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第27話 ミスと温もり

 !?

 うッぐぅうう、痛ッッ!? あれ? なんで、脚、めっちゃ痛い。


 「あなたは、藍(わたし)の仲間に酷いことをしましたね。彼(だなふ)の足をあんなにしたんですから、あなたの足も同じようにします」


 な、なんだこのガキは……持っているのは、剣。エストック?

 それで、俺の足をぶっ刺してやがる?


 ああ、なにこれ…………ッッ、があああああ、熱い、熱い熱い熱い熱い熱い!!

 がぁあああああ、動かすなッ、剣を捻じるな!


 取り合えず、このクソガキの手を止めないと……痛くて意識が持たない。


 「お、おい、クソガキ。それを離せ、今すぐに、本当、早く」

 「ことわります。わたしは、あなたを殺さなくてはいけないので。わたし的には、できるだけ痛めつけたいとおもいまして……まずは、彼が傷を受けたかしょをえぐります。簡単には死なせません」


 そう言いながら剣をぐりぐりと動かすガキの輪郭が、薄らとブレた。


 ……なるほど、このガキは魔物か。

 容姿が人でも、人間とは限らないのがこの世界。あの豚を擁護するってことは、そういうことなんだろう。


「なら……殺してやる、ぞ」



 剣に貫かれた箇所が痛くて、熱くて、頭が上手く働かない。

 なぜか左腕が動かなかったので、右腕を動かした。アイテムボックスから取り出した魔法品であるナイフを、少女の首に向けて翳した。


 コルーガの街で買った、弾道ナイフのような魔法品。

 魔力を込めると、無属性の魔法が鉄製の刃を撃ち出す仕組みになっている。見た感じ、このカギは人型の魔物だ。弱点は人間と似ているはず。


 パスッ。

 撃ち出された刃が、ガキの首に刺さった。


 「くッ、せやぁああ!」



 ……クソ。ミスった。


 「痛ッ、あああああああああ!」



 刃を受けたガキは、剣を動かして……俺の足を刎ねた。

 背後に跳んで距離を取るガキを無視して、傷口を確認する。すると、俺の脳内に浮かんだ情報には、他にも欠落している部分があってしまった。


 なんで……足だけじゃなくて、腕も、無いんだ?


 …………なにやってたんだよ。お前はなにしてたんだよ。


 『おい、ベルフェ…………ベルフェ、ゴォーール!』

 『手一杯よ!』


 『手一杯だぁ?』

 『魔法を使い過ぎたみたい。今の私じゃ、この狼の相手は難しいわ。豚だっているのに。幹也の仲間を捨てていいのなら、逃げれるけど』


 仲間を捨てる。

 ……ダークロードを、おっさんを、ミレアを、見捨てる?


 ……それは、ダメだ。

 最悪、俺の死が確定しそうな状況下なら、見捨てるという選択も無くはないが。現状、その選択はありえない。


 『…………なら、痛みを無くす魔法だけでいいから。早くしろ』

 『わかったわよ。ほら……』


 痛みがぷっつりと途絶える。ベルフェゴールの魔法で痛覚を遮断した。

 止血をするために霊薬を傷口にぶっかけた。傷口からは煙がでて、新しい皮膚が患部を覆い始めると、HPが20%から70%まで回復した。MPも回復するが、すぐに減り始めた。ベルフェが魔法を使っているのが原因か。


 『状況確認。敵は三体、さっきの豚と、狼? それとこのガキでいいんだな』

 『もう一人いるけど、動いてないわ』


 そっちを見る余裕はない。

 ガキから視線を外した瞬間に、動かれたらアウトだ。死ぬ。魔物を侮ると、死ぬ。


 ガキは、剣を構えたまま俺の動きを観察している。

 俺がどの程度のダメージを負ったのかを見ているのだろうか。

 

 左肩と、右太ももから先が無い。

 足は、あのクソガキに。腕は……いつのまにか無くなっていた。


 豚が、ミレアに槍を投げて、それをベルフェが防いで……気が付けば、足を刺されていた。恐らく、このガキが腕もやったんだろう。


 そうか……ぜってぇ殺してやるからな、クソガキが。



 「こんなもので、わたしは倒れません」



 あのクソガキは、首に刺さった刃を抜いて、投げ捨てた。血が一滴もでていないどころか、傷が塞がりきっている。ゴブリンを思い出すような、回復の速さだ。


 そのままガキは、千切れた俺の右足に向けて魔法を放った。

 火属性の魔法なのか、青い炎が足を燃やした。強化された嗅覚が、肉の焦げる臭いを捉える。


 「寸断しやすく、燃えやすい。まるで薪のようですね」

 「…………」



 ははは、粋なジョークだな。

 てめぇも魔物なら、せめて食べるとか、役立ててくれよ。俺の足なんだから。捨てて、燃やすとか。ゴミじゃねぇんだから、さぁ。


 「どうしたのですか。立ち上がることも儘なりませんか。ぶざまですね。そのままでは不格好なので、残りの手足を斬ってあげます」


 これは挑発だ。聞き流して、冷静さを保つべきだ。

 保つべき……なんだろうけど、はぁ、ムカつく。殺したい。痛覚が麻痺してるはずなのに、後頭部が痛む。そんな気がする。だって、ほら。俺ってイライラすると、片頭痛になりやすいからさぁ。



 ガキが、俺に近づいてきた。

 結構速いが、豚ほどじゃない。俺より遅い気さえする。


 『生えろ、生えろ、ささっと生えろ。水魔法:尻尾生成』



 脳内詠唱で尻尾を生やして、体を一気に持ち上げた。

 ガキの一閃を回避しながら、腰から生えている尻尾を軸に、右手で握り締めた手斧の刃をガキの喉に引っ掛けながら、上体を急回転させる。


 「ほら、死ねよ」

 「!?」


 すっと、ガキの頭部が落ちた。

 ガキの剣は尻尾に届いていたようで、支えを失った俺は地面に落ちた。触手をクッション代わりにしようと考えたが、触媒に使っていた魔法銀のブレスレットを失ってしまったので、即座に魔法を唱えることができなかった。そのまま打ち付けられて、肺から空気が押し出される。それなりの衝撃を受けたっぽいけど、痛くはない。


 「殺ってや……ない?」

 「…………」



 頭部を失ったガキの体が、ぐねりとうねり始めた。

 ……そうか、人型じゃなくて、不定形タイプか。スライムとか、そういった類の。頭部が弱点じゃない。だと、不味いな、少し距離を取らないといけない。


 『伸びろ、伸びろ』


 二本の触手で体を起こして、片足でジャンプ。触手を纏わせた右腕で地面を叩いて一回転、転がりながら足を伸ばして、触手を支えに立ち上がる。


 うぉお、お、頭がぐらっときて、フラついてきた。

 霊薬を使ったから死ぬことはないと思いたいが……血を失い過ぎたせいかもしれない。血というか、色々と無くなった直後に激しい運動をするのは、どうなんだろうか。何かの拍子に、死んでしまったりするんだろうか。


 何か怖くなってきた。早めにケリを……いや、待てよ。


 『ベルフェ、逃げるぞ』

 『え、逃げるって?』


 『こんな奴らの相手をしていること自体、間違ってるんだ。ほら、脱出ポイントが出現している。一定時間で消えるだろ、あれ。お前はミレアとダークロードを担げ』

 『ああ、なるほどね……りょうかい』



 洞窟調査は終わっているんだ。Cランクとの戦闘経験も積めた。十分過ぎる収穫だから、これ以上の無茶をする必要はないはず。


 「おっさん、走れ!」

 「ああ? 嬢ちゃんこそ、行けるのか、それで!?」


 「行けるから言っているんだ!」



 俺たちの大声に、相手も反応する。


 「なッ、逃げる気だな! 桜はその女を、ダナフは男を、藍は……って、藍、大丈夫なのかそれ!?」

 「ごめんなさい主様、命令を守れませんでした」


 「だったら……ソイツは無視しろ桜、あっちの10万ポイントを狙え!」

 「ワウ!」



 命が惜しい。戦う理由が無いから、逃げるのは間違っていないはずだ。

 左腕と右足の仇は、生首落としたので取ったんだ。イラつきも大分解消されてきた。

 

 なあに、ここは異世界なんだ。魔法なんて突拍子も無いもんがある世界。手足が無くとも、命さえあれば、また戦える。



 《スキル:逃走犯発動》


 例の如く、逃走犯さんに力を貸して貰うことにした。このスキルには、Sランクの魔物を振り切った実績がある。右腕と左足しかないこの体でも、この部屋の中央寄りにある脱出ポイントまでの……約1300mくらい、楽々逃げおおせてくれるはずだ。


 「って、うおお」

 「ガウッ!」


 12本の触手を操って、地を駆ける。

 なんか、そういう生き物みたいだ。客観的に見れば、物凄くキモいことになっていると思うが……背に腹は代えられない。


 俺が触手で移動した瞬間に、ベルフェが相手をしていたらしい狼型の魔物が、俺を追い始めた。

 奴との距離がみるみる縮まって、数十cm単位はありそうな大爪が面前を通り過ぎる。触手の傾きで俺の体が沈んで、それを回避するが……ギリギリだった。今のは、やばかったんじゃないか?


 『幹也、そっちに行ったわ!』

 『コイツ……強いのか?』


 『ええ、相当よ。少なくとも、私を殺したアイツと同じくらいには』


 D級ダンジョンボスと同じってことは……Bランク相当の魔物か。狼ってことは、毒が効きそうだな。黒蟲の毒袋を組み込んだ、二本の触手を操る。再び、俺に向けて腕を振るってきた狼の脇腹に、触手を打ち込んだ。


 「うぐッ!?」

 「ガウッ」


 あ、やばい。

 逃走犯はギリギリで回避してくれたけど、狼の爪に仮面が引っかかって……外れた。落した。


 水魔法:水糸を唱えようとしたが、触媒が手元にないから詠唱が間に合わない。完全に、手元を離れてしまった。目が使えないから、アレが無いと真面に戦えないのに……拾いに行ったら、俺、死ぬよな。地味に愛着湧いてたのに……てか、狼元気だ。毒効いてないじゃん。無駄骨かよ。


 回避運動を逃走犯(スキル)に任せながら、皆の様子を見ると、ダークロードとミレアを両脇に抱えたベルフェゴールが脱出ポイントからの離脱に成功していた。おっさんは、俺が一人にならないように位置を調整しながら豚と戦っている。既に斧が残っていないのか、柄の部分を使って豚の槍を弾いていた。


 10本の触手で走っている俺は、慣れない動きとは思えないくらいのスピードはででるけど、まだあと10~20秒はかかる。おっさんは先に行かせるべきだ。


 「行けッ!」



 おっさんが、俺の声に反応する。

 一瞬、迷うように眉を歪めたが俺の言葉を信じてくれたようだ。オークから逃げるように脱出ポイントに触って装置を起動した。獲物を失った豚が俺を狙い走ってくる。


 残りHPは40%。スキル:逃走犯での自動回避には、微量のHPを消費してしまうから。このペースだと、あそこまで持たないかもしれない。逃走犯じゃ……HP的に死ぬかもな。俺も、ベルフェに運んでもらった方がいいか。


 『まだなの?』

 『待って…………うん、いいわよ』



 ベルフェの召喚準備が整った。ダークロードとミレアを地上に返したベルフェが、待機空間に戻ったんだ。再度の召喚は自由にできるから、俺の任意でこの場に召喚できる。タイミングは重要だ。


 ベルフェは、召喚後に取った行動で自身の力が減少してしまう。命を助けたり、奪ったりが最も大きく弱体化してしまうから、ミレアを助けたことで最強種である上級悪魔としての能力は失っている。更に、戦闘行為を繰り広げた後で、ダークロードとミレアを再度、助けてしまった。それすらも、減少対象だとすれば……。


 『俺を担ぎなら、豚と狼から逃げることはできそうか?』

 『そうね……豚よりも、狼の方が速いのよ。賢いみたい。私が幹也を捕まえるから、狼と豚の邪魔をしてくれれば、多分』



 ベルフェの多分は、大抵がその通りになる。絶対じゃない、99%上手くいく状況でも、多分と言っている。要は口癖みたいなものだから、無視していいだろう。


 『じゃあ、豚の初撃を避けた瞬間に召喚するからな』



 狼の追撃を躱しながら、脱出ポイントまでの移動を続ける。

 突撃槍を構えた豚が右斜め前方向から接近。衝突まで、あと三秒、二秒、一秒……。


 「ブォオオオオウッッ!」



 数本の触手が、瞬時に伸びた。地面と繋がっている触手が伸びることで、俺の体が上へ上へと持ち上げられる。オークの突撃を躱して、千切られた触手が水に還る中、俺はベルフェゴールを召喚した。


 《スキル:悪魔召喚発動》


 「来い、ベルフェッ!」

 「幹也、早くッ!」



 空中で召喚エフェクト無しに出現したベルフェが、俺を両手でしっかりと抱きかかえた。

 背から生えた小さな翼が展開して、俺のMPを断続的に消費しながら飛行を始めた。そうだった。ベルフェは、空を飛べるんだ。


 これなら楽勝だな、と考えていたところに……呟くような、声が聞こえた。


 「みき……や?」



 ベルフェが大声で、俺のことを幹也と呼んだ。

 その呟きはそれに反応したようで、妙に気になってしまい、魔法陣の認識領域を移動させた。


 すると、そこには……見知った顔があった。同じ学校で、同じ学年の。クラスは違えと、理系というところは共通していて、授業なんかでも時々顔を合わせる……喜連翔耶。俺の、友人。


 ああ、なるほど。合点がいった。なぜ、異世界であるはずのこの場所に、ダンジョンなんてものが存在するのか。ダンジョンマスターなんて職業があれば、こういった場所を作ることができるのだろう。若しくは、スキルで作ったのかもしれない。


 「…………」



 確か、狼と豚、それとガキに命令を出していたのはアイツだったな。

 俺を、殺そうとした……と。はは、ははははは……あの、精神学オタクの腐れロリコン野郎が。



 「ちょっと、幹也! 狼速い、追いつかれるわよ!」

 「ははははは、はぁ。悪い冗談だろ。まぁ、いいか。アリア、氷壁を、何重にも、MPの続く限り永遠に」


 『…………』



 手斧を落とさないように握りながら、親指と人差し指だけで霊薬の小瓶を傾ける。飲み干した後で、次の小瓶を。それを繰り返して、MPの回復を続ける。一瓶50万円の最高級回復薬。手持ちの個数も少なくなってきた。


 狼と豚の前には、アリアが作り出した分厚い氷壁が出現した。オークの突進のスピードが格段に落ち、狼に至っては一枚一枚を爪や牙で破壊している為に完全な足止めを喰らっている。なんだ、最初からこうすればよかったんだ。


 喜連。あのロリコンがこの世界にいるとは思わなかった。ゲームを馬鹿にしていた奴が、なぜ異世界(ここ)にいるのかは不明だが……次に会ったら、絶対に殺してやる。いつか、暇が出来たら、殺しに来てやる。


 「だから……それまではッ! よぉッ! てめぇのママの【――――】に【――――】でも【――】して待ってやがれよッ、この腐れ【――――】がッッッ!」

 「ちょ、突然どうしたのよ。ほら、逃げるわよ」



 光が薄くなっている脱出ポイントに着地して、そのまま光に包まれて…………俺は、地上に転移した。


■■■










 え、斉藤だったよな、今の……。なんで、この世界に斉藤が居るんだ、他人の空似か?


 「ごめんなさい、主様。わたしのせいです」

 「ああ、いいよ、別に。15万DPを逃したのは痛いけど、藍も学んだだろ。追い詰められた獲物は時として~って。なんだっけ、こないだプログラム教官が話してたの」


 「はい、足を斬ってきどうりょくを削ぎ、あとはとどめを刺すだけでした。あんな、ぴょんぴょん、羽虫みたいに動くとはおもわず……」

 「うん……はぁ、ちょっと待って。桜と戻っていいよ。藍は1Fで奴らを探してて。外に行っちゃってたらもういいや。ダナフも持ち場に戻ってな。その槍あげるから」



 紅がいる、俺の部屋……マスタールームとも呼べるあそこに戻りながら、少し考える。


 15万DPがあの斉藤幹也だったとしたら、殺さなくて本当に良かった。めっちゃ悪口言われたけど、斉藤はあれがデフォだから気にする必要はない。気に入らないことがあらば、すぐに死ねだとか、クソだとか、小学生みたいなこと小学生みたいなナリで言ってるから……可愛いんだよなぁ。

 無論、小柄な体型だけじゃなくて、毛先のふんわり具合も、薄い割にもちもちしてそうな頬も、瞑らな瞳も、全部が愛らしいが……うん、絶対に斉藤だったな。最後にめちゃくちゃ言ったけど……俺を、ロリコンだとかマザコンだとか。母さんが精神医療の専門家で、色々と愚痴ってるのを聞いてるから、それを世間話感覚で話してて。加えて、好みのタイプを幼い子と答えた俺に非があるのか?

斉藤と話す時は、少し変なテンションになっちゃう俺がいる。母さんの話も、好みの話も、興奮気味に話しちゃった記憶もある。


 てか、10万DPが斉藤だって仮面(これ)してたから分からなかったけど……なんだろう、狐面にしては、妙にリアル志向だし。本物の毛だよな、コレ。斉藤にこんな趣味があったとは……動物とか、好きなんだろうか。桜を出汁にこっち側に引き込めたりとか、できねぇかなぁ。



 待ってやがれとか言ってたし、次に会ったら言ってみるか。一緒にダンジョン作ろうぜ、ってな。





















■■■


 「ほら、外に出たわよ。……って、どうしたのよ。元気ないわね」

 「……おっさん達は?」


 「あっちね、多分だけど。……ふぅ、疲れたわ。久しぶりに飛んだから、腰が凝っちゃった。寝たいから、帰っていい?」

 「駄目。連れてって」



 どうやら、脱出ポイントは洞窟の入り口付近に繋がっていたようだ。

 さっきっから腕輪の音声機能が絶え間無く何かを言ってるが、無視。ベルフェの声にだけ返答を済まして、全身の力を抜いた。


 傷口は塞がっているけど、ずきずきと痛む。以前、腹をバヨネットで貫かれた時は霊薬(エリクサー)連打で治った。傷痕はおろか、後遺症も無く、完全に。なのに、腕と脚は痛む。違いは何だ?


 わからない。

 わからない…………固い。ベルフェの胸、固い。抱きかかえられてるのに、包容力とか、温もりとかを、感じない。何だこれ、女体じゃねぇ……。


 「……ちょっと、聞こえてるわよ」

 「逆に考えて。聞いた方が悪いんだ」



 油断すると思考がだだ漏れになってしまう。油断してなくても、ベルフェがその気になれば俺のプライバシーなんて無いに等しいんだから。というか……本当に固いな、これ。腕も細い。細いのに、力あるんだよな。これって魔力的な何かで筋力を補助してるのか?


 「違うわよ。これでも筋肉はあるのよ、人族のそれとは違うだけで」

 「そうなのか?」


 「上級悪魔はみんなそうなのよ。無駄に身体を大きくする必要なんてないの。そんなの、低級の悪魔がすることだわ」


 じゃあ、ナチュラルにSTRがあるのか。

 俺もこの体じゃなかったらもっと強くなれるかもしれないのに。せめて、ゲーム開始時に作ったゴリマッチョアバターだったらSTR特化で……って、あれ?


 そういえば、まだ今日はスキル:最適化を使ってないな。だとすれば……。


 「最適化、発動」

 「ちょ、やめなさいよ」


 《スキル:最適化発動》


 スキルを使って、Mikiyaのアバターになった。

 ……やっぱり、思った通りだ。腕も、脚も、ある。ということは、元の体で戦っている最中に何らかの致命的な負傷を負ってしまった瞬間に最適化を使えば、その場しのぎが可能だということに……はぁ、どうでもいいか。スキル解除っと。


 「だから、だっこされてるのに変化魔法使わないで」

 「ごめんごめん。っと、遅れたな」



 洞窟から少し離れた位置に、おっさんとダークロードがいた。足元にはぐったりとして座り込んでいるミレアもいる。たかが一戦。だけど、命を危険に晒し続けた一戦だ。疲労感は、他の何よりも多大に感じているはず。まして後衛の女の子だ。座り込んでしまうのも無理はない、か。


 「無事だったか……なぁ、嬢ちゃん。わかってるな?」

 「ああ……報酬はいらない。俺の分は、三人で分けてくれ」



 冒険者にとって最も大切なものは、金。膨大な額の、報酬だ。

 その金を受け取りを拒否するというのも、同等に最大限の謝罪と成り得る。そう聞いた。


 「グラーデ氏……いくらなんでも、それは」

 「トト坊、ケジメは大切だ。あんなことをされちゃぁ、命がいくつあっても足りやしねぇ。なぁ、わかるか。てめぇの勝手が原因で金を貰いそびれた。これが大切なんだ」


 ダークロードの言葉を遮って、おっさんは話した。

 ダークロードの優しさが邪魔だということだな。おっさんの言葉は概ね正しい。


 「グラーデ、ダークロード、ミレア、すまなかった。謝罪する。俺の独断で、皆を危険に晒した。これ以上とない大事だ。死んで詫びるのが妥当かもしれない。だけど、それを実行するわけにはいかないんだ。俺にも、目的があるから」



 ベルフェから降りて、片足で正座をしながら続ける。


 「報酬はいらない。俺の所持品全てを自由にしてくれて構わない。だから、この通りだ。許して欲しい」



 この世界に、土下座なんて概念があるとは思えないが……反省の意を込めて、頭を下げた。



 「わ、我は気にしていない。許す、許すぞ」

 「私も、いいよ……それより、早く帰ろうよ」



 ダークロードはすぐに許してくれた。

 ミレアに至っては、俺の謝罪よりも帰って休むほうが優先らしい。憔悴しきっている。


 「…………わかってくれたなら、それでいいんだ。嬢ちゃんの怪我の治療費は、俺が払う。リーダーだからな。そういうもんだ。なるべく早く治療しねぇとな」



 おっさんは、別に怒っているわけではないようだ。

 大方、俺に反省して欲しいだけなんだろう。この人は巨漢で強面だけど、根が優しいからな。それは今までの付き合いでとっくにかわっていることだ。


 俺はベルフェに持ち上げられながら、彼女のことをさらっと説明した。


 「コイツはベルフェゴールって名前で、俺の使い魔だ。ほら、挨拶して」

 「なによその感じ……ベルフェよ、よろしく」


 「それでだな……おっさん、すぐにでも街に戻ろう。ここは、まだ奴らのテリトリーだ」

 「……だな。ほら、帰るぞっと」



 ミレアを引っ張り上げながら、転移しようとするおじさんに身を寄せる。

 あ、その前に……ベルフェ、帰っていいぞ。転移石には人数制限があるからな。


 「わかったわ。ほら、幹也を支えてて」

 「うむ、我に任せよ…………随分と軽いな」


 「そりゃあ腕と脚がないからな、軽いだろうよ。スキル発動」

 

 ダークロードに支えられながら、ベルフェをスキル:悪魔送還で帰らせた。

 そしてすぐに、おっさんが転移石を起動させて……コルーガ街へと転移した。










 街に着いて身分証明を終えてから、おっさんを除く三人で、以前に一泊した宿に向かった。

 おっさんはギルドに洞窟調査の報告をする為にと別行動を取った。鉱石は取れど相当危険な場所であるので、一刻も早く注意を呼びかけなければならない。この世界の人間は、魔物と戦争をしているんだ。人が減り過ぎると、不味いことになる。


 疲労したミレアをベルフェが、歩けない俺をダークロードが背負いながら歩き、数分後には宿に着いた。

 部屋を取り、その内の一室に皆で集まった。


 「狐っ娘の腕と脚の治療をどうするかだが……我の提案は、応急処置だけを行い、狼っ娘が帰るのを待つというものだ。以前、我が指を失った際に、意図も簡単に復元していたのでな。相応の腕を持っていると見える」


 ダークロードが、俺の腕の具合を確認しながら、そう呟いた。

 ルーナは、確かに治属性の魔法を使える。俺が与えた毒を、解毒していたからな。まして、その毒が黒蟲の毒だったのなら、失った手足の一本や二本を治せるって話も、なくはない。黒蟲の毒ってのはこの世界に存在する毒の中でもかなり上位に位置しているらしいから。なんせ、Cランクの黒蟲が毒を吐いて、Aランクの魔物を殺した例もあるくらいだ。それを解毒できるのなら、期待できる。


 「で、でも、治すのなら早い方が、いいんだよ? 遅くなっちゃうと、後で違和感を感じちゃう……から」


 隣りのベットで寝転がりながら、ミレアが言った。

 つい先程、例の疲労回復に効果のある魔法薬の余りを飲んだ彼女は、体を休めて回復に専念していた。ミレアも治属性の魔法を使えるから、いざって時になるべくは万全の状態であって欲しい。


 「だったら、ミレアの魔法で治して欲しい。それなら、2~3時間後にはできるだろ?」

 「できなくはないけど……と、取れちゃった腕とか、脚が、あれば。無いと賭けに、なるかも……具体的には、30%くらい、かな」


 失敗する可能性があるのか。

 仮に失敗したらどうなるんだろう。魔法がキャンセルされるだけならいいが、俺の体に影響があると嫌だな。デカい腕が生えるとか、それはそれで面白そうではあるけど……。


 すると、俺の後ろで枕を抱きしめていたベルフェが、何やら妙な物をぶらぶらさせながら話し始めた。


 「腕、あるわよ。狼が咥えてたのを、噛まれる前に取り返したんだから」

 「……それ、俺の腕かよ。人の腕で遊ぶな、返せ」



 ベルフェから腕を貰い受け、具合を確認してみる。

 まず、切断面がえぐい。骨が飛び出ているし、血肉が溢れている。ベットにシミができてしまった。側面に、牙の跡が四個。その部分が特にやばい。


 「なあ、ミレア。これ使えそうか?」

 「…………きっと、大丈夫だと思うよ。先に、これを治しちゃうから」



 そうか、ならいけそうだな。

 でも、その汚い物を扱うみたいに人の腕を持たないでほしい。なんか、地味に傷付く。


 「だとすると……問題は脚だな。落されて、すぐに燃やされたから。現物が無い」

 「狐っ娘が戦った者は、腕が良かったのだろうな。この回復跡を見ると、切断面はよほど綺麗だったのではないか? これなら、後遺症の心配もあるまい」


 「後遺症?」

 「無茶な傷に魔法薬を使うとな、拒否反応を示す場合があるのだ。一見すると治ったように見えていてもな、傷の裏側の修復が甘く、数日で死亡してしまう場合が多々ある」


 一瓶、金貨一枚の霊薬でも、そんなことがあるのか……あれ、ちょっと待てよ。


 「ダークロード……少し、俺の腹を見てくれないか。この辺りに刃物がぶっ刺さって、それを霊薬で治したんだ。戦闘中だったから、他の薬と併用していた覚えがある」


 「その心配は無用だな。現に、狐っ娘は死んでいないではないか。通常、そのようなことがあれば戦闘などできない程に痛むものだ。そして、死んでしまう。痛みは感じないのだろ?」

 「確かに……痛くはない」



 服を離して、軽く寝転ぶ。

 ミレアが回復するまではまだ時間がかかる。腕が治るにしても、脚が無いのはキツイかもな……クラークに戻るのだって、移動方法は馬か徒歩だろうから。石が一つだけあるけど、これは何かあった時のために残しておきたいからなぁ。節約せざるを得ない。



 ま、何はともあれ。これで俺はDランク、Cランク、推定Bランクとの戦闘経験を積んだわけだが。Dランクの魔物はそれなりと倒してきた。Cランクも、黒蟲、雷光鳥、オークの三種類を。D級ダンジョンのボスが、推定でBランク相当の戦闘力を持っていたらしいから。


 まぁ、さすがにアイツとは10秒やそこらしか絶対にわたりあえないけど。あの時だって、邪教徒×殺人鬼のステ3倍×倍率強化でギリギリ戦えてたわけだしな。ん? そういえば、あれからステータスだって増えているんだし、今なら殺人鬼だけでも……ああ、無理か。結局、12秒しか使えないんだった。


 どうすればいいんだろうか。最大MPを倍率で強化する装飾品とかが、RPGじゃ相応のレアアイテムとして存在しているけど……この世界の住人にはステータスの概念が無いからなぁ。店売りには期待できないしな。成長制度は、俺らにしか適応されていない。それどころか、HPとかMPとかも俺らしか認知できない。認知できないものを強化する装備品なんて、どんなに凄腕の鍛冶職人だって、絶対に作れない。



 「ああ、本格的に眠くなってきた。ミレアが起きたら教えてくれ……」

 「嫌よ、わたしもゆっくりしたいの。えー、あー……そこの君、頼むわよ」



 ベルフェはダークロードの名前を知らないのか?

 何十回と呼んでいるのに…………あ、マジで眠い。


 あれ、眠いっていうか、瞼が痛くて、首の後ろがスーっとして、後頭部が、ぐらぐらと、この感覚……これ、貧血じゃん。












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