第17話 霊技祭
私がこの世界に来てから、約半年が過ぎました。
神の使徒となって、私たちの世界を勝利へ導く役目を、こうして請け負ったわけですが……正直申し上げて私、世界の為になんてそんな気はこれっぽっちもありませんわ。
異世界に召喚されるなんて、そうそうあることでもございませんし、この機会に私はもっと強くなろうと、そう決めましたの。
ですから、お父様にまだ早いからダメだと言われていた冒険者にもなりました。初期ランクを決める試験では元高ランク冒険者らしい剣士の方と戦い、見事勝利してやりましたわ。
お父様から教わった魔法と、お兄様から教わった奥義、この二つを併用した私の戦闘術に隙は御座いませんわ!
しいていうなら一度の戦闘で魔力を一気に消費してしまうのが欠点ですが、それでも、お父様とお母様から頂いたこの身体には膨大な魔力量があるので、そうそう尽きることはありませんわ。
試験官に勝利した私は、弱冠11歳にしてC級冒険者になることができましたわ!これは珍しいことらしいです。試験官の方も驚かれていました。
これでも私は、幼少の頃から魔法の訓練を積んできましたので、当然の結果ですわね。お父様の免許皆伝も貰えましたし。今なら魔法で精霊にもなれますわ。聖霊は無理ですけど……。聖霊にもなれてしまうお父様はどうかしてます。さすが三強の一人です。尊敬するに値する方ですわ。
この世界に来て一年が経過しました。私が12歳になって、より難易度の高い依頼を受け始めてからそれなりに時間が経過しましたわ。
ある日、ギルドマスターから依頼を受けました。簡潔に述べると、『冒険者を始めて一年でここまでの成果を出してきた君に依頼を出そう。クラーク王国で開かれる霊技祭に出場して名前を広めなさい』ということらしいですわ。
依頼というのは、私が素直に聞いてくれるようにと付け加えてくれたみたいですわね。名前を広めれば、これからの冒険者生活もより良いものなると言われました。その通りだと、私も思い、素直に依頼を受けました。
この一年で、私も成長したと思いますわ。以前は使えなかった魔法も使えるようになりましたし、奥義も使い慣れてきました。今ならお兄様にも負けません。
私は転移石を使用してクラーク王国へと転移しました。金の霊技大会の予選に出るためのテストにも合格し、無事、予選へ出ることが叶いましたわ。
この場にいる29人の強者達を見事蹴散らし、私が本選へ出場しますわ。そうですね……。まずはあそこで呑気に腕等を組んでいらっしゃる、青白い肌の方にお相手願いましょう。
さあ、最初から、一番強力な魔法を、ド派手にいきますわよ!
ゲーム114日目。
F級ダンジョンを魔法のみで攻略した俺は、クラーク王国へ向かう荷馬車に護衛として乗せてもらいながら、がたごとと揺られていた。
二度目のダンジョン攻略時の宝箱には、ハズレアイテムが入っていた。多分、俺より前に死んでいった冒険者の装備品とかだと思う。街でも普通に売っているような長剣だった。勿論、ちゃんとルークに長剣が魔法具じゃないことを確かめてから売った。銀貨四枚で売れた。20,000円で売れる剣。安物すぎる……。
馬車で揺られ続けて五日目。そろそろあの国に戻れるところまで来ていた。後ろで寝ているルークに寄り掛かりながら、俺は手に巻き付いている黒い腕輪を見ていた。
普段は不可視モードになっているこの腕輪。任意で見えたり見えなかったりできる。腕輪をベチっと叩くとポンとした音と共にウィンドウが現れる。イベント"神の試練"中断中と書かれたその画面を見ながら考える。
《 再開しますか YES/NO 》
再開しますか。これのイエスを押すと、どうなるのか。この存在に気付いたのはつい最近だ。そういえば、いつのまにか腕輪消えてんなと思いだした俺は、腕を叩いたり振ったりしてみたんだが、そしたら急に黒いリストバンドを大きくしたようなあの腕輪が出現したんだ。
んで、よく調べたらこんな画面が出てきた。NOを押すことで画面が消える。……。イエスを押すと、龍人が出てくるのかもしれない。もしくは、龍人の元に転移してしまうのかも。そんな可能性もあるので、迂闊に選択するわけにはいかない。とりあえず放置するか。
『それでね、私は言ってやったのよ。そんな風に偉ぶっても立場ってものが』
『つーかさ、ベルフェはもう少しなんとかならないのか?』
『え、なんとかって?』
『お前、最近何の役にも立ってないじゃないか……。護衛はルークがいればそうそう負けることはないし、魔法も結局は殆どリラナルテんさんに教えてもらったし』
『!?。 わ、私もできるわよ!護衛も、先生も!』
『ベルフェって、使い勝手悪いよなあ。丁度良い戦力の、上級悪魔じゃない普通の使い魔が欲しいです。むしろ下級悪魔の方が使いやすかったんじゃ……』
『そんなこと言わないで。本気で傷付く。そもそもね、こんなゲームじゃなければね、私だって相当強いのよ?便利な女よ?』
『でも、ゲームじゃん。俺と同じくらいの強さでいいから制限無く召喚できる使い魔が欲しい。なあ、使い魔ってどうやったら手に入るんだ?』
『知らないわ!』
『そうか、知ってるのか。吐け』
『し、知らないって言ってるじゃない!少しは信じてよ!』
『確か、あいつは……悪魔の召喚には代償がいるとか言ってたな。代償さえ払えば戦力が確保できるわけか』
『な、なぜそれを……。はあ、無理よ。悪魔の召喚は高くつくわ』
『高くつく……ね。具体的には?』
『そうね。私の場合は、一回の命令につき魂を一つ頂くわ。なるべく親しい人の命を順番に頂いていくわね』
『えぐいな。あれ、でも前に魂なんかいらないって言ってなかったっけ?貰っても置き場所に困るとかどうとか』
『ええ。だから即捨てるわ。召喚者の目の前で。魂って管理が難しいから置き場所に困るし。それに一つ二つ食べたくらいじゃ強くなれないのよ。大量に食べると太るし』
『太るの? じゃあ食えば?』
『む……。女の子にそういうこと言ってると嫌われるわよ』
『女の……子?』
『なにか?』
『いや、なんでもない』
俺の中の、女の子のイメージと少し違っただけです。食べて寝るだけのトドは、果たして女の子と言えるのだろうか。食べなくても死なないのに。
少し前までは頼りになる上級悪魔だったベルフェゴールも、D級ダンジョンでの死亡ペナルティが治ってから活躍していない。魔法での手助けは可能なのだが、戦闘に参加する力がまだ戻っていないんだ。100日間の戦闘制限。それが上級悪魔のデスペナだ。さすが最強種、重すぎだろ……。俺たちの方が重いけど。死んだら終わりだし。
アレンもいなくなって戦力が激減した俺のパーティーに、新しく加わったのが一人いる。名前はルークなんとかダークロード。薄らと青白い肌が特徴の魔族。
俺がリラナルテさんに魔法を教えて貰っている途中で、ルークは初期ランク認定試験を受けに来た。
元高ランク冒険者であるリラナルテさんを相手に互角以上に戦って、文句無しの初期B級。剣士みたいな風貌なのに腰に剣を差したままで、魔法のみでリラナルテさんの蹴りを対処していた。最後の最後で剣を抜いて蹴りを防いでいたが、なんだか居合い抜きみたいで凄かった。リラナルテさんもリラナルテさんで蹴りで剣を受け止めてたし。ガキン!とか鳴ってた。あの靴、軟い靴なんだけどな……。
それにルークは使徒だ。自分でそう言っていた。自分が使徒だということを何かの技術で隠してる鮭延が使徒であると一瞬で見抜かれた。その上で自分は使徒であると俺たちに言ってのけたんだ。なんでも、最近は使徒同士による無意味な戦闘も、大分少なくなってきているらしい。
イベントまで戦力を減らすのはあんまりいい作戦じゃないからな。AとBで戦いあったってCが得をするだけだ。かといって数多くの世界を敵に回せば、一番損をするのは自分たちという現状。少し考えればわかるんだってさ。俺はわからなかった方だが……。天使と鬼と、一部の人族はいまだに好戦的らしいけど。
つーことは、あれだな。俺が使徒にならずに無所属状態でいることに対するメリットが少なくなってきたな。今すぐ使徒になりたいけど、龍人を倒すだけの力がないから、挑戦するのはもう少し強くなってからだ。
ん、そろそろクラーク王国へ到着する。門の所までで護衛は終了だから、そこからは歩きになるが……。きっと、レアが門の近くで俺を待っている。前んときもそうだったから。俺を一目見た瞬間大声で泣きながら抱きついてきた。
最近になって確信が持てた。レアは壊れてしまっている。身内(俺のこと)が傷つくことへの恐怖心でいっぱいになってしまうんだ。依頼に出発するときも行かないで行かないでと泣いてしまうくらいだ。ルークがいるから心配無いと何度説明しても理解してくれない。因みに、自画自賛になるけど、俺だってある程度は強いのでその辺にいる普通の、G~Fランクの魔物にはまず負けない。魔物相手は自重しなくていいから、ドッペルガンとアリアを使って一種のハメ技が可能だ。ハメ殺せる。Eランクの魔物と出会ってしまったとしても、ルークと二人掛かりでなら安全に対処することができる。
この大陸だとDランク以上の魔物は会いたくても会えないくらい珍しいから、俺の安全は保障されているといっても過言ではない。それを何度説明したことか……。俺のことを甘くみてるのかと思って訓練場でレアに俺の動きを見せてから「な、これなら魔物にも負けないんだって!」って教えてあげたのに「いや!」とか「ダメなの!」とかばっかりで話にならない。ったく、これだから子供は……。
だから、レアが泣いてしまう前に俺の考えた作戦がある。簡単に言えば心配される前に心配しまくる!という内容だ。俺の事をあーだこーだ言われる前に大丈夫か!とか、怪我はないのか良かったーとかレアにむかって言いまくればいいんだ。それで、その場しのぎが可能となる。
つまりお兄ちゃん大丈夫?という思考を、お兄ちゃんが私を心配してくれた!に変えてしまえば良い。レアはそれくらい俺に懐いてるんだ。実の妹である美也以上に懐いてるかもしれない。あいつ、最近はまともになってきたし。昔は今のレア並みにお兄ちゃん子だったけど。
ここまで来れば魔物も出てこないだろうし、到着まで少し寝るか。
「到着しましたよ。ミキュア、起きて下さい。起きろー」
「んん……。」
「やっぱり起きません。ミキュアは一度寝るとしばらく目覚めない。これは危ないことです。魔物に襲われたときに出遅れる可能性がある」
「……zzz」
「ああ、すいません。今出ますので。しょうがない、ギルドまで背負いますか」
「……zzz」
あれから少し考えたらもっと良い案が思いついた。そうだよ。ルークに任せればいいんだ。このイケメンなら子供の相手くらい楽々やってのけるだろう。次からはそれを真似ればいい。完璧だ。一部の隙もない。
俺を背負ったルークは門を素通りして街にむかって歩いていく。門番とは顔見知りなので、一々止められることもない。ちゃんと証明書があるからな。一度見せれば十分だ。
ここは大国なので人の出入りが激しい。一々ここで人を止めていたら外に荷馬車の列ができるくらいだ。ここの周辺は比較的安全だが、何かの間違いで魔物が出現する可能性だってある。だから、門番の仕事の一環でなるべく知り合いを作るみたいなものがあるんだ。酒場で酔っている時に言っていたので本当かどうかは知らないが。
俺の寝たふりによりすっかり騙されたルークが、門を通り過ぎてすぐに女の子に声をかけられる。背中の半分くらいまである薄い緑色の長髪に同じような瞳を持ち、真っ白な肌にしゅっとした耳がチャームポイントの、もう天使のように可愛い幼女。レア・リラルト・レミアちゃん。21歳。
ぐったりしている俺を見て顔を青くして近づいてくる。それに気付くルーク。二人はもう何度も合ってるからお互いに顔を知っている。
「お、おにい……ちゃ……」
「あ、レアさん。ミキュアは馬車で寝てしまいました」
「寝てる、だけ?」
「はい。今回の訓練でも傷一つ付いていませんよ?今は疲れているのか眠っています。ほら、ミキュアは一度寝るとしばらく起きませんから」
「うん。お兄ちゃんは、おねむさんだからね」
「ふふふ、そうですね。さあ、近くにラナさんもいるのでしょう? ギルドへの報告は僕一人で行くので、ミキュアさんをお願いできますか?」
「わかった!ラナちゃん、ラナちゃん?」
「ここに、いるよ」
「お久しぶりです、ラナさん。ミキュアをどうぞ」
「はい、よいしょ」
「あ、お姫さまだっこだ」
おいおい、すごい恥ずかしいんだけど。なんでそう抱きかかえるんだよ。背負えばいいじゃねえか。つーか、なんでレアはパニックになってないんだ?ルークは特に何かしたわけじゃないのに……。
ま、まさか、ルークのイケメンスマイル効果で、一瞬にしてレアは心は安定してしまったのか!? 懐いてるはずの俺の笑顔じゃ、不十分だと。く、もっと俺に、イケメン力があれば……。
俺を抱きかかえたラナの顔を、薄目を開けて見る。……。なんて言えばいいんだろう。一見無表情に見てるけど、頬が薄らと赤くなってて、唇がぎゅっとしてて、まるでにやけてしまうのを必死に我慢しているような……。やばい!ここは危険だ!こいつの性癖を忘れてた!
やばい、性的に襲われる!そんな俺の危機感を察知して、頼れる相棒が姿を現す。レアの足元にいたキツが、ひょんと跳びあがって俺の腹の上に着地した。ラナにむかって「くー」と威嚇したような声を出すと、俺の上で尻尾を丸めて座り込んだ。
キツ。Cランクの魔物であるスフィーティア種のキツ太郎。少し黄色っぽいキツネ色の毛並をしている、俺のミニ従魔の魔物だ。従魔として契約されたキツは、主人である俺と心が通じ合っている。通じ合うというのは変な意味じゃなくて、俺が危機感を感じれば、それをキツが察知すると言った感じだ。逆の場合もあるがな。「お腹すいたー」とか、「眠いよー」とか、忙しいときでも容赦なく言ってくる。
キツに何度か噛みつかれているラナは、それで俺に手を出せなくなる。魔物相手には活躍できないキツだがラナ相手になら有効打となりえる。俺がいないときでも、レアのことをこの変態から守ってくれるんだ。
レアの少し大きめのフードには、レアのミニ従魔のミルが入っている。スライム種のミルは自由に体のサイズを変化できるので、フードの中やポケットの中に潜むことが可能だ。レアのことを物理的に守ってくれるだろう。
寝たふりをした俺をかかえて、ラナとレアは宿へと歩き出した。ルークは一足先にギルドへ行ってしまったようだ。丁寧口調の割には宿までのエスコートといった紳士的行動をしない当たりさすがルークと言える。ラナの実力を見抜いているのだろう。今は普通の格好をしているが、その正体はやり手の暗殺者だ。それにルークの本質は荒っぽい冒険者だ。女性のエスコートなんてしない。
この体勢、お姫様抱っこ……。いや、さすがに恥ずかしいし起きようかと思ってるんだけどね。ずっと馬車に乗ってたから腰が凝っちゃって痛いんだよ。この持たれ方だと丁度腰に負荷がかかって、気持ちいいんだ。これに気付いてなかったらすぐ起き上がるんだけど……もうちょっとこのままで。
宿屋まであと五分くらいだろうか。
俺はさも今起きましたよみたいな演技をして、「んん……あれ、ラナ?」と言いながらゆっくりと目を開けた。
「起きましたか、みきゅあくん。このまま、抱きかかえていても、よろしい?」
「よろしくない」
「お兄ちゃん!おかえり!」
「ただいま、レア」
ふむ。笑顔でおかえりと言うレア。つまり泣いてない。これは、依然と比べて症状が軽くなったという認識でいいのか?さすがにルークがイケメンだという理由だけじゃないだろう。今回はちゃんと傷を全て治してから帰ってきたからな。その影響もあるかもしれない。
前回は戦闘服のままだったし。命を危険に晒してきたという感じがしてしまっていたのかもな。
あれから俺は戦わない時は常に普通の服を着るようにしている。確かに戦闘服は便利なんだが、若干目立つし、それにずっと着てたら汚い。一回一回綺麗になってるとはいえ何度も返り血を浴びている。そんな服でレアと接したくないと思ったのだ。レアには血や争いとは無縁に、幸せになって欲しい。同じエルフの男の子でも探して仲良くなって欲しいな。そうすれば、俺への依存も薄くなるはずだ。
別に、レアに依存されるのが嫌なわけじゃない。こんな可愛い子に懐かれたら誰だって嬉しいと思うはず。だけど……俺って、どんなに長く生きれたとしても、12~13年くらいしかこの世界にいれないだろ?いずれは別れる日がくるんだ。そんな時に、レアがこのままの状態だったらと考えると、それが怖い。今度こそ本当に……。
俺がこの街に到着したのは昼を食べてから大分経った後だ。もう外は大分暗くなってきている。ラナの手から降りてから、俺たちは特に寄り道せずに真っ直ぐ宿屋へ歩いて行った。
ふふふ、今日の、お楽しみタイムが、やってきました。
みきゅあくんは、旅の疲れから、ベットに入るとすぐに、寝てしまいました。
レアたんは、そんなみきゅあくんの、腕と体の間に、すっぽりと潜り込んで、幸せそうに、寝ています。
大好きなお兄ちゃんの、服にそっと、しがみついています。小さい男の子と、可愛い幼女が、……。
だが、まだまだです。ラナの本気はここから。
私は、二人が起きないように、ゆっくりと、位置を調整します。
レアたんを、もう少しだけ、みきゅあくんに近づけて……よし、これで完璧。
体に、違和感を感じたのか、レアたんが、薄目を開けます。寝ぼけ眼の、レアたんの目の前には、大好きな、みきゅあくんの、寝顔がいっぱいです。再び目を瞑りながら、頬と頬を合わせて、優しく頬擦りを、開始します。
ああん、可愛い……。二人は、頬を合わせたままです。しばらくすると、今度は、みきゅあくんにも、動きが、見え始めます。まるで、そう調教されたかのように、腕の中のレアたんを、ぎゅっと抱き寄せて、レアたんの頬に、優しく唇を落とし、ちゅっと、キスをします。
寝ているはずの、レアたんも、それに反応します。近くにある、みきゅあくんの、小さな下唇を、ついばむように、はむはむと……うぅ、鼻血が、でそうです。
二人は、いつも一緒に、寝ています。二人とも、寝ているはずなのに、すごく、いちゃいちゃ、しています。みきゅあくんと、レアたんの、絡みを、こんな近くで、見られるなんて……、この依頼を、受けた私は、幸せ者です。
お腹の、奥が、きゅーっと、熱くなって、自然と、胸にむかう、手の動きを、止めます。「はあ、ラナ。性欲ってのは我慢できないもんだし、性癖も人それぞれだ。だけどさ、このベットは借り物だし、窓も一つしかないから匂いも籠る。わかるか? ……そうか。何が言いたいかというとだな、トイレでしろ。これは命令だ」と、以前、言われて、しまいました。顔が、真っ赤になるくらい、恥ずかしかったけど、小さな男の子に、言葉攻めされたみたいで、少し、気持ち良かったです。
二人の姿を、隅々まで記憶して、ベットから這い出て、そのままトイレに、向かいます。
その途中で、聞き覚えのある、"足音"が、聞こえて、きました。この音は、サヤの、ものです。
A級冒険者、手品師、サケノベ・サヤ。夜にサヤが、訪ねて来た場合、何があっても、部屋に入れるなと、みきゅあくんに、言われています。
私の、仕事は、みきゅあくんと、レアたんの、護衛です。例え、依頼主が、相手だとしても、それは、変わりません。
サヤを止める。私は、そっと、部屋から、出ました。
「ちょ、わたしだよ? えっ!?」
「ダメ、なのです」
この、寝顔は、私だけの、ものなのです。
ゲーム118日目。俺がこの街に戻ってから4日後。
大陸各所で開かれている武闘大会の、その予選が始まった。正式名称は『霊技祭』というらしい。
なんでも最初の方は"過去の偉人に近づく為に皆で戦い合って強くなりましょう"的な意味合いで開かれた大会で、時代の変化と共にその意味がぼやけてきて、今の感じでは"誰が最強か決めてやるぜ!"ってな大会になってしまったんだとか。
過去の偉人を英霊と言うらしい。日本語の英霊とは違う意味だけど、そう変換されてる。霊技祭かぁ……。霊の字を取るなら英の字を取って欲しかった。英技祭の方が良くない?発音し難いか。
霊技祭は三つの階級に分けられている。簡単に言うと初心者向けと中級者向けと上級者向け。
初心者向けの大会は青色の大会。『青の霊技大会』。
主にランクの低い冒険者、剣術を教える道場の門下生や、魔法の学校の生徒、そういった人らが出る大会だ。出場するにあたって特に制限はかけられてはいないが、強い人が出て一人勝ちしたりすると全国民から白い目で見られる為、基本的に戦闘初心者しか出てこない。
中級者向けを説明する前に、上級者向けを説明した方が良いだろう。
上級者向けの大会、金色の大会。『金の霊技大会』。
金の霊技大会の予選に出場するには出場資格が必要だ。冒険者の場合はC級冒険者以上。つまりC級冒険者~A級冒険者達の強者達が出場してくるんだ。あ、因みに、俺はD級冒険者だが推薦を受けているので本選から出場できるから。冒険者以外にも有名人や、予選に出る為の試験を突破した人等が出場する。予選の予選があるってすごいな……。
今回は二人のA級冒険者が推薦を受けているらしい。その内の一人が鮭延だと聞いた時は飲んでたミルク噴出したわ。そうなんだよ。あいつ、A級冒険者だったんだよ! 驚いたわ。すごく驚いたわ。驚きすぎて思わず口からミルク噴出して、前に座ってたラナをミルクまみれにしちゃった。鮭延がA級とか、どんなチートスキル持ってんだよって感じだよな。だって、A級冒険者って、B級以下の冒険者が束になってかかっても勝てない証だよ?どんだけだよ。
それで、初心者でもなく上級者でもない人が出場するのは白色の大会。『白の霊技大会』。
これが意外と盛り上がるらしい。一般的に一流と呼ばれる冒険者はD級冒険者だ。国民の間でもカッコいい!素敵!俺、将来はあの人みたいな~ってなるのはこの人たち。C級以上だと動きが速すぎたり技が派手すぎたりして、何してるか分かりずらいもんな。すごい!より、怖い!となってしまうんだ。つまり一般人の想像内に収まるような強者達の試合になるので、白の霊技大会が盛り上がるわけだ。
では金の霊技大会は盛り上がらないのか。それは違う。こっちは剣や魔法や武道を習う人、騎士や兵士に冒険者。そういった戦う人やそれを見るのが好きな人、つまり一般人以上に戦いに詳しい人達が観戦に集まる傾向にある。盛り上がる。すごい盛り上がる。一般人より観戦が熱くなるような人が、本当の一流の戦いを見るために各地から集まってくるんだ。
この大陸全土で霊技祭は行われているが、規模が違う。東の大陸で最も栄えているのがクラーク王国だ。当然、ここで開かれる霊技祭が最も大きい。強者を求める馬鹿が集まるのはここだ。
そんな大会の予選が、今日始まる。三つある巨大な闘技場で開催される。入口から魔法が使われていて、中は魔法技術により冗談みたいに広くなっている。観客席自体が、なんとS級冒険者が唱えた高位の結界で守られていて、そして、皆が見やすいようにと巨大なモニターのような魔法が、つまり戦いの様子を映し出す魔法が使われていて、なんていうか……すごい。金かかってんなぁって感じである。
俺が今座っているのは金の霊技大会の予選会場となっている第一闘技場。その観客席だ。これから金の霊技大会D予選が始まる。そこに我らがパーティーメンバーの一員であるルークが出場しているのだ。
魔族であるルーク。初期B級は伊達ではない。その戦闘力は測りきれず、正直言うとどのくらい強いのかはパーティーメンバーである俺もよく知らない。だから、ルークの強さをこの大会で測るつもりだ。
俺が出るのは本選だから、今はこうしてのんびりと観戦していられる。というか、俺が本選に出て大丈夫なのか?金色の大会なのに。しかも魔法縛りだし、あっけなく負けたりしたらかなり恥ずかしいぞ?
俺の隣には膝の上にミルとキツを乗せたレアが座っている。ラナはレアを挟んで俺と反対側の席で何か美味しそうな物を食べている。レアにも時々「あーん」と食べさせている……俺も欲しいな。異世界版ポップコーンかな。見た目は完全にポップコーンのそれだ。
戦いが苦手というか、トラウマになっているレアを連れてくるか迷ったが、大会のルールを説明して、理解してくれたので連れてきた。レアはこう見えても21年間生きているので、それなりの理解力はあるみたいなのだ。
止めの一撃が非殺傷攻撃になるあの指輪。あれを改良した物が出場者に配られている。指輪に死んだと認識された人から場外へ転移させられる。しかも完全回復された状態で。毒なんかじゃこの仕掛けは突破できない。正真正銘の非殺となる。厳密には傷付く前の状態に戻る感じなのだが……つまり、試合自体は最終的に転移せず残っていた人の勝ちということになるな。
それをレアに説明した。ここで本当の意味で人が傷付くことはない。まして死ぬなんてことは絶対にない。戦う前の状態に戻るから。それを理解した上で戦い合うということを観戦するんだってことを教えた。殺し合う所じゃない、みんなの戦闘技術を見る場だぞ……と。なので、レアのトラウマも発動しないと思う。
因みに、俺が出場するってことも説明済み。死なないとわかっているので、レアも泣かなかった。やはり『死』という物がキーワードになっているらしい。
お、そろそろ始まるみたいだな。
予選は予め組まれた30人でデスマッチ、つまり混戦を行い、本選出場者を決める。今、会場に出ている30人の中から本選に進める2人が選ばれるわけか。ようし、頑張れルーク!
「ルーク、頑張れッー!」
「がんばれー!」
お前には、金貨五枚も、賭けてるんだ!
明日香「まるで、そう調教されたかのように」
美也「……。」
明日香「まるで、そう、『調教』、されたかのように」
美也「……。だ、だって、お兄ちゃん、余りに無防備だからつい。何年も続けてるのに、一向に気付かないから、段々とエスカレートして……」
明日香「そうか。俺の親友は、実の妹に……」
美也「えへへ、お兄ちゃんに、ぎゅって抱きしめられて、大事そうに顔を埋められるとね、もうここらへんが、幸せでいっぱいになるんだよ? なのに、お兄ちゃん、お兄ちゃん……なんで!そんな女より私の方が美味しいよ!私にもキスしてよ!抱きしめてよ!うう、うわーん」
明日香「ガチ泣きかよ。情緒が不安定すぎる……。ああ、待っててねセリちゃん、もうすぐご飯できるから」
セリ「うん、美味しそう! 早くね?」
ベルゼ『うぅ、おしりが、おしりが……』




