↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/54

第09話 D級ダンジョン

前書き:他使徒編  後書き:妹編



 セリ「のどがかわいたぞ。おいルシー、ジュース買ってこいよ」


ルシフ「くッ……ここで待ってろよ! 絶対どっか行くなよ!」


アスモ『はあ。上級悪魔をまるでパシリのように……。ベルゼ、大丈夫? ○×△□~ごにょごにょ。治癒魔法(ヒーリング)』


ベルゼ『………………………………あひぇ』


 俺様はルシファー。列記とした上級悪魔だ。そして、そんな俺様をパシリに使っているこの少女はセリ。セリ・リリアナ・アンドリュー・デネシアといって、俺様の主人に当たる使徒だ。

 セリは第十世界の出身なので、体は小さくても膨大な量の魔力をその身に宿している。そんなセリは俺様を含めた19人の上級悪魔、更に100人以上の下級悪魔を使い魔として所持していて、使い魔達全員はセリに対して…………決して逆らえない。


 セリから少しずつ聞き出した情報を纏めると、第十世界には魔法の上位互換的な存在である"魔術"ってのがあるらしい。

 この魔術のせいで、「こら! 自分のことは自分でやらなきゃダメでしょ!」とセリを注意したベルゼが、"私(セリ)が良いと言うまで木の枝(これ)使ってア○ニーでもしてろ"等と意味不明な魔術を掛けられてしまって、この一か月間、使い魔たちが待機する空間で、その場に偶々落ちていた木の棒を使い狂ったように自慰……いや、自傷行為を繰り返している…………。

 


 既に穴は裂け、出血もしている。その度に回復魔法を掛けてはいるが……。酷い、酷過ぎる。ベルゼは……ベルゼブブは良い奴だったのだ。

 先代のベルゼブブから受け継いだ透明の翅を背に携えて、緑色の髪を肩まで伸ばしている彼女は、美人的な容姿が整っているとは言えないが、愛嬌のある可愛いらしい顔をしていた。

 彼女とは悪魔界にいた時から飲み友達だったのだ。俺様がベルゼの家に尋訪ねに行くと、自家製の野菜を使った実に美味な料理の数々を振る舞ってくれた。

 上級悪魔だが下僕を一人も持たない彼女の家は裕福とはいえなかった。それでも、俺様が酒を持って訪ねると、常に笑顔で出迎えてくれたんだ。俺様はそんな彼女が……異性として好きだった。

 俺様のハーレムにいるような欲に狂った女達とは違う。純粋で綺麗な心を持つ彼女に、俺様は惹かれていたのだ。


 そんな、そんなベルゼに対して……。当初こそ、俺様は内心怒り狂ったが、セリの魔術に対する対抗手段がないのだと気付いて、冷静になった。

 悪魔達で話し合ったりもしたが、どうやら俺様達には、というか第十世界以外の生き物には魔術耐性という魔力耐性とはまた別のものが備わっていないらしい。

 上級悪魔の中でも随一の魔法耐性を持つベルゼに対して有効なのだ。他の者に抵抗(レジスト)できるはずもなかった。

 人質が有効なことに気付いたセリは、"一年間、私に逆らわなかったらこいつを解放してもいい"とベルゼを指差しながら言った。そして、何かあったらこのまま殺すとも。

 俺様達は服従することを選んだ。どのみち彼女(セリ)が死んでしまい使い魔諸共ゲームからリタイアしてしまえば、唯でさえ個体数の少ない上級悪魔が19人もいなくなり、第四世界は負け、上級悪魔は下級悪魔へと降格されてしまう。彼女を支援するしかないのだ。


 服従して……一ヵ月たってわかった事が他にもある。こいつは…セリは、馬鹿なのだ。

 

 セリは子供なのだ。子供心が暴走しているというかなんというか……とても言葉では表せない。ふらふらと急に居なくなるなんて当たり前、変質者には自らついていくし、偶に会話すら成り立たない。その上、自らを頭が良いと思い込んでいる。確かに悪知恵は妙に働くのだが。


 セリはこっちが助言してやれば一応は聞いてくれる。俺様はこの場で待つように言うと、ジュースを買いにその場を離れた。

 

 待ってろベルゼ。いつか俺様が…………必ず助けてやるからな!


 

 


   「へへへ、お、お嬢さん。おじさんと一緒にくれば、美味しいお菓子をあげるよ? ハァハァ」

 セリ「え、お菓子ッ!? 行く行く行くー!」



アスモ『ちょ、ルシファー! セリがまた変なのに着いて行こうとしてるわ! 早く! 早く戻ってきてー!』


ベルゼ『……………………あひっ』



 



 ゲーム33日目。俺とアレンはダンジョンから一番近い街に辿り着いていた。


 ここにはダンジョンへ挑む人達用の宿屋や道具屋、装備品等を売っていたり修繕することができる鍛冶屋なんかがあったりする。

 そう聞くと一見賑やかそうに聞こえるが、その殆どは"もう帰ってこない冒険者への対応"しかしてくれない。つまり、冷たい対応だ。

 中には上級の冒険者が低確率ながらも、いずれはレアな魔法具が手に入るだろうと低級ダンジョンへ挑みまくるって感じの人もいるが、そんな金の掛かることをする人は結構少ない。

 大半の冒険者は命知らずに、夢を求めてダンジョンへ潜る。そしてそのダンジョンの養分になる。しかしダンジョンでの死を恐れて街に人が全然来なくなるなんて事はないみたいだ。実際、俺とアレンが泊まっているこの宿も空き室が一つしかなかったわけだし。冒険者達は命知らずな奴らだから。金の為。強者と戦う為。自分を高める為。理由は色々だ。


 俺達は今日の昼くらいにこの街へ着いた。護衛してきた馬車に乗せてもらうこと約2週間。魔物に襲われること四回、アレンを襲ってきた謎の集団に襲われること六回。アレン……。

 最後には「あんたらに護衛をまかせて失敗したよ。でも無事この街まで着く事はできた。それだけは礼を言っておこうか」とか上から目線で皮肉を言われてしまった。おいアレン。お前どんだけその集団に恨まれてるんだよ。

 まあ殆どはアレンが一人で倒してしまっているわけだが。俺がした事といえば戦闘中にスキル:窃盗犯で金をパクったり、死体漁ってアイテム入手したりとかそんなもんだ。

 どういうわけかアレンは死体からアイテムを取りたがらないからな。「そ、そんなバチ当たりな事できないっすよ! この世界は色んな神様が見てるんすよ! 天罰が下るっす!」ってびびってたな。

 俺をこの世界へ飛ばしたのが神様らしいから、少なくとも13の世界に一人すついるとして合計で13人くらいはいるとは思うが……こいつの言っている事は宗教的な神様のことだろう。

 その神様が死体からはアイテムが取れるってシステムにしたんだから、天罰もなにもあったもんじゃないと思うけどな。

 

 そんなこともあって、またもや俺は小金持ち状態だ。

 まったく、アレンと旅をすると金が貯まるな。

 ダンジョンに挑むのは4日後となっている。なぜ今日挑まないのかという理由なのだが、どうやらダンジョンにはこの日はこういったレアアイテムが入手しやすいよ!みたいな日が設定されているらしいのだ。ゲーム感溢れる施設だな。

 これはこの街のギルドにある酒場で、ある冒険者から聞いた話なんだけどな。そいつは珍しくA級冒険者なのに格下のD級ダンジョンへ只管挑んでいるらしく、独自に集計した色んな冒険者の魔法具入手履歴から調べたアイテム別の入手傾向を教えてくれたんだ。金貨五枚で。情報料250万円だな。その情報料は次のダンジョン探索へあてるらしい。そうやって今までこのダンジョンへ挑み続けているみたいだ。

 その中で当然のようにレアな魔法具を何度も入手しているみたいだ。だからこそ彼はA級冒険者になれたとも言っていた。彼が装備している鎧、武器、その他アイテムの殆どが魔法具だった。元々はB級冒険者だったらしいが、所謂アイテムチートってやつだな。


 一応、龍人討伐時の仲間候補へとその辺の話もそれとなくしてみたのだが、断られてしまった。

 曰く「俺はまだ死にたくない。なあ、悪い事は言わない。やめておけ。お前はきっとSランクの魔物という存在が正しく理解できていないのだ。あれら俺ら人族が敵うような存在ではない。例えばお前は頭が胴体から離れれば死ぬだろう。致命傷だからだ。致命傷を受けると死ぬ。Sランクの魔物に挑むと死ぬ。同じことだ。」らしい。真面目モードで言われてしまった。酔いが覚めちまったぜ……と席を立たれてしまったぐらいだ。

 

 上級悪魔のベルフェゴールは『勝てる』という。だが同じ人族の彼は『勝てない』という。そして、獣人ハーフのアレンは『わからない』と言っていた。

 詳しい理由は隠して、アレンならSランクの魔物に人族が勝てると思うかと聞いてみたら、「わからないっす。ただ、似たような事を父さんに聞いた事があるっす。父さんには『人族でも獣人並みに動ける奴もいた。エルフ並みに魔法の出来る奴もいた。人種差別はいけねえ。』と言われて怒られた事があるっす」と言っていた。

 まあ、俺は勝てると踏んでいる。勝てる。なぜなら負けはしないからだ。

 俺がHP回復アイテムを莫大な量用意して龍人の攻撃をスキル:逃走犯を使えば死にはしないんだ。アイテムを使える暇があるかどうかはわからないが、転移石を使う暇はあったんだ。薬を飲む暇くらいあるだろう。

 

 龍人を倒せるような仲間だって集める。勿論、俺よりも実力が数段階上のメンバーを集めるつもりだ。候補としてはおっぱい師匠とか母さんとか父さんだな。きっと三人ともこの世界にいるだろう。

 俺と美也がGWOを予約して買ったように、恐らく父さんが母さんの分と合わせてソフトを二つ買っている。なぜなら父さんは今までに発売した全てのVRゲームのソフトを複数個予約購入しているからだ。おっぱいだってそうだ。全てのソフトを初回で買っている。

 

 おっぱいは卑怯だ。『んー、こんなもんね!』と当てまくった宝くじで生活費を補充している。

 どん引きだ。日本に宝くじや競馬等が存在するかぎり、あの人は遊び放題なのだ。だから俺は大学に進学したら確率について勉強して、おっぱいの存在を世に公表しあのシステムを封じておっぱいを真人間に更生させてみせる。ゲームを教えて貰ったせめてもの恩返しだ。本人は嫌がっていたが。

 

 父さん。父さんも母さんやおっぱいと同じように、この世界に来ているとすれば戦闘面ではどうだかわからないが、当然強い。まあ、少し強さの方向性が違うんだがな。

 父さんは頭が良い。勉強ができるってわけじゃない。プレイするゲームの最も効率の良いプレイを探すのが異常に上手いんだ。まるで事前に攻略法を全て調べているかのような迷いのなさで初見のはずのゲームを進めていく。仮に壁に立ち止まっても頭の回転が速いのかすぐにその壁すらも楽々突破してしまうんだ。

 だが、VRゲームはあまり得意ではないらしい。父さんの力は侵略シミュレーションや推理ゲーム、RPGのようなゲームで発揮される。

 他にも将棋、囲碁、チェスでプロとして活躍していた経歴を持っていたりもする。今はゲーム紹介サイトの広告代で稼ぎつつ遊んでいるダメ人間なのだが。

 アフィで四人家族を養えるようなその才能には正直感心するが、見習いたくはないな。

 

 俺的には父さんには龍人戦の作戦、指揮を取って貰いたいと考えている。息子の頼みだ。恐らく聞いてくれるだろう。父さんは俺と美也には甘いからな。

 母さんも協力してくれるはずだ。母さんは父さんにべったりだ。あの剛拳悪魔は父さんが協力してくれるなら金魚の糞が如く着いてきて協力してくれるだろう。

 おっぱいは協力してくれないかもしれない。あの人の行動はあまり読めない。もしかしたら、一年間探しても会う事ができないかもしれない。強モブがうろうろしてる北の大陸に行ったりしている可能性もある。

 ゲーム開始一ヵ月でAランクSランクの魔物を狩ってレベル上げをしているなんて可能性も、まったくないとは言えないのがおっぱいの恐ろしい所だ。仮に会えたとしても負け戦には参加しないとか言われてしまう可能性もあるしな。


 


 ふう。考え事をしていたらのぼせてきてしまったな。

 この宿屋の部屋風呂は、ギルドの訓練場と同じく不思議空間に直結しているのか、かなり広くて大きい。他人なんていないから贅沢だ。

 ここでならベルフェゴールも召喚できるしな。あ、ベルフェが風呂に入る時は俺が購入したこの世界の水着を着用するよう言ってあるので、エロい展開にはならない。裸でもエロい展開になんてならないけど。つーか、俺が嫌だし…。

 水着をきているのに胸があるんだかないんだかわからないくらい薄い。貧乳エルフはありだが貧乳悪魔ってのはなあ。長身でエロい服きてるのにがりがりとか本当意味不明だわ。太れば?って言ったらめっちゃ怒られたし。

 

 アレンは俺の後に入るらしいから今はベルフェと二人っきりだ。あいつはあいつでなんか俺と風呂に入るのが嫌みたいだ。

 きっと修学旅行とかでたまに見かける"一人で風呂に入る俺"の人なのだろう。わざと時間をずらして入ったりするんだよな。そういえば、俺が去年行った修学旅行ではそんな人が多かったな。温泉ついてるのに、俺が入るときにはみんな入り終わってたり遅れてたりするんだよなー。

 まあ俺はあまり協調性ある方じゃなかったし、俺なんかと一緒に風呂に入れるかって事なのだろうか……だとしたらショックだ。一緒に入ってくれたのも明日香くらいだもんな。持つべきものは親友って奴だな。

 

 ふう。そろそろでるか。俺はベルフェに一言いってからその場を後にした。






 

 ど、どうも皆さん、アレン・ウルスダッツっす。とうとう、とうとうミキュアさんと同じ部屋に泊まる事になったっすよ!

 同じ宿じゃないっすよ、同じ部屋っすよ! あ、同じ宿の同じ部屋っす。

 今はミキュアさんは風呂に入ってるっす。今回は部屋風呂なので、一緒には入ってはいないっすけど、「風呂入らないのかー?」とさっき聞かれたっす! と、ということは一緒に風呂に入っても良いって思われているって事っす!

 

 パーティーを組んてから、最初は別の宿だったっす。初めての依頼の時には同じ宿に泊まったっす。クラーク王国に戻ってからは俺もデメタスさんの宿に泊まるようになったっす。ミキュアさんの隣の部屋に泊まったことで、会話する機会もかなり増えたっす。

 そして今日、とうとう同じ部屋に泊まる事になったっす! そりゃあ一部屋しか空いてないって理由があったっすよ? でも、他の宿に行くって手もあったはずっす。

 それをミキュアさんは「めんどくさいからここでいいだろ。別に一緒の部屋でいいしな。部屋代も半分になるし」って言ってくれたっす! 俺は感動してしまったっす。も、もしかしたら、俺は今日こそ、大人になるかもしれないっす。






 大人にはなれなかったっす……。湯上りミキュアさんはそりゃあもう超絶美少女でしたよ。可愛さの余り抱きつきそうになってしまったくらいっす。

 俺はドキドキしながら風呂に入ったっす。初めてが汗臭いなんて嫌っすからね! ちゃんと香水も何種類か用意してあるっす。一番ミキュアさんに反応が良かった香水も用意してあるっすし。

 昔、母さんに言われたっす。好きな女の子ができたら良い香りをつけてから優しく抱きしめてあげなさいって。多分、それは母さんが父さんにしてもらうのが好きなだけだと思うんすけど。うちの両親、いい年してらぶらぶっすから。リビングで普通にいちゃいちゃしてるんすよ。かんべんして欲しいっす。

 獣人には嗅覚鋭い人達多いっすから、ちょっとでも汗臭いとすごい言われるんすよね。だから獣人たちは匂いをつけたがるっす。きっと、ミキュアさんだって花の匂いとか好きに決まってるっす!

 風呂に入ると、中にはベルフィさんがいたっす。それにも少しだけドキドキしたっすけど、なんかベルフィさんは色気がないというか、こう……違うんすよね。なんでっすかね?

 

 まあいいっす。俺はドキドキワクワクしながら風呂から上がったっす。そしたら、そしたら…………寝てたっす。

 ミキュアさん、すーすー言って寝てたっす。幸せそうに妙に高級感のある枕にしがみつきながら寝てたっす。その寝顔にもこう、くるものがあったっすけど。

 これは、多分あれっす。前に父さんの言ってた『萌える』ってやつっす。 萌えたっす。 超萌えたっす!

 やばかったっす。半分正気を失った俺は、その寝顔にキスしそうになってしまったっす。今思うと、まるで体が吸い寄せられるかのようだったっす。まあ、それはベルフィさんに止められたんすけど。

 

 「金貨10枚で黙っておいてあげるわ!」って言われたっす。借金作っちゃったっす。父さんに何があっても作るなって念を押されていた借金を作っちゃったっす。

 借金には利子?っていうのがつくらしくて、ベルフィさんの話だと"10日につき借金総額の一割"の利子がつくらしいっす。まあ、金貨10枚っす。依頼を受けていればいずれ楽に返せる額っすね!

 


 ミキュアさんにベットを譲ってしまったんで、俺は床で寝る事になったっす。

 ミキュアさんからすーすー聞こえる寝息に興奮して、あまり寝られなかったのは内緒っす。でも、今日からまだ数日間は同じ部屋に泊まれるっす。 やばいっす。なんか人生が充実してきたっす。とうとう俺もリア充ってやつになれるんすかね。

 でも父さんの話だとリア充は爆発するらしいっす。爆発するんすかね?







 ゲーム37日目。俺とアレンはD級ダンジョン『クリーズスターズ』の入口に辿りついた。

 道中の危険はなかった。珍しくアレンに襲いかかる変なのもいなかったし、冒険者たちが毎日のように往復するその道には魔物が一切出現したりしない。

 魔物にもそれくらいの知識はあるってことだ。わざわざ殺されに行く必要もないしな。

 魔物が人を襲う理由は基本的に防衛本能からだ。自分の子供や卵を守るケースもあるみたいだが、漫画とかである人を食べるため! とか、鬼畜なエロゲとかで見かける苗床的な意味でも、人間や亜人間が選ばれるみたいな事はない。

 聞いた話だと人間は魔物にとって美味しくないんだとか。栄養も少ないみたいだ。それに人間にアレしてもあんま繁殖とかしなさそうだし。

 黒蟲のアレみたけど、俺よりデカかった。俺のアレよりじゃない、俺の身長、つまり147.2cmよりデカかった。つーか多分2m以上あった。とてもじゃないけど、入らないな。

 つーか苗床的なアレならそういった対象によくなる魔物が別にいるらしい。美味しい魔物も別にいるみたいだし……たまに冒険者ギルド内の酒場にも魔物料理が結構ある。

 一度も頼んだ事ないけどさ。アレンはばくばく食ってた。あいつと寝る女に教えてやりたいな。最近もなんか会う度に違う香水の匂いしてるしこいつ……エロ犬め、爆発しろ。


 「爆発しろ」

 「え、何か言ったっすか?」


 「いや、なんでもない。それより準備はいいか? ダンジョンは一度入ったら勝つか負けるかするまで出られないらしいからな。アイテム、装備、あとは、トイレとか行っとけな」

 「こ、子供じゃないっす! 準備はできてるっよ」

 

 「そうか。じゃあ行くぞ」

 

 

 俺はダンジョンの前に設置されている世界観が違いすぎる機械のような物に手を翳す。ギルド員の人はオーパーツだとか古代文明とか言ってたが、絶対違う。

 これ、多分だけど、神様連中が作った何かだ。だいたいの予想はつく。使徒達が自身を強化するための手段の一つをして作られたんだろう。

 

 俺は使徒ではないが、この世界の住人達が自由に使ってる所を見るに、ダンジョンへ挑む事じたいに制限はないのだろう。加えて報酬にも。

 使徒の挑戦によるレアな報酬が手に入る可能性の変化があるかは知らないが、ちゃんとレアな魔法具の入手も可能みたいだしな。挑戦する価値はある。

 

 冒険者達の話では、一回あたりのダンジョン攻略時間は、長くても一時間程度で終わるのだとか。

 そりゃそうだ。漫画やアニメなんかとは違って少数での戦闘時間なんてそうそう長くなるもんじゃない。

 持久戦なんて言葉があるが、それにしても十分そこらが限度だ。というか、少なくとも俺はそう何十分も戦う事はできない。30分間走り続けるより、3分間戦う方が何倍も疲れる。疲労の密度が違いすぎるからな。

 よく昔話にあるような、三日三晩戦い続けた!なんて奴が現実にいるとしたら、そいつはフルマラソンを全力疾走しても息一つ乱さないだろうよ。まあファンタジーなこの世界にはそんな奴も探せばいるかもしれないけどさ。いや、俺はいないと思うぞ。つかいたら嫌だ。多分勝てねえよ。転移石で逃走安定だな。


 ダンジョンの機械?に俺とアレンのデータを登録する。すると少し前方に黄色く光るポータルみたいなのが出現した。おい。ダンジョンの入口に付いてるこの豪華な扉は一体なんなんだよ。使わないのかよ。

 まあともかく、俺たちはポータルに入って行った。よし、ダンジョンスタートだ。







 ポータルに入ると、かなり大きな広間についた。

 広間の奥の方にはダンジョンの一匹目の魔物らしき奴が、こちらに敵意丸出しでグルルと吠えている。

 奴は確か、ギニルと呼ばれている魔物だ。Dランクの魔物の中では小柄な方で、2mくらいの狼男だ。Fランクにコボルトという犬人間がいるんだが、そいつの上位種だった気がする。

 ギニルの魔力特性は肉体強化。その効果対象は主に爪と牙に集中している。肉体強化を魔力特性に持つ魔物は多い。ギニルもその一種だ。

 

 すでに戦闘態勢に入ったアレンに続き、俺もドッペルガンを構える。形状変化をAk-47をイメージしながら促した。

Avtomat Kalashnikova-47。人類史上最も人を殺した兵器。つまり、世界で一番使われていたアサルトライフル。当然DOCにも登場し数多くの愛好者で溢れていた。

 ドッペルガンでも30発装填であり、リロード時の消費MPは25。他の形状と比べて威力こそ低いものの、扱いやすいという点では他の形状に勝る。というよりはDOC内で俺が良く使っていた銃の一つなので、扱いやすいと感じるのかもしれない。

 追加でスコープを付ける。スコープ越しにギニルを眺めながら奴に向かっていくアレンの後ろ姿を見る。

 アレンはかなり足が速い。奥儀ってのを使っていない状態でも、そこらの陸上選手より速い。さすが獣人としか言えないくらいの速さで疾走したアレンは、ギニルに向かって足技を主体とした格闘戦を仕掛ける。俺はその援護だ。

 

 初めて戦う相手、というか特に作戦を決めたような戦いを除いて、アレンが接近戦を仕掛けて俺がそれを援護するというのが俺たちのパーティーの戦闘スタイルとなっていた。

 身体能力がそれ程の上昇補正を受けている状態ではない俺は、平均してEランクの魔物までしか接近戦で対応できない。この対応というのは確実に勝てるレベルでの対応といった意味でだ。

 Dランク以上の魔物との戦闘では、スキル:殺人鬼とスキル:逃走犯を併用しながらでないとまともに戦えないんだ。俺がスキルを使うとHPMPの消費が多くなってしまう。なのでアレンの援護をするという役割へとなったのだ。

 

 アレンとギニルの戦いはアレンが常時押し気味に戦えていた。俺はアレンへ向けたギニルの爪攻撃だけをドッペルガンを使って防ぎ、その隙をアレンが叩いていた。

 この世界に来てからあまり射撃でのミスを犯さなくなってきている。ステータスのDEX値が何かの補正を与えてくれているのかもしれない。

 百発百中でアレンへの爪攻撃を防ぐ。全部で八回ほど爪への援護射撃に成功したあたりで、アレンの回し蹴りを受けたギニルのHPがゼロとなって、ギニルは吹き飛び倒れて、まま動かなくなった。よし、まずは一匹目クリアだ。


 倒れたギニルが突如光だして、奴の死体が消え新たな魔物が現れる。どうやら、そういったような感じで、次々と魔物が出てくるシステムらしかった。


 

 次に出現した魔物は同じくギニルだった。

 種族は同じなんだが、ああ、これがリラナルテさんの言っていた強化された魔物ってやつか。俺が以前戦ったリザードマンと同じように、赤い魔力で全身が覆われている。

 

 すぐに強化版のギニルとアレンの戦いが始まった。先程とは違い、お互いの実力はほぼ互角となっているようだ。奥儀発動前のアレンと同程度の強さまで強化されているという事だな。さっきよりも数段階強くなるように強化されているようだった。

 俺もアレンへの援護を繰り返そうとしているのだが……強化されたギニルは俺の銃弾を避け始めた。

 はあ、銃弾を避けるってかなり難しいはずなのに、なんでこの世界の奴はそう簡単に避けるかな。俺が外しているんじゃないよ?ちゃんと直撃コースで撃っている。だが、俺の攻撃を察知して避けてしまうんだ。

 二匹目か……少し早いとも思ったが、アレンに声をかけた。


 「アレン! もう制限なしで戦うぞ! こいつ、かなり強くなってる!」

 「了解っす! 俺も賛成っす!」


 「グララララララッ!」

 「奥儀:獅子 弐ッ!」


 威嚇しながら爪攻撃をアレンに向かって繰り出そうとしたギニルの足に、奥儀で強化されたアレンの蹴りが命中する。

 普通に考えるとアレンの足がギニルの爪で切り裂かれそうな気もするのだが、なぜが攻撃同士が相殺されていた。おお、隙ありッ!

 

 俺は怯んだギニルに向かってドッペルガンを使って追撃をかける。数発だけだが奴に銃弾が命中した。

 勿論、俺の攻撃で奴に与えられるダメージ量は少ない。だから俺はギニルの目元を狙って撃ったんだ。

 当たった数発の内、二発が奴の左目の近くをえぐっていた。よし、強化版のリザードマンの時みたいに弾かれたらどうしようかと思っていたが、こいつは攻撃とスピード重視で強化されているようだ。


 俺があの時リザードマンとまともに戦えていたのは奴が素早くなかったからだ。

 同様に防御力に難のある強化版のギニルはHPへのダメージ量こそ少ないものの、肉体に傷を作る程度には俺の攻撃も有効みたいだった。

 

 目元を負傷したギニルの動きが鈍る。その隙を見逃すほどアレンは甘くない。あのエロ犬はエロくてもC級冒険者だ。つまり、一流冒険者の更に上の強さを持っている。続けて右腕で放った奥儀を、ギニルの首すじに叩き込んだ。


 「奥儀:獅子 壱ッ! 壱! 壱! 壱ィィィッ!」

 「グガッ、ガ、ア、ァッ!………ァァ。」


 両手で交互にギニルの首に向かって手刀を叩き込み続けるアレン。抜き手が首に刺さる度にかなりの量の血が、その傷口から噴き出ていた。ちょ、グロいよ……。

 


 アレンの奥儀が終わった頃には、残りHPを40%程残したまま死んでいる状態の強化版ギニルが、その場に転がり落ちていた。

 やっぱりアレンは強い。本当、なんで俺に対して手下みたいな感じで接してくるんだろう。一緒にパーティーを組んでからというもの、あの時の模擬戦はかなり偶然での勝利だったんだと何度思い返した事か。


 強化版ギニルの死体が消えて、すぐに新たな魔物が出現する。話には聞いていたが、この魔物を倒してからすぐに新しい魔物が出てくるというシステムはかなりやっかいだ。態勢を整える暇もなければ休憩する暇もない。


 三体目の魔物は見た事のない魔物であった。紫色の身体を持つ小型で、人型の魔物。長い尻尾を持っていて全身が滑らかだ。

 顔には目が付いていない。耳も鼻も見当たらず、かなり大きく裂けている口にはびっしりと鋭い牙が生えている。そして、全身と同じ色の魔力が体のあちこちから噴き出ていた。

 そいつを一目見た瞬間から俺の体は微かに震えていた。ああ、やばい。こいつは、強い。


 「アレンッ!」

 「は、はぃグフゥッ!」


 そいつは出現した次の瞬間にはアレンに殴りかかっていた。

 腕で防御したアレンがそのまま数十メートルと吹っ飛んでダンジョンの壁にぶつかった。な、なんだ、あの規格外の攻撃は……。

 


 そいつはアレンを吹き飛ばした後に、俺の方にも向かってきた。俺はすぐにスキル:逃走犯を発動する。

 俺の体が高速で二度程、回避運動をとる。そこから更に跳躍し、合計三度の攻撃を回避した。一瞬で間合いを詰めて両手で二度、尻尾で一度の攻撃。それは、少なくとも素の状態での俺には回避不可能な攻撃だった。

 

 まずいな…今の三回で約5%前後のHPがスキルによって消費されている。このままでは押し切られてしまうかもしれない。アレンは気絶しているのか、起き上がる気配がない。

 ……。まだ後に二戦も残っているが、俺は全力で戦う事に決めた。スキル:最適化発動。

 


 《スキル:最適化発動》



 全身が光に包まれて……俺の体が組み替えられる。

 147.2cmから178㎝へ。42㎏から72㎏へ。俺の体が、俺が一番戦いやすい形に組み替えられていく。つまり、俺がDOCで使っているアバダーへと。


 スキル:最適化。このスキルは俺の体を一番戦いやすい形へと変化させる事ができる。変化魔法の一種だとベルフェは言っていたが、分類がスキルなので変身能力の一種だと言えよう。

 初めて使った時はGWOで設定した190㎝の巨漢になる事ができたんだが、すぐにこっちの体へと切り替わってしまった。

 システムには初めて使う巨漢より慣れているこっちの方が戦いやすいだろうと判断されたみたいだな。発動時間は10分間。クールタイムは50分間。つまり、一度の戦闘で使えるのは一度きり、正真正銘、俺の切り札だ。

 

 このスキルの効果はただ一つ。戦いやすさの向上だ。別段ステータスが上昇したり、魔法的な効果が付くわけじゃない。

 言い訳みたいに聞こえるかもしれないが、俺は今まで戦い慣れていない通常サイズの、いつもの俺の体で戦っていたんだ。

 まあ、この体にはこの体の良さもあるのだが。戦いずらかった一番の理由は四肢の長さがアバター時のそれより短かった事だ。いつもの間隔で戦おうとすれば、動作の一つ一つにわずかなズレが生じていた。

 しかし、この体を使えばそれを心配する必要がない。自然体で戦う事ができる。この姿であれば接近戦も少しくらいなら大丈夫なはずだ。


 俺はドッペルガンを両手に構えた。

 取り回しの効くハンドガン状にして紫の魔物に銃口を向ける。するとそれに反応した魔物は俺に急接近し鋭そうな腕を使って攻撃を仕掛けてくる。

 それをスキルを使って回避してから、ドッペルガンで反撃する。全弾命中。やはり、この身体は動かし慣れているだけあって戦いやすい。数ドットずつ奴の体力が削れていく。

 

 俺の攻撃を無視して魔物は俺に連続攻撃をしかけてくるが、その全てをスキルを使って回避する。回避しながらも反撃を繰り返すが、段々と広がるHPの差は、圧倒的な程に開いていく。最終的には、俺のHPが20%を下回っても奴のHPが95%以上を残していた。

 ちっ、このままじゃ負ける。おれはスキルを切り替えた。逃走犯から殺人鬼への切り替え。奴の攻撃を避けていた俺の動きが突如攻撃的な物へと変化した。


 俺の体は左手に装備していたドッペルガンを捨てるようにアイテムボックスへ仕舞うと、戦闘服に装備していた短剣を抜き、それを中心に魔物と戦い始めた。

 奴の両手から繰り出される鋭い突き攻撃を当たり判定ぎりぎりで回避しながら短剣で斬り付ける。右手のドッペルガンは常に連射状態で、既に10回以上のリロードをしていた。

 魔物は短剣を主に捌いているので、ドッペルガンの攻撃はそのほとんどを受けている。それでも、まだ90%以上ものHPが残っており、短剣による状態異常(バットステータス)の黒蟲の毒も、どうやら通じていないみたいだ。


 スキル殺人鬼は強い。ステータス値にかなりの上昇補正がかかっているし、システムアシストによるその精密な動きの性能はチート並みだ。だが、MPを消費しながら戦うので最大でも12秒間しか発動できない。


 スキルの効果が消えた瞬間に、俺は体を上手く動かして、どうにか奴の手刀を体を右に逸らして回避する。

 逃走犯と殺人鬼を只管連続で使えれば最強なのだが、スキル逃走犯には僅かながらクールタイムが存在する。一度の使用でも複数の回避運動をする事ができるのだが、他のスキルを使ったり、アイテムを使ったりしてしまうとスキルは中断され約60秒間のクールタイムへと突入してしまうのだ。

 これは殺人鬼も同じだ。こっちはアイテム、技、スキルは使えるが、スキル発動後に同じく約1分のクールタイムが存在する。


 つまり、これから約40秒間は俺が自ら戦わなくてはならない。

 魔物の左腕が下がり、瞬時に右手が出てくる。右に逸らしていた体を一回転させて、右手での攻撃を回避しつつ短剣を奴の腕に掠らせる。

 そのままステップを刻んで二歩分距離を取るが、それも瞬時に詰められる。だが、その一瞬で目線を動かしてアイテムボックスの霊薬(エリクサー)を思考のみで使いつつ、同時にイメージを並行使用してハンドガン状のドッペルガンに拳銃用バヨネットを装備した。つまり、拳銃の先端部分にナイフを装備した。

 両手を交差させて魔物の尻尾攻撃を受ける。その最、奴に極小ダメージを与えつつ、俺は素直に後ろに吹き飛ばされる。

 

 この数日間で学んだことの一つ、武器で攻撃を受ける事でダメージを減少、又は無効化させることができる。

 今回は黒蟲の短剣に加えてドッペルガンと同じ性能、つまり性能だけなら極めて高性能の短剣で攻撃を完璧に防御したから、ダメージを無効化させることに成功できたみたいだった。

 奴は後ろに吹き飛んだ俺に追撃をしかけてくる。魔物はその場に四肢を着けると、尻尾がぐんぐんと伸ばして、それを使って攻撃を仕掛けてきた。


 奴の尻尾は自由自在に伸縮を繰り返して、空中で幾度もの屈折を繰り返して攻撃してくる。その動きは一見複雑怪奇に見えるが、どうやら一定のパターンがあるらしく、両腕の攻撃をよりは多少避けやすかった。

 しゃがみこんでから左手を伸ばしつつ右に跳ねる。俺の動きを追って動く尻尾に短剣を掠らせる。そんな動きを複数回繰り返すと、魔物は尻尾を戻し始めた。


 再び俺に急接近して鋭い両腕を使って攻撃してくる。スキル再使用まで残り25秒。つまり……あ、無理かも。


 一秒間に腕を複数回動かせるような化け物と25秒間も戦うというのは、いくら身体能力が強化されているとしても、決して容易なものではない。

 AGI値が強化されていれば、体の動きは速くなる。スキルで視力を強化していれば、速い動きを認識する事はできる。だが……元がただの人間だ。その神経伝達速度には限界がある。


 紫色の魔物との二度目の接近戦。

 初撃の回避には成功したが、次の攻撃に対応できなかった。辛うじてドッペルガンでの防御が出来たが、銃自体が弾かれて、拳銃用バヨネットが戦闘服の防御を貫通して俺の腹に突き刺さる。VIT値+戦闘服の防御力を、銃の攻撃性能が上回った結果だった。

 奴の攻撃は止まらない。今度は鋭い牙が生えそろっている口を大きく開いて、俺の左首に向かって噛みついてきた。痛む腹を無視して、左腕を上げて奴の下顎に短剣を突き刺すが、皮膚が固く弾かれてしまう。

 どうにか噛みつきの軌道を首から肩に変える事はできたが…………HPが物凄い速さで無くなっていく。


 アイテムボックスからHPを20%回復する回復薬とHPを40%回復する回復薬、他にも複数のHPを回復するタイプの回復薬を、交互に使い続ける。

 アイテムボックスの仕様に慣れた俺は思考だけでアイテムを使えるまでに成長していた。同じアイテムを連続で使えないGWOでも、こうやって使うアイテムを切り替えれば常に一定量のHPを回復し続ける事はできる。だから、一撃で死なない限りは負けはしないが……。




 『ベルフェ! もう無理だ、お前を召喚するッ!』

 『馬鹿ッ! 早くしなさい!』




 俺はスキル:悪魔召喚を使いベルフェゴールを召喚する。

 

 ベルフェは戦闘目的で召喚すればするほどその力を弱めてしまうが、俺が死にそうなんだ。しょうがない。

 ほぼ一瞬で現れたベルフェは俺のMPを使って両手になんらかの魔法を纏って、紫色の魔物の腹部を背後から殴りつけた。

 俺の肩から奴の大口が離れ、次のベルフェの攻撃で奴は地面に倒れ込む。



 『ベルフェ、そいつに止めはさすなよ。できるだけお前の力は温存しておきたい』

 『わかったわ。あとお前じゃなくて、ベルフェゴールねッ!』



 ベルフェゴールの攻撃は、一度につき俺のMPを2500程消費していた。

 俺は霊薬を使いつつ魔物とベルフェから距離をとる。HPの回復に伴い、肩と腹の傷は次第に治っていくが、かなり痛い。気が狂いそうだ。DOCで痛覚設定最大のナイフ戦トーナメントに出た時とりも、数段上の痛みを傷口から感じる。


 ベルフェの攻撃が幾度か決まり、紫色の魔物のHPが10%以下になっていた。こう見るとあっけなく感じるが、上級悪魔でステータスが異常に高いベルフェゴールの攻撃を、少なくとも複数回耐えるだけの耐久力を持っていたと考えると、奴は攻守揃った恐ろしい魔物だったと理解できる。

 少なくとも、Dランクの魔物の強さじゃない。今まで戦ってきたどのCランクの魔物よりも強い。これがリラナルテさんの言っていたDランクなのにBランク並みに強い魔物なのか……。

 ギルド置いてある魔物の資料にも載っていなかった紫色の魔物。元の強さを知らない分、これから出てくるであろう更に強力な二体の魔物が恐ろしかった。




 四肢を砕かれた瀕死の紫色の魔物に、数百発の銃弾を撃ち込んで止めをさす。

 ベルフェゴールに治癒魔法と回復魔法を掛けて貰ってから、彼女を送還する。ベルフェゴールは召喚してからとった行動次第で能力値を減少させる。

 一番減少幅が大きい行為は敵を倒すこと。その次は戦闘行為。更に補助、援護、回復系統魔法使用、情報提供と共に減少幅は下がっていくんだ。

 戦闘行為と魔法使用の間にはかなりの差があり、魔法に関しては10時間程度で回復できる。戦闘行為までいってしまうと数日から数週間はその力が下がってしまうがな。

 だから、できるだけベルフェには戦闘に参加して欲しくはなかった。勿論、今みたいな"いざって時"には参加してもらうが。簡単に召喚してしまうと、本気でやばい時に役に立たない可能性があるからだ。

 ダンジョンに挑む際には最大値まで力を溜めていたが、今ので半減してしまっているはずだ。次に呼んでも、先程までの力は残っていないだろう。



 

 


 紫色の魔物に止めを刺すと、次の魔物が現れた。俺は最適化の効果が切れた状態の、少しダメージの残った体を引きずりながらアレンを起こし、そいつを観察する。

 そいつはリザードマンだった。ああ、そういえばあいつもDランクだったな。

 

 以前戦った個体よりもデカい。そして、より輝きの増した"紫色"の魔力で全身を、鱗を包んでいた。

 あ、今わかった。紫色の魔力って、赤色の魔力と青色の魔力の二属性が混ざった色か。攻撃系と防御系ってことだな。という事は、神の試練の時のリザードマンの個体より、かなり強力なって事になる……。



 「アレン、大丈夫だな? 次で4体目、敵はリザードマンだ。」

 「は、はいっす。右腕が上手く動かせないっすけど、戦えるっす」



 「わかった。次からは俺も前にでる。二人で仕掛けるぞ」

 「了解っす。霊薬使うっすね」



 霊薬を使って回復したアレンと共に、リザードマンと対峙する。曲刀と大盾を装備した奴は、俺たちに向かって武器を構えながら走ってきた。

 

 くそ、まじかよ……。奴の動きが以前より"速い"。

 唯一の弱点であった俊敏性が強化されている。先程の紫色の魔物と比べると遅く感じるが、AGI値の上がった俺と同等の速さを奴は持っていた。今の俺はAGI値450くらいあるだぞ。最初の20~30しかないときとは違う。それと同じくらいって、強化されすぎだろ……。


 アレンが先に攻撃する。奥儀を使わずに奴の懐に潜り込んでから左腕での強打。しかし、奴のHPゲージは俺のドッペルガンでの攻撃並みにしか削れない。

 アレンの攻撃は奥儀を使わなくてもF~Eランクの魔物のHPを数十%はダメージを与えてきた。Dランク相手にだってそれなりにダメージが通っていたはずなのに……それだけ耐久度が高いって事か。

 この世界の住人であるアレンには奴のHPが見えていないから、複数回の攻撃が効いていない事が理解できていないのか、リザードマンの曲刀を避けながら右腕以外で攻撃を繰り返していた。

 

 勿論、俺も攻撃に参加する。ドッペルガンの形状をショットガンに変えれば攻撃性が少しは上がるかもしれないが、アレンにも当たるかもしれないので素直にMP5をイメージしつつ形状変化を促した。


 両手でドッペルガンを構えて、攻撃を開始する。前回同様1ダメージしか通じていないが、装弾数分はダメージを与えられる。しかし、リザードマンのHPは恐ろしく多い。減少度から逆算して、数万から数十万はあっても可笑しくないくらいだ。

 戦闘中でもHPが自然回復するこいつを、ドッペルガンだけで倒し切るのは難しい。重機関銃2丁で只管リロードしながら撃ちつづければいずれは勝てるかもしれないが、俺が攻撃する間に、奴も俺に向かって攻撃してくる。

 アレンと俺に9:1くらいの割合で攻撃をしてくるリザードマン。近場から攻撃対象を優先して選択している事が理解できた。アレンと二人がかりで攻撃するが、奴の自然回復一回分で、俺たちが与えたダメージの殆どを回復してしまった。


 となると……クリティカルポイントを、急所を攻撃するしかないのか? 俺は銃を撃ちつづけながら考える。

 あの巨大なリザードマンは全身が強靭な鱗で覆われていて、腕や足、首もかなり太く、ゲームにでてくるような大剣でもなければ一刀両断とはいかない。

 GWOにはそういった武器もあるはずだが、今は黒蟲の短剣しかない。これで首を跳ねれるわけがない。例え殺人鬼で攻撃力を上げたとしても、鱗に阻まれて刃が通らないだろう。

 昔からこの手の相手には打撃系の武器が有効な事が多い。かといってアレンの掌打や蹴りでの一撃死は期待できない気がする。アレンの奥儀は確かにHPへのダメージは多いのだが、見た目的なダメージというか、一撃死を与えられるような、首が吹っ飛ぶ、腹を撃ちぬくいった部位破損をするほどの肉体ダメージを与えられないのだ。

 アレンの使う奥儀というのは相手へのダメージに倍率補正を掛ける感じの類だと俺は考えている。まあ推測でしかないのだが、そう考えると納得のいく場面がいくつかあった。

 そりゃあ少しは蹴りの威力等も上がっているとは思うが、奥儀を使わない状態でもアレンの格闘術はかなり強力なので正確には比較できていない。


 

 『ベルフェ、どうやって攻めたらいい?』

 『どうやってって、幹也が魔法を使えたらそれで解決するんだけど……。鱗がないところを攻撃するとかいいんじゃない?』

 


 鱗がないところ。例えば目とかか? ただ、瞼は固そうなので目を瞑るだけでこちらの攻撃を防げそうな雰囲気はあるが……とりあえず目を狙ってみる事にした。

 

 ドッペルガンの形状変化は銃の形状さえちゃんとイメージできれば、ほぼ一瞬で完了する。俺はDOCで使っていた銃の一つであるFA-MASを強くイメージする。

 あのゲームでは銃に様々なカスタマイズをすることができた。サイトを改造したり、サプレッサーを取り付けたり、"グレネードランチャーを装着したり"。


 ドッペルガンの形状変化はイメージさえちゃんとできれば、基本の形状が"銃"であるなら大抵は反映される。ここ数回の依頼中に、それは確認できていた。

 形状変化を完了させたFAMASの照準を、アレンに曲刀を向けているリザードマンの顔面に合わせる。


 リザードマンの動きは確かに速くなっているが、なんせ的となる顔はデカい。DOC時代に比べてDEX値の影響を受けている俺が外すわけがない。懸念すべき事柄は奴の持つ大盾で防がれる事だけだ。

 だが、今なら。曲刀攻撃に対しての反撃で繰り出したアレンの奥儀の蹴りを、リザードマンは大盾を使って防御(ガード)している。

 上手く防御できればダメージを無効化できるって知識は魔物にもあるらしい。つーか現実的に考えても攻撃を盾で防ぐというのは当たり前の行為か。どうもゲーム的な考え方になってしまうな。


 俺はリザードマンの顔面に向かってグレネードを撃ちだす。APAV40ライフルグレネード。

 FAMAS同様フランスで作られたそれは120mmの鉄板もしくは360mmのコンクリートを貫通可能である。そして、爆発時の対人致死半径は10m、破片が飛翔する危険距離は100mとなっており……あ、やべえ。完全にDOCのノリだった。

 いくらリアル差を突き詰めてあるあのゲームでも、グレネードの爆発に巻き込まれる場面はあっても、その破片で死ぬような事はなかった。

 グレネードを発射してから、アレンに命令する。


 「アレンッ! 障壁を張って身を守れッッ!」

 「はえ? 奥儀:玄武 壱ッ!」


 「ゴガッ!? ガガアアアアアアアアッ!」



 アレンの行動には獣人っぽさが現れる場合が多い。

 例えば群れのリーダーの命令にとりあえず従うといったような行動をとってくれる。


 アレンは目の前に障壁を張りグレネードの破片を防いだ。俺はクールタイムの終了したスキル:逃走犯で、効果対象にグレネードを選択して破片や爆風を回避する。

 リザードマンは俺とほぼ同様のAGIだ。俺が銃弾等の速さの物体を目視してから回避できないように、リザードマンは俺のAPAV40を回避することはできなかった。

 奴の顔面で破裂したそれは、当然のように奴の目……眼球を抉るように突き刺さる。目元以外は魔力の籠った鱗の御蔭で傷一つついてはいなかったが、悲惨な有様だった。

 威力はドッペルガン依存なのでHPへ与えたダメージは銃弾同様極僅かだが、肉体ダメージは決して無視できるようなものではなかったようだ。よし、概ね作戦通りだな。即興だ考えた割には上手くいった。



 リザードマンには自然回復はあってもゴブリンのような傷を一瞬で回復させるような治癒能力はない。つまり、HP的に回復できれも、それが瞬時に治癒に繋がらないのだ。勿論、このままなにもしなければ時期に傷は治ってしまうだろうが。

 俺たちは霊薬(エリクサー)を使う事で傷を回復する事ができる。HP、MPの回復と傷の治癒に効果があるんだな。魔物が霊薬なんて金貨単位の高級品を持ってるわけがないので、リザードマンの視力は封じたと言える。

 魔物は例え視力を封じられたとしても、野生として異常に発達した気配察知能力により、鼻や耳、直感等を使って此方の位置を察知することもある。

 だが、それの精度はそこまで正確ではないから、動き回る俺たちを完全に認識するのは難しいはずだ。



 「目が治るまでに決める! 強力な奥儀とか使えッ!」

 「了解っす! 奥儀:白虎 捌! 捌! 拾!」



 アレンの両腕に白い魔力が灯る。まるで白い炎で燃えているかのようなそれを視認できない程の速さで振るった。

 そして、次に右手に一段と強い魔力を纏ってから、リザードマンの後方に回り込んでがら空きになっている背に向かって正拳突きを放った。

 

 ダメージ量が奥儀:獅子の時とは違う。強化されてるリザードマンのHPを10%以上削り取っていた。多分、アレンの使える奥儀の上位層だ。今まで使ってなかったということは、消費魔力とやらが多いんだろう。消費MPが多いのと同じ感覚か。

 俺もアレンの援護に向かう。具体的には両手にドッペルガンを構えて、銃声を鳴らしながら少しずつダメージを与える。視力を失ったリザードマンがアレンの居場所を捉え難くするためだ。

 

 目を潰されたリザードマンの攻撃は、元の単調な物より一段と避けやすい。俺と同じ速さなら、ナイフ戦で鍛えた技術を発揮できる。獲物のサイズこそ違うが、基本は似たようなものだ。

 銃を撃ちつづけながら場を攪乱(かくらん)する。そんな動きを10分程続けて……アレンの奥儀が決まり、リザードマンのHPがゼロになって、崩れるように地面に倒れ込んだ。

 目の傷も殆ど治っていて、外見的にはダメージを受けていないように見えるが、死んでいる。ゲームの世界であるこの世界ではよくある事だ。

 一撃死かゲーム的死。二つを使い分けて戦えるようになれれば、この世界の攻略も楽になるだろう。




 リザードマンの死体が消える。五体目の……最後の魔物が出現した。




 

 『使徒確認。使徒確認。D級第五試練にユニークボスをDランクからランダム選択。選択中………選択します。"解放状態のヘキトレネス"を選択しました。』

 

  

 

 


 


 乙牌「転移終了……ふう」


 美也「あ、師匠さん! え、血……。大丈夫ですかッ!?」

 

 乙牌「ええ、これは返り血よ。それとみんなに話さなくてはならない事があるわ……」


明日香「俺達を襲ってきた化け物の事ですか?」


 乙牌「そうね。美也ちゃんには悪いけど、東の大陸へは行けなくなったわ。あの獣は、私たちの匂いを覚えられてしまったでしょうから」


 美也「え!? じゃあ、お兄ちゃんとは……会え、ない……の?」


 乙牌「少なくとも、幹也が中央大陸へ出てくるまで待つしかないわね。あの獣には今の私たちじゃ勝てないわ。私の聖剣のスキルも効果がなかったし」


 姫宮「聖剣って、相手の防御力を無効化する能力ですよね? 効果がないっていうのは……」


 乙牌「あの獣に物理攻撃は通じないわ。体を……何かに変えているわね。魔法も使ってみたけど、それもあまり効かなかったわ。」


明日香「(剣と魔法が効かない? となると、俺の魔法剣スキルも効かなそうだ。じゃあどうやって勝てばいいんだ? 幹也なら何か思いつくだろうか……)」


 美也「お、お兄ちゃんに…会えない……? ……おにいちゃーん! うわーん!」


 乙牌「泣かないで美也ちゃん。これをあげるわ」


 美也「うぅ…………Tシャツ?」


 乙牌「ええ。それわね、幹也のシャツよ」


明日香「!?」

 姫宮「!?」


 美也「えッ!? スキル:嗅覚強化発動! くんくん、すぅーー…………ふぁ。お、お兄ちゃんの匂いだ!」


 乙牌「それね、ドッペルゲンガーからドロップしたのよ」


明日香「(ば、馬鹿なッ! 掲示板からの情報じゃドッペルゲンガーからのドロップ品は討伐対象がこれからの異世界生活で最低限必要となるアイテムだぞ! 幹也の服が必要になる状況ってどんな状況だよ! あ、今みたいな美也ちゃん落ち着かすため!? 頼む、そうだと言ってくれ!)」

 

 姫宮「斉藤君の……シャツ!」


 美也「え? あ、ダメ! 私のシャツだもん!」


 乙牌「喧嘩しないの。ほら、上着とズボンもあげるから」



明日香「!?」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。