第19話 金色の第一試合
代々、上級騎士を輩出し続けている貴族の家系がこの国にはある。建国当時から続く名門貴族レイファ家……私の家。
家には建国時代の初代レイファが残した、彼の戦いの日々を記した数冊の日記が保管されている。私も、剣を習い始めた頃に一度だけ読んだ。
初代のレイファは、D級冒険者の剣士だった。リーダーが気儘な人で他の仲間が皆A級やS級冒険者になっていく中、D級冒険者のままだった彼を見放さなかったという。
そして、初代レイファは当時まだ魔物が数多く住んでいたこの大陸へと渡った。この大陸にはある魔王がいた。膨大な広さを誇る支配領域、数多くの配下、その中にはAランクやBランクの魔物も数多く存在していたという。その魔王はAランクの魔物の突然変異種で、Sランクの力を持っていたらしい。
そんな魔王に、彼らは戦いを挑んだ。8年にも続く、長い長い戦いの中でレイファは生き延びた。彼には得意な魔法があった。火属性の強化魔法で、元々は少しだけ足が速くなる最下級の魔法だったという。
上級魔法を難なく使い、又それぞれに特別な能力があった仲間たちとは違い、彼にはその魔法と、幼少の頃から続けている剣だけしかなかった。そんな彼が生き延びる為に、魔王軍に勝つ為に、仲間の為に生み出した戦闘術が……レイファ流剣術だ。
彼の仲間はとても強かった。強かったから、強い魔物の相手をしていた。だから、レイファは強い魔物の相手をせず、少しでも仲間の消費を抑える為に、弱い魔物の相手をしていた。魔王の軍勢には、力の弱い魔物も多かったから。
できる限り、少ない消費魔力で。できる限り、速く移動して。できる限り、速く斬って。できる限り、効率的に。そんなことを彼は只管試行した。そして到達したのが、一撃離脱の剣だった。
近づいて、斬って、次の敵へ近づいて、斬って、次の敵へ近づいて、斬って、次の敵へ近づいて、斬って。只その繰り返し。そんな生活が8年も続き、気が付くと彼はA級冒険者になっていた。
誰よりも速かった彼は、仲間と共に魔王へと挑んで……見事、勝利してみせた。
魔王を倒して英雄達のリーダーが作った国が、ここクラーク王国だ。
私は、この日記を読んで感動した。私も、もっと速くなろうと決めた。
15になってすぐに私は騎士になった。同期の中で、私は一番速かった。私にとって、重い鎧も、重い盾も、重い剣も関係ない。初代のように羽の付いた兜を被って、私は国を守っている。
騎士になって三年。私は中隊長まで出世した。上級騎士まであと一歩。そんな時に、霊技祭で開かれる金色の霊技大会へと出てみてはどうかと上司から声が掛かった。私たちの力を示して、民の安心に繋がる、そんな大切な場だ。
だから、私は彼ら劣等種共の言葉に従って金色の大会へと出場した。
新鮮だった。
自分の立場で妥協し上級への道を諦め、訓練の一つも真面目に取り組まない上司の騎士に見せてやりたかった。予選で戦った冒険者の、魔法師の、彼らの剣は、彼らの魔法は、とても実践的だった。自分の能力を活かして、自分に合った戦い方をしている。その姿はまるで……レイファの剣だ。
予選で勝ち残り本選へと出場する事になった私は、一回戦の対戦相手……目の前の冒険者を見て、唖然とした。
獣人種は総じて身体能力が高い。中には多少魔法寄りな種族はいるが、基本的に人族の数倍から数十倍の身体能力を持っている。だけど、こいつは……魔法を使う。
なぜだろう。優秀な力を持っているはずなのに、それと違った道を進んでいる。その道は、生まれ持った力を疎かにしている。力が無いことに悩み続けた者だっていたというのに……。
だから私は、こんな奴に負けるわけにはいかない。レイファの剣が、こんな奴に負けるはずがないッ!
だからッ、レイファ流よ、火の精霊よ、私を守りたまえ!
ゲーム124日目。
金色の霊技大会の予選が終了して、明日からはいよいよ本選が始まる。予選から本選へ進めた冒険者は、C級が4人、B級が9人だ。勿論、D級冒険者で本選に出るのは、推薦を受けた俺だけ。
推薦組だとしても、D級冒険者の俺じゃあどうせ一回戦突破もできないだろうと皆に思われ、俺のオッズが若干やばい感じになっていたので、自分でお金を賭けておいた。ルークの分を取り返さないといけない。
そんなことができるのか?と思われるだろうが、余裕でできた。俺のキャラ名はみきゅあ。登録名はキツ次郎。自分で賭けるなんてことをしたら周りに笑われるから、他の人には秘密だ。
今日は俺の装備を整えていた。
ルークが負けてしまったあの日、合流したルークが俺に魔法の触媒を買ってくれたんだ。なんでも、俺が大会に誘った御蔭でルークにとってかなり有益な出来事があったらしい。なんのことか知らないが、まあ買ってくれるというのだからと黙ってついて行った。
この街の中央の方の、ちょっと高級店風な店。そこには様々な触媒が売っていた。俺には魔法具の手斧があるが、あれで発動する魔法は全て氷属性になってしまうので、水魔法が得意な俺としては、普通の触媒も欲しかったんだ。
触媒というのは科学用語の触媒とは異なり、魔法の触媒といえば……例えば、希少な薬草、高位の魔物の素材等の、一度限りの使い捨てアイテムや、杖や魔法と組み合わせた、相性の良い鉱石みたいな装備するアイテム等がある。
その効果は……面倒な理屈を省いて簡単に言うと、魔法が発動し易くなるんだ。イメージ的には電卓みたいなもんかな。ほら、自分で計算するより、電卓とかパソコンを使った方が楽だし簡単だろ? 大体はそんな感じ。
まあ計算式を知らなきゃ計算できないように、魔法の発動の仕方を知らなきゃ触媒があっても意味がないんだが、俺はすでに魔法を習ったからな。触媒経由での魔法の発動ができる。人間なのに、地球人なのに、魔法が使えるんだぜ。すごいだろ?
それで、その店には本当にいろんなタイプの触媒が売っていた。
別段、難度の高い魔法を使うわけではないので、使い捨ての触媒はいらない。だから装備タイプに限られるんだが……。杖、装飾品、鎧に盾や剣、変わり種で入れ墨なんてのもあったくらいだ。
まず、両手を遮らないという点で装飾品を選んだ。指輪かブレスレットか……。ルークに聞いてみた所、指輪だと剣を持つ際に微妙に邪魔になるんだとか。だから、俺はブレスレット型を選んだ。魔法銀で出来た、細く二重構造になっている二つのブレスレット。これが俺の触媒だ。
それからの数日間は、予選の観戦には行かずに魔法の練習をしていた。
そして今日、レアとラナと鮭延の、三人の手によって俺の装備が完成された。
まずは例の仮面。気配を察知したり、隠蔽したりできる紫色の仮面で、口から上……つまり目、鼻を隠すように顔に着ける為に外見が気味悪くなってしまうアレを、三人が改良していた。
俺のミニ従魔のキツをイメージして作られたそれは、元の紫色から白と薄い黄色の二色に、更に同色のキツネ耳が付けられていた。目の部分はうすーく赤色で塗られていて、なんというか……うん、せっかく作ってくれたんだから文句言わないけどさ、もう少し自重して欲しかったかな。いや、レアが喜んでたから別に良いけどさ。
更に防具にも改良後が見える。
ドッペルゲンガーの戦闘服は依頼の時に使うから、今回の試合では使えないという理由から、皮で出来た軽鎧を買ったんだ。どうせ買うならと良い性能の奴を買ったんだけど……気が付いたら尻尾が生えてた。
キツネの尻尾。キツネ耳同様、芯に魔法銀を使って、態々本物のスフィーティア種の毛皮を使用して作られたそれは、魔力で動かすことが出来てしまうくらい良く出来ていた。
他にも茶色だった防具が、白と黄色に塗られていたりして……改良費用は全て鮭延持ちらしい。つーか耳と尻尾、俺の触媒と同じ素材なんですけど。一応、魔法銀って超高級品なんだぜ? 鎧より尻尾の方が高いってどうよ?
キツネ耳仮面と尻尾鎧。コンセプトがキツ太郎の弟ってことらしい。むしろ兄っていうか、親なんだけどな。俺が孵化されたわけだし。
でもまあ、これなら獣人っぽくなれるし、キツ次郎=俺って印象は薄くなるだろうけどさ。俺は自分の戦闘方法を隠したいタイプだから、身バレはしたくない。銃とかスキルとか、俺の武器は初見殺しが多いからな……。今回は魔法縛りだから銃とか目立つスキルは使わないけど。
画して、キツネ装備となった俺は明日に向けて最後の調整にと、ラナと組手をしてからすぐにベットに入った。つか、ラナが俺より強い件について……。
明日はしょっぱなから俺の試合がある。
相手はこの国の騎士だ。大会に出る本来の目的は、魔法を使った強者との戦闘訓練だから、勝つことより自分のためになることを優先するべきなんだけど……なんか勝ちたくなってきた。最初は興味なかったんだけどさ、どうも祭りの雰囲気に飲まれてしまったみたいだ。
よし、真剣に、全力で頑張ろう。
ゲーム125日目。
出場選手の控室に、俺は座っていた。俺の隣には戦闘モードらしい鮭延がいる。俺のブレスレットと同じ店で買った、魔法アイテムの厳つい装飾の入った靴を履き、昨日まではしていなかったピアスをしている。
でも服装はいつも通りのやわい服だし、武器に至っては剣の一つも持ってない。武器にトランプを登録したらしいコイツは、手元でカードの束をシャッフルしながら、俺の方を見てにやにやしている。なんだよ。
「なんだよ」
「私の持ってた本の中にね、変態仮面ってキャラが出てくる漫画があったんだけどね」
「ごめん、その話聞きたくない」
「そう?」
「つーか、それなんだよ。なぜにトランプ?」
「これはね、私が魔法で作ったのよ。一枚一枚に私の魔力がたくさん入ってるの」
魔力が入っている……トランプのカードを媒介に魔法が使えるのか?なるほど、それで武器になるのか。
「爆弾みたいなもんか。じゃあ、そのピアスもか?」
「これは課金アイテム。私ね、この世界に来てすぐに課金してあったお金30,000円分のガチャしたのよ」
「あー、課金ガチャね。あの一回1,000円っていうぼったくりの……」
「そうなのよ。それで30回分やったんだけど、その中に一つだけ当たりが入っててね。それがこのピアスってわけ」
「当たりアイテム……どんな効果なんだ?」
「これはINT+1000とMP+100,000。すごいでしょ?」
ま、まじでか……。MP10万とか、それだけあればドッペルガン永遠に撃てるんじゃねえか? そんなレアアイテム出るのか。俺も使徒になれたらガチャ回そうかな。
「すごいな。他にはどんなのが出たんだ?」
「うーん、便利そうなのは色々あるけど……あ、ダブったアイテムあげるわよ。これなんだけど」
そう言いながら、鮭延は小さな剣の形をしたストラップを取り出した。
「これなんだけどね、STRとVITが+20されるの。二つ持ってるから一つあげるわ」
「ん、さんきゅな」
俺は受け取ったストラップを腰に着ける。
これで物理攻撃と防御が少し強くなったらしい。能力値が直接強化される装備品は、この世界産の物にはまず存在しないから、かなりありがたいな。
「じゃあ、試合頑張ってね。ここから見てるから」
「あー、あのテレビの魔法版みたいなので見れるのか。……俺が負けても、煽らないで欲しい」
そう言うと、隣に座ってた鮭延が手を後ろから回して、俺にもたれかかってきた。なんだよ、鮭延菌が移るだろ。
「唯一のD級冒険者くんが、ちゃんと勝ち進んだら素敵じゃない? 応援してるぜ~」
「してるぜ~、じゃねえよ。こんなキツネ装備にしやがって…………んじゃ、行ってくるわ」
こいつは……はぁ、なんか緊張してた身体が、少し楽になった気がしてきた。
俺に絡む鮭延に、行ってくるわと言って椅子から立ち上がり、控え室から会場へ向かって歩き出した。
短い廊下を渡って、その先の階段を上ると、広い戦場と、たくさんの観客が目に入った。
視力を強化して入口近くの席を見る。そこには、膝の上にキツとミルを乗せてこっちに手を振っているレアと、その隣でなんか美味しそうなパンを食べているラナが座っていた。何それ、野菜と肉をサンドしててすごい美味しそう。それと、笑顔で手を元気に振っているレアが可愛い。
二人の席が入口の近くというのは、俺がグロいことになりそうな時は、ラナがレアを連れ出すことになっているからだ。それは前もって決めていた。
俺は階段付近にいた係の人から、ラストアタックが非殺傷の攻撃になる指輪を貰う。指輪かブレスレットか、かぁ……。どっちにしろ、この指輪を填めるんだから剣が持ちにくいとか言ってられないんだけどな。試合相手の騎士の人は、手袋してるから違和感ないだろうし。
俺は手袋はしない。というか、しなくても勝手に後から……はぁ。
俺は魔法具の手斧……アリア・エリスロードをアイテムボックスから取り出して、左手で構える。
この大会ではアイテムボックスの使用は禁止されているから、使う武器は前もって出しておかなければいけない。仕舞うのはありだが、出すのは無しだ。魔法で検知されて、即刻退場となる。
認識スキルの、スキル:五感強化のマニュアル設定で視力と触覚を強化して、相手の騎士の装備を確認する。
相手は普通の騎士。上級騎士ではないので、一般的な騎士の装備をしていた。
急所の部分が二重構造になっている、薄い金属製の装備で全身を固めて、防御力と機動性を確保している。銀色に輝く剣と盾を持ち、大会の為か頭から羽を生やして……態々視界が悪くなるであろうフルフェイスの兜なんて被ってよ。変態キツネ仮面の俺が言えたことじゃないけど。
騎士。
国を守る騎士の力を国民に見せる機会でもある霊技祭には、騎士が何人か出場している。一般人が多く観戦に来る白色の大会に力を入れているらしいが……。普通、金色の大会に出場するのは、騎士の中でも極一部の者がなれるという上級騎士の人達だ。
それなのに、一般の騎士である彼?彼女?が出ているとなると、それは相当の腕を持っているということになる。少なくとも、C級B級の冒険者に勝ち、予選を突破する程度の力があるということだ。
騎士が移動を始めたので、俺も中央付近のスタート位置にむけてゆっくりと歩いていく。
結界内に入り、観客たちの声が響く中、よく見てみると王族専用の席が空席だったりする。決勝戦クラスになれば、本物の王族が見れるのだろうか。……いや、そんなことはどうでもいい。集中しろ。
あー、なんだか身体が震えてきた。武者震いってやつか?そもそも、こんな人前で戦うなんて初めてだからな。VRゲームの中じゃあ実際に戦うステージと、それを見る観客席は別のマップにあったから。
この、強者を前にして震える感覚はDOCのナイフ縛りの大会にとても似ている。あの時は元軍人とかいうイタリア人のおじいさんに、時間切れの判定でぎりぎり負けたんだっけか。良い腕をしてるって褒められらのが嬉しかったなあ。
「クラーク王国騎士団第二師団所属、レナリア・ダグラーゼ・レイファ」
「クラーク王国冒険者ギルド所属、D級冒険者キツジロー」
俺と騎士の名乗りの後で、カンッ!と金属を鳴らしたような大きな音が鳴った。試合開始だ。
「シッッ!」
「ソード!」
開始音の直後、先に動いたのは騎士だった。
俺と奴の間にあった約10メートルの距離を、ほぼ一瞬で零に変えてからの片手剣による斬撃。
それに合わせて、俺は水魔法水刃の魔法を使う。魔法銀のブレスレットに込められた魔力が、俺の思い描く通りに構成を組み替えて、水の剣として俺の手元に生成される。それを奴の剣に合わせて、その初撃を防ぐ。
歓声の響く中、奴の盾が接近する。
盾だって立派な武器の一つだ。なんせ金属の塊、殴れば人くらい楽に殺せる。俺は左手に持っていた手斧を、盾にぶつけた。すると、次の瞬間には斧の刃から爆発的に噴出した氷の塊が、奴の持つ盾を腕ごと押し返す。
しかし、今の俺は右腕で奴の剣を抑えて、左腕を交差させるように伸ばして、右から迫ってきた盾を対処した状態だ。つまり、非情にやばい。
面前に、金属で覆われた奴の膝が迫る。こいつ、なんで腕を氷に持ってかれてるのに足が動くんだよッ!
どうする!?どうするどうするどうする……そ、そうだ。魔法で防ぐ、氷の層で蹴り自体を止めればいい。
「アリアッ!」
「チッ」
魔法具アリア・エリスロードに魔力を込めて、氷の層を奴の足と俺の間に出現させる。ただの氷じゃない。一流の魔法具が、俺の魔力で強度を最大限に強化した氷の層だ。青色に輝いたそれで奴の膝蹴りを止めた。
「カッター、行け!」
「……」
相手の剣を抑える水刃を伸ばしながら、バックステップで距離をとる。それと並行して、奴の追撃を防ぐ為にカッターの魔法を三発飛ばした。蛙との戦闘経験に加えて、この触媒だ。カッターの魔法も安定した効果を発揮してくれる。
奴にむかって鋭く空を走る水の刃を、騎士は無言で剣を三度振り、俺の魔法を破壊した。ついでにと俺のソードも破壊するような奴。あいつと接近戦をしちゃあ駄目だ。一瞬で持っていかれる。
『幹也、水の魔法を円状にし』
『黙れ』
『で、でも』
『黙れと言ってる。何の為の試合だ』
『!! ふ、ふーんだ、もう怒ったわよ。私、怒ったからね』
ここでベルフェの助言を聞けば戦う意味が無くなる。集中しろ。
俺より速く動ける相手に、常に距離を保つことは不可能に近い。なんせ十数メートルを一瞬だ。100メートルだって数秒で詰められる。
1回戦の、試合開始直後に奥の手を使うことになるとは……。俺は、手斧に魔力を送って魔法具としての能力を解放した。
「アリア、起動」
「……!?」
そう呟いた直後、俺の両腕に変化が現れた。
皮の軽鎧に重なるように、肘の手前くらいまでに、青い線の入った白い長手袋が出現する。その上から青と水色のフリルが付いたまるでドレスのような服の一部が、同じく肘の手前くらいまで出現した。
魔法で出来た半透明のその服は、俺の腕の周りについて空中に漂っている。腕を軽く振るうと、青い軌跡を描く。アリアを使うとこのような現象が起こるのだ。次第にドレスと軽鎧は重なり合って、肘から先が青と白のドレスに変化した。
こんな、変なコスプレをするような力が、この手斧の能力の全てではない。これは、恐らく魔法の効果を上げる為の何かだ。ドレスが手元だけなのは、きっと身体の中で手という部分が一番、魔法を発動し易い場所だから。
魔法具の起動と共に変化したのは、何も両腕だけではない。俺が動きを止めた隙に、斬りかかろうとでもしたのだろう。しかし、足に違和感を感じたのだ。騎士の足が凍り付いている。奴はそれを火の魔法で払うと、再度攻撃を仕掛けようとしてきた。
「クッ、なんなのよコレは!?」
俺が手斧を振ると、再度騎士の足元が凍り付く。
正確には、奴が壊した俺のソードとカッターの水が騎士の足と地面を繋げるように凍っているのだ。操作性の良い氷魔法が使える。これがアリアの基礎能力の一つだ。
しかし、こんな子供騙しはすぐに看破される。奴は両足に魔法を纏って、氷を解かす。そうなのだ。たったそれだけで、簡単に対処できてしまう……。
いくら魔法具によって殆ど完璧な構成で作られた魔法でも、それなりの魔法を相手にすれば解かされてしまう。そうだ。こんな大会に出てくる奴が魔法を使い熟せないわけがない。
俺は周囲に氷で出来た種を植えながら、奴が近づく前に左手に持った手斧を鋭く振う。
すると、奴の真横に魔法で出来た巨大な斧が出現し、それが騎士を襲った。
俺の手斧と同じ動きで騎士にむかって移動したそれを、奴は盾を使って綺麗に防いだ。斧と盾がぶつかる瞬間、その盾を大きくしたような形の防御魔法が発動される。きっと騎士が使ったのだろう。あの剣と盾も含めて、騎士は装備品からでも魔法が使えるというわけか。
アリアの能力で作られた魔法の大斧はすごい。
その辺にいる魔物なら一刀両断……とはいかないが、刃が触れたところを瞬時に凍らせ、それを粉々に砕くことができる。この斧の本領は斬ることではない。凍らせて砕くことにあるのだ。
それを読んだのか、直感だったのか、騎士は魔法でそれを防いだ。
俺は斧が見切られたことに舌を打ち、地面に植えた種を発芽させる。次々に休まず魔法を唱えて攻め続けなければ、奴に殺られてしまう。先手を、先手を取り続けるんだ。
固い土で出来ている地面に、青色の氷の花が咲いた。以前とは違い、氷で出来た根と茎がある花が四つ程出現して騎士がいる方へ花を傾ける。
氷魔法氷花。
この魔法で出来た花弁の中心からは、断続的に氷の塊が吐き出され続ける。ようは氷魔法の固定砲台みたいなもんだ。しかも、自動的に根を伸ばして対象を攻撃したり花を守ったりする仕組みまである。
この能力は極めて優秀だ。花自体が空気中に散らばった俺の魔素を集めて吸収し、魔力へ変換し続けるので俺の魔力の供給が必要ない。最初にある程度の魔力を込めた種となる魔法をその辺に植え付けるだけ。あとはこの手斧が状況を演算して適切なタイミングで援護をしてくれる。優秀な固定砲台だ。
自分への援護を氷花に任せて、俺は魔法に集中する。
二つ目の大斧をさっきとは反対側から出現させ、奴の背に叩きつける。右手にソードを作りつつ、カッターを騎士にむかって飛ばす。
「ソード、カッター」
「シッ、ヤァア!」
騎士が剣を振りながらこっちに進んでくる。
大斧を斬り壊し、カッターを避けながら迫ってくる奴に、俺は手元の水刃の伸ばして突き攻撃をする。ソードの魔法は剣の形はしていても、水だ。伸縮可能だし、こういう使い方だってできる。
「なっ!」
「アリア、足を狙え」
俺が伸ばしたソードを回避した騎士の足に、氷花が撃った魔法が命中する。
それと同時に奴の後方まで伸びたソードの先端が六つに分かれて、背後から騎士を襲った。鎧に阻まれて傷こそ与えられなかったものの、奴のHPが少し減少した。そして何より、鎧についた水が瞬時に凍って奴の行動の邪魔をする。
騎士は剣と魔法を使い俺の氷を壊しながら、まるで馬鹿にするよな言葉を投げかけてくる。
「ハッ、獣人のくせになぜ魔法に頼る? そんな頭しかないのか? こんな魔法、雑種に相応しい小細工だなぁ!」
「……」
挑発なのだろうな。正義の騎士様が何やってんだか。
俺は別に、雑種呼ばわりでキレたりしないんだが……むしろ純粋な人間ですし。日本人相手にフ○ックって言っても無駄なのと一緒だな。それに、雑種を馬鹿にしちゃいけない。母さんの飼い猫……ミミは雑種だけど、めちゃくちゃ可愛いから。めちゃくちゃ可愛いから!……挑発って、意外と有効な手だな。
試合中は集音魔法が途切れているので、奴の暴言は俺にしか聞こえない。ふむ……。
「お前こそ、良い装備持っている。さすが騎士様、国民の税で手に入れた力はさぞや心地良いだろうな」
「ッッ!?」
あれ、意外と馬鹿なのか?
全身から火の魔法を噴出しつつ、盾を前に構えて俺に突撃してくる。
ゴリ押しか。単純だけど、今の状況ならそれなりに良い手だ。しかし、奴の目の前に氷の壁が複数出現して騎士の動きを阻害する。氷花が複数あれば、このような中規模な魔法も使うことができる。
仮面を装備した俺は目で状況を確認しているわけではないので、奴の姿が壁の向こう側だろうと攻撃を加えることが可能だ。
大斧を作って、奴に叩きつける。盾と魔法を使用して大斧を防いだ騎士の足元から、氷の茨が伸びて奴に巻き付く。
氷花の根の構成を攻撃的なものにした茨は拘束にも攻撃にも使用でき、更にアリアによって作られている為に魔法の構成が完璧であり、強度が高く非情に壊れにくい。いくら馬鹿みたいな身体能力を持つこの騎士でも、剣で斬るか魔法を使わなければ解除できない。
斧と茨、俺の水魔法が騎士の動きを妨害している。
今が攻撃のチャンスだ。技:隠形と技:暗殺のコンボが使用できる。この二つの技なら外から見ても変化がないだろうし、仮面の気配隠蔽の効果で暗殺のクリティカル効果の成功率も高いはずだ。俺自らアリアでぶった斬ってやる!
技:隠形を使用しつつ、氷の壁に穴を開けて向こう側に突撃する。
よし、奴は俺を認識できていないようだ。地面から次々と生え続ける茨と、氷の壁から突き出る氷の槍、空中から何度も攻撃する大斧の対処におわれている。俺は走って奴に近づいて……なっ、
「なんッ!?」
「甘いなぁ劣等種ッ!」
こ、こいつ俺の姿が見えている!?
なぜだ? 隠形の効果で数秒間は姿が見えなくなるはずなのに!
認識スキルの一つ、スキル:誤認を発動して、少しでも俺の存在をずらす。
奴の剣が目の前を通り過ぎた。この距離は……戦うしかないのか。
俺はソードを右手で発動し、触手のように動かして奴の剣に巻き付けた。大斧を背後に動かして攻撃するが、盾を使わずに魔法のみで対処される。あれは、魔法の盾を出現させる魔法か……緑色の小さな盾がいくつも出現して、大斧を防いだ。
俺は手斧に魔力を集中し、氷の壁に種を五つ植え付けてから大量の茨を騎士にぶつけた。そして姿勢を崩した奴に、左手のアリアで斬りかかった。
「しぃねえええ!」
「……」
騎士は片足を地面について姿勢を崩しながらも、盾を使って俺の攻撃を防いだ。はは、甘いのはてめえだよ。俺のアリアは刃からの魔法が一番強力なんだ。
俺は騎士の盾に大量の種を仕込んで、横にステップしてその場を離れる。
騎士の盾から大量の青い花が咲いて、そこから茨が生えて奴を襲った。……そうだよな、手放すしかないよな。
奴は防御の魔法を発動しながら、大量の茨が生えた銀色の盾にむかって火の魔法を発動した。あの威力、初級魔法ではないよな。こいつ、中級魔法を詠唱無しで発動しやがった。触媒も無しに……まじかよ。
盾で抑えていた分の壁から生える茨が騎士を襲い始める。だが、時間の問題だ。壁自体が破壊されるだろう。この騎士は剣だけでも大斧を破壊できる。大斧が壊せるってことは、花も壁も、茨さえも、俺の魔法で出来た物を全て斬り壊せるってことだ。
騎士のHPはまだ多い。鎧に阻まれていて一撃死も見込めない。どうする……隠形が使えなければ、暗殺も使えない。この時点で技:強撃以外の選択肢がなくなった。
ただ、MPはまだある。一々口にだしてアリアに命じていたから、消費魔力が少なく済んでいる。考えろ。本当に勝筋は無いのか? ドッペルガンが使えればどうとでもなる状況なのに。魔法ではなんとかできないのか?
今になって、あのフルフェイスの兜が厄介だ。目が守られているので、いつもの目潰しが使えない。ああ、そうか。あれのせいで視野が狭くなっているから、他の何かで周囲の状況を得ているんだ。例えば、魔法アイテムとか、もしくはそういう魔法があるのかもしれない。だから、隠形も、仮面の気配隠蔽も効かないんだ。
目立つスキルは使えない。俺に変化が現れず、発動可能なスキルは、例えばスキル:逃走犯がある。ただ、何度も経験してるが格上相手にこれを使ったところでただの時間稼ぎにしかならない。ああ、こいつは格上だよちくしょう。
どうする、まじでどうする……。奴の行動を足止めできるのも、あと数秒が限度だ。それまでに、次の行動を決めなければならない。考えろ。もっと良く考えるんだ。
……。
…………。
………………………。
よし、一か八か、奴が圧死をすることに賭けよう。剣だって動かせなければ斬れやしないだろう。俺の魔法とアリアの魔法でを畳み掛けて、ぶっ殺してやる!
まずは周囲にいくつもの種を撒く。
この種の生成にはMP値で約300前後のMPを使う。だが、それ以降は壊されるまで空中に漂う俺の魔素を取り込んでくれるから、きっと総合火力は増すだろう。更に、奴の周囲に二つの大斧を出現させ、俺は水魔法水弾を撃ちつつ、奴から距離をとる。
「ショット、ショット、アリア、茨と壁を頼む」
「くッ、小癪な……この、劣等種がぁ!」
お前じゃないんだから、そんな挑発には乗らない。
騎士は次々と生成される大斧と茨の対処に追われて、壁とショットの魔法を放置している。よし、このフィールドに魔力を散布できた。水魔法と氷魔法ととても似ている。水魔法を凍らせることにはMPを使わないから節約にもなるし、これなら鎧の下を凍らせることもできる。
騎士に命中したショットを瞬時に凍らせる。ただの初級魔法にすら注意を向けなくてはならなくなった奴は、腕がぶれる程速く剣を動かして俺の魔法を破壊し続ける。
俺に近づくには、新たに生成された分厚い氷の壁を突破しなくてはならない。その壁からも魔法が飛んでくるのだ。さすがの騎士様でも、これは辛いだろう。
奴に破壊された氷は、そのまま大斧を生成する材料になる。仮に大斧の攻撃が一度でも成功すれば、いくら鎧で守られているからといって無傷では済まない。それは奴も理解しているので、優先して対処される。その隙をついて茨や氷花から発射される魔法が騎士に当たり続ける。
良い感じだ。これなら一撃死を狙わなくても、HPを削りきれるかもしれない。いや、先に俺のMPが切れる可能性もあるか……よし、大技いくか。
「いくぞ、アリア・エリスロード。氷を、氷の塊を、もっと大きく……」
「なんッ……火の精霊よ私を守りたまえ、レイファ流剣術、プロミネンスッ!」
奴の四肢に茨が絡みつき、剣を動そうとするその動きを阻害する。
騎士の全身から火の魔法が溢れ出るが、氷の茨は壊れない。俺が茨の周囲に薄い水の膜を張っているからだ。MP値が恐ろしい程減っていくが、茨の破壊を防いで奴の動きを止め続けなければ、俺に勝機は無い。
騎士と距離を取りながら発動した俺の魔法により、騎士の真上に三個の巨大な氷の塊が現れた。一つ、一つが馬鹿みたいに巨大なそれを、奴にむかって落とす。
「これで、いけよおおお!」
「火の精霊よ私を守りたまえ、火の精霊よ私を守りたまえ、火の精霊よわた」
ドォォォオオオオン!っと、会場ごと地面を揺らす程の衝撃と共に轟音が鳴り響く。騎士にむかって降り注いだ氷の塊は、騎士の防御魔法ごと奴を押しつぶした。
それと同時に、俺のMPが尽きて両腕のドレスが元の軽鎧に戻る。燃料切れか。これで、どうだ……。
氷の残骸の中から、光が溢れだして……その光が結界外に集まる。光が収まると、其処にはフルフェイスの兜を被り、銀色の剣と盾を持った、傷一つない……騎士が立っていた。
「勝者、キツジロー!」
そんな声と共に、観客の歓声が聞こえてくる。
そうか、勝ったのか……魔力を使い過ぎたせいか、意識が朦朧としてくる。ああ、気絶しそうだ。
ふらっと、前のめりになって、地面に倒れそうになる。
そんな俺の身体を、一瞬でここまで移動してきた騎士が抱きかかえた。
騎士は片腕で俺を抱えて、無言で俺を見下ろしている。
「…………」
「……。さっきは、変なこと言って、済まなかったな」
一応、社交辞令として謝罪する。公務員に税金泥棒は暴言だった。
いつのまにか、兜を外している。ん、こいつ、女だったのか。
「此方こそ謝罪する。君は立派な獣人だ。特性である身体能力に頼らず、魔法を工夫し戦うその姿、尊敬に値する」
こ、このクソ女、集音魔法で会場に声が広がってるからって、ぺらぺらと綺麗ごとを……。目が、目がそうは言ってねえんだよ。明らかに、俺のことを恨んでいる、憎んでいるような目だ。
「そうか。でも、雑種を馬鹿にしちゃ、駄目だ……」
ミミは可愛いから。そんなことを考えながら……俺は意識を失った。
指輪が砕かれて、体力が戻ったであろう冒険者を抱きかかえて、レイファの騎士が退場していく。
「す、すごかったなあ……」
前の試合、騎士と冒険者の戦いは、冒険者の勝ちだった。
本当にすごかった、あの冒険者。魔法使いなのにレイファの騎士相手に何度か接近戦を仕掛けていた。レイファ家から出た騎士と模擬戦をした時には、僕もかなり苦戦したのに。
速く、それでいて正確な彼らの剣は、剣聖の能力を得る前の僕じゃ多分対応しきれなかった。それに加えてあいつらには、異様とも言える程強力な肉体強化の魔法がある。一瞬で接近されるし、一瞬で離脱される。それを魔法で対処したんだ。すごいなぁ、あれが冒険者なんだ。
彼、ええっと……キツジローさんは、この大会に出ている唯一のD級冒険者か。ふーん、D級であの強さなのか。それなら、僕はC級になれるのかな?
僕の一回戦の対戦相手は、A級冒険者だ。
G級冒険者として登録後、数ヵ月でA級へ昇格した正真正銘の化け物。手品師の異名を持つサケノベ・サヤ。噂には聞いているけど、いくらなんでも無茶苦茶すぎる。
帝国の端の方で冒険者になって、1~2ヵ月で最前線の東の方へ、魔物の領域へ進んでAランク判定されていた魔王の一体を倒した女冒険者。防具も着ず、武器も持たずに依頼へ出かけて、すぐに達成してくる様子から冒険者の間で怖れられている……らしい。
よりにもよって、そんな相手と戦うことになってしまった。だけど、これはチャンスだ。A級冒険者の彼女に勝てれば、僕の評価も上がるはず。そうすれば冒険者になった時に優遇されるかもしれない。僕は、一流の更に上と呼ばれるC級冒険者の資格が欲しい。そうすれば、安易に貴族に飼われずに済むから。
お祖父ちゃんの剣術と、剣聖の能力。どこまで通用するかわからないけど、それでも絶対に勝ってやる。
指輪を填めて、会場の中央へと移動を始める。
右手にお祖父ちゃんから貰った刺突剣を持ち、腰には父さんに貰った短剣を着けている。どっちも、僕には勿体ない程の逸品だ。
刺突剣。剣聖時代に集めたコレクションの一つで、僕でも使える扱いやすい良い剣。でも、短剣だって負けていない。父さんが倒した、Bランクの魔物の素材を使って作られている。僕が剣術を始めてすぐにプレゼントしてくれた。それからずっと使い続けていても、刃毀れ一つしていない。なんたって、この短剣は生きているからね。
それに比べて……彼女、サヤさんは噂通り武器を持っていない。
しいて上げるなら、一昔前に流行った魔法アイテムの靴を履いている。だけど、あれは連続使用が出来ないからって廃れたはず。あとは……カードをたくさん持ってる。あ、消えちゃった。なんだろう、あれが武器なのかな。
目立った武器を持っていないからといって油断してはいけない。なんせ彼女はA級冒険者なんだ。魔法を中心に戦うのかもしれない。でも、僕の目には反応が無いんだよなぁ。
剣の聖霊から貰った三つの能力の一つでもあるこの目、これに反応無しとなると……あ、武術とか使うのかもしれない。あの靴を利用した一撃必殺の拳法とかかな。よし、念のために最初から切断の能力を使おう。相手はA級冒険者なんだ、絶対に、一秒たりとも気を抜いちゃダメだ。
中央位置、互いに15mのこの距離。剣で戦うには遠く、魔法で戦うには近い、正真正銘で平等なこの間。集音魔法が発動されて、この大会に出場した証でもある、名誉の名乗りを上げる。
「シュノミア帝国冒険者ギルド所属ぅー、A級冒険者、鮭延沙耶ッ!」←仮面ラ○ダー変身のポーズ
「ラハード流、剣士ラシュード」
カンッ!
試合開始を告げる音と同時に、剣を構える。
右手の刺突剣の先をサヤさんに合わせて、両足と、肩から腕にかけて魔力を……これでッ!
「シッ!」
「うわっと!?」
僕の刺突を靴を利用して空中へと跳んで回避するサヤさん。よし、連続使用はできない、だから、これで終わりだ!
「え、い……」
悲鳴を上げる暇なく、彼女の身体が上半身と下半身の二つにわかれて、文字通り一刀両断された。
剣の聖霊の能力の一つ、『切断』の能力。僕が"斬る"と強く思うことで、対象を確実に切断する力。どんな素材で出来た鎧を着てようと、どんな強力な魔法を使おうと、例え聖霊並みの結界を張ろうと、絶対に切断される。
ふう、上手くいった。A級冒険者がどんな力を持っていても、僕の能力が優先されるはずだから。ラハード流剣術の刺突術で接近、避けられることを前提として、回避後の彼女に本来の用途とは違った刺突剣による斬り。
普通の相手なら防御より回避を選ぶだろうけど、力を持つ彼らは自分の力に自信があるはずだから、防御を選ぶ傾向が強いんだ。
「これで僕のか……ち?」
あれ?おかしい。なんでだろう。指輪が発動されてない。
真っ二つのサヤさんが、ポンっと音を立てて消える。それから、すぐに僕の背後に気配を感じた。まさか!
「なんっ!?」
「残念、ハズレでした! 手品魔法ッ!」
僕の目は魔力を感知していない。ってことは、今のは魔法じゃないってこと!?
驚きながらも後ろへ振り返り、剣で彼女を切断す……って、ええ!?
僕が手を前に突出しながら振り返ると、そこには刺突剣を両手で持ったサヤさんがいた。
剣を……取られた。
う、うそだ。こんな、何の違和感もなく、剣士から剣を取れるなんて、それこそ、剣聖のお祖父ちゃんでも不可能だ。魔法を使った形跡もないのに、そんな技術が存在するとしたら、剣士じゃ勝てない!
そう思ったのも束の間、剣を取られたことよりもはるかに驚愕する行動を、彼女は取り始める。
「ええっと……こうして、えいっ!」
「はあ!?」
彼女がとった構え、そして刺突までの魔力の流れは……ラハード流剣術の、四つ目の型だった。
僕は咄嗟に、手刀で剣を斬った。刀身の中央から二つにわかれた剣が、僕の頬を掠る。驚きの余り、回避しきれなかった。
なんで。なんでなんでなんで?
サヤさんも、お祖父ちゃんから剣を習っていた? ありえない。ラハード流は、僕とお祖父ちゃんの剣だ。お祖父ちゃんの我流の剣術を一つ一つ解析して、二人で意見を出し合って、時には名のある剣士の下を訪ねて、数えきれないくらい試行して精練して、考えて考えて考えて何年も懸けて完成した剣術なんだ。他の人が知るわけない!
僕の動きを見て、それを覚えたっていうの!? そんなの無茶苦茶すぎるよ!
「ありゃりゃ、壊れちゃった。まあいっか。手品魔法っと」
「ヤァ!」
僕の手刀で断頭されたサヤさんが、さっきと同じように消える。
指輪は発動せず、少し離れた場所に傷一つない彼女が現れる。目にはなにも写ってない。ということは魔法以外の、別の技術ってことだ。でも、魔法以外にあんなことができるはずがない。
『剣聖ノ眼』の能力は、『切断』と同じように妨害されて無力化してしまうような半端な能力じゃない。絶対に、何があっても信用できるとお祖父ちゃんが言っていた。
お祖父ちゃんの話じゃ、S級冒険者にも剣聖の力は通用するって。事実、現役時代にS級冒険者が何重にも張った防御結界を切断で切り裂いたって言ってたのに。魔法じゃない、目に反応がないから、剣術でもない。というか、多分武術全般のどれにも当てはまらない別の力をサヤさんは使えると、そう考えたほうが良い。
ダメだ。動揺しちゃダメだ。冷静に、何があっても冷静に対処するんだ。幸い、指輪の効果で試合後に剣も再生できる。短剣も、彼女に取られるくらいなら使わない方が良い。さすがに、手は大丈夫だろう。ラハード流には手を使った剣術もある!
でりゃああ!と、そう叫びながら彼女を斬ろうとした。でも、あまりの驚きにその動きを止めてしまった。動揺しないと考えたばかりなのに。
壊れた剣が、足元に落ちている。なのに、なんでサヤさんはその剣を持っているんだ?
固定概念を捨てて、事実を元に考えると……。
きっと、剣を複製できるんだ……。だとしたら、すごく不味い。あの剣は、魔力を通すと魔法剣術を使用することができるんだ。魔法剣術を、ラハード流の真価を、身と剣を使い捨てながら使われでもしたら……『剣聖ノ加護』を使わないと対処できなくなる。でも、あれは目立ち過ぎちゃうからダメだ。切断と眼だけなら、まだ誤魔化しが効くけど。
手刀は手を使っているから、魔力を流すと魔法になっちゃうし魔法剣術は使えない。あの倒しても消えて復活してしまう仕掛けが、どういう物なのかまだわからないけど、魔力でも体力でも、何かを使っていれば必ず燃料切れが来るはずだ。
「だから、これで!」
「手品魔法~、せいッ!」
まただ。またラハード流の刺突術を使ってきた。だけど、切断の能力の前じゃ、動きさえ知っていれば!
僕は、サヤさんが複製した刺突剣を、さっきと同じように左手で斬り、右手で彼女の体を三回斬った。一回目の攻撃だけ無効化している可能性があったから。それでも、瀕死の彼女は消え、何処からともなく、僕の背後に五体満足な彼女は現れる。これで、三回目だ。普通に倒しちゃダメなのかな。魔物の中には、討伐方法が限定されている種も存在するかど……見た感じ、サヤさんは人族だし。
僕は片手を地面について、そこを軸に体を持ち上げて、前転するようにサヤさんと反対方向へと移動した。その直後、僕の真後ろにシュンシュンと、三回の、まるで手を高速で振り抜いたような音が聞こえた。
魔法剣術を使ってこない……。サヤさんが使ってきたのは、刺突と手刀。となると、驚異的な学習能力があるということかな……。今の所、僕が使ってない剣術はきてないし。
姿勢を整えて、足の裏に魔力を集中。これで、サヤさんにむかって突撃する。右手を後ろに下げて、左手を腰の高さで折り曲げて、彼女に指先を向ける。
サヤさんが、右手に刺突剣を、左手を僕と同じように構えてきた。これは、突きの構えだから、ラハード流を使う場合、今の彼女は突きしか使ってこれないはず。今から使うのは、切断の能力が前提にある剣術だ。
これは、真似できないよ!
「てりゃあああああ!」
「ふふん、君も、諦めがわるいねッ!」
サヤさんの、僕の剣術を避けながら、 左手で彼女の首を狙って、突き。魔法アイテムの靴の効果で跳躍力の上昇して彼女は、後ろにバックステップをとってそれを避けた。
でも、これは予想の範囲内!
ラハード流剣術ッ! 足の裏に魔力を集中、魔法を使う。滑らかに、明らかに不自然な動きでサヤさんとの距離を詰める。右手を滑らすようにゆっくりと振り上げて、僕の速さについてこれない彼女を、能力を使って斬った。これで四回。
サヤさんが僕の目の前でポンっと消えて、少し離れた位置に現れる。まるで最初からそこに居たかのような、気が付いたらそこに居るというような感覚と共に、あと何回倒せば終わるんだと、気が遠くなる。
僕の技術を盗まれている。かといって、攻撃をやめれば、負けるのは僕になるだろう。ラハード流は攻撃の剣術。剣術の90%以上は攻撃の動きだし、防御や回避の動きはあるけど、A級冒険者のサヤさんにそう何度も通用するとは、とても思えない。
ふぅ、と一息ついて、もう一度攻撃の構えを……と思った時に、サヤさんが僕に話しかけてきた。
「ええっと……ラシュードくん?だっけ。どう、負けを認める気になった?」
「なッ!? なるわけないよ!」
「でもでも、ラシュードくんの攻撃じゃ、私は倒せないみたいだよ?」
「た、倒せるもん! 」
「そうかー。んじゃ、もう少し戦ってみよっか。でででん!ネクストステージッ、スピード上げてくよ?」
「こっちだって! ラハード流剣術、爽籟ノ速ッ!」
僕の詠唱と同時に、黄緑色の魔力が、両手足と目に灯る。
僕とお祖父ちゃんの考えた魔法、爽籟ノ速。主に握力と速さを強化する強化魔法。
速さとは、動くスピードのことだ。腕を動かす速さや、足の速さ、状況を認識する速さ等の様々な要素を強化できる自慢の魔法。そこに握力の強化をプラスすることで、より実践向けの魔法になった。
元々は、現役時代にお祖父ちゃんが冒険者から教えて貰った強化魔法なんだけど、それの防御強化を削って速さが上がるように構成を変えたものだから、これも僕たちのオリジナル魔法で……つまり、ラハード流剣術の基本的な強化魔法の一つなんだ。
先ほどより速く、サヤさんに接近して、手刀を繰り出す。
靴の力でそれを避けた彼女を、僕は追おうとした。しかし、次の瞬間、目の前が爆発した。
異常な光量と爆音が当たりに溢れ、僕は何が何だかわからなくなる。
キーン…………………。
耳の奥で、キーンと音がなって、視界が真っ白になって、僕は全力で後方と思われる方向へ下がる。なぜか前後の感覚がないんだ!
剣聖ノ眼でも魔力の反応が感知できていない。魔法じゃない。でも、こんな、光属性と音属性の混合魔法を、魔法じゃない技術で再現できるのか!? 無理だ、不可能だ!
痛ッ!? 僕の左腕に、剣で斬られたような痛みが走る。まずい、近くにサヤさんがいるんだ!
僕は右手で構えをとって、二の腕から魔力を爆発させる。反作用が働いて、全身が高速で回転する。それと同時に切断の能力を発動して……手応え有り。多分、サヤさんを斬った。これで、五回目。
次第に目や耳の調子が戻ってくる。そして、もう一つ、魔力を吸われた。あの技術、相手の魔力で発動するのかもれない……。なんなの、それ。本当に規格外過ぎるよ。
うぅ、左腕を、刺突剣で貫かれた。こんな時に、剣聖ノ加護を使えればいいんだけど……。使っちゃおっか?でも、ダメだ。冒険者ギルドが、僕を有能だと認めてくれる前に、僕に剣聖の能力があると知られるとまずい。お祖父ちゃんにもそう言われてるし……。
A級冒険者相手に、善戦をした。A級冒険者相手に、勝利した。今の僕の状況は、善戦していると言えるのだろうか?多分、言えない。ダメダメだ。
僕の血で濡れた刺突剣を払いながら、サヤさんがこちらへ歩いてくる。
「五回目だね。おめでとう! 今の私は、正真正銘、本物の私だよ」
「……。爽籟ノ速」
腰にある、短剣を手に取り、構える。
「不思議そうな顔をしてたから、ここでネタ晴らし。さっきのは、一定範囲内の魔素を吸収して発動する閃光トラップでしたー。因みにー、これに攻撃能力を追加したものをー、私はあとー、2,000回は使えまーす!」
「……」
嘘だ。騙されないぞ。あの規模の魔法で、そんな回数の使用が可能なら、この人はとんでもな……彼女は、A級冒険者だ。ありえるのか? この、相手の魔素で発動する魔法じゃない技術で、A級冒険者になったのか?
いや、そんなことはどうでもいいんだ。今は、あと一回、この人を斬れれば!
「あと、いっかいいいいいッ! たぁぁあああああ!」
「よーし、手品魔法、コピーアタックっ!」
彼女が、僕の刺突剣で僕の剣術を放ってくる。でも、大丈夫。基本的に、あの武器は切断の能力無しには一撃必殺に成り得ない。僕の短剣の方が、速いし強い!
刺突剣が、僕の顔を削る。
右目の眼球が抉れ、其の侭右耳が無くなった。だけど、死んでない!
これで勝ちだッ!
短剣が、彼女の腕を斬り落とす。
そのまま手のひらで剣を回転し、下向きに、握るように持ち直したそれで、彼女を、心臓を、体ごと真っ二つにした。
ははっ…………なんだよ。なんなんだよぉ、それは……。
「はーい、私、参上っ! ラシュードくん大丈夫かな? 表情が若干死んじゃってるけど? 涙でちゃってるけど? あれれー、もしかしてもしかしてー、敵の言葉をさー、信じちゃったのかなぁー? 決死の一撃で重症を負いながらもー、A級冒険者様のわたくしをー、倒したかったのかなー? ざぁーんねんでしたー! 私は死にませーん。倒せませーん。最初から無理ゲーでしたー。それとね、因みにね、わたしね、あとね、49994回は復活できまするぅー! 毎日毎日毎日毎日、毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日、自動復活の手品魔法を込めたトランプを只管作ってきた私はー、そう簡単には負けやしないのでしたー! そうです、私の登録武器はー、蘇生魔法を元に自作した、トランプ50000枚でしたー! それをー、極小サイズにまで縮小してー、課金アイテムで出た魔法の小箱に入れてー、心臓にー、大事に大事に保管しておりますのですぅー! 私の意識に連動してー、自動的に発動されるのでー、絶対に死にませーん! 指輪よりもー、効果が優先されるのでー、私の勝ちはー、最初からぁ、決まっているのですよー! いえーい! あれれー、ラシュードくん? 血の涙と普通の涙で、顔がびしょびしょですけどー? 悔しいの? 悔しいのかな? 勝てなくて悔しいのかな? ねえ、今どんな気持ち? 剣士って、自分の剣術に自信持ってるんだよね? ずっと剣を振り続けて、やっと習得した剣術なんだよね? それを剣なんか碌に持ったこともない、初心者の私に簡単に使われて、今どんな気持ちなのかなぁ? でもねー、世の中には私みたいな、一度見た技術を完璧に再現できる『技』を持ってる人もいるんだよ? あんなポンポンと手の内を晒しちゃいけないんだよ? そういえばラシュードくん、試合中に、目で何か見てたよね? 片目だけ青い魔法陣が浮き出てたよ? そういうのは、なるべく隠さないと! 何を見てたのか知らないけど、探ってるのが相手にバレバレじゃ対策されちゃうよ? あとね、君の剣と手はなぜか切れ味が良いみたいだけどね、ただそれだけなんだよね。 世の中にはさ、真っ二つに切れちゃっても死なない魔物もいるんだよ? 体が水とか炎で出来てる魔物だっているんだよ? そんな相手にはどうやって勝つつもりなのかな? あれれ? もしかして、世の中舐めちゃってた? 剣が強ければ、大会で優勝できると思っちゃってた? いやー、甘い、甘いよ、甘すぎるよそれは。 私たち冒険者は、斬ってもしなないような化け物と毎日のように戦ってるんだよ? そんな化け物との戦闘経験があるからさー、それを真似しちゃえば、剣士には負けないんだよー? あーもー、そんな可愛い顔しちゃって、でも…………よく見ると、ラシュードくん可愛い顔してるよね、すごく私好みかも。 あ、そうだ! ラシュードくんさ、冒険者になろうよ! 一緒にパーティー組んであげるからさ! そうすれば、もっと強くなれるよ? 私は基本的にこの街をうろうろしてるから、気がむいたら話かけてね! お姉さんが色んなこと教えてあげるよ! 大丈夫、天井のシミでも数えてればすぐ終わる事だからさ! あ、そういえばっと。 あーあー、集音魔法入ってますねー。ええーっと、会場のみなさーん、私は負けませんよー! 絶対に優勝しますよー! だから、私にお金を賭けて下さーい! そして、儲かった分の半分を、私に還元して下さーい! そうす…………え? 失格? なんで?なんでなんでなんで? 装備品が卑怯すぎる? え、なんで? ルールは守ってるよ? 装備品の登録を、剣って登録したら、剣を二本使うのもありなんだよね? じゃあさ? トランプって登録して、トランプ50000枚使うのもありだよね? あれれ? 知らないの? こういう証明方法が数学には……って、離してよ! やだちょっどこ触ってんの! えっち! いやーだー、はーなーせー!」
涙を拭いて、指輪を発動してから、僕は大会運営の係員に誘導されて、控え室に戻りました。
この試合はサヤさんの反則負けとなり、僕の勝ちになりました。二回戦進出です。
…………うん、二回戦頑張ろっと。
んん、ここは……。控え、室か?
俺は、確か騎士と戦って、勝ったんだっけ? 手斧に魔力を込めて、氷の魔法を使ったはず。あれ、俺の仮面どこいった?
長椅子に寝ていたようなので、体を起こす。すると、反対側の長椅子で眠っている、レア、鮭延を見つけた。足元には、キツとミルが仲良く寄り添っている。
鮭延の膝を枕にするようにして、レアが寝ている。寝顔が可愛い。口をちょっとだけ開けて、無防備に眠っているな。
俺が状況確認のために辺りをきょろきょろと見ていると、しゅたっと、小さな着地音と共にラナが現れた。……すごい吃驚した。忍者かよこいつ。
「みきゅあくん、大丈夫?」
「ああ。それより、状況が上手く読み込めない。話してくれ」
「ええっとね、みきゅあくんは、魔力の、使い過ぎで、倒れちゃったの」
「……魔力の使い過ぎって、体に良くないのか」
「うん。少しずつなら、大丈夫。だけど、一気に使うと、気絶しちゃうの。血液には、常に、一定の量の、魔素が、必要なのです」
「そう、か……それで?」
「それで、次の試合は、サヤの、反則負け。私と、レアたんは、選手の身内、だから、控え室に、入れたの。レアたん、おねむの時間、サヤもみたい、だけど」
「反則負けって……まあいいや。概ね、現状の把握はできたみたいだ」
「みきゅあくんの寝顔、可愛かった。可愛すぎて、レアたんと、サヤが、キス……してたよ?」
「ぶっッッ!? は、はぁ? レアはともかく、なんだよこの変態はッ!」
俺の大声で、レアがびくん!っと跳ね起きた。
すごいびっくりしてる。ご、ごめんよレア、そんなつもりはなかったんだ。この変態がだな……。
レアは俺を見つけると、「あっ、 お兄ちゃんおきた!」と言いながらこっちにきて俺に抱きついてきた。我ながら随分と甘やかしているとは思うけど、無理だろ。可愛過ぎんだよ。レアの両親も、こうして甘やかしてたんだろうな……さすがにトイレは覚えさせたけど。
「よしよし。なぁレア、俺のかっこいいとこ見てたか?」
「うん! お兄ちゃんすごかった! つめたい魔法、たくさんの、お兄ちゃんのでしょ?」
「おう。練習したおかげだな。リラナルテさんとルークには本当に感謝だ」
「あ、お兄ちゃんお兄ちゃん、さんにちごもだって!」
「さんいちご……三日後な。つか、それじゃ何が三日後なのかわからないし……可愛いけどさぁ、ほーら、おりゃおりゃー」
「やーん! くしゅぐったいよぉー!」
「健全な、絵で、ここまで、だと……!? また、鼻血、でちゃ、あ」
ん? ラナが急に鼻血を出したな。
チョコ……は無いけど、お菓子の食べ過ぎか?つか試合前に食べてた美味しそうなパン、あれどこに売ってたんだろう。明日は、残りの試合の観戦か……パン買おう。
そういえば、鮭延の試合見逃したなー。トランプ(笑)で戦う姿とか、超見たかったのに。トランプで戦うとか、どこのマジシャンだよ。草不回避だわ。
「うりうりー。レアまじ可愛いいなぁ。超絶癒され…………あ、ああ!」
「!!。 ど、どうしたの、お兄ちゃん?」
「ああ、ごめんよレア。またびっくりしちゃったな」
「れ、レアへいきだよ? びっくりしてないよ?」
えっ、肩がやばいくらいびっくりしてたぞ?
いいや、そんなことはどうでもいい。金、 俺の賭け金!
試合の結果、確率的には半分のはずなのに、俺が無名過ぎて倍率が3倍近くあった。それを、手持ちの銀貨ほぼ全てで、……よし、酒場に行こう。
服を着替えてから鮭延を起こして、宿屋へ戻った。
レアを寝かして、ラナにレアを任せて(ラナは変な所で淑女だから、寝てるレアに悪戯をしない。仮に何かしようとしたら、キツ太郎経由で俺にバレるし)、鮭延と二人でここの酒場とは違う、賭けが開かれている酒場に行く。
うわー、テンション上がってきたわ。金もだがこないだ負けただけに、賭けに勝ったという事実が何より嬉しい。よーし、今日は飲もう。なんせ、この世界は15歳で成人する類の異世界だからな。
翌日、ゲーム126日目。
「んん、朝か? 頭ががんがんする。なんだこれ……。つか、いま何時だろう。もうあ………え?」
「んー……zzz」
裸の 男が 隣で 寝てた。
…………は?
美也「いやいやいや、この間のアレはきっと見間違いだよ。お兄ちゃんが女の子に囲まれて、みんなでお菓子食べてるなんて。シングルベットが一つと、ダブルベットが一つの、変な三人部屋の宿に泊まってるなんて」
セリ「ミヤちゃん、見間違いじゃないよ? 私も見たもん。もう一回やる?」
美也「そう……だね。うん、偶々、何か事情があったのかもしれないしね。うん、きっとそうだよ! よーし、セリちゃんお願いッ!」
セリ「うん! "ミヤちゃんの好きな人の姿を映しなさい" でき…………」
美也「あれ、セリちゃん? どうしたの、急にかたま…………」
美也「お、おおお、お兄ちゃんが、男と寝てるッー!?」
明日香「!?」
姫宮「えっ!?」
乙牌「あら」
セリ「ミヤちゃんのお兄ちゃんは、かっこよくて、優しくて、可愛い……ホモ?」




