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第20話 魔法と奥義(2)

中央大陸東部に、一体の悪魔が彷徨っていた。


「うーん……やっぱりいないなぁ。俺と契約できそうな奴は」


 いや、そもそも俺の契約者になれる条件が厳し過ぎるんだよ。負の感情持つ者って、人なら誰しも負の感情を持っているはずだよな。最初は簡単だなと思ったんだよ。適当な契約者を見つけて、俺の駒として上手く立ち回らせればあとは上級悪魔である俺の力だけでも十分に戦えるわけだしよ。

 それがこんなざまになるとはな……。負の感情を持ったって条件が、『命よりも感情を優先する者』なんて意味だとは普通思わねぇだろ。それも命自体にかなりの負の感情がむいていないといけないなんてよ……。

 最初は、抵当に盗賊団でも操って、強制的に条件に則った奴を作ろうとしたんだよ。でもよ、空気中の少ない魔素を編み込んで作った結界で、ちまちま育てた盗賊団も、たった二人の冒険者に壊滅されちまったよ。

 あいつも、同じ悪魔付きなんだから同じ陣営ってことだろ、少しは手抜けってんだよな。


 はぁ、どっかに良い人材はいないものかねぇ。


 『お、あの縦ロール、この前と装備が変わってるな』

 『幹也だってそうでしょ、だからお互い様よ。一回戦の試合を見て、登録武器を変更したんでしょうね』


 指輪を人差し指に通しながら、対戦相手の姿を眺める。

 本日もほとんど満席のこの会場には、詳しい人数はわからないけどかなり大勢の観客達がいて、皆が俺を……俺と縦ロールを見ていた。

 当然、その中には霊技大会に出場する選手も含まれる。そんな彼らはただ面白半分で試合を見ているわけじゃない。俺と同じように魔法や剣なんかの技術を奪うのが目的だったり、近く戦うであろう敵の偵察が目的だったり……選手を殺す為の視察、なんてのもありえる。

 この大会、数回勝ち進むだけでもかなり莫大な賞金を得ることが出来るんだ。青色、白色の大会も相当な額の賞金を貰えるが、金色の大会は文字通り桁が違う。

 青色の大会で優勝すると、袋一杯に銀貨が詰った大きい賞金袋がひとつ貰える。白色の大会だと小さな袋一杯に金貨が詰まったものを。そして俺が出てる金色の大会だと……かなり、貰える。優勝すれば、それこそ一気に億万長者になることも可能なくらい。具体的には……金貨1000枚。それは、この大陸の周辺諸国が数年掛けて貯めた物の一部だ。クラーク王国の霊技大会は、大陸を代表するクラスの大きい大会だから。優秀の人材を動かすには、それ相応の金が必要になってくるというわけだな。だから賞金の額が高いので、数年に一度しか開かれないというわけらしい。因みに余談になるんだけど、冒険者の必需品に高価な物が多い理由が特別な税が掛かっているせいらしいんだけど……それがこの大会の為だとしたら、こんな大会潰れちまえば良いと思う。

 

 それで、俺は一回戦を勝ったわけだけど、それでも金貨が少し入った小袋を貰えた。開けてみると中には金貨が10枚。ざっと500万円。

 賞金を貰った俺は、賭けで勝った分と合わせて装備を強化しようと思った。それで昨日、皮の軽鎧に魔石を埋め込もうと思ってキツネ仮面スタイルで街を歩いてたら……変な奴に襲われた。

 そいつは顔半分を布で覆った見るからに怪しい奴で、俺が人通りの少ない道を近道にと思って使っていたら、急に襲ってきて……結果から言うとぶち殺した。正確に言うと相手が強すぎて殺すしかなかったってのが現状か。てか、最終的にはむしろ俺の方が奴の死体から金品を奪ったわけなんだけど……あまり良い物はなかったなあ。防御系の魔法アイテムが数点と、銅貨と銀貨が少し。

 この世界には過剰防衛という概念はない。正当防衛でやり過ぎても何の問題ないから、自分が殺されそうな状況であったら相手を殺しても法的にはセーフなんだ。街を守る衛兵さんにも、ちゃんと事情を話せば捕まらない。だからこそ容赦無く殺してやった。

 それで後から気付いたんだけど、そいつは俺の試合を見ていたららしく水属性と氷属性に耐性のある装備品を持っていたんだ。咄嗟の出来事だったし、銃を使ったからギリギリ勝てたけど、魔法だけで戦ったら辛かった……いや、死んでいたかもしれない。なんせ動きが良すぎた。戦闘時間はほんの数秒だったけど、俺より圧倒的に強かった感じがした。勝てたのも偶然で、というか銃の殺傷能力に助けられた面はある。


 つまり、試合を見られると……此方の手が筒抜けになる。

 俺も縦ロールも、一回戦とは微妙に違う装備を身に着けている。一試合毎に装備を変える……つまり、こんな大規模な大会で、それなりの回数の戦いに出ることになるこの大会で、対戦相手に合わせて自分の戦い方を一々ねじ曲げる人なんてのは、そりゃあ実際数えてみればかなり少ないとは思うが……どうやらその少数派同士が当たったみたいだな。

 俺は自分の戦闘スタイルに信念やプライドを持っていないし、色々と試したいこともある。プライドは……まぁ最初はちょっとだけ持ってたりもしたんだけど、魔物相手に戦う内に命惜しさに捨てた。

 取り込める技術は取り込むし、相手にとって嫌な戦法に変えることを卑下したりしない。この世界にも剣士や魔法使いはいるし、そういった人は自分の技に自信を持っているだろうけど……この世界に来てから3~4ヵ月くらい冒険者生活をしてると、そんなことを考えていられなくなる。

 だって冒険者は生き残れば勝ちだから。

 冒険者はどの職業よりも高収入で、どの職業よりも死亡率が高い。だからこそ、討伐依頼を達成して、金を貰えた奴が偉いんだ。護衛対象を無事送り届けて、金を貰えた奴が偉いんだ。畑や家畜を守って、金を貰えた奴が偉いんだ。未開の地を調査して、金を貰えた奴が偉いんだ。

 どんな手を使ってでも、人に害を成す魔物を倒した奴が偉いんだ。酒場でわいわい騒ぐような、周りの冒険者連中を見ていると……そういう雰囲気が感じ取れる。生きていれば勝ち、それが冒険者だ。

 

 装備が変わった。

 俺の場合は、両腕に小さな籠手を装備している。皮の軽鎧と一体化しているその籠手は、適当な皮で出来た普通の、むしろ安物の部類に分けられるような品なんだが……黒蟲の短剣を合成してもらったところと同じ店で、水属性の魔石を大量に付けて貰った。

 魔石というのは生物の内部で結晶化した魔素の塊なんだけど……現代風な解釈として簡単に言うと、悪性の腫瘍みたいなものだ。なんせ血管に魔石が詰まって死んじゃったなんて例もあるくらいだから。魔法を日常的に使っていた年寄りなんかによく見られると聞いた。

 一般的には魔物を倒してから死体を解体していると、極稀に出てくる物らしい。魔石はある程度の値段のする良い物を選んだ。なんせ金ならある。だからこの籠手は、素材こそ貧相だが見た目だけは青色に輝いて、キラキラと光に反射していてどこか格好良い。

 この魔石は新魔法の一つでもある触手ソードを操るのに必要な物だ。ぶっちゃけ俺の技量じゃ触媒無しにはあの魔法は制御できない。触手ソード自体は水刃(ソード)を応用した魔法なんだけど、応用し過ぎて難易度が水刃(カッター)を超えた。2~3本なら自由に動かせるが、5本を超えると触媒によるアシスト無しにはまともに運用できない。

 もう一つの尻尾の魔法。尻尾の方は鮭延製作の魔法銀入りなのでこのままキツネ尻尾を触媒に使える。尻尾から触手ソードと似た物を生やして、それを姿勢制御と攻撃に使う予定だ。

 

 あの縦ロールさんは、一回戦じゃ予選と同じように魔法を使っていた。

 確認できただけで火、水、土、木、雷、光、闇、風、回復等の魔法があった。なんというか、適正の幅がチート過ぎる。水属性しか適正のない俺に是非とも一つ分けて欲しい。

 それに比べて、今回の奴の装備は接近戦仕様だ。両手の手甲からは人間なんて楽々引き裂けそうな、長く鋭い鉤爪が飛び出てるし、明らかに俺対策であろう水魔法に耐性のありそうな素材で出来た、厚い水色のマントを装備している。水辺に住む魔物の素材を生地の裏に合わせれば、魔法を防ぐなんてことも可能だと俺が贔屓にしている錬金術師が言っていた。

 

 大会へ持ち込む装備品は登録製だが、しようと思えばいつでも変更はできる。俺の場合は軽鎧を改造しただけなので登録の変更はいらないが、奴は違うだろう。一々手間のかかる書類を全て書き直したということだ。

 つまり、相手は勝ちにきてる。

 騎士相手に手も足も出なかった俺の身体能力を見て、魔法を打ち合うよりも殴る蹴るの方が勝率が高いと踏んできたのだろう。多分、実際そうだろうし。獣人種である彼女の身体能力に、人間である俺がついていけるとはとても思えない。俺はラナとは違って人間を止めてないからな。動く速さに多少の補正が掛かっているとはいえ、人外の領域には及んでいない。種族差という奴だな。魔法が苦手な代わりに身体能力が高いのがGWOにおける獣人種の特徴だ。この縦ロールはどうやら魔法も得意みたいだけど……あ、泣きそうになってきた。


 縦ロールがこれからやるのは、街中で襲ってきた奴と似たような戦法だろう。水と氷の魔法にだけ気を付けながらSTR、VIT、AGIの差でごり押す。とても有効な手だと思う。となると、如何に相手を近づかせないことが大事になってくるが……俺も魔法を使った接近戦の練習をしたい。いや、しなくてはならない。


 だから作戦は……

 …………

 ……

 …


 よし、これで行こう。



 第一闘技場の戦闘場、中央付近。両者15~6メートルくらい離れた位置で試合は始まる。


 「クラーク王国冒険者ギルド所属、D級冒険者キツジロー」


 「ミラルガ帝国冒険者ギルド所属の、C級冒険者、ルーナ・ウルスダッツですわ!」



 両者名乗りを上げた後で、カンッ!と響いた試合開始の鐘と同時に、俺は魔法を発動した。

 

 「触手ソード! 行け、水刃、水弾(ショット)!」

 『○×△□~、尻尾生成!』


 『あら、念話の有効活用ね。頭の中でぼんやりと考えるよりは詠唱し易いのかしら?』


 ええっと、ちょっと黙ってて。

 カッターとショットで牽制をしつつ、両腕の籠手から計24本の触手を生やす。

 魔石合成時に取り付けた黒蟲の毒袋の余りの効果が発揮される。つまり、この24本の触手の内たった二本にだけ……即死級の猛毒が仕込まれている。

 見た目や匂い、魔法の構成も同一の触手。その内の毒持ちの二本を、どうにか掠らせれば俺の勝ち。

 

 目的は縦ロールの実力を測ること。

 だから、勝たなくてもいいけど……負けなければいけないというわけでもない。

 もう慣れたかのように、瞬間移動染みた動きを見せる相手への対処を試みる。触手は囮、地面に尻尾を這わせて……重心を、後ろに。反動で身体を前に吹き飛ばすイメージで、畳んだ尻尾で地面を強く押す。


 「ガウッ!」

 「奥義:白虎 弐ぃーですわ!」



 水魔法で出来た疑似触手を、奴は魔力を灯した鉤爪で切り裂いた。

 

 魔法の尻尾は伸縮自在だから、動かし方次第で色んな用途で使用することができる。三つの尾を持つ魔物もしていたように、尻尾で地面を弾いて体を押す。

 体を低くして続く鉤爪を避けながら、両腕の魔石に魔力を集中させる。綺麗な断面から先端を鋭くした新たな触手を伸ばして、縦ロールの首筋を狙う。成分は水魔法100%だ。斬っても潰しても、MPさえあれば再生できる。


 だが、そんな俺の触手を再度爪で斬り払った縦ロールは、そのまま回転するように左手の鉤爪で襲ってきた。

 

 「あっぶッ! ぐえぇ」

 「せいっ、せりゃ! 行きなさいっ雷線!」


 『幹也、魔法きたわよ』

 『くっそ、が!』



 爪を避けた俺の腹に、縦ロールの膝蹴りが決まる。

 怯んだ俺から距離をとって触手を回避し、雷の魔法を撃ち放つ縦ロール。ベルフェはそれを回避しろと念話で言ってきた。簡単に言うけどよ、俺はみぞおち蹴られたんだぞ。やばい、体が動かねえ。


 疑似尻尾を地面に突き刺して、そのまま勢い良く尻尾を伸ばした。反動により俺の体が強制的に"上"へと押し出され、奴の魔法の射線から退避した。ああ、痛てぇ……背中と腰が砕けるかと思った。尻尾の魔法の弱点発見だな。

 この状況、銃があれば上から撃ち放題だが……前に両手を突き出して、ウォーターショットの魔法を発動する。


 「行けっ、ショット!」

 『スキル:逃走犯発動』


 「奥義:白虎 陸と、漆、です、わ!」



 跳躍し、俺の水魔法を蹴り壊した奴は、そのまま俺にむかって爪を突きだす。

 

 逃走犯を使用してそれを回避する。

 空中で二度身を捩り、俺の体が、ありえないようは反応速度で獣人の連続攻撃を避けた。仮面をしているから奴の表情はよく見えないけど、多分、驚愕に染まってると思う。俺だってびっくりするくらいの速度で、地面から伸びた尻尾を支点に、空中をぐるんぐるんしたわけだし。

 

 左手の触手を伸ばして、奴の行動を妨害する。それと同時に右手の方の12本はひたすら腕に巻き付け続ける。

 水の魔法に厳密な質量というものは決まっていない。質量なんてものは、構成次第でどうとでもなる。腕に幾重にも巻き付けて簡易的な盾のようになったこの水で出来た触手の塊でも、本来の重量までの重さは感じられない。精々、ちょっと重いかなと言った感じだ。


 縦ロールは俺の触手をお得意の爪攻撃で破壊して、魔法か何かで空中に足場を作って勢いをつけてから、まるで踵落としのような回し蹴りをしてきた。

 

 ああ。こいつ、触手のある敵と戦ったことないな。たしかC級って言ってたよな……認定試験で冒険者になったタイプによくある、知識が不足している系冒険者だ。俺と同じような、いや、モンスターを狩るようなファンタジーゲームをやり込んだ経験がある分、俺以下の知識しかないんだ。触手で出来た盾に触れるとか、悪手すぎる。


 奴の蹴りを、触手盾で受け止める。

 魔力の込められた強力な蹴り。だけど、その蹴りは盾の形から分解した触手に絡め取られて威力を殺された。勿論、全ての勢いを殺したわけではないが、スキル逃走犯が続いているので俺の体は自動的に動いて、蹴りの衝撃を全て尻尾から地面へ逃がした。

 

 縦ロールのお嬢様は、お洒落なブーツを履いていらっしゃる。その下にはニーソックスのような靴下を履いていて、短いスカートとの間には肌を晒している部分がある。所謂、絶対領域というやつだ。

 

 足を絡めた触手の一本が、奴の肌を撫でる。

 これで終わりだ。

 その触手には無数の細かな棘が作られていて、そこに黒蟲の毒袋から生成した魔石の猛毒が含まれていて、棘から体内へと入り込み、すぐさま貴様に死んだ方がましと思えるような激痛が……って、あれ? おかしいな。死んだら、もしくは死ぬくらいのダメージを負ったら、そんな状況になれば即座に指輪が発動するはずだが……?


 地面に着地した俺は、すぐにバックステップを踏んで後方へ下がる。

 

 奴を観察する。なんか、薄く……光っている?


 『なんだあの光は。魔力か何かなのか? ベルフェ、わかるか?』

 『あー。あれ、解毒の魔法ね。しかも私でも使えない類の、かなり上位のやつ』


 『……じゃあ、触手の毒も』

 『当然、無効化されるわね。ほら、来るわよ』


 『わかってる。水魔法レナード、ソード』



 毒を魔法で解毒したらしい縦ロールが接近してくる。

 そうか、毒は効かないのか……。知識面での問題点は見れたけど、回復、治療系統の魔法はかなりの腕らしい。攻撃魔法の発動も、まるでルークのように早く、それでいて強力だった。通知表で◎をあげちゃうレベルだ。

 

 逃走犯を解除して、水魔法レナードを使い動体視力を強化する。動体視力を上げるこの魔法、仮面の下からでも効果があるのは確認済みだ。仮面での気配察知能力と魔法による神経系の強化の合わせ技で、無理やり奴の速度を追いかける。


 面前に迫る爪に、水刃を叩きつける。

 すぐに足か魔法がくるだろう。まずは、触手(おとり)から。


 「触手ソード、全部行け」

 『尻尾生成、そうだ。そのまま地を這って奴を貫け』


 「なら、来なさいっ、火竜! 敵を蹴散らして!」



 縦ロールの背後から巨大なドラゴンが現れて、上へ伸びて散開した俺の触手をファイアブレスで消し払った。

 

 無論、触手をわざと目立つようにと扇型に伸ばしたのはダミー。毒持ちであることを警戒した奴は間違いなく魔法を使って触手を破壊するはず。だから、スキル:誤認を合わせて二重に存在をぼやかした尻尾での攻撃。これが大本命。


 腰に差したアリアを一瞬だけ起動し、尻尾の先端部分を凍らせる。尖った氷の塊というものは、生き物の皮膚くらいなら簡単に切り裂ける必殺の刃だ。

 俺自身の動きより何倍も速い尻尾魔法での突き。これなら、いくら獣人種でも。


 「避けれねぇよな!」

 「奥義:玄武 壱。 火竜は敵を焼き払いなさい!」



 俺の尻尾を、防御魔法で防ぐ縦ロール。

 マジっすか。いや、正直、かなり驚いてるんだけど……獣人種(あいつら)って、前の行動をキャンセルしてから姿勢整えて、次の行動に出るのに一秒いらないみたい。動体視力を上げた状態での目視ぎりぎりの速さで動かした尻尾を、真正面から防ぎやがった。

 あちゃー、獣人種舐めてたわ。そういえばアレンも、ダンジョンボスとタイマン張ってたんだっけか。んじゃあ俺の尻尾くらい防げるよな。俺の尻尾力は、あんな紫野郎には遠く及ばないわけだし。


 これで新しく考えた魔法を使い果たした。

 まぁ、良い練習にはなったな。こうしてみると色々と改善点も出てくる。触手は耐久面に難があるし、尻尾は動きが俊敏すぎて操る俺自信が追いつかない。なによりケツから魔法を使うってのは、手から使うよりも難しいからな。

 でも、ここで戦いを終わらすわけにはいかない。まだ、縦ロールの実力を見切っていない。身体能力の高さ、繊細な構成を可能にする技量、大規模な魔法をほぼ詠唱無しで発動できる魔力量……こいつ、良い。欲しい。これは是が非でも、奥の手を引き出さなければ。


 「いけないよなあ、アリアッー!」


 「なっ!? させませんわ、土竜、雷竜も、敵を蹴散らしなさい……ですわ!」



 縦ロールの本気を見る為に、魔法具アリア・エリスロードを起動した。


 俺の両腕の籠手が消え、皮鎧と重なるように出現した長手袋とドレスに飲まれる。

 何度見てもキモいとしか感じないが、ゆらゆらと漂っていたドレスが段々と皮鎧に定着して、肘から前だけドレス男(仮面付)が完成する。おいおい、奇抜にも程がある。

 なんか軽く死にたくなってきたが、手斧を使う時はどんな服を着ていてもこの衣装になってしまう。試しに全裸で起動してみたら、皮膚からドレスが生えて気持ち悪かった。そう考えると、まだ鎧からの方がましだ。それにこのドレス、変わってるのは外見だけなんだよ。元々魔石やブレスレットのあった場所には、確かに魔力を通す場所が存在しているし……この衣装、何の意味があるんだろうな。


 縦ロールが唱えた魔法により、新たに二体の巨大なドラゴンが現れた。土と雷で出来たドラゴンが、炎のドラゴンと共に攻撃を仕掛けてきた。

 氷花と氷の壁を出現させ、炎と雷のブレスと、岩の攻撃魔法を防ぐ。氷の茨で岩を絡め取って、炎と雷のドラゴンにぶつけながら、土のドラゴンに向けて氷花の花弁を傾けて、氷弾を撃ち出した。


 「(ドラゴンの相手はお前に任せる。魔力はいくら使っても構いやしないから、奴の魔法を防げ)」

 「……」



 頭の中でそう考えると、手元の斧が青色に輝いた。

 この手斧は魔法具なので、こういう風に命令を聞いてくれる。内容の達成が不可能な場合でもできる限りのことはやってくれるが、今回は足止めがメインなので楽々達成してくれることだろう。

 この手斧の能力は大斧と氷花等のいくつかの氷魔法を自動的に使ってくれる、そんな便利な能力だからな。


 さーて、この隙に魔法を操る為に動きを止めてる縦ロールを……って、何!?


 「はぁぁああ、奥義:獅子 壱ぃ、弐! さぁーん!」


 「なんッ!?」


 

 う、うへぇ……この縦ロール、あんな魔法を操りながら近接戦闘仕掛ける気かよ!?

 まじか。こいつって、俺が想像していたよりも遥かに腕が立つのかもしれない。ったく、上級魔法三つ操りながら格闘戦とか、どんな頭してんだよ。


 奴の蹴りを回避して、続く掌打をすれすれで避ける。一瞬、その手に手斧を叩きこんでやろうかとも思ったが、後が怖いので触手ソードの魔法を発動しつつ、奴の右側へと回り込む。

 

 一歩踏み込んで、尻尾に押されながら真横に跳ぶ。

 続く縦ロールの回し蹴りを触手で防ごうとしたが、左手から伸びていた触手の大半が鋭い蹴りによって壊されてしまった。おかしいな……この触手、結構頑丈な作りなんだけど。少なくとも、俺のパンチやキックじゃぷにょんってなるレベルの耐久度はあるはずなんだけど。獣人キック怖い。


 蹴りを外した奴は両手から生える鉤爪に魔力を灯した。

 青色と白色の魔力が灯る。そういえばアレンの魔力もそんな感じの色だった。獣人種としての種族が同じなのかもしれない。なんて言ってたっけか……なんとか狼族? アレンの場合、エルフの血も混ざってるんだっけか?あんまり興味無かったから忘れた。


 触手と尻尾を使ってその場に急停止。

 顔を上げると、俺に迫る縦ロールと、様々な氷魔法に動きを阻害される炎のドラゴンと雷のドラゴンが見えた。残る土のドラゴンは、既に大斧によって粉々に破壊されていた。土のドラゴンだけ実体があったからなあ、大斧の特性で凍らされて砕かれたんだろう。

 

 俺は再度触手ソードの魔法を唱えると、尻尾と両足に力を入れて前へ跳びだした。














 キツジローさんが性懲りもなく私(わたくし)に対して接近戦を仕掛けてきました。


 D級冒険者キツジロー。

 冒険者としての経歴が一切存在せず、クラーク王国の冒険者ギルドに所属するギルド員からの推薦で出場してきた彼は、本来遠距離からの攻撃魔法で戦うスタイルのはずですわ。

 一回戦目のことで頭がいっぱいだった私は、二回戦の相手の情報を、お金を払って専門家から仕入れました。

 彼の本名は『ミキュア』。クラーク王国に所属するD級冒険者で、なぜあのような玩具の耳と尻尾を着けているのかは知りませんが……獣人種ではなく人族のはずですわ。

 扱う武器は小規模の攻撃魔法を連続で使用することのできる魔法アイテムと、黒蟲の毒を合成した短剣、複数の暗器、魔法具の手斧。最近は魔法に凝っているようですが、所詮覚えたての初級魔法が精々、恐らく、こちらは魔法具の制御の為ですわね。情報家の片もそう予想していましたし……。

 身体能力は下の上。一般人より動ける程度。肉体強化の魔法を使用することは滅諦に無い……ですが、急所を狙う攻撃だけは絶対に避ける……といっていましたが、なるほど、確かに必殺の一撃だけは全て回避されてますわね。

 

 ここまでの試合運びは概ね予定通りですわ。毒の効果も確認できましたし、あの手斧の魔法具でも、竜魔法なら時間は稼げますわ……そして、彼自体はとても"弱い"。所詮、逃げ足の速いだけの、見た目通りの"小物"ですわ。

 

 最初は触手の魔法を使ってきましたから、少し警戒しましたけど。

 小さい頃、お父様に言われましたわ。『いいかアレン、ルーナ。触手を持つモンスターとだけは絶対に戦うなよ。相手が魔物でも魔獣でもなんでもだ。昔から触手といえば、捕まって凌辱されると相場が決まってんだ。このパターンは既に確立していて、こっちがどんだけ強くても大抵がそうなっちまう。絶対に戦っちゃいけねえ。もし、何かの間違いで触手に捕まってでもしてみろ。忽ちえっちな薬であへあへにされちまう。いいか、どんなに勇敢な女騎士さんだって一発で落ちちまう。いいよぉーもっとしてーってな。父さんの、兄貴が持ってたエロゲによくあった話だ……懐かしいなぁ』と。

 お兄様にも『おま……アレン。男だからって油断するなよ。男にだって穴はある。そして、奴らにとって性別なんてものは関係ない。ケツ掘られるぞ』って言ってましたし。

 触手といえば、お父様がお話して下さった童話の中にもそういった話が御座いましたわ。お父様の故郷で有名な『えろげ』という童話、『スーパーかぐやの大冒険』での第一章、初めての魔物との戦闘で、負けてしまった主人公のかぐや姫様が女になった瞬間ですわ……わ、わたくしはまだ12歳ですし、あのようなプレイは少し早いと申しますか、初めては優しく普通に…………だ、だからこそ、突如彼が触手を腕から出したことには、かなり警戒しましたわ。


 ですが、あの触手なら爪や蹴りで破壊できますし、肝心の毒性も効果が激しい痛み等の致死量の高いような物ばかりですので、簡単に解毒できました。お父様の言うえっちな薬じゃなくて幸いですわ。思考を乱されては魔法の使用は難しくなりますから。







 私の蹴りを避けた彼は、触手と尻尾を伸ばして姿勢を整えました。本来、獣人の尻尾はあのような使い方をしないんですが……獣人種の振りをするのなら徹底してほしいものですわね。

 

 ミキュアさんは、どうやら回避能力に優れているようですわね。ですが、基礎能力が違い過ぎます。確かに、あの速さで奥義発動中の私に動きを合せた技量はすごいですわ。ですけど、私と彼では、元々持っているものに差があり過ぎます。


 私も、そろそろ本気で行かせてもらいますわ!


 「奥義:精霊化、ですわ!」

 「カッターカッターカッター……行け」



 彼の放った水魔法を左手で弾き、奥義:精霊化を発動します。

 奥義:精霊化発動中は、常に両腕、両足が薄く輝き、人の身から精霊の御身へと身体の構成が変化するのですわ。

 

 精霊化……厳密には、これは奥義ではありません。

 お父様が作った奥義と魔法は分別が曖昧です。全てお父様がお創りになった物ですので、お父様が魔法と言えば魔法に、奥義だと言えば奥義となってしまいますし……奥義:精霊化は、元を辿ればただの変化魔法ですわ。

 お父様が若い頃に会った精霊。その精霊様とまったく同じ構成へ身を変化させる魔法……これが、奥義:精霊化の正体ですわ。今の私では手足を変化させるので精一杯ですが、この状態であれば刃物で斬られても、魔法で焼かれても平気です。精霊は概念のようなものですので、構成を壊すことはできません。それに立ち止まって動かずにいれば全身を精霊へと変化することもできますし……って、それだと戦闘にならないのですわ。精霊化を防御の為に使うなとお父様にも言われてますし。


 私の力量ですと、手足を変化させた状態で凡そ五分程度は戦えます。魔力の残量も計算して……三分程度で決着を着けたいですわね。


 水魔法を弾いた手をそのまま細め、貫手の形を作って……突く!

 

 「奥義:獅子 壱……爆せなさい、ファイアボルト!」

 「うへっ、ふぎゃ!」



 貫手を回避した彼の顔面に向けて、火の中級魔法を発動しました。

 手から放出された炎の塊が、顔を覆う仮面ごと彼を燃やします。


 火魔法はすぐに水魔法で鎮火されましたが、ダメージは通ったはずですわ。中級魔法とはいえ、直撃すれば死ぬ可能性もある危険な魔法です。今頃は溶解した皮膚が仮面と一体化して、更なるダメージを与えているはずですわ。

 「うぎゃあああああああああッッ!」とお腹の底から叫び散らかすような悲鳴が、彼の小さなお口から聞こえますし。激痛で思考が乱れているのは一目瞭然です。竜魔法を拘束している魔法が未だに制御されているのは、魔法具の力というわけですわね。


 両手で顔を覆いながらも、健気に私から遠ざかろうとする彼の脇腹に、綺麗に蹴りを叩き込みます。それで私の位置を察知したのでしょうか。吹き飛びながら此方にむかって触手を伸ばしてきました。

 

 鉤爪に魔力を通し、奥義を発動します。本来、自らの爪を媒介にして発動する白虎の奥義ですが……爪が欠けてしまうおそれがあるので、私は武具を使用していますわ。

 この鉤爪には、微量ながら私の爪が使われていますの。勿論、伸びてきた爪を切ったものですが。その効果もあって、私専用の立派な武器となったこの鉤爪に限り、奥義白虎が使用可能というわけです。


 触手の束を斬り捨て、彼の下へ走ります。

 指輪の効果が発動していないということは、まだダメージが足りないということですわね……あの小柄な体格で、私の本気の蹴りを受けても未だに死んでいない?

 そもそも、彼は小柄で痩せ形ですわ。それ故に回避能力が高いんですもの。その反面、筋力の少なさから防御力も皆無なはずですわ。鎧だって良い素材を使用しているようですが、所詮皮製品なのですし……ま、いいですわ。今は止めを刺すことだけを!


 彼の下まで、あと三歩。二歩、一歩、そこですわ!

 右手を振りかぶり、魔力を集中。

 

 「奥義:獅子 参!」

 「んがぁぁぁあああああああッッ、防げアリア! 壁だ、箱型に、何重にも!」



 「なんっなんですの!?」



 この一撃で終わりですわ! と右手を振り抜いた次の瞬間、目の前に厚い氷の層が出現しました。

 氷の壁で私の一撃を防いだのは見事です。ですが、この程度の防御魔法など!


 そのまま奥義を纏った右手で氷の壁を殴りつけました。……しかし、砕けた壁の向こう側に、既に新たな壁が出現していました。それにこの氷の壁、一枚一枚が物凄く分厚いですわ!


 「アリア、そのまま氷の層を出し続けろ。それと地面から茨も出して奴を拘束。俺は水を灌ぐ。ウォーターショット。ウォーターショット。ウォーターショット。ウォーターショット。ウォー……(このクソアマが。殺す。絶対殺す。楽になんて死なせてやるもんか)」

 

 「ぐ、息が……」



 い、息が出来ませんわ! 氷で周囲を覆われて、中を水で埋められた!?

 呼吸なしにはまともに拳を振るえません。竜魔法で壁の破壊を……む、無理ですわ! こんな他人の魔素で包まれている状態じゃ、大規模な上級魔法の発動は不可能ですし、中級や初級程度では、この氷を貫けない!?


 それに、水が邪魔をして体が上手く動かせませんわ。捕縛魔法も同時に……く、くるしぃ、いきが、もちません。

 そ、そうですわ……かぜまほうで、くうきをせいせいすればこきゅうが!



 「ぶ、ぶくぶく!…………!?」


 「はは……ざまあ。やっぱり脳内詠唱は使えないみたいだな。アリア、氷の壁と茨での足止めをし続けろ。いいか。奴が死ぬまでだ」

 『エグいわ、魔法の使い方がエグいわよ幹也……』



 なッ!?

 詠唱が……出来ませんわ。そ、そのための水ですのね。

 それからしばらくは足掻き続けましたが、水中では満足に拳も振れず、お腹の奥に残っていた最後の空気が溢れて、喉が引きつって…………気が付くと、私は結界の外で倒れていました。


 私の……負けですわ。

 負けました。負けましたわ。私の方がランクが上で、事前に情報を集めて、身体能力でも魔力量でも圧倒的優位に立っていましたのに。

 顔を焼かれ、混乱した状況の中でも的確な選択の出来た彼は、私よりも上ということですの?


 納得いきませんし、そんなの……嫌ですわ。


 「勝者、キツジロー」


 審判の方が判定を上げ、わあああと観戦の響く中、指輪を使い同じように此方に来たミキュアさんが、私の方へゆっくりと歩いてきました。


 「おい、縦ロール。話がある」

 「……なんですの?」


 「勧誘だ。俺のパーティーに入らないか?」

 「……」



 こ、この方は……何を仰っているのでしょうか。

 模擬戦闘とはいえ殺した相手を勧誘? 水の中でなんて、あんなに苦しい思いをしたばかりですのに、私が頷くとでも?


 この人……頭おかしいんじゃないですの!


 「い、嫌ですわ」

 「そうか? 俺は嫌じゃない」


 「私(わたくし)が嫌なんですのよ!」

 「俺は嫌じゃないので、勧誘を続ける。とりあえず、ここじゃ次の試合の邪魔になる。控え室に行くぞ。うんしょっ、と」


 「ひゃぁん! ど、どこさわってるんですの!」

 「どこって……背中と尻?」


 こんな小柄な方に、お、お姫様抱っこだなんて……。


 「だっていいのか? 手を尻から足に変えたら、お前はこの大衆の中でパンツをまるだしになっ」

 「このままで結構ですから、早く退場してもらえますの!」



 集音魔法で声が皆に筒抜けですのよ! ぱ、パンツとか、言わないで下さいます!

 私は彼に抱えられたまま、会場を後に控え室に戻りました。


 こんな腕の細い方に私、負けたのですわよね……ショックですわ。屈辱ですわ。誰が仲間になんてなってあげるものですか。絶対にお断りですわ!










 「ういしょっと。縦ロール、お前……思ったよりも重いな」

 「なッッ私はそんなに太ってないですわ! 尻尾がある分、人族より体重はありますけど、体型には気を使っていますし!」


 『幹也。それ、女の子に禁句よ』

 『いや、わかってるけどさ。レアと比べると普通に重かったから』


 『レアと比べたら誰だって重いわよ……』

 『ラナなんかも軽かったぞ。ああ、お前は重かった』


 『……』



 指輪の力で回復したからといって、精神的に与えられたダメージというものはすぐに元通りとなるわけでもない。俺は溺れ死んだ縦ロールを抱えて、選手の控え室へと歩いていた。


 顔を火で焼かれてブチ切れた俺は、最後はアリアに頼った戦い方をしてしまった。今は反省してる。後悔はしてないけど。

 だって本当に辛かったんだもん。まさかスキル:逃走犯を解除して技:強撃を合わせたアッパーカットを繰り出そうとした瞬間に、火属性の魔法が飛んでくるとは思わなかった。指輪の力で治ったとはいえ、顔面が爛れてぐちゃぐちゃになるような経験は二度としたくない。なまじすぐに水と氷魔法で冷やしたせいか、変な状態で皮膚が固まって……忘れよう。でも忠告だけしておくか。


 「なあ、人にむかって火属性魔法は使っちゃ駄目だぞ」

 「そっちこそ、よくも私を水中に閉じこめてくれましたわね! すごく辛かったんですのよ!」


 「それは謝る。だけど、こっちも顔をぐちゃぐちゃにされて気が立ってたんだ。察しろ」

 「……そんなことより、パーティー勧誘とは、どのような了見ですこと?」


 「どのような了見……か。とりあえず、降ろすぞ。大丈夫か?」

 「大丈夫ですわよ。ちょっと、びっくりしただけですわ」



 少し大きめの長椅子に、縦ロールを降ろす。俺は反対側にある椅子に腰かけ、話始めた。


 「まず、最初に言っておくことがある。俺が獣人族で、名がキツジローというのは……嘘だ!」

 「知ってますわ」


 「!?」

 『ベ、ベルフェ、なんか知られてた! なぜだ。仮面を着けていれば身バレを防げるということは確定的に明らか、いくつものアニメでも既に証明されている不変のじじちゅのはじゅ……!』

 

 『噛んでる噛んでる、念なのに噛んでるわ。少し落ち着きなさいよ。あのエルフと親しいD級冒険者『みきゅあ』の存在を知っていれば、キツジローを特定することは難しくないわ。(小さいし……背でバレるわよね)』

 『な、なるほど……確かに、リラナルテさんの推薦だということは調べれば簡単にわかること……なのか? 獣耳と獣尻尾はそんな簡単に度外視できるものなのか? 異世界人の感性怖いな』


 「そうか。俺の名前も知っているのか?」

 「D級冒険者のミキュア。魔法アイテムと暗器で戦うシーフ系の冒険者……ですわよね?」


 「そこまで知っているのか。じゃ、俺のパーティーについても知っているな」

 「それは……知りませんわ。対戦相手という範囲でしか、情報を集めてませんの」



 そう言いながら耳をしゅんとさせる縦ロール。獣耳は口ほどに物を言うというが……可愛いな。


 「俺のパーティーには魔法使いが不足していてな。優秀な君を、是非我がパーティーに……と思ったわけだ。ぶっちゃけ、今は俺と剣士の二人しかいない」

 「……それ、他にも色々と足りてませんわ。(優秀な……私を、優秀と。やった♪)」



 お、縦ロールの奴、お世辞を言ったらにやけ始めたぞ。こいつ、案外チョロいんじゃないか?


 「実際に戦って思ったんだ。動ける魔法使いというだけでも希少なのに、近接戦闘の技術も、魔法使いとしての技量も一流ときてる。C級という所も良い。俺のパーティーは、D級とB級の二人だから」

 「剣士の方はB級なのですわね。でも、私だって今のパーティーがありますわ。此方も二人ですけど……」


 「もう一人は?」

 「最近冒険者になったG級の子ですわ。彼、魔物関連の知識量が半端ないんですわよ」


 「ふむふむ……なら、二人とも勧誘しよう。因みに、その彼は獣人種だったりするのか?」

 「いえ、人族ですわ」


 人族か。そうか、もふもふハーレムは作れないのか……。

 大分俺に慣れてきてくれたのか、段々と縦ロールの態度が柔らかくなってきた。うんうん、良い傾向だ。


 「なんなら仮パーティーとしてお試し期間を設定しても良い。何度か一緒に依頼を受ければ、相性も見えてくる」

 「……少し、考えたいですわ。私、この大会が終わるまではこの国に滞在する予定ですのよ。仮に、パーティーを組むとなると、此方に拠点を変える必要が出てきますし(こう言っておけば、これを口実に断りやすくなりますわね)」

 

 「ああ、十分に考えてから結論を出してくれ。何も今すぐという必要があるわけでもない」

 


 そう言いながら仮面を外し、改めて縦ロールの顔を見る。

 さっきまでは仮面越しだったからな。身体のシルエットや、なんとなくの外見は見えていたけど、あくまでそれは人としての気配を感知していただけに過ぎなかった。

 青と白色が混じった、ふわふわとしてそうな獣耳と獣尻尾を携えて、艶の良い上質な黒髪で毛先を少しだけ巻いている。まるでエルフかのような可憐な容姿、ある程度は背も高いので当然のようにスタイルが良く、足も長いし大きすぎず小さすぎずのおっぱいも良い感じだ。

 

 やばい……近くで見ると、マジで可愛い。さすが異世界人、この世界は爆発すればいい。

 仮面を外した俺は、手を差し出して握手を求める。イメージが良くなるようにと、微笑みながら言った。



 「D級冒険者の みきゅあ だ。よろしくな」

 「…………」



 固まる縦ロール。どうした、握手してくれないのか? この世界にも握手という物はあったはずだが……。


 「……ん、どした?」

 「わ、」


 「わ?」


 「私、ミキュア様のパーティーに入りますわ!」


 

 え、マジで?


 「えっと、えっと、あ、そうですわ! 私、近くに宿を取っていますの。そこで詳しく話を聞きますわ! さぁ、行きましょう。こっちですわ!」

 「ん、そうか」



 何か急に良い方向に話が進み出したぞ。この感じ……パーティーに入る決心をしてくれたのか!


 俺は縦ロール……ルーナに連れられて、その場を後にした。








数週間前


明日香「美也ちゃん、姫宮どこいったか知らないか?」


 美也「え、姫宮さんいないの? さっきまで私とお話ししてたよ?」


明日香「お話しって……幹也のことか?」


 美也「うん! 姫宮さんがたくさん聞いてくれるから、いっぱい話ちゃった。えへへ……」


明日香「あー、そうか。うん、わかった」


 美也「じゃ、私はコレ作ってるから、ご飯になったら呼んでね! お兄ちゃん~♪ お兄ちゃん~♪ お兄ちゃんっの、まーすーくー♪」


明日香「……おう、了解」



明日香「(不味いな……。姫宮、美也ちゃんから幹也のことずっと聞いてたのか。それも、美也ちゃん目線の微妙に補正のかかった惚気話を……はやく見つけて、なんとかしないと)」


明日香「俺が……なんとかするのか。はぁ……」

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