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第10話 獣人との別れ

 

 私、鮭延沙耶(さけのべさや)は迷っていた。

 

 私の目の前にはとあるゲームソフトが売っていた。

 GodWarOnlineというVR機器ミュートラルのソフトだ。


 私が中学時代から集め続けていたグッズの、最後の一つを換金したその日の帰り道に、少し寄り道をしてみると丁度一つだけこのゲームが売られていたのだ。

 

 こ、これは………ま、待て私の右腕!

 これを買ってしまったら、今まで集めたBLグッズを全て売り払った意味がなくなってしまうのよ。今日から頑張ってちゃんとして、彼氏を作ろうと、そう決めたのにッ!


 で、でも、このゲーム、βテスト時代のプレイ動画が、動画サイトにたくさん投稿されていた、あのやつよね?

 確か、男キャラ達をパン一にできて、抱きつけるってゲーム。男キャラ同士を抱き合わせて、その間に挟まれることが可能というあの有名な……。


 ソフトの販売価格は20,000円。買えるわ。BL本、BLゲームだけで3万円になったもの。家にはお父さんが使わなくなったミュートラルもあるし……。


 これを買えば夢のサンドイッチが……。で、でも、これは、新しい服とか、化粧品とかを買うお金にするって決めたのに……。



 

 買ってしまったわ。

 気付いたら体が勝手に買っていたわ。そ、そうよ、せっかく買ったんだもの。売るにしてもなんにしても、一度はプレイするべきよ。

 ぐへ、ぐへへへ。PVにでてきたようなイケメン騎士様とイケメン戦士様を抱き合わせて、その間にサンドイッチ……! おっと、涎が零れてきた。フキフキ




 お父さんからミュートラルを貰うことができた。

 ミュートラル本体に入っていた70,000円分のポイントも、別に使ってもいいぞーって言ってたし、いきなり課金アイテムをたくさん買えるわね。幸先良いわ。


 本体にソフトをインストールしてっと…………。よし、ゲームスタート!

 

 

 『ようこそGodWarOnlineへ。只今事前登録受付中です』



 『事前登録をする  YES  NO』



 事前登録?へー、そんなのあったのね。丁度いいし、登録しましょう。

 私はYESの文字に視線を合わせた。



 『キャラクター作成画面へ進みます。キャラクターを作成して下さい』



 え、ちょっとまって。このゲームって、性別も変更できるじゃない! これは男キャラ一択ね。VRゲームだし、もしかしたら……ぐへへ。

 あとは、成長制度? よくわかんないけど、職業制でいっか。えーっと、何々?


 ○軽戦士 

 ○剣士

 ○魔法使い 

 ○軽業師

 ○騎士



 えっと、VRゲームなんだから、難しいはずよね。ならできるだけ簡単な操作で遊べる方がいいにきまってるから、この中だと、軽戦士かしら?

 次は、種族は人族で、性別は男っと。どうせ他のVRソフトを買う予定もないし、70,000ポイント全部入れちゃえ。



 『プレイヤー名『サヤ』 『人族‐男』 成長制度『職業制』 選択職業『軽戦士』 以上でキャラクター制作画面を終わります』




 『利用料金が50,000円に到達しました。特典アイテムが支給されます。』


 『特典アイテムのレア度の度合いは、ランクCからSS相当です。59%の確率でランクC、30%の確率でランクB、10%の確率でランクA、0.99%の確率でランクS、0.01%の確率でランクSS相当の特典アイテムが支給されます』




 『又、特典アイテムは通常プレイでは入手の難しいアイテムです。使用、譲渡の際には十分に注意してください』




 『では、キャラクター登録を終了します。サービス開始までしばらくお待ち下さい』



 登録おわりっと。さて、ゲームスタートね!……あれ?始まらないの?



 『サービスを開始します。ゲーム開始後は腕輪の支持に従って行動して下さい。又、質問等は腕輪からお送りください』



 あ、始まるのね。今度こそ、ゲームスタート!








 うーんと、気が付いたら森の中にいたんだけど……これって、もうゲームの中なのよね?すっごいリアルだわー。

 ってあれ!? 男になってない……。普通に私のままなんですけど。それに、あと5分で魔物が召喚されますって言ってたし。


 確か……ステータスって言えば、ステータス画面がでてくるんだったっけ?


 沙耶「ステータス!」



 私がそう言うと、目の前に私のステータス画面が表示された。



□□□□□□□□□□□        


プレイヤー名:サヤ  


出身:第七世界《地球》

所属:


選択:職業制

職業:軽戦士 Lv1


能力値: 

HP 100

MP 10


STR 10

VIT 10

INT 10

DEX 10

AGI 10

LUK 10


BP:0


□□□□□□□□□□□  




 沙耶「うんうん。いかにもRPGって感じだわ。さて、確かさっき特典アイテムがどうとか言ってたわね」

 

 アイテム欄を見てみると、特典アイテムBOXって書いてあるアイテムがあった。それに視線を合わせてっと。


 沙耶「えっとー……え、すごい! SSランクのアイテムって書いてある!」


 よく聞いてなかったから詳しくは覚えていないけど、入手確率の低いレア度だった気がする。

 特典アイテムの内容は手品魔法(マジックマジック)というスキルを、読むだけで覚えることができるスキルブックというアイテムだった。

 私はアイテムを使い、スキル:手品魔法を覚えた。


□□□□□□□□□□□ 

スキル:

■軽戦士Lv1

・剣術

・盾術


■手品魔法Lvmax

・手品魔法



技:


□□□□□□□□□□□




 スキル:手品魔法の効果で、魔法を使って手品ができるらしい。

 使い方は簡単みたい。スキル:手品魔法発動と考えながら、したい手品を思い浮かべるだけ。タネも仕掛けも知らない私にも簡単にできる。


 ちょっとだけ使ってみよう。私はいつの間にか着ていた、布で出来た服の裾に手を入れながらスキルを使う。


 《スキル:手品魔法発動》



 左腕の裾からぱっと引いた右手には、新しい綺麗な状態のトランプが握られていた。それは思い浮かべていたとおりのクローバーのKのカードだった。


 一回スキルを発動すると、私のMP値は10から5へと減少していた。手品魔法は使った手品の規模に消費するMPの量が影響される。手からトランプみたいな何かを取り出す行為にはMPを5使うみたいだった。


 沙耶「となると、あと一回しか使えないわね」


 

 私はアイテムボックスに入っていた剣と盾を取りながら、そろそろ出現する魔物のことを考えていた。


 イケメンキャラ目的で買ったGWOだけど、ゲームとしてもかなり優秀みたいね。これはクリアのしがいがあるわ。RPG物のエロゲで鍛えた私のゲーム力を舐めないで欲しい。え、18禁? ふふん、私は18歳よ。








 私はその後、ゴブリンとドッペルゲンガー、そしてリザードマンを倒したわ。手品魔法がなかったら何度死んでたことか……。

 まあいいわ。さあ、異世界ッ!


 ゲームじゃない時点でサンドイッチは諦めたわ。

 だけど、この世界には人族以外にもいろんな種族がいるって言うじゃない! 楽しみすぎる……。エロゲに出てきたあの種族だって、それにその種族だっているかもしれない!


 まずはエルフの耳が性感帯なのかどうかって所から調べなきゃいけないわね。一年後にあるイベントまでは自由時間みたいだし。




 2ヵ月後、東の大陸の大国に着いた私は、この国の冒険者ギルドへ向かって歩いていた。


 沙耶「ん、あれは!? 日本が産んだ奇跡の、天然の、男(おとこ)の娘(むすめ)と書いて男の娘(こ)の……。」


 久しぶりに同級生を見かけたわ。完全に油断してるわね。よーし、驚かしちゃおう。「動くなッ!」ってやろう!



 沙耶「動くなッ!」


 っておふざけ気分で、後ろから近づいて彼の口元に手を当てて言ったら、言ったら…………。


 

 

 腕に短剣を突き刺された。






 

 

 



 五体目に出現した魔物は、三体目に出現した紫色の魔物によく似ていた。

 違っている点は三つ。身体のサイズ、纏っている魔力の濃度、そして……威圧感だ。


 ここまで濃くなるのかというくらいの濃度で、奴は全身を魔力で覆い、濃い紫色に染めている。

 身体のサイズは、さっきの個体より二回りほど大きい。何より厄介なのは圧倒的な……威圧感(プレッシャー)だ。こうして対峙しているだけで、胃がキリキリと痛むし、嫌な汗が止まらない。全身から力が抜けていくし、呼吸も乱れてくる。薬で回復している身はともかく、心がボロボロな状態の俺たちに、こいつが倒せるのか?



 『幹也、あれ……強いわよ? 今すぐ私を召喚しなさい』

 『ああ。でも、今はしない。ベルフェを召喚して倒し切れなかった時が怖い。仮に召喚するとしたら、少しでもいいから奴の情報を手に入れてからだ』


 

 「アレン、クラーク王国のギルドで話してた本気の奥儀ってやつ……いけるか?」

 「は、はいっす……ミキュアさん、この魔物……強いっすよ?」


 「ああ。だから……全力でいく。まずは、奴の手を探る。少しでも情報が得られたら、ベルフェを召喚する」

 


 俺達が作戦を相談している間、奴は一向に動き出さない。まるで、待ってくれているかのようだった。多分、俺達のことをそこまでの脅威だと認識していないんだろう。


 

 「俺、この奥儀つかうと反動で動けなくなるっす。いざって時は見捨ててくださいっす。」

 「馬鹿か。見捨てるわけねえだろ。(俺の死に繋がるからな)」


 「ミ、ミキュアさん……! わかったっす、…………はぁぁぁ、奥儀:深獣化!」



 アレンがそう叫ぶと、彼の体に変化が訪れた。

 

 まず、青白い獣耳と尻尾が巨大化した。それと同様にアレンが少しだけ大きくなった。230㎝くらいだろうか……着ている着物の下には、同色の獣毛が生えているのがわかる。さらに全身から青色と白色の魔力が、まるでオーラのように漂っていた。

 

 魔力を漂わせている? 纏うのとは違うのか? アレンの体の変化が進むにつれ、紫色の魔物にも変化が訪れた。

 アレンを脅威だと感じだのだろう。奴の「グォォオオ」といった咆哮と共に爪、牙、尻尾が一回り大きくなる。そして目や鼻の無い頭に、耳のような物が生えてきた。両耳から後ろにかけて突き出たそれは、見方を変えれば角の様にも見えるが……。

 更に変化した事柄がもう一つ。紫色の魔物の気配が……さっきまで感じでいた威圧感が不自然な程に感じなくなった。

 なんだこれは? 俺の目には確かに魔物の姿が映っているのに、脳が、奴の存在を認識することを拒否しているような……そんな妙な感覚だった。


 

 「ミキュアさん! 行くっすよ! ガアアアアアアアアッ!」

 「グオオオオオオオオオオッ!」


 『ベルフェ、奴の気配がいまいち感じられない。なぜだ?』

 『……恐らく、そういう魔力特性を持っているのよ。幹也、回避のスキルを使った方がいいわ』



 俺はアレンと魔物の咆哮を聞きながら、スキル:逃走犯を発動させる。そして両手でFAMASをイメージしたドッペルガンを構えた。


 奥儀を発動したアレンが物凄い速さで跳び出した。

 一瞬で魔物との間合いを詰めると、右手付近に漂っていた魔力で大きな爪の形を作り、それを魔物に叩きつけた。


 だが、魔物はそれを左手で受けると、怯みもせずに右腕を振るってアレンを吹き飛ばした。

 

 アレンは空中で姿勢を整えて綺麗に着地すると、着地と同時に再度跳ね飛んで、今度は両手で魔力の爪を作るとそれを使って攻撃し始める。


 

 速い……。アレンと魔物の戦闘スピードが速すぎる。

 俺は銃のサイト越しに戦闘を眺めていた。勿論、只眺めているわけではない。攻撃の機会を伺っているのだが……下手に撃ってしまってはアレンの邪魔になってしまうのだ。


 例えば、スキル:殺人鬼を使えば俺もあの戦いに加わる事もできるだろう。だが、それは愚策だ。

 殺人鬼は3秒間でMPを20%消費してしまう。スキル発動中にMPを回復するとその時点でスキルが強制的にキャンセルされてしまうので、80%分の12秒間までしかスキルを使って戦う事ができない。残りの20%はドッペルガンの弾を生成するのに使ってしまうからだ。


 更にいえば、スキル:殺人鬼の発動が途切れてしまうと、逃走犯のクールタイムとの差である48秒間を二つのスキル無しで生き延びなければならない。

 他のスキルを使おうにも、魔物との能力値の差が開きすぎていてまともに戦えるとも思えないし……。

 

 仮に最初の状態で逃走犯を使っていなかったとして、殺人鬼の発動後に逃走犯を使ったとしても……段々とHPを削られて、回復アイテムを使わなければいけないような場面が、いずれやってくる。

 そして回復アイテムを使うと同時に、今度は逃走犯のクールタイムに入ってしまうのだ。そこから殺人鬼を使った場合は……と、ループしてしまう。



 48秒間……。身体能力が違い過ぎる相手との戦いに、48秒は長すぎる。

 魔物がさっきのアレンの攻撃を避けてから、反撃するのに1秒かかっていない。先のアレンの二度の攻撃の流れ全てで約2.0秒だ。

 俺はあれを一発ならまだしも連続で避ける自信がない。あの紫色の鋭い腕に貫かれて終了(おわり)だ。斉藤幹也異世界編終了ってわけだな。



 俺はサイト越しの視界の端でステータスを開いた。



□□□□□□□□□□□        


プレイヤー名:みきゅあ  


出身:第七世界《地球》

所属:


選択:職業制

職業:罪人 Lv29


能力値: 

 HP 1750

 MP 6525


STR 120

VIT 120

INT 515

DEX 69

AGI 475

LUK 69


BP:1230


□□□□□□□□□□□



□□□□□□□□□□□ 

スキル:

■罪人Lv29

・殺人鬼

・邪教徒

・逃走犯

・窃盗犯

・偽証犯

・思想犯

・悪魔召喚

・悪魔送還

・最適化

■盗賊Lv24

■暗殺者Lv24

■斥候Lv24

■山賊Lv24

■海賊Lv24

■認識Lvmax





技:

・隠形

・暗殺

・強撃

・偵察


□□□□□□□□□□□




 俺はレベルアップを確認すると、BPの全てをAGIに振った。後で後悔するだろうが、今は少しでも俊敏さを強化したい。


 スキルがいくつか追加されているが、これは無視。確認するにも検証するにも時間がかかる。技だけを確認する。

 技:強撃。消費MP300で攻撃一回分を強化する山賊スキルの技の一つだった。技:偵察は斥候スキルの技の一つで、MP500を使って視界内の敵の数、種類等の細かい情報を瞬時に得る事ができる斥候専用の技だ。


 罪人スキルで得た他職業系の技で継承される物は少ない。俺の覚えている限りではこれらの職業スキルには他にも数種類の技があったはずだ。

 多分、得た職業スキル自体が弱体化されているのだろう。そうでなければ職業罪人の覚えることができるスキル数が莫大な数になってしまうだろうから。




□□□□□□□□□□□        


プレイヤー名:みきゅあ  


出身:第七世界《地球》

所属:


選択:職業制

職業:罪人 Lv29


能力値: 

 HP 1750

 MP 6525


STR 120

VIT 120

INT 515

DEX 69

AGI 1705

LUK 69


BP:0


□□□□□□□□□□□



□□□□□□□□□□□ 

スキル:

■罪人Lv29

・殺人鬼

・邪教徒

・逃走犯

・窃盗犯

・偽証犯

・思想犯

・悪魔召喚

・悪魔送還

・最適化

■盗賊Lv24

■暗殺者Lv24

■斥候Lv24

■山賊Lv24

■海賊Lv24

■認識Lvmax





技:

・隠形

・暗殺

・強撃

・偵察


□□□□□□□□□□□



 


 


 さて……どうする?

 こう考えている間も、アレンと魔物は戦闘を繰り広げている。とりあえずはスキル:五感強化の設定をマニュアルにして、味覚、嗅覚を弱めて視覚と触覚を強める。

 新に追加された盗賊スキルと暗殺スキル、斥候スキルにあるスキルの中で、ドッペルガン装備時に使えるスキルを、俺は現時点では余り所持していない。

 短剣、手斧、投擲具、弓、小刀、他にも様々な種類のスキルを持っているが、銃に使えるスキルは一つもない。精々技:暗殺と技:強撃が使えるくらいだ。


 技:暗殺の発動条件は対象が俺を認識していないだ。奴は俺を脅威とは思ってないようだが、認識はしている。隠形を使う事もできない。なぜなら奴はアレンとの戦闘中においても俺を目視し続けているらしいからだ。さっきっから試しているのだが、技:隠形が発動できない。

 一見してみると、アレンと魔物は対等に戦えているように見えるが、魔物の方が格上のようだった。



 俺はサイト越しに戦闘を眺めている。気配の消えた魔物の動きを目で追うのは難しいので、アレンの動きを追っている。そうする事で、魔物の動きもある程度は捕捉できるのだ。


 アレンの蹴りがはずれ、魔物の反撃を喰らいそうになった瞬間を捉える事に成功し、俺は魔物に向けて引き金を引いた。


 俺が撃っているのはアサルトライフルだ。銃弾を目て見て避ける化け物は二人程見たことがあったが、この魔物で三人目。奴はアレンへの攻撃を中断し、俺の銃弾を横目で見ながら回避して、すぐにアレンへの攻撃を再開する。

 

 あ? なぜ避けた? 自分で言うのもあれだが、俺の攻撃なんて当たったところでどうといったこともないだろうに……。まあいい。あいつは俺の攻撃を避けてくれるようだ。これなら、アレンへの援護として役に立てそうだ。


 視覚を強化して少しでも動きを捉えやすくし、触覚を強化して指先の感覚を更に敏感にする。そして集中。アレンが負けた瞬間に、俺の死は決定する。だからアレンが避けられないような攻撃に、援護射撃を合わせなくてはいけない。


 屋内なので風も吹いていないし、重力やその他の影響もなぜか地球と同等なので変に考える必要はない。

 速すぎてぼやけている魔物の動きに対して、何発かの援護射撃には成功した。アレンの攻撃は大抵が避けられていて、当たった時もその全てが防御されている。

 魔物の残りHPは、まだ99%以上だ。つまり、奴の全身を覆う魔力=盾扱いでダメージ計算が行われているようだった。

 防御に成功した場合、受ける攻撃からのダメージが軽減されるのだ。奥儀を使って変身し、強化されているはずのアレンでもろくにダメージが通らない……。



 『幹也、わかったわ。あの魔物の魔力特性……気配を消しているのと、こっちの気配を察知しているわ。いえ、気配というよりは……認識されるのを歪めているのかしら? だからこっちの動きが全部わかるし、魔物の動きが分かりずらいのよ!』

 『そう……か。ベルフェ、戦えるか?』


 『全力を出せないわけだし……幹也の魔力もあまりないけど、足止めくらいならできるわ。攻撃するにしても、せいぜい奴の体力を半分もっていくのが限界ね。』

 『半分か。よし、召喚するぞ。俺はMP回復をし続けるから、お前はアレンと一緒に戦ってくれ』

 

 

 「スキル:悪魔召喚……発動」


 《スキル:悪魔召喚発動》



 俺の真横からベルフェが現れる。あの召喚エフェクトは、今はステータスでの設定で効果無しにしている。だから今回のベルフェゴールの召喚は何もない空間から突然現れるような現象となるのだが、魔物はベルフェの存在を瞬時に察知したようだった。

 


 「○△□~。魔力増加(マジックブースト)、多重重力環境(ヘルグラビティ)制御パンチッ!」


 

 ベルフェゴールが魔法を唱えながら魔物に接近する。ベルフェの両腕には、黒色の魔力が灯っていた。

 ベルフェは何重にも円状になったようなそれを両腕に纏って、紫色の魔物を殴りつけた。


 ベルフェの攻撃が当たった瞬間、魔物のHPが15%以上削れた。俺は霊薬を連続使用しながらその動きを目で追っている。

 

 ベルフェの攻撃を受けた魔物に変化があった。というか、さっき以上に気配を感じなくなっている。アレンとベルフェが攻撃を仕掛けるが、その全てを躱して、更に反撃を加えていた。


 

 『くッ! この魔物、動きが捉えずらいわ! 目で感知できない……ならッ!』


 

 ベルフェが魔力の籠った両手を上へ掲げると、俺のMP値が連続でごそっと減った。詳細までは見てないが、1000単位で20回は使われたそれを、地面におもいっきり叩きつきた。そして、その魔力はこの広いダンジョン内全域に広がったようだった。


 それは、魔物の動きを読むための魔法だったのだろう。ベルフェの動きが良くなり魔物と格闘戦を繰り広げる。アレンも奥儀を連発して攻めていた。

 俺は変わらず援護射撃に徹する。二人の攻撃を対処する魔物の動きに隙が発生しているので、そこを的確に突いていく。俺が攻撃しても0.1%効くか効かないかのレベルだが。


 







 

 すでに魔物との戦闘が始まってから、五分が経過していた。俺の霊薬(エリクサー)も残り2個となり、魔物のHPも残り20%程まで減少している。

 だが、アレンが戦闘から脱落していた。そして……ベルフェゴールも。


 アレンは奴と対峙している途中、尻尾の薙ぎ払い攻撃に直撃してそのまま吹き飛んで、地面に倒れたまま起き上がれなくなってしまっていた。恐らく、奥儀がキャンセルされ、先に話していた通りの後遺症で動くことができなくなっているのだ。

 

 アレンが戦線離脱してからも。ベルフェゴールは奴と戦い続けた。だが、ベルフェの戦闘能力が奴に攻撃する度に、攻撃を避ける度に、少しずつ少しずつ減少していき、魔物の鋭い抜き手を腹部に喰らって、そのまま送還されてしまった。


 使い魔はこのゲームの設定上死ぬことはないから、召喚時に死ぬほどのダメージを受けた場合は使い魔の待機空間へと送還されてしまうのだ。そして、一度強制送還されてしまった使い魔はしばらくの間再度召喚する事ができない。更には念話等の能力も使えなくなってしまうのだ。


 

 だが、アレンもベルフェも仕事はしてくれた。

 アレン達が戦闘している間に、援護射撃を繰り返しながらステータスを確認して、俺が覚えているすべてのスキル、技の効果を確認することができた。

 

 五体目の魔物の残りHPは約30%だ。俺はHPもMPも90%以上ある。更にはAGI値にBPを極振りした御蔭で奴の動きにも多少は反応することができるようになっていた。認識を妨害する魔力特性はスキル:認識を使って中和しているから、残る問題は根本的なAGI値の差なんだ。

 

 どうやら能力値はBPを振り終わってから数分間の間に徐々に上昇していくようで、この5分間に俺の俊敏値は1705の値まで上がりきったようだった。



 「グルォォォオオオオオッ!」


 「……死ね」




 魔物がこちらに向かってくる。その動きは余りにも速すぎて回避不可能に思える……が、俺は奴が3秒間の間に繰り出された7回の攻撃の全てを、スキル:逃走犯を"使わずに"回避した。


 

 《スキル:邪教徒発動》



 スキル:邪教徒。邪神教の信者となり、邪神の加護を得ることができるスキル。このスキルが発動されている間、俺のステータスの全ては5.0倍の上昇補正を受けることができる。

 まさにチート並みのスキルなのだが……勿論その代償はある。いや、俺自体にデメリットは一切存在しない。このスキルは合計で300秒だけ発動することができるのだが、この300秒という時間は、1日毎に1秒だけ数値を回復することができるんだ。そして、300秒という数値を使いきってしまった瞬間……俺は死んでしまうらしい。


 299秒経過したらスキルを解除すれば、俺は死ぬことは決してない。だからデメリットは存在しないと言っても過言ではないのだ。更に言うなら、俺はこの手の時間計算をミスることは少ない。ここ数年で散々練習した結果だ。誤差1秒以内に抑えられる自信があるので、298秒間はスキルを使うことが可能というわけだな。


 邪神の加護の効果であるステータス五倍。これは最終ステの数値が五倍されるという意味だ。俺のINTは約500から約2,500へ。AGIは約1,700から約8,500へ。そして……最大MP値は約6,000から約30,000へと強化される。

 



 俺は魔物の攻撃を避けながら、更に他のスキルを発動させる。認識スキルの一つであるスキル:誤認。その効果は"対象にちょっとした誤認識を与えることができる"だ。

 

 手刀で俺を貫くことができたという誤認識を奴に与える。だが、それはすぐにバレてしまうだろう。数日前にベルフェで試した「あ……あれ?」と数秒間しか誤認識を与えることができなかった。


 だが、一瞬でもその誤認識が発生すれば十分だった。一瞬でも俺からの認識が外れれば、俺は技:隠形を使うことができる。更にそこから技:暗殺への派生コンボを繋げて……俺は黒蟲の短剣で奴を斬り付けた。


 技:暗殺の効果により威力が三倍、クリティカル発生確率が100%となった状態での俺の攻撃は、この強靭な魔物にとっても有効であった。

 約2~3%のダメージを与えた後に、短剣を投げ捨てるようにアイテムボックスへ放りながら、両手にドッペルガンを構える。

 形状は機関拳銃(サブマシンガン)。それを奴の脇腹から背にかけて回り込むように撃ちつづけた。


 当然の如く奴は回避運動をしながら反撃をしてくる。

 俺はこの状態で更にスキル:殺人鬼を発動させた。殺人鬼状態からのスキル派生は、強化状態での俺の体を動かすための操作権限が弱いために少し難しいが、その逆なら容易に可能なのだ。


 五倍されたステータスが、さらに上昇する。加えてチート性能の自動アシスト機能により、俺の体は神掛かった動きを見せた。

 

 魔物の反撃、尻尾での薙ぎ払いを紙一重で避け、その尻尾に両手のドッペルガンでの攻撃を続ける。

 常に弾丸の生成を繰り返されたドッペルガンは、事実上無制限に銃弾を吐き出し続ける事が可能だ。リロードの動作が必要ないからな。MPが切れればその連射は止まるが、その前に魔物のHPが無くなるだろう。

 

 強化されたドッペルガンでの攻撃は、一発一発の火力が低いとしても、魔物のHPを断続的に削り続けるという一点に対してはかなり強力だった。


 まるで舞いを踊っているかのような滑らかな動きで魔物の攻撃を回避しながら、ひらすら銃弾の嵐を魔物にむかって食らわせ続ける。

 

 

 制限時間の12秒はとっくに過ぎているが、俺の動きが止まることはない。

 

 これはスキル:殺人鬼が邪神の加護により上昇補正を受ける前のMP値、つまり6,525の値をMPの最大値であると認識しているためだ。

 ゆえにスキルを発動させていたとしても、3秒間につき約1200ちょっとしか俺のMPは消費されない。


 なので、スキル:邪教徒発動中の俺は、12秒の壁を取り払い、スキル:殺人鬼の状態で戦い続けることができるのだ。




 


 「グルルルルルッ」


 「…………」




 スキル:殺人鬼状態での戦闘をしばらく続けると、俺のMP値が5000程まで減少した。

 奴は全身をドッペルガンで撃ち続けられて、破損しているわけではないが、あちこちに全身に覆われた魔力の綻びが見える。一言で表すなら、ボロボロだった。

 

 魔物のHPは残り10%。勝てると思い始めた矢先のことだった。奴が身に纏っていた魔力を解いたのだ。

 そして奴は、鋭く、細長いはずなのに、先の戦闘では尋常じゃない程の力を発揮してきたその尻尾だけに魔力を集中させた。


 その魔力に包まれた尻尾での攻撃に、すべての魔力を使う気のようだ。



 ……。俺は奴を睨みながら考える。

 俺の技の中で一番の力を発揮する攻撃は、恐らく暗殺状態と強撃状態を重ね掛けした短剣による一撃だ。

 形状変化したドッペルガンでの一撃よりも、ゲーム的な攻撃力として見た場合は短剣の方がダメージ量が上回るだろう。


 しかし、奴は俺から一瞬たりとも目を離さないだろう。スキル:誤認を使用したとしても、奴の魔力特性である気配隠蔽と気配察知を使われて失敗に終わることは目に見えている。


 だからアニメの主人公みたいに、自分の必殺技なんて使わない。俺の必勝パターンはすでに確立している……逃走犯で回避。そして全力で反撃だ!



 「グルルルルルルルル…………グラッ!」


 「逃走犯ッ!」



 《スキル:逃走犯発動》





 スキル:殺人鬼を解除して、スキル:逃走犯を発動させる。勿論、その一瞬に霊薬を使用してHPとMPを全快しておく。

 邪神の加護は残り250秒を下回っている。早々に決着をつけなければならない。


 奴の尻尾の一撃は、今まで見たどの攻撃よりも速く、それでいて強靭な一撃だった。

 俺の体がスキルの自動アシスト機能により、HPの数%を代償にして、超高速で左足を軸にして空中へ跳び、そのまま更に二回転した。

 

 魔物の尻尾が俺の上すれすれを通り、さらに魔物が体をひねって繰り出した二撃目の攻撃も、体の回転を利用して避ける。それはスキルを使ったはずなのに、本当にぎりぎりの回避運動だった。


 俺はスキル:逃走犯を発動した状態で、奴に攻撃を仕掛ける。魔力の光が灯っていない背に向けて短剣を振るう。

 奴の皮膚はまるでゴムみたいに弾力があって、上手く切り裂くことができなかったが、HPにダメージを与えることには成功した。


 そのダメージ量は短剣で普通の魔物を攻撃したとき同様、3~5%程は削ることができた。硬化の魔力による強化が途切れた状態なので攻撃が通りやすいのだろう。よし、これで詰みだ。



 地面に着地しながら短剣を投げ捨て、再び両手にドッペルガンを構える。反動を軽視しての攻撃。右腕を折り曲げ左腕を伸ばすようにして、両手の引き金を引く。

 

 右手の機関拳銃(MP5)と左手の回転式拳銃(M500)から銃弾が吐き出される。

 M500からの銃弾を受けて体を傾けた魔物へMP5からの連撃が続く。

 姿勢を整えようとした魔物へ、高威力であるM500での攻撃でその動きを妨害し、アタッカーであるMP5でHPを削り続けることで…………五体目の魔物のHPがゼロになり、銃弾を受けて、その巨体が地面に倒れ込んだ。くそが、ざまあ見やがれ。





 




 「おい、おいアレン、動けるか?」

 「無理っす…………動けないっす~。」


 「そうか。ほら、腕を貸せ」

 「めんぼくないっす」



 地面に倒れていたアレンの体を支えて、彼を起こして前を見ると、俺達の目の前には二つの宝箱が出現していた。


 一方には宝箱の表面に銀色の文字でアレン・ウスルダッツと、もう一方にはみきゅあと彫られている。これは……クリア報酬か。


 俺はアレンを支えながら自分の報酬を開けた。中には…………一本の斧が入っていた。これは……手斧?

 


 それは藍色の柄に薄い青色の刃が付いているものだった。見た目はすごく綺麗だが、え、強いのか?

 一応、手斧というのは職業的に使える武器の一つではあるんだが、斧なんて使ったことはないし、正直微妙な気持ちであった。


 隣にいるアレンも、腕くらいは動かせるようになったか、自分の報酬を確認していた。アレンの方は何やら一枚の小さな紙きれと、小瓶に入った薬のようなものだった。少し、気になったので聞いてみる。


 

 「俺の報酬は斧みたいだ。アレンのは何だった?」

 「俺のは何かの粉みたいっす。ええっと…………一緒に入ってた紙に書いてある通りなら、完全回復薬ってかいてあるっす」


 「完全回復薬?」

 「はいっす。腕とかとれても生えてくるらしいっすよ?」



 「それは……すごいな」

 「すごいっすけど……なんか微妙っすね」



 「まあ、とりあえず今日は宿へ帰るぞ。というか、俺の方は魔法具らしき物が手に入ったから、一応は目的通りだな。」

 「そうっすね。あ……支えてもらってもいいっすか?」





 俺はその後、何時の間にかダンジョン内の中央付近に出現していた、入るとき同様の謎の機械を操作して、入口まで戻った。

 それからアレンの動かなくなった体を支えながら、ゆっくりと宿へと向かって歩き出した。












 


 それから一週間程宿へ滞在し、アレンの後遺症が治るのを待ってから、街を離れた。

 


 数日後、クラーク王国へ戻るための道中、野宿の準備をした後で夕食を食べていると、行き成りアレンが妙な行動をとり始めた。


 ドタバタと、器用に膝の上に乗せていたのパンやらスープを溢しながら、食事中にも関わらず、いきなり立ち上がったのだ。ああ、だから膝じゃ不安定だから下に置いて食べろと言ったのに! 誰だよ大丈夫っすよ~とか笑いながら言ってた奴ッ!



 「ろ、ロロンっすか!? ロロンッ! 俺っす、アレンっす!」

 「それはこっちのセリフっす! 今どこにいるっすか! 大丈夫っすか!?」

 「え、俺はクラーク王国ってところにいるっす! 東の大陸って呼ばれている大陸の、栄えてる国っす」

 「…………わかったっす。じゃあそのムール村ってとこに行くっすから、そこを動かないで欲しいっす!」

 「わかってるっすよ。俺もロロン以外に合わせてないっすから、このまま繋ぎっぱなしにしてるっすよ!」

 「俺は大丈夫っす。それでも一回合流した方がいいっす。ここは危険みたいっすから」



 といった具合に一人で叫び始めたのだ。なんだ……念話か? 俺とベルフェゴールみたいに、アレンも誰かと念話しているのか? 念話なら頭の中で考えるだけで会話が可能だが……。


 

 アレンはひとしきり話終わると、なんだか初めて見るような複雑そうな表情をしながら、俺に話はじめた。

 

 アレンの幼馴染が、ムール村という所にいて、すぐに合流しなければいけないこと。このままクラーク王国へは向かえなくなったこと。そして……パーティーを解散してほしいということ。


 エルフには親しい者とテレパシーを使って会話するような能力があるらしい。それを使ってアレンとその幼馴染のロロンとで会話をしていたみたいだ。

 きっと、その幼馴染とやらに何かがあったのだろう。それで助けに行かなくてはいけない、と。


 

 俺は少し考えた。俺には選択支が二つある。

 俺がアレンに着いて行って、その幼馴染とやらをアレンと一緒に助ける。パーティーを解散し、俺一人で冒険者を続ける……この二択だ。


 そして……後者の方が俺にとっては都合が良かった。

 俺は、一年以内にSランクの魔物と戦わなくてはならない。そのためにも、一刻も早く強くならなければいけないのだ。



 「わかった……。アレン、お前はその幼馴染とやらと合流した後はどうするんだ? 冒険者を続けるのか?」

 「正直、検討がつかないっす。多分、続けることにはなると思うっすけど……」



 「そうか。なあ、アレン。前にも言ったことあるかもしれないけど、俺には倒さなきゃいけない魔物がいるんだ」

 「そういえば……言ってたっすね」


 「そいつは強くて、余りにも強すぎて、俺とベルフェゴールだけじゃ戦力が全然足りないんだ。だから、もし、その幼馴染とやらとご「お、俺は! 協力するっすよ!」



 俺の言葉を遮るように、アレンがそう言った。



 「いいのか? そいつはSランクの魔物なんだぞ……」

 「わかってるっす。ベルフィさんがいるのに戦力不足になる相手はそうそういないっすから。俺も、きっと幼馴染も協力するっす」


 「本当にいいのか? だって、お前たちには、なんのメリットも存在していないんだぞ?」

 「メリットならあるっすよ。強い魔物と戦えることっす!」


 

 アレンは立ちながら、俺に向かって話続ける。



 「ミキュアさんのことだから、きっと何か策があるんすよね? だったら、協力して、そういう相手との戦闘を経験しておくことが、何よりのメリットになるっす!」



 「たしかに策はある。だが……それは俺とベルフェゴール以外に、戦闘能力の高い仲間が必要になるようなものだ。だから……協力してくれるのなら、ありがたい」

 「はいっす。俺、幼馴染と合流したらクラーク王国へ行くっす。多分、何ヵ月か掛かってしまうと思うっすけど、転移石が買えればすぐに移動できるはずっす」



 アレン……。そうか、手伝ってくれるのか。アレンの最終奥儀。オーラを漂わせながら巨大化するあれなら龍人と戦うのも可能かもしれない。となると……


 「そうか。じゃあ、具体的な日付を決めておこう。そうだな……うん、今日から200日後。200日後から210日の間だ。つまり、半年と約一ヵ月後ということになる」

 「そうなると……冬の時期になるっすね。わかったっす。200日から210日後に、クラーク王国の冒険者ギルドで待ち合わせっす!」




 アレンはそう言うと立ち上がったまま、自分の荷物を仕舞いだした。恐らくは、今すぐにでもその幼馴染の元へと駆け付ける気なのだろう。ったく。


 俺も立ち上がると、荷物を整理し終わったアレンの青白い獣耳を数回撫でてから、背を軽く叩いてアレンを見送った。




 「じゃあなアレン、また会おうぜ!」

 

 「はいっす! また会いましょうっす!」




 此方を振り向き、頭を下げながらそう言うと、アレンは薄暗い暗闇の中を真っ直ぐと走って行った。

 俺はその後ろ姿を見送ると、冷めてしまった夕食を食べてから、静かに眠りについた。満月の明るい、静かな夜だった。















 それから俺は10日程かけてクラーク王国へと戻った。

 

 そこで、中学時代の同級生に会った。


 


 

 

 

 

 

 

 美也「あ、明日香くん明日香くん、掲示板見てたら書いてあったんだけど、また新しい神器が見つかったみたいだよ!」


明日香「お、本当? ゲーム開始2ヵ月でこんだけ見つかるとか、みんな本気だな……。それで、どこの世界が手に入れたの?」


 美也「それはね、じゃーん! ほら、第七世界のひとだって! 名前は『みきゅあ』って人らしいよ」


明日香「『みきゅあ』か。これで俺達の世界は神器を2つも獲得したことになるな! もう一人は、ええっと……。」


 美也「『マラブレード』さんだよね?」


明日香「そ、そうだったな。(美也ちゃん、女の子があんまりマラとか言わない方が……。でも、下ネタの意味を教えるのもなんかセクハラみたいだし)」


 美也「いいなー。他の神器はもう違う世界に取られちゃったし、どうすれば手に入ったんだろう?」


明日香「それだけど、マ……ブレードさんが掲示板に書いてたよ。彼は西の大陸のダンジョンで手に入れたらしいね」


 美也「西の大陸かあ。西の大陸って確か危険な所だったよね?」


明日香「らしいね。北の大陸に続いて魔物のレベルも高いらしいし。でも、その分最初さえ上手くいけばどんどんレベルは上がるだろうね」


 美也「ふーん。でも、どんなに早くレベル上げてもみんな50レベルで止まっちゃうんでしょ?」 


明日香「成長限界が解放されてないからね。だからこそ、みんなステータス振りには慎重になってる」


 美也「だねー。私も殆どBP貯めたままだもん。最初に全部使っちゃった人は可哀想だよね」


明日香「だな。BP使わなくても強くなる方法なんていくらでもあるもんな。でも、そろそろ検証組が一番効率の良いステータスを検証し終える頃じゃないか?」


 美也「本当!? 私的には全部DEXに使いたいんだけどなあ。」


明日香「え、DEXの補正って器用になることだけど……」


 美也「うん。お兄ちゃんのTしゃ……あ。な、なんでもないよ!」


明日香「そ、そうか……。(幹也、お前の妹はもうだめかもしれない。この前、偶然一人言で話してたのを聞いちゃったんだけど、お前の服使ってマスク作るだとか呟いてたぞ……。)」



この前


 美也「お兄ちゃんのTシャツ。私のアイテムボックスじゃあ入れた瞬間に新品になっちゃうし、かといってずっとポケットに入れておくと私の匂いに……うーん、うん? あ、ああ! そうか、アイテムにしちゃえばいいんだ!それならお兄ちゃんの匂いは消えない!だとすると……マスクとか、いいかも。極自然にお兄ちゃんに包まれることが」ブツブツ


明日香「……。」

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