第24話 迷宮主は地球人(5)
ダンジョン生活103日目。
【侵入者あり】
ふと、そんな表示がパソコンの画面に現れた。
「うぉお!? くれないくれないくれなーい! ついに来たぞ、挑戦者ぁ!」
「そうだね。でも、挑戦者じゃなくて、侵入者だってさ」
「いいんだよそんなもんは。俺のダンジョンには侵入目的じゃなくて、挑戦目的できて貰いたいんだから!」
「ふーん」
「……え、なんでそんなに不機嫌なの? 俺、なんか気に障るようなこと言った?」
「別にー」
スマホをシュッシュッとフリックしながら、そう答える紅。既に現代人よりスマホを上手く使っている。タイピング速度が女子高生かよってくらい速い。
そんな光景を横目で確認しながら、挑戦者の姿を確認して……って、おお。まじか。
挑戦者は……盗賊だった。
いや、盗賊たちか。盗賊みたいな格好をした男たちが、大量に雪崩れ込んできた。
まるで隠れ家をここに作ろうぜといった雰囲気だ。どっかから強奪してきたであろう荷物を広げて、整理品を確認してやがる。なんだか楽しそうだ。確かに、俺はダンジョンは隠れ家には丁度よさそうだもんな。
うわ、エグイなぁ……どっかから攫ってきたであろう女性を盗賊たちが犯している。
……あ、死んだ。
うーん、一般女性一人で207DPかぁ。となると、あそこにいる奴らを全滅させれば5000くらいは貰えそうだな。でも、入り口付近を占拠されると、強力なモンスターを嗾けて殺しにかかっても、結局は逃げられちゃうんだよな。
「どうするか……挑戦者がいるフロアを弄ることはできないから、罠を仕掛けるとしたら2Fだけど……」
「サクラが直接出向いて、殲滅するってのはどう?」
「ワウ?」
「うーん……別にそれでもいいけど。面白くないんだよなぁ」
「面白さ……それって、本当に必要?」
俺を睨みつけてくる紅。効率重視の紅は、最高戦力の一角でもある桜を差し向ければ解決すると言ってきた。それは、確かに正しい。知性もある彼女なら、一人残らず盗賊たちを殺せると思う。でも、それだと面白くない。つまらない。
「だから、桜はここで待機。6Fにいる、スケルトンとゴブリンでチームを編成、奴らを殲滅させる」
「スケルトンとゴブリン? あんな雑魚たちじゃ、盗賊に負けちゃうんじゃない?」
「負けたっていいじゃん。どうせ、後で復活するんだから。戦闘経験が積めればって、モンスターたちもそう思ってる」
「……ふん」
首をくいっと曲げて、スマホの電源を入れた。反抗期突入だな。クレナイはダンジョン製作を再開したようだ。俺は6Fにいるゴブリンとスケルトンに命令を与えた。
「親分、奥に魔物がいるようですぜ?」
「何い? おい、誰か、魔物共をぶっ殺して来い。俺たちの隠れ家にあんな奴らはいらないからな」
子分共に魔物を討伐するように命令する。ったく、良い感じの洞穴を見つけたと思ったら、魔物の巣だったのかよ。まあこんな洞穴に住むような魔物なんて、高が知れてる。此処にいる連中は俺が手塩にかけて育てた子分共だ。そんじょそこらの魔物なんかに遅れをとるはずがねぇ。
盗んだ酒を呷りながら、次は何処を狙おうかと考える。商人なんざ、どれも同じだろうと素人は言うが、それはちげぇ。まず、一流の商人を狙っちゃいけねぇ。やるなら中堅所だ。なりたての商人なんかは旨みが少ねぇし、プロの商人は見栄をはってか、どんな小さい取引にも腕の立つ冒険者連中を雇いやがる。個別に雇ってる場合もあるしよ。あんな化け物に守られたとあっちゃあ盗めるもんも盗めやしねぇ。今回みたいな低ランクの冒険者を雇うような奴らが一番楽にやれるってもんだ。
……やけに遅せえな。魔物を始末しに行った子分が戻ってこねぇ。ドジ踏んだか?
「おい、てめぇら! 魔物やりに行った奴らはどうした」
「そういえば、まだ帰ってきてねぇみたいです」
「……おい、そんな女なんざ放っておけ。アイツらが勝てないとなると、こりゃあ俺がやるしかねぇかな」
「……親分が直接ですかい?」
「なんだ、お前知らないのか。親分は元D級冒険者なんだぜ、その辺の魔物なんざ親分の敵じゃねぇんだ」
「D級のライセンス持ち!? それって……一流冒険者じゃねぇですかい!」
「昔のことだ。今の方が100倍楽しいぜ」
愛用の大剣を携えて、数人の子分の残して洞窟の奥へ進むことにした。ここは住み心地が良さそうだし、しばらく滞在するには丁度いい。アイツらの戦闘力をもう少し上げてやれば、もっと大きな山も狙えるかもしれねぇしな。
戦力が揃えば……いや、安全第一でいくか。無茶して護衛連中に殺されても洒落にならねぇしな。
少し進むと……いやがった。魔物だ。あれは、Gランクのスケルトンに、……は?
ゴブリン? 緑巨人じゃなくて、緑小人?
「お、おおお、親分!?」
「ああ、ゴブリンだ。高く売れるぞ」
緑小人。今となっちゃ絶滅危惧種に指定されている純正のゴブリンは、コレクターなんかに高く売れる。数体分の死体がありゃあ銀貨が大量に手に入るし、生きたまま捕獲できりゃそれが金貨になる。
「殺さずに行くぞ。治療魔法が使える奴は、用意しておけよ」
剣を水平に構えて、そのまま返す。
無属性魔法を付加した剣術で、衝撃波を生み出して3体いるゴブリンの内、2体の足を吹き飛ばした。
「さっすが親分、おい、残りも捕えるぞ!」
そんな調子で子分の一人が近づいた時だ。魔物共の後ろから、攻撃魔法が飛んできやがった。
子分の前まで加速して、魔法を叩き落とす。顔を上げると、俺たちに手をむけるスケルトン共が映った。
「スケルトンが……魔法を使った?」
おかしいな。俺の冒険者時代の知識じゃあ、奴らは武器は使えど魔法は使わねぇはずだ。
……突然変異種か? ったく、先に行った子分共はたかがスケルトンだと油断しやがったな。最下級といえど攻撃魔法だ。直撃すりゃあ死ぬ可能性は十分にある。クソ、あれ程戦闘中は神経を張り巡らせろとあんだけ教え込んだのに……。
「油断すんじゃねえぞ! 魔法の対処方法は教えたな!」
魔物共の中に斬り込んで、奴らの態勢を崩す。魔物の動きは素早く、スケルトンは俺から距離を取り始め、ゴブリンがまるでスケルトンを守護するように動き始めた。
足の無い2体のゴブリンを子分に任せて、俺は残りの魔物の処理に走る。
コイツら……良い武器を持ってやがるな。一見、ただのボロ剣に見えるが、元が良い剣を使い込んで劣化した感じがしやがる。後ろのスケルトンも、なぜか銀の触媒なんてもんを持ってやがるし……ま、関係ねぇか。さっさとぶっ殺して、武器も触媒も奪っちまえばいいんだからな。
「はぁ、はぁ、何なんだこの魔物は……てめぇら無事か?」
「二人……やられちまいました。ゴブリンは指示通り生け捕りにしやした」
「……そうか、なぜかここの魔物は変異種が多いみてぇだな。Gランクの魔物がFランクの強さをもってやがる。Fランクの群れは……お前らには、ちと荷が重い」
「……すんません、力になれなくて」
謝る子分を置いて、俺だけで奥に進む。正直、子分共じゃ足手纏いだ。22人いた子分も、14人になっちまった。下手に数を減らすと次の仕事に係わる。ったく、こんなことなら、最初から俺が一人で片付けるんだった。
更に億に進む。すると、ちょっとした小部屋についた。なんだ……ここは? 人の手まで入ってやがる。明らかに不自然だ。こんな場所、隠れ家にはむいてねぇのかもしれねぇな。
「ボブ……ゴブリンか。しかも、オマケまでついていやがる」
「ギガガガ」
「ギギィ」
そこには、階段部分を守るように一体のボブゴブリンと数体のゴブリン、スケルトンが立っていた。
俺は即座に魔法を発動した。加速の魔法で身体能力を強化して、一気に距離を詰める。無属性魔法を付加した剣を投げつけて、前列にいたゴブリンを薙ぎ倒す。アイテムボックスから別の大剣を取って、再度、魔法を付加して衝撃波を生み出す。
「おらぁあッ!」
「ギギギィ!?」
只管にそれを繰り返して、数を減らす。最終的にはボブゴブリン一体のみが生き残った。
やっぱゴブリンはしぶてぇな。火属性の魔法で腕力を強化して、大剣を逆手に片手で持つ。魔力を込めた大きな一撃を叩きこんで終わりだ。倒れたボブゴブリンから剣を引き抜く。
「……ま、こんなもんだろ。さっさと、こんな洞窟からは撤収するか」
剣を仕舞い、子分共んとこへ帰ろうとした……その時、何かが俺の腹を貫いた。
「……ああ?」
なんだ……コレは?
口から血を吐きながら、背後を確認する。……影の、魔物か?
油断するなと言っておいてこのざまか、クソ野郎が。
暗転する意識の中で、そんなことを呟いた。
【侵入者なし】
「よっしゃ、全滅だぜー!」
「ウォン!」
シャドーワームへの指示を終えて、結果を確認する。おお、DPが8000近くも増えてる。やっぱり挑戦者を狩るのは効率が良いなぁ。level200~300のプログラムと、300~400のプログラムを購入して、900Fと1000Fの訓練装置に設置する。これで、レアモンスターたちの戦闘力が正確に測れる。3体だけいるんだよな、level200をクリアしてるモンスターが。
「どうよ俺の戦術。気が緩む瞬間を狙ってみたんだけど」
「不意打ちは卑怯だったけど……6Fのモンスターだけで対処できたところはポイント高いよ」
「お、素直になった。反抗期終了?」
「……別に、反抗期じゃないし」
桜を撫でながらそんなことを言うと、またふいっと顔を背けてしまった。
それにしても盗賊たち、親玉以外は結構弱っちかったなぁ。うちの最低組でも十分に対処できちゃうレベルかぁ。だとすると……3Fと4Fに、もう少し弱いモンスターを配置して、鉱物も多めに設置するか。
うちのダンジョンは初心者から上級者まで幅広く対応できる親切なダンジョンです。挑戦者の皆様は是非お越しくださーいって感じで頑張っていこうか。なぁ、桜。
「主様もっとー!」と喜ぶ桜をモフりながら、今後のことをなんとなくと考える俺なのであった。




