第22話 南門防衛戦(3)
「やあ、デメタスさん、ちぃーす!」
「おう、サケノベちゃん!警報が……って、ソレなんだ?」
「んんんー、んんんんー!」
酒場を通り抜けて、みっきーの部屋にむかう。
暴れるラシュ君を抱え直して、私はドアを開けた。
「みっきーいる?」
「みきゅあくん? いないよー」
彼の部屋には、ラナちゃんとレアちゃんがいた。
レアちゃんはベットに座って子キツネとスライムと一緒に遊んでいる。その光景を椅子に座って眺めていたラナちゃんに話しかけた。
「今ね、この国に魔物の大群が近づいてるの。だからみっきーに知らせようと思ったんだけど……」
「魔物の、大群?」
「そう、魔物の大群。私はギルドに頼まれて防衛戦闘に加わることになったんだ。元々はこういった時の為にって、帝国から派遣されたわけだしね。霊技祭を警備しろーって」
「?」
「ああ、こっちの話」
「魔物の、大群……この国、勝てる?」
「ん? 十中八九、勝てないと思うよ。ラナちゃんも戦闘準備しておいた方がいいかもね。街の中に大量の魔物が雪崩れ込んでくるかもしれないから」
「え、本当?」
「本当本当、みっきーが戻ってきたら言っておいて。西門にいるからーって」
「うん、りょうかい」
帰り際に「じゃあね、レアちゃん」と手を振ったら、少しだけ手を振ってくれた。
両親の死を告げたことから、私は嫌われたままだ。最近は、話しかければ返答してくれるまでにはなったけど、まだまだ笑ってはくれないか。
宿を後にして、外壁の西門へと向かう。
普通に歩いていたら時間がかかるから、手品魔法を使って短距離テレポートを繰り返して移動することにした。
「んんん、んんんんー!(離して、離して下さい!)」
「よっと。どうしたの、ラシュ君?」
彼の口にバツの字に張った、異世界産の絆創膏を剥がしてあげる。
すると、ぷはっ!と可愛い声を上げて、大声で騒ぎだした。
「サケノベさん、離してください! 自分で歩けます!」
「嫌よ。ラシュ君、持ち心地が良いんだもん。なんか抱えてるだけで幸せになってくるわー」
「嘘です! こんなことしなくても、ちゃんと戦いますから!」
「じゃあ、なんで逃げたのさ」
そう。私はギルド本部からみっきーの泊まっている宿にむかう途中で、彼を捕まえたのだ。
私と大会で戦った後で、冒険者登録をしたラシュード君。
A級冒険者でもある私の推薦もあって、初期ランク認定試験を受けたラシュード君はC級冒険者になることができた。私的には、D級程度かなーと思ってたんだけど、あの試合で私には使ってこなかった秘密兵器があったみたい。
正直、アレを使われたら私でもやばかったかも。私は手品魔法が使えること以外は一般人のかよわい少女なわけだから、当然、戦闘手段も限られてくる。例えば、50000回死ななくても、50001回殺されれば死んじゃうわけだし。
「僕は、ギルドに依頼を受けに行こうと思ってたんです! この騒ぎ、恐らく緊急の依頼が発生しているはずです。ギルドに行った後で、戦いに行こうと思ってたんです!」
「ふーん、それなら大丈夫よ。私が依頼を受けといたから」
「……へ?」
「ほら、私たちってパーティー組んでるじゃない?」
「それは……」
「言ったよね。私が推薦してあげたら、何でも言うことを三つだけ聞いてくれるって」
「……はい。言いました」
「私、言ったよね。一、パーティーを組んで。二、1回抱かせて。三、パーティーを解散しないで」
「言いました。でも、最初の依頼くらいは自分で受けたかったんです……」
「良かったわね、最初の依頼がAランクなんて。そんな冒険者、傍から見たら英雄よ」
「嫌ですー! 死ぬ、死んじゃうよ! 僕は、自分でも頑張ってきたとは思いますが、まだAランクは早いんですー!」
「なんくるないさー」
門の横でキョロキョロしていたギルド員を発見して、そばまで転移を繰り返した。
手品魔法で真似た擬しテレポート技術。消費MP無しで連続使用が可能なこれは、動きの遅い私に必要不可欠な技術。欠点は、転移場所が視界内に入らないといけないってところだけね。転移場所に人なんかいたら、色々と混ざっちゃうもの。
「サケノベ、ラシュード両名只今推参! って、あのイケメン誰です?」
「此方は今回共同で依頼を受けて頂くゼダン・ウルスダッツさんです。彼はサケノベさんと同じく最近A級冒険者になったばかりなんですが、状況が状況ですので、依頼を受けて頂きます。うちのリラインから話は聞いていますよ。彼、ラシュードさんも、かなりの腕前らしいですね。期待してます」
「おおー! ほらほら、期待されちゃってるよラシュ君!」
「は、はあ。頑張ります」
「それで、ゼダンさんだっけ。ルーナちゃんとはお知り合い?」
「…………は?」
その青色のオオカミみたいな獣耳。ふっさふさの獣尻尾。着ている服は華やかな男物の着物だけど、色々とルーナちゃんとかぶってるんだよね。若干鋭い目元なんてそっくり。ナイスイケメン。
昨日、ギルドの訓練場で紹介して貰ったルーナ・ウルスダッツちゃん。みっきーがこの世界で作った彼女さんらしいんだけど、みっきーのあの外見に惚れてるみたいだった。レズなのかな。外見の割りに精神年齢低そうだったし、身体目当てじゃなくて単に一緒にいたい!仲良くしたい!みたいな小学生染みた発想からきてるのかもね。
私がみっきーを狙うのは、100%で身体目当てだけど。
いつか男の状態で、あの小さい身体を犯してやるんだ。うわ、楽しみすぎる!
「私の知り合いと苗字が同じなんですよー。耳と尻尾の色もそっくりです」
「そうか、ルーナがこの世界に……。ああ、すまんな。ルーナは俺の娘だ」
む、なんか急に貫禄のある言葉使いになった。
でも、前半から読み取るに、この人の素の状態は中高生レベルだと見た。ていうか、この年齢で娘があの歳って……若いな、ゼダンさん。
「まじっすか。ゼダンさん若いですね」
「だろ、よく言われる。それで、俺ら三人は何をすればいいんだ?」
ゼダンさんがいきなり本題に入った。もっと娘の話とか知りたくないのかな。別に、大した話があるわけじゃないけどさ。いくらでも作れるよ?ほのぼのとした話なんて。全部ウソになっちゃうけど。
「依頼の内容はですね。魔物の群れを指揮しているであろう何かの討伐です。この規模の大群ですと、どこかの魔王の配下だと推定されます。魔王直属の配下の場合、大抵はBランクかAランクの魔物になりますから」
「魔王の四天王的な奴らですね。どうするラシュ君、初陣で魔王の配下を打ち取れば、本物の英雄譚になるんじゃない?」
「僕は別に英雄になりたいわけじゃ……お祖父ちゃんに土産話が出来ればそれでいいんで」
「なるなる、きっとなるよ。止めはラシュ君が刺すといいよ。剣聖の血が飢えてるんでしょ?」
「そんな決め台詞、言ったこともない……」
「サケノベ……鮭延とラシュードだったか。まずはギルド側の話を聞こう」
「あ、ごめんなさい。彼には私がキツく言っておきますんで」
「え、僕のせい?」
「では、続けます。この防衛戦で、私たちは前線に兵を集中するように要請しているので、兵士に魔物を足止めをしてもらっています。統制された魔物は、長を失うことで動きが乱れ、倒しやすくなる傾向が強いです。なので、まずは南門、西門の両門から精鋭を集めた攻撃班を派遣して、頭を討伐してもらいます」
「…………。もし、それでも動きに乱れが見えなかった場合はどうする?」
鋭い視線をギルド員にむけるゼダンさん。色々と考えるタイプの人みたい。
「その時は、後ろから上級魔法等で攻撃して下さい。一応、四つの攻撃班を編成する予定になってます。どの班も皆が皆精鋭です。多数の防衛隊と精鋭班の挟み撃ちで奴らを殲滅します。命の危険を感じた場合は、この転移石を使用して此方に戻ってください。その都度、作戦を考えますので」
「はーい。わかったラシュ君?」
「一応、理解できました。あの、回復薬って支給して貰えませんか? 誰かさんに拉致されたせいで、買いそびれてしまったんです」
「え、拉致? この国も物騒になってきたわね……気をつけなきゃ!」
「あなたです! あなたに拉致されたんですぅ!」
「魔法薬を複数用意してあります。アイテムボックスに余裕があれば、好きなだけお持ちください」
「あ、俺も貰っていいか? 俺の魔法は一発で魔力が空になるようなのもあるからさ」
「構いませんよ。では、宜しくお願いしますね」
そう言って転移していくギルド員。きっと、本部へと報告に戻ったのかな。
箱に詰まった魔法薬を10個程貰う。アイテムボックスの空きがあと13枠しか残ってないんだよね。一応、課金アイテムのボックス拡張セット×5(税込10000円)を使ったから、枠は30から50、70、90、110、130まで計100枠分増えたんだけど、それでも微妙に足りてないんだよね。大樽一杯の水とか、一気に5枠も使っちゃうし。
ま、劣化無効のレア能力がデフォルトで付いてただけましかもね。掲示板見ると3枠で能力無しなんて人もいるくらいだし。逆に100枠で複数の能力持ちもいるみたいだけど。でもでも、そこは必殺の課金パワーで補えるから大丈夫。
ラシュ君も7個は貰っていた。ゼダンさんは一箱まるごと。12×12だから……うん、こんな時くらいしかタダで貰えないもんね。魔法薬って高価なものだし。
一応、自己紹介とかしておいた方がいいよね。お互いの戦闘スタイルの確認もしなくちゃだし。
「あのー、自己紹介っていうか、戦闘スタイルの確認でもしません?」
「そうだな……俺の名前はゼダン・ウルスダッツ。魔法と格闘術を合わせて戦う、まぁ君と同じ使徒だ」
使徒……だよね。私も、この人が使徒だと一目でわかった。私たちには、使徒を見極める能力がある。
「私は鮭延っていいます。魔法主体で主な攻撃方法はトラップ仕掛けて~って感じです。でも、前線に立てる程度には動けますね」
「(トラップ……罠で戦ってAランクに? 厄介な使徒だ。隙みて殺すか?)」
「(あの目、なんか嫌な視線……自動トラップ組んでおいた方がいいかも)」
ゼダンさんのえっちな視線に耐えていると、ラシュ君がおどおどしながら話し始めた。
「ぼ、僕はラシュードっていいます。剣術を使って戦うから、接近戦が得意です。一応、なんでも斬れます」
「なんでも?」
なんでも斬れる。そんなことを言うラシュ君に、ゼダンさんが反応する。
「はい。なんでもです」
「……そうか」
彼の目が微笑ましいものを見るような目になった。
ああ、ラシュ君。かわいそうな子だと思われてるよきっと。そこは魔法でもオリハルコンでも斬れるって具体的に言わないと。事実、本当になんでも斬れるわけだし。
話を纏めると、ラシュ君が剣、ゼダンさんが格闘と魔法、私が魔法って感じかな。
「うーん、変則すぎるかな……私って、一応前衛だし」
「そうなのか? じゃ、後衛は俺に任せろ。そっち二人で前衛、俺は後ろから援護をしよう」
「わかりました!」
「わかっちゃったのね、ラシュ君……」
いやいや、それって何時でも私たちのこと殺せるってことだよ。
ゼダンさんが使徒じゃなくて、一般人ならそれでもよかったんだけどなぁ……みっきーには「仮に同じパーティーメンバーでも、他世界の使徒の前では絶対に気を緩めるなよ」って念入りに言われてるし。
ラシュ君は使徒じゃないから狙われないとして……蘇生魔法使っておけばいっか。仮にやられても100メートル間隔で復活するように設定っと。
私がステータスをいじっていると、すざましい轟音が聞こえてきた。多分、戦いが始まったんだ。
「では、そろそろ俺たちも行こう。この感覚だと、あっちの方角に強者がいる気がする」
「え、わかるんですか?」
ラシュ君の素朴な疑問に、ゼダンさんは答えた。
「そういう魔法を使っている。明らかに二体、魔力量が桁外れの化け物がいるな。すげぇ。こんな量、見たことねーや」
「え……」
「魔力量だけ多いタイプかもしれませんよ。図体がデカくて遅い奴かも。とりあえず行ってみましょっか」
「そうだな。俺が魔法を使って道を開けるから、一気に進むぞ。遅れるなよ?」
「よーし、ラシュ君げっと」
「ちょ、またですか!?」
再び、小脇にラシュ君を抱える。
この人、獣人ってことは身体能力高いわけだから、ついていくには転移技術が必須になる。だって孫×空の世界みたいに瞬間移動じみた動きをできる人たちだもん。走って追いつくわけがないよね。
門の外にでると、大勢の兵士が見えた。
重装備の人や、触媒の杖を構えた人、弓を絶え間なく動かしてる人や、その後ろで魔法薬や矢を配りながら走ってる人。人、人、人。何千、何万の人がいた。
そして、かなり先の方で戦っている人と、白っぽい魔物の姿が確認できた。
人型で、遠すぎてよくわからないけど……私たちと同じくらいの背丈だと思う。たくさんいるなー、軽く数百万はいるんじゃないかな(適当)。
「取り合えずあそこまで行くぞ。それから南の方向に、あの群れの中を突っ切る」
「はーい、了解でーす」
「え、突っ切る?」
走りだしたゼダンさんを追って、転移を繰り返す。
一キロ近く離れていた後衛と前衛の間を、10秒かからず走り抜けた。立ち止まった彼は、その場で詠唱を開始した。
「○×△□~。○×△□~。○×△□~。○×△□~。神話魔法九頭龍、進め九頭龍、奴らを薙ぎ払えッ!」
巨大な魔法陣から出現した、たくさん首のある大蛇が、無数の魔物を蹴散らしながら進んでいく。
う、うわー、これって最上級の魔法だよきっと。
私が最上級の魔法を見るのはこれで二度目になる。一度目はもう死んじゃった、私の仲間が使っていた。でも、それよりも強力な魔法だよこれ。大きい。ちょっとしたビルとかマンション並み。超高層建築物だよ。首を上にぴんと伸ばせば、きっと60メートルを簡単に越えちゃうよ。
あれだね、もうこの人だけで勝てちゃうね。
素晴らしい魔法ですねと、ゼダンさんをよいしょしようと思って彼を見ると……両手を地について、土下座でもするかのよな姿勢になって喘いでいた。あ、あれ?
「はぁ、はぁ、はぁ、うぐッ! ま、魔法薬……を、頼む」
「あ、はい! どうぞ!」
ラシュ君が魔法薬を取り出して、ゼダンさんに手渡す。小さな小瓶を、両手で必死に持ってぐびぐびと飲み干すゼダンさん。か、格好悪い……。
その後も自分のアイテムボックスから次々と魔法薬を取り出して飲み続けるゼダンさん。どれだけあの蛇に魔力持ってかれたんだろう。あの様子だと、魔素全部持っていかれたみたいだし。
なんか、逆に可愛く思えてきたかも。見た目は完全に大学生くらいなんだけど、ルーナちゃんがいるってことは、15で孕ませたとして……30くらい? うん、やっぱり若い。
ゼダンさんがハァハァしている間にも、大蛇は進んでいく。大蛇はたくさんの口から何かのブレスを吐いていて、それに当たった敵が次々と死んでいる。単に巨大な体を使って、轢き殺してもいる。
折角の道が敵で埋まる前に、早く行かなきゃ。
右手でラシュ君を捕まえて、左手でゼダンさんを捕獲する。装備とボーナスでしかSTRは強化されてないけど、合計値で7000を優に超えているので、痩せ型を二人担ぐくらいなら余裕で出来ちゃう。
「なっ!?」
「ゼダンさん、蛇の通った跡をなぞって行けばいいんですね」
「あ、ああ。あの方向に行けば、魔物のボスの居場所まで行けるはずだ」
「わかりました! ラシュ君もゼダンさんも、動かないで下さいね」
転移を繰り返して、大蛇の後を進む。
全裸の白い痴女が襲ってくるが、手品魔法を使って追い返す。単に相手の居場所を変える手品魔法だけど、右と左のを入れ替えれば、互いに私たちから離れてくれる。少しでも私たちから離れれば、それは大蛇の攻撃範囲内だから、ブレスで焼かれていちころですね。完璧な作戦でしょ?
「わー、死んじゃう! 魔物多いし、なんで裸なんだよ!?」
「オークすら服を着る世の中だってのにな。肌が白いから全然興奮しないが」
「君たち随分余裕だよね。ゼダンさんは、どのくらい回復しましたか?」
「……あと一分程で全快できる。この魔法薬は自然回復量を高めるタイプのものだから、どうしてもある程度の時間を要してしまう」
「それじゃ、あと一分間は私の転移の方が良い感じですか?」
「そうなるな。ボス戦前に、下手に魔力を消費するのはよくない」
「となると、あの速さは強化魔法な感じっすかねー」
「…………」
「黙っちゃいますか。企業秘密って奴ですね。ラシュ君は例のアレ、使っておいた方がいいよ。防御をしっかりしないと、君、死ぬよ?」
「!? け、剣聖ノ加護ッ!」
そう言ったラシュ君から青い魔力が滲み出て、私たちの背後に青い女性が現れた。
ゼダンさんのとは違い、夜桜をイメージしているような柄の綺麗な着物を着て、青い長髪を揺らし、思わず見とれてしまうような美人顔で、着物を着ているのに巨乳だとわかるあのおっぱい! すごい、私の胸の3~4倍はあるんじゃ……質量的な意味で。
最後に、腰に下げた日本刀のような刀……あれは、危険。絶対に敵に回したくない。こんなの、大会で使われたら一瞬で逃げてた。でも、本当に綺麗だなぁ。
興味ありげなゼダンさんに、私は教えてあげる。
「これはラシュ君の妄想が具現化したものです。えあカノですね」
「そ、そうか。ラシュード、お前……」
「ち、違いますよ! 彼女は僕の守護聖霊です!」
「……ほう」
ラシュ君の守護聖霊とやらをじっと見つめるゼダンさん。
うん、美人を見たいのはわかるけど、ここ、もろに敵の中だし、首を曲げられると転移しずらいんですけど……。
しばらく進むと、敵の姿が変わった。
全裸の痴女から、全裸の痴女になった。具体的にはBカップからCカップに、すらっと背も高くなって非常に羨ましい。肌が白くて、目が黒く、口が真っ赤じゃなければ男の姿で襲ってしまいそうになるくらい扇情的な魔物だ。
「ゼダンさーん、まだですかー? なんかこつら、強いんですけどー」
「いや、君の方が強い。軽々とあしらってる」
「ラシュ君の聖霊ちゃんも頑張ってるけどね。腕が速すぎてよく見えないけど、偶に魔物が真っ二つになるのって、ラシュ君がやってるんでしょ?」
「僕がやってるわけじゃないけど……彼女が斬ってるのは確かですよ」
「む、そろそろだ」
「おお、遂にボス戦ですね!」
「ああ。それと、ッッ!? 避けるぞ!」
「なん!? ラシュ君ごめん!」
「へ?」
隣りを走っていたゼダンさんが横へ跳び、敵の攻撃を感知できた私は全力でラシュ君を放り投げた。
次の瞬間、大蛇と私を、光の光線が襲った。一瞬で私は死に、魂が元の世界に戻る前に再構築された肉体へと意識が移る。
「ぷはぁ! ラシュ君、ゼダンさん!」
「おう、お前ら気をつけろよ! ボスのうちの一体がこっちに気付いた!」
「爽籟ノ速、力、技。剣聖ノ目、切断、はぁああっ!」
敵の姿を確認したラシュ君が、能力を発動させながら走り出した。
あの姿は……天使? 背に白い翼を携えて、白い服を着ている女の人。目を瞑っていて、空中に浮いて此方に光魔法を撃ってきた。
大蛇は、あの一撃で破壊されてしまった。
ここに来るまでに大半の魔力を消費していたとはいえ、最上級の魔法を一発で破壊できる魔法は……高レベルの上級魔法か、同じ最上級魔法だと思う!
「天使サナリカをあちらに向かわせたのは失敗でしたね。此方が本命でしたか」
「本命? 勿論、私は、大本命ッ!」
「ッッ!?」
手品魔法を使って、天使が持っていた杖を奪う。
そしてすぐにアイテムボックスに仕舞う。これで、この杖の所持権限が私に移った。
「ラシュ君、私が隙を作るから!」
「てぇぇぇぇえええいっ!」
「そんな単調な……っ!?」
「やん、えっちぃ!」
杖の次は、天使の衣服を剥いだ。
ぷるんと胸が揺れて、白い下着が露わになる。ほう、ブラなしとは……淫乱天使ですなあ。
ラシュ君は私の手を知っているから、別段動揺はしていなかった。ゼダンさんにも、ボスが魔物と似たような人型の場合は先ず相手の装備を剥ぐと言ってあるので大丈夫。
しかし、天使が動揺したのも一瞬。
ラシュ君の斬撃を空中で回転するように避けて、魔法を放った。
「頼むよ、剣聖!」
『…………』
その魔法を、ラシュ君の背後にいる守護聖霊が斬る。彼らは魔法を斬るんだ。
魔法を壊された天使は、すぐに次の行動に移る。
大量の魔物を操ったらしく、私たちの背後から魔物が攻めて来た。
それを、ゼダンさんが防ぐ。
10体のドラゴンを呼び出して、そのドラゴンたちが魔物を攻撃し始めた。すごい殲滅力で、一体も此方に通さない。
「火竜、水竜、土竜、風竜、光竜、闇竜、雷竜、炎竜、氷竜、岩竜……行けッ!」
「詠唱長過ぎゼダンさん! ラシュ君はそのまま行って!」
そう言いながら転移を繰り返して天使に近づく。
アイテムボックスからトランプを取り出して、投擲する。くるくると回転しながら飛んで行ったトランプを、天使は光魔法を使って撃ち落とそうとした。
でも、それはそういう物だから。
魔法を受けたトランプは、外部から補充された魔力を元に、攻撃魔法へと変化して天使に襲いかかった。ホーミングするミサイルのように無数の火属性魔法が天使にむかい、更に追加された光魔法の全てを撃ち落とす。
その間に近づいたラシュ君が、空中を二度蹴って空を走る。
剣を抜いて天使を斬ろうとするが、当たらない。あの翼、邪魔だな……。
魔力を多めに消費して、あの翼を捥ぎ取ろうと試みる。
手品の一つで、いつの間にか手元に、前もって他者に預けたはずのトランプが戻っているという類のものがある。それをモチーフに自作した手品魔法。これを使えば、相手の所有物を、手元に出現させることが可能……なんだけど、相手の腕次第ではレジストされてしまう。
だから、念の為に、使い捨てのアイテム、INT増強剤を使用する。
奥歯で錠剤を噛み砕いて、30秒間だけINT値を2倍にする。元々は、4500と少しある私のINT値だけど、これが装備込みで13000まで上昇する。更に魔法強化の無属性魔法を使用して威力を強化してから、手品魔法を使った。
「その翼、捥いだろかー!」
「あ、ああああああッッ!」
ちっ、片っぽしか取れなかった。
でも、航行能力を無くした天使は、段々と地に落ち始めた。
そんな天使を、空中を走って近づいたラシュ君が斬った。
辛うじて防御魔法を展開する天使だったが、その魔法ごと天使を斬り裂いた。
「たりゃああ!」
「い、ギぃ」
残った翼の切断に成功したラシュ君。
通し過ぎさまに守護聖霊ちゃんも天使の足を斬る。
私も地面に転移して、更に後方へと一度下がった。油断は禁物。攻め時こそ下がるべき。ここで攻めると、彼らの二の舞になってしまう。
ラシュ君と私が挟み撃ちにして、後方ではゼダンさんが無数の魔物の足止めをしてくれている。相手は機動力を失って、更に片足が無い。行ける、行けるよ!
「ラシュ君行くわ……って!?」
「え、何ですか!?」
それは、突然の出来事だった。
私の後ろから、紅い何かが通り抜けたかと思ったら、翼の折れた天使に襲いかかった。
「てめぇか、クソアマがああああああッッ!」
「なんッ、あなたは!?」
紅い何かは天使を押し倒して、左手に持つ赤黒い短剣を彼女の腹部に突き刺した。
声に鳴らない悲鳴を上げる天使のお腹を、上から下へ一気に裂く。そして引き抜いた短剣を、天使の顔に何度も、何度も打ち付けた。
「だぁあああ、死ね、死ね、死ねええ!」
「――ッ! ァ、がはっ…………」
え、えっと……あ、あれ、みっきーだ。
仮面を装備したみっきーが、短剣で天使を滅多刺しにしてる。まるで親の仇のように容赦無く、天使の顔をぐちゃぐちゃにしたみっきーは、「ああああああ!」と叫んだ後で、糸が切れた人形のようにパタっと、天使の上に倒れてしまった。
「ミキュア!」
「え、ルークさん?」
茫然とした私の後ろから、ルークさんが駆けてきた。
はっ、こんなとこで立ち止まってる場合じゃない! 周りはまだ敵だらけだ!
私はラシュ君に、「撤収!」と告げて、みっきーを回収後、魔物の群れから逃げるように王国と反対側へ走った。ゼダンさんがドラゴンの魔法を解いて、後ろから走ってくる。私は事情をルークさんに聞くことにした。
「一体何事ですかルークさん! パニックですよ、私!」
「ミキュアが、魔物相手に腕と顔をやられてしまいまして、あのクソアマがいるから行くぞルーク! と、僕の腕を掴んで転移してしまったんです」
「腕と……顔? さっきの天使に、やられたの?」
「そうらしいですよ。すいません、戦いを汚してしまって」
ルークの言葉に、後ろから追いついたゼダンさんが答える。
「別に構いやしない。誰が倒しても同じことだしな」
「そ、そうですね。僕も止めを刺したかったですけど……」
「あ、ラシュ君やっぱりラストアタック狙ってたんだ」
「だって、サケノベさんが良い土産話になる言うから」
ある程度距離を取り、魔物の追撃から逃れた私たちは、近くにあった大きな岩の影に隠れた。
ルークさんが背からみっきーを降ろして、状態を確認する。
「み、みっきー……」
「これは、酷いな……」
私とゼダンさんが同時に声を漏らす。
ルークさんがみっきーの上着を脱がして、布を下に引いてその場に寝かせる。顔が……顔と腕が、変色していた。正確には鼻から上全部と、首元、それと右腕が。打撲とかすると青っぽく色が付くことがあるけど、それとは次元が違った。紫色と、黒色を混ぜたような感じの……これ、嫌だ。
私は、アイテムボックスから回復薬を取り出して、みっきーの腕にかかるように小瓶を傾けた。
「…………だめ、治らない」
「○×△□~。癒えろ、イビルヒーリング」
ルークさんが闇属性の治療魔法を唱えるが、多少変色が和らいだだけで、根本的な解決には至っていなかった。
みっきー、可哀想に。
魔法薬と、もう一段階上の回復薬であるエリクサーを使用しても、彼の傷は癒えなかった。
「ど、どうしよう。みっきーのこれ、どうすれば綺麗になるの!?」
「僕の魔法じゃ、治療はできないみたいです。あの、お二人のどちらかは、治療魔法を使えますか? お願いします、彼女を助けてあげてください!」
……え、彼女?
こんなシリアスの中で恐縮ですけど、上裸にして、胸元まで見てるのに、みっきーのことを女だと言い張るの?
「僕は……無理です。魔法は苦手で……か、回復薬なら、さっき貰ったのが!」
「待てラシュード。俺が見る」
ゼダンさんがみっきーの患部に手を合わせて、魔法を使用した。
「……これは、最上級の呪術を受けているな。あの天使か?」
「そうだと、ミキュアは言っていました」
「……使徒の戦いに、一般人を巻き込むのは良くない。俺が治療しよう……と、言いたいところだが」
「ゼダンさんでも、治せないんですか?」
あの大蛇を使えるようなゼダンさんは、きっと相応の腕を持ち合わせているはず。
それでも治せないって、結構やばい傷なんじゃ……。
「これは、呪術レベル97の呪いだ。呪解レベル98以上の魔法でしか治せない」
「レベル……ですか?」
ルークさんが訪ねる。
「あ、これは俺が持ってる能力で、魔法を数値化して見ることが出来るんだ。レベル10の魔法はレベル11の魔法を当てることで壊すことができる。これは攻撃魔法にも回復魔法にも、治療魔法言えることなんだ」
「…………」
「俺の呪術レベルは81。つまり、80以下の呪いなら治せる。幸い、首元と右腕の方はレベルが低い。これはレベル29の呪術だ。先にこっちを治すぞ」
「!? はい、お願いします!」
右腕の変色部分に、緑色の光があてられる。しばらくすると、みっきーの右腕は元の色に戻っていた。続く首元の治療にも成功する。
おお、さすがゼダンさん!
でも、顔は治せないのかな? 男の子とはいえ、この傷はちょっと……。
「顔の方はどうですか? みっきー、ルーナちゃんの彼氏なんです!」
「…………何?」
「あ、彼氏といっても、エロエロな関係じゃなくて、手を繋いで恥ずかしがってるレベルだったみたいです、はい!」
「…………」
勢いで娘の交際相手だとバラしたら、如実にゼダンさんの顔がしかめっ面になってしまった。
ミスった、娘を大切に思ってるタイプだったか! ルーナちゃんの情報を余り聞いてこないからそこまで興味ないのかと!
「そうか、ルーナの彼氏。あいつ、同性愛者だったのか。そんな素振り、俺には一度も……それも、こんな幼い子を……だと? 血は争えないとはこのことか」
「…………え?」
あれ、なんだろう。二人とも、馬鹿なのかな?
確かに、みっきーは女顔だよ。それも可愛い。スバ抜けて可愛い。学年一の美少女が男の娘とか意味わからないってのが、私たちの学年共通の認識だったわけだし。ほら、上裸にしてるんだから、一目で彼が男の子だってことは…………あれ?
私は、みっきーの胸に手を合わせて、少し力を入れてみた。
ぷにぷに。むよん、むよん。
中指を押し込んで、力を入れる。
ぎゅー、…………ぷるるん♪
「…………」
「さ、サケノベさん!? 何やってんですか!」
ラシュ君が私の手を掴んで、みっきーから遠ざけた。
なんていうか……おっぱいがあった。
ちょっとだけど、すごく、小さかったけど。
そういえば、何かち×びも女の子特有の形だし、触ってたらぷくっとしてきたし……あれー?
「……確かに、こんな小さな子の顔が、傷モノだなんて可哀想だ。よし、呪解は無理だが、外見だけでも治して見せよう。いや、治す」
「お、お願いします! ミキュアは、真面目な良い子なんです!」
ルークさんが、まるで我が子のように可愛いんだと主張した。
いつもはクールな彼が必死になって、全力で治療を頼んでいる。
その後、15分以上にわたる試行錯誤の結果、なんとか外見は元の状態にまで戻った。
整った、既に見慣れた綺麗なお顔に。
でも、目……眼球にかけられた呪いだけは、最後まで解くことが出来なかった。




