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第15話 人影の正体

 「お母さん! お、おじさん、お母さんが!」

 「健ッ! そいつから離れろッ!」


 霊体と思わしき女の使徒を無力化。

 新型……最新鋭の第一装甲。まさかここまでの出力とは。

 先日まで私に配備されていた第一装甲より数倍のエネルギー総量がある。加えてこの装備、両手の中心部にある水晶体。

 高濃度に圧縮されたエネルギーを放出させることができる。効果は確認できた。通常兵器では倒せない霊体を殺せる。

 ……戦闘力も桁外れに上昇している。旧式の第二装甲並みの戦闘力。

 すごい、私の世界は、こんなにも魅力的だ!


 「お前は佳奈さんつれて逃げろ。こいつは俺がやる」

 「だ、駄目だ! おじさん、魔法使いだろ!」


 「今の動き見ただろ。健じゃ勝てねえよ。さっさと行け。早くしねえと佳奈さんが成仏しちまう」

 「でも……」


 杖を持つ使徒が剣を持つ使徒を逃がそうとしている。させるものか。

 脚部に展開しているエネルギーを解放して、剣を持つ使徒に突撃する。

 ミス。杖を持つ使徒による妨害行為。ダメージ無し。攻撃の解析を開始…………解析完了。


 剣を持つ使徒が霊体の使徒と共に後退を開始。圧縮したエネルギーを右手に集中……解放。

 杖を持つ使徒の妨害行為確認。適応済なので効果無し。


 「うう!?」

 「健ッ! クソ、なんで魔法が効かない!?」


 エネルギーが使徒を貫く。剣を持つ使徒の無力化を確認。

 錯乱した使徒の攻撃。適応済なので効果なし。

 再度エネルギーの圧縮を開始。……圧縮完了。これで、終わりだ。


 杖を持つ使徒に右手を向け、エネルギーの解放を開始した瞬間、外部からの妨害を受けた。これは……炎?


 「おお!当たった当たった」

 「さすが、です。ご主人様」

 「おい、私の得物だろ! 先に手出すなよ!」


 「悪い悪い、あまりにも無防備だったからつい。じゃあこいつはカレンに任せるわ。俺とクウロであそこの二人の手当しとくからよ」

 「ふん! 絶対に手出しすんなよなッ! 今日は私の日だッ!」



 ……。新に一人の使徒を確認。

 加えて二人の現地人を確認。内、一人が接近中。

 

 両手に剣を持つ現地人が私に攻撃を仕掛けてきた。

 防衛行動開始。圧縮した少量のエネルギーを解放。発生した斥力フィールドにより攻撃を無力化。

 

 「くッ、ならぁあこいつだああ!」


 その場に剣を捨てて、先とは別の剣を取り出す現地人。

 !? エネルギーの結界を、突破した? 左手からエネルギーを放出。ミス。

 

 剣を持つ女の攻撃。左上腕部にダメージ小。装甲を突破する武具の存在……。

 使徒じゃないのに、この危険度は……無視でき、ない。


 肉弾戦を仕掛ける。エネルギーを全身に循環させる。戦闘能力の上昇を確認……剣を持つ女の戦闘能力を超えるまで、防戦を意識する。

 女の攻撃を対処しながら、脚部エネルギーの圧縮を開始。……解放。


 「こ、の、野郎!?」

 

 杖を持つ使徒による妨害行為。ッッ!? これは……凍って


 「だから、手出し、すんじゃ、ねえええええ!」


 また新たな剣。刀身が200cm以上の大剣による攻撃。ダメージ大。



 「およ、カレンちゃーん! こっちは大丈夫だったよー」

 「おじさん、お母さんは大丈夫だ! 俺も平気!」

 「本当か!? よ、良かっ、たー」


 「ご主人様。私も戦いますか?」

 「クウロはいいよ。カレンちゃん本気モードだから近づくの怖いし」


 「ブレードぉ、そこの男押さえつけとけ!」



 無力化した使徒の回復を確認。使徒四、現地人二。

 大丈夫よミーナ。まだ、大丈夫。


 追加武装の使用許可を申請。…………許可確認。

 左腕シールドモード。右腕ブレードモード。ウィング展開。エネルギー循環開始。

 圧縮済エネルギー充填……完了。


 「お、そうだよな。そうじゃねえとなあ!」

 

 「うへ、敵さんも本気モードだ。クウロ、結界よろしく」

 「わかりました」


 「ほら、おじさんも早く!」

 「あ、ああ。」


 

 現地人の言動から推測するに、バトルジャンキーであると予想。単独での戦闘意識大。

 お前からだ。戦闘狂。





 

 

 大国であるクラーク王国、この国には三つのギルドが存在している。

 

 一つは俺も所属している冒険者ギルド。

 魔物との戦闘等を中心として活動している集団だ。他にも様々な活動をしているが、その殆どは国に住むの国民の為になるようなことが多い。

 この国には騎士や兵士が多いが、それだけでは国を守ることはできても、細かいところまでは守れない。農作物や家畜を魔物から守ったり、他の場所から運ばれてくる物資等を護衛したりするのは大半が冒険者の仕事だ。

 勿論、そういう依頼には一定の人気があるから、いつでも受けられるわけじゃない。やはり目に見えて皆の為になっていることが、自尊心を満たす要因になるのだろう。国民にも結構感謝されるし。偶に割り引いてくれたりもする。

 魔物を討伐する依頼は長旅になることが多い。転移石が存在するこの世界でもそれは同じことだ。ギルドから支給される場合には限りがある。まずは危険度が高いことがあげられる。多数の人命が危険な状況にあるような依頼には、必ずと言っていい程に転移石が支給されるな。

 次に、余りにも遠すぎること。行くのに数ヶ月かかってしまうような依頼がこの国には存在する。なぜなら、ここクラーク王国はこの大陸で一番大きな国だからだ。当然のごとく、この大陸で最も大きな冒険者ギルドが存在しているのだろう。地方では解決できないような難易度の高い依頼が自然と集まってくる。

 他にも色々なケースがあるが、共通しているところはやはり危険度が高いという点。

 冒険者は命を落としやすい。それでも一定数の冒険者が確保されているのは、やはり高収入だからだろう。ある程度の階級に成れば一回の依頼で日本円換算にして数十万から数百万が動くからな。下手すれば数千万もの依頼すら存在する。パーティーで分ける場合でも凡そ百万単位での収入が期待できるだろう。


 二つ目のギルドは魔法師ギルド。

 魔法使いが集まる場所でその活動内容は、簡単に言うと研究職だな。専門の学校に入学すると、G級魔法師の資格が得ることができ、卒業する頃には大抵がE級の資格を持つことができる。冒険者ギルドとは違い、ある程度の実力が無ければ絶対に高ランクの資格を得ることができないというのが特徴だな。

 例えば、冒険者なら一人一人の力が不足していても、特定のパーティーとして活動することで特定の人員でパーティーを編成する場合なら、○級の冒険者として活動してもよいなんて特例が与えられる場合が多々ある。だが、魔法師にはそれがない。

 テストに合格するか、研究が認められた場合にのみ、その階級を上げることができる。テスト内容は高難易度の魔法が使えるか、上手く魔法が使えるか……といった、自己推薦的な意味合いが大きいらしい。俺はこれだけ魔法が使えるぞ!みたいなことを偉い人達の前で発表するみたいだ。

 高い階級の魔法師は、国の軍隊みたいなところに楽に入ることができるらしい。

 そういえば、騎士と兵士は何が違うのだろうか。騎士崩れの冒険者に聞いても余り良い情報が得られなかった。基本的に、そういう情報は酒場で相席になった冒険者から得ているのだけれど……酔っ払いなんだよ皆。酔っ払いの話からの推測だから、あまり要領を得ないんだよな……。盛りに盛って嘘ついてる可能性だってあるし。


 そして、三つ目のギルド。実は、このギルドの存在は公にはなっていない。その存在自体を知らない人も多いんじゃないかと思う。俺の場合は、表示されるミニマップに施設名が書いてあるから場所も含めて知ってはいるが……よく考えればこれも一つのチートだよな。

 そのギルド名はアサシンギルド。多分、暗殺者ギルドってことだと思う。

 仕事内容は、名前から推測できるが……きっと、殺し屋集団なのだろう。規模は余り大きくはないようだ。興味本位で建物を見に行ったが、実際余り大きくなかった。

 魔法パワーで室内だけ広いみたいな場合もありえるが、人の出入りが殆ど無かったので、きっと細々とやっているのだろう。一回一回の依頼料が高そうだから、それでも経営できているのかもな。

 この施設についての情報は持っていない。

 だってそうだろう?例えば暗殺者っぽいやつに、暗殺者ギルドってどんなところなんですかー?と聞いてみたとする。返答はきっとこうだ。ガッデム!なぜ我々存在を知っている!?死ね、ザクぅ!っといった感じで、口封じにと殺される可能性が高い。ギルドのことを知ってる人はギルド自体に詳しいはずだから、暗殺者ギルドの情報を集めたりはしない。

 だからこそ俺は、この施設の情報を余り調べていなかったんだ。






 俺の目の前にいる人影。アニメとかで暗殺者っぽいキャラが着ているような、黒いシンプルな服の上から、同色のロープを纏ったようなそいつは、殺意の籠った視線を俺に向けていた。

 殺気とか中二乙で済まされないのがこの世界だ。スキルの効果で常に触覚を強化されている俺は、確かに殺気というものを感知できている。具体的に言うと、ひりひりとした感じだ。気のせいでは済まされない程のひりひりを、皮膚が感じるんだ。

 かくして、俺は奴を敵認定して攻撃を仕掛けたわけだが……。

 銃弾が闇の中へ溶け込んで、俺と奴との間をほぼ一瞬で通り過ぎ、人影に命中する。

 次いて二発、三発を撃ち続けた。撃った四発全てが人影に命中した。全弾ヒット。銃で撃たれた人影は当然の如く体を数回震わした後に、その場に崩れ落ちた。

 ……拍子抜けだな。手応えがまるで感じられない。

 今まで銃弾を避けるような化け物と戦ってきて感覚が鈍っているのか……とりあえず死体を確認、もといアイテムを回収せねば。

 

 俺は銃を構えながらゆっくりと人影に近づく。

 近づいてみると、案の定その場に残っていたのは、何かが中に入って見えるように細工のされた、穴の開いた黒いローブだけだった。あれ、避けられてたか。回避できたようには見えなかったんだが……。

 

 俺が驚いた(というか不思議に思った)ために生じた隙をついて、一瞬のうちに首筋に何かを当てらた。

 と思ったらすぐに「動くな」と背後から声が聞こえてきた。何かデジャブを感じるが、今回の方が動きが洗練されている。右肩を押さえつけられていて……痛てて、左手を後ろで極められているな。

 

 「動くな」

 「断る」

 『幹也、右手』

 『ああ』


 首筋に何かで当てるために、右腕を肩を押えるだけにとどめておいたのは間違いだったな。二丁目のドッペルガンをアイテムボックスから右手で取り出して、左脇から後ろの奴を撃つ。

 その際に首を何か刃物のようなもので斬り付けられたので、左手で傷口を押えつつ、目線だけで霊薬と回復薬、それと解毒剤を使用する。

 昨日、鮭延を誤って黒蟲の短剣で斬り付けたのを反省した俺は数種類の解毒剤を買っていた。正確に言うと、解毒剤じゃなくて解毒薬という名前だが。

 とりあえず買った解毒剤の中で一番上位の物を使用した俺は、首の傷口を押えながら右手に持つドッペルガンで牽制をする。倒す為の射撃じゃなく時間稼ぎの射撃。MPが増えて制限なしにドッペルガンを使えるようになってきたから、銃弾を避けるような化け物には地味に有効な手なんだよな。

 

 人影はどうやら女らしい。俺の強化された嗅覚がそう言っていた。

 別に変な意味ではないが、男女差くらい嗅ぎ分けられる。女は俺の牽制目的とはいえ、ある程度は狙って撃っている射撃を次々と回避していく。

動きが軽い。飛び道具に慣れているのか?この世界の飛び道具といえば矢とか……あ、魔法があったか。銃弾を避けられる度に自信を無くしていくような気がした。だって、銃だぞ。拳銃だぞ。くそが、なんでこいつら避けれるんだよ。

 回復アイテムの効果で傷が塞がったので、左手を添えて本気で撃つ。数発のフェイントを加えて……だめだ。当たらない。女は弾を避けながらこちらに近づいてきた。


 右手に持つドッペルガンで女の攻撃を防ぐ。

 そのちいさな小刀での攻撃を防ぎつつ、落ちていたドッペルガンを仕舞ってから、左手に投擲用にと買ったマチェットに似た小さな武器を取り出して投げる。外国の映画でククリナイフを投擲していたシーンを見た事がある。それを真似た攻撃。


 それを蹴りで防ぐ女。カンッっと音がした。この世界の靴はえ、これ何で作ったの?ってくらい不思議な素材で作られている。一般用の普通の靴は薄いし、冒険者が履くような丈夫な靴はその辺の剣では一刀両断できない耐久力を持っている。だからといって、この暗さで投げた黒い刃物を蹴り飛ばすか。しかも、しっかり俺に向かって蹴り上げてるし。

 蹴り上げられた似非マチェットを避けるために、体を反らしながらバックステップを踏んだ。

 それなりの速さで飛んでくるアイテムをそのまま仕舞える程、俺のアイテムボックス力は高くない。手元以外から取り出したり仕舞ったりは難しいんだ。女が消えたと思えるほどの速さで俺の背後に回った。この闇の中では頼りになるのは嗅覚だ。仮面を装備しても、光源が無ければ効果が薄い。馬鹿みたいに鋭くなった嗅覚で、相手の動きを追う。

 女は両手に小刀を持って俺を襲ってきた。

 速い。動きが速すぎる。恐らく、対処できないと判断してスキルを使用した。


 《スキル:逃走犯発動》


 女の攻撃を避ける。

 二度の刺突、それの投擲、加えて別の暗器の投擲が数回。良く見えなかったが、多分刃物だったと思う。

 それを全て避けた俺は再度ドッペルガンを構えて銃弾をばら撒く。今度は範囲攻撃だ。街中だからと自重していたら死ぬ。

 

 両手に一丁ずつ構えたドッペルガンに形状変化を促す。

 イメージしろ。ハンドガンの……グロック18Cだ。確か、オーストラリアの自動拳銃。それをフルオートで、幾度もリロードを繰り返して撃ち続けた。

 ドッペルガンの性質上実際に弾倉を交換するわけではないので(弾倉内に自動的に弾が生成される)MPさえあれば弾数計算なんで関係ない。俺は後ろに全力で下がりながら銃弾の嵐を女に向かって吐き出し続けた。

 

 避ける避ける。地面を右へ左へ這うように動いたり、高速で街中を飛んだり跳ねたりと動く女を、銃弾が追い続ける。

 銃声が辺りに響く。街は暗い。当然、真っ暗というわけではないが、室内から薄く洩れる明かりに加えて、俺の手元で火薬の光ではない魔力の光が幾度となく輝いた。

 ……。途中、何度か命中しているはずなんだが、女はダメージを受けているように見えない。すんすん、女から血の臭いはしているから、確かに当たってるはずなんだが……。

 動きが速すぎてHPゲージがぶれて見えるから、効いているのか効いていないのかよくわからない。俺は攻撃を中断した。

 

 攻撃が止んだことが好機とでも思ったのか、女が俺にむかって何かを投擲しながら近づいてくる。

 スキルの効果で回避行動を続けながら短剣を取り出して構えて俺は、女の両手から繰り出される刺突の雨を対処した。スキル発動中に、俺が自ら回避行動を取った場合、俺のHPは消費されずに済むからだ。

 近くで見てわかったけど、こいつ、HP減ってない……。服に穴が開いてるし、そこから血も出てるのにHPが減っていない。どういうことだ?

 

 『ベルフェ、どういうことだ?』

 『いま調べてるからちょっと待って。もう少しだけ』


 『早くしてくれ。こいつ、はやい。はやすぎる』

 『だって、念話越しだもの。これだってすごいことなのよ?』


 

 知るか。つか、この女まじか。この動き……アレンより速いんじゃないか?

 移動スピードは正直言ってたいしたことはないんだよ。普通に俺より速いけど、それでも常識の範囲内だ。非常識なのは腕を動かすスピード。攻撃速度の方だ。避けるので精一杯。というか、避けきれない。

 スキルの助けを得てやっと避けきれる。HPが減ってきたのでスキルをキャンセルしながら回復薬を複数個消費する。

 俺の技術では対処しきれずに腕と脇腹に数ヵ所傷を負ったが、この武器には毒が塗られていないようでHPが減るだけで済んだ。治癒力が高くなる薬も合わせて使用する。

 傷に激しい痛みが走ると、HPの回復に合わせて傷が塞がっていく。始めに戦ったゴブリンと同じだ。治る時に傷付く以上に痛いのが気になるが、そこを無視すればさすが異世界といえるような代物だ。

 

 女の攻撃は熾烈を極める。

 一撃一撃は軽いが、その軽い一撃でも急所に当たれば死んでしまうのが人間だ。得物がナイフに似ている分、剣士とか魔法使いとか相手よりは戦いやすいが……。

 俺がそろそろまずいなと焦っていると、ベルフェゴールからの念話がはいった。


 『わかったわよ、とりあえずは大丈夫ね』

 『いや、大丈夫ってなんだよ。何も大丈夫じゃねえよ』


 『結論から言うと、いま幹也が戦ってるその女は幻。だからどこか近くに魔法使いがいるはず』

 『結論も何もそれが答えじゃねえか。え、こいつが幻?嘘だろ。めっちゃきびきび動いてるぞ』


 『気のせいよ。とりあえず、私を召喚しなさい。魔法を解いてあげるから』

 『本当に幻なのか?傷も痛いし、絶対違うと思うけど……』


 「スキル発動。悪魔召喚」

 「ッッ!?」


 《スキル:悪魔召喚発動》



 緊急用の簡易的な魔法陣が一瞬だけ紫色に輝いて、ベルフェゴールが召喚された。

 ベルフェが召喚エフェクトが欲しいと駄々を捏ねた結果、一瞬光るだけだぞと妥協してやったのだ。


魔法陣から飛び出てきたベルフェゴールは、背後から俺の頭に手を翳して何らかの魔法を唱えた。

 次の瞬間、景色がぐにゃぐにゃと曲がり始めて……って、ぐう!? こ、このおんな、腹に何かぶっ刺しやがった……幻術じゃ、ねえのかよ……クソ痛てえ。


















 お………ちゃ



 おにい……ちゃ




 「お兄ちゃん……お兄ちゃん……起きてよぉ……」

 「んん……もう、朝か? 美也、もう少しだけ……」


 「あ、お兄ちゃん!」

 「え、ああ。レアか……」



 頭が痛い。そして、レアが抱きついている。ええっと……あ、そうだ。幻術?にかかってたのか。うーんと、どこまでが現実で、どこからが幻だ?

 涙もろくなっているのか、また泣いているレアの頭を撫でながら、周囲を確認する。ここは、宿屋の前の、樽の近く。ということは、星を見ていたときから動いていないのか。ん、って、なんだあれ。


 俺から少し離れた所に、ロープで体の殆どを何重にも巻かれているミノムシがふたつ転がっていた。

 ひとつはどうやら鮭延みたいだ。俺を見てえへへと笑っている。

 少し視線をずらしてみる。その隣にはさっきまで俺が戦っていた女が鮭延同様ロープで縛られ転がっていた。

 

 「なあ、これはどういうことだ?」

 「えへへへへ…………ごめんなさい」


 「謝罪はどうでもいい。これは、どういうことだ?」

 「いやね、最初はね、少しね、その、出来心で……」


 「意味がわからん。レアは……大丈夫かあ?なあ、なんでこいつら縛ったんだ?」

 

 レアは泣きじゃくっていて、俺の声が聞こえていないみたいだ。

 いやだとかやーんだとか、おにいちゃあーんだとか言いながら小さい子らしく声を上げて泣き叫んでいる。……。ここまで周りの声が聞こえない程となると、パニック症状と同じようなものだな。身内の危険に対して、敏感になっているのか……。

 

 「そっちの女、何があったんだ?」

 「みっきー、私が教えてしんぜよう」


 「さっさと言えよ。怒るぞ?」

 「まったく、しょうがないなあ、もう……冗談よ?それこっち向けないで。こっちの子はラナちゃん。本物の暗殺者だよ」

 「……どうも」


 

 「ラナちゃん……。幻術使い?」

 「この子にね、レアちゃんの護衛を頼んだのよ。そしたら、みっきーと戦いたいとか言い出してね。私はね、やめた方が良いって言ったのよ?」

 「私、言って、ないよ?」

 

 「鮭延、子供じゃないんだからしょうもない嘘つくな。つか、護衛ってなんだよ」

 「同郷の吉見でね、みっきーとレアちゃんに護衛を付けてあげようと思ったのよ。ギルドを通じて殺し屋を紹介してもらってね」


 「選択ミスしてるだろそれ」

 「そう? それで、ラナちゃんにみっきーが盗賊団を一人で壊滅させたって話たら、……ね?」

 「みっきー、強かった」


 「みっきー……か。俺のことはみきy……みきゅあと呼んでくれ」

 「みきゅあ?それ、プレイヤーネーム?別に私はかまわないけど……」


 「お前じゃねえよ。そっちの子だよ。知らないやつからそう呼ばれるの嫌だし」

 「私? うん。じゃあ、みきゅあくんって、呼ぶね?」

 

 「おう。いや、それよりさっきの幻術はなんだったんだ?」

 「依頼主の実力がどうとかね……どう?」

 「うん、……いいと、思う」

 

 「どう?じゃねえんだよ。そんな遊び半分で人に魔法使うんじゃ……っと、寝ちゃったか」



 いつの間にか、レアが寝ていた。泣き疲れたのか……。レアは泣いた後に急に寝てしまうけど、これも何かの症状だったりは……。心配のしすぎか?

 

 それから少し、地べたに転がっている二人と話してだいだいの事情は理解できた。

 鮭延は親切心から俺とレアの護衛にと殺し屋……暗殺者ギルドの優秀なギルド員を雇ったそうだ。ラナは冒険者ギルド換算でB級冒険者と同等の、暗殺者の資格を持っているらしい。本人の戦闘能力ぷらす魔法での暗殺の手際の良さが認められてとんとん拍子で階級が上がっていったんだと言っていた。


 俺の武勇伝、という名の虐殺行為の詳細を聞いて嫉妬したラナによって、"自分より少し強い相手に闇討ちされて死ぬ"という幻を、俺は見せつけられていたみたいだ。

 幻と思って侮ってはいけない。この幻を見て、脳が自分は死んだと判断すれば、体も心も死んでしまうんだとか……。魔法怖ええよ。そしてラナ、何してくれてんだよ。護衛対象にそんな物騒な魔法使ってんじゃねえよ。確かに俺一人で盗賊団倒したけど、それはこいつがクソの役にも立たなかったからなんだぞ?

 ふざけるなお前らと、そんな説教を二人によく聞かせてやった。

 遊び半分で人を殺そうとするな。俺がお前らを今ここで殺しても、文句一つ言えねえようなことをしたんだぞ?と。

 状況が理解できたところでレアを起こす。レアは二人を魔法のロープから解放してあげていた。レアの中での鮭延株が急降下したみたいだが……。本当に碌なことしねえな。


 そんなこんなで、俺とレアに護衛が付いた。

 というかこの子、鮭延と同類の気がするんだけど……頼む、違うと言ってくれ!











 結論、同類でした。というか、もう一段階酷かった。

 

 

 



 

 


 




姫宮「美也ちゃん美也ちゃん、斉藤君の話聞かせて」


美也「またぁ? 私は別に良いんだけど……姫宮さん、最近お兄ちゃんのことばっかり聞くね。あ! もしかして、お兄ちゃんのこと……」


姫宮「うん。斉藤君、かっこいいよね」


美也「う、うん……。(て、敵だあ! こんな近くに敵がいるとは……。でも、大丈夫! 私とお兄ちゃんの間に入れる人なんて、絶対にいないもん!)」


姫宮「斉藤君ね、私にね、優しいんだ。少し前にね、偶然街で困ってた時に助けてくれたの。かっこよかったなあ……」


美也「へ、へぇー……。確かに、お兄ちゃんは優しいし、かっこいいよ。うん。因みに、何があったの?」



明日香「(偶然? 偶然つったか姫宮。だめだ美也ちゃん、そいつの妄想を聞いたら。そこのストーカー女の話には所々に微妙な嘘が……)」


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