リラナルテさんに治療してもらった右脚だが、まともに動かすには、数週間経過して脚が動かせるようになってから、約一ヵ月のリハビリが必要と言われた。戦闘に耐えられるようになるには、二ヶ月とも。ラナからの指導で、それを短期間で終わらせることはできるけど、それでも一ヵ月はかかるらしい。
「でね、72位の女はともかく、9位の男が短気っていうか、喧嘩っ早いというかさー」
「いるよな、そういうの。常にキレかかってる奴」
数十分から一時間の道のりで、今から会いに行く二人の話を聞いていた。
「私たち第七世界……地球の使徒には、『402人の化者』と『5人の気狂』がいるの。言ったじゃない、近々レベルキャップが開放されるって」
「そんなことも言っていたな。俺は50レベルで止まっていたが、それが上限だったという認識で間違ってないよな?」
「そう、それが一次限界って言われてる。それで、前回のランキング発表と同時に経験値を得るために殺した対象で最大レベルが変動するようになったの」
「……殺した、対象?」
「冒険者ギルドで定められてる魔物のランクで表すと……Dランクで、+5。Cランクで、+10。Bランクで+20ときて、Aランクで+30。最後に、Sランクで+40……厳密に決められたルールがあるっぽいんだけど、とりあえずは魔物のランクで見て大丈夫っぽい。みっきー、意味わかる?」
……理解した。Dランクの魔物を倒すと、上限レベルが55に増える。Cランクで60レベル。Bランクで70レベル。Aランクで80レベル。そして、Sランクで90レベル……と。つまり俺は、仮に、D級ボスがBランク換算されていれば、70レベルまで。そうじゃなくとも、経験値を稼ぐことで60レベルまでは職業レベルを上げることができるってわけだ。
「それで、化け物と気狂いってのは?」
「簡単に言えば、402人の80レベと、5人の90レベがいるの。Aランク相当を、人外すぎワロタってことで化け物をもじった『化者』。化石の化に、浮気者の者で『化者』ね。Sランク相当を、基地外だろってことで元の気狂いって言葉の送り仮名を取って『気狂』。因みに、私は『化者』に分類されてる。あとはあの人……みっきーと遊んでた、あのちゃらい、すっちゃらかの男も『化者』って呼ばれてる」
「鮭延と、魔羅刀が化者ねぇ。70レベルは?」
「それは特に呼び名はないかなー。ほとんどの使徒は60レベか70レベだもん。みっきーは何レべ?」
「俺は……わからない。50レベルは確実に超えてると思うけど」
「わからない?」
「ステータスが見えないんだよ。アイテムボックスとは違って、頭ん中に浮かばないから」
目を失った障害の一つだ。俺はステータス画面が見れない。魔法陣の効果では、HPやMPを示すゲージや、アイテムボックスを表示できてもステータス画面を見ることができないみたいで…………だから、自身のレベルを知ることができない。
「そんなぐるぐるに包帯巻いたうえに、へんてこな仮面してたら見れないのあたりまえでしょ。どれ、おねーさんが外してあげよう!」
「やめろやめろやめろ、これに触るな! 包帯は外したら駄目なんだよ。呪いを押さえつけてるんだから。仮面も、してないと違和感を感じるから外さないんだ」
「呪い? ああ、あのぐちょぐちょの……うーん、じゃあ個人情報だけど、私は仲間と言えなくもないよね? 見てあげよっか、ステータス画面」
「お、まじでか。頼んでいいか?」
俺は「ステータス」と呟いて、立ち止まった。
頬を掠めるように、鮭延がぐっと頭を突き出して画面を除く仕草をとった。微妙に香るのは、この世界で売られている香水の類か。少し、アレンのことを思い出す。元気にしてるだろうか……。
「レベルが57で、上限は60っと。っていうか、みっきーステ低っい! いくら上昇ステと獲得BPがランダムだからって、これは酷いね…………」
「何、そんなに酷いのか?」
「私の20~30レベくらいの数値とおなじくらいしかない。スキル制でもこんなに酷くはないよ、余ってるBPを足しても、合計ステが低すぎる……なんでだろう。戦ってきた相手が悪かったのかな? 変なことしてレベル上げなかった?」
「舐めるなよ。他者よりもキツイであろう道則でレベルを上げたという自負はある。しいて言えば……負けが多かったか」
「それは関係ないはず。でも……ちょっとメモるね。詳しい人たちに聞いてみるからさ」
「了解。わかったら教えてな」
俺の能力値は他者よりも数値が低いらしい。なぜか。原因に心当たりがある。
それは……俺が成長制度の恩恵を受けながら使徒ではないということ。鮭延は能力値はかりを気にかけていたのか所属が空欄になっているのを見逃しているみたいだ。使徒になってからレベルを上げると、ステータスの上昇幅が高いのでは、と読んでいる。
「BPが3900あるけど、これってどれに振る予定なの? 私的にはVIT値がヤバめだど思うんだけどさ。これじゃ紙だよ。わんぱんで沈んじゃう」
「んな勿体ないことできるか。増やすならINT値かSTR値、+AGI値に決まってるだろ。こちとら散々経験してんだよ。どんだけ防御力あげたってこの世界じゃ意味がない。避けて攻撃したほうが無難」
「私はMP確保のためにINT値一択でやってきたけど……みっきーには手品魔法が無いから、迂闊に死ねないでしょ?」
「迂闊? 絶対に死ねないだろ。回復魔法や治療魔法はあれど、蘇生魔法が無いんだから」
「ざお×くとかあれば楽なんだけどねー、それで、どこまで話したっけ……」
「強者たちを『化者』だとか『気狂』って呼ぶとかなんとか」
「あ、そうそう。それで、今から会いに行くのがその『化者』二人組。9位の男は職業が勇者で、ハンマー投げてくるような危ない奴。72位の女は騎士騎士してる騎士オタで、鎧着て、盾と魔法でゴリ押してくるの。馬鹿みたいだけど、二人とも中々に強いんだよねー、これがさ」
「勇者か……俺が狙ってた職業だ、それ。1億2千いて10人だから、1/4000000を引いたのか」
「勇者で有名なのは六人いるよー。死んだのは二人だね」
「……最強職なのに死んだのか。まぁ、勇者を当てたのが小さい子供とか、老人だったらキツいかもな」
アバターじゃないから、元々の体が不自由な人とかは不利だろうな……仮想空間でなら歩けるからって理由で、ゲーム極めた外国人が知り合いにいる。彼女は、生まれつき脚が不自由なんだよと言っていた。そういう人は少なくない。病院暮らしで、外じゃ遊べないからって……FPSと格闘ゲームしかないんだけどねー、と。楽しそうに笑っていたのを思い出す。
「うん? なに言ってるの?」
「だから、勇者を引いたのがガキか老いぼれだったら、すぐに死ぬだろって話だよ」
「私が情報通なんじゃなくて、みっきーがなんにも知らないだけなんじゃ…………あのね、GodWarOnlineでこの世界に来てる地球人はね。魂を引っこ抜かれて、精神体をトレースして作られた肉塊に魂ぶっこまれてんの。10歳の子供は、遺伝子情報から作られた20歳相当の肉を与えられるし、70歳のおじいちゃんには、若い頃の肉を与えられるの。私だって、元々の体より発達してるんだよ、これでも。カップもひとつ上になってる。みっきーは違うの?」
「…………」
知らなかった。んーと、全盛期の肉体が与えられてるってことか?
俺の体には変化が無いから、今が全盛期ってことで合ってるんだよな?少し、複雑な話だから理解し難いけど……。
「俺は、俺だ。美也も同じだった。個人差があるのか?」
「そりゃああるでしょ。でも大抵が18~25の体らしいよ。例外はいるけど……格闘家とか、軍人とかには、そのまんまの体が与えられてるケースが多いらしいね」
「……格闘家に軍人か。となると、その気狂ってのはそいつらが多いのか?」
「格闘家と軍人がってこと? まさかー。化者には何人かいるけど、そういったゲームだって割り切れない人から死んでるらしいよ。もっと楽しまなきゃねー♪」
DOC関連の知り合いに、元軍人の類が何人かいるけど……彼らが死んでるとは。俄に信じ難いけど、それが事実ならファンタジー環境に適応できなかったということか。気狂……おっぱい師匠は気狂なんだろうか? 気になる。あの人なら、高ランクの魔物にも勝ってしまうのだろう。負けるイメージが持てない。
「気狂に日本人はいるのか?」
「いるよ。化者に26人、気狂に1人だっけ」
「気狂は女だったり?」
「ううん、男。47歳の国家公務員の男性。キャラクターネームは『Magicalbitchスペル☆まみぃ』。どうみても基地外です本当にありがとうございましたーってね」
…………オタク文化の影響を受けて育った子供が、大人になる。
20~30年前、オタク文化は広まり始めた。その時代じゃ、中高生の一割程度がオタクだったという。40人クラスなら、3~4人。日本国民の一割がオタクなら、そういう大人がいることも否定することはできないけど…………終わってんな、日本。
「なぜそんな個人情報がばれた?」
「彼もその、例外だったわけ。どうも知り合いがいたっぽいよ。ほら、最適化は非戦闘時で数時間、戦闘時で数十分しか使えないじゃん? その他の時間は中年男性そのままがスペル☆まみぃなわけで」
「キャラ作成時に、異世界生活のことなんて考えないからな……その魔法畜生は強いのか?」
「めっさ強い。見たことあるもん。技の使い方が上手いんだー、移動系統の基本技の『ステップ』から始まって、斬り系統の基本技の『スラッシュ』、打撃系統の基本技の『クラッシュ』。成長制度がレベル制だから、低級の技しか使えないはずなのにね。隙が無いの」
師匠は気狂じゃなかった。となると、化者なのか?
26人もいるなら、鮭延が知らないという可能性もある。別段、聞くことでもないか……。
それより、魔法畜生の話だ。
技の使い方が上手くて、Sランクを倒せたというのか……マジで基地外すぎるだろ。俺はステップもスラッシュも使わない。使えないわけじゃない。wikiに修得方法が載っていたからな。その気になればいつでも修得できる。でも、あれは不便な技術なんだ。
ただの移動に、技後硬直が発生する。
ただの斬りに、技後硬直が発生する。
いくらHPやMPを消費しないとはいえ、別段攻撃力に上昇補正が乗るわけでもなく、体が一瞬とはいえ固まってしまうだなんて……使い勝手が悪すぎる。俺の技:強撃でさえ、一撃が必須な状況以外では絶対に使いたくないようなものなんだ。硬直時に攻撃を喰らえば、Gランクが相手でも死んでしまうから。
「なんなら、会ってみる? まみぃは、中央大陸の北部にいるよー。そこで200~300人くらいで集まってる使徒集団がいるんだ」
「……いや、遠慮しておく。イベントの時にでも探してみるわ。技の使い方を、参考にしておきたいからな」
そんな話をしていたら、冒険者ギルドの建物の近くまでやってきていた。
この数十分で、様々な情報を得ることができた。鮭延はA級冒険者で、ギルドから配給された転移石を使ってあちこちを移動している。そのせいか、かなり物知りとなっているようだ。大抵のことなら、聞けば答えてくれるし、知らないことでも調べておいてくれる……地味に頼りになる。
「色々とありがとな。正直言うと、かなり助かってるんだ」
「お礼は言葉じゃなくて、体で払ってね。私はいつでもokだから!」
……鮭延の体を、胸上からすっと見る。どうみても同級生、大人の色香を感じない。
「無いな、絶対に無い。タイプじゃないんだ」
「私はめっちゃタイプ。アバターの時じゃなくて、なまみっきーのサイズ感がすごく好き。知ってたっけ、私が凌辱系エロゲ大好きなの」
「知らない。けど、嫌がってる相手を組み伏せるような鬼畜BL雑誌を読んでるのは知ってた。中学生が買っていいもんじゃないのに、授業中に堂々と読んでるんだもん。今思えば、親が政治家だから怒られなかったのか? 特権使い過ぎじゃね?」
「そうだっけ。みっきーってそんなに私のこと見てたの? なら、なんで私の告白断ったの! おかしくない!?」
「おかしくないだろ……っと。着いたな」
「ああーっと! 先に、防具着ておいて。あと、武器も!」
ギルドのドアを開けようとした所で、鮭延が俺を止めた。
武器と防具を装備しろと言う。なぜ?
「どうして? この体に合わせるの難しいんだけど」
「どうして、サイズは自動調整されるでしょ?」
「されるけど……まぁ、いいか。腕と脚が使えないから、後で外すのが大変なんだよ」
「手伝うからさ。それに……死にたくないでしょ?」
にやりと口元を伸ばしながら、物騒なことを言い始めた。
「なんで死ぬんだよ。ギルドだぞ? 私的な喧嘩が禁止されている。下手すればリラナルテさんみたいなギルド員にボコられるぞ。リラナルテさんすごい美人だけど、強いから。瞬殺される」
「私的じゃありませんー。ちゃんと予約してますー。9位の人がどうせ喧嘩売ってくるから、訓練場の予約しておいたんだ」
「……よくわからないけど、着替えればいいんだな?」
「そうそう、手伝う?」
言葉を無視して、装備を整える。
脳内に浮かぶアイテムボックスから、ドッペル戦闘服を選択する。一瞬、俺の体がぶれて、防具が装備された。着るときは楽なんだ。後で、整備するために脱ぐのがキツい。そのまま収納してもいいけど、それだと下手に洗われる可能性がある。中壊した装備をアイテムボックスに入れて、金具が不自然な形で修復されて合わなくなってしまった……なんてことが、稀にある。それを防ぐために、軽く整備をしてから防具を収納するのは箱持ち冒険者の基本となっている。
箱持ちというのは、アイテムボックスが大きい者を差す言葉だ。俺やダークロードなんかがそれにあたる。反面、ラナとレアのアイテムボックスには貨幣や小物程度しか入れることはできない。そんな彼女たちは箱持ちとは言わない。大抵の人々は箱持ちではないので、箱持ちはそれ自体が評価される。商人や冒険者なんかに重宝されるが……荷物持ちとして、雑用係としてだけどな。
この姿で戦闘準備をするのは、かなり久しい。半年ぶりだ。
マシンガンを肩からぶらさげて、ハンドガンを脚に装着。鋼鉄の大型ナイフを胸に着けて、鉄製のナイフを仕込み、弾薬ケースに、回復薬の小瓶を入れた。これで完成。異世界版、Mikiyaの戦闘装備。
「やべぇ、興奮してきた」
「……変態さん? そういえば、みっきーって人殺しが好きなんだっけ。ほら、よく話してたじゃん。ミュートラルで戦争してるって」
「人を殺人鬼扱いとか……あのな。俺はゲームとしての銃撃戦が好きなの。あの緊張感がたまらなく好きなだけで、『殺人鬼』とは違うからな」
そうだ。俺はそんな、変態連中と一緒じゃない。
銃で人を殺せる世界にテンションを上げてないし、戦いを生業にしている冒険者生活を楽しんでいるわけではない。全てはイベントで勝ちあがるため。生き残るために必要なことだ。地獄なんて、嫌だからな。level上げのために、勇者がモンスターを倒すのと一緒。その過程で命を奪うことは必要不可欠な事柄で……しょうがないことなんだ。




