第10話 施設
――ズズズズズ……。
地下の奥から、何かを引きずるような音が響いていた。
俺たちは足を止めた。
「……何かいます」
隊員が銃を構える。
黒瀬が手を上げた。
「まだ撃つな」
白石は端末を確認している。
「隊長」
「どうした?」
「特異生物の反応が……消えました」
「消えた?」
「正確には、こちらから離れていっています」
俺は周囲を見る。
さっきまでいた特異生物たちは、いつの間にか姿を消していた。
「逃げたんですか?」
俺が聞く。
白石は首を横に振った。
「分かりません。ただ――」
端末を見る。
「全部、同じ方向へ移動しています」
「どこへ?」
「地下の奥です」
黒瀬が前を見る。
「進むぞ」
⸻
通路を抜けると、さらに大きな空間が現れた。
「……これは」
白石が立ち止まった。
そこには巨大な設備が残されていた。
古い機械。
太い配管。
壁一面に並ぶ計器。
そして中央には――
巨大なアーク鉱。
これまで見てきたものとは比べものにならない大きさだった。
「ここ……採掘施設じゃない」
白石が言った。
「何?」
「研究施設です」
黒瀬が周囲を見る。
「根拠は?」
「この設備です」
白石が機械を確認する。
「採掘するための設備じゃない。アーク鉱の反応を測定するための装置です」
黒瀬が黙り込む。
「つまり、昔からアーク鉱を研究していた人間がいた」
「はい」
白石が答える。
「しかも、かなり大規模に」
俺は壁を見る。
そこには古い写真が何枚も貼られていた。
作業員。
研究者。
そして中央に写る巨大なアーク鉱。
「これ……いつの写真ですか?」
白石が写真を確認する。
「記録では、十七年前」
「十七年前?」
「はい」
白石が別の資料を見つける。
「……ありました」
「何が書いてある?」
「研究目的です」
白石が読み上げる。
「『アーク鉱が周辺生物へ与える影響について』」
俺は写真を見る。
「生物……」
その瞬間。
施設の奥から物音がした。
――ガタン。
全員が振り向く。
「誰かいるのか?」
隊員がライトを向ける。
返事はない。
黒瀬が手で合図する。
隊員が慎重に進む。
そして。
「隊長!」
声が響いた。
俺たちも駆け寄る。
そこには、別の部屋があった。
床には大量の資料。
そして壁には――
特異生物の写真。
「……!」
俺は言葉を失った。
写真に写っているのは、現在確認されている特異生物とよく似た生物だった。
「これ……」
白石が写真を手に取る。
「今の特異生物と同じです」
「そんなはずはない」
隊員が言う。
「十七年前ですよ?」
白石は黙って資料をめくる。
やがて。
「……ありました」
「何が?」
「最初の確認記録」
白石が読み上げる。
「『実験区域周辺にて、未知の大型生物を確認』」
黒瀬が資料を見る。
「実験区域?」
「はい」
白石がページをめくる。
そこには一枚の図があった。
中央にアーク鉱。
その周囲に複数の生物。
そして矢印。
「……この研究所では、アーク鉱と生物の関係を調べていた」
白石が言う。
「当時の研究員は、その結果として特異生物が生まれた可能性があると考えていたようです」
黒瀬が首を横に振る。
「まだ断定はできない」
「ですが、これまでの情報を考えると――」
「分かっている」
黒瀬が資料を閉じた。
「ここで何かが起きた」
そのとき。
突然、施設内の照明が点いた。
――パッ。
「!」
全員が身構える。
古い設備が次々と動き始める。
ガコン。
ウィィィン……。
「電源なんて残ってたのか?」
隊員が驚く。
白石が端末を見る。
「違います」
「何?」
「電源が入ったんじゃない」
白石が巨大なアーク鉱を見る。
「アーク鉱が設備を動かしています」
巨大な岩が青白く光っていた。
そして。
壁の大型モニターに、古い映像が映し出された。
画面には一人の研究者。
録画映像だった。
『もし、この映像を見ている人間がいるなら――』
男は疲れ切った顔をしていた。
『この施設で行われていた研究は、すべて中止してください』
黒瀬が画面を見る。
『アーク鉱は、ただの鉱物ではありません』
映像が乱れる。
『生物が――』
ノイズ。
『反応している』
さらに映像が乱れる。
『いや……違う』
研究者の表情が変わる。
『生物が、呼ばれている』
映像が途切れた。
静寂。
白石が呟く。
「……呼ばれている?」
黒瀬は何も言わない。
そのとき。
施設の外から、複数の咆哮が響いた。
――グォォォォォッ!
白石が端末を見る。
「特異生物です」
「数は?」
「……かなり多い」
「どこから来ている?」
白石が画面を確認する。
そして顔を上げた。
「全て、この施設に向かっています」
黒瀬が巨大なアーク鉱を見る。
そして静かに言った。
「……十七年前の研究が、今になって動き始めたのかもしれないな」
俺は暗い地下施設を見渡した。
ここで何が起きたのか。
そして――
なぜ今になって、特異生物が現れ始めたのか。
まだ何も分からない。
ただ一つだけ。
俺たちは、この場所で初めて――
特異生物とアーク鉱が無関係ではない証拠を見つけた。
その瞬間。
施設の外で、無数の足音が響き始めた。




