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第9話 追跡

 黒瀬の指示で、隊員たちが次々と車へ乗り込んでいく。


 俺も白石に促され、車へ向かった。


 その途中。


 森の奥から、また低い唸り声が聞こえた。


 ――グルルル……。


 俺は足を止めた。


「……まだいる」


 白石が振り返る。


「分かりますか?」


「はい」


 森を見る。


 暗闇の中。


 赤い目がいくつか見えていた。


 だが、特異生物たちはこちらへ来ない。


 ただ、じっとこちらを見ている。


「……何してるんだ?」


 俺が呟く。


 すると、一体の特異生物がゆっくりと森の奥へ向きを変えた。


 そして歩き始める。


「動きました」


 隊員が報告する。


「追いますか?」


 白石が黒瀬を見る。


「いや」


 黒瀬は首を横に振った。


「今は追わない」


「しかし……」


「目的が分からない状態で追えば、こちらが誘導される可能性がある」


 黒瀬は冷静だった。


「まず行動を記録する」


 白石がタブレットを操作する。


「……待ってください」


「どうした?」


「他の個体も動き始めました」


 画面に複数の反応が表示される。


「全部……同じ方向です」


「同じ方向?」


 黒瀬が画面を見る。


 俺も横から覗き込んだ。


 点在していた反応が、少しずつ一つの方向へ集まっていく。


「……何かあるんじゃないですか?」


 俺が言った。


 白石が俺を見る。


「そう考えるのが自然ですね」


 黒瀬はしばらく画面を見つめていた。


 そして。


「追跡する」


「隊長?」


「一定の距離を保つ。接触は避けろ」


「了解」


 隊員たちが動き始める。


 俺たちも車に乗り込んだ。


 特異生物を追う。


 夜の道を、車が静かに進んでいく。


 しばらくして。


「反応、止まりました」


 白石が言った。


「場所は?」


「……山間部です」


 黒瀬が地図を見る。


「何もないな」


「地図上ではそうです」


「どういう意味だ?」


 白石が別の画面を開く。


「過去のアーク鉱の採掘記録があります」


 俺は息を呑んだ。


「アーク鉱……?」


「はい」


 白石が画面を拡大する。


「十数年前に調査された場所です」


「採掘されたのか?」


「一部だけです」


 黒瀬が尋ねる。


「その後は?」


「調査中止」


「理由は?」


 白石が記録を読む。


「……地下構造が不安定だったため、とあります」


 黒瀬は黙った。


 車内に沈黙が落ちる。


「ここに特異生物が集まっている」


 白石が言う。


「そして、過去にアーク鉱が確認されている」


 俺は窓の外を見る。


 暗い森が続いている。


「……偶然なんですか?」


 誰も答えなかった。


⸻


 数十分後。


 車が止まった。


「到着です」


 隊員が報告する。


 俺たちは車を降りた。


 周囲は静まり返っていた。


 特異生物の姿は見えない。


「反応は?」


 黒瀬が聞く。


「地下です」


「地下?」


「はい」


 白石が端末を見る。


「かなり深い」


 黒瀬が周囲を確認する。


「入口は?」


「……あちらです」


 隊員が指を差した。


 そこには古い施設の跡があった。


 鉄製の扉。


 錆びた設備。


 そして――


 壁に残された、古い文字。


 俺は近づいて見る。


「……何だ、これ」


 白石がライトを当てる。


 そこには、


 「立入禁止」


 と書かれていた。


 その下には、別の文字があった。


 かすれていて読めない。


「昔の調査施設でしょうか」


「おそらくな」


 黒瀬が答える。


 隊員が扉を確認する。


「鍵はありません」


「開けられるか?」


「はい」


 重い音を立てて扉が開いた。


 ――ゴォォ……。


 地下から冷たい風が吹き上がってくる。


 俺は思わず身震いした。


 そして。


 地下の奥から、


 ――グルルル……。


 唸り声が聞こえた。


「いるな」


 黒瀬が銃を構える。


「全員、警戒」


 隊員たちが続く。


 階段を降りる。


 一段。


 また一段。


 地下へ進むほど、空気が冷たくなる。


 やがて。


「止まってください」


 白石が言った。


 全員が止まる。


「どうした?」


「反応があります」


 白石が端末を見る。


「かなり大きいです」


「特異生物か?」


「……違います」


 黒瀬が振り返る。


「何だ?」


 白石は画面を見つめたまま答えた。


「アーク鉱です」


 その瞬間。


 地下の奥から――


 ドン。


 地面が揺れた。


「……今のは?」


 隊員が周囲を見る。


 もう一度。


 ドン。


 ドン。


 まるで、


 地下で何かが動いているようだった。


 黒瀬が前を見る。


「進むぞ」


 俺たちは地下の奥へ進んだ。


 そして。


 長い通路の先。


 そこだけが、不自然に明るかった。


 白石が呟く。


「……隊長」


「どうした?」


「アーク鉱の反応が、急激に上がっています」


 黒瀬が目を細める。


 俺も、その先を見る。


 そして――


 地下の暗闇の奥で、


 何か巨大なものが、


 ゆっくりと動いた。

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