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第18話 金色のD予選

 僕が祖父に剣術を習い始めたのは、まだこんな小さい頃だった。

 最初は木の棒で叩き合うような、お遊びの領域だった。その時は、祖父の剣術の腕なんて知らなかったし、大きな剣と盾で戦う、上級騎士の父さんが世界で一番強いと思っていた。色んな魔物との戦いの話を、家に帰る度に聞かせてくれる父さんに憧れて、僕は剣術を始めたんだ。


 幼少時代から始めた剣術は、10歳になるまで続いていた。どうやら僕には、所謂、剣の才という物があったらしい。祖父に連れられてあちこちの剣士の下を回った。そこで出会った同年代の剣士たちには負けず、年上の剣士さえ戦いにならなくなってきた。

 そんなある日、増長してしまった僕は、祖父の言い付けを破って魔物を狩りに出かけた。Gランクの魔物、Fランクの魔物、Eランクの魔物。色んな魔物を斬り伏せた。培ってきた技術で、敵を斬って斬って斬りまくって……そいつは現れた。

 Dランクの魔物。ゴオウキ。巨大な悪魔のようなそいつは、目で追えない程、身体が反応できない程速く、僕の剣術を楽々見切り、丸太のような太い腕で僕に殴り掛かってきた。

 身体の真ん中から殴られ、そのまま吹き飛んで近くにあった大木にぶつかった。腕も上げられず、ただ死を待つだけのそんな絶望的な状況の中で、彼女は僕の前に現れた。

 蒼く美しい髪を揺らして、着物と呼ばれる華やかな服装で、ふらふらと現れた彼女は、その手に持つ細く綺麗な剣で、まるでゴミを払うようにゴオウキを斬り捨て、そのまま僕の前から姿を消していった。

 

 瀕死の状態で、なんとか家に帰った僕はそのことを祖父に話した。その時に、祖父が『剣聖』と呼ばれる人なのだと知った。

 僕が見た彼女は、剣の聖霊だったのだ。彼女に助けられてから僕の身に宿った異常な力は、どうやら彼女が与えてくれたものらしい。父さんには受け継がれなかった剣聖の能力。僕が14歳になるまで、祖父からその力の使い方を学んだ。



 剣聖の力は、国に管理されるべきである。

 そんな事を祖父は貴族に言われ、その生涯の殆どに国に捧げたらしい。だから僕が一人前になるまで、僕の力を秘密にしていた。僕にある程度の力が付けば、そんな縛られた人生にならずに済むからだ。魔物とかっこよく戦う父さんの話を聞いていた僕は、騎士ではなく冒険者になりたかった。

 祖父の話では、ある程度の功績、又は力があれば、それ相応の階級から冒険者を始められるらしい。幸い、祖父の推薦枠が有効だったので、僕はクラーク王国で開かれる霊技祭に出場できることになった。

 そこでラシュの名前を売って、そのまま冒険者になればいい。そして偶に家に帰って来て、冒険者としての生活とか、そんな話を儂にしてくれればそれでいい。そう、祖父は言って僕を送り出した。


 お祖父ちゃん、僕はやるよ。

 お祖父ちゃんの剣術と、剣聖の力で……この大会で一番になってみせる!

 

 そして、冒険者になってやるんだ!

 






 金色の霊技大会、そのD予選が始まった。

 最初に動いたのは、黒髪で、毛先が縦ロールになっている獣人の女の子だった。魔法名を叫びながら、多分、光属性だと思うんだけど、もしかしたら雷属性の要素もあるかもしれない。そんな感じの光の塊を、寄りにもよってルークに向かって放ったんだ。

 

 この手の大会に、賭け事は付き物だ。

 かく言う俺もルークが予選を通過すると予想し、俺の財布にある金貨を全部賭けた。つまり、五枚も賭けている。ルークは最近冒険者になったばかりで、余り名前が売れていない。D予選には、冒険者ギルドクラーク王国支部のC級冒険者とB級冒険者が合わせて9名出場している。ルーク以外の8名は、皆がそれなりに名前の売れているから、オッズが低い。人気があるんだ。そんな中に無名のルークが入ると、自然とオッズは高くなる。最終的な倍率は4.3倍。D予選の中じゃあ強者の部類に入る、B級冒険者にも関わらず、掛け金が4倍になるのだ。勿論、二名当てなんて無茶なことはしない。

 つまり、俺の金貨五枚が、金貨二十枚以上になる。ルークが勝ってくれれば、回復アイテムが買い放題になるのだ。だからこそ、俺は声を上げてルークを応援している。

 ルークに向かって放たれた光の塊を、かなりの高さまでジャンプして彼は避けた。フィールド上いっぱいまで広がった魔法により、避けそこなった6人がその効果を喰らってしまう。びくん!と全身が震えた後で、魔法のダメージにより早くも4名が脱落してしまった。ふむ、中級か上級か……極めて高度な魔法だ。

 生き残りをかけた混戦の場合、あのように目立つような初手を繰り出す奴は余程の策士か、ただの馬鹿だ。あの縦ロールはしょっぱなから魔法をブチかまして、4人を倒し25人を敵に回したわけだ。そんな縦ロールは次の魔法を唱え始める。どうやらルークを狙い続けているようだ。

 他の人も、それぞれで戦い始める。どうやら組んでいるやつは三組程度のようだな。勝者二名が本選に進めるので、当然チームを組むやつも出てくる。内、一つが先の魔法で仲間を失ったようだが。ルークにつっかかっている縦ロールを狙う奴もいるみたいだし。

 それなりに面白そうな混戦になってきたな……って!?











 恐らく、僕に対して発動されたであろう魔法を回避して、そのまま彼女を観察します。髪を巻いていて、好戦的な目をしている女性、耳と尻尾という特徴から種族は獣人種だと思うのですが、ここまでの魔法を習得しているとなると、中々に強いのかもしれませんね。

 空中で足元に魔力を集めて、そのまま回避運動をとります。獣人の彼女は続けて何発かの魔法を僕に発動してきます。その全てを回避して、僕は回避運動を続けます。

 

 「ッッ!? なら、これで終わりですわ!」



 彼女は両手から幾重にも枝別れた、下級魔法を発動させました。一つ一つの魔法に必要以上に魔力が込められているそれは、ただの下級と侮れるような物ではありません。誘導性を持っているようなので、此方も魔法を使って防ぐことにしましょう。

 イメージするのは守りの魔法。少ない魔力で、最高の効果を……。


 「我を守護せよ、火球(ファイアボール)」

 「えっ……」



 下級魔法は、同等の威力の魔法で相殺するのが一番の対処方法です。

 僕の手元から、彼女が発動させた魔法と同じ数に分かれた僕の火球がぶつかり合って、全ての魔法の相殺に成功しました。驚いた様子の彼女に、近くにいた剣を持つ冒険者らしき男が斬りかかりました。

 接近する男に気付いた彼女は、獣人に見合った動きでそれを対処します。その間、僕は地面に着地し、同じように僕に攻撃してきた冒険者の蹴りを避けます。

 その蹴りを放った男の足を見ると、魔法具らしき靴を履いていました。蹴りと同時に魔法が飛んできます。風属性の不可視の刃の接近を感じ、再度防御の為の魔法を使います。


 「我を守護せよ、風刃(ウインドカッター)」

 (奴を斬り捨てよ、風刃)


 「くっ!?」


 同時に、攻撃の為の魔法を合わせました。言葉に出さずとも、イメージさえ出来ていれば魔法自体は発動するので、こういった芸当が可能となります。

 不可視の二重の刃は、相手の魔法を相殺しつつ、男の足を切り刻みます。この傷ですと脱落するのも時間の問題です。止めは他の人に任せましょう。

 動揺した男を放置して、先程の獣人の彼女の方を確認してみますと、案の定と言いましょうか、襲ってきた男を楽々と脱落させて、再び僕のことを攻撃してきました。はて、初対面のはずですが……なんでこうまでして僕を狙うんでしょうか。不思議ですね。

 彼女は今度は接近戦を仕掛けてきました。この剣を大衆の前で抜くわけにはいかないので、魔法で対処しなくてはいけません。剣を使うとしても、それは一瞬だけに止めなくてはいけないのです。その理由は、おっと。


 「いきますわよ! 奥義:獅子 弐ッ!」

 「防げ、エア」



 いきなり襲いかかってきた彼女の蹴りを、空気のクッションで受け止めます。手の甲でポフっと優しく受け止めた左足を掴んで、壊します。


 「我を守護せよ、地砕き(アースクラッシュ)」

 (砕け、地砕き)(防げ、エア)


 「あっ、いぎぃ!?」



 左足の、足首を砕いて、内部の骨を更に砕きます。その途中で、彼女は魔法で攻撃を仕掛けきたので、それも防ぎました。これで諦めてくれれば良いのですが……あまり彼女を相手にしたくないのです。

 足を手放し、次の相手を探そうとしたのですが……どうやら、足を砕いた程度では、彼女は退いてくれないようです。

 治療魔法でしょうか……いや、変化魔法ですね。負傷した部分を"何か"に変えたようですね。それにしてもしつこいですね。僕を睨んでいる彼女に、ひと声かけることにしました。忠告ですね。


 「やめた方がいいですよ。あなたでは僕に勝てない」

 「そ、そんなことありませんわ! 私は、ルーナ・ウルスダッツですのよ! 奥義:精霊化ですわ!!」



 挑発ともとれる僕の言葉を真に受けた彼女は、自分の名前を叫びながら飛び掛かってきました。

 さて、どうしましょうか……。魔法を多重詠唱するにしても、必要以上に女性に攻撃するのも気が引けますが。手を出してきたのは彼女ですし、正当防衛なので、悪く思わないでくださいね。


 「我の前で跪け、エア」

 (貫け、水刃)(貫け、風刃)


 「なんッ!? いやぁああ!」



 風の魔法で動きを遮り、囮にと認識し易い水魔法を使ってからの、本命である不可視な風魔法を使いました。

 ただの最下級の魔法でも、魔力を過剰に消費して構成を組み替えることで、相手を傷付けることに特化する魔法へ変えることが可能です。変化魔法を使っていない両腕を切裂きました。

 多少 抵抗(レジスト)されましたが、血が噴き出る程度に薄く斬ることには成功したようです。見た目だけなら重症に見えます。これで戦意を失ってくれればいいのですが……。


 「なんでですの!なんでですの! 来なさいッ、火竜招来(ファイアードラゴン)! 火竜ッ!もっと、もっとよ!」

 「はあ、なんでそうまでして僕を……。○×△□~。我を守護せよ、水壁(ウォーターウォール)」

 (我を守護せよ、エア)


 

 そろそろ彼女の相手も飽きてきました。簡単な魔法しか使っていないことへの当てつけでしょうか。かなり上級の魔法を使ってきましたね。

 全部で三体の巨大な炎のドラゴンを魔法で作り出した彼女は、それを周囲に放ちながらも、更に別の魔法を唱え始めます。


 「水竜、土竜、光竜! これで……逝きなさい!」

 「属性を増やしても、結果は変わりませんよ。風魔法、空気(エア)発動」



 僕は全身を風魔法で包みます。次に魔力抵抗を高める為に、耳に着けているイヤリングを指で弾きます。

 この宝具は家を出る際に持ちだした物の一つで、使用者の魔力抵抗値を一時的に増やすことができる希少な魔法アイテムです。その上昇値が素様しいものでして、例えば彼女が唱えた、僕なんか瞬時に消滅してしまうような強力な竜の魔法でも、空気の魔法で破片等を防いでしまえば僕自身は無傷で済むのです。

 断続的な効果のある魔法には弱いですが、このような一撃を高めた魔法には十二分に効果があります。

 お母様(クソババア)曰く、勇者の必殺の一撃すら防ぎ切る程の魔力抵抗値を持たせてくれるらしいですし、まあ便利なアイテムですね。

 あのような、本来なら魔力を十分に溜めてから使うであろう高位の魔法を連続で使用した彼女は、肩で息をする程の疲労を見せはじ……ああ、僕の姿を確認して驚いてますね。全身を空気の壁で囲んでいたので、汚れ一つありませんし。

 それより、周囲への被害が酷いですね……。僕たちの戦闘に巻き込まれたのか、大半の出場者が何らかの手傷を負ってしまったようです。そうですね、この状況なら、剣を使えるかもしれません。


 「な、なんで……」

 「○×△□~。黒煙よ、我に従え」


 闇属性の中級魔法で、フィールドを覆います。観客席にいる一般の方々に、この剣は少々刺激的です。

 光を失ったフィールドで、僕の剣が赤く輝きます。魔剣『簪(かんざし)』。見る者に死の魅了を与える彼女の能力は、大衆に晒すようなものではありません。それに彼女は少々恥ずかしがり屋ですので、明るい所ではその効果も弱まりますしね。

 まずは近くいた、獣人の彼女の魔法で負傷したであろう、街で見かけたこともある冒険者の首を刈り取ります。丁度誰かが魔法で光源を作ったようですね。恍惚とした表情で死んでいく男の様子が見えてしまいました。

 感の良い出場者は、既に目を瞑って行動していますね。残り14名の内、5名の出場者がこの剣の能力によりとぼとぼとした足取りで近づいてきます。この剣に斬られる快感を想像し、先の男と同じような恍惚とした表情を浮かべる彼らを、順番に斬り伏せていきます。

 光源を作った者が、今度は黒煙を払いました。僕は剣を鞘に仕舞います。これで僕を含めて残り9名。獣人の彼女は両腕の治療を終え、これでもかといった鋭い視線を僕に向けてきます。



 「あなた、名前を教えなさい!」

 「……。ルーク・リーディア・ダークロードです。そういうあなたはルーナ・ウルスダッツさんでしたね」


 「わ、私のことを知っていましたの!?」

 「いえ、先ほど自分で仰られていましたので」


 「そう……でしたわね。まあ、いいです。ルーク様、私(わたくし)と勝負ですわ! 奥義:朱雀 漆ッ!」

 

 

 そう叫びながら再び接近してくる彼女……ウルスダッツさん。

 青白く輝いた四肢の上から、紅い魔力を目で見える程に集められたそれで、身体能力を上げているのでしょうか。かなりの速さですね。生憎、僕の目は特別製なので意味をなしてはいませんが。

 ウルスダッツさんの蹴りを先程と同じように対処しようとしたのですが、僕の魔法を読んだ彼女は、その場で高速に回転して裏拳を使ってきました。あ、これは魔法で防げる類の物じゃありませんね。

 僕はバックステップでそれを回避し、続く掌打の軌道を魔法で逸らして、鋭い蹴りを彼女の技術を真似た蹴りで相殺して、驚く彼女の顔面に全力でパンチを叩き込みます。

 彼女の肉体強化の技術は恐らく、内と外の両方に魔力を込めているのでしょう。ですから、原理さえ解ればそれっぽい真似ことは可能です。

 構成自体が違うので同じ魔法にはなりませんが、似たような効果のある魔法は作れます。そうですね……彼女の名前に因んで、強化魔法、狼(ウルス)とでも名付けましょうか。この構成ですと中級魔法ですかね。

 僕の拳を受けた彼女は、すぐに体勢を整えて、再度、接近戦を仕掛けてきました。蹴りと同時に魔法を放つ彼女の攻撃を避けながら、僕は詠唱に入ります。唱えるのは中級魔法。ある魔族が得意とする守りの魔法。


 「○×△□~。○×△□~。我を守護せよ、聖なる大盾」

 「雷線ッ! 奥義:朱雀 参!」



 彼女が放つ雷属性の魔法と魔力の灯った貫手を、盾の魔法で防ごうとしました。この盾の魔法は中級魔法ですが、物理的な衝撃には強いのです。彼女の攻撃には有効なはずですが……咄嗟に雷の魔法を使ってきましたね。盾が崩れてしまいました。ああ、まずいです。

 彼女の貫手が僕の目の前に迫ります。僕は咄嗟に先ほどの魔法、狼を使用して距離を取ろうとしました。しかし、熟練度が違います。恐らく長い間使い続けてきたであろう彼女の魔法、対して僕の狼はこれが初めての発動です。

 ウルスダッツさんは腕を突き出した状態から更に加速し、跳び上がりながらの回し蹴りです。輝く程の紅の魔力を両足に灯し、変化魔法で何かに変わっている左足での回し蹴り。僕は右腕を全力で強化しつつ、空気の壁を厚く、幾層にも作ります。


 「やぁぁああああああッ!」

 「我を守護せよ。狼、エア」



 ある集落に住む一族が得意とする空気を固める魔法は、最下級の魔法ですがとても難易度の高い魔法です。その分、効果は確かなものを発揮します。

 蹴りのスピードを格段に落とし、衝撃も吸収したはずですが……。腕に彼女の足が食い込んで、真っ直ぐと後ろにむかって飛ばされます。治療魔法を唱えながら腕を回復し、状況を確認しました。

 残っているのは、僕、ウルスダッツさん、冒険者風の男二人と騎士風の男一人の5人。


 その内、二人組が彼女の元へ、騎士風の男が僕の元へと来ました。

 正直、ウルスダッツさんとは戦いづらいです。高位の魔法を殆ど無詠唱で、更に連発できるような、それに加えてあのレベルでの格闘術を修めている彼女とは戦いたくありません。はっきり言って強すぎですよ彼女。何度攻撃を防いでも、また新たな攻撃方法で攻めて来ますし……。後、二、三度でも攻撃を受けてしまえば、僕はきっと倒されてしまっていたことでしょう。


 「やあやあ、お相手願いまーす」

 「え、ええ」



 そう言いながら近づいてきた男は、各所に最低限の防具を装備して、銀色の盾と、赤い剣を持っている、どこか騎士のような装備をした男でした。本来の騎士は重装備なはずですが……大会仕様にしているのでしょうか。

 彼は呑気にそう言いながら、斬りかかってきました。この距離で剣士を相手にするには、同じように剣で相手をするのが一番です。ですが、ここでこの剣を抜くわけにはいきません。ですので、ミキュアが水刃の構成を変えて作った魔法、水刃(ソード)を使いましょう。

 手元で水刃を作って、飛ばさずに固定し、高速で振動させることにより相手を斬る疑似剣を作る魔法。即座に魔法の構成を変えることにより、剣の長さ自体を自由に伸縮可能となるこの魔法は、魔法を習い始めて一月で考えられるような代物ではありません。ウルスダッツさんといいミキュアといい、才能というのは恐ろしい物ですね。

 男の剣と、僕の水刃が衝突します。普通の剣なら破壊できる程の振動数を備えているこの魔法ですが、どうやら相手の剣は特注品のようです。そのまま魔法を伸ばして、背後から突き刺します。まるで生きてるかのように自然な動きで、刃の先端を伸ばした水刃を、横に跳んで男は回避しました。

 僕は彼と反対方向へ移動しながら、火珠の魔法を牽制に使いつつ上級魔法の詠唱に入ります。魔力量も少なく、魔法の才能に乏しい僕にとって、高位の魔法の発動には詠唱が不可欠です。中級までは必要ありませんが、上級の魔法はイメージと構成に齟齬が発生しやすいのです。緊急時でなければしっかりと詠唱した方が威力も安定します。


 「○×△□~。○×△□~。貫け、火炎嵐」

 「火かー。ミルネちゃんッ!」



 あの件は魔法具だったみたいですね。僕の魔法を吸い取ってしまいました。僕は即座にイヤリングを弾いて、魔法に対する抵抗値を高めます。

 

 「せいッ!」


 炎を纏った赤い剣を避けながら、足元に魔法を使います。地面から土の針が生える、アースニードルの魔法を発動しましたが、あっさりと避けられてしまいました。この人……戦い慣れてますね。剣から溢れる炎自体が一種の魔法なのでしょう。イヤリングの効果がすぐに切れてしまいました。

 

 厄介な相手ですね。どうやら、ウルスダッツさんは二人組の冒険者に勝てそうですので、僕は時間稼ぎをするとしましょうか。

 僕は両手にエアの魔法を発動させて、目の前の男と戦うことにしました。

 







 赤い剣の男と戦い始めてから数分後、あちらの戦闘はウルスダッツさんの勝利で終わったようです。


 むふ、この辺が頃合いでしょうか。

 僕は剣を鞘から滑らすように抜き取ると……自らの首を斬り落としました。


 指輪の効果により、元の状態に身体が戻っていきます。フィールド外に飛ばされましたので、これで僕も脱落です。この剣の力を抑える為にも、そろそろ一度死なないといけない時期でしたので、簡単に蘇生できるこの大会を有効活用できました。僕にお金を賭けているミキュアには、少し悪いことをしてしまいましたけどね。

 僕は勝者の二人……驚いた様子の赤い剣の男と獣人の彼女に一瞥して、観客席に座っているミキュアたちの元へと歩き出しました。


















 試合内容が思っていたよりも三倍くらいグロかった。

 俺は予選が始まってすぐにレアを連れて席を離れた。レアはいきなり抱き上げられてびっくりしていたが、すぐに機嫌を直してくれた。近くの出口から外に出ると、外はお祭り騒ぎ。普段はない屋台が出ていて、美味しそうな食べ物があちこちで売っている。ラナが食べていたポップコーンもその一つだな。

 

 「レアー、何か食べたいのあるか? 俺的には甘いのがいいんだけど……」

 「んーとね、じゃあ、あれたべたい」



 レアが指差したのは、アイスクリームだった。おお……アイスが売ってる。カップにはいったあれは、確かにアイスクリームだ。色が赤とか青とかカラフルなのはこの世界の果物の特徴の一つだけど、それもアイスなら美味しそうに見える!

 銅貨を二枚払い、二つのカップを受け取る。近くの椅子に座って、まあ椅子じゃないんだけど椅子代りに座って、レアとアイスを食べる。専用の、木で出来たスプーンですくって、……美味しい! 冷たい! 甘い!

 すごいな……よく味わうと、地球のアイスと微妙に違う。多分、材料が違うんだ。でも、殆ど同じようなもんだ。果物の味が少し強いけど、それでも十分美味しい。

 口の周りをよごしてしまったレアの口元を拭く。こういう所はちゃんと子供っぽいんだよな。一生懸命アイスを口に運ぶレアの頭を撫でてあげる。


 「美味しいな。甘いか?」

 「うん! おいしい」


 「だよなー。やっぱ冷たいもんは良いよな」

 『私のは?』


 『……え?』

 『私のも買って』


 『まじで言ってんの?』

 『だって、レアちゃんすごい美味しそうに食べてるんだもん』


 『だもんって……ったく、しょうがない使い魔だなベルフェは』

 『そうね……あの味がいいわ』


 「ベルフェの分買ってくるな」

 「べるひぃ?」

 『ベルフィ。ひぃじゃなくてフィねって言ってあげて』


 撫でていたレアの頭をぽんっと叩いてから、再度屋台へ行く。

 ベルフェのアイスを購入して、召喚したベルフェがアイスを回収して待機空間へ戻るのを確認してからレアの元へ戻る。すると、レアが変態に絡まれていた。


 「レアちゃん、こっちのソーセージも美味しいよ?こう口いっぱいに頬張るようにたべ」

 「おい鮭延、てめえレアになにしてる」


 「あ、」

 「あ じゃねえよ。なんだよお前、まじでなんだよ……」

 「?」

 『♪~。ひんやりして美味しいわねコレ』



 何だコイツ。まじでなんなんだよ……。レアにフランクフルトを勧めるな。頬張るようにって、何がしたいんだよ。事と次第によっちゃあてめえの脳天撃ち抜くことになるぞ。それに、レアは肉があんま好きじゃねえんだ。


 「レアは肉が苦手だ。あっち行け」

 「そうなの? ごめんね、レアちゃん」

 「んーん、いいよ」


 レアがアイスを食べ終わるのを待って、予選の結果を確認したラナと合流して、その話を聞いた。

 どうも本選に進んだのは赤い剣を持つ騎士の男と、しょっぱなから大魔法を使ったあの縦ロールだったらしい。ふぅん、なるほどね……。


 

 ルークぅ!


 











 

 

 美也「いい? セリちゃん。お兄ちゃんはかっこよさと優しさ、それに可愛さを兼ね備えたこの世界で一番素敵な男の人なの」


 セリ「かっこよくて、優しくて、可愛いの? すごいね!」


 美也「そうでしょう! それにね、なんと、私の彼氏さんでもあるの! 将来を誓い合った仲なんだー♪」


 セリ「ええっ将来を!? ……あれ? おにい……あれ?」



ルシフ「なあ。あのお嬢さんは何を言っているのだ? 近親婚なんて悪魔でもしないぞ?」


明日香「なんというか、説明するのが難しいね……。それより、ベルゼさんのおしりは大丈夫だった?」


ルシフ「うむ。ベルゼのおしりは何とかなった。多少の後遺症はあれど、今は待機空間で安静にしている」


明日香「それはよかった。あんなことがあったんだもんね……それにしても、ルシファーさんとベルゼさんは、もう付き合ってたりするの?」


ルシフ「いや。俺様とベルゼはまだ交際していない。確かにベルゼのことは愛しているが、彼女にはもう少し俺様の癒しとなって欲しいのだ」


ベルゼ『ル、ルシィ……。僕も、ルシィのこと、好きだよ?』


アスモ『いちゃいちゃしちゃって……。そのおしりじゃあ無茶できないわよ。女の子が痔なんてかっこがつかないし』


ベルゼ『それは言わないで……うぅ』



 美也「だからね、セリちゃんの魔法で、お兄ちゃんが何してるかとかわかったりしない?」


 セリ「ふふん! セリの辞書に不可能という文字はないのだー! "ミヤちゃんの好きな人の姿を映しなさい"……できたよ!」


 美也「わあ! おにい……えっ、お、おお」


 セリ「?」


 美也「お兄ちゃんが、女の子にかこまれてるーッ!?」






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