第22話 南門防衛戦(2)
他世界の使徒の程度を調べるために、武道大会が開催しているこの国を俺たちは訪れた。
この一年半の旅路の間に、俺、都川礼二はD級冒険者になった。
他の三人は……逢沢澪はC級冒険者に、そして巫真哉と如月玲奈ちゃんはB級冒険者になった。俺はDランクで、玲奈ちゃんはBランク。
……いやいや、玲奈ちゃんマジ強いんだって。
俺だって頑張ったけど、この辺が妥当だった。
神々の戦いが始まって早半年。俺らは一度だけ他世界の使徒と戦ったことがある。
奴らの見た目は完全に人族と獣人だったが、本来の特性とは違った異能力を使ってきた。妙な二人組で、一人は長身の獣人男。そいつはどこぞのヒーローみたいに必殺技の名前を叫びながら格闘戦を仕掛けて来たんだ。
その時は既にB級の戦闘力を持ち合わせていた真哉が一人で戦ったんだが、俺には真哉と獣人男が同じくらいの実力に見えてならなかった。一般人よりも高い、異様な戦闘能力を備えていたということになる……んで、もう一人は小さな女の子。獣人男とは違って攻撃はしてこなかったけど、後ろで佇む彼女の眼には、明らかな殺意が込められていた。さりげなく精神誘導の魔法を使って俺と玲奈ちゃんを攻撃対象から外そうとしたけど、無理だったもん。心の底から発せられた感情は、俺の魔法ではずらせないんだよね。
そんなことがあって少し経つと、街や街道で使徒に遭遇しても、彼らは攻撃をしてこなくなった。
一度だけ話を聞いてみたら、「だってイベント始まるまで他世界の使徒と戦っても意味ないじゃん。まだ死にたくないし、地獄にも行きたくないんだよね、俺」って言われた。
うーんと……確か、教会で見た神のお告げ集には年に一度の戦いが勝敗を決するとか書いてあった気がした。盗み見だったから確かではないけど……その戦いまでは互いに様子を見ようということだ。俺も同感だったし、だから使徒を見つけても戦うことはなくなった。
でも、そうなると気になることがある。他世界の使徒の戦闘能力。それが気がかりだったんだよね。俺らだって教会から貰ったチート武器があるからある程度は戦えるけど、存在そのものがチートな奴らには多分勝てない。
そりゃあAランクの魔物を倒したことはあるけどさ、予め作戦を練って、罠に填めて、魔物に圧倒的に不利な空間を作ってギリギリの勝利だった。常にそんな準備が出来るわけもなく、できることと言ったら敵情視察くらい。だから、とりあえず大陸で一番大きいこの国にやってきて、使徒を観察していたら……魔物の集団が攻めて来た。
「礼二、澪。どうするよ、俺らも行った方がいいよな? つか行きたい。最近運動してなかったからさ」
「真哉が行きたいんなら勝手に行けばいいじゃない。私は嫌よ、そんなの、矢の無駄だもん」
「玲奈ちゃん、あっちにアイス擬きが売ってた。きっと異世界版のアイスなんだ。買いに行こう」
「アイス? うん、買いに行こう」
「待て馬鹿二人。なんでこの騒ぎの中でアイス買いに行くんだよ。仮に行っても店主が避難を始めてるはずだから買えねえよ」
「ええー……残念だね」
「残念だけど、あそこの屋台はまだやってるよ?」
「お、マジだ。あのおっちゃん、この騒ぎに動じてないぞ。すごい集中力だ……たこ焼きに似てる」
「うん、プロだね」
「……礼二、さっさと決めろ。魔物の大群だぞ。武器レベルを上げるチャンスじゃねえか。ただでさえお前のレベルは低いんだ。こんな時くらいだぞ、簡単にレベルアップできるのは」
「…………」
えー。俺の杖、育てても意味ないんだけどなぁ。
お前らと違って新しい能力とかにも目覚めないっぽいし、身体能力が強化されるわけでもない。レベルupボーナスで消費魔力下げるくらいだったら瞑想して魔力量上げた方が効率良いとまできた。
「玲奈ちゃんはどうする? 魔物の大群だって。戦いたい?」
「私は……いやだなぁ。たくさんの魔物相手じゃ、礼二くん死んじゃうよ?」
「そう。そこなんだよな、俺死んじゃう。真哉真哉、俺死んじゃうよ」
「死なねえよ、俺が守るから」
え、なにそれ濡れる。
見た目チャラいのに健気キャラとか惚れちゃうから止めて。なんで一々格好良いんだよ、お前は。
「うん……うん。なら、行ってもいいかな。澪は玲奈ちゃんを見ててやってくれな」
「わかったわ。それじゃあその辺の宿でゆっくりしてるわね。いざって時は帝国の方に転移するからよろしく」
「ういうい。んじゃ真哉、とりあえずジャンケンしようぜ。俺が勝ったら西門で、真哉が勝ったら南門な」
「おう、ジャンケン……」
ポン。ぐは、負けた……。
南門に着くと、冒険者ギルドのギルド員に呼び止められた。
なんでも精鋭部隊を編制して敵将を打ち取るって話らしい。いいのか? 俺ら、フルメンバーじゃないぞ?
「はい、ですから此方の方々と臨時パーティーを組んで頂きます。共にA級冒険者ですので、貴方達A級パーティーが加われば作戦はより完全な物となるでしょう。西の方にも二人程A級冒険者が向かっているので、此方はこの四人で戦って頂きます。これはAランクの依頼です。拒否権はありません」
え、Aランクの依頼って拒否権ないの? 初耳なんですけど。
「なぁなぁ、Aランクの依頼って拒否権ないの?」
「そりゃないだろ。A級の存在自体希少なんだから。一々拒否なんてされてたらそれは一生解決されない」
「ふーん、そか。でも良いのか? 俺はD級だし、真哉もB級だろ」
「ああ。……それでもいいんですか? 俺らがA級パーティーを名乗る条件は都川、逢沢、巫、如月の四人で組んだ場合のみと聞いているんですが」
「今回だけは例外とします。他にも有能な冒険者を探しているんですけど、見当たらないんですよね。ですから、貴方達に頼みます。A級以下でAランクの魔物を倒した……なんて経験をした人は、貴方達以外には三人しかいません。ギルドマスターにも了承を得ています」
へー、三人もいるのか。内、何人が使徒なのかは気になるけど、まぁいっか。
こうして、俺と真哉は精鋭部隊とやらに加わった。新たな仲間はイ・ドワーフの婆さんとハイ・エルフの兄ちゃんだ。精々、死なない程度に……ね。
「ダーク、止めをッ!」
「炎の杖発動! 炎の杖発動! む、結界陣起動!」
私が機動力を削いだ白い魔物を、ダークが魔法アイテムのファイアーボールを撃ち出す杖を使用して止めをさしていきます。この魔物、数が多いだけで一体一体の力は余り強力ではありませんわ。ですが、この数が多いという一点の度が過ぎてますわ。いくらなんでも、これは多すぎですわよ。
「蹴散らしなさい、水竜! 雷竜! 土竜! 木竜!」
竜魔法を四つ程同時展開して、前方の敵を薙ぎ払います。私の周りにはある程度戦力を削いだ魔物に止めを刺す為にダークの他にも数十名の一般兵の方々がいます。
攻撃魔法という魔法は、多数の敵を対象にダメージを与える構成と、一体の敵を対象にダメージを与える構成とではまったくの別物になってしまうんですわ。私が今使用しているのは多数の敵に満遍なく手傷を負わせるタイプの物で、主な攻撃方法はブレス系となりますわ。後衛組の援護射撃でダメージを負った魔物を更に弱らせ、周りの兵士でも安全に戦えるように配慮しているんですが……ダメですわね。どうしても無傷で抜けてきてしまう個体が存在してしまいますわ。
ここはダークの出番ですわ。
彼の靴には任意の場所に結界を展開する魔法陣が仕込んでありますから、それで足止めを願いましょう。
「ダークは足止めに集中しなさい。例の、靴の魔法アイテムを使うのですわ!」
「ほわああ!? 我はもう手一杯である! 結界陣起動、結界陣起動!」
タン、タン、とその場で地面を踏み鳴らす彼を守るように、木竜を展開します。
木竜は自然の多い場所で力を発揮する魔法ですが、こんな地でも薄らと草が生えそろっていますので、それを操り敵の足を止めるように構成します。竜魔法の利点は攻撃力でも殲滅力でも無く、状況に応じて使い分けられる応用力の高さですわ。攻撃力なら"龍魔法"の方が上ですし、殲滅力なら……って、そんなことどうでもいいですわ!
さすがに、上級魔法の同時展開は四つが限界ですわね。これ以上は私が動けなくなってしまいますわ。両手に装備した鉤爪に魔力を通し、奥義を発動します。
「奥義:白虎 壱、ですわ!」
「―――ッ!」
奥義の壱、基本的な身体能力強化を施して魔物の首を刎ねます。
そうですわ。この魔物は首が無くなっても動くんですわ。ですから、ここから更に胴体にもダメージを……。
そこまで考えた所で、何やら右側から叫ぶような声が聞こえてきました。「弱点は胸部だ! 胸を狙え!」そんなような声が聞こえたような気が致しましたので、試しにと胸を切り裂いてみると、まるで動力が切れたかのように動きを止めてしまいました。
私たちと同じく、心臓が弱点なのでしょうか。ですが魔物は複数の心臓を体に備えていることが基本ですし、きっと心臓とはまた別の弱点が胸部にあるのですわ。
「聞きましたわね、胸部が弱点らしいですわ!」
「そんなこと、我が始めに言ったではないか! ええい、我に近づくな! 結界陣起動、炎の杖発動!」
それから数十分が経過した頃、私もダークも疲弊して、一度回復アイテムを取りに補給部隊の下へ戻ろうかと考えていた時、ふと、見覚えのある魔法が目に入りました。
それは、巨大な九つの頭を持つ大蛇を象った攻撃魔法、余りにも巨大な攻撃魔法で、無数の敵をなぎ倒しながら魔物の群れの中を進んでいきますわ。最上級の攻撃魔法。あれは……お父様の魔法ですわ!
そうですわよ! だってあれは、お父様の故郷に伝わる九頭龍の伝承をモチーフにして作られた物ですし、使えるのは私とお父様だけですわ。
この世界に……お父様がいる。
それも、恐らく、味方として……この戦場に参加している。
私の心で燻っていた"このまま負けてしまうのでは?"なんて不安は一瞬で吹き飛んでしまいました。
だってそうでしょう。私の世界で、五人の強者を挙げた場合にまず名前の入る英雄、Aランク冒険者のゼダン・ウルスダッツがいるんですもの。勝ったも当然ですわね!
私は気分が高揚してきました。
両手の爪に奥儀を纏って、一体、また一体と敵を打ち取ります。ふふ、このまま一気に殲滅してさしあげますわ!
左手をくいっと曲げて、火の矢を面前の白女に飛ばす。
「ハッ、よっと」
「――――――ッ!」
左腕に取り付けた触媒でもある小型の弦から、火魔法の火の矢を放つ。火の矢は白女の首に刺さり、小規模な爆発を起こして上半身を吹き飛ばした。これで412体目。
振り向き様に右手で構えた槍を投擲して接近していた白女を貫く。413。アイテムボックスから新たな槍と取って……カレンちゃん、大丈夫かな。
カレンちゃんは、自身にある呪術をかけている。
一対一の状況で戦う場合、自身の戦闘力を、相手のそれより少しだけ下げた状態へ変化させる呪い。
そのせいで、基本的に彼女は格上との戦闘となるんだ。
発動条件であるこの"一対一"ってのが肝で、こんな感じの混戦になるとコンマ一秒以下の間隔で、自分の身体能力が変化し続けるんだ。そんな状態で戦えるのは天才的な感性を持つカレンちゃんだけだ。でも、そんな彼女にも限界がある。
だから、どんな状況でも、どんな相手にでも、カレンちゃんは簡単に負ける可能性がある。事実、俺は何度か彼女が負けているのを見ている。その度に助けてきた。彼女は小っちゃい虫にすら勝てない。虫を退治する際に、虫以下の戦闘力になるから。
カレンちゃんを探すために無属性の探査魔法を使用する。
周囲数km範囲内なら何処に居ても相手を感知できる魔法を、秒間20回程連続で唱える。……いた。やっぱりだ。ワザと常に一対一で戦えるように立ち回ってる。この強いとはとても言えない白女以下の身体能力で、自身の技術と自慢の剣で戦っている。
ほら、やっぱり。今にも死にそうだ。あからさまに援護をするとキレちゃうから、こっそりと助けなければならない。アイテムボックスから普通の長弓を取り出して、何本か引いて敵を射抜いた。彼女は偶々後方からの援護射撃が飛んできたんだと思うだろう。まさか、ここから俺が助けてるとは夢にも……。
「うぉおおおおおいッ! ブレェェェェイド!!」
「!?」
うお、カレンちゃんが雄叫びを上げていらっしゃる。なぜバレたし。素直に彼女の下へと白女を倒しながら進む。計17体を倒したから、これで430かな。
ご立腹な様子のカレンちゃんに、俺は少し怯みながらも真面目な話をする。怒られる前に怒ることで、話をうやむやにすることが可能だからだ。
「カレンちゃん、いい加減にして欲しい」
「ああん?」
睨みつけながらこっちに振り向いた。
うわぁ……ヤンキーだ。まんまヤンキーだよこの子。
「ここは戦場で、君は不死身じゃないんだ。俺は、クウロを守りたいけど、君のことも守りたいんだよ」
「…………」
お、頬が少し赤くなった。
急な女の子扱いに弱いのは予習済みです、はい。
「だから、そんな戦い方をしないで。俺の守れる範囲内にいるか、常に二体以上を相手取って。カレンちゃんの腕なら、一体を引きつけながら戦うことだってできるでしょ?」
「……でもよ」
「でもじゃない。俺の魔法だって、治せる傷と治せない傷がある。俺は嫌だよ、カレンちゃんが傷付くのは」
「…………わかった。わかったよ、あーあー、白けちまったぜ」
そう言いながら剣を構え直すカレンちゃん。
左手の大剣の腹で白女の攻撃を防ぎながら、右手の刀で先とは違う白女を斬る。そんな方法なら、彼女は本来の、自身の力を発揮できる。真面目に戦えば、彼女は俺より強いんだ。
あの刀……俺がランキング報酬で貰ったあの刀は、所謂なんでも斬れる剣だ。石川五○衛門の持つ斬×剣のようになんでも斬れる。正確には一定の硬度以上の対象と触れた際に規定の魔力量を流すと対象の硬度を下げる魔法を付加する……なんて効果のついた魔法アイテムの剣なわけだけど。剣士なのになぜか魔力量の多い彼女にピッタシの武器だ。
そんな魔法アイテムの刀を使用して、まるで戦×無双のキャラクターのようにばっさばっさと敵を斬っていくカレンちゃん。よし、俺の負けていられない。ここは一発、広域殲滅タイプの魔法でも使うか。
《スキル:司祭発動》《スキル:火属性魔法発動》
「……これで、火槍。30連発ッ!」
スキルによるアシストを得て、数体の魔物をまとめて殺せる威力を持つ中級魔法の火槍を、一気に30本作成して味方のいない方へ放った。大量の爆発が響く中、しっかりと討伐した魔物の数をカウントする。……これで、672体。もうちょっとで1000体になる。Mikiyaに自慢する為にも、最低でも四桁はいっておきたいし。
尽きかけたMPを薬を飲んで回復しながら、新たに接近してきた白女を槍を振るって倒す。そんなことを繰り返していると、白女に奇妙な動きが見えた。
口を大きく開けて震えるような仕草をした白女の周辺に、他の白女が次々と集まり出したんだ。そして足元に魔法陣が現れて光に包まれた次の瞬間には、その場に少し大きい白女が立っていた。180cmはあるかな。んん、合体した?
白女が合体した。それは、ほぼ全ての白女に言えることだった。簡潔に言うと、敵の数が減った。これはチャンスだと思ったのか、一人の騎士が前へ出て新しい白女に斬りかかった。
……まじっすか。近づいてきた騎士に、白女は手刀を叩きこんだ。かなりのスピードで腕が動いて、まるで関節の無い生き物の動きだった。辛うじて盾で防いだ騎士だったが、まるで粘土を潰すかのように、盾ごと騎士の命を奪っていった。なるほどなるほど、合体して強くなるパターンですね。数が減ったっていっても全体から見れば数分の一になった程度。こっちの防衛組よりも何倍、何十倍も多い。なのに一体一体が強化された……あれ、やばくね?
俺は直ぐに槍と弓を仕舞って、剣と盾を取り出した。本気で戦う。
本気で戦って、出来る限り敵の数を減らす。俺の杞憂に終わればいいんだけど、こんな合体が一度だけ~とは限らない。更にこの強化個体が集まって、いつかは手が付けられなくなる可能性だって否定できない。だから、出来るだけ倒す。これ以上、強くなる前に。
「ミルネちゃん、省エネモードで剣だけを強化して。……うん、そんな感じ」
『…………』
剣が炎につつまれて、全身に力が満ちてきた。
剣闘士と特級騎士のスキルを使いながら、敵を倒す。1000体なんて言ってられない。
一体でも多く、この白女を倒さなきゃ。最悪、国が滅んでしまう。
なんだ、あれ。
『あれは……合成システム? 数体の魔物を材料に、新たな魔物にってパターンか?』
『幹也、注意して。あの白いのは、個人戦に特化した強力な人形よ。元々はCランク程度の戦闘力のはずだから、劣化したとしても相当強力よ』
『今度こそ、信じていいのか。いや、ベルフェの話は信用ならない。やっぱり合成説で行こう』
『…………そんなこと言ってると、傷が痛くなるわよ』
ふざけるな。
ベルフェに痛みを忘れるように幻術を掛けて貰って、俺は理性を保ちながら戦闘を続けていた。右腕は痺れ、目は使えず、だけどドッペルガンと短剣を交互に使って命を繋いでいた。
ふと、白い魔物の攻撃が鈍くなった気がした。
それから数十秒後、奴らは喉を震わす特殊な個体の元に集まり出して、魔法か何かを使って合成を始めた。
元々は160cmと少し程度だった大きさも、一回り大きい180cmくらいになっていて……出現と同時にドッペルガンを撃った。でも、効かなかった。銃弾が命中しても皮膚を貫通しないし、碌にダメージも与えられない。銃を仕舞い腰に装備した黒蟲の短剣を抜いて、逆手で構える。
『ベルフェ、奴らに毒は……』
『私の知ってる人形になら有効。だけど、こいつらの場合はわからないわ……ごめんなさい』
謝らなくていい。そこまで期待していなかったから。
明らかに強そうになった白い魔物が、素早い動きで接近してくる。ルークの魔法で殆どが動きを妨害されたが、やはり数が数なので数体は此方にぬけてきた。
「―――ッ!」
「待っ、速い」
俺の方へ伸びる右腕を回避して、短剣を滑らせて毒を与える。
駄目みたいだ。毒が効いてる様子はない。それに、動きが速い。アレンやルーナ、リラナルテさんのような人外的な速さではないが、ラナや魔羅刀のような理解できる範囲内での、これは、不味いな。
続く蹴りを短剣で弾くが、力が違いすぎて俺の方が吹き飛ばされた。その間にも、周りの兵士は次々と白い魔物に殺されている。対応できるのは錬度の高い兵士と、騎士の連中、低ランク以外の冒険者だけだ。この防衛部隊で大多数を占める一般兵が完全に追いついていない。
左腕で地面を叩いて、方向をずらす。
左腕だけを曲げて地面を転がり、少し右の頬が傷ついたが起き上がることに成功した。垂れる血を拭いながら考える。ただの蹴りで、20メートル以上も吹きとばされた。ありえねえ。パワーが段違い過ぎる。まともにやりあったら殺されるぞ。
俺を蹴り飛ばした白い魔物は、ルークを背後から攻撃しようとしていた。しかし、足元から先端の尖った土の塊がとびだして魔物の胸部を貫いた。…………魔物は死んだが、即死じゃない。弱点が変わってる。
此方を一瞬だけ確認したルークが叫んだ。
「ミキュア、無事ですか!?」
「ああ。ルーク、こいつら強いぞ」
「はい、魔剣を使いたいところですが……」
「絶対使うなよ。大惨事になる」
前へ走って、白い魔物を短剣で襲う。
話に聞いたルークの魔剣は、混戦に向かない。俺のスキルも混戦には向かないし、使える技も限られてくる。技:強撃を発動しながら短剣を叩きつけるが、それでも細い腕に簡単に止められる。渾身の一撃すら、少し肉を抉っただけで終わってしまった。
短剣もだめだ。奴に刺さった短剣を手放して、後ろに跳んで蹴りを躱しながら、手斧を取り出して起動する。あれ、右手だけドレスになってない……まあいいか。
「魔法具起動。大斧と茨、壁の操作は任せるから、アイスニードルの権限だけ寄越せッ!」
『…………』
「ショット、ショット、氷魔法アイスニードル!」
『幹也、右に二体、左に三体もいる。無理よ』
水弾に魔法をかけて、氷魔法アイスニードルを発動した。
ただの水の固まりが、鋭い氷柱へ変化した。二本の氷柱が奴へぶつかり、皮膚を、防御した腕ごと上半身を貫いた。同時に周囲へも種と水弾をばら撒いて、アリアが魔法を使えるような環境を整える。
貫いたといっても、ルークの魔法とは違い細く小規模な氷柱だ。一撃死足りえない。だけど、腕と体を刺したことによって弱体化に成功する。これで、止めを。
「ショットショットショットショット」
『ショットショットショットショット』
「これで……アイスニードル!」
片っ端から水魔法を撃って、その全てをアイスニードルへ変える。
脳内詠唱を加えて二発ずつ放ったショットの魔法が、氷柱へと変化して白い魔物を貫く。一本や二本では効果のなかったものでも、10本ならどうだ。
「これなら……殺せただろ」
『残念だけど、まだ生きてるみたいよ。それと、左から来てるわ』
く、HPが多いのか俺の魔法攻撃力が低いのか……両方だな。
左から迫る魔物を、アリアが茨と壁を出現させて足止めする。その背後へ出現した大斧が、白い魔物の頭上へ落ちた。
「……さすがアリアさん」
『幹也、魔力が少ない。幻術の消費魔力が多すぎるわ』
「しょうがねえだろ、それないと痛いんだから。霊薬は……あと二つか」
霊薬を飲んでHPとMPを回復する。
痛覚を弱める為の幻術の消費魔力が、一分間で約3000。今の俺のMP値が17329だから、攻撃で消費する分も合わせて約4分間しか戦えない。最後の一個の霊薬がHP、MP値40%回復のやつだから、約10000回復できても6~7分くらいか。
「ルーク、 魔力量ッ!」
「あと、半分くらいです。ミキュアは!」
「5分で無くなる、5分後に、補給に戻るぞ」
「はい、わかり、ました!」
俺の予想が正しければ、第一防衛線と第二防衛線の間に、補給班がいるはず。
……あれ、いないの? あ、いるなんて誰も言ってなかったな。あれ、もしかして、城壁のところまで戻らないといけないのか。
ここから数kmはある。非効率だ。転移石で戻って、帰ってくるのに全力で移動して5~10分。開戦後でも、多数の兵士が後ろからこの戦いに参加している。きっと他国の兵士が援軍に駆けつけてくれてるんだ。なら、一度戻っても間に合うはず。
俺の戦力はアレでも、ルークはここ一帯を抑えるのに必要不可欠な存在になっている。空気を固める魔法で数十体の敵の足を止めて、敵の攻撃を緩めているんだ。それがなかったら既に突破されている。
一定の区域ごとに、一定数の強者を配置して、その周りを俺たち凡人が囲む。これが大量の敵とわたりあえている理由だ。
「アリア、援護頼む」
『…………』
氷柱で埋まった個体の近くまで移動して、黒蟲の短剣を回収する。コレは貴重な武器だ。こんなところで失うわけにはいかない。
アリアの柄を口に挟み、鉄製の鉈を取り出して、氷柱でボロボロの奴の首を刎ねる。どうやらこいつらの防御力は皮膚が要らしく、穴だからけの首なんて、兎や猪を狩るような、銀貨一枚の鉈で十分。今、アリアの刃を脂肪まみれにするわけにはいかない。
「ひえ (死ね)」
『そんなのいいから、後ろに一体』
戦い方は決まった。アリアが足止め、アイスニードルで防御力を削り、鉈で斬る。
また急に、変な個体が現れなきゃいいが……。
俺の勘は、嫌な方向にだけは良く当たる。
これだけは、師匠譲りの的中率を誇っちゃう。最悪だ……。
『あー、クソ。また目が痛んできた。幻術を強めてくれ』
『……これ以上?』
鉈を構える。
まずは五分間、こいつらを殺す。




