第11話 封鎖
――ドンッ!
地下施設全体が揺れた。
「何だ!」
隊員たちが一斉に入口を見る。
外から聞こえていた特異生物の咆哮が、突然大きくなった。
――グォォォォッ!
白石が端末を確認する。
「特異生物、移動しています!」
「どこへ?」
「……地下施設の周囲です。全個体が、施設を取り囲むように集まっています」
黒瀬が眉をひそめる。
「アーク鉱に反応しているのか?」
「それだけではありません。地下から、別の反応が出ています」
その瞬間、中央に置かれた巨大なアーク鉱が強く光った。
――ドクン。
光が脈打つたび、施設の照明が一斉に点灯していく。
そして、奥の壁にあった古い扉がゆっくりと開いた。
「……あれは?」
白石が扉に近づく。
向こうには、地下へ続く階段があった。
「地下二階……」
黒瀬が図面を確認する。
「十七年前の実験区域だ」
「アーク鉱の生物反応を調べていた場所ですね」
「ああ。特異生物が集まっている理由と、地下の反応を確認する」
黒瀬は隊員たちを見た。
「行くぞ」
⸻
階段を下りる。
地下二階は、これまでの施設とは構造が違っていた。
壁は厚く、扉は何重にも設置されている。
通路の各所には、古い警告灯と隔離装置が残っていた。
その先に、大きな観察室があった。
「ここは……」
白石がガラス越しに内部を見渡す。
「アーク鉱の実験室です。中央の台座に、鉱石を固定していた跡があります」
観察室の床には巨大な傷跡が残り、壁や隔離扉には内側から引っかいたような痕があった。
「何かを閉じ込めていた?」
「おそらく、アーク鉱に反応する生物を」
そのとき、黒瀬が壁の端末を見つけた。
「電源が入る」
「十七年前の設備ですよ?」
「アーク鉱が施設の電力系統を再起動させたんだろう」
黒瀬が端末を操作すると、古い研究記録が表示された。
――研究記録・十七年前。
映像が始まる。
『実験番号27。アーク鉱に微弱な刺激を与えたところ、周囲の生物に明確な反応が確認された』
画面には、檻の中の動物が映っていた。
アーク鉱が光ると、動物は一斉に同じ方向を向く。
『対象はアーク鉱へ接近しようとする。通常とは異なる反応を示している』
映像が切り替わる。
動物の体表に、黒い筋のような変化が浮かんでいた。
『接近した個体には、筋力の増加と攻撃性の上昇が確認された。アーク鉱への反応による一時的な身体変化と考えられる』
記録が途切れる。
俺は外から聞こえる咆哮を思い出した。
アーク鉱に反応する生物。
そして、その反応によって一時的に身体や行動に変化が現れる。
だが。
それだけで、今いる特異生物と同じものだとは言えない。
⸻
黒瀬が次の記録を開く。
『実験番号31。アーク鉱への刺激レベルを上げる』
画面には、台座に固定されたアーク鉱が映っていた。
研究員が装置を操作すると、鉱石が強く発光する。
直後、施設の外で複数の生物が暴れ始めた。
『反応あり! 周辺の生物が一斉に移動しています!』
『数が増えている! 刺激を止めろ!』
映像の外で警報が鳴り響く。
『アーク鉱が生物を呼び寄せているんじゃない!』
研究員が叫んだ。
『生物の中にある何かを、アーク鉱が増幅している!』
映像が激しく乱れる。
『このままでは、施設内の個体まで反応が強くなる!』
そこで記録が途切れた。
「アーク鉱が特異生物を生み出したというより……」
白石が画面を見つめる。
「アーク鉱に反応する生物がいて、その反応を強めていた……ということですね」
黒瀬が頷く。
「そう考える方が自然だ」
「でも、それなら……」
俺は画面を見る。
「特異生物は、もともとアーク鉱に反応する性質を持っていた?」
「可能性はあります」
白石が答えた。
「少なくとも、この記録だけでは、アーク鉱によって新しい生物が生み出されたとは言えません」
黒瀬が端末を閉じる。
「十七年前の実験で確認されたのは、アーク鉱に対する生物の異常な反応だ」
そのとき、施設の外から再び咆哮が響いた。
――グォォォォッ!
白石が端末を見る。
「特異生物の反応が、地下二階に集中しています」
「アーク鉱を狙っているのか?」
「違います。アーク鉱の反応と、地下奥の反応が連動しています」
黒瀬が顔を上げた。
「まだ奥に何かあるな」
⸻
通路の先には、巨大な鉄扉があった。
扉には、
「最終封鎖区域」
と刻まれている。
白石が端末を確認する。
「隊長……扉の向こうから、強い反応が出ています」
「特異生物か?」
「違います。特異生物の反応ではありません」
「アーク鉱か?」
「それも違います」
白石の顔が青ざめる。
「アーク鉱に反応している何かです」
黒瀬が鉄扉を見据える。
「十七年前の実験体か」
答えの代わりに、扉の向こうから衝撃が響いた。
――ドンッ!
鉄扉が大きく歪む。
「全員、下がれ!」
黒瀬が叫ぶ。
隊員たちが一斉に後退する。
扉の向こうから、低い音が響いた。
――グゥゥゥ……。
特異生物の咆哮とは違う。
だが、外にいる特異生物たちは、その音に反応して一斉に騒ぎ始めた。
――グォォォォォッ!
白石が端末を見つめる。
「外の特異生物が、地下の個体に反応しています!」
「恐れているのか?」
「分かりません。ただ、アーク鉱の発光も強くなっています」
巨大なアーク鉱が、地下の扉に呼応するように脈打つ。
――ドクン。
――ドクン。
黒瀬が鉄扉を見た。
「アーク鉱が再起動したことで、封鎖区域の個体も目を覚ましたようだ」
その瞬間、鉄扉に亀裂が走った。
――バキッ。
「全員、撤退!」
黒瀬が叫ぶ。
俺たちは地下二階から走って逃げた。
背後で、鉄扉がゆっくりと開いていく。
その隙間から、黒い光が漏れ出した。
同時に、施設の外では特異生物たちが一斉に咆哮する。
――グォォォォォッ!
アーク鉱が脈打つ。
封鎖区域の何かが目を覚ます。
そして十七年前に始まった実験の結果が、今、再び地上へ出ようとしていた。




