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第5話 世界

翌朝、目を覚ますと、テレビから聞き慣れない言葉が聞こえてきた。


『政府は本日、国内で相次いで確認されている大型生物について、これまでの「野生動物による被害」という認識を改め、未知の生物による可能性を含めて調査を進めると発表しました』


「未知の生物……?」


朝食を食べながら、画面を見る。


昨日までなら、そんな言葉を聞いても半信半疑だったと思う。


でも俺は、実際に見た。


あれは犬でも熊でもなかった。


『これまでに全国で確認された被害は三十七件。負傷者は二十一名に上っています。また、北海道では農場の家畜が襲われる被害が相次いでおり――』


数字が増えている。


一晩で、こんなに。


チャンネルを変える。


別のニュース番組でも同じ話題を取り上げていた。


『国内各地でも、これまで確認された野生動物とは特徴の異なる生物の目撃情報が相次いでいます』


画面が切り替わる。


北海道。


山間部を走る大型の獣。


東北。


道路脇に残された巨大な足跡。


九州。


農場の柵が何かに破壊されている映像。


どれも画質が悪く、はっきりと姿は確認できない。


それでも、共通しているものがあった。


大きい。


そして、普通の動物ではない。


『政府は、各自治体や警察、自衛隊などとの情報共有を進め、全国規模で実態の把握を急いでいます』


俺は箸を止めた。


日本だけで、こんなことが起きている。


会社に着くと、いつもより人が少なかった。


「電車、遅れてたぞ」


「また?」


「動物が線路に入ったらしい」


「動物って……昨日ニュースでやってたやつ?」


そんな会話が聞こえてくる。


仕事中も、スマホの通知が何度も鳴った。


『北海道で新たな大型生物』


『東北地方で謎の生物を確認』


『政府、警察・自衛隊との連携強化へ』


『一部地域で夜間の不要不急の外出を控えるよう呼びかけ』


ニュースを開くたびに、状況が変わっていく。


そして昼過ぎ。


会社のテレビから、総理大臣の会見が流れ始めた。


『国民の皆様には、冷静な行動をお願いしております』


いつもの政治家の会見とは少し違った。


表情が硬い。


『現在確認されている生物について、その生態や発生原因は分かっておりません。しかし、これまで確認された野生動物とは明らかに異なる特徴が確認されています』


社内が静かになった。


『政府は、必要に応じて自衛隊を含む関係機関を動員し、国民の安全確保を最優先に対応してまいります』


誰かが呟いた。


「自衛隊って……」


誰も答えなかった。


その日の夜。


帰宅してテレビをつける。


今度は海外ニュースだった。


『各国政府は、日本国内で相次いで確認されている未知の生物について、情報収集を進めています』


続いて、海外の専門家による解説が流れる。


『現時点では、日本国外で同様の生物は確認されていません』


『日本国内でのみ発生している理由について、専門家の間でも議論が続いています』


俺は画面を見つめた。


日本だけ。


なぜ日本だけなのか。


そして最後に、画面に一枚の衛星写真が映った。


日本国内の森林の一部が、不自然な形で変色している。


『専門家は、国内各地で確認されている環境変化について、未知の生物の出現との関連性を指摘しています』


俺は画面を見つめた。


生物だけじゃない。


環境まで変わっている。


ニュースキャスターが続ける。


『また、政府関係者によりますと、十年前から世界各地で確認されている特殊鉱物「アーク鉱」と、今回の現象との関連についても調査が――』


そこで、俺の視線が止まった。


アーク鉱。


十年前から存在する、あの黒い鉱石。


俺の人生を変えたもの。


テレビでは専門家が話している。


『現時点で因果関係を示す証拠はありません』


『アーク鉱の採掘地域と、生物被害が発生している地域には明確な一致もありません』


『したがって、関連性については慎重な検証が必要です』


俺はソファに座ったまま、テレビを見続けた。


偶然なのか。


アーク鉱は十年前から世界各地で確認されている。


一方で、未知の生物が確認されているのは日本だけ。


さらに――。


『なお、一部の国ではアーク鉱の輸出規制を検討しているとの情報も入っています』


画面の下に速報が流れた。


「各国、アーク鉱の国家管理を強化」


俺は何も言わず、その文字を見つめていた。


十年間、世界を支えてきた新しい資源。


その正体を、誰も知らない。


そして今。


日本で起きている異変は、世界各国からも注目され始めていた。

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