第21話 天賦の才(2)
HP 3221/27900
MP 73327/75015
時間は短い。
スキル:邪教徒の効果により300%になったMP値から三秒毎に20%減少していく中で、攻撃魔法による消費分を計算に入れて……約30秒。これが、俺が戦える限界時間。
痛みで鈍る思考を働かせ、奴の攻撃パターンを考える。
全身を覆う重鎧、それと剣と盾から炎が噴き出していて、更に両腕部分に炎で出来た小さな盾のような物が出現している。きっと、それらはカッターの魔法を防いだ時以上のものなのだろう。つまり俺の水魔法なんて一瞬で蒸発してしまう程の威力を持っている。
水魔法と相殺する火魔法。なるほど、当初の作戦が使えることになるな。
右手を下にむけて触手を伸ばして、無くなった足の代わりにしながら奴との距離を詰める。当然のように機動力が鈍る体を動かして、痛みを忘れるように構成をイメージする。膨大な量の構成式を、詳細まで思い出す。
同時に左手に魔力を集中させて、魔法を唱えた。
「敵を蹴散らせ、水竜」
空中に出現した巨大な水のドラゴンが、奴を食い殺そうと突撃する。
しかし、水竜が形成されて二秒もしないうちに奴の腕に着いている炎の小盾がまるでチャクラムのように回転しながら射出され、水竜が破壊された。相性が悪いとはいえ、全長40メートル以上の巨大なドラゴンを象った魔法を一撃か……。
ボフッとした破裂音と共に、構成の壊れた魔法がただの水となり、瞬時に蒸発。予想通り、周囲に蒸気を大量にばら撒いたが……いや、そうか。駄目だ、作戦失敗だ。奴の魔法があまりにも高温すぎて、水蒸気が蒸発しきってしまう。あれじゃ煙幕として成り立たない。結界ぎりぎりに蒸気が籠り、遠くの観客席は見えなくなったが、中心付近は完璧に晴れてしまっていた。
炎で包まれた剣が右から迫ってくる。
奴が近づいたことにより、周囲の気温が更に上昇した。いや、気温が上昇とかいうレベルじゃない。なんだこれ、ありえない。洒落にならない。近づくだけで死んでしまいそうになる。
唇が渇き、喉が引きつる。眼球の水分がとんだのか水魔法レナードが強制的に解除され、瞼に違和感を感じた。人体に影響を与えすぎる。これだから火属性は嫌なんだ。
体の制御をオートに任せて、俺は作戦を考えることに集中するが……。
「そんな単調な攻撃、軽いし遅せぇんだよ!」
「く、がッ……」
スキル:殺人鬼の効果で自動に動く俺の体がアリアを構えて奴と戦い始める。
結論から言うと、それは最も選んではいけない最低最悪の悪手だった。
迫る炎の剣を、尻尾を軸に触手を伸ばして躱してから手斧でを振るが、炎の盾に攻撃を防がれる。
その盾で手斧を持った俺の右腕ごと押し返された。当然のように、右腕に重度の火傷を負う。腕が爛れて痛みが走る……近接攻撃の度に受ける反射ダメージ。
尻尾と触手を駆使して斜め前方へ跳んだ。
水魔法も氷魔法も、俺の攻撃魔法は発動した瞬間に奴の鎧から炎が伸びて構成を破壊された。俺の体を支える為の尻尾と触手さえ、既に何度も破壊されては発動し直すことを強要される。
一回戦で使用した巨大な氷の塊を上空に出現させたが、残った小盾を先程と同じように使われ壊されてしまった。発動した攻撃魔法は危険度を見極められ順番に破壊されてしまう。この順応性……奴は既に対魔法戦を経験しているのか。なら、遠距離戦では勝てない。奴が魔羅刀なら、あの対処法は完成されているものなのだろう。
遠距離戦が駄目。なら近距離戦はどうなのか……駄目だった。
剣での斬撃にすら炎が纏わりつき、回避運動を取るも熱によるダメージが蓄積する。スキル:殺人鬼は性質上かなりの肉体強化の能力を併せ持ってはいるが、それは人外になるというわけではない。受けるものはしっかりと受けてしまう。奴に近づいただけで、熱によるダメージを受けるのだ。わかる。もうこの体じゃまともに戦えない。
剣を避けて手斧で斬り付けるが、奴の鎧に阻まれてダメージが通らない。ほんの少しだけ、HPゲージが減少するだけだ。
何かする度に右腕が焼かれて……三度目の攻撃で指が取れ、続く四度目の攻撃で完全に右腕が焼け落ちてしまった。
余りの激痛に思考がぐちゃぐちゃになる。意識を手放さずに済んでいるのが不思議なくらいだ。
スキル:殺人鬼は敵を殺す最適解を探すスキルだと思っていたが、いやそれ故だろうか、敵さえ殺せれば俺の体なんてどうなっても良いと思っている節がある。肉を斬らせて骨を断つ?違う。命を捨てて命を絶つ心算だ。だからこそ、右腕を手放す結果になった。なんだよ、駄目駄目じゃんか……。
右腕が落ちてアリアを手放してしまった。
触手の魔法が解け、ふらついて倒れそうになる。左足一本では姿勢制御が出来ない。
どうする、使ってしまうか?
観客席からは水蒸気が霧状になっていて俺の姿の詳細までは見えないかもしれない。
「弱いな、弱ええよMikiya。お前、本当にあのMikiyaかよ。馬鹿みたいに突っ込んできて、勝手に自滅して。俺の知ってるMikiyaはもっと……」
「うっさい。今から本気出してやんよ。……スキル:最適化」
《スキル:最適化発動》
邪教徒と殺人鬼をキャンセルし、最適化を発動する。
一瞬、俺の体が光に包まれて……身長178㎝、体重72㎏のアバター『Mikiya』の姿へと変化した。
ぎゅっと右手を握り締め、ダンっと右足で地面を踏み鳴らす。
よし、四肢が全て揃ってる。まだ、戦える。
「おお! ようやく出て来たな。そうか、最適化でそっちになるのか!……でも、今更だな」
「確かに、さっきの方が能力値は三倍以上あったし、攻撃力も回避性能も高かったかもしれない。いや、高かった」
「そうなのか? 弱体化してんじゃん。チッ、ああん? ヤル気あんのかテメェ」
「……あるよ、やる気。ちゃんと、殺意はある」
両手にソードの魔法を発動する。
この体に変化した際に軽鎧は脱げてしまったようで、布で出来た服を着ていた。こんな素材じゃ、奴の攻撃は防げないが……皮の鎧でも無理だったんだ、別に構いやしない。一応、水魔法で湿らせておく。残っているのは左手のブレスレットだけ。手甲はサイズが合わないので外して後ろに投げる。
ふぅ、と一息ついてから、再び奴に接近した。
ソードの魔法を広げて両腕まで覆い、少しでも炎の影響を少なくして攻撃した。それも、一定範囲内には近寄らずにソードの魔法を伸ばして、反射ダメージを抑えるように心懸けて。
だが、奴は一流の腕を兼ね備えている。そんなその場しのぎの魔法は剣の一振りで破壊され、俺の方へと盾を向けながら突撃してきた。
灼熱の塊が迫ってくる。
どうするか……いや、落ち着け。落ち着いて行動しろよ。安易な考えは死を招く。さっき経験したばかりじゃないか。
盾を構えていては俺の姿が見えないだろう。この距離なら3秒もあれば詰められると油断したな。確かに、俺のAGIじゃ3秒あったところで何もできない。
しかし、奴の視界から俺の姿が消えている。ということは、技:隠形が使用可能だ。
技:隠形を使用してからスキル:逃走犯を使った跳躍で突撃を回避した。
スキルをすぐに解除して、技:暗殺へと切り替える。しかたない。リラナルテさんの顔には泥を塗ることになるが、反則負けなんか気にしていたら勝てない。
アイテムボックスを開いて、ドッペルガンを取り出す。直後、左手にはまった指輪から警戒音が聞こえてきた。きっと、反則行為を審判員に知らせる為の処置なのだろう。
音に気付いて振り返る魔羅刀。でも、一瞬だけ遅かった。これが、ラストアタックだ。
「死ねぇぇぇえええッッ!」
「なん!? Mikiyaぁあああああああ!」
一瞬で服が焼け、皮膚が焼け爛れることを承知の上で奴の背後を取った。
俺の名を叫びながら剣を振るう奴の肩を銃を持つ腕で殴り、斬撃を逸らした。ジュっと、肉の焼ける音がする。
重鎧といえど全身を防御できるわけではない。
左手を奴の首に突っ込んで隙間を開けて、中に銃弾を撃ち込んだ。
タン、タン、タン……
左手が、まるでマグマにでも入れたかのように溶解しても、引き金を引き続ける。余りにも全身が痛いので、痛覚が麻痺しているのかもしれない。不思議と、右手だけは動き続けてくれた。
ドッペルガンの銃身が溶けて、奴が崩れた。
その際に奴の剣が俺に触れ、ただそれだけで指輪が発動して、結界の外へと排出される。余りにも高温の物体に人体が触れるとこうなる。剣が一番熱かったみたいだ。
「勝者、マラブレード」
そんな声がした直後、俺は結界の外で目を覚ました。
スキルが解けて元の体に戻っている。地面に倒れる俺に近づいた大会側の人が、反則負けだと結果を教えてくれた。反則負けか……しょうがない。でも、でもでもでも。不意打ちとはいえ、反則とはいえ……勝った。勝ったんだ。いや、負けたんだけどあれは俺の勝ちだろ。
よし、煽りに行こう。
向こう側にいる魔羅刀の元まで走る。
試合中に散々煽ってくれたんだ。反則負けだとはいえ、先に死んだのはあの野郎だ。
「魔羅刀、俺の勝ちだぜ!」
「はあ? いやいや、俺の勝ちだろ。指輪めっさ鳴ってたじゃん。ルール守れよ、ったく」
「お前、それ戦場でも同じこと言えるの?」
「……言えないな。どうせ実戦にはルールが~とか言うんだろ」
俺達の喧嘩はいつもこうだ。
お互いの感情をぶつけ合って、殺しあって……勝者が敗者を煽る。煽って煽って……また次の戦いの言い訳にするんだ。
「なんにせよ、今回は俺の勝ち、お前の負けだな。これで3勝5敗……あと2回で追いつく!」
「……はぁ。俺の負けだよMikiya。でも、クウロには謝ってもらうからな。あと、仲良くしてやってくれよ」
謝る?だから何の話だよ。さっきから何度も何度……ん、待てよ。
「クウロ、クウロ……ん? クウロって、クウちゃんのことか?」
「……え?」
「いや、クウロがクウロが~って怒ってたから誰のことだよって思ったけど、クウちゃんのことを言ってるのか?犬っぽい獣人の、藍色の毛並みの可愛い獣人っ子……あれ、なんでお前がクウちゃんのこと知ってんの?」
「なんでって……待て。話が噛み合ってない気がしてきた」
俺たちが混乱する中、頭の中でベルフェの声が響いた。
『ねえ、幹也。この男ってあの男よ』
『あの男?』
『酒場で仲良くなった人。裸で寝てた』
『…………』
『「どういう状況なんだ、わけわかんなーい!」って言ってたじゃない』
『…………』
うわ……すげぇ。一瞬で話が把握できた。怖ッ、マジか。あれ、でも。
「クウロ=クウちゃん、上裸=お前で微妙に話が繋がったけど、さっきのアレが実話だとして……俺、昨日はクウちゃんのこと見かけてないぞ?」
「いや、いやいや。クウロ言ってたぞ。ミキヤちゃんに忘れられてたって。誰だコイツって目されたって」
「……いや、絶対に会ってない。だって昨日は一日中ギルドの訓練場に籠ってたし」
「……本当にか? クウロは噴水がある公園で、獣人の女の人と話してたって言ってたぞ?」
んん? 確かに、昨日はルーナと一緒だったが、マジで一日中訓練場にいたからな。前日から徹夜で水竜の訓練続けて、しかも解散したのが昨日の夜中だぞ。
「一昨日からギルドにいて、宿に帰ったのは日が完全に落ちてからだ。ウサギ肉の串焼き買って食べたら、微妙に暗くて食べにくかったの覚えてるし」
「……と、とにかく! Mikiya、この後暇だろ。クウロと話してやってくれよ。あいつ、マジで落ち込んでんだ」
「わかった。それで、話が変わるんだけど……その剣いいな。くれ」
「はぁ!? 唐突すぎるわ。普通にあげないし。これって一応、上位魔法具の神器だし」
「神器? なにそれ格好良い。ますます欲しくなったな……」
「いやいや、お前の手斧だって……」
俺と魔羅刀が話ていると、奇妙な音が辺りに響いた。これは、警報?
それに続いて大きな声が聞こえた。集音魔法によるマイクで、誰かが叫んでいるようだ。
「この場にいる冒険者に告げる。よく聞いてほしい。我が国は魔物による攻撃を受けている。魔物による攻撃を受けている。諸君らには防衛戦闘に参加して欲しい。至急、南、西の城門に急行せよ。繰り返す。我が国は魔物による攻撃を受けている。至急、南、西の城門に急行せよ。繰り返す。我が国は魔物の……」
……は?
なんなんだ一体。
茫然と立ち尽くす俺達とは違い、その声を聞いて観客席に座る人々はすぐに行動を始めた。
転移石を使用して国外へと逃げる人。放送通りに西門、南門へと急ぐ冒険者、市民を落ち着かせようとする兵士たち。
「……」
「……」
俺と魔羅刀は会場の端で固まっていた。え、何コレ。
「……なぁ、一体なんの騒ぎだ?」
「……あ」
「ん、どうした魔羅刀。何か心当たりでもあるのか?」
「えっと、俺って西の大陸にいたんだけど、そん時にデカい蛇みたいな魔物が街を襲ってきた時があったんだよ。そん時と似たような感じだなーって」
じゃあ、魔物がクラーク王国に攻めてきたってことか?ありえないだろ。
この国はでかい。そりゃもう大きな国だ。大国だ。こんな大国を落とそうってんなら、それこそ十万単位の、下手したら百万以上の兵士が必要になってくる。それは、魔物だって似たようなもんだろ? むしろ生息数が少ないぶん魔物が群れを成してその規模になる方が難しい。知性のない魔物が異種と強力してなんて、無理に決まっている。
魔法があるとはいえ半ば古い文化であるこの世界での百万単位の兵士なんて、国中の民を集めたとか、そんな無茶をしなきゃ成立しないレベルだ。大陸一の大国であるクラーク王国なら、ぎりぎりでそのくらいの兵力があるかもしれないが……ここ、王都に在住している兵士の数なんて高が知れている。
この街は土魔法で出来た城壁で守られていて、いざって時には防御結界を展開できると聞いた。
通常時は兵士の大半がこの場所に居ないとはいえ、本気で防衛行動に出れば十万以上の戦闘員が存在する。大陸で、一番の大国は伊達じゃない。魔法が使える国民に無理やり攻撃魔法とか撃たせれば、それだけで百万を軽く超える軍隊の出来上がりだ。並みの軍勢では手も足も出ないだろう。
そんな国を襲う? それも、王都を?
「ありえない……しかも、魔物だと?」
「魔王でも攻めてきたのかもな」
さらっと意味不明な言葉を吐く魔羅刀。……は?
「は?」
「あれ、知らないの? この世界の大国には、平均して2~3年に1回くらいの確率で魔王の軍勢が攻めてくることがあるんだよ。ゲームとかによく出てくるだろ、魔王軍ってやつ」
「魔王……って、実在するのか?」
「するする。俺、魔王の配下とか倒したことあるし」
「嘘臭せぇ……っていうか、本当に慌ただしくなってきたな。大会も中断しちゃってるし」
「だなぁ。クウロはカレンちゃんが守るだろうし、俺らも行くか?」
「え、城門に? 嫌だ、俺は行かない。本当に魔物が攻めてきてるならレアを守らなきゃいけない。ああ、レアってのは俺に懐いてくれている天使のことだ。今は宿で遊んでると思う」
「……街の中まで入ってくるか?」
「ああ。まず、おかしな点がいくつかある。王都の周りには何ヵ所も見張り台がある。周りといっても近場じゃないぞ、かなり大規模に展開されているものだ。仮に魔物が集団で攻めて来たとしても、兵士が転移石使って報告すれば何日も早く情報が届くから、今すぐ門に集まれなんて言われないはず。事前にギルドに通達を寄越して、正式に部隊を整えた方が効率が良いからな。無駄な混乱を抑えることができる。それに、仮に今すぐ集まらなきゃいけないような、そんな状況なら門に集まる意図がわからない。攻めてきている魔物の近くまで転移すれば済む話だ。それなら、あんな門より魔法で空間が拡げられているギルド本部に集まった方が良い」
「……確かに、そうかもな」
「かも、じゃない。絶対にだ。この世界には転移石がある。電話よりは遅いにしても、情報伝達に困るような世界じゃないんだ。時間に猶予が発生するから、市民の避難にしてももっと慎重に行うはずだしな。仮にこの放送が本当で、マジで門から出て対処しなきゃいけないくらいすぐ近くまで魔物が攻めてきてるような状況なら……何が起きているのか予想できない。きっと、俺の想像を掛け離れた事態が起きているはず。だったら、何よりもまず子供を守るのが最優先だ」
「Mikiyaって、頭の回転早いよな」
「いや、待てよ。寧ろ実際に見てきた方が早いか。間違った情報で走り回るのは……よし、それで状況を判断しよう。おい、魔羅刀、もっとこっちに寄れ」
「ん?」
「転移すんぞ。魔法でな」
「え、テレポート使えんの?」
俺が使うわけじゃないんだけどね。
『ベルフェ、テレポートの魔法を使ってくれ』
『待機空間から? いいけど……うわぁ、難易度高い』
『上級悪魔なんだろ?』
『うん……そうね。わかったわ。いくわよ!』
景色が一瞬だけブレて、テレポートの魔法が発動される。
南門近くの城壁の上、約20mの高さから視力を強化して遠方を見る。
…………確かに、魔物らしき化け物の大群がうっすらと見える。まだ遠い。だけど、近い。近すぎる。全て同一種だ。首の長い、白い肌の人型の魔物が、まるで貞子みたいに這って移動してきている。
近い、近いぞ。あのペースだと、すぐにでもこの国に到達してもおかしくない。
ここから数キロ地点に、大量の兵士や冒険者の姿が見える。でも、まずい。数が少ない。あああああああ……不味い不味い不味い不味い不味い!
「ああああああ、おい、どうする!」
「……やるぞ、Mikiya。大丈夫だ、落ち着け」
「やるぞ?……はは、何言ってんだ!確かに、こっちの兵士は多い。ざっと数万は居るだろうな!きっと、国境線近くで国を防衛している兵士も、全員集めてるんだろうよ! 最終的には数万……いや、十万くらいにはなるかもな! 冒険者だって、きっと5000人はいる!他国のギルドにも情報が回ってるとしか思えない。もしかしたら西門にも、同じくらい集まってるかもしれないなぁ!」
「だから落ち着けって、お前。ここは異世界だぞ?」
「だから何だってんだ! あの魔物の数を見てみろ! ありえねえだろ、どこにあんな数の魔物が住んでたんだよ!クソ。 ほら、地平線が波打ってんぞ! 百万、二百万の話じゃねえ……」
「あのな……確かに、数は多いかもしれないけど。認識が違う」
「認識が、違う?」
「いいか、相手は魔物だ。あの数、きっと一体一体はそんなに強くないと思う。生物の特徴として子供を産む数ってのは生存率に比例するところがあるからな。魔物は確かに群れを作るけど、本当に強い魔物が群れを成すって話は聞いたことないだろ?」
「……魔王がいるだろ」
「同一種でって話だ。それに、こっちには俺達がいる。俺達、冒険者が。大会時期だからな。A級冒険者だって何人かいる。ほら、四文字熟語で一騎当千ってのがあるだろ、強さを表す表現だ。でも、一騎当千って誇張が過ぎると思ってただろ? 一人が千人に匹敵するなんて……俺が見せてやろうか、一騎当千。B級冒険者以上なら、経験ある奴も少なくないと思うぜ?」
「一騎当千……」
そうか。この世界じゃ、1対1000という有り得ない数字が……有り得てしまうのか。
上級魔法みたいな広域を攻撃できる存在がいれば、戦況が一変するかもしれない。あの、何体いるかわからない、白い魔物の群れにも、勝てるかもしれないって……いや、でも。
『幹也、あれ、魔物じゃないわよ』
『……頼むよ、これ以上俺を混乱させないでくれ』
『いいから聞いて。あれは、天界の兵器よ』
『天界?』
『第二世界の住人の兵器よ。幸い低レベルの人形ばかりだから、あれならランクEの魔物と大差ないわ。大丈夫、幹也ならいけるわよ。ふぁいと!』
『は……? おいおいおいおいちょっと待て。あの白いの、一体一体がランクEもあるのか?』
Eランクの魔物のソロ討伐には、D級冒険者程度の実力を持つことが目安とされている。特別な才能を持たない、一般人の限界点と同じ戦闘力の化け物が、数え切れない程大群で迫ってきている。
放送と同時に、転移石で逃げる人は結構いた。
多分、同じような例が過去にあるんだ。突然攻めて来た魔物に、大国が破壊されるようなケースが、過去に存在したってことだ。危険だ。この状況は……とても危険だ。
金に煩い冒険者だが、実は正義感のある奴らは多い。常日頃から国民に感謝されるからだ。守ってくれてありがとうって……だから、あんなにも集まって、命を賭けて国を、民を、必死に守ろうとする。兵士だって同じだ。あいつらは自分の仕事に誇りを持っている。偶に飲みにくるから話すんだよ。自分の国を守る為なら簡単に命を捨てるような奴らだ。
俺も、参加した方が良いのか? 確かに、この街並みに思い入れはあるし、愛着の湧いた店もある。デメタスさんとこの宿の部屋なんて、もはや俺ん家みたいなものだ。最大限まで先の、半年分の契約だってしてる。デメタスさんに許可とって、家具だって好きに変えてるし、内装だって少し弄ってる。地球にある俺の部屋より何倍も気に入ってる。だけど……。
「おいMikiya、早く行かないと出遅れる。こんなチャンス滅多に無いぞ。経験値も、レアアイテムもうっはうはだぞ。ちゃんとオプション弄ったか? 自動採取をオンにしておけよ」
「……待ってくれ」
そんな、そんなゲームのレアイベントみたいに言わないでくれ。
今にも飛び出そうな魔羅刀を呼びとめる。まだ、あの魔物がこの国にくるまで、少しだけ時間が残されている。
保険は、打っておいた方がいい。
「わかった。俺も、戦う……だけど、保険は打っておく」
「保険?」
「ああ。まず、クウちゃんと、部屋にいるレアを合流させる。守る対象は一ヵ所に纏めた方が都合が良い。だろ?」
「わかった。んじゃあ」
「最後まで話を聞け。まず、クウちゃんを拾って俺の部屋に行く。その後の話はそれからだ」
「……りょうかーい」
「クウちゃんは、あの宿屋だな?」
「そうそう、Mikiyaが窓から逃げたあの部屋ね」
『ベルフェ、テレポート頼む』
『ちょっと待って…………はい、行くわよ』
ベルフェの詠唱が終わり、視界が歪む。
テレポート完了。
目の前に、ベットに座ったクウちゃんと、椅子に腰掛け本を読む金髪の女性が現れた。いや、現れたのは俺達か。
突然の来訪者にびっくりした様子の彼女たち。俺はクウちゃんに、魔羅刀は女性に話かけた。
「ごめん、いきなりで驚いちゃったね。クウちゃん、よく聞いて」
「ミ、ミキヤちゃん……ごめん、なさい。ごめんなさい、私……」
怯えてしまっている。
ええっと、確か尻尾と頭を撫でて欲しいんだっけか。なるべく優しくするように心懸けながら、彼女の毛並を整えるように撫でる。
「あ……」
「クウちゃん、俺は全然怒ってないし、気にしてもないよ。友達なんでしょ? それでね、この街に魔物が攻めてるんだ。俺はクウちゃんも守りたいから、一緒に来てくれる?」
そう捲し立てる。
こういう話は、その場のノリというか、早口で言って強引にした方が良い。相手に考える暇を与えないのが上手く誘導するコツだ。とにかく、時間がない。この国の周辺には行軍の障害となるような木々や林とかが無いから、直にでも奴らはここまでやってくるだろう。他国からの援軍が転移してくるとは思うが……早く準備を終えた方がいいに決まっている。
「……いい、の? クウ、友達でも?」
「勿論だ。こんな可愛い獣っ子、寧ろこっちからお願いしたくなるよ。魔羅刀、そっちは話ついたか?」
「一応ね。カレンちゃんも一緒に戦うから」
「カレンだ。Mikiya、話は聞いてるよ。強いんだってね。期待してる」
「……よく分からないけど、取り合えず俺のことは『みきゅあ』と呼んでくれ。あ、クウちゃんはミキヤちゃんで良いけど、お前らは『みきゅあ』……だ。この世界では、こっちで通してる」
「Mikiyaじゃなくてみきゅあね、りょうかい。じゃあ俺のこともブレードでいいよ」
「この世界? なぁ、ブレード。こいつ、今この世界ではって……」
「ああ! ほら、カレンちゃん! 早くしないと出遅れちゃうよ! ほら、早くしないとおっぱい揉んじゃうぞ!」
「……そうだな。早くしないとな」
「そうだよねー! ほら、クウロもMiki……みきゅあも」
「ああ。皆、俺の近くに集まってくれ」
『ベルフェ、あと二回だ。今から霊薬使うから、回復し終わってから発動だ』
『連発キツイ。あと二回とか……ご褒美は?』
『……このまえ欲しがってたあの黒いブーツ。希少な魔物の革製品の。悪魔っぽーいって喜んでたアレ、買ってやる』
『言ったわね。忘れちゃ嫌よ? 悪魔との約束は絶対なんだから』
……少し揺れたけど、テレポートできたみたいだな。
何もない空間から現れた俺たちに気付き「わー、 いまのなに!」と驚くレア、その隣でラナが武器を広げていた。どうやら、ラナの方は戦闘準備をしているらしい。外の騒ぎから何か察知したのかもしれない。
「ラナ、手短に言う。この子の名前はクウロといって、今からお前の護衛対象だ。ちょっと前に渡した他国の転移石……持ってるよな? いざって時は、それ使って逃げろ。レア、クウロ、それとキツとミルを連れてな」
「ん、了解」
「皆でこの宿にいろ。変にうろつくな。敵は多い、何体か防衛網を抜けるかもしれない」
「わかってる、よ? そんな、こと。私、みきゅあくんより、年上、だもん」
「何度も言ってるけど、俺の方が年上だからな。……レア、良い子にしてろよ」
「…………やだ。やだよ、お兄ちゃん、一緒にいよ?」
さっきまでとは違い、急に涙目になるレア。
やばい、またいつもの 行かないで行かないで が始まるかもしれない。
俺はキツネ仮面の後ろ半分を分解し、キツネ耳を取り外した。後付けで取り付けたので、獣耳は外すことが可能だ。それをレアの頭にはめてあげる。うん、某ネズミ王国で売ってる耳カチューシャみたいになってるな。なにこの天使可愛い。ぎゅっと抱きしめる。おお、魔物の軍勢関連で受けた頭の混乱が、段々と癒されてくるぅ……よし、補充完了。
「ラナ、絶対にレアをこの部屋から出すんじゃないぞ。クウちゃん、君もレアを守ってやってくれ」
「……はい、わかりました。ご主人様、この子の傍にいてもいいですか?」
「おう、クウロもこのラナって人に守って貰え。それと、結界魔法の使用許可を出す、部屋の入口と窓、それと建物にでも張っておけば大丈夫だろ。いいか、感知からの足止めトラップが肝だぞ?」
「はい、わかりました。ミキヤちゃん、任せて」
「頼んだ。食料はここに置いておく。パンと飲み物、水と果物……多分これで二日は持つから。ラナが責任持ってボックスに入れておけ。あとはルークとルーナだが……来てないよな?」
「うん、来たよ? みきゅあくんを、探してた。南門に、行くって。西門は、サヤが行ったから、大丈夫」
実はA級冒険者だった鮭延か……強いスキルを持ってるらしいから、あの変態でも一騎当千足りえるのか。トランプで戦うとか言ってたぞ?
「鮭延か……わかった。とりあえず、俺も南に行く。何かあれば戻ってくるから、……この円の中には入らないでくれ。テレポートする時に危険だ」
「やだ、やだよぉ。お兄ちゃん、だめ……行っちゃやだ。ねぇ、一緒にいるの!」
「ごめんよ、すぐに戻るから。……ブレード、カレンさん。行こう」
「ほいほーい、んじゃクウロ、年下の子はクウロお姉ちゃんが守るんだぞ」
「ほら、ブレード。さっさとしろよ。みきゅあ……頼むぜ」
『ベルフェ、テレポートで南門の近くまで行ってくれ』
『ええっと……人が多いわね。城壁の上……もダメね。民家の屋根の上でもいい?』
『ああ。それでいいから』
『んじゃ、行くわよ』
ぐずりだしたレアを放置して、南門に向かう。若干心が痛いが、毎度のことだ。どうも俺が冒険へ出ることに抵抗があるみたい。今回はバタついていたから、余計な心配をさせてしまったのだろう。可哀想だけど、我慢してもらうしかないな。何、後でたくさん甘やかしてやればいい。
これでレアの安全は確保できた。よし……行くか。
テレポートが完了した。
南門の近くの民家の屋根の上に、俺、ブレード、カレンさんの三人は立っている。既に門には防衛戦闘に参加する冒険者が多く集まっていた。
集まっているのは冒険者だけではない。常時は街の治安を守っている衛兵や、王都とは違う街や町、村々を守護している兵士や騎士、この数だと、きっと呼べる戦力を総動員したのだろう。同盟国からの支援も込みのはずだ。クラーク王国行きの転移石を使用した場合、東西南北の四つに位置する転移門に転移することになる。南門付近の転移門からは絶え間なく装備を身に着けた戦闘員を吐き出されていた。
「俺たちも外へ行こう。飛び降りるぞ……って、ブレードお前、鎧どこいった?」
「え、ああ。みきゅあは知らなかったのか。俺って、こっちが標準装備なんだ」
「標準装備って……ほぼ裸装備じゃん。逆になんで肘と膝だけは守ってんだよ」
「ちょっと待て。ほぼ裸ってそれ、すごい語弊があるから。防具を装備してないだけで服は着てるから、ほら!」
「あー、ミキュア。ブレードは防具付けると遅くなるんだ。魔法具使って盾と鎧を召喚できるんだけど、燃費が悪くてな。五分で動けなくなる。それより、早く行くぞ」
「カレンちゃんネタバレ禁止。せっかくみきゅあが俺より弱くて優越感に浸れるチャンスなのに、弱点とか教えないで」
「……あの炎の武具は、持続性に欠けるのか」
「厳密には魔力が無くなって、体を守れなくなるんだよ。自分の武器で大火傷するような間抜け野郎なんだよコイツは。それより、早く……」
「う、なんか今日のカレンちゃん口が悪いよ」
鎧を着ると遅くなる……か。
俺ら地球人の身体能力には限界があるからな。ブレードは騎士としての技量の高さからか動きが速く見えるけど、実際はそこまでの速度は出てないし。重い鎧を着るのは地球人には荷が重いか。
だから鎧を着てないんだ。確かに、重鎧は勿論、魔物の皮で出来た物だって、それなりに重い。俺だって軽鎧を装備するだけで動きが鈍くなる。だが、それは防御性能を上げる為に必要不可欠なものだから……って、こんな話をしている場合じゃなかったな。
俺も装備を変える。というか、戻す。ステータス画面を表示させ、アイテムボックスを開く。視線でカーソルをずらして、ドッペル戦闘服に合わせて装備を変更した。インナーの上に着ている装備がぶれて、白とグレーの雪上迷彩柄の戦闘服へと変わる。触媒のブレスレットを残して、他の装備は全て外した。
アイテムボックスの存在、ドッペルガンの性質上、弾帯、ポケットやベルトは要らないので排除。黒蟲の短剣と鉄製のナイフ二本を左胸と腰、左足に装備している。足に装備するのはラナのアドバイスだ。肩からはSMG……短機関銃をぶらさげた俺の冒険用の装備。変態キツネ仮面とは違い、魔法に特化せずに銃、格闘術をで主に魔物と戦うスタイル。
最近は魔法ばっかりだったが……これから行くのは戦場だ。命を賭けることになる。だったら、コレしかないだろ。ルークに買って貰った魔法銀のブレスレットがあるから、水弾と水刃、それとレナードだったら使えるし。
隣で、俺の装備を見て唖然とするブレード。まぁ、世界観が違うからな。
「お前……なぜにBDU?それ、MP5だよな……あ、黒いMP5って、ドッペルゲンガー?」
「よくわかったな。Doppel Combat Dressと、Doppel Gunだ」
「い、いいなぁ! 俺、ドッペル化粧道具入れだったわ。Mikiyaは銃と戦闘服って、流石お姉さま。世界でいちばん使われてる短機関銃を選ぶあたり、実践的だよな。弾と整備の心配してるだろ?」
「魔羅刀だったら……FN P90とかか? あれ、微妙に使いずらいんだよな。集まりが良くても指が上手く動かない。命賭けるならコレだろ」
「ああああああッッ。おい、ガキ共! 雑談なんかしてるんじゃねえ、行くぞって言ってんだろ!」
「え……ごめんなさい」
「ああ、カレンちゃんは戦闘モードになるとこうなる。んじゃ行くか」
屋根から飛び降りて人の群れに入り込み南門を抜ける。
さっきは城壁の上から視力をマニュアル強化した状態で薄らとしか見えなかった白い魔物だが、もうここからでも目視出来る程接近していた。多分、あと15分くらいで戦いが始まる。
辺りをきょろきょろを見回す…………あ、いた。遠いな。彼らがいる前線まで走って移動する。
背の高い魔族と獣人のコンビ。ルークとルーナを発見した。
そして、二人の隣りには眼鏡を掛けた痩せ型の、黒いマントを靡かせた一人の青年が立っていた。え、お前も戦うのか?
「ふはははははっ、キツネっ娘、遅かったな!」
「ええっと、ダークロード。お前も戦うのか?」
青年……ダークロードは、マントをばさっと払うと、手を額に当てながらポージングを決めて話出した。
「無論ッ、我も防衛に貢献するためにここにいる! 何、我の暗黒魔法にかかれば魔物の軍勢等恐るるに足らず!大船に乗った心算で居るが良い」
「……ダークは闇魔法を使えませんわ。錬金術しか使えませんもの。ミキュア様は何時もの装備では御座いませんの? なんというか、珍しい装備ですわね」
「まあな。んで、作戦を教えてくれ。俺とこっちの二人は今来たところなんだ。伝令の兵が走ってたけど、よく聞き取れなくてな」
俺の言葉にルークが反応する。
ルークも完全武装で来ている。腰に二本の剣を差し、少し豪華な鎧を着ている。装備が紫色と黒色で染められていて、青白い肌と合わさって……魔族っぽいな。
「簡単なことですよ。まず第一防衛線より前に僕たち冒険者と兵士、騎士が立って近接戦をします。その後ろから魔法部隊が僕たちの少し先にいる遠くの敵に遠距離攻撃を仕掛け続けます。魔法師、弓兵、それを守る重騎士……ここまでが第二防衛線です。最後に防壁の上から魔法弓を放つ兵士、下には補給部隊と回復部隊が控えています。その周りにぐるりと錬度の低い兵士が囲んでいるのですが……これは防衛線と言えません。そこまで敵に入られたら終わりですね。ですから、第一防衛線を超えられた場合、第二防衛線まで退いて体勢を立て直すことになります。第二防衛線を突破されると防壁まで退くことになります。ミキュア、わかりましたか?」
「……それは余り良い手じゃないな」
『え、どうして? いい作戦じゃない? 戦士が真正面から戦って、その後ろを魔法使いが攻めるんでしょ?』
『馬鹿か。それじゃ物量に押しつぶされて負けるんだよ。本来なら足止めは別の方法でして、横から回り込んで敵の指揮官を殺す為に攻めなきゃならない。魔物とはいえ上下関係はある。ああいった集団で群れるタイプはリーダーを失えば混乱するか帰るかするって相場が決まっている』
『……そうなの?』
「これは国が決めたことですし、僕たちが文句を言えるようなことじゃありません。ああ、ミキュアが心配していることはわかりますよ。だから、彼らがいます」
「……彼ら?」
「はい。A級冒険者です。イ・ドワーフ族の超剛腕『ジャナサ・リーズ』と、ハイ・エルフ族の氷剣士『グラッド・ルー・ハシュ・サーナイト』です。それに、『シンヤ・カンナギ』率いるA級パーティーから二人。この四名が第一攻撃部隊として敵軍を"中央突破"して敵将を討つことになっているので、それまでの時間稼ぎがこの防衛戦闘の作戦目的ですね」
「…………」
「ふむ……どうしたキツネっ娘よ、急に黙り込みおって。ああ、わかるぞ。我が攻撃部隊に参加していないことに納得がいかないのだな。フッ、我は仲間であるキツネっ娘にオオカミっ娘、優魔族を敵から守らなくてはいけないからな」
「黙りなさいですわ。ミキュア様、一緒にいらっしゃった其方の二人は知り合いですの? 私、そこの男には見覚えがありますわ」
「ん? んじゃ、自己紹介しとこうか? 俺の名前はおち○ぽ戦士マラ・ブレード。B級冒険者だから、すごく強いぞ」
「私はカレンという。こっちのブレードの100倍強い。よろしくな」
「……」
中央突破だと?
あの数だ。この防衛戦は持って数十分程度……いや、仮にブレードの言葉を信じたとして、某ゲームの無双ゲーみたいに白い魔物と戦えたとして……どんなに頑張っても数時間が限度だ。一か二時間、もって三時間。回復アイテムが切れて、後衛の魔力が切れるのがそれくらいだと思う。
彼方此方から回復薬を集めても、この人数の魔力を補うには不十分すぎる。弓だって矢が無くなる。騎士だって、冒険者だって、剣が壊れる。槍が折れる。盾が割れる。鎧が壊れる。格闘主体の奴らだって、手が壊れてしまう。足が壊れてしまう。何より、気力が持たない。俺の銃みたいな低燃費の簡単な遠距離武器が無いから、次第に攻撃手段を失っていくだろう。
もって数時間、それが限度なんだ。
それなのに、少数精鋭の攻撃部隊に全てを託すのは……危険じゃないか?それも中央突破なんて、無理に決まってる。
「ミキュア、心配するのはわかります。ですが、西門からも第二、第三攻撃部隊が出るはずですので、きっと大丈夫ですよ」
「……」
俺の頭に手を乗せながら、笑みを浮かべるルーク。く、こんなイケメンスマイルに騙されないぞ!
「第二、第三の方は?」
「騎士団員で構成されると思います。確か、この国には二名の特級騎士がいますから、その二人が部隊を率いる気がします。彼らはA級冒険者以上の戦闘力を備えていると言われていれ、僕らが束になっても勝てない程強いらしいですよ。それが本当かどうかはわかりませんが、それだけの噂が流れているということは、それなりの力があるという証にもなります」
「……まぁ、いい。俺らの編成は二人でいいな。あまり固まっていても邪魔になる。俺とルーク、ルーナとダークロード、ブレードとカレンさんが妥当か?」
「そうですね……僕とミキュア、ブレードさんとダークロードさん、ウルスダッツさんとカレンさんという手もあります。この中で最も戦闘力がありそうなのはブレードさんで、無いのはダークロードさんですし」
「無いのはって、断定するんだな」
「そもそもダークロードさんは錬金術師ですので、戦闘員ではありません」
「我の戦闘力が最も低い? フッ、何を馬鹿げたことを。面白くもない冗談だな」
「マジですわよ……」
「そうか? うむ、そうとも言えるな。我は肉体労働は苦手なのだ。だが、全知全能の我にかかれば、あのような雑兵等。ふむ、何々『ドールゼロゼロタイプエー』?……おお、わかったぞ。奴らは日の光が無いと内臓された魔力の循環速度が鈍くなり戦闘力が保てないそうだ。夜になれば楽勝であるな!」
「夜まで待ったら国が落ちますわよ……私も二人ずつという案には賛成ですわ。本当は一人で自由に戦う方が安全だと思いますわ。ですが、ダークとミキュア様は運動能力が低いので、フォローが必要となりますもの」
「確かに、俺のAGIはお前らに比べれば低いだろうよ。でも、一般人レベルには達してるから。これでもD級冒険者だ」
「そうだぞ。我だってG級冒険者だが、一人でDランクの魔物を屠ったこともある。心配無用であるな」
「……ソレ、遠くから魔法アイテム使っていただけですわ」
「なぁ、みきゅあ。俺とカレンちゃんはバラバラで戦うから。つか、カレンちゃんって強力プレイができない人なんだ」
「そうだ、私は一人で戦う。手出しはするなよ? 絶対だからな」
どうしてそんな奴がパーティー組んでんだよ。はぁ。
話をしている間に、もう目の前まで魔物が迫っていた。戦いが始まる。キツネ耳の無くなった仮面の位置を調整しながら、ゆっくりと言う。
「じゃあ、各々臨機応変に、各自で生き残る為に行動してくれ。仲間に撃たれたくなかったら前に出過ぎるなよ。……ルーク、前衛は任せた」
「ミキュアこそ、背中は任せましたよ。では、行きましょうか」
「ダークは後ろから杖と靴の魔法アイテムで援護なさい。私が足を無くした魔物に止めをさすのがあなたの役目ですわ」
「フッ、我が暗黒魔法の錆びとしてくれよう」
「んじゃ、カレンちゃん頑張ってね。今回は……槍と小弓でいこっと」
「ああ。行くぜッッ!」
後ろで合図の代わりの光魔法が輝いて、大量の魔法が白い魔物の軍勢に放たれる。直後に膨大な数の矢が飛んで、魔物の手足に突き刺さった。このローテーションが敵の流れを遅くする。
首の長い、奇妙な人型をした白い肌の魔物。
目が黒く、歯が赤い。それ以外は全て血も含め白い魔物の軍勢が襲いかかってくる。
一体一体がDランク程度の戦闘力を備えた魔物。俺はルークの後ろに続いて、ドッペルガンを撃つ。
銃口から放たれた銃弾が、地を這う魔物の背に当たった。白い血液を吹き出しながら、口を大きく開ける魔物。よし、弾は貫通してる。防御力はそこまで無いみたいだ。
ドッペルガンの攻撃力以上のダメージを与えているところから、魔物の体内に重度のダメージを負わせているみたいだな。一撃死には届かないが、HPゲージがぐっと減り追加のダメージを与えることに成功する。
銃弾を受けた魔物は口を大きく開けて怯んでいた。
声を上げていないが口と喉が動いている……しゃべれないのか。断末魔が無いとなると、遠慮なく殺せる。まぁ、襲いかかってくる魔物に遠慮なんて必要ないが。
常に数体の魔物がルークに攻撃を仕掛けようと近づいてくるが、ルークが使える空気を固める風魔法で動きを抑えられる。そのうち一体の頭を撃ち抜いてみたが、一撃死とはならなかった。あの白いのは、頭が急所じゃないということだ。
「ルーク、どこを狙えばいい!」
「恐らく、心臓部です! 貫け、風刃」
ルークの手から風属性のカッターが発動して、白い魔物の胸部に命中する。うえ、血とか肉が白いから違和感が半端ない。胸部に深い傷を負ったそいつは、ぐぐっとHPゲージが無くなって死んでしまった。今のパターンは弱点攻撃による一撃死ではなく、ルークの魔法攻撃力の高さによる一発死だ。これじゃ検証にならねぇ。
左右から迫る魔物を順番に撃つ。首から胸にかけて数発、一瞬怯んだ隙にショットガンへと形状変化を促したドッペルガンを両手で構えて、引き金を引く。
ショットガン。散弾銃。アメリカのレミン○ン・アームズ社が開発したポンプアクション式散弾銃 レミントンM870の形状をイメージしたそれで、敵の胸部を撃ち抜いた。無数の銃弾を撃ち込まれたかのような傷が広がって、魔物が倒れる。よし、これが本当の一撃死。弱点は胸だ。
でも、この魔物さ。白い肌の全裸の女性みたいな形してんだよ。首が微妙に長いから妖怪の轆轤首……とまではいかないけど、常人の二倍程度の長さはあると思う。それで人型だからさ、当然胸があるんだよ。おっぱいな。散弾銃で撃ち抜くと肉片がアホみたいに飛び散って最悪なんだけど。駄目だコレ。精神的に良くない。
近づく二体の魔物を対処してから、ハンドガンへと形状を変化する。
アイテムボックスから二丁目を取り出して、形状変化でバヨネットを無理やり追加した。この乱戦だ。近づかれた場合の対処法は一つでも多い方がいい。消費するMP値だって二本で300くらいだ。レベルの低かった頃の俺には使えなかったが、今となっては約25000もMPがあるわけだし、弾用に5000も残しておけば戦える。
更に一体の魔物を倒す。
……これがDランク? もっと弱い気がする。感覚的に言えばGランク以上Fランク以下。野良でその辺をうろつくような魔物と同等の強さな感じが……おい、ベルフェ。話が違う。
『……おかしいわね。天使の人形は、最低でもこの世界でいうDランク程度の力があったはずよ。でも、この人形は確かに強度が低い気がするわ。幹也の銃が通用するなんて……』
『おい、それは聞き捨てならない。銃舐めんなよ。人間相手なら剣よりも、弓よりも強んだぞ』
まったく、これだからベルフェの話は信用ならないんだ。前にも一度似たようなことがあった。あれは魔法の訓練中の出来事だ。魔素を魔力に変換させる練習をしている時に、ベルフェが言うコツは全て役に立たなかった。リラナルテさんとラナの話の方が何倍もわかりやすかった。きっと、なまじ元の能力がありすぎるせいで人族とは感性が違うんだろう。
「ルーク、魔法攻撃の第二射が来た。少し下がるぞ!」
「はい! 防げ、エア。○×△□~、我を守護せよ、エアウォール」
広範囲にわたり空気の壁を出現させたルークと共に後方へ下がる。
俺達の上空をいくつもの魔法が通り過ぎて、白い魔物に降り注ぐ。すごい、一気に大量の敵が手傷を負った。広範囲にわたる中級以上の魔法は、爆撃と同じだ。空から降り注いで歩兵を一掃する力を持っている。この魔物は魔法を使ってこない、防衛戦とはいえ、こっちが有利なのかもしれない。
でも、数が違う。違い過ぎる。死体を乗り越えて新たな魔物が後方から流れ込んでくる。開幕の攻撃と第二射が敵に与えたダメージは多いが、まだ全体の1%も削っていない。土と草の色をしていた草原と道が、今では白一色で埋め尽くされている。黒い目と赤い口、白い肌の人族の首長女が、地を這って迫ってくる。怖い。怖いわ。戦力的な意味もあるけど、お化け的な意味でも怖い。
地を這うことのメリットは、遠距離攻撃の被害を抑える一点にある。ある程度近づいた奴らが立ち上がるのは、そうした方が戦いやすいからだ。匍匐前進とは違うが、似たようなものだろう。話せもせす、常に涎が垂れているこんな奴らが考えるようなことか? 本能的に察したのか? 違うだろ。利口なリーダーがいるんだよな。
頼む、攻撃部隊。中央突破でもなんでもいいから、早くしてくれよ。
明日香「ここの洞窟から反応がある。おーい、姫宮!」
姫宮「あ、明日香くん。どうしたの?」
明日香「うぉ!? 血まみれじゃないか! 大丈夫か!?」
姫宮「これ、返り血だから平気。見て見て、こんなに魔素石取れちゃった! 私、杖が欲しんだ。後ろに剣がついてるの」
明日香「そうか……。それより、最近ストレス溜まってないか? ほら、美也ちゃんは姫宮の気持ちを知らないからさ。あの子、精神年齢低いだろ? 幹也じゃなくて『お兄ちゃん』が大好きなんだよ。気にするなよ」
姫宮「ん、気にしてないよ。私、そこまで重い女じゃないもん。斉藤くんは私のことを愛してる。これだけで十分だよ」
明日香「お、おう……そうだな。じゃ、帰るぞ」
姫宮「うん、行こっか」
明日香「(めっちゃ笑顔。幹也って、姫宮のこと目が怖いとか言ってたし、絶対に好きじゃないと思うんだけど……。つか、返り血? 遠距離から魔法を使う姫宮が返り血?)」




