第26話 残心(2)
俺が冒険者になって、初めて受けた依頼が黒蟲討伐の依頼だった。
依頼の難度を示すランクは『C』。
それは、討伐対象の黒蟲がCランクの魔物に分類されるからだ。
だが、常時群れで行動する黒蟲である。
このCランクという評価は、群れでの総合戦力を加味した結果なので、単体の場合はD級程度の冒険者でも十分に狩ることができる魔物である。
電車サイズの巨大ムカデで、戦車に搭載されるような機関銃を以ってしても殻の装甲を削ることしかできない超級の化け物が、ランクでは中間に位置している。S~A、B~C、D、E~G。一流の冒険者と呼ばれる者が複数人いれば、対等に戦うことができる存在がDランクの魔物なのだ。
Cランク。
Cランクの魔物は、特別な才能を持ち、一流以上の戦闘力を保持しているC級冒険者が複数人いなければ、Dランクの冒険者が何人いても勝つことはできないとされている。
基本的に、上位のランクに位置する魔物には勝てない。
例えば、G級冒険者がFランクの魔物を倒すことがある。F級の冒険者がEランクの魔物を、E級の冒険者がDランクの魔物を倒すことも、無くはない。
だが、そんなことが起きたのは全体の一割にも満たない幸運な者々だけで、大半は無残にも殺されてしまっている。更に言えば、その一割の内、更に九割は単純に強者なルーキーが作業的にランク上げをしていたに過ぎない。初期ランク認定試験を受けなかった人は、Gランクから順当にランクを上げる必要があるから。
純粋な意味で、上位ランクの魔物に勝てる確率は1%未満。
これがこの世界の常識。
「"Cランク"だよ。槍を持ったオークの適正レベルは、C級冒険者だクソったれ」
オークを凝視しながら、おっさんは悪態をついた。
C級冒険者。アレンのような人外の動きをする連中が狩る魔物。タイマンでならルーク並みの実力が必須となるランク。それが、あの豚野郎の実力らしい。
「で、だ。どうする? オークを倒さずに、戻るってのは……」
「倒せないこともない」
そう。負けはない。
なぜなら、Bランク相当の魔物と殴り合える上級悪魔さまが、現時点での全力を発揮することができるからだ。
D級ダンジョンのボス戦。
あの時、ベルフェゴールは戦力低下の影響を受けていた。アレンが気絶し、死にかけた俺を助ける為に魔物を半殺しにしたからだ。にも関わらず、強化個体であるD級ボスと対等に戦うことができた。
ベルフェゴールを召喚すれば、勝てる。
でも、今すぐ召喚するというのはあまり賢い選択とは言えない。愚策。こんなチャンスは滅多に無い。あの時は、D級ボスと戦った時は、奴と俺との間には圧倒的な差があった。技術で埋めきれない、地力の格差が。
しかし、この豚野郎はどうだろう。
確かにコイツの身体能力は文字通り桁違いだ。前提とする身体のサイズが違い過ぎる。槍の技術だって、C級の壁を突破する為の判断材料になる程度には才能という物を持っている。それに、あの突撃槍は一級品でその辺の量産タイプの武具ではないことくらいは知識のない俺でもなんとなく理解できる。圧倒的だ。
だけど、なぜだろう。絶望感を抱かない。
龍人の初動を見た時、D級ボスの底を認識した時、宿屋の4階から飛び降りた時、魔羅刀の炎と相対した時、天使の呪術を受けた時、思い抱いた感情が、浮き上がってこない。背筋が凍り、肩が固まって、喉が詰り、心臓が縮むような、あの感覚が……ないんだ。
『ベルフェ。俺たち4人の内、誰かの死が確定する寸前に助けに入れるか?』
『……邪魔が入らなければ、楽勝ね。召喚のスキルを発動しない、送還のスキルを発動しない。この二つを守ってくれれば、私の方からそっちに行くわ』
そうか。なら、最悪の事態は防げるってことだ。
『俺は……スキルを、技を、魔法具を持っている。恵まれている。Cランクが倒せなくて、どうしてSランクと戦える』
そうだ。俺は……Sランクを倒さなくてはならない。
デバフをかける予定だとしても、こんなところで躓いてちゃ駄目だろ。
俺の都合で、仲間たちを死なせるわけにはいかない。
でも、時間の猶予がない。オークは既にこちらに照準を絞っている。
「俺は戦いたいが強制はできない。おっさんは後ろの二人を連れて逃げるといい」
「はぁ!? てめぇ、死ぬ気か!」
「死なない。経験は大切で、機会は少ないってことだから、勝手を許せよ。引き付けるからさ」
「ちょ、待てよ嬢ちゃん!? あああ、糞餓鬼が!」
ベルフェのことを知らないおっさんからしてみれば、俺の主張は只の妄想で、行動は無謀に見えるだろう。
この状況でベルフェの存在を伝えるのは難しい。戦いながら話せば舌を噛む。少しでもいいから、俺にCランクを経験させてくれ。
ゆっくりと、身を低くしてオークに接近する。
逃走犯はクールタイムが残っているから、あと40秒は使えない。殺人鬼の発動時間が12秒なので、28秒は自身の力で生き延びる必要がある。
ドッペルガンに形状変化を促した。
散弾銃、RemingtonModel870を両手で構えて一発、二発と弾薬を吐き出す。
バゴォォン、カッシャン。バゴォォン、カッシャン。
立ち止まり、上半身を安定させて、合計三発の20番を放った。耳元で響く銃声は爆音のようで、薬莢が排出された際には軽いリロード音が鳴った。
散弾銃の射程はハンドガンと似ているが、オークが相手ならある程度の距離からでも当たる。そも拳銃も散弾銃も最大射程自体はかなり長い上に、的の大きさと弾の種類の相性が良いからだ。
「ブオォォウ!?」
「…………」
銃を飛び道具と認識しているオークは、先と同じように槍を振って弾を弾いた。だが、全ての弾を弾き飛ばせたわけではない。リザードマンとは違い、オークに対して銃は効果的だ。魔法で強化された鱗は存在せず、多少の毛が生えているだけ。弾は奴の肉を削って、傷からは濁った血が噴出した。
攻撃を受けながらも足を止めずに、オークは槍を振るってきた。
銃を投げ捨て、手斧を構えながら回避運動を取る。初撃をギリギリで避け、突きからの払いを尻尾と触手を駆使して上に逃げる。アリアの氷魔法で大斧を作成して、それを足場に更に上へ、奴の首元に短剣を突き刺そうと試みるが、オークが攻撃を止めて二歩、後ろに下がった為に外してしまった。
「ブォオオオッ!」
『来るわよ。両手で連撃』
『わかってる。アリア、右と、左上に足場、奴の背を大斧で攻撃』
『…………』
オークは二本の突撃槍を装備している。バックステップを踏んだ奴は、攻撃態勢を整え終えたと言ってもいい。俺はオークの胸元に近い高さまで移動しているので、奴からみれば格好の位置なわけだ。
一撃目。俺を捉えた突撃槍が真正面から迫ってくる。
触手で殴るようにして体を必死に移動させて回避……しきれなかった。左肩が微かに抉られて、衝撃が走り、身体が回転する。腕は……大丈夫、掠っただけだ。……掠っただけ?嘘だろ。掠って、傷が浅くても、ここまで態勢を崩されるのか。
二撃目。一本目が引かれ、二本目が迫ってくる。
槍より速く、俺の右下に出現した大斧が腹で俺を殴りつける。それを右足の裏で受けて、跳躍。二撃目の攻撃、これも避けたと思ったが突撃槍の速さが尋常じゃない。左足の太股を抉られた。
三撃目。引いた一本目が再度襲いかかってくる。
左足にダメージを受けて、力が抜けてしまった。それでも左上に出現した大斧に尻尾を絡めて体を持ち上げる。槍を避けて、右手で取り出した黒蟲の短剣をオークの顔面に向けて投擲した。
槍を盾のようにして短剣を防がれた。
視界から逃れたので、技:隠密を発動する。地面に着地後、左足に霊薬をぶっかけてから新たに形状変化を促した二挺目のドッペルガンを両手で構える。銃で攻める。マシンガンで削るより、ショットガンで具体的な四肢の欠損を狙う作戦だ。
一発だけ、俺の存在を認識できないオークは、その丸太のような太い足を銃で撃ち抜かれた。
「ブォオ!?」
「死ね、死ね」
二発目は槍で防がれたが、相当なダメージを与えることができた。
HPがぐっと減り、残り約90%。ゴブリンのような魔力特性でも無い限り、あの傷は治せない。回復魔法を使う隙なんて与えないし、オークが回復薬を所持している可能性はゼロに近いから。俺のように回復アイテム頼りの戦法を使うことができないから、態々俺の攻撃を槍で防いでいるんだ。
オークの背後に現れた大斧が、追撃を仕掛ける。
負傷した足を庇いながら攻撃を防御して、銃声の響く中、無音で出現した大斧に奴の反応が遅れた。氷魔法の大斧が奴の背を砕いて更にダメージを与える。大斧の存在に気が付いたオークは、素早く槍を操って斧を壊するが、人間でいう僧帽筋の辺りが深く傷ついた奴は極短に動きが鈍っていた。
勝てる。
そんなことを考えた矢先、オークの魔力が爆発した。
「ブォオオオ!!」
「……あ?」
赤色の魔力が燃え上がるようにオークを包み込んだ。
それと同時に奴の肉体が活性化して、傷からの出血が止まった。いや、止まっただけじゃない。僅かに回復したような痕が見える。
槍を回転させながら正位置に構え、突撃の姿勢を取った。
瞬間、オークの姿がぶれた。
あれ?
「だっりゃあああッ!」
「ブォオオオ!」
「!?」
突如、斧が砕け散った破裂音と殆ど同時におっさんとオークの気配が面前に出現した。
両者共に、赤色の魔力を全身から噴出させている。
あれは……身体能力を向上させる類の魔法を受けた証、肉眼で確認できるレベルまで高濃度で漂っている付加された魔力。
いや、そんなことより……。
『なんで……』
『オークを見失った幹也を、あの人族が庇ったのよ』
『えっ……あ、そうか。オークの動きが見えなかった。完全に。前は警戒していたからよこから回り込んできたんだろうけど』
動きが速すぎて、俺なんかじゃ知覚すら無理だったと。はは、嘘だろ。
スキル:認識、仮面の気配察知、魔法陣の効果を最大限に引き上げて、おっさんの動きを追った。
ミレアによる援護魔法(肉体強化から始まる一連の強化魔法の多段詠唱)を受けたおっさんは、最早E級冒険者とは言い難い。恐らく、身体能力に優れたC級冒険者並み。圧倒的な力と速さを得て、彼はそれらを完全に支配下に置いている。
背後からダークロードがやってきた。
オークの動きを阻害する為にと防御結界を多数同時展開させている。肘や踵に沿って結界を張り、槍を引く動作を止めたり、バックステップを封じているようだ。その援護があって初めて、おっさんはオークと真面にやりあえる。
俺の近くまで走ってきたダークロードが、息を整える間も無く捲し立てるように話し始めた。
「オークの魔力特性は肉体強化の魔法で、『速さ』の一点強化だ。唯一使える魔法であるから、保持している魔力を全て注いでくる。あの速力で槍術を並み以上に操るから、Cランクなのだ。我が動きを妨害するから、キツネっ娘は水と氷で機動力を削ぐのだ、早急に、素早くな!」
早口で、一気に状況を伝えて、そのまま魔法品を操り続ける彼を眺めながら思考を働かせる。
速力の強化……それだけで、動きを追えなくなるのか。
俺の眼は、仮面は、魔法陣は、あの豚野郎にすら届かない。Cランクの魔物にすら、届かない。
……ああ、よくわかったよ。俺はD級冒険者なんだ。リラナルテさんの判断が概ね正しい。C級に届きそうな、D級。それが俺の戦闘力。だから、一人ではCランクに勝てない。例え、俺が特別な能力を所持している『使徒』だとしても、それは変わらない。
勝てると、思ったんだけどなぁ……。
アレンがいた頃は、ベルフェと一緒に三人で雷光鳥を倒したが、あれだって二人がいたから勝てたのか。確かに、羽を潰した俺より、重力場で地上に落としたベルフェや雷を避けながら止めを刺したアレンの方が貢献していたか。そうか……。
俺一人じゃ、Cランクは倒せない。それはわかった。だが、パーティー単位ならどうだろうか。
俺の馬鹿げた行動が原因だとはいえ、おっさん、ミレア、ダークロード、皆がやる気になってくれたんだ。おっさんの一撃は防御特化のリザードマンにすら通じる。生粋のアタッカー。彼の攻撃が通るように、俺は援護に徹すれば良い。そうだ、最初に決めたじゃないか。
「ダークロード……悪かった、その作戦でいこう。おい、おっさん! 俺が隙を作るッ!」
「おうよ、さっさと隙の一つや二つ、作りやがれッ!」
俺の声がおっさんに届き、怒鳴り付けるような返答を貰った。
身体能力を極限まで強化したおっさんは、速力を強化したオークの動きが見えているようだ。だが、おっさんが全力で攻撃を行うと武具が損傷してしまう。それに加え、オークの槍は兎に角デカいから安易な防御は死に繋がる。
だからおっさんはフェイントを繰り返して、オークとの接触を少なくするような戦法を取っていた。
なまじ才能があるだけに、フェイントを無視するという考えがあの豚野郎には無いようだった。
落ちていたドッペルガンを回収しながら、魔法具を起動させた。
俺は、アタッカーではない。
職業はシーフ系で、STRよりもINTよりも、AGIが高い。どちらかと言えば、補助担当みたいな所がある。建物サイズの豚からだって、隙くらい作れるはずだ。
オークに近づきながら、開いた左手に魔力を集中させる。
発動させる魔法は水魔法水玉。クォーリアから教えてもらった最下級の水魔法で、小さい泡のような攻撃魔法を手元で大量生産して、一気に放出する魔法。攻撃力は皆無だが、相手の防御を誘発できると言っていた。
確かに、彼にとっては攻撃ではないのだろう。暗殺者は対人戦を想定しないからな。水属性の下級以下という注文だったから、取り合えず教えたに過ぎない魔法の一つ。そんな認識だったはずだ。
肝心なのは、これが水属性の攻撃魔法で、消費魔力が少なく、広範囲に攻撃が及ぶということ。
俺には、ルークから教えられた脳内詠唱の技術がある。難易度が最下級に分類される水玉は、自分でも驚く程に簡単に詠唱することができる。『あわ』。この二文字で十分だ。
「あわ。あわ、あわ、あわ、あわ、あわ、あわ、あわ、あわ、あわ」
『あわ。あわ、あわ、あわ、あわ、あわ、あわ、あわ、あわ、あわ』
僅か3秒間に、水玉を20回連続で発動させた。
ぶくぶくぶく、手元で大量発生した泡が、空間を埋め尽くしていく。魔法を維持させるための魔力を切っているので、水玉は発生から1~2秒で壊れてしまい、構成を失って魔素に還元された。
『アリア、いくぞ。氷花と氷壁は使うな、氷柱と大斧で攻めるぞ』
『…………』
自動攻撃システムを搭載した氷花は、操作性に欠けるのでFF(Friendly Fire)の可能性がある。氷壁に至っては張るタイミングを間違えれば只の障害物だ。俺より速い対象に合わせる自身はない。
大斧はアリアに任せて、俺は氷柱を制御する。
魔素を手斧の能力で魔力に変換、氷魔法氷柱を詠唱する。1mの氷柱を5本、2mの氷柱を1本の計6本。おっさんと対峙しているために動きを止めているオークの頭上から氷柱を降らせた。
姿がぶれている相手に、果たして攻撃は命中するのか。
俺は目が使えない。だから、魔法陣で周囲の状況を理解している。オークの造形は見えないが、奴が豚人間で、茶色で、デカくて、槍を持っていることを理解している。これは、魔法陣が読み取った情報が脳に送られているからだ。
現在、オークの位置情報が絶え間なく魔法陣から送信されているわけだが、絶え間なくとは言っても魔法陣の構造上、僅かな間が開いてしまう。情報を得て、脳がそれを処理する一瞬。その一瞬で、オークが次の位置に移動しているわけだ。情報を処理する段階で次の情報との差異を認識してしまうから、オークの姿がぶれているように感じる。
氷柱が、オークに降り注いだ。
それを右手の突撃槍で解体するオークの右足を、突如出現した大斧が素早く刈り取る。しかし、氷の大斧を槍を回転させて弾いた奴は、続くおっさんの一撃を左手の槍で往なして、そのままおっさんに襲いかかった。
っち、オークだけ動作が速い。
俺の氷柱、アリアの大斧、おっさんの斧を二本の突撃槍で捌いてやがる。ダークロードの邪魔があってこれだ。伊達や酔狂で二槍流なんて変則的な型を使ってはないってことか。
さて、コイツをどうやって攻略するかだが……弱点はわかる。防御性能が高くはないという一点だ。
魔力特性は速力特化で、突撃槍で攻撃力が上がっているが、防御力は素の状態で肉があって毛があるだけだ。だから刃物で簡単に傷付くし、銃弾でダメージを受ける。ちまちまと削って、速力を削げばいい。
問題は、おっさんの攻撃回数に限りがあるということだ。おっさんの攻撃は肉体強化を受けたおっさんと斧が必殺の一撃を繰り出すことで成り立っている。しかし、如何せん負荷が掛かり過ぎて、一回の攻撃で武器が壊れてしまうんだ。できれば、少ない試行回数で直撃を持って行ける状態にしたい。
『そろそろ、賭けにでるか。殺人鬼で強化掛けて、四肢の一本でも壊死させてやる』
『え、急にどうしたの?』
『おっさんがやばい。ミレアが後ろから走って来てるってことは、そろそろ体力が尽きるってことだろ? おっさんとコンビを組んでるミレアだから、おっさんの体調に逸早く気付いたんだ』
『ふーん、別にいいんだけど。また炎の子の時みたいにならないようにね』
『わかってるよ。スキル任せじゃなくて、俺が道を示せばいいんだ』
氷柱を大量に生産しながら、オークがいるであろう位置に放ち続ける。続けながら、魔法薬と霊薬を交互に飲んでHP・MPを全快した。これでスキルが使える。狙うは僅かにダメージを与えてある左足、次点で左腕。氷柱とM870で、潰す。
「スキル:殺人鬼、発動」
《スキル:殺人鬼発動》
赤い魔力が全身を包み込み、体の底から力が湧いてきた。
右手に手斧、左手に散弾銃を持ちながら、先とは比べ物にならない程のスピードで動けるようになった俺は、豚の背後に回り込んだ。
「おい豚野郎、死んじま……っと!?」
「ブォオオ!」
攻撃を中断。
薙ぎ払いを、バックステップで回避する。
この豚野郎、おっさんの相手しながら俺の不意打ちも防ぐのか。
でも……槍が、動きが、見える。殺人鬼状態なら!
「くらえ、クソ、豚、がぁッ!」
「ブガッ!?」
撃って、氷柱で追撃して、その両方が槍で阻まれたがアリアがやってくれた。手首を、右手首を、大斧で砕いてくれた。
槍を落として硬直した隙を突いて、氷柱を放った。
オークはそれに反応して残った槍を振ろうと試みるが、ダークロードがそれを妨害。結果、氷柱が左足を貫いた。即座にアリアを小指を薬指で支えながら、銃をリロード。左手をぐいっと伸ばして、氷柱が刺さった左足を撃ち壊した。
姿勢を崩したオークを襲うのは、おっさんによる必殺の一撃。
赤く輝いた斧が、体が、見ていて惚れ惚れするくらい、綺麗な奇跡を描いていた。二度のフェントを見切ったオークが、突撃槍で槍を弾くが、アイテムボックスから次の斧を取り出して、振り切った。
「おっ、りゃあああッ!」
おっさんの攻撃が決まった。
左腹に刃が食い込んで、そのまま振り切った。オークの巨体が浮かんで20mは吹き飛ぶ。着地時に自重を諸に受けて、更にHPが減少。おっさんの一撃が、オークのHPを20%も削った。残り55%。
「畳み掛けるぞ、アリアー!」
『…………』
銃と短剣を変え、手斧と短剣を持ち直して倒れたオークに接近する。
左膝から下と、右手を失ったオークは、身を起こしたがバランスを崩している。チャンスだ。
大斧と氷柱が降り注ぎ、片膝立ちのオークがそれを叩き落とす。
アリアは正常に稼働している。自動的に攻撃を続けてくれるから、移動もできず槍が一本になった豚は手一杯の様子だ。なまじ身体がデカいから、防御も難しんだろう。
黒蟲の短剣を逆手で持ちながら、突撃する。殺人鬼の残り時間は2秒しかない。急げ。
恐らく、俺の攻撃より大斧の対処を優先するはずだ。
案の定俺が近づいても、オークは槍を払うだけで真面な攻撃を加えてくることはなかった。動きに揺れを作りながら、奴の腰を斬った。
「ブォオオ!」
オークの槍を手斧で逸らす。身体の差から繰り出された衝撃が俺を襲うが、殺人鬼での肉体強化は三倍近い身長差を埋める程度には働いてくれている。弾かれた右腕を無視して、槍を握る左手に短剣で切り傷を付けた。
スキルが切れて、MP値が枯渇した。
すぐに氷柱で弾幕を作りながら距離を取った。スキル無しの俺じゃ、オークのスピードに着いていけない。槍で刺されて終わりだ。
でも、やった。やってやった。
腰と手に、黒蟲の毒素を入れてやった。
効果の有無は見ればわかる。今回は……効果あり、だ
オークの豚顔が歪み、醜さに拍車が掛かる。実に痛そうだ。そうだよな、掠っただけで大の大人が動けなくなるんだ。痛くて痛くて、毒の回りも速くて、すぐに死ぬ。これはそういう毒だ。
天使のクソ人形には効かなかったけど、大抵の生物になら少なからず効果はあるんだ。
やっぱり、黒蟲の短剣は最高の武器だな。
『勝ち確だな。手足一本を失ったオークじゃ、おっさんを圧倒できない。圧倒できなきゃ、俺らの援護込みを捌けるわけがない』
『結局、私の出番はなかったわね』
『……いや、出番あったけどね。ほら、肩と太股が抉れたよ。助けろよ』
『死なないっていう確証があったから。あれくらいなら、避けれたでしょ』
『避けれなかったんだよ。ラナと訓練してなかったらマジで死んでたわ。只管攻撃を避ける訓練って、意外と馬鹿にならない』
普通、弱った生物は戦闘能力が下がる。RPGのボスみたいな展開は、ゴブリンだけで十分だ。
おっさんが距離を詰めて、これで止めだとばかりに雄叫びを上げながら斧を振り下ろした。毒の痛みに苦しみながらも、オークは最後の抵抗を見せる。突撃槍をおっさんの攻撃に合わせて、鋭い一閃を放った。
『…………』
放ったが、ここで空気を読まない魔法具手斧さんがやってくれた。
オークの背後に俺が作ったものより二回りは大きな氷柱が出現して、オークのカウンターを妨害。背を貫かれたオークの槍がずれて、おっさんの攻撃が決まった。
「ブォオオオオオオ!? …………ブガァッ!!」
「はぇ?」
……あ? って、不味い!?
あの豚野郎……死に際に、槍を投げやがった!
不味い、ミレアが危ない!
あれは一種の技なのか。
オークの手元から放たれた突撃槍が、遠く離れたミレアを狙ってまっすぐに突き進む。スピードが衰える様子がない。それどころか加速してるんじゃないか?ミレアまで400mは離れているが、猶予が無いぞ。あと6秒もあれば届いてしまう。
「不味い、ベルフェ早く!」
「我の結界を……!? ローブ娘、避けろ!」
ダークロードの結界が、まるで中和されたように波打ちながら消えた。
貫通属性か!?
「ミレアッーー!!」
「あ、いや、やだ、来ないで……」
おっさんの悲鳴が響いて、ミレアは恐怖の余り尻もちをついてしまった。
あのドジっ娘め、こんな緊急時になんてミスを!?
『ああああああ、早くしろ早くしろ早くしろッ!』
『わかってる……わよ。 幹也、魔力!』
紫色の魔法陣からベルフェゴールが焦ったようにとびだして、突撃槍とミレアの間に立ちはだかった。
俺が霊薬をアイテムボックス内から連続使用して、ベルフェゴールに魔力を送る。
「魔力増加、多重重力環境制御……これで!」
ベルフェが唱えるのは、闇属性の重力魔法。
突撃槍が重力場の前に平伏して、勢いが弱くなって……止まった。
「は、はぇ? あ、ああ……」
は、はは……あ、危なかった。
あの豚野郎、なんてことをしてくれたんだ。割と本気で焦ったぞ、まったく……。
肝心の豚は、力尽きたのかぐったりとしている。
HPは30%くらいだろうか、微妙に残っている。ゲージが灰色になっていないので、辛うじて生きてはいるんだろうが……死にかけてるな。血を失いすぎている。あれじゃ放置していてもそのうち死ぬ。
よし、これで俺たちの勝ちが決定したな。
一人一人はD級相当だけど、相性次第じゃCランクに「ガウッ!」
ガッ
ガリッ
グシャ…………あ?
……あれ、なんだ。あたまがおもい。
「ナイスショッ、桜。そのままそいつらの相手な。藍は150000DPを殺せ……って、ダナフ!? お前死にかけてるじゃねぇか…………これでよし。ほら、回復したぞ。ん?試作品は壊れたのか?んじゃこれ二本使っていいから桜の援護を頼むな」
「ブォオオ!」
「そうかそうか、頑張ってくれればそれなりの待遇になるかもだからよろしく」
こえがきこえる。
でも、なんていってるのかりかいできねぇや。それに、なんだかねむくなってき…………




