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第12話 見たくないわけじゃない

 

 俺はクラーク王国にある高級家具が売っている店に来ていた。

 民衆向けでもなく貴族向けでもない、微妙に高い商品ばっかりが置いてあるその家具屋。具体的には金貨数枚で買えるような商品が多い。

 金貨一枚がだいたい50万円くらいなので高すぎだろと思わなくもないが。そもそも貴族が買うようなところだと俺は入店すらできないしな。

 俺とベルフェゴール(召喚済)は寝具のコーナーで大きめの枕を選んでいた。抱き枕なんて枕は残念ながらこの世界には売っていないので、大きめの枕を抱きしめて疑似抱き枕とするのだ。

 抱き枕はベルフェゴールが買うんだがな。俺は普通の枕がもう一つ欲しい。


 「幹也幹也、これなんかどうかしら?」

 「おお、ふっかふかだな。たしかにこれなら抱き心地はよさそうだが……枕一つで金貨二枚ですか」


 「えぇー、ダメ?」

 「嫌、ダメじゃないけど……ダメじゃないけどさ、うーん…まあ、いいか」



 そもそも、今回のご褒美はベルフェゴールがダンジョン内で文字通り死ぬほど頑張ってくれたことから発生している。文字通りというのは実際に死ぬまで戦ったからだ。

 ただゲームの設定上使い魔は死ぬことはないので、大ダメージを受けると普段待機している空間への強制送還となる。そして一定時間召喚できなかったり念話できなかったりするのだ。

 だから金貨二枚、つまり100万円相当の枕を買ってあげることも吝かじゃないけど……今回の冒険で買い貯めていた霊薬(エリクサー)を全部使っちゃったんだよな。一つ金貨一枚~三枚でHPもMPも傷も怪我も殆ど回復できるようなやつ。それを少し買いたかったんだが……どうせ金は足りないんだし、寝具に使っちゃうか。

 俺とベルフェゴールはそこで枕を二つ購入し、その店から出てギルドにでも行こうかと考えていたところで、店の前に立っていた鮭延が俺の前で両手をバッっと広げながら喚いてきた。


 「奇遇だねみっきー、さぁ、冒険だ! 冒険いこうぜ!」

 「…………ああん?」


 「うわ、ガラ悪いよ。依頼だよいーらーいー」



 そう言いながら俺の肩に腕を回してくる鮭延。やめろやめろ、鮭延菌が移る。


 「私さ、ギルドで依頼を受けたんだけど、ほら、私ってこの街に来てまだ一日目じゃない? 知り合いなんていなくてね。前に一緒にいた子達は他の世界の使徒に殺されちゃってさー」

 「だからなんだよ急に、それに重い話をそんな軽い口調で話すな。他の世界の使徒についての情報くれ」


 「まあまあ、それでさ、できれば一緒に依頼を受けて欲しいんだよ。もちろん、報酬は払うわ!」

 「いや、そんなことはどうでもいいんだ。他の世界の使徒についての情報をだな……」


 「その額、じゃじゃーん、金貨20枚ッ! 二人で分けても一人当たり金貨10枚です!」

 「……なに?」



 金貨20枚。1,000万相当の依頼。Cランクの黒蟲討伐よりも高いだと……。どんな依頼なんだ?


 「ふむ、先に依頼内容を話せ。聞いてから決める」

 「依頼内容はね、盗賊団の頭領の殺害ッ!を含めた盗賊団の壊滅です。往復分の転移石貰ったから上手く行けば一日で依頼も終わるし、どうかな?」


 「盗賊団の壊滅で金貨20枚もでるのか?」

 「そうなのよ。この盗賊団のリーダーさんが魔法具の鎧を持っていてね、魔法が効かないらしいの。だから今までに複数のエルフの村が襲われているの。それで、その被害者のエルフたちが依頼料を上げたってわけ」


 「魔法が効かない……。たしかに、それだったら魔法の得意なエルフには脅威になるのか。だけど、エルフってゲームとかだと弓も得意だよな?」

 「この世界のエルフが使う弓術は弓に魔法を掛けて威力を上げるのが主流みたいだから、魔法が効かないとなるとそこまで強くでれないのよ。実際その盗賊団の頭領は剣術もかなりの腕らしくてね」


 「魔法が効かなくて接近戦もできるのか。つか、なんで俺なんだ?」

 「幹也って、魔法職じゃないでしょ? 短剣装備してたから、暗殺者(アサシン)とかじゃないの?」



 んー、本当は罪人(つみびと)って職業なんだけど……。暗殺者の方が都合良いか。いくら同郷だからって手の内をぽんぽん晒すのはよくないからな。


 「お、よく気付いたな。俺の職業は暗殺者。黒蟲の毒での毒殺が得意だぜ」

 「だから、私と幹也で盗賊団のアジトに侵入して、頭領さんのことを暗殺して、ついでに盗賊も皆殺しっと」


 「そう簡単にいくか? ……。でも、金貨10枚か」



 たしかに金貨10枚なら受けても良い。その報酬で霊薬が買えるからな。

 いつ強敵に出会うかわからないこの世界だ。俺がMPを確保できるかできないかでベルフェゴールの戦闘能力が変化するわけだから、常に霊薬を複数所持していないととてもじゃないが安心できない。俺の強力な二つのスキル、殺人鬼と逃走犯も同じくHPとMPを使う。それに加えて使徒としてゲームシステムに登録されていない俺はHPが自動的に回復しないみたいなので、そういった意味でも回復薬は大切だ。

 よし、恒例の相談タイムだ。


 『どうだ、盗賊団の壊滅らしいぞ?』

 『いいんじゃないかしら。魔法が効かないってことは私は手伝えないと思うけど、幹也の短剣なら人族相手になら十分なはずだし』


 『確かにな。俺の短剣なら一撃で相手を殺せる。変な魔法や解毒剤を使われない限りな。まあ例のマスクを使えば暗殺も可能だろう』

 『そうね。いざって時はテレポートして逃げればいいんだし』


 『テレポートか。こんなことで邪教徒の秒数を使いたくないけどな。できるだけ残しておきたいし』

 『龍人に? でも、私たちは怠惰魔法に集中しないといけないから直接戦いには参加できないわよ?』


 『え、そうなのか? 戦闘開始直後に魔法かけてから、そのあとは普通に戦うんじゃないのか?』

 『それでもいいけど、それだと私が大変じゃないかしら?』


 『ああ、なるほど。たしかにちょっと大変かもしれないな。ったく、黙ってろ貧乳』

 『ちょっとまって、最近なんか私の扱いが雑になってきてる。改善を要求するわ』



 「わかった。その依頼受けてやる」

 「本当!? いやー、一人じゃ寂しかったのよ!」


 「寂しいって……。まあいいや、いつ出発するんだ?」

 「んーとね、今?」


 「今はねえよ。準備も何もしていない」

 「なんかね、エルフがたくさん攫われてるから早く助けないといけないんだって。凌辱モノみたいになっちゃう」


 「エロゲ展開か……。本物の盗賊だからな。そうなるか」

 「だから早くしないと見逃しちゃう!」


 「こ、こいつ……。え、助けるのが目的じゃなくて、何、見たいの?」

 「見たい。すごく見たいわ。だって本物の盗賊がする、本物のアレよ? みっきーは見たくないの?」



 見たい。だけど、人としてそれはどうかと思う。

 俺だって、一人のオタクとしてそういうゲームはしていた。うん、正直に言おう。中学生の頃からその手のゲームにも手を出していた。だからこそ、盗賊に掴まったキャラクターがその後にどうなるかも理解しているし、見たいかと聞かれれば見たいと答える。だけど、この世界は異世界で、現実だ。その子が可哀想すぎるだろ。


 「よし、出発するぞ。早く行こう」

 「さすが、わかってる!」


 「いや、わかってない。俺は盗賊とエルフのそういうシーンが見たいわけじゃない。助けに行くんだ」

 「えー。もう、正義ぶっちゃって。んじゃあ、行くよ?」


 

 鮭延が服に着いているポケットから転移石を取り出しながら言った。


 「転移石(テレポートキー)起動ッ!」





 


 

 

 

 

 



※次話、下ネタというか、そういう関連が多いです。ネタバレすると幹也と鮭延が盗賊団を倒してエルフを救出する話なので、その手の話が嫌いな方はとばしてください。

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