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第26話 ニュース

王都。


 昼下がり。


 街の中央に設置された巨大な魔法映写板に、突然、ニュース映像が映し出された。


『緊急報道です』


 普段なら商会の広告や王都からの告知が流れている時間だった。


 しかし、今日は違った。


 街を歩いていた人々が足を止める。


『森林地帯において、これまで確認されていなかった物体が発見されました』


 映像が切り替わる。


 深い森。


 巨大な木々。


 その中に――


 見慣れない物体が映し出された。


「……なんだ、あれ?」


「魔道具か?」


「見たことないぞ」


 人々がざわめく。


 映像に映っているのは、金属で作られた小型の物体。


 四つの車輪。


 平らな本体。


 そして前方には、黒いガラスのようなものが取り付けられている。


 王国で一般的に使われている魔道具とは、明らかに違っていた。


『こちらは、物体を最初に発見した冒険者の記憶を、リコール《記憶投影》によって再現した映像です』


 映像の中。


 一人の冒険者が森を歩いている。


 そして、奇妙な物体を見つける。


 恐る恐る近づき、物体に触れた。


 ――カチッ。


 青白い光。


 そして、本体に浮かび上がる見たことのない文字。


「……読めない」


 冒険者の声。


 映像が切り替わる。


 物体の向こうに広がる森。


 青白く光る植物。


 遠くを流れる川。


 そして、その奥に見える石造りの建物。


『発見地点の周辺では、未知の植物や生物も確認されています』


『また、この物体からは、これまで確認された魔道具とは異なる魔力反応が検出されています』


 再び物体が映し出される。


『しかし――』


 キャスターの表情が険しくなる。


『現在、この物体は発見地点から消失しています』


『発見者が再び現場を確認した際、そこにあったはずの物体は跡形もなく消えていました』


『周辺には、運び出された形跡も確認されていません』


『王立魔導研究院では、物体の正体と消失した原因について調査を進めています』


『現時点では、製作者、目的、消失した理由のすべてが不明です』


 ニュースはそこで終わった。


     *


「……何だったんだろう」


 エリシアは宿の食堂で、魔法映写板を見つめていた。


 胸の奥がざわついている。


 エリシアは胸元に手を当てた。


 すると――


 リンク石が、ほんの僅かに熱を持った。


「……また」


 エリシアが石を取り出す。


 淡い青白い光。


 ほんの一瞬だけだった。


「今、光った?」


「……うん」


 仲間が石を覗き込む。


「この前の石と、さっきの魔道具。何か関係あるのか?」


「分からない」


 エリシアはリンク石を握った。


「でも……偶然とは思えない」


 そのとき。


 宿の扉が開いた。


「エリシア!」


 ギルド職員だった。


「研究院から呼び出しだ」


「私が?」


「ああ。今回の物体について、君のリンク石を調べたいらしい」


 エリシアは少し考える。


「……分かった」


     *


 王立魔導研究院。


 案内されたのは、魔力研究用の実験室だった。


 部屋の中央には大きな魔法陣。


 その中心には、石を置くための台が用意されている。


「待っていたよ」


 一人の老人が振り返った。


「王立魔導研究院のアルカニスト《魔力解析官》、グレンだ」


「エリシアです」


「話は聞いている」


 グレンの視線がリンク石へ向く。


「以前、この石について調査した記録も確認した」


「はい」


「今日は、今回の物体との関連を調べたい」


 エリシアがリンク石を台の上へ置く。


「まずはサーチ《魔力探知》」


 研究員が魔法を発動する。


 魔法陣が淡く光る。


 リンク石の周囲に、細い魔力の流れが浮かび上がった。


「……やはり普通の魔法石とは違う」


 グレンが呟く。


「魔力が外へ向かっている」


「何かを探しているんですか?」


「まだ分からない」


 グレンが研究員を見る。


「次だ」


「はい」


「アナライズ《魔力解析》」


 魔法陣の光が強くなる。


 リンク石の魔力が解析されていく。


 しばらくして、研究員が首を傾げた。


「……属性が特定できません」


「通常の魔力とは違う?」


「はい。既存の属性魔法とは性質が違います」


 グレンはリンク石を見つめる。


「なら、例の物体と比較してみよう」


     *


「リコール《記憶投影》」


 実験室の中央に映像が浮かび上がった。


 森。


 冒険者。


 そして――


 あの物体。


「ここだ」


 グレンが映像を止める。


 冒険者が物体に触れた瞬間。


 青白い光が発生する。


「この魔力を再現する」


 研究員が魔法を使う。


 物体から発生した魔力が再現される。


 その瞬間。


 リンク石が淡く光った。


「反応しました!」


 研究員が声を上げる。


 エリシアも石を見る。


「……やっぱり」


 グレンが頷く。


「もう一度」


 今度は別の魔法で、同じ色の光を作り出す。


 しかし。


 リンク石は反応しない。


「色ではないな」


「では、魔力そのものに?」


「ああ」


 グレンが続ける。


「特定の魔力に反応している」


     *


「次は、反応の方向を調べる」


 グレンが実験室の床に別の魔法陣を描く。


「ディレクション《魔力方位》」


 魔法陣の中央から、細い光が伸びる。


「強い魔力反応の方向を示す魔法だ」


 再び、探査機の魔力を再現する。


 ――青白い光。


 リンク石が反応した。


 そして。


 魔法陣から伸びた光が、ゆっくりと動き始めた。


 研究室の壁へ。


 さらにその先へ。


「……方向が固定された」


 研究員が呟く。


 グレンが地図を広げる。


 光の方向と地図を照らし合わせる。


「……森林地帯だ」


「物体が発見された場所?」


「ああ」


 エリシアがリンク石を見る。


「でも、物体はもうないんですよね?」


「そうだ」


「じゃあ、この反応は何なんですか?」


 グレンは答えず、別の魔法を使った。


「サーチ《魔力探知》」


 魔法陣が広がる。


 今度は研究院の外。


 王都全体を対象にした魔力探知だった。


 しばらくして。


「……見つけた」


 グレンが地図の一点を指す。


「物体が消えた場所に、微弱な魔力反応が残っている」


「まだ残ってる……?」


「かなり弱い。だが、確かに存在する」


 エリシアが身を乗り出す。


「それを調べれば、何か分かる?」


「可能性はある」


 グレンは地図を畳んだ。


「ただし、ここからは実際に現地へ行く必要がある」


「なら――」


「待て」


 グレンが制する。


「物体がなぜ消えたのか分かっていない」


「……」


「何が起きるか分からない場所に、いきなり近づくわけにはいかない」


 グレンは研究員たちを見る。


「まずは遠距離から魔力を探る」


「遠距離から?」


「ああ」


 研究員が頷く。


「遠見《遠隔視》を使えば、現地の様子を確認できます」


 エリシアが顔を上げる。


「そんな魔法があるんですか?」


「ある」


 グレンが答える。


「ただし、森の中では視界が制限される。完全に確認できるわけではない」


 それでも。


 今の彼らにとっては十分だった。


「明朝、調査隊を出す」


 グレンが言った。


「まずは遠見《遠隔視》で周辺を確認する」


「その後、必要なら現地へ入る」


 エリシアはリンク石を握った。


「私も行きます」


 グレンがエリシアを見る。


「君は今回の調査の中心になる」


「分かっています」


「危険を感じたら、必ず下がれ」


「……はい」


 エリシアは頷いた。


 その瞬間。


 手の中のリンク石が、ほんの僅かに光った。


 全員が石を見る。


 光はすぐに消えた。


 グレンが静かに口を開く。


「……明日、確かめよう」


 エリシアは頷いた。


「はい」


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