第08話 火力不足
前書き:他使徒編(本編登場予定) 後書き:妹編(本編登場予定)
聖也「おいおいまじかよ。転生の次は召喚とか…」
俺の名前は水戸聖也。平凡な高校生だった俺はある日妙な事故に巻き込まれて……気付いたら異世界転生をしていた。
その世界では獣人とハイエルフのハーフとして生を受けた俺は、創作物みたいな異世界に興奮して、昔に読んだ転生物の小説を参考にその世界で最強と呼ばれるAランクの冒険者の一人になることができたんだ。
獣人とエルフの両方の才能を親から受け継いだ俺は、三歳から魔法を覚え始めて九歳には上級魔法を最小限の詠唱で十全に使えるようになった。それと同時に七歳から武術を習い始めて十四歳で奥儀を極めた。そして、十五歳から十九歳にかけて冒険者として生活し……俺の力は完成した。
それからは幸せな日々が続いた。二十歳にて「異世界にきてまで俺は一人でいったいなにをしているんだ!」と気付き、地球にはいないような、今の俺と同じ亜人間の女の子達と積極的に交友を深めた。
そして二四歳で俺と同じ獣人とエルフのハーフの女性と結婚した。同じ境遇同士で惹かれ合ったんだ。それからは故郷の村に戻って息子に武術を、娘と息子の幼馴染に魔法を教えたりした。家族で過ごす幸せな日々。そんな生活をそれから十数年と続けていた。
聖也「そしたらいきなり……。気付いたらまた別の世界で、なぜか体も若返っていると……。続けて使徒になってゲームしろだもんな」
聖也「まあアレンもルーナもすでに一流だ。他のAランクの奴らに襲われたとしても、得意分野に限れば遅れはとるまいな。二人そろえば大抵の奴には負けないだろうし。きっと母さんを、ララミーを守ってくれるはずだ。とりあえずはこの世界でゲームとやらに勝って、元の世界に戻らなくてはいけないな……。」
聖也「まあ今は俺もなぜか若返ってるし、能力的に最盛期の、全盛期の体だ。難易度イージーモードってやつだな。さっき襲ってきた第七世界の使徒って奴らも、所詮雑魚キャラにすぎなかったし……。」
聖也「はあ。とりあえずはこの大陸で一番大きな国とかいうク、ク、クラーケン王国? とやらにでも向かうか。そんな大きな国なら他の世界の使徒もいるだろ。12年間も待ってやるもんか。他の世界の使徒全員ぶっ殺して、さっさとララミーんとこ戻っていちゃいちゃしたいし。」
聖也「ララミーは俺と違ってエルフの血の影響が強くでてるからな。三十後半になっても合った頃と全然変わってないし。俺だって老化は微妙に遅いから、まだまだ男としては思春期レベルに溜まるし……はあ、浮気なんてしたくないしなあ」
聖也「ともかく、さっさと肉体だけじゃなくて戦闘技術の方も全盛期の状態まで戻さねえとな。クラーケン王国についたら冒険者ギルドでも探すかって…………え、あ、あれ? な、なんだ?この気配……?」
俺はすでに俺自身の能力的には限界の域に達している。つまり、これからどんなに修行しようがこれ以上は強くはなれないということだ。感が鈍って弱くなる事はあってもな。
だから感知した使徒の中で、強敵、及びいずれ強敵になるであろう才能を持った化け物に対しては積極的に戦闘をしかけなければならないんだ。その使徒達がどのレベルまで成長するかが予想できないから。
両親の血を受け継いだとしても、生まれた当初は凡人の域にいた転生後の俺だって小さい頃から少し頑張るだけでここまで強く慣れたんだ。妙な才能を持った奴が努力なんてしだしたら、きっと手が付けられないレベルの化け物が出来上がるだろう。
だから、俺はこの妙な気配の使徒をここで倒さなければならないんだ。
聖也「『強化魔法:参から玖…いや、拾まで発動。及び、奥儀:深獣化、神獣化、精霊化、聖霊化発動』………ぐッ! グ、ググググ、ガガガガアアアアアアアッッ!」
俺は全力で戦える状態まで肉体を強化していく。肉体強化の魔法で体の基礎を無理やりつくって、奥儀で体を還させる。ご先祖様の力、獣人とハイエルフの血の力を無理やり呼び覚まして、俺はこの妙な気配の使徒と戦う事にした。
ゲーム5日目。黒蟲の巣の壊滅に成功した俺とアレンは、その日から4日程かけてクラーク王国に辿り着いた。
所持金がほぼゼロで、路銀が無い俺は道行く人々から少しずつスキル:窃盗犯を使って金を集めたことで事無きを得た。はい、犯罪行為です。
でも、少しは盗む相手も選んだんだよ? 例えば俺につっかかってきた冒険者とか、急にアレンにむかって襲いかかってきた謎の集団とかだ。4日間の間に三回もアレンは変な奴らに襲われた。かなりの頻度である。なんだろう、アイツはどっかの組織にでも追われているのだろうか?
まあ襲ってきた奴らはたいした事はなかったから、普通に俺のドッペルガンとアレンの奥儀で対処できたが。ドッペルガンは対人戦には滅法強いからな。銃自体がそもそも人を殺す為に作られたんだから、対人戦に強いのはあたりまえなんだけど。
そんな奴らの死体からアイテムを得たり、スキル:窃盗犯で金を盗んだりを繰り返すうちに、俺はちょっとした小金持ちになった。
その額、なんと金貨10枚以上だ。つまり、日本円換算で500万円! もはや黒蟲討伐の依頼料すら超えている。俺の職業が罪人なだけに、ちょっと盗賊気分になったが、正当防衛として扱われたので大丈夫だ。兵士とか憲兵とか、騎士の人たちにも事情を説明したら納得してくれたし。
アイテムボックス漁った事は言ってないんだけど、アレンに聞いた所それも襲われた方が入手するのは当たり前の行為なのだそうだ。アレンは嫌がったが。
クラーク王国までは徒歩で移動した。さすがに数日歩くのは辛いだろうとアレンに言ったんだが、「大丈夫っす! なんなら、俺がミキュアさんを背負って歩くっす!」と言って聞かなかった。
最初は「背負うって数日間だぞ、まじか!?」と驚いたが、結局アレンは俺を背負って歩き続けた。獣人ってのはそんなにタフなのか? と聞いてみた所、ハーフのアレンでも10日程なら長時間の休憩なしに行動できると言っていた。
やばい、なんだろう。人間と亜人間の身体能力の差がひどい。聞けば純種の獣人なら音より速く動けると言うじゃないか。は? 音速って秒速300m以上だぞ? 他の世界に、獣人の世界なんてものがあったらかなり辛いな。使徒が全員獣人なんだろ? 最終的なAGI補正でどこまで追いつけるかはわからないが、もっとステータスをAGIに振っておいた方が良いだろうと思った。INT、AGI特化型だ。
ゲーム9日~19日までの10日間は、依頼を受けて過ごした。
Dランクの依頼を二回、Cランクの依頼を一回。その三回の依頼を受けて思った事がある。俺弱ええ。俺のドッペルガンでは圧倒的に火力が足りないのだ。
魔物全般に言えることなのだが、奴らは基本的に固い。対人用の銃じゃ、火力が足りない場面が多々存在する。
いや、多々どころではない。黒蟲にも決定打にはならなかったし、Dランクの魔物にもCランクの魔物にも手足をちょっと削るのがやっとだった。
つまり、雑魚敵のHPをドット単位でしか削れなかったということだ。これは武器の形状を変化させても変わらない。
例えば、拳銃でも重機関銃でもHPに与えるダメージ量は同じってことなんだ。どんな強い銃に形状変化しようがHP的なダメージ量はドッペルガンの攻撃力と俺のSTRとINTの数値からは絶対に変わらないということだ。
MMORPGをプレイした事がある人ならわかると思うんだが、この手のゲームでは一時間あたりにどのくらいの経験値を得ることができるか? という事が大切になってくる。確保できるプレイ時間が無限に存在するわけではないからだ。限られた時間の中で最大効率を叩きださなければならない。
それなのに雑魚敵に対してHPを数ドットずつ削るような戦いをしたらどうなるか。他の高火力の奴らに、どんどんレベルが離されていくんだ。気付いた時にはもう手遅れ。俺以外の高レベルの使徒達に殺されてゲーム終了だ。
だから、まずはそういった魔物にもある程度のダメージが与えられるような武器を入手しなくてはならない。それは新しい武器でも良いし、今の武器を強化しても良い。なんでもいいからダメージソースを確保する必要があった。
ゲーム20日目。クラーク王国でそれなりに繁盛しているらしいデメタスさんの宿屋で目を覚ました俺は、朝食を食べた後で冒険者ギルドへと向かって歩いていた。
昨日、受付のおじさんから教えて貰ったんだが、今日の朝から昼にかけて、冒険者ギルドにはリラナルテさんが滞在しているそうなのだ。
元高ランク冒険者で、初期ランク認定試験の試験官を務めているギルド員のエルフの女性。眼鏡をかけていて、吃驚する程美人で、貧乳なエルフのお姉さん。俺とアレンを楽々と圧倒し、自称肉弾戦は苦手な上級悪魔ベルフェゴールと互角に戦う事ができる彼女に、俺は相談をしようと思っていた。
高ランク冒険者という事は、高ランクの魔物と戦う事が出来るということに他ならない。当然、火力の面でもなにか強力なものを持っているだろうし、そういったものの入手方法も知っているはずだ。
彼女からそれを聞きだして、どうにかしてアレンを騙して護衛として一緒に連れて行き、俺の火力を上げるんだ。一年以内でのSランクの魔物の討伐が俺の目標なのだから。
ギルドに着いた。俺が大きなドアを開けると、俺に気付いたアレンが近くに寄ってくる。何時もの着物姿で、背の高い細マッチョイケメンのアレンを見る度に、あーこいつ死なねーかなーとか思ってしまう。
俺だってもう少し身長があれば……モテるモテないは別にして、歩幅が増えてDOC内の移動速度も上がるし、背が低くて電車の持ち手に手が届かないなんて事もないだろうし。ドアの近くの棒を掴めなかった時の電車の慣性による揺れに怯えずともすむのにな。
一回派手に転んでからアレが苦手になってしまった。電車の中で鼻血が止まらなくなると本当に大変なんだ。かるく大騒ぎになるし。
「ミキュアさん! おはようございますっす!」
「よっ、アレン。おはよう」
「今日はリラインさんに話があるんでしたよね? 俺、ミキュアさんから話があるってリラインさんに言っておいたっす!」
「おう、さんきゅうな。」
「はいっす!」
あー。アレンの下っ端感に癒されるわー。こいつが生意気だったら爆発させてやるんだが、この下っ端感のせいで邪険に扱いづらいんだよな。
きっと獣人であるが故にリーダー的存在への服従心が強いんだろうな。動物って、野生の中で生きてる感あるし、群れからハブにされて生きていける程、野生は甘くないぜといった感じなのだろう。
俺とアレンはギルド内にある訓練場へと向かう。そこにリラナルテさんがいると受付のおじさんが言っていたからだ。ギルド内にある。建物の構成上、絶対ありえない程大きな訓練場についた。
特別聞いては無いけど、きっと魔法とかを使っているのだろう。空間魔法みたいな。空間魔法……え、あるの? それを極めれば相手の体内に空間を作り上げてからそれを拡大する事によって内側から相手を破裂させるような、そんな恐怖魔法あるん?
『ちょ、そんな物騒な魔法じゃないわよ。そもそもどんな生物にも最低限の魔力耐性があるから、そこに空間を作るなんて不可能だし』
『おい。人の思考を除くんじゃねえよ。プライバシー超大事』
『最近襲われる機会が多いいから常に念話状態にしとくからって言ったのは幹也じゃない』
『それはそうだけどな……。どうすんだよ。俺がエロい事とか考えてたら』
『え、その時は私もエロい事考えるけど……』
『なにそれわからない。つかなんで俺の方はお前の思考を全部見れないのに、お前は俺の思考全部読めるんだよ』
『お前じゃなくてベ ル フェ。いいかげんにしないと怒るわよ?』
『はいはい。ベルフィちゃんは俺の自慢の使い魔様だよ。少し黙ってろ』
訓練場にはリラナルテさんが居た。端の方にある長椅子に座っている。ただ座っているだけなのに妙に絵になっていて若干話しかけずらかったが、俺はリラナルテさんに近づいて話しかけた。当たり前だが、抱きついたりはしない。
「リラナルテさん。少し、話がしたいのですが……」
「おはようミキュアさん。アレン君から聞いていますよ」
俺はそれからリラナルテさんに相談をした。どうすれば高火力を得られるか。
「そうですね……。ミキュアさんの魔法を飛ばす武器なら、攻撃面でも事足りているとは思うのですが」
「すみません。足りないんです。俺には倒したい魔物がいるんですよ」
「倒したい魔物? それはその武器では倒せないような魔物なのですか?」
「多分……。いえ、まともに攻撃を当ててないのでわからないです。俺の攻撃は全て避けられましたから」
「全て……ですか。そうですね、でしたら迷宮にでも潜ってみたらどうですか?」
「ダンジョンですか。ダンジョンって、地下洞窟状になっていて中にはアイテムあったり魔物が住んでいたりして、最下層にはダンジョンのボスのいるような物ですか?」
「?。 いえ、少し違いますね。ダンジョンというのは魔物と戦う事が出来る場所の事です。一度内部へ入ると途中で出るといった事はできません。ダンジョン内では数回に渡って魔物と戦う事になります。勝てば続けて次の魔物へ、負ければ……死体はダンジョンへ吸収されます。そして最後の魔物に勝つ事ができますと、強力な魔法具が手に入る"可能性"があります」
「可能性…ですか。絶対に手に入るわけではないって事ですね」
「はい。強力な魔法具が手に入る可能性は低いでしょう。それを手に入れて換金しようと目論む冒険者も多いです。彼らの殆どは魔物に負けてしまいダンジョンへ吸収されてしまいますが……一部、魔法具を持ち返ることができた冒険者たちは、一生を遊んで暮らせるような大金を手にすることができます。金貨数千枚以上の価値があるものが多いです」
金貨数千枚…。一枚が五十万円相当の価値がある金貨が、千枚単位。逆に考えるとそれだけの大金さえあれば強力な魔法具とやらが手に入るってことだが……。
「そういった魔法具を手に入れる事ができれば、同時に攻撃力も手に入れることができるはずです。例えその魔法具自体に攻撃性が無くても、売却し換金することによって他の魔法具を手に入れることができるかもしれません」
「ですね……わかりました。その、ダンジョンへ挑戦してみたいと思います。リラナルテさん、情報ありがとうございました」
「いえ、私もミキュアさんには頑張って貰いたいですし、これくらいの情報ならいくらでも差し上げますよ?」
と微笑みながら言うリラナルテさん。うわー。こういう人と付き合いたいわ。ちょっと告白してみようかな……。
俺が告白しようかどうか考えていると、後ろで静かに話を聞いていたアレンが、急に俺の肩を揺すってきた。ああ? んだよ邪魔すんなよ。
「お、俺もダンジョン行くっす! 一緒に行ってもいいっすよね! (なんかリラインさんとミキュアさんの間に怪しい雰囲気を感じたっす! ミキュアさんに同性愛に目覚められたら困るっすよ! せっかく仲良くなってきたのに、俺への可能性を潰さないで欲しいっす!)」
「お、おう…じゃあ一緒に行こうな」
「では頑張って下さいね。ダンジョンの難易度はそのダンジョンによって違いますから、ミキュアさんとアレン君なら……C級ダンジョンは止めといた方がいいですね。D級ダンジョンを紹介するよう、受付に言っておきましょう。」
「へ? でも、俺とミキュアさんはD級とC級っすよ? ならC級を受けることができるはずっすけど……」
「(…だよな? アレンじゃないが、リラナルテさんはなぜ俺達にD級をすすめる?)」
「はい。ダンジョン内で、最終的に戦う事になる魔物が強力だからです。先日、お二人が雷光鳥を討伐したと聞きました。Cランクの魔物ですね」
確かに、俺とアレンは雷光鳥の討伐依頼を受けた。奴の戦闘力は黒蟲のそれよりも高く、雷の魔法を避けるのは一苦労だった。一発でも掠ってしまったら最後、体を動かす事ができない程のダメージを受けてしまうから。
「D級ダンジョンには強化されたDランクの魔物がいるはずです。その戦闘力自体は、対象のランクから一段階から二段階は上と考えて貰って構いません。D級ダンジョン内の強化されたDランクの魔物は、C級からB級の戦闘力を持つ事になります」
そう言いながら静かに立ち上がったリラナルテさんは、訓練場を出るために歩き出していく。
俺とアレンはその場に残り、少し話す事にした。リラナルテさんから受付のおじさんへと情報が届くまでに時間がかかると理解していたからだ。
「なあ、アレン。仮にだがBランクの魔物と遭遇した場合、俺たちで勝てると思うか?」
「はいっす! 俺とミキュアさんと。ミキュアさんの使い魔のベルフィさんの三人で戦えば勝てると思うっす!」
「ベルフェゴールか……。」
『はろーはろー。ベルフェ、お前、ダンジョン内でBランクの魔物と戦う事になった場合に手伝ってくれたりは……』
『えー。まあ幹也の命に係わるような場面になったら手伝うのも吝かじゃないわよ? でも……前にも言ったと思ったけど、怠惰の悪魔は怠惰である事により力が増すのよ。私が勤勉になればなるほど私の戦闘能力は下がっていくのよ? 現にゲーム開始の頃にあのエルフのお姉さんと戦ったよきより多少弱っているのよ、私。』
『え、あれって本当の話だっのかよ。てっきり働きたくないがための言い訳か何かだと思ってたわ』
『本当の話よ。私は使い魔だから、主人である幹也に対して嘘はつけないようになっているのよ(嘘だけど)』
『ほー。なるほどなあ…(まあ嘘だろうな。悪魔の言う事だ信用ならん)』
そうなのか。便利だと思ってたけど、制限があったのか。そりゃそうか。どんな漫画や小説のチート能力にも、なんかしらの制限はあるもんだしな。俺のチートにも制限の一つや二つあっても不思議じゃない。
「悪い、アレン。命に係わるような場面でしか、あいつは召喚できないんだ……」
『あいつじゃなくてベ ル フィ!』
「そうなんすか…。まあ黒蟲の時も、あのままじゃあ俺もミキュアさんも負けていたかもしれなかったっすしね」
「ああ。だから、本当にいざってときは召喚するが、できれば……な。」
「了解っす! 大丈夫っすよ! 俺の奥儀も、本気を出せば何段階か上のが使えるっす! それ使ったら何日間か後遺症が残るっすけど、ダンジョンから帰ってから休めばきっと平気っすよ!」
「そうか…悪いな」
「い、いえ、大丈夫っす!(わ、わわ!)」
俺は犬を撫でるようにアレンの頭を撫でてやった。獣耳が生えてるから撫でやすい……。そういえば、家で飼っているミミは元気だろうか。
母さんの飼いネコであるミミは、基本的に母さんが独り占めするから、俺にはあんま撫でさせてくれなかったしな……。
特にミュートラルを俺に取られてからはミミを可愛がりまくってたし、美也にすら撫でられてると嫉妬してたしな。俺だってもっと撫でたり抱いたりしたかった。
こいつは男だから抱きつくのは遠慮したいが、撫でるのくらいだったら許してくれるだろう。抵抗しないし、獣人の血がそうさせるのだろうか、なんか幸せそうだ。
うーん……下心しかないけど、魔法系関連で探す仲間ってのは、獣人族でもいいのかもしえないな。勿論、女の獣人種。
魔法が得意な動物っているのだろうか。接近戦が得意なエルフだっていたんだから、ちゃんと探せばいそうだけどな。とりあえずはダンジョンで火力アップしてからレベルを上げて、その後で仲間探しだな。
俺はアレンの頭から手を離して受付へと向かって歩いて行った。
「はい。こちらがD級ダンジョン、ダンジョン名『クリーズスターズ』の資料になります。危険なダンジョンとなっておりますので挑戦の際には十分注意して下さい」
受付のおじさんから資料を貰う。本日も他の三つの受付には長蛇の列が出来ているというのに、おじさんの所には俺とアレンの二人しか並んでいなかった。
アレンはイケメン故にだろうか、別段美人の受付員の方へわざわざ並んでまで美人と話すようなタイプではないらしい。俺達の他にも、何人かはおじさんの所で対応している人がいるみたいだ。たまに見かける。
そう、何人か。ギルド員に莫大な人数を誇るクラーク王国の冒険者ギルドで、たった何人かしかおじさんの受付に向かわないのだ。
もう替えてやれよ。向いてないんだよきっと。いや、仕事は完璧なんだよ。質問とかしても完璧な回答っていうか、なんでも教えてくれるし。でもさ、やっぱ顔なんだろうな。ちょいダンディなおじさんよりは、美人のお姉さんの方に惹かれるんだよきっと。女の冒険者でさえ美人へ惹かれてるんだから相当だ。
おじさんからダンジョンの資料を貰った俺は、ギルド内の、訓練所とは違った方向へ進むとある酒場に向かって歩いていた。
さすがに朝から酒を飲む冒険者はいないらしい。皆、普通に朝食を食べている。これから依頼に向かうような人が殆どだ。酒を飲みたい奴らは専門の酒場に行くだろうし、命を賭ける場に酔っていく馬鹿もいない。昔見た映画みたいな酔拳使いもいないみたいだし。
空いている席に座って、注文をする。朝食はすでに食べてきているので飲み物だけだ。フルーツジュースを書いてあるのを頼んだら原色の青色をした飲み物が出てきたときは正直びびったが、どうやら青い果物が存在するらしい。
青っていってもガチの青なんだよ。青っぽいとかじゃなくて、こう、絵具の時に出来る色つきの水みたいな薄い青じゃなくて、むしろ絵具そのものっていうかさ。
そんな色なのに味だけは良いからさすがファンタジーだよな。値段も銅貨一枚だし。
すぐに運ばれてきた飲み物を飲みながら、アレンと話をする。
「よし、資料は貰ったな。クリーズスターズというダンジョンらしい。なんか知ってるか?」
「知らないっす。初耳っすね」
「そうか。この資料によると、このダンジョンでは五回程魔物と連続で戦う事になるらしい。まあそれは四回の時もあれば六回の時もあるから、五回で確定じゃないみたいだけどな。そして戦う回数が多くなればなるほど敵が強化されていく。でも、戦闘回数が増えると貴重なアイテムを入手できる可能性も比例して上がっていくみたいらしい」
「なるほどっす。あ、ダンジョン内では転移石が使えないって書いてあるっすよ」
「ああ。一度入ったら勝つか負けるかするまで出られない。ゆえに、挑戦者は死を覚悟して挑まなくてはならない……か。」
「だ、大丈夫っす! 俺が絶対にミキュアさんを守ってみせるっすから!」
「ああ。でもアレンが死ぬと前衛不足で俺もその後に死ぬ可能性が結構高いから、死ぬのだけはやめろよな?」
「死って……死なないっすよ! 俺だって死ぬのは嫌っす! (死んだら元の世界に"帰れない"っすからね!)」
「わかってる。だから、これから絶対に死なないために作戦会議だ。まず、ダンジョン内で転移石は使えないが他のアイテムなら使う事ができる。よってHP及びMPを回復するようなアイテムは必須だ」
「体力と魔力っすね! となると、回復薬とか霊薬とかっすか?」
「ああ。幸い、俺たちにはある程度の金がある。四回も連続で依頼を受けたからな。一人当たり金貨が10枚以上あるはずだ」
「そ、そうっすね……。(言えない。もう半分以上使ってしまったなんて言えないっす! 何度かミキュアさんに食べて貰った料理の殆どを、この世界の高級食材をふんだんに使って作っていて、もう依頼料が残ってないなんて言えないっす!)」
「勿論、アレンには一緒にダンジョンを受けてもらう。俺からしてみれば一緒に挑戦してくれと頼む立場だ。だから、お前にはこれを渡しておく」
「これって……霊薬っすか! いいんすか!? これ、一つで金貨一枚以上もするっすよ!」
「いいんだよ。受け取ってくれ(盗んだ金で買ったやつだしな)」
「み、ミキュアさん…(そこまで俺の事を想ってくれていたなんて…)」
『幹也。それって盗んだお金で買ったやつでしょう。私、わかるんだからね』
『いいじゃねえか。スキル:窃盗犯だって立派なスキルの一つだ。スキルとして設定されていたって事は、使っても構わないという事だ』
『まあ私のお金じゃないからいいけど。その能力、私に使ったら怒るわよ?』
『使わねえよ。お前、たいして金もってないし』
『!?』
「わかったっす! 俺、全力で頑張るっす!」
「おう。よろしくな」
俺はアレンにHPとMPを70%回復する霊薬をいくつか渡した。俺の分はもう一段高性能な霊薬を買ってある。こっちはHP50%回復とMP80%回復だ。スキル殺人鬼を使うためにも俺にはMPを20%区切りで回復する方が良かったからな。
俺はアイテムに金貨を15枚以上使った。残りは金貨2枚と銀貨、銅貨がたくさん。盗んだり漁ったりしていたら、銀貨以下は数えるのがめんどうな程の量になってしまった。
これでしばらくは大丈夫だろう。日本円で考えたら5000円と100円が大量にあるのと同じだ。これからは金銭面にかんして特に心配しなくとも生きていける。
俺の装備はドッペルガンと戦闘服。それと強化した黒蟲の短剣だ。緑巨人の短剣をベースに黒蟲の毒を"合成"してある。上から塗りつけたんじゃなくて合成だ。
斬った対象に状態異常を与える。その効果は簡単に説明すると、時間による継続ダメージだ。それも治療しない場合は、すぐに死に至る程の強力な物。さすが毒性にかけてはAランクといわれる程の魔物。良い素材を貰えた。
しかもこの毒袋は殺虫剤等のアイテムを使うと入手する事ができないのだ。ギルド側の見解としては「理由は判明してない」らしいが、この世界がゲームの場とかしている俺にはなんらかの調整がされていると理解できる。
実力で倒せれば良いアイテムもあげるよ?って事だろう。最初の一匹を倒した日の夜、アイテムボックスの中に入っていたのに気付いた。
それをクラーク王国の錬金術師に頼んで合成して貰ったんだ。緑色から黒色に変わった短剣は戦闘服の胸から腕のあたりのナイフを仕舞うホルダーの所に無理やり装備している。
グレーの服に黒い短剣だから、目立ってしまうのはしょうがない。目立つ武器であるこれを警戒して、敵に接近戦を見送られれば逆にうれしい。距離さえあれば、ドッペルガンで蜂の巣にできるからだ。
俺とアレンは少しの間そこでゆっくりと休憩した。ダンジョンへは馬車に乗っていくからまだ時間があるのだ。護衛をする代わりに馬車に乗せてもらえるように受付のおじさんが手配してくれた。
あいかわらず仕事だけは完璧のおじさんだ。仕事が良いだけに、となりの列を羨ましそうに眺める姿が、より一層かわいそうになるんだよな……。
そんなこんなで俺とアレンはクラーク王国を出発した。目指すはD級ダンジョン『クリーズスターズ』。荷馬車の護衛をしながらの約2週間の旅路だ。
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プレイヤー名:みきゅあ
出身:第七世界《地球》
所属:
選択:職業制
職業:罪人 Lv17
能力値:
HP 1150
MP 6440
STR 120
VIT 120
INT 515
DEX 36
AGI 442
LUK 36
BP:30
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□□□□□□□□□□□
スキル:
■罪人Lv17
・殺人鬼
・逃走犯
・窃盗犯
・偽証犯
・悪魔召喚
・悪魔送還
・最適化
■盗賊Lv12
■暗殺者Lv12
■斥候Lv12
■認識Lvmax
技:
・隠形
・暗殺
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美也「うーん、とうとうついたー! 東の大陸ッ! 師匠、この大陸にお兄ちゃんがいるって本当なんですか?」
乙牌「ええ。そんな気がするわ。女の勘ってやつね」
明日香「(化け物の勘だろ…。この一ヵ月でこの人の恐ろしさが理解できたよ。幹也。前に話してくれた話、あれって本当の事だったんだな…嘘かと思ってたよ)」
姫宮「ねえ、その…師匠さん。斉藤君はどの辺にいるの?」
乙牌「うーん、この大陸で一番大きな国のクラーク王国って所にいるような…そんな気がするわね…………あ」
美也「あ? あって、どうかしたんですか?」
乙牌「う、嘘でしょ…………。みんな、先に謝っておくわ、御免なさい。読み違えた。嘘よ…私が、読み違える? ありえない……ありえないわ。本当、神様の行動ってのはどんなに考えても読めるようなものじゃないわね……。」
明日香「師匠さん、どうかしたんですか?」
乙牌「この距離……数km先から音速…いえ、それよりも速いくらいの速さでこっちに向かってきてる妙な気配を感じるわ。……だめね、逃げ切れない。私が足止めしとくから、大陸間でも使える方の、あの高価な方の転移石を今すぐ使いなさい。今、早く!」
美也「え…音速って…わ、わかった! 明日香君!姫宮さん!速く転移するよ!」
明日香「あ、ああ。姫宮こっち寄れ」
姫宮「え、え?」
美也「姫宮さん早く!」
姫宮「わ、わかった」
明日香「いくぞ! 転移石起動!」
乙牌「…………。どうやらぎりぎり間に合ったようね。転移先がばれないように少し移動しながら戦わなければならないわ。はあ、負ける事はないような気はするけど…大変そうね。ふう。"聖剣起動"っと」
聖也「ガアアアアアアアッッ、ガウッ!」
私は目の前に現れた青白い耳と長い尻尾を持った着物姿の"何か"との戦闘を開始した。




