第20話 調査
特異災害対策隊の会議室。
長机を囲むように、隊員たちが座っていた。
正面のモニターには、日本各地の地図が映し出されている。
赤い印がいくつも表示されていた。
境界穴。
現在、日本各地で確認されているものだ。
「現在までに確認された境界穴について、報告します」
研究担当が資料をめくる。
「発生地点や大きさに、明確な規則性は確認されていません」
「特異生物の出現も、境界穴の周辺に集中しています」
画面が切り替わる。
17年前の資料が表示された。
「17年前の実験33では、アーク鉱を利用して人工的に境界穴が開けられました」
隊員たちが資料を見る。
「その先には、こちらの世界とは異なる世界が存在していた」
隊長が口を開いた。
「ならば、今の境界穴についても調べる必要がある」
「はい」
「特異生物がどこから来ているのか」
「なぜ境界穴が発生しているのか」
「17年前の実験33と現在の現象に、どんな関係があるのか」
隊長が続ける。
「その答えは、向こうの世界にある可能性が高い」
隊員の一人が口を開いた。
「向こうの世界を調べる……ということですか?」
「ああ」
「ですが、どうやって?」
会議室が静かになる。
そのとき、一人の隊員が地図を見ながら言った。
「……境界穴から行けないんですか?」
全員の視線が集まる。
「現在も全国各地に境界穴がある」
「17年前の境界穴の先に、もう一つの世界があった」
「だったら、今ある境界穴も……」
「向こうの世界に繋がっている可能性はある」
研究担当が答えた。
「ただし、人間が通過できるかどうかは分かっていません」
「特異生物は通ってきているんだろ?」
「はい」
「なら、人間も通れる可能性はある」
「調査してみる価値はあります」
隊長が頷いた。
「決まりだ。境界穴から向こうの世界へ行ける可能性について調査する」
そこで、別の隊員が資料を取り出した。
「その前に、もう一つ問題があります」
「何だ?」
「海外です」
モニターに世界地図が表示される。
「現在、この現象が確認されているのは日本だけです」
赤く表示されているのは日本だけだった。
「海外では境界穴も、特異生物も確認されていません」
「各国の反応は?」
「かなり大きくなっています」
画面に海外のニュース記事が並ぶ。
「日本国内で何が起きているのか」
「なぜ日本だけなのか」
「政府は何を隠しているのか」
「各国から日本政府への問い合わせも増えています」
「当然だな」
隊長が呟く。
「日本だけで発生している以上、海外が気にするのも無理はない」
「一部の国からは、境界穴や特異生物について情報提供を求められています」
「こちらから出す情報は?」
「現時点では、必要最低限に留めています」
「向こうの世界については?」
「公表していません」
隊長が頷く。
「それでいい」
すると、別の隊員が手を挙げた。
「もう一つあります」
「今度は何だ?」
「動画です」
モニターに動画配信サイトの画面が映し出される。
境界穴を撮影した映像。
特異生物を撮影した映像。
中には、現場から生配信しているものまである。
「また上がっているのか」
「はい。削除しても別のアカウントから再投稿されています」
「再生数は?」
「数百万を超えているものもあります」
隊員たちからため息が漏れる。
「一般人が現場に近づく原因にもなります」
「実際、動画を見て現場へ向かった人間も確認されています」
隊長の表情が険しくなる。
「危険すぎる」
「配信サイトへの削除要請を強化します」
「SNSも同様に」
「はい」
「境界穴の場所が特定できる映像については、特に優先して対応する」
隊長が指示を出す。
「海外への情報流出についても確認しておけ」
「分かりました」
モニターが再び切り替わる。
今度は俺の検査データだった。
「そして、最後に」
研究担当が俺を見る。
「彼の能力についてです」
「俺の力?」
「はい」
「境界穴から向こうへ行くことを考えるなら、彼の力についても調べる必要があります」
「どうして?」
「アーク鉱との関連性があるからです」
17年前の実験33。
そこで使われていたアーク鉱。
そして、俺の力。
「現時点では、因果関係は分かっていません」
研究担当が続ける。
「ですが、境界穴とアーク鉱、そして君の能力に何らかの関係がある可能性はあります」
「つまり、俺の力を調べれば……」
「境界穴について何か分かるかもしれません」
俺は少し考えた。
「分かりました」
「協力してくれるか?」
「はい」
隊長が全員を見る。
「今後の方針を確認する」
ホワイトボードに項目が書かれていく。
向こうの世界の調査。
境界穴から向こうへ行けるかの調査。
日本でのみ発生している原因の究明。
情報拡散への対策。
そして最後に、
彼の能力の調査。
「これを同時に進める」
隊長が言った。
「以上だ」
会議室に静かな緊張が残った。
俺はホワイトボードに書かれた文字を見つめた。
向こうの世界。
境界穴。
そして、自分の力。
まだ分からないことばかりだった。




