第25話 洞窟調査
転移が終わると、街の入口に立っていた。
四人で身を寄せ合っていたので、気恥ずかしさからなんとなく離れる。
「ここが……あれ、なんて名前の街だっけ?」
「コルーガって呼ばれてる街だな。何でも、ここを占領していた魔物の名前がコルーガって名前だったらしいぜ。当時の名前をそのまま使ってんだな」
「……どうしたおっさん、妙に詳しいみたいだが」
「え……いや、嬢ちゃんも一緒に説明されただろうが」
『……記憶に無いな』
『どの口が……幹也は後ろで訓練してた他の冒険者の動きに夢中で、説明を聞きそびれていたのよ』
む、そんなことはない。
勿論、記憶していたとも。コルーガ……ね。きっと蛾の魔物か何かだろう。
門兵らしき男にギルドのカードを確認してもらってから街に入る。
案外賑わっているようで、人が多い。クラーク王国よりも冒険者や兵士なんか目につくのは、ここが魔物の多い地域だからなのかもしれない。外には低ランクながらも危険な魔物がうようよしているんだとか。危険……だろうな。最低ランクのGランクでさえ、一般人にとっては恐怖の対象となり得る。専門家でないと対処できない、地球でいうクマやライオン程度の危険度はあるってことだ。動物園でしか見たことないけど。
適当な宿を取ってから、この街の冒険者ギルドへとむかった。
相変わらずの目立つ外観を眺める。中で聞いた話は、ここに来る以前に聞いた内容と大差なかった。
"妙な洞窟が発見された"
"この地域には存在しない鉱物や、希少な武具が発見できるが出現する魔物の割に死亡報告が異様に多い"
"無事帰ってきた者は相当額の富を得るが、そもそもの生還率が7割を切る"
etc.
そんな話を聞いてふと頭に浮かんだのはダンジョンという言葉。この世界でダンジョンというと、パワーアップされた魔物との連続戦を意味するが、俺の世界じゃそっちが主流だった。
魔物が存在し、たまに罠があったりして、宝箱からは武器やアイテムが入手できる……とかそんな感じ。だが、その洞窟がダンジョンである可能性は低い。なぜなら、この世界には俺らの考えるダンジョンは存在しないからだ。まぁ大方、珍しい魔物が住みついてるとかだろう。武器や鉱物を収集する魔物で、そいつと出会った奴らが皆瞬殺されてるから生還率が微妙な数値になってる……等が考えられる。
実際に行ってみなくてはわからない。この街の冒険者で一番割合が高いのはF級、時点でE級。最高ランクでC級冒険者が数人いたらしいが、今は依頼で遠方へ出かけているらしい。わざわざクラーク王国にまで調査以来が届いたのは、こんな背景があってのことだ。生還者が7割。洞窟に行った冒険者のうち30%が死んでるわけで……俺、ダークロード、おっさん、ミレアで4人。確率で見れば誰か一人が死ぬ。客観的に見て、最も死ぬ確率が高いのは俺だが、どうだろう。
んー……仮に何かあってもスキル:逃走犯を使えば逃げ切れないこともないし、少し回復アイテムを多めに用意しておくか。
「じゃぁよ、適当に明日の準備をしてくれや」
ギルドの前で、おっさんがそんな話を切り出した。特に反対する者も出ず、俺たちは各自自由行動となった。夜になれば宿で会えるし、適当に道具でも仕入れるかな。
おっさんは酒場で情報収集、ダークロードはこの街の特産品探しに行くと言って立ち去った。俺も一人気儘に買い物タイムを楽しもうと思い歩きだそうとしたが、ぐいっと背中を掴まれてその場にとどまった。ぐはっ、喉が……。
「ふぎゅ…………おい、離せ」
「あははは、ええっと、……一緒に街を、その」
ミレアが後ろから服を掴んだせいで、喉が圧迫された。蛙のような声をだしたことを恥じながら、離すように言った。それを「あははは」と笑いながら無視した彼女は一緒に行動しようと提案してきた。
……そうか。ミレアは魔物と人族の混血種。そんな彼女は稀に店先でも差別されることがあるらしい。きっと、そんな経験あるから一人で買い物をするのが苦手なんだろう。変な問題を起こされても困るし、俺が見張っておいた方がいいのかもしれないな。
「俺は今回の依頼で使えそうなアイテムを探しに行くんだが、来るか?」
「う、うん! 私もそう思ってたの! 新しいのを買わなくちゃって」
「奇遇だな。んじゃ、行こうか」
「あ、は、逸れちゃうといけないから服、持ってていい?」
俺の長袖を引っ張りながら、ミレアは早口で言った。
「……別に構わないが、あー、でも袖が伸びちゃうから手でもいいか?」
「手……うん」
さり気なく、さり気なーく、彼女と手を繋ぐことに成功した。
手を繋ぐ。すると、俺とミレアはある程度、密着することになるんだ。
俺はこの暑い気候に負けないために、要所要所を水魔法で冷やしている。が、水魔法すらもこの気温だとぬるくなってしまう。だが、こうして彼女と密着することによって、ミレアが放出する謎の冷気により水が冷え、全身が涼しくなれる。
『すげぇ、もはや外だとは思えない。エアコンの効いた室内と同じくらい涼しい』
『エアコン?』
『なんだ、ベルフェはエアコンも知らないのか。世間知らずだな』
『えー、幹也にだけは言われたくないような気がするわね。魔法すら知らなかった癖に』
ベルフェと会話を続けながら、街を見て歩く。
冒険者御用達な店を見て、アイテムを買う。HPを回復するアイテムやMPを回復するアイテム、状態異常を回復するアイテムに、ロープや布等の便利道具の数々。火魔法の使えない俺だから、光源となるアイテムだって必要になるだろう。簡易松明を作成するための素材も揃える。アルコールランプと似たような原理の物なら俺だって作れる。
ミレアはミレアで、似たような物を買っていた。購入する時は俺に買わせて、店を出た後で金を払うという面倒くさいシステムを使って。勘の鋭い人なら魔物の血が通っていることに気付くらしい。魔物は人を殺す。身内を殺されたことがある者なら、彼女のことを良くは思わないだろう。そういうことだ。
手を繋いで店を転々とする。
……こうしているとわかる。すれ違う人の中にも、「チッ……」と舌打ちをする奴もいる。わざとぶつかってくる奴もいる。本格的に絡んでくる奴もいる。こっちを見てひそひそと陰口を叩く奴もいる。
何時もなら、荒くれ者な雰囲気を纏った斧のおっさんが近くにいるからこんなことは少ないのだろう。彼女よりも身長が少しだけ、ほんのちょっとだけ小さな俺と一緒だから、彼女が目立ってしまうのかもしれない。
少し落ち込んだようすのミレアが立ち止まった。
「あはは、ご、ごめんね。私といると、嫌なこと言われちゃうね……」
「……」
「私、宿に戻るね。ミキュアは、このまま街を見て回るといいよ。わ、私がいない方がきっと、楽しいよ……」
「はぁ」
宿に戻ろうとするミレアを捕獲して、溜め息をつく。
頭を働かせて、彼女を引き留めるような台詞を考える。確かに、絡まれたりするのは気分が悪いが、蒸し暑い方がもっと気分が悪い。ぶっちゃけ汗を垂らして歩く人を見るのが楽しくなっていた所だ。こんなところでエアコンを手放すわけにはいかない。シャワーを浴びるのにも苦労する異世界で全身汗まみれとか洒落にならない。しかもレアもいないここじゃ、一人こそこそ体を洗うわけだろ。何の面白味もない。
「俺はミレアと一緒がいいんだ。他人がどう思おうが、そんなの関係無い」
「え……」
「だいたいなぁ、ミレアもそんな奴らはシカトすればいいんだ。もしシカトできないなら、俺が物理的に排除してやる。ほら、少しでも影になるように変化魔法を使ってやるよ。スキル:最適化発動……」
「ミキュア……うん、そうだね。えへへ、ミキュアって本当に優しいんだね。ありが……あぇ?」
《スキル:最適化発動》
最適化を使用して、背を伸ばす。
鮭延に教えて貰った裏ワザだ。戦闘スキルである最適化だけど、非戦闘時にも使えるんだ。当然だよな。ただ、姿を変化させるだけなんだから。それで非戦闘時に使用する場合なんだけど、ステータス画面で設定を弄ればある程度の時間はスキルの効果を反映させることができるみたいなんだ。MPを余分に使っちゃうんだけどな。
突然姿が変わった俺に驚いたみたいだ。きょとんといった感じでミレアが固まっている。
「ほら、俺だよ。魔法使って姿を変えてるだけだ。元は本人ベースで作ったアバターだし、似てるだろ?」
「う、うん……ほんとだぁ、よく見ると似てる。ミキュアが大きくなると、こんな感じになるんだぁ」
再起動した彼女はMikiyaの体をぺたぺたとさわり始めた。
ふふん、そうだろう。この体はさわってみたくなるほど完璧なのだ。引き締まった筋肉は、服の外からは一切わからない。でも手でふれてみれば感動できる。さっきまで落ち込んでいた彼女も、今はこの体に興味深々のご様子。
アバターを作る時は苦労した。そもミュートラルのアバター作成は基本的に容姿のみの変更が推奨されている。現実世界と違う器を動かすことになると日常生活に様々な支障をきたすからだ。何よりゲーム難易度がぐっと上昇してしまう。ゲームが得意な俺だって、まともにアバターを動かせるようになるには一年を要した。小太りな大人が腹を経込ませるだけだって、感覚のずれを修正するのに一ヵ月はかかる。
俺は全身を弄ったから、先ずは歩くことを覚えた。
長い脚になれたら、次はダンスを踊ったりして細かい動きに慣れる。ミュートラルはVR機器だから、ゲームをインストールせずとも仮想空間で遊ぶことができる。オフラインだから恥ずかしい動きをしても問題無し。動画サイトで人気だった素人の踊りを完コピしたりして遊んでいた。練習時に踊った動画を投稿してみたのはいい思い出だ。
アバターを完全に動かせるようになってからDOCを始めて……懐かしいなあ。ああ、ゲームしたくなってきた。ゲームしたい。いや、ゲームしてるんだけど、GWOじゃなくてDOCがやりたい。あの土くさい戦場に戻りたい……おっと、こんなことは夜にでも考えればいい。今はミレアの機嫌を取ることに集中せねば。
「ほら、行こうぜ。武器なんかも見たい」
「あ……」
Mikiyaの体をさわっていた手をどける。
少し残念そうなミレアに手を差し出した。
「ほら、手」
「う、うん。ふぁ……おっきい手だ」
ミレアを周りから隠すように身を動かしながら、武器を扱ってそうな店を探す。
少し歩くと、そんな感じの場所を見つけた。中に入ると、無骨な感じに武具の数々が置かれていた。店員……というより、鍛冶屋の親父といった人に許可を貰い、商品を見て回る。
『おお、すげぇ武器だなこれ。どう思う?』
『どうって……使えるの?』
どうだろうか。
レイピアやトンファーに似たものや、手甲から刃が生えているもの、手袋に鉄爪が魚の鱗みたいにびっしりと敷き詰められたもの、他にも奇妙な武器が大量においてあった。
なるほど……お、この手袋は以外とエグいぞ。こんなんで頬でも殴られたら肉を全部持っていかれる。…………銀貨20枚か。
『え、買うの?』
『これを着けたら、銃や短剣を持てなくなる。でも、対人戦ならかなり使えるぞこれ。近接格闘術以外にも、ボクシングや空手、母さんの知り合いの所で古武術なんかも学んだ身だ。地球にいた時は防犯用にってナックルダスターなんかも持ち歩いていた』
『よ、よくわからないけど欲しいなら買いなさいよ。幹也のお金だし』
『おう。やべぇぞこれは……風属性と無属性の混合魔法が仕込まれてる』
他にも、いくつかの武器を仕入れる。アイテムボックスから直接これらを装備できるこの世界じゃ、武器を持ち過ぎる……という事態は起こりえない。ほぼ一瞬で装備を交換することができるからな。話を聞く限りでは、アイテムボックスの容量という問題が起こり得るからそんな戦闘スタイルを取る者は稀だと言っていたが……使徒である俺の容量はかなり大きい。
今の所、限界点は見えない。食糧を相当量入れてあるが、そこに武器を加えても余裕がある。脳内で何が入っているかわかるから、どの辺に何を入れてあるのかを覚えるのが大変という一点を除けば、武器はあればある程戦闘を有利に進めることができるんだ。wikiにあった変則的な戦闘スタイル、所謂ネタと呼ばれる戦い方だが、魔法が十分に使えない俺にとっては、相手の裏をかける方法の一つとなるだろう。
商品を買いたいという旨を店員に伝える。すると、後ろから他の商品を持ったミレアがかけてきた。手に持っていたのは魔法触媒。使い捨ての塗料と薬草の類だった。珍しいな、こんなものは魔法アイテムを取り扱ってる店じゃないと売ってないのに。やっぱりこの店は面白いな、覚えておくか。
「じゃあ、触媒と手袋を頼む。これはどのようにして魔法を発動させるんだ?」
「お、そいつに目を付けるか。これは俺が作った作品の中でも殺傷性に限れば随一の物でな、防御系統の魔法よりも速く相手を殺せるという特徴があってだな……」
店員……親父と会話を続ける。この親父、名前はデナンというらしい。この街には大量に武器屋があるからといって、一風変わった物を作るのが趣味なんだそうだ。鍛冶の腕じゃ超ベデランのドワーフ族には敵わないからと、アイデア勝負をしているらしい。ドワーフ族の寿命は300年くらい。つまり、その道のプロは百年単位で鍛冶を続けている。数十年頑張ったくらいじゃとてもじゃないが勝てないんだとか。
デナンは大雑把な奴だった。魔物の混血であるミレアを差別せず、俺と対等に接してくれた。彼の話はとても興味深い内容のものばかりで、一時間くらいは雑談を続けてしまった。
「今日は楽しかったね、み、ミキュアと一緒だったからかなぁ、あはは」
「そうだな、俺もミレアと二人だと随分と快適で、とてもいい気分だった」
「!? へ、へぇー。 そうなんだ。私と二人きりが嬉しいんだ……」
「ん、なんだ急にニヤついて。宿は……あっちか」
必要となりそうな道具を一通り仕入れた俺とミレアは、宿へと戻った。小さな宿だが美味しい食べ物が食べられるとおっさんが言っていた所だ。夕飯が少しだけ楽しみだったんだ。
中へ入ると、おっさんとダークロードがいた。二人と合流して、夕食を食べる。確かにスープもサラダも美味かった。肉料理はおっさんに譲ったから食べなかったが、野菜炒めのようなものはかなり味が良かった。この世界の料理は大味というか、調味料の使い過ぎというか、とにかく味が強いものが多いんだが、この店は好きだ。必要な量を正確に入れてある。追加で同じものを頼んでしまう程度には美味しかった。
……あ、食べたあとで思い出したが、俺は今ダイエット中なんだった。なんか腕とか胸とかに肉が付いてきたんだよな……筋肉ならどんなに嬉しかったことか。どうやら脂肪みたいだ。ぷにぷにしてる。あれだけ運動しているのに……この世界の食べ物はカロリーが高いのか?
『野菜だから大丈夫とは言い切れないよな……次からは気をつけよう。ベルフェも俺が食べ過ぎてたら教えてくれ』
『食べ過ぎ……じゃないと思うけど。少しやせ気味だし、むしろもう少し食べた方がいいわね』
『はあ? あのな、こんなデブの胸みたいになって痩せ気味なわけがないだろ』
小学生の頃にプールで見たクラスメイトのデブの胸みたいになってる。男のくせに胸があるって馬鹿にされてた奴と同じに……。はぁ……。とにかく、俺は元の体型になるまでダイエットを続けるんだ。どうも、俺は胸や腕に脂肪が付きやすいみたいだからな。腹周りなんかはいつもどおりなのに、胸と腕がぷにぷにしてるのが何よりの証拠。
食事を終えて、各々の部屋へ移動した。
俺は自分の部屋には向かわずにダークロードの部屋に来ていた。特に用があったわけじゃないが、暇だったから遊びに来たわけだ。
「……整理整頓どこいったんだよ」
「フッ、我はそのようなことを気にする小さき男ではない。と、いうことだな」
「と、いうことだな……じゃねぇんだよ。ほら、これもあれもそれも、全部が全部高価な物なんだろ。大切にしやがれ」
この宿に着いてそう時間が経ったわけでもないのに、ダークロードの部屋はデメタスさんところでの状態とにたようなことになっていた。つまり、物で溢れていた。
ベットの上を掃除して、俺の座るスペースを作る。椅子の上でかっこつけながら珈琲を飲みながら色々と錬金術っぽいことをしている彼を放置して、例の手袋を取り出した。改めて見ても相当に危ない代物だな。手の甲よ指の部分にびっしりと鉄製の爪が敷き詰められている。これも改造しないとだよなぁ。人差し指の所だけでも爪を外さないと銃を撃てない。いや、これを填めたままでは何かを扱うこと等考えない方が無難か。爪と爪が引っかかったりするかもしれない。
俺が手袋を凝視していると、ダークロードが興味を見せ始めた。んん、と喉を震わせながらこっちに近づいてくる。
「ほほう、キツネっ娘よ。何やら面白そうな物を持っているな」
「だろ。 あー、これ弄れるか?」
「……手持ちの物が少ない。一応、キツネっ娘の特性は理解しているつもりだ。爪の内側に毒を仕込みたいのだろ?」
「……いや、そんな惨いことは考えてねぇよ? ただ、この爪を鉄から違う素材に交換できないかと思っただけ」
「そうは言うが、これはこれで一つの作品として完成しているように見えるぞ」
「魔改造する必要性は薄い……か。確かに、下手に弄ったらギミックが作動しなくなるかも」
「ギミックとは?」
「この爪が飛びだす仕掛けになってんだ。ここの部分に入ってる触媒を消費して、無属性と火属性、それと風属性の魔法が順番に発動するんだ」
「これは……硬化と爆発、そして誘導か。だが、爪が飛んだ程度では……お、おい、我に先端をむけるな。想定していたよりも恐怖を感じる。謝罪しよう、すまなかった」
「わかればいい」
爪が飛びだすから良いんだろ。初見必殺の心構えはとても大切。しかし、毒を仕込む……か。黒蟲の毒はもう残ってないし、ラナに譲ってもらった媚薬があるが、武器にはむかないよな、これ。
「時にダークロードよ、毒的な何かを持っていたり?」
「所持していない。が、作ることは可能であるな。それも、暗黒王たる我が生成する、特別製の超猛毒を……な」
「それは……高そうだな」
「確かに、物凄く高価な素材を複数消費するな。金貨が10枚程度あれば極少量であれば作成可能だが……」
「そ、そうか。少量で500万円か……金が入ったら頼むことにするかも」
「ふむ、覚えておこう」
椅子に戻って謎の錬金を再開するダークロード。俺は爪の一部を飛ばして、回収を繰り返す。すぐに危ないことを室内でするなと注意されたのでやめる。意外とMPを消費するな。下級魔法三個分のMPを消費してるから、しかも適性の無い属性を。それ相応にMPを使うんだろうな。
因みに、このように専用の道具に頼れば適性が無くても魔法を使うことはできる。できるけど、大量のMPを消費するうえに威力がでないのでおすすめできない。爪を飛ばすのに威力が高いも弱いもないから、これくらいの仕掛けに使うのなら丁度良いのかもしれない。
『でもなーんか、幹也って可愛いわよね。新しい玩具を貰った子供みたいで』
『…………あ?』
子供っぽいだと?
はぁ。あのな、俺たちってのはそういう生き物なんだよ。新発売のゲームを買った帰り道、その時の気分に通ずる物がある。わくわく、どきどき。そんな気持ちが止まらなくなるんだよ。もしそれが子供っぽいんなら、その子供が真理に辿りついたんだろうよ。
『言ってることが無茶苦茶すぎるわよ……』
『ふん。ところで、俺がベルフェを銃で撃とうが、魔法で切刻もうがダメージが一切与えられないという話だが……』
『うん?』
『黒蟲の短剣が効かなかったのは毒属性が付加されていたからだとして、この鉄製の、物理攻撃100%の手袋で殴りつけた場合はどうなるんだ?』
以前から気になっていたんだ。上位種族、悪魔だとか天使だとか、そんな化け物と戦う際に有効な手。魔法攻撃に対する抵抗力が違うんなら、物理で殴ればいい……と考えたんだ。
『多分、効果は薄いと思うわよ。そんな武器じゃ防御魔法すら貫けない気がするわ。私たちにその気がなくても、体が勝手に防御しちゃうのよ』
『なにそれ怖い。結局、攻撃能力で上回らなきゃダメージは通らないというわけか』
そんな甘い話があるわけなかった。となると、職業レベルを上げて基礎能力を上昇させつつ、上質な武器、強力なスキル、技を集める。そんな正道を進むのが結局は近道になるのか。ベルフェにダメージを与えるには、最低でもD級ダンジョンボス並みの攻撃力……イベントの前半戦は圧倒的に不利だな。
手袋を仕舞い、ドッペルガンを取り出す。一瞬でハンドガン、サブマシンガン、アサルトライフル、軽機関銃、重機関銃へと形状を変化させる。スナイパーライフルは……駄目だ。詳細までスペックを覚えてない。銃を構成する部品一つ一つの詳細までイメージしないと形状変化はしてくれないからな。
だが……妄想に妄想を重ねて、再度イメージを思い浮かべる。水魔法の水弾、それを撃ち出す構成式を銃の内側に書き込む。その上で物理攻撃にもなるように弾丸を射出することも忘れてはならない。頭の中でぐるぐると、一向に思考が纏まらない。自然と、銃が元の形状に戻る。失敗。やはり、オリジナルを作るのは難易度が高い。俺はあくまで使う側だったからなあ。
「なあ、魔法銃の設計図とかできたか?」
「無理を言うな。我は天才であるが、そのような奇妙な代物の複製、それも新たな要素を組み込むとなれば時間もかかる」
「ですよねー。開発金も少ないし、この依頼が終われば本格的に開発に入れるか?」
「わからぬ。そも、我は錬金術師であって鍛冶職人ではないのだ。本来、このようなものは専門外なんだぞ」
「わかっている。わかっているが、あの竜魔法の手甲の出来栄えを見ればお前に頼みたくもなる。この魔法陣だって、本当にありがたいと思ってるんだぞ?」
「……そうかそうか。どれ、少し見てやろう」
ヨイショされて上機嫌になったダークロードは、ぐいっと顔を近づけて、目元の魔法陣をさわり始めた。
この魔法陣も、既に三回の更新を終えている。一回目は性能を安定させる為に、二回目は索敵範囲の向上と魔力の循環速度を上げる為に、三回目はそもそもの塗料の更新。100%の性能を発揮させるには、定期的な魔法陣の書き換えが必要となってくるくから、手間がかかる。これが無いと不便だから仕方が無いと割り切ってはいるが、少しめんどい。
ふと、彼の容姿を捉えた。そう言えば、こんな奴でも異世界人なんだよなあ。なんというイケメン。死ねばいいのに。いや、死なれると魔法陣の更新に困るから、ちょっとだけ爆発すればいい。
ダークロードが俺の顎を支えて本格的に魔法陣を覗き込み始めたところで、ガタっと音が聞こえた。意識を其方に移すと、何やらミレアが慌てふためいていた。
……あ、逃げた。何なんだ?
「あれは……グラーデ氏のところのローブ娘じゃないか。キツネっ娘に用があるのではないか?」
「俺に? 特に心当たりは……ないよな。それより、目は大丈夫だったか?」
「うむ、我ながら完璧な仕上げであるな。恐らく、性能面はこれが限界点だと思うぞ。これ以上となればそれ相応の……」
「あー、わかったわかった。俺は貧乏だからこれで十分です」
そう言いながら立ち上がる。
今日はもう部屋に戻るか。明日には出るのだから整理だけはしておけと、ダークロードに一言二言、小言を言ってから、隣りの部屋に戻った。
ささっと髪と体を洗ってベットの上で寝転がる。
ベルフェを召喚して、雑談をしているとトントンと扉を叩く音が聞こえてきた。魔法陣に多めのMPを注ぎ込んで、知覚範囲を広げる。すると、さっき逃げたミレアが立っていた。やはり、俺に用があったのだろうか。
「だけど、あそこまで行くのめんどくさいな……ベルフェ、ごー」
「いやよ。私だって寝たままがいいもん」
「……しょうがないなあ、もう」
折角、あとは寝るだけ状態だったのに。
半日とはいえ、更には使徒の能力で肉体強化がされているとはいえ……まったく疲れていないというわけじゃない。今日は数時間は歩き続けた気がするし、途中からは涼しかったけど、それでも疲れは溜まる。明日からは外にでるから気を抜けない生活になる。今日の夜が、のんびりできる最後の時間なんだぞ。
頭の中でそんな考えが浮かびながらも、二度も俺の元へ来たということはそれ相応の要件があるということで、しぶしぶ立ち上がり、彼女の元まで歩いた。
「んー、どうした?」
「あ、ミキュア! 私は、その、えっとね」
「おう」
「あの、ミキュアのことが、あれだけど、でも……」
「でも?」
「お、お、女の子の方がオススメです!」
「え……んぐ!?」
「はむ……んちゅ」
…………は?
「んん! んぐ……やめ、んむ!?」
「ん……動いちゃ、だめだよぉ。ちゅ、はむ……」
くッ、こいつ、力が強い!?
背中と首に手を回され、強制的に身を引き寄せられる。無理やり舌を入れられて、口の中を掻き混ぜられた。
なんだ、これ。なんだ、これ。なんだ、これ。意味が、わからない。
あ、べろ、吸うの、やめ、あっ……。
「あ、あの、ごめんね。でも、私は絶対に女の子の方がいいと思うし、私もその、あれだから。あ、明日から頑張ろうね、おやすみ!」
「…………」
早口で、それも大声でそんなことを言って、彼女は部屋に戻って行った。
俺はその場で立ち尽くす。
マジで、意味がわからない。
なんで、キスされた?
しかも、40秒近くも?
しかもこれ……何か、これ、熱いけど冷たくて、不自然な程に心地良かったし、気持ち良かった。でも……。
ベットまで何とか歩いて、倒れ込む。
「あら、どうしたの?」
「キス……された。ミレアに、ディープ」
「え……」
「気持ち良かった……けど、違和感、が……」
「ちょ、大丈夫なの!? 寒気とか感じない? ダメよ水魔と接吻なんかしたら、死んじゃうわよ!」
「だからか、すごく寒い。あと、勃った」
異世界生活でのストレスか、謎の体調不良によりあれだけ試しても反応が無かった俺の息子が、今は勃っていた。
でも、寒い。体は火照らず、ただ寒い。異様に……寒い。もぞもぞと布団をかぶる。それでも寒い。俺を心配するベルフェを抱きしめる。種族柄体温の高いベルフェだけど、そんな彼女を抱きしめても悪寒は止まらない。
結局、あのキスはなんだったんだろう。
俺は震える体を丸めながら眠れぬ夜を迎えたのだった。




