第13話 幹也くん激おこ 裏
13話の裏バージョンです。
その手の話が嫌いな人は次話の表バージョンをどうぞ
「ん……ここは?」
「ここ?盗賊団のアジトがある場所の近くね。特別製の転移石を貰ったのよ」
俺と鮭延は周囲を生い茂った木々に囲まれた、森なのか山なのかよくわからない場所にいた。
本来ならば街や国などに転移するのが主流なのだが、どうやら今回は別らしい。
そもそも転移というのは前もって高位の魔法使いが長距離テレポートを幾度と繰り返して、出口となる場所に転移しやすい環境を作り、そこをまた別の魔法で空間を繋げて道をつくってから、その道にテレポートキー(転移石のこと)を使って入ることで初めて可能となる。そう聞いた。
なのにこんな森に繋がったということは、その襲われたというエルフの集落?の人が協力でもしてくれたのだろう。そこまでしてくれたんだ、早く捕まったエルフたちを助けてあげないといけない。
「よし、盗賊の居場所は知ってるんだな?」
「うん、地図を見たからばっちし。こっちだよ」
「待て。作戦を考える。というか、俺一人なら誰にも見つからない自信があるんだが……」
「それは却下。私も行くわ」
だよな。だってこいつ、本物の盗賊のアレが見たいとか言ってたし。
「……どうしてもか?」
「どうしてもね。大丈夫よ、私だってこの二ヶ月でそれなりの数の依頼を受けているの。甘く見ないで欲しいわね」
「そうか、なら特に口は挟まないが……少なくとも緊急時には俺に従ってくれ。鮭延は信用できない」
「なっ……信用できないの?」
俺と鮭延は歩き出しながら、話を続ける。
「ああ。だって、鮭延ってこういうの慣れてないだろ? 俺はDOCやってたからそういうステージも経験済みなんだ。周囲にバレずに侵入して、お偉いさんを殺し、できるだけバレずに脱出。バレたら敵を倒して生き残れ。途中でエルフを回収。そういう依頼だろ?」
「だいたいはそうね。でも、壊滅だから最終的には全員倒すんだけどね」
「そうか。まあいい。どうせ頭領以外は強くないんだろ」
「うーん……やっかいなのは魔法具の鎧を持ってる頭領だけだがら。他の盗賊だちはせいぜいG級からE級くらいじゃない?」
「E級……。たしか、一般的な冒険者の強さくらいだったか」
「ええ。だから、私たちの敵じゃない。私たちは使徒よ? そういえば、みっきーはD級冒険者らしいね」
「そういう鮭延は?」
「わたし? わたしは……内緒。でもでも、みっきーよりは高ランクだったりするかも」
まじか、ってことはC級冒険者以上ってことか?
どういうことだ。なんかレアなスキルでもあるのか、それとも実は鮭延は強かったりするのか?VR経験者は見た目で戦闘力が判断し難いからな。いやまじで。実際、背の小さな俺が巨漢の不良をボコった時とか、先生に「本当は誰がやったんだ?」って疑われまくったし。あの時は横山が他校のやつにカツアゲされてたから助けてやりたかったんだよな。
「だから、作戦は特に決めないで行こうよ。こういうときはなんとなくでも案外大丈夫なものよ」
「本当に大丈夫か? いざってときは俺だけでも逃げるぞ?」
「大丈夫だから! ほら、そろそろつくよ」
前を歩いていた鮭延が木の影で止まった。俺も同じように影から覗いてみると、少し大きな建物があった。ここが盗賊のアジトらしい。
盗賊のアジトっていうから、洞窟とかを想像していたが、かなり立派な建物だ。つかこの世界の建物は大きいやつは本当に大きいな。
その入口には見張りなのか、二人ばかし盗賊風な格好をした男が立ち話をしている。
「見張り二人。どうする?」
「そうね……殺しましょう。みっきー、できる?」
できるな。俺はアイテムボックスから気味の悪い仮面を取り出した。それを顔に着ける。
鼻から上を全て覆ったその仮面は、薄い紫色をしていて、それをつけた俺の顔は目と鼻がないように見えていて、恐らくとても気持ち悪いだろう。
これはダンジョン内での魔物からのドロップ品だ。五体目の魔物の特性、気配を察知する力と気配を消す力を備えた仮面。いや、正確に言うなら直接対象を見なくてもその存在を認識できたり、俺を見ている奴の認識を誤魔化したりする能力だな。俺の認識スキルと似ているが、その力は仮面の方が断然強い。
これは簡易的なステルスみたいなものだ。
俺とベルフェゴールが検証した結果、この仮面をつけた俺から反射する光には仮面からの力が加わり、相手がその光を目でとらえた際に力が発動して俺の存在をぼやかすという、軽く意味不明なカラクリを発揮することがわかった。
その逆も同時に行っているみたいで、俺の目に入る光には仮面からの力が加わるので直接対象を見なくてもその存在がわかるというわけだな。だからこそ目が仮面で覆われていても外の様子がわかるんだ。目で見る以上の情報を得ることができる。
なのでこの仮面自体も一種の魔法具ともいえるな。いや、魔法アイテムということになるのか?あの魔物も実に便利な物を落としてくれたもんだ。
俺は短剣を逆手で持ち、見張りの死角から素早く回り込む。そして、近くにいた方の男の口を押えながら技:暗殺を発動しつつ短剣で喉を深く切り裂いた。これで完全に死ぬまでに声を出されない。
次も素早く動いて、急に血を噴出した仲間の姿に驚愕した様子の男の口に手を突っ込んで塞ぎつつ、一人目と同じように喉を深く切り裂く。ふう、危ない危ない。もう少しこいつらの背が高かったら手が届かないところだった。
俺は返り血を浴びないように移動しながら、鮭延の元へ帰る。
「ん、これで良いか?」
「ええ。いい動きね」
「まあな。んで、どうするんだ?」
「これを使うわ。血を落とす薬。それと洗浄魔法で見張りの服を洗って、それを着て侵入するの」
ふむ。鮭延も少しは考えているのか。
俺と鮭延は見張りの二人が着ていた服を奪うと、盗賊団の拠点へと侵入した。
少し建物内を探索してみたが、中には盗賊が一人もいなかった。
というより、どこか一か所に集まっているのだろう。奥の方にある一際大きな部屋から声が聞こえきているし。
つーか、はあ。まじか。スキル:五感強化で強化されているおれの聴力が、女の子の泣いているような声を捉えた。つまり、もう、既に始まっている。
「ねね、あの部屋よきっと。みんなで集まっていったいなにをしてるのかしら!」
「多分、もう始まってるな」
「え!? じゃあ、はやく見ないと!」
「馬鹿。今のうちに掴まってる他のエルフを助けるんだよ。さっきのとこ戻って地下行くぞ」
「嫌よ、私はここを動かないわ!」
「こ、このクズめ……。はあ、じゃあその部屋見張ってて、いざって時は足止めしろ。俺は地下に行ってみるから」
部屋を覗き始めた鮭延を放置して、俺は地下へ向かう。
さっき地下への階段前を通り過ぎた際に、強化された嗅覚が嫌な臭いを捉えたからだ。なんていうか、まあ、アレの臭いと、血の臭いと、あとは死臭っていうのかな。そんな臭いがうっすらと地下の方から漂ってきていた。
『幹也、大丈夫?』
『正直言うと大丈夫じゃない。鮭延は完全に狂ってる』
俺は少しふらつきながら、地下へと向かい歩いて行く。さっきっからなぜか頭が痛い。きっと犬以上に鋭くなった鼻が、嫌な臭いを捉えているからだ。
『鮭延は……きっと異世界に来て価値観が崩壊したんだろうな。今のあいつは目の前で人が死のうが犯されようがどうとも思わないだろうよ』
俺の言葉を聞いたベルフェゴールが、声を震わせながら答える。
『あ、あのね、今だから言うんだけど……幹也も、この二ヶ月でね』
『ああ。わかってる。一応わかってはいるが……。原因はわかるか?』
『多分、スキルが原因だと思うわ。罪人は特殊な職業なのよ』
『……。』
初めて聞いた。そりゃそうか。ベルフェゴールの立場なら普通は黙っているだろう。それを聞いた俺がスキルを使わなくなってしまう可能性がある。あれって唯のシステムアシストじゃないのか?よくわからない。
『なんで話した?』
『な、なんか、急に不安になってきて……』
『不安?大丈夫だ。俺は自分の思考がずれてきていることを理解しているから』
『え?』
『前からリアルなVRゲームをやっていて、相手プレイヤーを銃で撃ち殺して、そんなことばっかりやっていたからだろうな。この世界に来た当初も、生き物の命を奪うことについて特に抵抗はなかったんだ』
俺はそれを不思議に思っていた。最初はゲームだと思っていたが、なんだか異世界みたいだし。アレンを襲ってくる奴らを正当防衛だからと殺したり、死んだ奴のアイテムを漁ったりしていたときに、なんで人を殺しちゃいけないという考えが浮かばなかったのか。
『だからだろうな。少しずつ、ここが異世界だってことに酔ってたんだ。異世界だから殺しても良いし、異世界だから奪っても良い。異世界だから異世界だからってなんでも目を逸らしてさ』
『み、幹也、少し変よ? さっきっから幹也の考えが上手く読めないわ』
ん? そういえばさっきっから妙なことばっかし考えてしまうな。普段の俺ならこんなことはそんなの今更だろと切り捨てるはずだが……。
『あー……。なにか思考が誘導されているな。お前か?』
『わたしじゃないわよ! え、思考が誘導?』
『まあいい。お、ここだな。ッッ!? 臭いが酷い……』
地下室の奥の方に、簡単に言うと臭い部屋があった。その扉を開ける。
…………。うわー。間に合わなかったとは思ってたけど、思った以上間に合ってなかったみたいだな。そりゃそうか。エルフが攫われてから、何日たってるんだ? 少なくとも、昨日今日の話じゃないだろう。
扉の奥には、何人ぐらいだろうか。とにかくたくさんのエルフの死体があった。誰一人生きていないな。その死体にはアレの後が見えるし……本物の盗賊はやっぱ鬼畜だな。
さすがに死んだエルフからアイテムを奪ったりはしない。俺は死体に手を合わせると、先の部屋まで戻ることにした。最初は一人が犠牲になっているうちに複数の命を助けようと思ったが、失敗だった。上には少なくとも一人は生きているんだ。彼女を助けよう。はあ、こんな依頼金貨10枚じゃ安すぎる。安易に引き受けるじゃなかった。
上へ戻ると、部屋を覗いていた鮭延が消えていた。
俺は不思議に思い、扉の隙間から中の様子を覗いてみる。すると、盗賊が輪を作るように円状になって、エルフを囲んでいた。そして、一人の盗賊の男が、幼いエルフの女の子に×××させていた。
つーか、よく見るとその男は鮭延だった。鮭延はアバターに男キャラを作っていて、スキル:最適化で男になれると俺に自慢していた。その話の途中で男姿を見たんだ。だから見覚えがある。見張りの男から奪った服を着た鮭延のアバターが盗賊に交ざっていた。やばい、キレそう。
危うく飛び出しそうになったが、もう少し状況を観察する。
室内にいる盗賊は、鮭延を除いて18人。そのうち一人は豪華な鎧を装備していた。まあ、下半身はもろ出しで、更に上も半分くらい脱いでいるが。完全に油断してるな。あいつがリーダーか。
他の奴らは普通の服装だ。軽く汚れているような布で出来ている服を着て、腰に短剣やら手斧やらを付けている。円状になったそいつらの、頭領から鮭延までが下半身を出していて、反対方向は仕舞っているのを見ると、つまりそういうことだろう。
更に付け加えると、その頭領らしき男の隣にデカい砂時計が置いてある。砂時計の内部の砂は、もう少しで完全に下に落ち切ってしまいそうだが……ああ、はいはい。なるほどな。
エルフの女の子の焦っているような表情、周りの盗賊団の半数が時計を見ながら浮かべている笑み。それでだいたいの予想は付く。砂時計が落ち切るまでに盗賊全員のアレを×××すれば逃がしてやるとかそんなんだろう。そうやって少しでも希望を持たせて遊んでいるってわけだな。なるほどなるほど。じつにたのしそうだ。
エルフの女の子は今も泣いていて、その全身が汚物で汚れている。可哀想に。……はあ。よし、もういいよな。
『なあベルフェ、あいつらって、とりあえず殺してもいいんだよな?』
『いいんじゃないかしら。鮭延さんは?』
『鮭延ね。さすがに殺しはしないよ。第七世界が勝つためには一人でも使徒が多い方がいいだろうし』
『そうね。それにしても、あの子ってあんなに悪い子だったのね』
『それは違うな。俺と同じで雰囲気に酔ってるんだ。ようは目を覚まさせればいいんだよ』
俺は部屋に侵入すると、入口から比較的近くにいた頭領の首に短剣を差し込んで、横に刎ねる。はい、終了。どんなに剣が強くても、魔法が効かなくても、油断していれば人間は簡単に死ぬんだ。この間抜けが良い例だな。
いきなり頭が死んで茫然となる盗賊たち。アイテムボックスからドッペルガンを2丁取り出し、ハンドガン状にしたそれを使って次々と盗賊達を殺していく。
人を確実に殺すには脳幹に二発程度で十分だ。完全に油断しきっていた盗賊たちはすぐに腰から武器を取り出して俺に向かって構えようとするが、上手く俺を認識できていなかったのだろう。ステルス中でもちゃんと直視すれば、俺の姿を捉えることも可能だろうが、なんせ場がパニック状態だからな。仮面の効果が最大限に発揮される。盗賊が俺に飛びかかる前に、他の17人全てを殺すことができた。
エルフの女の子は吃驚した様子で周りを見ているが、鮭延はまだ女の子の頭を掴んだままだった。
俺は腰を振る鮭延に近づくと、女の子にあたらないように注意しながら足を銃で撃ち抜いた。
この世界の物であろう軟らかそうな靴を楽々貫通して、足の甲を撃たれた鮭延が叫びながら体液で汚れた床をのた打ち回る。俺は鮭延から離れたエルフの女の子の首に向かって手首を打ち付けて意識を奪うと、ベルフェゴールを召喚した。
「ベルフェゴール、俺のMPを使っていいから、前に言ってた記憶を消すってやつをこの子にかけてくれ」
「……わかったわ。でも、強力なやつだと後遺症がでちゃうわよ?」
「じゃあ弱いのでいい。いずれ思い出すだろうが、その場しのぎでもいいんだ。とりあえずショックを抜く」
「そうね。でも、弱い方でもよっぽどのことがない限りは思い出さないはずよ。じゃあ、今から半年分くらいでいいわよね」
ベルフェが女の子に魔法をかけるのを見たあとで、次は鮭延の方へと振り向く。そこには女の姿に戻った鮭延が、まるでさっきのことなんてなかったかのように普通に立っていた。
「みっきー、わたしの足撃ったわね。なにそれ、本物の銃?」
「てめえ、自分がこの子に何をしたかわかってんのか?」
「そうね。ナニをしたわね」
「……じゃあ撃たれて当然だよな。ああ? なんだ、もう一発喰らっとくか?」
「え、おこなの?」
「……。」
俺は溜め息をつきながら銃口を鮭延に向ける。すると焦ったように謝ってきた。
「わ、わかったわよ! ごめんなさい、反省してます。もう二度としないわ!」
「……ったく、くそが。いいか、今回だけだからな」
俺は再度ベルフェゴールの方に視線を合わせた。片腕でエルフを抱いたベルフェゴールがもう片方の手を頭に置いている。最初は光を発していたが段々とそれも弱くなっていった。
「ベルフェ、魔法終わったか?」
「ええ。これでこの子はここ半年間の出来事を覚えていないわ」
「じゃあ、今からスキル:邪教徒を使うから、宿の俺の部屋にテレポートしろ。それでこれがお湯とタオル。これ使ってこの子を拭いてやってくれ」
俺はアイテムボックスから取り出したお湯の入った水筒と新品の良い生地で出来た布を渡しながら話を続ける。
「そしてから再度テレポートしてこの金を使ってダンジョン近くの以前泊まった風呂がある宿まで行ってこの子を洗ってやってくれ」
クラーク王国のデメタスさんの宿屋には風呂はない。そもそもあの国に風呂はない。お湯で体を拭くのが主流だ。
「風呂付の宿にテレポートし終わったら一回念話しろ。それで洗い終わったらもう一回念話だ。その後はクラークの宿屋に三回目のテレポートで戻って、この子を寝かしといてくれ。その後はお前も同じ部屋にいろ」
《スキル:邪教徒発動》
俺の話を聞いたベルフェとエルフの姿が消える。
その後、一回目の念話があるまでスキルを発動し、『もういいわよ』との声を聞いてから、スキルをキャンセルさせる。加護の時間が少しだけ減ってしまったがしょうがない。今は一刻も早く、この子の汚れを落としてあげたい。
最後に俺はようやくだといった感じで、部屋の隅にある椅子に向かって話しかけた。
「そして……おい、お前はなんだ?」
「…………。ん、なんだ人族、俺が見えるのか?」
俺の言葉を聞いて、姿を現したのは異形の化け物だった。
一言でいうと、悪魔みたいな恰好をした魔物。姿を消せるみたいだが仮面の探知に引っかかっていたのだ。手をだしてこないみたいだから様子を見ていたが……。
足を組みながら頬杖をかいて俺を見ている魔物。俺は少し思ったことを聞いてみることにした。
「一ついいか? 俺になにかしたか?」
「んんー……どうしてだ?」
「いやな、何かここに来てから妙なことばかり気になってしかたなくてな。なんていうか、変な魔法でも使ったか?」
「やっぱり気付いちゃうか。俺の駒も全部壊しちゃうし、お前いやな奴だよな」
「え、何々? 話が読めないんだけど?」
「簡単な話だ。こいつが盗賊を裏で操ってたとかいうオチなんだろ」
俺の言葉を聞いた魔物はすっと椅子から離れる。俺はドッペルガンを魔物に向けながら話を続けることにした。
「だから俺になにをしたか教えてくれ」
「普通なら絶対に教えないんだけど、俺のこと気付いたし、魔法にも気付いていたから褒美に教えてやってもいいかな。この建物にはな、ある魔法がかけてあるんだよ」
「魔法?」
「欲望とか、悩みとか、深層心理で考えていることが徐々に膨れ上がるって魔法でな。だからここの盗賊たちは俺の言うことをよく聞いてくれたんだ。こうすれば上手くいくぞ、こうすれば金が手に入るぞ、こうすれば女を奪えるぞって教えれば、欲が膨らんで、すぐに実行してくれる」
「え、じゃあ私も?」
「そこの女も、なんか欲望に忠実になっていたな。発情した猿みたいだったし、案外見てて面白かったぜ?」
ん、どういうことだ。鮭延は自分から襲おうとは思ってなかったって感じなのか?とてもそうとは思えない程楽しんでいたみたいだったが……。涎とか垂れてたし。
「鮭延、どういうことだ?」
「あ、あのね。言い訳っぽく聞こえるかもしれないけど、気付いたら体が勝手に……」
「俺の魔法は効くからなー。欲が大きければ大きいほどすぐに膨れ上がる。ここの頭はそりゃもう欲の塊みたいな奴でなー」
笑いながら俺と鮭延に話しかける魔物。少しなれなれしいな。
「あれ? だってお前、悪魔付きだろ? さっきのって何の種族なんだ?服装からして淫魔か夢魔か?見かけたこと無いけど」
「悪魔付き?」
「お前、人族の分際で悪魔と契約したんだろ?いったい何を差し出したんだ?」
「……。」
「み、みっきー?」
黙った俺に対して何か思ったのか、鮭延が心配そうな声を上げた。
うーん、どういうことだろうか。悪魔って普通は契約とかしないと使役できないのか?俺はゲームシステム的なもので主従関係を満たしてるから特になにも差し出していないんだが……。きっとこの世界では悪魔と契約するのに魂とか命とかその辺を代償ししなくちゃいけないパターンでもあるんだろう。俺には関係ないが……とりあえず話を合わせておくか。
「ああ。大切なもんを取られちまったよ。それで、悪魔付きってのは悪魔を従える人間のことか?」
「人間? まあそんなもんだ。悪魔付きなら他の悪魔に対しても友好だからな。とりあえずそれをこっちに向けるなよ。さっき見たからわかるぜ、武器なんだろ」
「でも、なんでこの盗賊を駒にしていたんだ? こいつと契約でもしてたのか?」
俺は盗賊団の頭領の死体を足で蹴りながらそう答えた。そして、こいつは魔物じゃなくて悪魔らしい。すぐに殺してもいいんだが、上級悪魔であるベルフェゴールの強さを知っているからな……。できれば戦いたくない。友好とか言ってたし。依頼は盗賊団を壊滅させることだからこの悪魔とは戦わなくてもいいはず。
「いや、俺は誰とも契約してないよ。ただ、俺を使役できるような奴が出来るのを待ってたんだ」
「出来るって?」
そう呟いた鮭延の質問に対して、律儀にも悪魔は答えてくれた。
「俺の力が特殊すぎてな。深い絶望を感じてるとか、今にも死にそうな奴にしか俺を使役できないんだよ。だからそういう存在を意図して作ってたんだ。因みにお前もそこの悪魔付きも俺を使役できないな」
「まあ、俺は特に絶望してないし、死にそうでもないからな」
「私も、別に悲しくないし……」
「さっきのエルフは良い感じだったのによ。何日も何日も他のエルフのを見せつけられててさ。もう少しで俺と契約できる器になったかもしれなかったんだけどなー。それを邪魔してくれちゃってさ。まあ、いいや。んじゃあ俺はもう行くから」
「そうか。またどっかで会ったらよろしくな」
「え、なにそれ? なんで悪魔と仲良くなってるの?」
馬鹿。敵に回すより良いだろ。悪魔って強いんだぞ?少なくとも俺じゃ勝てない。
「悪魔付きじゃなかったら仲良くしないけどな。じゃあなー」
「……。」
「え、あ、ばいばい!」
こうして悪魔は去って行った。姿を表したとき同様すぅっと消えるように。仮面の探知能力によると、テレポートの類の移動法みたいだな。急に反応が消えたし。
俺はドッペルガンを仕舞った。とりあえず、エルフたちを供養するか。
「おい、地下でエルフが死んでる。外に埋めるから手伝え」
「え? いやいや、埋めないよ?」
「?」
「アイテムボックスに死体を仕舞ってギルドに提出するんだよ。そのあとは依頼主のエルフ達で処理するから」
そうなのか。死体ってアイテムボックスに入るんだな。それも初めて知ったわ。なるほど、たしかに適当に埋めるよりは、エルフ式の葬式みたいなのをちゃんとしてやった方がいいもんな。
とうかあれだな。悪魔の話聞いて納得がいったわ。最初にベルフェが不安だ不安だって言ってたあれも、鮭延が暴走したのも、俺が妙にナイーブになったり怒りっぽくなってたのも、魔法の効果だったのか。
うーん……本当にそうなのか?確かに、俺は同級生が女の子を襲っていたからといっていきなり銃で足を撃ったりはしないはずだ……よな? 状況が意味不明すぎて上手く想像できないが、多分しないはずだ。
そういえばベルフェゴールも突然自白したしな。俺の思考が狂ってるのを、スキルが原因だとかよくわかんないこと言ってたし。よくわかんないのに俺は知ったかぶっていたし。その辺は反省しないといけないな。
うん、やっぱり魔法は危険だ。魔法に何かされていたとしても俺じゃ感知できないんだもん。その辺もリラナルテさんに習うか。
その後、俺と鮭延は地下室で亡くなっていた14人のエルフの体を軽く拭いてからアイテムボックスへ入れて、転移石でクラーク王国へと戻った。
ギルドに報告を済ませてから、報酬の金貨10枚を受け取って鮭延と別れた。
いや、貰った金貨は15枚だ。鮭延から「これでエルフの子に護身用の武器でも買ってあげて」と金貨を五枚渡された。一応は反省しているみたいだった。
俺は宿へ戻る途中に、錬金術で作ったアイテムを販売している店に寄り、魔力を込めると対象を捕縛する効果がある指輪を買った。値段は金貨7枚だったが、種族がエルフなら小さくても使えると言っていたのでこれで良いだろう。他にも服やぬいぐるみ等色々と買った。
あのエルフの子。どうやら既に両親が死んでいるらしいのだ。というか、村を襲撃された際に男性のエルフは皆殺しにされ、女性のエルフは全て盗賊に連れ去られたらしい。森の中で静かに暮らしているような小さな村だったそうだ。
だからあの子の父親も母親もすでにこの世にはいない。そうなると、どこか別の村のエルフが引き取ってくれるのかと聞いてみた。その返答によると、どうやらそういうわけにはいかないらしい。詳しくはわからないが。
それで、そういう子供は大抵は孤児になるか奴隷になってしまうかの二択なのだとか。孤児になるとスラムとかで暮らすことになる。この国に孤児院という施設はないみたいだ。奴隷になれば、その末路は酷いものだと聞いた。亜人種の子供なんて、変態が主人になれば玩具にされかねない。この世界は地球程その手の権利が五月蠅くないからな。
てか、この話をギルドの係の人達に聞いてる途中から、なんだか俺が預からなきゃいけない雰囲気が出来ていた。最終的には正式に頼まれた。生き残りの子供がいるって言っただけなのに、しばらく預かってくれないかって。俺は俺で龍人を倒すっていう目的があるんだけど……。少し困るが、リラナルテさんが俺が冒険に出るときは私が預かると言ってくれたので、とりあえず一旦俺が面倒をみるということに決まってしまった。
俺は別に子供の世話が嫌なわけじゃないんだ。嫌じゃないが……説明するのが嫌なんだ。なんて言えばいいんだよ。君の両親は死んでしまったから今日から僕が君の家族だよって言うのか?100%大泣きされて終わりだろ。むしろ嫌われるわ。
ここで嘘をついて、両親から君を預かるように頼まれたとでも言うのか?それが嘘だと分かった時に倍嫌われるわ。というか、本当に何をするかわからない。極論だが自殺する可能性だってある。パパとママのところに行きます……みたいな。
ああ、やばい。そろそろ宿に着いてしまう。とりあえずは本当のことを話す感じでいこう。変な嘘をついてもしかたないし。村が盗賊に襲われて君だけしか助けることができなかったんだ……みたいな感じで。それで、泣きまくるだろうから、抱きしめたり頭撫でたりして慰めるしかないよな? 絶対そんなのじゃ慰めにならないよ。うわー、マジでどうすればいいんだ?
俺は必死に頭を働かせながらゆっくりと宿屋に向かって歩いていたが、とうとう着いてしまった。入口の酒場を抜けて、奥の部屋まで歩いて、……あれ? 部屋から泣き声が聞こえる。ああ、どうしよう、話す前から既に泣いていらっしゃる。
でも、いつまでも部屋の前でうじうじしていても仕方ない。よし、俺は意を決して部屋に入ろ……うとしたところで、内側から部屋を開けられた。そこには、鮭延沙耶が立っていた。は? なんでお前が俺の部屋に?
「やあ、みっきー。レアちゃんには事情を話しておいたから。みっきーは両親の知り合いのお兄さんって設定にしておいたからあとよろしく」
「え、は、はい?」
そう言うと鮭延はすたすたと歩いて行ってしまった。どうやら既に色々と話してしまったらしい。あいつ、嫌な役目を引き受けてくれたのか? エルフちゃんには、どうしてもその辺を話す側に嫌なイメージが付いてしまうだろうからな。
両親の知人のお兄さんであるらしい俺は、小さい子特有の大声を出しながら泣いているレアちゃん?に近づいて、声をかけた。
「れ、レアちゃん?」
『止めちゃダメよ幹也。とりあえず一回泣き止むまではちゃんと泣いた方がいいの。泣くという行為自体がストレスを解消させるんだから』
ベットの上で崩れるように泣いているレアちゃんの横に腰掛けていたベルフェゴールに念話でそう言われた。そ、そうなのか? いや、でも小さい子が泣いているときってよしよしと慰めるイメージがあるんだが。
とりあえず、ベルフェの助言に従って俺も横に座り、しばらく待っていた。すると、泣き声が段々と小さくなっていって、泣き方もわんわんだったのがしくしくと言った感じになってきている。
『なあ、なんて声かければいいかな?』
『ええっと、両親が亡くなったって聞いたばっかりだから……』
二人で念話をしながらあたふたしていると、目を両手で擦っていたレアちゃんが泣いた後の特有の声で、俺に話しかけてきた。
「お、おにいちゃんが、みきやおにいちゃん?」
「あ、ああ。俺が幹也お兄ちゃんだ。そういうきみはレアちゃんかなー?」
俺はできるだけ優しく声を出すように心がけた。
「うん、れあ。れあ・りらると・れみあ。21さい」
「そうかそうか。レア・リラルト…………21歳!?」
少しありえない情報が耳に届いて大きな声を出してしまった。俺の大声にびくっと肩を震わせるレア(21)。
「あ、いや、ごめんね。レア・リラルト・レミアちゃんだね。俺の名前は…………幹也。でも、みきゅあって呼んでね」
「みきゅあ、おにいちゃん?」
「そう、みきゅあお兄ちゃん。今日からレアのお兄ちゃんになる人だよ?」
「れあの、おにいちゃん?」
「そうだよ。何かあったら何でも言ってね」
「うん……うん」
泣いてしまっているレアちゃんを見て、彼女が失ってしまった父や母の代わりになることはできないが、せめて頼れるお兄さんでありたいと、そう思った。
うん、うんと頷きながら、再度泣き出すレアちゃん。いや、もうレアと呼ぼうか。レアは俺の服を掴みながらさっきと同様大声で泣き出してしまった。折角泣き止んだと思ったのに。
『また泣いちゃったよ! ベルフェ、どうしよう?』
『うーん……今度は抱きしめてあげたら? さっきとは違って幹也のことを身内と認識してるみたいだし』
そうか。俺は左腕を使って俺に寄りかかるレアを抱きしめてあげた。レアは顔を力強く俺の体に押し付けながら大声で泣いている。
『ふう。このまましばらくは抱きしめとくか。そういえばベルフェ、21歳ってどういうことだ?』
『それね。エルフの成長速度は遅いのよ。この子はハイエルフの子供だからより一層成長速度が遅いわ。寿命が800年くらいだから。だいたい100歳くらいで成人になるはず』
『100歳で成人。それで21歳なのに、人間でいう7~8歳くらいの見た目なのか……』
『成人しても死ぬまで殆ど老化はしないらしいわね』
そうなのか。レアの頭を撫でながら少し観察する。
薄い緑色をした綺麗な髪に、同色の目。すうっと横に尖った耳を持ち、全体的に痩せている。可哀そうに、こんな華奢な子があの盗賊達と鮭延に色々されてたんだもんな。……。あのクソ共はもう少し痛めつけた方が良かったかもしれない。あっさりと殺しすぎたな。
とりあえずこの子を預かることになったが、こうなると本格的に今後の計画を修正せざるを得ないな。今までの予定だと、魔法習う⇒大会出る⇒仲間見つける⇒その後自分を強化⇒いずれこの国を出て強そうな人を探すって感じだったが……あれ? 別にこのままでも良いのか? いや、こんな小さな子を連れてその辺をふらふらするのは難しいな。冒険中はリラナルテさんが預かるみたいなことを言っていたが、そういつまでも預かってくれるものじゃないだろう。
『なあ、ベルフェ。この世界って、小さい子を連れて動き回るには危険だよな?』
『危険ね。でも、この子はエルフだから、魔法とかが使えるわよ?上達できれば、少しくらいなら大丈夫かもしれないわ』
『こんな小さい子でも?』
『そもそも人族でも使える子はすぐに使えるようになるわ。魔法に年齢は関係ないから』
『そうなのか? いや、俺の世界には魔法なんてなかったから、その辺のことはよくわからないんだよな』
『魔法使いとしての才能は遺伝の影響が大きいからねー。私のお父様もお母様も、おじい様もおばあ様も、みんな魔法が上手かったから私も強いのよ?』
『そりゃあ悪魔だからな。魔法だって上手いだろうよ。でも遺伝なのか……。俺の父さんも母さんも、魔法なんて使えないだろうしな……』
『影響が大きいだけで偶にいるけどね。あり得ない程の才能を持っていたりとかする子も。上級悪魔にもね、ベルゼブブって子がいてね』
それからしばらくベルフェゴールの恒例となってきた上級悪魔話を聞きながら、レアが泣き止むのを待っていた。
記憶を失ったとはいえ、もう体力は既に残っていなかったようで、泣き止んだらすぐに寝てしまった。俺はレアの指に魔法アイテムである捕縛の指輪を付けて、魔法効果で指のサイズに合った大きさに変化したそれに感心してから、同じベットだとアレだからベルフェに寝具セットを出してもらって、ベルフェと一緒に寝た。
次の日、起きたら俺もベルフェもロープでぐるぐる巻きにされていた。……なんぞこれ?
美也「お兄ちゃんをお兄ちゃんと呼んでいいのは私だけなのに! にぃー……zzz」
明日香「……びっくりした。急になんだよ、寝言?」
乙牌「寝言ね。きっとどこかで幹也に新しい妹でもできたのよ」
明日香「(……え? この人が言ってるってことは、本当に?何処で何してんだよ幹也ぁ……)」




