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第11話 鮭延沙耶は○○である

 

 俺、佐竹凜太郎(さたけりんたろう)は医学部に通う大学生だ。

 そして、俺の手元にあるのはとあるゲームセット。VR機器のミュートラルとゲームソフトのGodWarOnline。

 今日も幼馴染である千葉鈴音(ちばすずね)の家でVRゲームをやって遊んでいた俺に、彼女は次はこのゲームをやろうと言ってきた。なんでも、VR初のRPGらしい。俺はDOC以外にVRソフトをプレイしていなかったがこのゲームの動画はちらほらと見ていた。

 大きな剣や盾を持ち、異形の化け物と戦う場面や、ファンタジーな世界で街を散策できたり、見ているだけですごい楽しそうだった。確かにやってみたいが、俺の分のソフトまで買ってくれているのか……。

 なんか最近、鈴音の自重が外れた気がする。いくらいいとこのお嬢様だからって俺の分のミュートラル買ったり、ソフト買ったりしなくていいのに。ありがたいけどよ。

 今回はGWOをくれると。よし、やってみるか。


 鈴音「じゃあ、りんくんは、ゲームが始まったら、最初の街で、待っててね」

凜太郎「おうよ」


 鈴音はいつも通りのたどたどしい話し方でそう言った。こいつは貧弱で弱気な、THEお嬢様みたいなところがあるからな。でも、夜になると妙に積極的になるんだ。本質的には俺と同じようにえろえろなんだろうよ。

  

 事前登録とやらのキャラ作成で、俺のゲームアバターを作成した。名前は『マラブレード』。種族は人族、性別は男、成長制度はスキル制だ。普通に考えて、スキル制が一番強いだろ。


 選んだスキルは、

 ★特級騎士

 ★剣闘士

 ○盾術

 ◎司祭

 ○火属性魔法

 ○水属性魔法

 ○調教師

 ○生活魔法

 ◎精力強化

 ◎女運強化


 の10種類だ。星マークと二重丸マークのスキルがいくつかあったので、全て選んでみて、他のをその補助役にしてみたぜ。いやー、精力強化ってどんなスキルなんだろうな。楽しみすぎる。きっとエロいイベントでもあるのだろう。    




 おいおい、異世界だとよ。

 チュートリアルが終わったと思ったら、異世界に拉致られたぜ。さすがの俺でも驚いたが、異世界なんてめったに来れるところじゃないしな、楽しませてもらうぜ。

 

 鈴音のやつが言っていたとおりに近くの街までやってきた。この街を拠点にしてしばらくは生活しよう。

 俺はまず初めに奴隷市場へ行くことにした。俺はその手のエロゲもプレイしていたので知っているが、こういうファンタジー世界には奴隷市場ってところに奴隷が売ってるんだ。家事なんかもやってくれるし、夜のお世話だってばっちこいな素敵な奴隷を購入してやるぜ!

 

 

 ふむ、さすがに現代人の感性を持つ俺としては、なんか心にくるもんがあるな……。皆が皆、目に絶望を灯している。

 ぼーっと下を見ていたり、買ってください買ってくださいと必死に懇願してくる。予算は銀貨10枚だから、そんな高い奴隷は買えない。さすがに、ここで金貨を使うのはまずいだろう。

 さーって、どの娘にしようかなーと周りを見ていると、柄の悪いゴロツキみたいな男が、首と手足を鎖で繋がれた一人の獣人?を連れてやってきた。お、獣人だ。犬みたいな耳と尻尾が生えている。身なりはかなり汚れているが、むむ、俺の勘が言っている。あの娘は美少女だ。

 そんなことを考えていると、足を引きずるように歩いていた獣人ちゃんが、とうとう転んでしまった。それで手に持つ鎖を引っ張られた男が、獣人ちゃんを蹴り始めた。おいおい、その蹴り方はまずいだろ、それに蹴っている場所も……。さすがに見ていられなくなって、俺は獣人ちゃんを助けることにした。


凜太郎「おい、やめろよ。可哀想だろ」

  男「ああ? なんだよてめぇ。俺はこいつの主人だぞ。主人が奴隷に何しようが俺の勝ってだろうがよ」


凜太郎「そ、そうなのか?」

  男「てめぇ田舎もんか? 都会の常識だよ、覚えとけ馬鹿野郎」


 そう言いながらぐったりしている獣人ちゃんを蹴り飛ばす男。そういえば、どっかの小説に書いてあった気がするが、奴隷に対して罰を与えてる時に邪魔したりすると、それだけで罪になったりするんだったか。ぐぬぬ、でも獣人ちゃんを助けたいし、あの歩き方、そして今の蹴り。多分、ダメな怪我をしている。今すぐ治療しないと。

 その男は奴隷商人と何やら話を始めた。どうやら獣人ちゃんを売りにきたようだ。奴隷商人は「銀貨五枚だ」と言っている。男は「七枚だな」と言い張っている。ふむふむ、ここは俺の出番の様だな。


凜太郎「まあ、待ちたまえよ君たち」

  男「なんだよ。田舎もんが口挟むんじゃねえよ」


凜太郎「いやいや、少しね。俺がその奴隷を銀貨七枚で買う、と言ったらどうする?」

  男「どうする?じゃねえんだよ。個人で奴隷の売買は国に禁止されてるんだよ馬鹿野郎。だからわざわざ奴隷商人のところに引きずってくんじゃねえか」

 

奴隷商「そうだよ。だからこそ、我々奴隷商人がいるんだ」


凜太郎「ふーん。じゃあ、例えば商人さんはその娘を銀貨五枚で引き取ったあと、いくらで売りにだろうと思ってるんだ?」

奴隷商「こんな汚れてる獣人じゃあ誰も抱きたいなんて思わないだろうしな。どうせ鉱山送り。精々銀貨八枚ってところですな」


凜太郎「じゃあ万事解決だぜ。俺が奴隷商人さんに銀貨三枚払う。そして、そちらの男性には銀貨七枚を払おう。それで良いんじゃね?」

  男「お、田舎もんにしては良いこと言うじゃねえか」

奴隷商「ふむ……それなら文句はない。じゃあ、この獣人は銀貨五枚で買い取って、八枚で売ったことにしよう。国に出す書類にはそう書いておく」


凜太郎「おう、それで頼むぜ」



 そう言って俺は銀貨10枚を手放し、獣人を一人買い取った。俺はその場でスキル:司祭による上位の治癒魔法を獣人ちゃんに施して上げる。

 一瞬で怪我が治っていく様を見た奴隷商人と男が動揺した。


奴隷商「やや、これはこれは、司祭様であらせられましたか。どんだ失礼を」

  男「司祭様も人が悪い。先に一言言ってくだされば」


 む? 急に媚び諂ってきた。なんだ。司祭って偉いのか。俺は司祭のスキルを持っているけど、司祭ってわけじゃないからな……。

 俺は二人に別れを告げると、先ほどの痛みからか気絶している獣人ちゃんを背負い、宿屋に向かうことにした。




 宿屋に入ると、汚れた獣人を背負った俺に嫌な視線を向けられたが、チップを少し支払って一部屋借りることに成功した。とりあえず、獣人ちゃんを起こすことにする。


凜太郎「おい、獣人ちゃーん……大丈夫かー?」

 獣人「んん……。ここは?」



 俺は獣人ちゃんに「俺が君を買ったんだよ」と教えてあげる。そして、「君のこと聞かせて」と抱きしめながらキザっぽく言ってみた。

 この娘、中学生くらいに見えるんだけどすごく目が死んでるというか、昔みた親に虐待されていたような子の目に似ていたから、少し気になったんだ。

 

 獣人ちゃんは少しずづ話始めた。

 母親は人族の奴隷で、同じ奴隷の獣人達に凌辱されて私を身ごもった。私を生んだ母親はすぐに死んだ。私は生まれてからずっと奴隷として働いてきた。足を怪我してしまい、働けなくなったので売られた……と。

 獣人ちゃん、名前はクウロといって歳は12歳なんだとか。12歳にしては妙に身体が発達している。見た目的に中学生と高校生の間くらいか。

 可哀想に、俺はクウロを抱きしめて頭をなでながら話を聞いた。以前、カウンセラーをしている友達が小さい子相手にしていたようになるべく優しく対応した。


凜太郎「そうか、つらかったな。だが、俺の奴隷になったからにはもう安心だ。敬語なんてゆるゆるで全然良いしね、とりあえず綺麗にしようか!」

クウロ「綺麗?」


凜太郎「そうだよ。よし、こっちおいで」


 そう言ってベットまでクウロを抱きしめながら運んだ俺は、生活スキルの一つ、洗浄魔法を発動した。すぐに俺の両手が水と泡でいっぱいになる。

 俺はベットの上でクウロのぼろぼろに汚れた服を脱がせると、全身を撫でまわすように洗ってあげた。

 さっき聞いた話だと、生まれてから体を洗ったことがないって言ってたからな。ちゃんと清潔にしてあげないといけない。


凜太郎「どうだ、気持ちいいか?」

クウロ「は、はい……。(どうして?)」



 魔法を使って全身を洗って上げた後、火属性魔法を使って乾かして、宿屋にくる途中で買った服を着せてあげる。あとは……。


凜太郎「じゃあクウロ、髪切るよ」

クウロ「……?」


 いまいち理解していないようだ。俺はドッペルゲンガーからドロップした化粧道具入れを取り出す。その中にはハサミや櫛、クリーム等の様々な物や薬が入っている。というか、俺が望めばそういう関連の物が好きなだけでてくる。

 両親が美容師をしている俺は、こういったことを小さい頃から教えられていた。だから、髪を切るのも得意だし、色々な手入れなんかも得意だ。鈴音の髪だって俺がセットしてあげていたりする。


凜太郎「よし、できた! ほら、クウロも可愛くなったぜ?」

クウロ「……。」


 手鏡を見て無言になっているクウロ。やっぱり俺の勘は的中した。そこには、元の汚れたボロボロな身なりの少女ではなく、俺が仕上げた超絶美少女な獣っ娘が映っていた。


凜太郎「ほら、可愛い可愛い」


 そう言って後ろから抱きしめる。なんたってクウロは俺の奴隷だからな。男の話によると何をしたって俺の自由らしいから、好きな時に抱きしめたって、それこそ抱いても俺の自由だ。ただ、少しショックが大きいようだから、すぐに抱いたりはしないが。


 もう外はすっかりだ夜だ。暗い暗い。

 俺は宿屋で夕飯を頼んでいたので、それを食べに行く。その時にクウロが奴隷がご主人様とどうとかなんとか言ってきたが、最終的には一緒にご飯を食べた。

 しかも、普通の食事にもかかわらず、涙を流しながら食べていた。その姿には少し引いてしまったが、なんでもまともな食事を食べたのが生まれて初めてのことだったらしい。この娘には少し優しくしようと思った。


 

 そして、夜。

 いくら正式に買った奴隷とは言え、あの境遇を聞かされた後にS○Xだわーい!となれるほど俺は鬼畜じゃない。

 親の愛を知らないで育ったせいか、クウロは抱きしめられたり撫でられたりするのが好きみたいなので、今日のお前は抱き枕だー!っと言って抱きしめながら眠ることにした。

 俺が寝たふりをすると、俺を力いっぱい抱きしめながら、クウロは泣いていた。しばらく泣いていて、それからは俺に向かって「くぅーんくぅーん」と甘い声を出しながら子犬みたいに甘えてきていた。

 俺は寝ている設定なので特に反応はしなかったが、きっと他人に甘えたこともなかったのだろう。初対面である俺にここまで心を開いているのがなによりの証拠だ。気が付くと、クウロは眠っていた。俺も寝ることにする。





 


 「動くなッ!」


 

 うお!? なんだ?

 ゲーム63日目。D級ダンジョン『クリーズスターズ』の攻略を終え、アレンとの再会を約束してから数日後、無事クラーク王国へたどり着いた俺は、冒険者ギルドにいるであろうリラナルテさんへ報告をしようと思い、ギルドへと続く道を歩いていた。

 

 ダンジョンからクラーク王国への帰り道は、アレンに襲いかかってくる集団がいない分かなり楽だった。まあ、その分臨時収入は少なかったんだが。

 時々、泊まった宿屋の酒場で騒いでいた態度の悪い冒険者を、酒場のマスターのお願いでボコす際にスキル:窃盗犯を複数回使って宿泊代を稼いだくらいだ。

 所謂用心棒ってやつだな。マスターに冒険話を聞いてもらっている途中でD級冒険者だということを話したら、退治してほしい奴らがいるって頼まれたんだ。

 そいつらは店の備品を壊すし、マスターの娘さんにはちょっかいだすし、他にも街の人に迷惑になるようなことばっかりしていたみたいなんだ。

 でも、実力が高く、C級冒険者がパーティーのリーダーをしていて誰も文句が言えなかったらしい。小さい町でのことだったのでB級以上の冒険者や、上級騎士等の強者がいなかったのだろう。だから俺がこらしめてやったんだ。食事代を無料にしてくれるって言われてさ。

 俺は対人戦ならめっぽう強いから、ドッペルガンをゴム弾仕様にしてスキル:逃走犯を使うまでもなく普通に攻撃を避けながら、鎧で覆われていない顔面を滅多撃ちにしてやった。

 顔面ゴム弾は異世界補正があってもかなり痛いからな。最後は泣きながら謝ってくれたぜ。だから「もうこれ以上悪いことするなよ?」って言いながら肩をポンポンってしたんだ。ポンポン連打だ。

 そのポン一回につきそいつの所持金の1%を奪えるわけだが、そいつが結構な金持ちみたいで、まあそれなりの金額を手に入れることができたんだ。それでも死体を漁るよりは少なかったがな。日本円換算で20万くらい手に入った。冒険者稼業は儲かる時は儲かるからな。装備品代と道具代で殆ど飛んでくが……。



 そんなこともありながら、俺はクラーク王国へ帰ってきたんだ。

 そしたらだよ。平和な街のど真ん中で、後ろから急に口を塞がれて「動くなッ!」だもん。驚いたわ。驚きすぎて、反射的にアイテムボックスから黒蟲の短剣取り出して、その腕に刺しちゃった。

 刺した後で、あ、黒蟲の毒って致死生超高いって気付いた。俺を襲ったそいつは「痛ったーーい!」と悲鳴を上げながら俺の口元から手を離して少し下がったんだ。


 俺も振り返った。こそには手を抑えている女の姿があった。んん? なんか見覚えが……。

 あ、ああ!こいつ、中学ん時に同じクラスだった鮭延じゃん! どうしてここに……っていうか黒蟲の毒!


 「鮭延! 解毒剤……なんて持ってないし。すまん! お前を刺した短剣に、黒蟲の毒が合成してあるッ!」

 「痛いよー、痛いよー」


 「ああ、どうしよう。ベルフェ! どうすればいい!?」

 『どうすればって、私、解毒魔法なんて使えないわよ。回復魔法だって上手くないのに』

 「痛いよー、痛いよー」


 「と、とりあえず冒険者ギルドに行って、リラナルテさんの回復魔法で……って、あれ?」



 あれ? よく見ると、短剣を突き刺したはずの鮭延の腕から、血が一滴も流れ出でいない。それによく聞いてみれば「痛いよー、痛いよー」ってすごい棒読みで……。


 「あれれ、ばれちゃった?」

 「え、でも。傷が……」



 鮭延はさもなんともないような軽い動きで立ち上がると、傷一つない腕を俺に見せつけながら「手品でしたー」と言った。……はあ?


 「え、大丈夫なのか? 黒蟲の毒って、死ぬんだぞ?」

 「平気、平気。手品だよこんなの。それよりさ、久しぶりだね"みっきー"!」



 みっきー。幹也をもじったあだ名だ。みきや、みき、みっきーと言うわけだな。小学生くらいの頃、よく呼ばれていた。それの名残で中学生時代にも俺をみっきーと呼ぶやつが少しいたが、こいつ、鮭延沙耶(さけのべさや)はその一人だ。


 「久しぶりだけど……鮭延もGWOを?」

 「うん。聞いてよ! 私さ、男キャラを半裸にできるっていうからこのゲーム買ったのに、全然そんなことなかったのよ!」


 「お、おう。」

 「本当なら今頃、あんなイケメンやこんなイケメンのサンドイッチの具になれてたのに! まあ、エルフの耳が本当に性感帯だったってことが知れただけでも、異世界に来た価値はあったんだけどね」


 「ん? おい待て。その話詳しく」

 「おやおや? みっきーも好きだねえ。この世界に来てすぐに確認しに行ったのよ。エルフの娼婦さんの所にね。100分間で銀貨6枚コースよ。」


 

 おい、馬鹿女が数年振りに会った同級生になんか話始めたぞ。

 そういえば、こいつは以前から大概変態だった。突然BLについて語り出すし、下ネタを面白おかしく話しては周りの人を笑わしていた。

 それに、なぜか俺に女装させようと、あの手この手を使って来たりもしていた。多分、痩せていた俺なら女の力でも無理やり女装させられるとでも考えたのだろう。まあ、その頃からVRゲームで遊んでいた俺はその追撃をかわし続けたんだがな。


 鮭延沙耶という女は、学年に数人くらいはいるような変態キャラだったわけだ。そのせいか、彼氏とかはまったくできなかったみたいで、同級生を含めて中学時代で俺の知る限りで四度は振られていた。きっと、俺が知らないだけでその回数はもう少し多いのだろう。

 斯く言う俺も、こいつに告白された。その際に言われた言葉がこちら。


 

 「私の着せ替え人形になって下さいッ!」



 ……。意味わかんねえよ。はあ?って思って、詳しく聞いてみたら、それが告白だったという。丁重にお断りした。

 まあ、鮭延沙耶はそういう奴ってことだ。せっかく顔がそれなりに可愛いのに、性格で損をするタイプだな。きっと、もっと可愛いのなら性格を無視してでも付き合おうと考える男も出てきただろうが、残念ながらそこまでの美少女ではない。姫宮の方が可愛いし、リラナルテさんの方がもっと可愛い。




 「でね、やっぱし気持ちいいんだって」


 「ふむ……なるほどな。参考になったわ。あ、これから行くギルドに、リラナルテさんってエルフがいるけど、いきなり抱きついたりとかするなよ? 失礼だからな」


 「いくら私でも初対面でいきなり抱きついたりはしないよ。そんなの変態じゃん」


 

 変態か……。鮭延に言われるとイラっとくるな。

 俺達は冒険者ギルドのに着いていた。この街には他にも二つのギルドが存在するが、鮭延が言っていたのはこのギルドであっているのだろう。特に何も言われなかったし。

 ここに来るまでに色々と話を聞いた。鮭延はこことは違う国の冒険者ギルドで冒険者として登録したらしい。それでそこのギルドでクラーク王国へ行くように命じられたのだとか。ふむ、鮭延も使徒だからな。有望な新人とでも思われたのかもしれない。


 俺と鮭延はギルドの大きな扉を開けて中へ入った。

 鮭延はギルドマスターに用があるとかで奥の方へ歩いて行った。俺はリラナルテさんに用があるから、受付のおじさんにあいさつをしたあとで訓練場へと向かう。


 訓練場にはちらほらと冒険者達がいた。彼らは冒険者同士で戦い合ったり、的にむかって魔法の試し撃ちをしたりと絶賛訓練中だ。

 その中に端の方に置いてある長椅子に座って冒険者たちを眺めているエルフが一人、元高ランク冒険者で今はギルドで働いている、えーっと……あれ? フルネームが出てこない。長いからなぁ。でも名前だけは覚えている、リラナルテさんだ。


 「あら、ミキュアさん。お久しぶりです」


 「はい、お久しぶりです。ちょっといいですか?」



 俺はリラナルテさんにD級ダンジョンを攻略してきたこと、報酬に魔法具っぽい斧を入手したことを話した。

 この手斧、アイテム名は『アリア・エリスロード』という。なんかすごく人名っぽいが、列記とした武器だ。

 ここに来るまでに検証した結果、手に持って「魔法具、起動ッ!」とか「アリア・エリスロードッ!」って叫べばMPを消費して魔法が使えることが発覚している。その効果は……まあ、それなりのものだった。

 

 具体的には、Fランクの魔物なら数発で倒せる。Eランクの魔物だと少しつらいかもしれない。Dランクは魔法だけじゃ勝てないくらいだった。いや、Dランクの魔物には遭えなかったんだが、多分勝てないだろう。

 そりゃあ俺の魔法技能が低いってのもあるだろうけどさ。折角苦労して手に入れたにしては思ったより攻撃力が低かった気がして、少し悲しかった。

 そもそも、この世界の魔物は以外と強い。一般人じゃあFランクにも歯が立たないし。Fランクの魔物を相手に戦うには、F級冒険者のパーティーが必要だ。GWOのβ版では最大6人編成だったパーティーシステムだが、異世界である十三世界での冒険者にはその制限はない。依頼の内容にもよるが、一般的には4~10人くらいらしい。もっとも多いのが6人編成らしいがな。

 ソロで挑む場合はランク的に格下と戦うのが常識だから、D級冒険者である俺はEランクと戦うのが丁度良いことになる。

 だが、使徒である俺は……使徒になる予定である俺は成長制度、スキル、技等のこの世界の住人が持っていない力があるので、まあ同じDランクである魔物ともタイマンで戦うことができる。

 D級ダンジョンは敵が強化されていたので難しかったが、強化なしのノーマル状態のDランクの魔物なら、苦戦はするかもしれないが倒せるはずだ。

 黒蟲みたいなCランクの魔物になるとぎりぎり勝てるか勝てないかと言った感じだがな。あの固い殻と足、それから電車みたいなデカさを相手にするのはそれだけで怖い。

 いくら魔法や魔力特性の魔力の腕が使えるからって、この世界の人間はすごいよ。あんな化け物と戦うんだもん。俺たちの世界じゃあ、原始人とかがマンモスと戦ってたみたいだけど、絶対に魔物の方がマンモスより強そうだしなあ。


 リラナルテさんは俺の話を聞いたあとで斧を見せて下さいと言ってきた。余裕でOKなので素直に見せる。すると、彼女の表情が少し変わった。


 「ミキュアさん、本当にこの斧をダンジョンで?」

 「はい。何かへんですか?」


 「いえ、ですが……。ミキュアさんの話では、Eランクの魔物にこの魔法具を使って、数発の攻撃が必要だったとか」

 「そうですけど、やっぱり変ですか? いやー、俺って魔法が苦手なんですよ」



 魔法なんて使ったことなかったからな。つか、存在を知ったのが二ヶ月前だ。初めての魔法で少なくともEランクの魔物を倒したんだから、むしろ褒めて欲しい。

 Eランクの魔物がどれくらいの強さかというと、数年から数十年くらい冒険者を続けている奴がソロで戦うレベルだから……それなりに難しいはずだ。倒したと言っても遠くから、MP回復しながらひたすら魔法撃ってハメたんだけど。


 「苦手ですか……。そうですね、では、練習しましょう。魔法の訓練。私が教えてあげます」

 「く、訓練ですか……」


 「はい。この魔法具があれば、例えば私がこれを使えれば、Bランクの魔物にも勝てます。Aランクの魔物とも戦えます」


 はあ!? 急に何言ってんだこのエルフさんは。簡単にAランクの魔物と戦えるって言ってるけど、この世界にとってのAランクってのはマジでやばいんだぞ。

 様々な資料を読んだり、冒険者から聞いた話によると、この世界の魔物のランクはG~Sまであるが、このランク、BからAの間に異常に大きな壁がある。正しくはG~BとA~Sなんだよ。つまり、現実的に倒せるか倒せないかだ。

 

 G~Bランクの魔物は、倒せる魔物と認識されている。それに対してA~Sランクの魔物を倒せない魔物、出会ったら逃げろ、もしくは不幸を呪えって話しらしい。Sランクの魔物に挑む予定である俺が言うのもあれだが、戦うこと自体馬鹿げてるぜ!ってのがこの世界の常識だと聞かされた。

 Bランクの魔物も当然強い。Cランクの魔物なら数で押せる。Bランクは数じゃ押せないんだ。凡人が何人集まろうと勝てない。どうしても精鋭が必要となってくる。

 なぜなら、Bランクの魔物と戦う場合は同じくB級冒険者のパーティー、又はA級冒険者が必要だからだ。才能溢れる超一流の冒険者達を纏めるリーダー格クラスの天才が集まったパーティー、又はそいつらを一人で圧倒できるような英雄クラスの冒険者がいないと倒せない魔物、それがBランクだ。

 以前、リラナルテさんは強化されたDランクの魔物がBランクに届くかもしれないと言っていた。恐らく、それは俺とアレン、それにベルフェゴールが三人掛かりで死にかけたあの五体目の魔物みたいな存在だ。

 俺たち三人の中では上級悪魔のベルフェゴールがA級に届きそうなB級の強さだと考えると、奴に勝てたのも多少は理解できるが……それを、この斧を使えばリラナルテさんなら勝てるという。更にはAランクの魔物と戦えると。つまり、S級冒険者と同じことができると言っているのだ。

 

 「その斧って、そんなに良い物なんですか?」

 「良い物です。結論から言うと、私はこれ以上の魔法具を見たことがありません。現存する魔法具の中でも最高の力を持っています」


 「はあ!? あ、いえ、すいません。でも、それってD級ダンジョンからでたものですよ?」

 「ダンジョンのレベルは関係ないのです。魔法具が出やすいか出にくいかの違いですので、魔法具の力には影響していません」


 「で、ですけど……」

 「とにかく、ミキュアさんにはこれを使い熟してもらいます。この魔法具、どうやらミキュアさんを主だと認識しているようで、私の魔力を受け付けてくれません、恐らくあなた以外には使えないのでしょう」


 「そ、それでも、俺、魔法なんて使えないですよ」

 「それは訓練次第でなんとでもなります」



 なるわけがない。俺はこの世界の住人ではないのだ。仮に本当に、本当にこの斧が最高の逸品なのだとしても、地球人である俺には使い熟せない。豚に真珠、猫に小判とは少し違うが、価値を知ったところで使えなければ意味がない。

 リラナルテさんは、考えるように十秒ばかし目を瞑った。そして、俺にこう言った。



 「ミキュアさん、二ヵ月後にこの国で開催されるとても大きな大会があります。数年に一度開かれるもので、大陸で一番の強者を決めるものです。それに出てください」

 「は、はい? いきなり何を言い出すんですか?」


 「丁度、私の分の推薦枠があります。予選は必要ありません。ミキュアさんには、この斧を装備品として登録して、大会にエントリーして貰います。私との戦いに使用したあの筒状の武器は使っちゃダメです」

 「あ、あのー……。(ダメですって、可愛いなこのひと)」


 「本来ならばアレンさんを推薦しようかと思っていたのですが、幼馴染さんのピンチとあってはしかたありません。ミキュアさん、魔法の訓練の仕上げには実践が一番なんです!」

 「ちょ、ちょっとだけ、考える時間を貰えませんか? ほんの数分でいいので!」



 さて、どうするか……。確かに、この機会に魔法を習うのも良いかもしれない。俺は魔法が使えないが、この斧があれば魔法の発動自体はできる。もしかすると、訓練次第でその威力も少しは上がるかもしれない。

 だがその可能性は極めて低いだろう。俺、地球人だし。地球には魔法なんて技術は無かったし。しかし、この斧の魔法、相手の足止めにはかなり使えるんだよな。この斧の魔法が当たった部分って凍るんだよ。氷属性なのかな。だから足止めには有能だけどさ……。


 『なあ、ベルフェゴール? 魔法、習った方がいいかな?』

 『そうね……。魔法習う習わないは幹也の好きなようにしていいわ。だけど、その大会には参加しておいた方がいいんじゃない?』


 『ああ、俺もそれは思った。そういった大会なら、強い奴が集まるだろ?しかも強者を求めた強い奴。龍人を倒そうって思ってくれるような馬鹿がいるかもって話だろ』

 『なーんだ、わかってるじゃない。そういうことよ。私と幹也がいれば、少なくとも龍人の強さをSランクからAランク並みまで下げられるから、ちゃんと説明すれば理解してくれる人だっているはずね』


 『怠惰魔法か。だよな。仲間探しと俺の強化が両立できるのか……。そうか、うん、それもいいかもな』

 『それに、もし魔法が使えるようになれば、私が便利な魔法を教えてあげられるし!』


 『ん? じゃあリラナルテさんじゃなくてベルフェに習ってもいいんじゃね?』

 『それは無理よ。わたし、生まれつき魔法が使えるからある程度の腕を持った状態じゃないと教えられないもの』


 『そうなのか。ったく、変なところで不便だよな』

 『そういうこと言わないでもらえるかしら。傷つくわ。すごく傷つく。傷ついたから、抱き枕買って』


 『ああー……そういえばそんなこと言ってたな。ダンジョンじゃあ文字通り死ぬ程頑張ってくれたし、あの高級家具売ってるとこで買ってやるよ』

 『ほんとう!? あそこの寝具最高よ。この枕もベットもふかふかだし』


 『それは知ってる。俺の枕もマジで寝やすいから。俺も自分へのご褒美でなんか買おうかな』

 『ええーずるい! 私にも同じだけ買ってね!』



 話しが脱線してきたが、とりあえずリラナルテさんに魔法習うか。



 「わかりました。魔法の訓練、お願いしていいですか?」

 「勿論です。では、今週は予定がありますので、10日後。この場所で訓練を開始します。よろしくお願いしますね」


 「こ、こちらそこ、お願いします」



 あ、お辞儀されたときに、リラナルテさんゆったりした特性の制服きてるから、胸見えちゃった。この世界にブラなんてものはないから、なんというか、結構見えた。そうか、そういえば、美人でエルフで先生なのか……。鮭延からエルフの性感帯について聞いたばっかりだし、どうしよう、狙ってみる?

 うーん、でもな……。忘れがちだけど、俺ってリラナルテさんからお嬢さん呼ばわりされてるからな。玉無し扱いのままじゃそういった関係に持ち込むのは難しいな……。どうやって男を見せるか、少し考えておこう。


 


 その後、リラナルテさんと別れて、デメタスさんとこの宿屋で押えていた部屋を一気に数日分借りて、部屋で休むことにした。少し休憩したら、家具屋でも行こっかな。



 

 

 

 

 

 

 如月明日香の嫌なラッキースケベそのいち




 美也「はむはむ、お兄ちゃんのシャツおいしいよぉ」



明日香「……。」



 美也「お兄ちゃん、お兄ちゃん……って!? 明日香くん! いたならいたって言ってよ!」


明日香「いや、その……夕食、できたぜ?」



 親友のシャツを食べながらがさごそするその妹。


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